PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京2010:花も団子も! ついでにヨルも

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ない記憶
 袖から突き出した肌を、まだ冷たさの残る春風が撫でていった。
 春の希望ヶ浜。
 入念に再現された日常は、完璧に春の訪れを演じていた。あたたかくなった、……かと思えばふっと冷たくなり、「ないよねー」と言って、カーディガンを羽織って、連れ立って歩く生徒たち。この場所は、日常のレイヤーの上に見事にテクスチャーを貼り付けてみせる。
 女子グループの4人が、わいわいとベンチの上にお弁当を広げている。
「もうほんとにあったかくなったね」
「ほんとにねー、油断してたらすぐ寒くなっちゃうけどね」
「次、英語の小テストかあ……たるいなあ」
「そろそろ、お花見の季節だね。行きたいなあ」
 え? と、会話が止まる。友人たちが一斉にこちらを見る。
「えーこ、疲れてる?」
「え? なんで? お花見だよ? ……行きたくない?」
「……行ったでしょ?」
「え?」
「そうだよ、先週末じゃん……」
 えーこ、と呼ばれた少女はまじまじと友人を見つめた。からかっているでもない。ひたすらに困惑している様子だ。
 一人が、ぱしっと背中をたたいた。
「もー、その年でボケるとかないわー。え、冗談だよね?」
 だってほら、とスマホを見せられた。今時のSNSにあげられた写真には確かに自分が映っている。
 そういえば確かにそんな約束をしたような気がした。たしかにいた、ような気がする。けれどもはっきりと思い出せない。
……自分じゃない、なんてこともなさそうだ。
 写真をスクロールすると、見慣れない相手からのコメントが付いていた。
 白い鳥のアイコン。
『おいしいきおく ごちそ さまでした

おいしかったです』

●機動魔法少女は放っておけない
「おっはよー」
「トパーズちゃん! おはよー! つーか寒くないのそれ?」
「ん。これくらいへーきっしょ。ま、あったかくなってきたし?」
 希望ヶ浜学園のテニス部所属、トパーズ・ハートは校則ギリギリ、短くしたスカートでさっそうと登校をする。
「つーかもうこんな季節じゃんね。おなかすいてくるし。うーん、次はオニちゃんに何食べさせてやろっかなあ~」
 友達のオニキス・ハート(p3p008639)は食べるのが好きだ。……できれば、ちょっと季節感のあるようなものがいいかな、いやいや、定番を探っていくか……といろいろと頭を悩ませていたが、ぽん、と手を打った。
「あ、そだ。お花見とかよくね?」
「あー……トパちゃん、それやめた方がいいかも」
「ん? なんで?」
「あー、いや……うーん」
 言葉を濁すクラスメイトに、トパーズはどんと胸をはって見せる。
「なんでも話してみなって。アタシが解決するっしょ?」

●美味しい記憶を食べる鳥
「んで、なんかね、ウワサになってるわけ。”美味しい記憶を食べる”ヨルってやつ?」
 喫茶・ローレット。
「なんつーか……ほっとけないじゃん? みんなの心を守るのも機動魔法少女の使命……みたいな? でもアタシ一人じゃ手に負えなさそうな風で」
 トパーズ・ハートはパラパラとまとめた資料を配った。字は丸っこく、装飾が施されているが、かなり読みやすいものだ。
「場所は希望が浜、みどり公園のお花見広場。で、そこで? 美味しいものを食べて、その様子を撮って、SNSで投稿すると、ヨルに襲われるらしいんよね。……ショータイ、は分からないけど多分コイツなのかな」
 トパーズが指し示したのは、無機質な白い鳥のアイコンだった。
「たぶん、現実でコイツが襲い掛かってきて、……記憶を喰われる? っぽいね。いやー、被害者みんな覚えてなくて調査、しんどかった……。マジ……。
あ、そんでね、要は……美味しいものはアタシが用意するから、こいつ釣って、そんでちゃっちゃと倒して、で、美味しいもの食べてお花見しよ! ってお誘いね。どうよ? お花見!」
 あー、もしなんか持ってきてくれんなら、ちょっと助かるんだけど、と付け加えた。

