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シナリオ詳細

【大祓四家】蟲めづる……

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●逃げろ
 どことも知れぬ穴倉を走っていた。視界は暗く、道は枝分かれし、まがりくねっている。
 背後から不吉な足音が襲ってくる。幾十幾百もの魔物の足音。かさかさと渇いた足音は蟲のそれだ。
「みんな、プレッシャーに負けないで。出口はきっとすぐそこよ!」
 豪徳寺・美鬼帝 (p3p008725)が発破をかける。おそらくその言葉は嘘ではないと豪徳寺・芹奈 (p3p008798)は踏んだ。ならば、あとは逃げきるのみ。

 腕を広げたほどもある蜘蛛が飛び跳ねながら近づいてくる。
 芹那はそれを一刀のもとに切り捨てた。しかし数が多い。多すぎる。
 ねとり、おぞましい感触がふとももに巻き付く。蜘蛛が吐いた糸が絡みついたのだ。
 そのまま強い力で引き寄せられ、転倒する芹那。
「芹那!」
 瀬織津・鈴鹿(せおりつ・すずか)が糸を刀で引き裂く。ねばついた糸は今度は刀へからまり、鋭さを失っていく。四方八方から浴びせられる糸を、鈴鹿はだんびらを振り回して強引にもいだ。黒の上絹が白濁に染まっていく。
「殿は私が請け負う! とにかく生きて逃げ延びて!」
「そのようなことができると思うてか」
 不意に発せられた敵意は灼熱にも似た声音。
 のそりと穴の奥から姿を現したのは見上げるほど巨大な蟻。鋼のような黒光り。無機質な目。刃物のような体毛の、歩く砦。その額から生えているのは、あの速佐須良・須勢理(はやすさら・すせり)ではないか。腰から下を魔物の頭骨に埋め、美しい空色の髪を遊ばせながらゆっくりと歩を進めてくる。
「速佐須良ぁ!」
 伊吹戸・直毘(いぶきど・なおび)が逆上し、足を止めた。いつもはおとなしい子だが、一族を謀殺された無念は、ぞろぞろと歩き回る速佐須良の取り巻きどもを前にしてむしろ燃え上がっているようだった。
「刺し違えてでもおまえの首を取る!」
 直毘は風をまとい、子どもほどありそうなまるまるとした蟻の群れへ飛び込んでいった。鋼鉄のような顎が直毘へと襲いかかり血しぶきがほとばしる。
「姉様! 直毘!」
 芹那が追いかけていく。あなたは振り向いた。鈴鹿も直毘も、もちろん芹那も放っては置けない。このままではすぐに蟲どもによって食いつくされて骨も残らないだろう。

●時はさかのぼって
 ええ、悔しや、悔しや。この恨み忘れまじ。
 神使! 神使どもめ、なんという薄汚い呼び名よ。死肉を貪る狼のほうがまだ愛らしい。
 なぜ巫女姫が敗れた。私は勝ち馬に乗っていたのではないのか。それが何故敗軍の将として見下していた者に匿われている。鏡はとうに割れた。このうえは三途に火を放ち、この身だけでも喉元へ食いつくべきか。あの豪徳寺に。あの伊吹戸に。せめてやつらの血を浴びねば収まりがつかぬ。
 妬ましや妬ましや、今頃春の陽気に浮かれているか。私が袖を濡らす間も、屈託なく笑いあい日々を過ごしているか。ええ、狂おしい。その幸福を食い破りたい。血と臓物で彩りたい。

