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シナリオ詳細

鉄帝怪談・これは友達の親戚の隣の家のお姉さんに聞いた話なんだけど、夜中にフルマラソンしてると新鮮な死体が横を走ってるんだって。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大体タイトルで出オチ
 鉄帝である。鉄帝と言えば、その「武力」を尊ぶお国柄である。国家元首である皇帝の地位すら、個人の武力により決定されるというその文化は、他国からは理解されづらいかもしれない。
 誤解を恐れずに最大限に砕いて説明するならば、国民全員脳みそ迄筋肉、みたいなのが鉄帝である。そのため、国民も己の身体を鍛えることに余念はない。
 であるので――鉄帝と言えばトレーニング。トレーニングと言えば鉄帝である。そんなわけだから、夜中にフルマラソンをしている鉄帝人もまぁ、きっといるにはいるだろう。トレーニングに命を懸けている人もいるだろうし、まぁそうでなくても体を鍛えるのは健康的だからね。
 さて……今夜もよくある鉄帝のフルマラソンコースで、よくいる一般鉄帝人が、明日も休みなので朝までフルマラソンをしようぜ! とフルマラソンしていた。だが、ここはいわゆる、『曰く付き』のフルマラソンコースであった。何でも、昔戦場だったとか、事故で誰かが死んだとか、そう言うたぐいである。とはいえ、そんなことをいちいち鉄帝人は気にしない(偏見)。鉄帝人が信じるのは、スピリチュアルではなくフィジカルなのだ(偏見)。だから彼らも全く気にせず、深夜にフルマラソンをしていた。
 と――どこからともなく、冷たい空気が漂う。肌寒さに思わず、肩を震わせる。
「……あれ?」
 ふと、フルマラソン中の男が言った。おかしい、と思った。なにか、強烈な違和感があった。
 あたりを見回す。見れば、周囲にも、自分と同様にフルマラソンをする人影だけがある。そうだ。全員、フルマラソンをしている。それはいい。それはいいのだが。
 強烈な違和感が。
 胸をざわつかせる。
「あっ」
 男は気づいた。
 そうだ。皆フルマラソンをしている。でも。――こんなに数が多かったか?
 気づけば、フルマラソンを走っている人間は倍近くに増えていた。そんなばかな。いつの間に――。だが、次の瞬間、男はさらに驚愕することになる。
 男の隣を並走していた人影。その姿が、月の光に照らされてあらわになる。ああ、それはなんと! 腐りかけた動く死体であったのだ!
 ぴくぴくと動く大胸筋! 引き締まった大腿筋! 異様にさわやか笑顔! でも腐った死体!
「うおおっ!?」
 たまらず男がどんびいた! それは引く! 何せ妙にさわやかなマッスルゾンビである! なんとも鉄帝らしいアンデッドだが、其れは其れとそれとして鉄帝人も引く。
「ははははははっ! ははははははっ!」
 マッチョゾンビは笑った! マッチョゾンビはなんかポーズをとった! そのままドスドスと色々と内臓とかをまき散らしながら、フルマラソンロードを行く! おお――シンプルに! 気持ち悪い!
 さわやかな笑い声を響かせながら、マッチョゾンビは――いや、マッチョゾンビたちは走り去る。フルマラソン参加者たちは、ただその後ろ姿を黙って見送るしかできなかったのである――。
 この話を見たり聞いたりした人は、7日以内に他の人に同じ話をしないと、マッチョゾンビがフルマラソンの時についてくるといいます――。