GMコメント

●目標
・お花見
・ヨル<記憶ハト>の退治

●敵
<記憶ハト>×20
 何の変哲もない鳩のように見えますが、人の記憶を食べるヨルです。
 美味しい記憶を好み、SNSに画像をあげるとおおまかな位置情報を特定して飛んできます。
 この宴会シーズンで数を増やしすぎたようです。
 くちばしでつつかれると、「美味しい」と思った記憶と、その前後の記憶が抜けます。ちょっと一瞬記憶が飛ぶかもしれません。
 神秘属性・単体です。
 それほど体力はありません。
 辛い物好き、甘いもの好きなどがいるので、適当にいろんなご飯をつまむと吉でしょう。

●場所
みどり公園
 お花見に最適な広い自然公園です。桜の木が植わっています。小さなせせらぎがあります。記憶をなくしたという報告が相次いでおり、まだ「酔っ払いが羽目を外しすぎたんだろう」くらいに思われていますが、悪評から人通りはまばらです。

●味方NPC
 トパーズ・ハート
  希望ヶ浜学園のテニス部所属、機動魔法少女。今回はせっせと食事を作る方向に回ります。
「オニちゃん、しっかり食べな~」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 再現性東京2010:花も団子も! ついでにヨルも完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)
ゲーミングしゅぴちゃん
三上 華(p3p006388)
半人半鬼の神隠し
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
糸色 月夜(p3p009451)

リプレイ

●お花見とハト
「はあ……映え?」
 糸色 月夜(p3p009451)は眉をひそめる。この忙しい時期に。オカルト研究部のツテでの依頼だ。
(俺にとって美味しいものって言ったら、血液になっちまうからよくわかンねーな。けどSNSに載ってるものを適当に持ってきたりすりゃイイのか)
「……そういや姉貴、菓子作りは出来る方だったな」

『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は一見して無表情にみえるが、トパーズにとってはそれで十分だ。
 よく見るとツインテールがぴこぴこと動いている。
(……本来の目的はヨルの討伐。うん、それはもちろん忘れてないよ。ほんとだよ)
 目線がお弁当の方に向いてしまうのは仕方が無い。
 美味しい記憶。みんなで食べるごはんの大切な思い出。護るべきものだ。
「シュピは完全に理解しました。ここ、再現性東京の性質というモノを」
『シュピーゲル』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)は、漆塗りの重箱を構えていた。
「おっ、そっちも装甲派手派手でいいじゃんね! 見せて見せて。……へぇ! このバリアがつまりこうなってこうで~」
「砲身のデータはとても興味深いです」
 機動魔法少女たちと、シュピーゲルが友好を温めていた。

『グラ・フレイシス司書』白夜 希(p3p009099)の靴が、桜を踏みしめる。薄く薄く、溶けてしまいそうな白い影。桜にさらわれてしまいそうだ。
「うん? いるよ」
 その一言でオイリは安心する。
「お花が咲いたから愛でつつ宴会。風流な風習だねえー」
『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は、舞い落ちる桜の花びらを手に取る。自然は、クルルにとても友好的だ。
「うん、そうだね。折角だし、楽しんじゃお! 思いっきり!」
「美味しい記憶を奪うヨル、か。
命を奪うよりはいいかもしれないけど……それでも楽しかった記憶を食べてしまうなんて嫌な相手だね」
「記憶ハトもニルと同じでおいしいがわからなくて、他の人のおいしいを食べようとしてるのでしょうか?」
『海を越えて』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)と『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)は顔を見合わせた。
「記憶はおいしいのでしょうか?」
 ニルには、「おなかがすく」というのがわからない。
「そ「おいしい」記憶を食べてしまうなんて、ひどいのです。
ニルは絶対許しません!」
 たいせつで、かけがえのないものだとわかる。
「……ハトが記憶を味わうとき、その時の感情なんかも楽しめるのだろうか。それなら少し羨ましいな」
『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)は、小さく羨望を口にした。
 華もまた、行き交う人々の表情を不思議そうに眺めている。
「オレはまだ美味しいということを知らないから……っと、そんなことはいいんだ。とりあえず美味しいらしいものを食べて、写真を撮って、えすえぬえす、に上げる。そして倒す……でいいんだっけか?」
「うん、シンプルでいいな」
「……トパーズ様のごはんはおいしいと聞きました。
皆様とお花見でごはんを食べるの、楽しみなのです」