「速佐須良様、失礼致します」
 ふすまが開き、侍女がふるえながら夕餉の膳を運んできた。
 須勢理はそれを嫉妬をはらんだ憤怒の目で見やると、侍女ともども吹き飛ばした。壁が赤く染まり、豪勢な膳が侍女のはらわたと共にふすま絵の一部と化した。
「そうお怒り召さるな」
 隠した口元の下でくすくすと笑う異形が姿を現す。ひとつの胴体、男と女の二つの頭、四本の腕。どう見ても常人ではない。
「須勢理殿におかれましてはこの『根津』の魚はお口に合わぬご様子」
「くだらぬ機嫌取りは余計にいら立つものであろう?」
「さればどういたしましょう。私は日陰の身、陽光の道を歩んでこられた須勢理殿の御心を慮るなど、とてもとても」
 へりくだった言葉は軽口と同じ響きをはらんでいた。先日までカムイグラを暗雲で包んでいた巫女姫派。その元で暗躍していた須勢理を高天京から逃がし、かくまっているのは、他でもないこの二面四臂の化け物なのだ。その正体は諜報と暗殺に長けた女、速開都・伊豆能売(はやあきつ・いずのめ)、肩から生えている男の頭は水戸(みなと)。まだ巫女姫が京を支配していた頃は、須勢理の手足として闇に埋もれていたが、今となっては立場が逆転している。その事実は高慢な須勢理をいたく傷つけた。須勢理は扇で畳を打ち払った。
「豪徳寺はどうなっている! 直毘は! オマエが待てと言うから待っているのだ、この下郎!」
「怒鳴るな。みっともない。それでもかの速佐須良か」
 水戸が言葉を続ける。正論ほど気分をさかなでるものはない。須勢理は恥辱に耐え奥歯をかみ鳴らした。
「結界が準備できた。そこでなら存分に力を振るえるんじゃねぇの」
「無礼な口を……!」
「まあまあ須勢理殿。話は最後までお聞きください」
 水戸へかみつく須勢理を伊豆能売がとりなす。彼女はうっそりと微笑みを浮かべ、酒を流し込むように須勢理へ耳打ちした。
「既に餌は撒いております。あとは豪徳寺の連中がかかるのを待つだけ。釣り上げた魚は、須勢理殿御自ら捌かれるがよろしかろうと思い、僭越ながら舞台をご用意しました」
「下郎の分際で私をこき使おうというのか」
「いいえそのようなことはありません。あくまで須勢理殿の御心に沿うよう、ない知恵を絞ったのです」
 須勢理は音を立てて扇を閉じた。憎々し気に言い放つ。
「業腹ではあるがのってやろうではないか。あの悪逆人どもの生き血を私へ捧げよ」

●そして
「こんな、こんなことになったのは、すべて私のせい!」
 蟲に身を食まれながら、鈴鹿は後悔に打ちひしがれていた。
「弱気にならないで鈴鹿ちゃん! 騙し討ちにあったのはあなたのせいじゃない!」
 美鬼帝が渾身のパンチで大蟻を吹き飛ばす。
「だけど私が! 私がうかつにも伊豆能売からの招待状を鵜呑みにしたから!」
 今後の「大祓四家」に関する重大な相談をしたいと、思わせぶりに書かれた書状。そこには美鬼帝と芹那が護る悲田院『灯火』の子、断絶した大祓四家のひとつ伊吹戸・直毘の名もあった。今や孤児となった幼い当主は、高天京から雲隠れした速佐須良・須勢理の情報が何が何でも欲しかったのだろう。がんとして共に行くと言ってきかなかった。直毘の胸中を想うと美鬼帝は胸が張り裂けそうだった。
「速開都はいかにも没落したように見せかけて根津の領地に引きこもっていたのよ、騙されたのはみんな同じよ! 今はこの結界を抜けることだけ考えましょう! 直毘、直毘戻ってきなさい直毘! いい子だから!」
 唯一の幸運は、須勢理がまだ本気ではないことだ。塩素の精霊であった須勢理にとって、あの半人半蟲の姿はいくつもある変化の一つに過ぎない。王冠のように須勢理を頭に抱いた巨大蟻はゆっくりと、しかし確実にこちらへ這い寄ってくる。

 逃げろ、走り抜け、とにかく今は。

GMコメント

でーれん、でーれん、でーれっでーれっ♪
みどりです。ご指名ありがとうございました。

鬼ごっこです。
あなたは敵の結界に囚われました。一定時間逃げきれば結界の外へ出られます。とにかく逃げまくりましょう。長い戦いになりそうです、消耗にはお気をつけて。

やること
1)全員の生存
2)鈴鹿および直毘の生存

●エネミー
『大祓四家』速佐須良・須勢理(はやすさら・すせり)
デンジャー! 勝てません!
鬼ごっこの鬼です。追いつかれたらおしまい。山が動くような音を立てて移動します。
「塩素」の八百万。TOP絵の水色髪のかわいこちゃん。
謀略の限りを尽くし自分以外の三家をすべて没落・断絶の憂き目にあわせたイイ女。
今回は巨大な蟻の姿で皆さんを追いかけまわします。