●本題
「ほっといてもよくない?」
「いや、よくないんですよぉ」
 と、ずず、とコップのミネラルウォーターをすする 『ぷるぷるぼでぃ』レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)。依頼主の鉄帝の役場の男は、困ったような顔でそう言った。
 曰く。鉄帝によくあるフルマラソンコースに、夜な夜な身体を鍛えに鍛えた健康的なアンデッド軍団が現れ、フルマラソンをする一般市民に筋肉を見せたりして威嚇し、トレーニングを邪魔するのだという。
「割と面白案件だし、やっぱり放っておいてもいいんじゃ」
「いやいやいや、これがトレーニングができない、と苦情が殺到しまして。ほっとけないんですよぉ」
 なるほどなぁ、とイレギュラーズ達は思ったかもしれない。トレーニングができないとなれば、鉄帝人にとっては死活問題であろう(偏見)。
「とにかく、皆さんにはこのアンデッド軍団をどうにかしてほしいと! ……だが、こいつ等、フルマラソンをしている時じゃないと、現れないらしいんですね」
 ふぅん? と、レライムが唸った。
「つまり……走りながら戦うの?」
「そうなりますね! 一般人なら走るのにいっぱいいっぱいで戦うなんてことはできないでしょうが、そこは百戦錬磨のローレットのイレギュラーズのみなさん! 余裕でできるかと」
 いや、それはどうなんだろう、とイレギュラーズ達は思ったかもしれない。いくらイレギュラーズと言えど、骨の折れる仕事であろう。
「……えーと」
 レライムは、少し困ったように小首をかしげてから、言った。
「大変な仕事だけど。皆ならできる……と思う」
 ぐっ、と親指を立てて。どうやら丸投げする気らしい。
「という訳で、頑張ってね。応援してる」
 レライムの応援はさておき。イレギュラーズ達はため息などをつきつつ、さっそく作戦を練ることにした。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 走ろう! 皆!

●成功条件
 健康的なアンデッド軍団を全滅させる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 鉄帝のフルマラソンコース。そこに現れたのは、妙に健康的なアンデッド軍団でした。
 迸る汗。はじける筋肉。さわやかな笑み。でもアンデッド。
 そんな奇妙な連中にフルマラソンコースを占拠されては、鉄帝の皆さんが身体を鍛えられなくて困ってしまいます。
 そこで皆さんには、このフルマラソンコースへと向かい、このアンデッド軍団を全滅させてほしいのです。
 作戦決行時刻は夜。フィールドは、長く(システム上永遠に続く)マラソンコースになっています。
 明かりは周囲の街灯から充分に供給されます。

●このシナリオの特殊ルール
 このシナリオでは、すべての敵が『直前のターンに副行動『移動』を選択しなかったユニットからの攻撃を無効化する』という能力を持ちます。
 要するに、このシナリオでは走り続けなければ敵にダメージを与えられないのです。
 走りましょう。走り続けましょう。走り続けた先に勝利が見えてきます。
 走るための工夫などあると、移動や、その後の攻撃にボーナスが付与される可能性もあります。例えば、陣地構築を使って給水所を勝手に設置するとかです。
 皆さん奮って走りましょう。

●エネミーデータ
 健康的なゾンビ ×5
  健康的なゾンビです。ずっと走っています。ずっと走っているので、マーク・ブロックを無効化します。
  物理属性の攻撃を行ってきます。健康的だからね。

 健康的なスケルトン ×5
  健康的なスケルトンです。ずっと走っています。ずっと走っているんので、マーク・ブロックを無効化します。
  物理属性の攻撃を行ってきます。健康的だからね。

 健康的なゴースト ×5
  健康的なゴーストです。ずっと走っています。ずっと走っているので、マーク・ブロックを無効化します。
  物理属性の攻撃を行ってきます。健康的だからね。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングと”走り”をお待ちしております。

  • 鉄帝怪談・これは友達の親戚の隣の家のお姉さんに聞いた話なんだけど、夜中にフルマラソンしてると新鮮な死体が横を走ってるんだって。完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
レべリオ(p3p009385)
特異運命座標
羽田 アオイ(p3p009423)
ヒーロー見習い
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
エリザ・スカーレット(p3p009740)