●ポートラックパーティー
(ほんとうだったら、ここは、憩いの場であるはずです)
 綺麗な場所なのに、閑散としているのがニルは少し寂しい。
(オイ、邪魔だ、喰らうぞ人間ども)
 月夜が一睨みすると、みていた一般人は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
(チッ、俺様に世話かけやがって……)
 身の程知らずではあるが、素直に退いてくれるだけまだマシか。

「いつまでも記憶だけを食べるかは分からないし……」
「この夜妖が力をつけたら鬱陶しいかな……」
 心配そうなドゥーに、希はうなずいた。
「ほら花見会場ってほら、お酒飲むからケンカもあるわけで……そういう記憶まで食べてたら狂暴化しそうだなって?」
「そうかも……」
「記憶というか思い出を奪うのは許させないね」
「終わったら……もう一回、お花見したいね」
「……私は飲むからなー。闇憑き餅用意してきたけど、うーん……」
「トパーズだけに任せるのも悪いし……私も少し作ってみた。トパーズの分」
 オニキスが弁当箱を広げる。
「うっそ!? クオリティえぐい!」
「これで、ばえる……? かな」
 ご飯の上に玉子と海苔でトパーズの似顔絵。いわゆる、キャラ弁だ。一生懸命作られたそれに、トパーズはじんとして泣きそうにすらなった。
「はじめて作ったからあんまり上手くできなかったけど……どうかな?」
「もう食べられないこれ! 永久保存したい……」
「おかず部分は、とにかく好みで詰め込んでみた。冷凍のやつだけど」
 ハンバーグ、から揚げ、コロッケ、フライ。彩りゼロではあるが、と前置きする。
「……これもある意味、ばえ……らしい?」
「もうね、オニちゃん、おかずもオニちゃんもマジ大好き……!」


「俺も、お弁当も持ってきたんだ」
 ドゥーが取り出したのは、色とりどりのサンドイッチだ。
「わぁ、サンドイッチですね!」
 ニルが感嘆した声を上げた。
「イチゴやオレンジで断面が模様に見えるようにしてるんだ」
「ここ、お花みたいだね」
 クルルが楽しそうにサンドイッチを持ち上げる。