蜘蛛×たくさん
約1mほどの大きさの蜘蛛。2~3体の群れで行動し、一斉に糸を吐いてきます。
【足止】の効果のほかふたつの特殊BSを持ちます。
特殊BS1・【転倒】 すべての行動がキャンセルされ強制的に待機になります。副行動を消費して立ち上がることが可能です。
特殊BS2・【攻撃力ダウン】攻撃を食らうごとに物神攻撃力が5%ずつダウンしていきます。

大蟻×いっぱい
大型犬ほどの大きさの蟻。単純な近接攻撃しかしてきませんが、機動力が高く回り込まれる恐れがあります。
数の多さによる暴力はけして侮れるものではありません。
必要に応じて蜘蛛や須勢理をかばう動きをしてきます。

●戦場
ほのぐらい土中を思わせる洞穴。ぶっちゃけると蟻の巣です。
PC一人につきR3までの視野が確保されていますが、その先は不自然に塗りつぶされたような暗闇で、暗視でも見通せないでしょう。

●友軍NPC
『大祓四家』伊吹戸・直毘(いぶきど・なおび)
「風」の八百万。「息吹」の伊吹戸家の生き残り。クラスはアンシリ―コート。
かつての霞帝全盛期には帝の信任厚く人望高い家柄でしたが、そこを須勢理に妬まれ一族郎党皆殺しの目にあっています。
おとなしく自己犠牲精神が強い性格で、回復や支援が得意ですが、今は須勢理を前に頭に血が上っています。
止めるためにはある程度手荒なことも必要かもしれません。

『大祓四家』瀬織津・鈴鹿(せおりつ・すずか)
「激流」の八百万。「清流」の瀬織津家の現当主。二刀を用いて戦う戦闘狂の女傑。
こちらも須勢理の暗躍により没落。かろうじて鈴鹿が後を継いで体裁を保っている状態。
豪快で竹を割ったような性格のお姉ちゃんですが、今回の騒動の発端になってしまったことを悔い、命がけで皆さんを逃がそうとしています。
止めるにはやはりなんらかの手立てが必要でしょう。

●その他
『大祓四家』速開都・伊豆能売&水戸(はやあきつ・いづのめ&みなと)
TOPの首が二つあるナイスウメン&ガイのほう。結界の主で根津という海沿いの領地の主人。須勢理と手を組んで悪いことをたくさんしてきました。
こちらも倒せません。そもそも居場所が不明です。しかし近くに居ることは確かです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 【大祓四家】蟲めづる……完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月11日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀の約束
黒影 鬼灯(p3p007949)
零れぬ希望
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)
異世界転移魔王
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)
鬼子母神
※参加確定済み※
豪徳寺・芹奈(p3p008798)
任侠道
※参加確定済み※