リプレイ

●鉄帝フルマラソン・事前準備
「なんでえええええ! なんでおばけとかゾンビとかスケルトンがマラソンしてるのおおおおお!!」
 太陽さんさん輝く午後の鉄帝フルマラソンコース。
 『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)が頭を抱えながら、コースのど真ん中で絶叫した。
 なんでアンデッドがマラソンしているのか問われれば、それは分らない。生前の趣味なのかもしれない。だが実際にマラソンしているアンデッドが現れたのだから、それに対処しなければならないのがローレット・イレギュラーズの辛い所である。
 作戦決行タイミングは深夜であったが、しかし事前準備からしてマラソンは始っているので、イレギュラーズ達は日の高いうちから準備を行う事にした。具体的には、マラソンコースへの給水所の設置などである。
「うほうほ、うほ!」
 フランの地元のダチコーであるゴリラがうほうほ言う。ゴリラは給水所を器用に組み立てると、給水タンクとバナナを設置した。水も飲めるしバナナも食える。理想である。
「え、なに? 今回の依頼ってマラソンしながらアンデッドと戦うの!?」
 ゴリラから今頃依頼の内容を説明されているのはエリザ・スカーレット(p3p009740)である。なんで今頃依頼の説明を受けているのかと聞かれれば、依頼内容をよく見ずに依頼に参加したからである! イレギュラーズとなっての初依頼、ここでもトップをとってやる、と意気込んでは見たものの、依頼内容は苦手なアンデッド(おばけ)退治である。
「え、ええ、別に怖くなんてないわよ! まったく、これっぽっちも、ぜんぜん、怖くなんてないんだからね!」
 がくがくと震えながら、エリザが胸を張った。
「うわああああ! だめだよおおおおお! あたしは怖いよおおおおお!」
「ふ、フラン先輩!」
 フランがまだ見ぬアンデッドたちを想像して悲鳴を上げた。その様にはエリザも思わず引っ張られて怯えてしまうほどである。
 そんな女子2人がガクブルしているのをしり目に、他のメンバーはいそいそと準備を続けている。
「ふむ、しかしアンデッドが相手か。死後も健康意識が高いのは良い事だが、迷惑なのはいけないね」
 マラソンコースの地図を確認しながら、そう言うのは『特異運命座標』レべリオ(p3p009385)である。コースを確認しつつ、要所要所にゴリラの給水所を設置指示していくレベリオ。
「というか、死んだ後も筋肉って鍛えられるんだね……うん? スケルトンとゴーストって筋肉あるの?」
 些か困惑した様子でそう言うのは、『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)である。腕に抱えるのは大量のタオル。それをゴリラに手渡しながら、続いてゴールテープを持ってきて、これまたゴリラに手渡しする。
「どう考えてもないよね? 筋肉? どうなってるの? 哲学なのかな?」
「そうだね……何かの哲学なのかなぁ……」
 こくこくと頷きながら言うのは、『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)である。Я・E・Dは馬車の車輪をチェックし、万全を確認すると、続いて荷台の上へと飛び乗った。上には人数分の水筒が用意してあって、いつでも給水できるようにしてある。それから、ロープを荷台に括り付けると、満足げに頷いて、荷台から飛び降りた。
「鉄帝のノリはよくわからないね。まぁ、走れというなら走れるけれど」
「うーん、というか夜中に徹夜でフルマラソンって健康的なのか? 普通に寝不足にならない?」
 ごもっともな事を言うのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)である。確かに一犯的にはその通りなのだが、鉄帝はほら、健康のためなら死んでもいい人たち沢山いるから(偏見であり事実ではないと思われる)……。
「まぁ、訳のわからないアンデッドのせいで苦情が来るのには同情するよ……本当に訳が分からないからな……なんなんだ、健康的なアンデッドって……」
「本当に、全然わからない……」
 どこか呆然とした様子で『海を越えて』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)が相槌を打った。
「レベリオさんも言ってたけど、健康意識が高いのは良いけど……何か間違ってる気がしないでもないなぁ……」
 多分間違っているのだろう。だが、何がどう間違っているのかを指摘するのも、なんか相手のフィールドに連れ込まれたみたいでよくわからなくなる。
 よくわからない。それがおおむね、この仕事に対するみんなの共通認識だった。
「まぁ、皆が迷惑してるんだから、やっつけるしかないよね! あ、そこ、気を付けてね。トリモチしかけたから」
 『ヒーロー見習い』羽田 アオイ(p3p009423)がぺたぺたと地面を叩きながら、そう言った。トラップであるトリモチが仕掛けられており、これを踏めばゾンビたちの機動力も多少は落ちるだろう。
「ん。こんな所かな」
 Я・E・Dが、ぱんぱんと手を叩きながら言った。準備はあらかた完了して、後は夜を待つばかりである。
「さて、じゃあ時間まで少し休むとしようかな」
 イズマの言葉に、皆が頷いた。
「そうだね、後は本当に、体力勝負だからね」
 アクセルが言う。その通り、これからマラソンをしなければならないわけだ。となると、今のうちに休んでおいた方がいい。
「じゃ、ローレットの出張所の仮眠室を借りようか」
 ドゥーが伸びなどをしながら、そう言う。
「では、諸君。本番の時にまたよろしく頼む」
 レベリオがゴリラたちに声をかける。ゴリラはうほうほと頷いてドラミングした。
「本番、頑張ろう!」
 アオイがおー、と片手をあげた。
「うわあああああああん! いやだよおおおおお! ゾンビに噛まれたらゾンビになるよおおお!!」
「ええ、そうなの!? いやあああ! ゾンビになるのはいやあああああ!!」
 フランとエリザが抱き合いながら悲鳴を上げていた。そんな二人の悲鳴をさておいて、しかし日は沈むのである。