「あ、そうだ。オイリ。なんかいっぱい食べ物用意してくれてるみたいだから、オイリはご馳走なっておいで」
「ハトにやるにゃいいが、ヨルにあげると思うと勿体無ェもんだな」
 月夜はバスケットを広げた。中には、見事なきつね色のドーナツが入っている。
「ああ、ハイ。SNSに載せる用だからな。ヨルにやるのも癪だし。ほらよ」
 オイリは、ドーナツにかかった色とりどりのスプレーチョコを眺めている。
「うん。今日はこれが仕事」
 希は頷き、食べてみなさいと促した。
「……」
 アドラステイアに比べればこの街は拍子抜けするほどに平和だ。
 魔女の楽園で冷蔵庫を開ければいつだって食べ物があるし、見たことがない食べ物もたくさんあった。
「遊んでるように見えるかも知れないけど、仕事は仕事、これでお金貰ってるの」
「!」
 オイリが固まったのは、あまりに美味しかったからだ。
「ま―私はちょっとくらい記憶飛んだところで、長生きしてるから突かれても問題ないけど。美味しい記憶を食べるくらいなら大したことはないかも知れないけd……ん?」
 オイリが控えめに裾をくいくいとやる。
「だ、だめ、これを忘れちゃうなんてだめよ!」
 美味しいものの記憶を失うだなんて、もったいない。
「うん、わかった。わざわざ記憶をあげる必要ないもんね」
 闇憑き餅を齧る。
「おいしそうに見える写真……ばえ、というのですか」
 ニルはそわそわと見回し、箱を取り出した。
「チーズがとろっとしたピザとかは、見てるだけで楽しいですよね」
「わわ、もしかして!」
「はい、チーズピザです。ほかにも、ありますよ」
『団らんピッツァ、みんなで食べればおいしさ倍増!』……本当にそうだと思う。
「わいわい楽しい感じが伝わるのが、一番おいしそうじゃないでしょうか?
あと、あたたかいものは冷めないうちに食べないと、ですよね」
 ニルは卵焼きを一つ口に運んだ。識別できる。これは「卵焼き」というもので、甘くて、幸せで――けれど美味しいということはどういうことなのだろうか。
「オレの差し入れは、桜餅と、桜の砂糖漬けだ」
「さてさて、わたしからも。わたしからの差し入れは、お茶とお団子。深緑名物、深緑茶と、そのへんで売ってた串団子だよ!」
 華とクルルが、デザートを広げる。
「飲み物、いいね。オレのこれ、浮かべたら映えるんじゃないか? ……ばえが何かは知らないが」
 まるで灯籠に浮かぶかのように、花びらが茶の上に浮かぶ。
「さーて、これはどんなお味かなー♪ って、重箱が残ってるね」
「練達のネットワークで調べた結果。
映えとは注目を集めるもの、派手なものの事だと定義しました」
 そう言って、シュピーゲルは重箱を取り出した。
「うわっ……!?」
「シュピのナノマシンを材料に加えた重箱弁当はいかがでしょう」
 重箱の蓋をずらしたとたん、それはまばゆく輝くかのようで……いや、本当に輝いている。
 それは七色に光る何かだった。
「いえ。正確にはバリエーションは1680万色になります」
 付け加えられる補足。
 箱が光るのはいい。そういう仕掛けだとわかる。しかし何故料理が光るのか……。
「解説が必要でしょうか」
 最新のナノマシン技術により、と小難しい説明は、最早キャラメルフラペチーノなんたらと同じくらいの呪文だった。
 これ、食べていいの? と、オイリが希を振り返る。
「……」
 わからない。
 頭を抱える月夜。シュピーゲルは追尾弾を放つ。
「光る色に応じて味も変わります。ついでに香りも変わります。その妙味は勿論1680万通り」
 組み合わせの暴力。数え上げの爆発。あまりにもあまりの情報の洪水だ。
「これが映え、なのか? まあ、目立ちそうではあるな」
「なんだか、にぎやかで楽しそう、ですね」
「スケールが大きくて、なんかワクワクするね!」
「大丈夫、かなあ……? でも、うん、うん」
 ドゥーが混乱しつつも、そろそろと箸を伸ばす。
「うん、……これ、美味しいってことなのかな?」
 怖いくらいに普通の味だ。
「記憶は五感と結び付くことでより強固に保存されます。綺麗で派手、自己主張が強く「映え」の定義に最も合うデザインを施しました」
「加工なしでだいぶエグい」
「今回の標的は記憶に干渉するという事で。
嗅覚、視覚、味覚に訴えかける、そういうコンセプトで設計しました」

「ええと、これをaPhoneで撮影してSNSにあげればいいのかな?」
「これがいいんじゃない?」
「フィルターをかけて……」
 ニルは色彩感覚を活かして、おいしそうな補正を加えていく。
(光の当たり方とか構図とかいろいろ気をつけて撮影したいですけど……)
(映えってのは、なンかこう、光の当て方とか、角度とか、ピントとか、そういうのも必要なンだろ?)
 月夜は、それにコントラストをくわえ、くっきりとした美味しさを演出するのだった。
 自ら光っている重箱はフラッシュをたくともう何も映らない。