リプレイ


『異世界転移魔王』ルーチェ=B=アッロガーンスは瀕死の状態にあった。全身を蜘蛛の糸に絡め取られ、身動き一つできない。そこを大蟻にたかられ、ごりごりと体を食いちぎられる。
(こ、こんなはずでは……!)
 死が迫ってくる。じわじわとなぶり殺しにされていく。血が溢れて体温が下がっていく。どうしようもない冷気が背筋にまで染み通った。
(こんなところで余は死ぬのか、こんなところで、元の世界に戻ることもできず……)
 意識がとびかけるが、全身を苛む苦痛がそうさせてくれない。
「ここに居たのかルーチェ殿」
「血だらけなのだわ、鬼灯君、なんとかしてあげて」
「回復役の到着を待たねばならんな、章殿。それまでは援護しよう……ひどい有様だ」
『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)が音もなく忍び寄ってきた。
「ふっ!」
 精密な機械のように魔糸を周囲へ張りめぐらす。次の瞬間、大蟻どもの体が刃物でもあてられたかのように切り落とされた。反応して蜘蛛が糸を吐き出す。バックステップでそれをかわし、鬼灯は低く唸った。
「数が多いな。このままではルーチェ殿が……」
「どおりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」
「はあっ! やっ!」
 そこへ飛び込んできた『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)と『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)が蜘蛛の群れを打ち負かした。鹿ノ子は目にも止まらない連続攻撃で次々と蜘蛛の亡骸を量産していく。
「せいっ!」
 鋭い銀線で蜘蛛の首を断ち、最後に上段蹴りをかまして、蜘蛛を真っ二つにする希紗良。
「ああ、こんなに蜘蛛の攻撃を受けて。無事でありますか!?」
「ルーチェさん! まだ息があるッスか! あるなら返事をするッス!」
(できるならしとるわい!)
 ルーチェはぎりぎりと歯を噛み鳴らした。蜘蛛の糸によって十重二十重にいましめられ、息をするのも厄介だ。そのままじっとしていると。
「不味いッス鬼灯さん、ルーチェさん意識がないかもしれないッス!」
「うむ、しかし俺たちではどうにもできない、蟲どもを近寄らせないのが精一杯だ」
「けどその間にお星様になってしまったら……」
(いや生きてる! 生きてるから!)
 鹿ノ子、鬼灯、希紗良の会話に、余計な心配をするなとルーチェは必死に動こうとした、その体の上にぞろりと何かが這い登る。大蟻だ。断頭台のような牙がルーチェの首を狙って振り下ろされた。
「おや、魔王のコ、こんなところで捨てていい命じゃあるまい?」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が拳を大蟻の顔面へ打ち込む。牙によって噛み砕かれたその端から再生していく拳。痛みなど感じないのだろうか。ルーチェは蟲どもとは違う意味で武器商人がおそろしくなった。
 そこへ弾丸の雨が降り注ぎ、蟲だけを正確に撃ち抜いていく。天からの襲撃になすすべもなく打ち砕かれていく蟲ども。関節が折れ、頭蓋が崩壊し、不気味な色の汁が周りを濡らした。
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は肩をすくめた。
「間一髪セーフってところか? やれやれ、あやうく失敗するところだったぜ」
「灰色狼の旦那、もうすこし粘っておくれ。魔王のコは我(アタシ)がかばうからさ」
「ああ、一時とは言え大事な仲間だ。しっかりと守るさ」
 余裕のある風を装ってはいるが、どんどん湧き出る蟲を相手にジェイクは舌打ちしそうになった。闇の奥へ先行偵察させた鳥は、ハイセンスを通して山が動くような音を捉えている。それはたしかにあの速佐須良・須勢理が近づく音なのだ。
(ここで足止めを食らっていたらあの女が来ちまう。そうなったら諸共おしまいだ。早く、早く来てくれ豪徳寺よぉ!)
 祈りが天へ通じたのか、それとも運がいいのか。運も実力のうちならば、ジェイクは豪運なのだろう。別働隊として蟲を退けていた豪徳寺親子が別の道から飛び出てきた。
 まずは『任侠道』豪徳寺・芹奈(p3p008798)、四方八方から迫りくる虫どもへ反応してすばやく切り捨てる。そんな娘から守られるように巨漢のママ『鬼子母神』豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)が姿を現した。
「待っていたであります美鬼帝殿! 早く治療を!」
 希紗良は胸をなでおろし、美鬼帝へおいでおいでをした。
「まあ……私の治療でも応急処置にしかならないわ。重症は覚悟しておいてね」
 申し訳無さそうに謝る美鬼帝と、ルーチェを戒める糸をぶちぶちと切り落とし治療をとせかす芹奈。もうなんでもいいから早くしてほしいルーチェ。
「神坐ります、西方の、清きしらとり、業の羽、溢れ出すかな、早朝の、澄んだ空色、楽の音を」
 美鬼帝は見た目にそぐわない甘く優しい音で祝詞を唱えた。そしてルーチェの全身をゆっくりとさすってやる。ようやく痛みが晴れ、ルーチェはどうにか立ち上がることができた。
「まさかこんな罠が仕掛けられていようとは……速開都め…やってくれたな! だが今は皆で生き延びる事を優先しないと……相手の術中で戦うなど愚の骨頂……どうにかして二人を落ち着かせ撤退しないと……」
「そのとおりね芹奈。速開都が速佐須良と組んでいたとはね……ここまで仕組まれていたとしたら……速開都は速佐須良以上に厄介な存在なんじゃ……。いえ……今はそんな詮索よりもどうやって生き延び、逃げるかを考えるべきね。一先ずは直毘と鈴鹿ちゃんを連れ戻さなきゃね。……芹奈、鈴鹿ちゃんの事は任せたわよ。私は直毘を連れ戻すわ」
「……全く……直毘の事は任せたぞ、親父殿。拙は鈴鹿姉様をどうにかする。それまで……皆死ぬなよ!」