●鉄帝アンデッドマラソン開幕
 さて、深夜。充分な休憩取ったイレギュラーズ達は、各々動きやすい格好をしつつ、マラソンコースのスタート位置に立っていた。
 周囲には、ゴリラとゴリラとゴリラがいる。ゴリラたちは地元のダチコーであったが、この騒ぎに何事かと駆け付けた地元の鉄帝やじうまの皆さんもそれなりに居た。
 イレギュラーズ達は準備万端――怯えていたフランとエリザも、其れは其れとしてしっかり準備は終えている――スタートを待つばかりである。
「うほうほうほ! うーほ、うほ!」
 ゴリラがドラミングしながら、声をあげた。そして、スタート合図代わりに、大きく手を叩く。ぱん、という音が響いて、イレギュラーズ達が一斉に走り出した。
 短距離走ではないので、ペース配分はしっかりと。ペースメーカーである伴走『車』、Я・E・Dの馬車とメカ子ロリババアに引かれながら、イレギュラーズ達はコースを走る――と、途端、春のそれには不釣り合いな、肌寒い空気があたりに流れ始めた。たったったっ、と、後ろから聞こえる複数の足音。
「おっと、おいでなさったね」
 Я・E・Dが後ろ気にしながらそう言う。アクセルが後ろに視線を向けながら、
「うわぁ、本当だ。妙にさわやかなアンデッドたちが、妙にさわやかにマラソンしてる……」
 若干ひきながらそう声をあげた。
 イレギュラーズ達の走りに反応し、アンデッドたちが現れたようである。その数、トータルで15。魔物としてみれば充分に驚異的な実力と数を持ち合わせている。
「さて、少し気を引き締めるとしようか」
 レベリオが言った。仲間達が頷く。此処からは、如何に奇妙な依頼とは言え、戦闘の始まりである――。
「ペースを維持して。極力体力を温存してたたか」
「いやああああああああでたああああああああああああああ!!!!」
「んぎゃああああああああおばけこわいいいいいいいい!!!!」
 ドゥーの言葉を遮って、エリザとフランの乙女二人がすごいスピードで走り去っていく。その後ろを、挑発するように笑いながら、アンデッドたちが駆け抜けていった。
「まぁ、乱戦になるよね! いくら走っていたとしても!」
 色々と諦めて、ドゥーが言う。とはいえ、それもイレギュラーズ達の予期した通り、作戦にも戦闘にも、一切の支障はない。
「よし、近づいて攻撃してみるぞ!」
 イズマが声をあげ、たたた、とペースをあげる。コースを逸れ、走りつつゾンビの元へ。
「んー! ハーッ!」
 ゾンビがさわやかにポージングを決めつつ、殴り掛かってくる。イズマはそれをステップして躱すと、そのまま手にした武器で攻撃を仕掛けた。その攻撃に、ゾンビがもんどりうって倒れ、そのまま走れなくなったゾンビがきらきらと輝いて消滅していく。
「よし、良いぞ……って、走り続けなきゃいけないんだったな……!」
 慌ててペースを戻し、マラソンに復帰するイズマ。
「くそ、忙しい……けど、戦えないことはないな! 走りながら戦えるものなんだな……!」