「よし! とらえた!」
 最初は数件だった反応は、クルルの操作によって膨れ上がる。
#お花見 #お花見ごはん #浜無高校桜並木 ……さりげなーく現在位置を載せて、引き寄せる。
「GPSもオンにして、っと……」
 ぴこんぴこんとSNSに通知が来はじめた。そして、急にバズった。何事かと思えば光る重箱が妙にバズをたたき出したらしかった。ハトぜんぜん関係ないところでバズっている。
「アインスデクスマ・ズィーベンタウンゼントアハトフンダートアインウント・フェアシュピーゲルさんをいいねしました」という通知が鳴り止まない。
 律儀に「おいしそうです」「おいしそうです」とリプライしていたハトは言葉に詰まり、謎のアカウントのつぶやきが止まった。SNS越しにもあふれ出す情報量に、若干相手がバグりかけていた。

●忘れられない味
「来るぞ」
 月夜の鋭敏な感覚が、ヨルの気配を察知していた。
「……」
 オニキスもまた、ヨルの訪れを察した。もぐもぐとしながら立ち上がる。とはいえ、食べかけのンドイッチはきっちりと最後まで食べながら、敵の方向を、指さす。
「あれが、ヨルだね……」
 ドゥーの耳に飛び込んできたのは、無数のハトの鳴き声と羽ばたきだ。

「来たね! ハト!」
 クルルが鞄からファルカウ・ボウを取り出した。ここなら、矢は必要ない。拾えばいいのだから。落とされている枝を矢弾へと変じさせ、思い切りハトに狙いを付ける。クルルの指先にこたえ、葉はぴしりと巻き付いて、一本の緑の猟矢となった。
 遠くまで、よく見えた。
 外すわけがない。
 ハトの鳴き声を、絹を切り裂くような音がかきけした。
 泣き叫ぶマンドレイク。
 その一矢は、遥か上空のハト群れ、その中心を捕らえた。ハトたちは勢いをなくし、羽ばたきを忘れ、そのままに数体が落ちた。クルルは攻撃の手を止めることはなかった。
 群れを打ち砕く。統率を失ったハトは、ただばらばらに別れて攻撃を試みる。