「しかしこの忍に鬼ごっこをさせるか。闇は我らの揺り籠……と、言いたいところだが。ここは敵の結界の中」
 油断すれば喰われるのは必然か、との言葉は飲み込み、鬼灯は胸元の章姫を撫でる。
「怖くないか章殿」
「ううん、鬼灯君がいるから大丈夫」
 そのいじらしい言葉に思わず、じんときた心へふたをして、鬼灯は章姫のつややかな金髪を再度撫でた。章姫は闇の奥へ目を凝らしている。そこからは山が動くような音がしている。
「鬼さんは紅茶はお嫌いかしら」
「そうだなあ、様子を見るにお茶会よりも鬼ごっこがしたいらしい。さあ、舞台の幕をあげようか」
 長居すれば蜘蛛の糸によって攻撃不能に陥る戦場。ここは逃げるしかない。だがその前にやることがある。
 鬼灯は両手で腰を打った、それから胸、額。打った場所から痛みがじわりと熱へ変化していく。黒衣の下を木の根のように入れ墨が広がっていくのがわかる。それは世界の中心への扉を開くもの。魔力を吸収し、鬼灯へ力を与えるもの。
 鬼灯はあえて須勢理のいる方向へ打って出た。すばやい身のこなしで虫どもの攻撃をいなし、多少の傷は覚悟の上で走る。
(見えた!)
 くろぐろとした巨体の蟻。その額に埋め込まれた宝石のような女。
「忍一匹なにするものぞ。そっ首刎ねてくれよう」
 須勢理は笑いながら前肢を動かした。速い。思わず後ろに下がるが、胸元に一筋の傷跡ができた。周りからは大蟻が顎をふりあげて迫ってくる。時間はない。だが鬼灯は面袍の下で唇の端を吊り上げた。
「俺の正面に立ったが不運だったな、須勢理」
 思い砂漠の熱砂が須勢理へ襲いかかる。熱く、苦しく、キメの細かい砂嵐が須勢理の眼前を塞ぐ。足止めを狙ってくりだされたそれは須勢理の巨体を狂わせた。
「ごめんなさいね、蟻さん蜘蛛さん。私達帰らなくちゃいけないのだわ! 遊んであげられないの!」
 章姫の声がこだまする。でたらめに振り上げられた前肢が自分を狙うのを見て取り、鬼灯は章姫を胸に抱いたまま跳躍した。

「ナイスだ、鬼灯!」
 ジェイクは蟲を攻撃した。ばらばらに弾を降らせているように見えて、実際は一匹一匹致命傷になるよう計算している。背後に回られた虫を銃の持ち手で殴り抜け、銃撃で頭を砕いてやる。
「こうあっちこっちから来られたんじゃたまったもんじゃない」
 飄々と軽口を叩き、リロード。同時にその場から退いてハイセンスで道の先を探る。いつでも撤退できるようにしておかなければならない。ひと悶着あったおかげで、鈴鹿と直毘の所在が不明なのだ。そのためイレギュラーズは退きながら水際を叩く作戦にシフトしていた。
(あのお嬢ちゃんも坊っちゃんも無事だといいが……)
 内心の不安はかたく抑え込み、ジェイクは退路の確保に奔走した。
「ったく、妙なことに巻き込まれちまったぜ。まさかこの年令で鬼ごっこをやる羽目になるとはな。しかもあたりは薄暗く道は迷路のようになっていると来たもんだ。まったくもってヘビィだぜ」
 飛び込んできた蜘蛛を弾丸一発で無力化させ、体を捻って打ち返す。共食いを始めた虫にジェイクは心底不快な気分になった。
「ろくなところじゃないな。家では妻も待っているし、こんなところに長居は無用だ」
 そうだ、妻にもし涙を流させるようなことがあれば、ジェイクは自分で自分が許せなくなるだろう。彼女が流していいのは喜びの涙だけだ。そう決めたのだ。
 ジェイクが召喚した鳥はあたりを飛び回り、いくつものルート探り当てる。短いが虫の多いルート。安全だが長いルート。何より警戒すべきなのは奇襲を受けそうなルートだ。あの山が動くような大きな音は時折遠回りしたり、近道を通っているふしがある。自分たちよりもこの場について詳しいのだろう。
「焦って逃げ出したは良いが、鬼さんとご対面、なんてことにならなきゃいいな、希紗良」
「はい、ジェイク殿。キサもそう思うであります」
 使役していたネズミが蜘蛛に喰われたようだ。ぶつんと消えた感触に希紗良は新たなネズミを作り出して放つ。鳥に比べると食われ得る危険性が高いが、道の走破性を知るには地を駆ける動物のほうがしっくりくる。ジェイクと希紗良、ふたりで協力しあい、すこしずつ安全な後退ルートを探していく。
「まったく面妖な……。この結界を作っている源を壊せば出られるのかとも思うたでありますが、今はこの場を切り抜けるのが精一杯のようでありますな」
 相手の術中にはまったからには、全員のみの安全を第一に考え、耐えしのぐ。正しく鬼ごっこだと希紗良はため息をついた。
 大顎が希紗良へ迫る。だからなんだと言いたげに希紗良はその首を山茶花のように落とした。憑いた妖が力をくれる。その皮肉に小さく笑いをこぼしながらも、常より引き上げられた刃の鋭さでもって大蟻の首を次々と叩き落とす。
「出し惜しみしたいところでありますが、鈴鹿殿と直毘殿が合流するまでは……」
「ああ、それにしてもあのふたり、どこへ行ったんだ?」
「鈴鹿殿はしんがりを、直毘殿は須勢理を狙って動いているはずであります」
「まったく、手のかかるやつらだぜ」
 ま、気持ちはわかるけれども。そう言いつつジェイクはファミリアーの鳥を滑らせた。
「……居た」
「場所は!?」
「落ち着け、場所は須勢理のまんまえだ。強引に入り込んだようだな。ふたりとも血まみれだ。希紗良は情報共有に動いてくれ。俺は撤退ルートの選別に戻る」
「わかったであります!」


 見るだに恐ろしい光景だった。虫の上に虫が重なり、ぎちぎちと蠢いている。天井まで広がった虫の行軍、時折ぼとぼとと雨のように虫が落ちてくる。その最奥で須勢理は高笑いをしていた。
「ようやっと見つけたであるぞ直毘、それと鈴鹿とか言ったか、共に食ろうてやろう。なに、すぐに腹の中で再会するのだ。寂しうはないぞ。我ながら慈悲深いであろう?」
「……速佐須良」
 直毘は自分で自分を癒やしながらむりやり前へ前へと進んでいく。そのすぐ後ろで傷だらけの鈴鹿が彼を追っていた。
「なおび、なお、び……。下がって、なおび……」
「いいや、行かなけりゃ。須勢理は刺し違えても僕が討つ……!」
「ダメッス! おふたりとも下がってくださいッス!」
 凛とした声が響き渡る。緑と桃色のツインテールが揺れた。
「今は生き残ることが最優先ッス! 回れ右するッスよ!」
「ほう、私を恐れるか。下郎の分際でなかなか知恵の回る」
 須勢理の挑発を受けた鹿ノ子は、逆に鼻先で笑った。
「三十六計逃げるが勝ちって言葉もあるッス! 今は退く時、ただそれだけッス、おまえなんかぜーんぜん怖くないッス!」
「であるか。その空元気、気に入った。まずはオマエの腹を引き裂いてやろう。緑と紫の臓物をぶちまけるがよい」
 空気を裂く音がし、須勢理の前肢がその場の虫ごと鹿ノ子を狙った。鹿ノ子は背を低くし、あえて前進することでこれを回避。振り抜かれ、止まった前肢へ飛び乗り、その頑丈な甲羅へ拳を突き立てる。鋼を叩くような音がしたが、気にせず連撃を入れる。拳の先が裂け、血が飛び散る。
「直毘さん、策も無しに相手の懐に飛び込むのは愚の骨頂ッス! 絶対に倒したいと思うなら、一旦引いて策を練り直すのが得策ッス!」
「でも、速佐須良が目の前にいるのに!」
 直毘は青緑のショートカットを揺らし、一歩でも前へ進もうとする。彼を守りたいのか、血に塗れた衣装を引きずり鈴鹿があとをついていく。蜘蛛が糸を吐き、大蟻がガチガチと顎を鳴らす。ついに鈴鹿は膝をついた。
 鹿ノ子はその傍らへ降り、鈴鹿の体を抱きとめた。
「死んだら終わりッス! 責任を感じるなら、なおのこと生きて償ってくださいッス!」
「私のことはいいから、早く撤退を……ぐえっ」
 鹿ノ子は鈴鹿のみぞおちを軽く殴りつけた。
「自分に酔うのもほどほどにするッス! こうしている間も直毘さんも鈴鹿さんもどんどん傷ついていくッス!」
「そうだぜ、こういう時はね。足止めを食らったらすぐ蹴散らして突破しなきゃいけないもんさ。この状況を切り抜けるには、一人でも味方が多いほうが良い。最後まで一緒に居ないと困るんだよ」
 ふわりと武器商人が地へ降り立った。
「キミと伊吹戸の旦那が必要なんだ。アレの足止めは我(アタシ)がやるからさ、適材適所といこう」
 言いながら大蟻の頭をかるく片足で踏みつける。とたんに蟻の頭蓋は破砕され、西瓜のように汁が飛び散った。そのまま武器商人は前を行く直毘を追いかけた。足取りは軽いが、動きは速い。何匹もの大蟻を踏み潰し、蜘蛛から出る糸を振り払って、直毘のもとへたどりつく。糸に半ばまで拘束された直毘は肩で息をしていた。
「おやまァ、勇ましいこと。だが敵の手中で我を失って飛びかかってちゃ、刺し違えるどころか笑えるほど無様な犬死だぜ?」
「……そんな!」
「じゃァキミは本気であのデカブツに勝てると思ってるのかい?」
 直毘は歯噛みした。図星を突かれたのだろう。
「何度でも言うけれどね、伊吹戸の旦那、キミが必要なんだ。悔しいのはわかるさ。無力な自分が許せないのもね。だからって無駄死にはよせよ。キミの亡骸を食ってあのデカブツがさらに力をつけるなんて考えただけで癪じゃないかい?」
「……」
 うつむいてしまった直毘の体から、武器商人は糸を引き剥がしてやる。ちりりちりりと惑星環が鳴り、直毘を落ち着かせていく。
「この馬鹿姉様!」
 後ろで声が上がった。芹奈が鈴鹿の隣へ憤然と立っていた。
「拙達が姉様を犠牲にして生き延びたら後悔で自死してしまう! 何よりここで姉様が死んだら、拙達は姉さまの家族たちにどう申し開きすれば良いのですか!」
「芹奈……」
「家族がいちばん大切な姉様だからこそわかるはずです……姉様は生きて家族のもとに帰らねばならぬことを……!」
「……!」
 頬を打たれたかのように鈴鹿は目を見開いた。家族、そうだ、何よりも優先すべきは……。
「そうだね。芹奈ちゃんの言うとおり。頭に血が上って、大切なことを忘れていたのね。思い出させてくれてありがとう」
「……姉様」
「ええ、引くわ。退路はどうなっているの?」
「ジェイク殿と希紗良殿が押さえてくれている!」
「直毘は?」
「親父殿が……」
 そのとき、ふたりの脇を風のように雄牛が駆けていった。いや、雄牛ではない、美鬼帝だ。くらいつく大蟻を無視して直毘へ一直線。
「直毘!」
 ごつん、火花が散った。美鬼帝が直毘へ拳骨を落としたのだ。
「……痛っ!」
 そして美鬼帝は直毘を抱きしめる。やさしく、包むように。
「復讐心で頭に血が上っちゃったのよね……気持は痛いほどわかるわ。でもね、そんな捨て身の突撃はしないで……直毘、前にも言ったけど、貴方は私の大事な子供……こんな形で失いたくないの」
「……」
「だからお願い……今は冷静になって皆で撤退して生き延びるの……ママと約束して」
「……はい」
 あふれんばかりの美鬼帝の優しさに触れたからか、直毘はすなおにうなずいた。これまで重ねてきた信頼関係が瞳に現れていた。
「さあ、ママにかっこいいところを見せてね、直毘。支援と回復は任せたわよ!」
「わかった、お母さんも無理しないで!」
「直毘、いま。『お母さん』と……」
「親父殿、それはあとだ」
 うるみかけた美鬼帝の肩をたたき、芹奈は来た道を全力疾走し始めた。


 いったいどれほど彷徨っただろうか。ジェイクのハイセンスとファミリアー2体、そして武器商人の超方向感覚が皆を助け、皆は暗闇を無我夢中で走り続けた。それぞれの心に大切なものを抱えたまま撤退戦は続く。
 突然景色が開け、波打ち際に出た。振り返ると、遠くに巨大な蟻がいる。その背に2つの首、四本の腕の怪物がいる。どうしてか笑っているような気がしてたまらなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156) [重傷]
異世界転移魔王

あとがき

おつかれさまでしたー!

皆さんの活躍で無事鬼ごっこは勝利に終わりました。
黒幕が登場しましたね、今後どうなっていくのでしょうね……。

またのご利用をお待ちしています。

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