 知りたくなかったそんな事、と思いつつ、イレギュラーズ達はたたたっ、と走り続ける。アンデッドたちもそれに追走する。走りながら戦う。曲芸じみたそれは、見た目はほのぼのとしたフルマラソンだが、しかし鎬を削るデッドヒートが繰り広げられているのを、応援のゴリラややじ馬たちも感じていた。自然、皆ヒートアップし、歓声とドラミングが響き渡る。
 スケルトンが、突如コースで転んだ。そこにはトリモチが仕掛けられていて、それに足をとられて転んだのだ!
「作戦通り! もらったぁっ!」
 アオイが倒れたスケルトンに一撃を加える。ばん、と音とともに骨がバラバラになってコースに散らばった。飛んできた骨を、Я・E・Dがぱくり、とかじりつく。
「うーん、骨密度よし。もしかして、鍛えてるのって骨密度……」
「走って鍛えられるものなのかな、それ……」
 アクセルが苦笑しつつ、走る。アオイはすでにマラソンに戻っていて、給水所でゴリラからドリンクとバナナを受け取っていた。ドリンクを飲みつつバナナを齧る。
「いやぁ!!! 本当はアンデッドとか怖くて無理なんです! 来ないでー!」
 エリザが悲鳴を上げながら、後方へ雷をうち放つ。放たれた霊撃の鞭が妙に筋肉質なゴーストを打ち据え、ポージングさせながら消滅させる。一方、近くにいたゾンビにも雷撃は直撃し、破裂した体から、ぽん、と頭が射出されて、フランの眼前へと転がり込んできた。急な事に方向転換も出来ず、フランは思わずそれを蹴り飛ばしてしまう。
「んにゃああああああ! 蹴っちゃった! 蹴っちゃったあああああああ!!」
 フランの前方に蹴り飛ばされたゾンビの頭が、きらきら光りながら消滅していく。そのキラキラの残滓に包まれながらフランが走る。辛い。
 一方、イレギュラーズ達を応援するゴリラとやじ馬たちの応援もヒートアップ。ノリノリの応援歌や、なんか24時間くらいマラソンを続けたランナーに送る感じのおだやかな応援歌を歌い出し、ゆっくりと手を振りだす。なんかゴールはもうすぐそこ、みたいな空気を醸し出していた。
 幽霊も思わず、沿道のやじ馬たちに手を振り返す。前方を見れば、ゴリラたちがゴールの旗を抱えながら、タオルを差し出していた。ゴール。そう、もうすぐゴールなのだ。幽霊は少しだけスパートを速めた。鳴り響く応援歌。幽霊、今ここにゴール。思わず足を止める。駆けよるゴリラ。響く例の歌。感動。感動が此処に在った! ありがとう、健康的なアンデッド! 感動をありがとう! チャリティ!
「いや、そのゴール偽物なんだけどね!」
 アクセルは非情な一言共に、指揮杖を振るう。放たれた神秘攻撃の衝撃が幽霊を撃ち貫き、感動のままに消滅させた。さようなら幽霊、感動をありがとう。チャリティ。
「……少しペースが乱れているかもしれないな」
 レベリオが嘆息する。
「走るペース? 討伐のペース?」
 アクセルが尋ねるのへ、答えたのはЯ・E・Dだ。
「んー……なんていうかな、スタミナ切れするかも……と思う」
 それは、全体の戦闘に対する予測であった。イレギュラーズ達の戦闘経験による、予測。そして訪れるであろう、苦境。
 しかしてその予測は、的中することとなる……。

●鉄帝マラソン終幕! 感動をありがとう! イレギュラーズ!
 さて、戦い(レース)も終盤戦へと突入していた。確実に敵を減らして行ったイレギュラーズ達であったが、しかし疲労の色は濃い。不慣れな環境がそうさせたのか、どうにも十全の力を出し切れないように見受けられた。必然、ペースは乱れ、敵の討伐速度も低下していく。
「ふひはははは! アンデッドなんて居ない、お化けなんていないんだから!
 燃えちゃえーー! エクスプロードーー!」
 とうとう恐怖に耐え切れなくなったエリザが、周囲を巻き込んだ大爆発を巻き起こす。実際敵に囲まれてはいたので効果的ではあったが、しかしそれでアンデッドが全滅したかと言えば答えはNOだ。
「いやあ! まだ生きてる! あれ、アンデッドって死んでるのかしら、生きてるのかしら……わかんない! 分からな過ぎて怖い!!」
 混乱しながら走るエリザ、その息は乱れ、目はぐるぐるし、今にも倒れそうである。
『流石に飽きてきたな、骨にも』
 Я・E・Dの影が、スケルトンを丸のみ、噛み砕く。バリバリと音を立てて咀嚼されるスケルトン。うーん、骨密度。しかし其れは其れとして、イレギュラーズ達は追い込まれつつあった。
「……まずいね。撤退も視野に入れた方がいいと思うよ」
 Я・E・Dが冷静に、そう言う。実際、周りのイレギュラーズ達の息も上がっている。このまま押しきれればそれも違うのだろうが、あと一押し、という所で息が続かない。
「確かに、ちょっときつい……ね……!」
 ドゥーがその手をかざすと、マラソンコースの土が盛り上がり、ゾンビを一匹、その内に飲み込んだ。強制的な土葬。そのまま土に還って永遠に眠れ、とばかりの一撃が、ゾンビを飲み込んで消滅させる。
 沿道から響く、がんばれイレギュラーズコール。ゴリラのドラミング。例の歌。しかし応援団たちの応援も、イレギュラーズ達の体力や気力を回復させる効果はない。気持ちはありがたいが、それはそれなのである。
「撤退するとして……可能な限り敵は減らしておいた方がいいと思う。後日対処するのか、自警団が頑張るのかはわからないけれど、数を減らしておいて損することはないよ」
 ドゥーの言葉に、フランが頷いた。
「もうちょっとだけ、皆頑張ってーー!!」
 後ろから迫る筋肉質な幽霊のプレッシャーに怯えつつ、フランは仲間たちにエールを送る。それは緑の魔力となって、今にも立ち止まりそうなイレギュラーズ達の背中を、僅かに押した。
「くうっ、せめて一体でも……!」
 アクセルが息を切らせながら、指揮杖を振るう。放たれた魔力弾が筋肉質の幽霊に着弾し、「おーん」みたいな悲鳴を上げながら消滅していく。それを見届けながら、アクセルは思わず立ち止まってしまった。
「はぁ……はぁ……ごめん、もう限界……!」
 みれば、既に立ち止まり、息を整えてしまっているイレギュラーズ達もいる。残された仲間達は必死に走りつつ、最後の攻撃を仕掛ける。
「すまない、俺も、ここまでだ……!」
 イズマが最後の力で振るった血の刀が、スケルトンの首を斬り飛ばした。スケルトンがバラバラになり消滅していく中、イズマが思わずその場に座り込んでしまう。
「くっ……情けない……最後まで走り切れないか……!」
 仲間達は次々と脱落していく。Я・E・Dなどは、伴走車の荷台に乗って水分補給などをしてるのが見えるがさておき。最後まで残ったドゥーにも、しかし限界の時が訪れようとしていた。
「くっ……後一体なのに……!」
 思わずその場に膝をつくドゥー。残されたのは、一匹のゾンビだった。ゾンビは白い歯を煌かせながらポージングを決めると、イレギュラーズ達を置いて前方へと走り去っていく。
「ははははは! 筋肉最高!」
 妙にさわやかでムカつく笑い声が、辺りに響いていた。気づけば、ゾンビたちの姿は消えていた。倒しきれたわけではない。此方の限界を悟り、その姿を消したのだろう。
「くっ、くやしい……あたしのデビュー戦が……!」
 息を切らせながら座り込み、エリザが言った。しかし、そんなエリザにかけられたのは、沿道からの声援だった。
「うほうほ! うほほ!」
「いい走りだったぞ!」
「惜しかったわね、でも実力は充分だわ!」
 気づけば、沿道から多くの観客とゴリラたちが、タオルやドリンクを持って駆け寄ってきた。かけられるのは声援。精いっぱい戦った勇者たちを称える言葉。
 依頼は確かに失敗ではあるのだが、しかしゴリラと観客たちの心に、イレギュラーズ達の姿は確かな感動を残していた! 歌うゴリラ。歌う観客たち。そのおだやかな歌が、イレギュラーズ達の心に染み入る。
 感動をありがとう! よくわからないテンションに、疲れも勝ったのか、なんかイレギュラーズ達も泣けてきた。
 深夜のマラソンコースに、おだやかな合唱が響く。今日の中継はここまで! さようなら! お疲れさまでした!

「鉄帝、わけわかんない……」
 フランがそう言った。
 本当にわけわかんなかった。

成否

失敗

MVP

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 残念ながら依頼は失敗となりましたが、皆さんの精一杯の戦果は充分誇れるものです。
 ここまで敵の数を減らせたならば、後は現地の自警団たちでもなんとかできるでしょう。
 戦いにマラソン、お疲れさまでした。

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