 けれど。

「お弁当は……。護る」
 ハトの攻撃で飛んでいったお弁当は保護結界で守られている。公園の桜の方は、ニルがしっかりと保護結界を巡らせていた。
「はーい、キャッチ。もっち。オニちゃんの作ってくれたせっかくのお弁当、渡すわけないよね」
「あれは……」
 シュピーゲルが息をのんだ。
 MMPHVAPM。オニキスのマジカル多目的高速徹甲誘導弾『ファントムチェイサー』 。高速で標的を追尾する魔術弾頭は、へろへろになったハトを思い切り打ち砕いた。
 ならば、自分も。
 亜空間から、すさまじい質量のなにかがずしんと現れた。
 装甲、展開(スクリプト、オーバーライド)。
 戦闘機動構築開始(システムセットアップ)。
 動作正常(ステータスグリーン)。
『Jawohl(了解)』
 シュピーゲルは、本体に乗り込む。
 ガツン。と、ハトの攻撃は確かな装甲に弾かれた。傷一つない、その表面。装甲が堅いのももちろんだが、それ以前に、”何か”――魔法に弾かれている。
 Cb-20/R。SpiegelⅡの機体装甲そのコアパーツに、ハトはもはや触れることすらできない。
 1680万色の、質量をもった情報量はもはや暴力だ。
「つつかれる事で記憶がなくなるのなら。つつかれる事を拒絶しましょう」
 展開された、ルーンシールドが。そして、マギ・ペンタグラムが盾として働き、隙がない。
 ハトの僅かなついばみで、1680万色が、1679万9993色の記憶になれど――誤差の範囲でしかない。
 ソニックエッジが、ハトを切り刻んだ。
 なんだなんだと、やはり野次馬が寄ってこようとしたが、あまりの迫力に――ハトというよりはむしろイレギュラーズたちの迫力に圧倒されている。
 舌打ち交じりに、華は名乗り口上をあげた。
「オイ、ハトの大群が襲ってくるからよ」
 逃げろ、というのは伝わっただろう。
 ところで、――ああ、腹がすいた。
 月夜は、チェーンソーを引き抜く。
「気に食わねェ、クソハトども。
誰の断りを得て、俺様の頭上を飛んでやがる」
 ハトからの返事は空中の落とし物だ。ぶちりと、なにかがキレる音がした。額に血管が浮かび上がった。
「テメェそれだけは許されないからな? 死ね!!」
「全員地に縫い付けてやるよ、その羽、叩き落として食ってやる」
 Evil Joeが鼓動のように唸った。
 血蛭が、飢えている。
「羽も肉も魂さえ、この俺様の餌なんだからよ
そンじゃ、俺の昼飯とするか」
 己が血飛沫を切れ味として。そして、花吹雪へと転じた。ハトは、捕食者ではなかった。被食者だった。
「こっちだよ」
 華はハトたちを引きつける。せっかくのお弁当、台無しになってほしくはない。
 H・ブランディッシュが、ハトを散らした。
「一体、そっちだ」
 ドゥーのベリアルインパクトが、ハトの行く手を阻んだ。
 それをついて、ニルの青の衝撃がほとばしった。
 ハトにつつかれたドゥーは、一瞬くらっときた。何かを忘れた、と思うが、何を忘れたのかわからない。
(美味しかった記憶が食べられちゃうのは残念だな)
「あなた達も美味しい記憶じゃなくて、美味しいものが好きならよかったのに」
 それであったら、ドゥーはきっと、サンドイッチだって喜んで差し出しただろう。
 オイリはスタンロッドを手に、ハトに向かって振り下ろした。その動きは鋭く、ただの少女ではないことを思わせる。けれども本気ではない。今この力は、守るために使うと約束していた。
「ん、わかった」
 だいたいわかった。希は禍津星鎚を振るう。ダーティピンポイント。編まれた術式は、見た目とは裏腹の段違いの威力をぶつける。
 シュピーゲルは、安全装置を外した。オーバーザリミットを超えて、早く、速くなる。
 ニルのダークムーンが、群れをなぎはらう。合わせる様に、兎が――希が、月の前に姿を現した。
闇の果て。死神の手が心の臓を愛撫する。ハトは空中で動きを止めて、落下し、消えた。
「あそこ……」
「うん!」
 ドゥーとクルルは、同時に矢を放った。交差するように飛んだ矢は、2体のハトを貫いた。
「こんな美味しいモノをいっぱい食べたんだもの、忘れさせられちゃうなんて断固、拒否ー!
ごはんの味……もとい、この記憶と思い出は、渡さないんだよ!」
 華のレジストクラッシュが、最後の一体を仕留めた。

●再開!
「ケガは、ないですか?」
 ニルが緑の抱擁をし、傷を癒した。
 希はふっと息をついた。
「なかなかあれだね……子供を連れてくると、大したことないとはいえ戦闘があるお仕事は気を使うわ」
 オイリは、再び仲間たちの輪の方へと入っていった。成長しているようだ。見守って、ちびちびと飲み物をあおった。
「あーっ、オニちゃん! これね! これ! オニちゃんのキャラ弁だけは死んでも忘れないって思ってたけど、コロッケのこと忘れてるうう」
「……大丈夫。まだ、残ってる」
「ちゃんと食べて、ぜんぶ感謝するしかないっしょ!」
「せっかくだし……もう一度お花見していくのもいいんじゃないかな」

「身体も動かしたし、美味しかった記憶も齧られちゃったし。仕切り直しだね」
 ドゥーは乱れたシートを直す。
「記憶を食べられちゃうかも、なんて思わずに美味しいものを食べてお花見したいですよね」
 ニルは微笑んだ。
「これはこれで、楽しいのかもしれないな」
「落ち着いて見ると綺麗だね」
 華とドゥーは、桜を見上げた。感情はなくとも、枝がこすれるような小さなざわめきはある。
「……はい、チーズ」
 改めての写真をアップロードする。
 ヨルをおびき出すためじゃなくて、本当の思い出として。
「これで、この公園にも人が戻るでしょうか?」
「おいしかった。また誘ってね、トパーズ」

成否

成功

MVP

クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール

状態異常

なし

あとがき

これにて、みどり公園にもお客さんが戻ったことでしょう。
お花見、おつかれさまです!ごちそうさまでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM