PandoraPartyProject

シナリオ詳細

その怪魚、挑戦者を待つ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●釣りとは何か

「来たぜ来たぜ来たぜぇぇえええい!! ヒュウ! こりゃ大物だ!」
 手元の竿を強く握り締めて引き寄せる。しかしそれだけでは水中の獲物を手繰り寄せることなど出来ない。
 リールを、巻くのだ。
「ぐ、うおおおおお!! 負ける物かよ、ここで逃すわけにはいかねんだ! 相棒!!」
 ピィィイイイイ! と全力でリールが巻かれるのと同時に獲物からの抵抗力も強くなる。
 手元から上がる焦げた臭いと摩擦熱が竿を持つ指先を熱くさせた。
 男はボートの上を引き摺られて遂に船の端まで引き寄せられてしまうが、そこで諦めたりはしなかった。最高の相棒がいるのだ、男には。
 男が咄嗟に踵で靴底を叩いて鳴らすと、ブーツに着けられていた宝石が眩い光を放った。
「来い!! ジョナサアアアアアアアン!!!!」
 男の叫びに呼応したかのように上がる水飛沫。次の瞬間ボートから伸びる糸の先……獲物の近くで凄まじい水柱が上がったと思いきや巨大なクジラがその巨躯をもって水面にダイブしたのだ。
 ボートにまで来る余波に危うく男は転落しそうになったが、代わりにリールにかかる抵抗力が無くなったのを感じる。
 しかし糸が切れたわけでは無い。
 この日の為に男が用意した糸は練達製の特別品。クジラ一頭の体当たりでは千切れる事は無いのだ。
 恐る恐る男はリールを巻いていく……そこにかかっていたのは。

●人魚でした
 なんでや!! そんなイレギュラーズの声がギルドの中に木霊する。
「ボクは釣りってしたことないのですが、そういうものじゃないのです?」
 かっくん、と『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は首を傾げて微笑む。
 今の話で人魚が釣れる要素がどこにあったのだろうか。
「正確には通りすがりの海種さんだったのです。それでですね、依頼人の釣り人さんから頼まれたのがその逃げられてしまったお魚を釣って欲しいみたいなのです」
 魚を釣れ。
 それは本職の方が向いているのではないだろうか。確かにローレットはある程度の依頼をこなせるが……
「普通のお魚だったら良かったんですけど、違うみたいなのです。それが例の海種の方でして」
 ユリーカは続ける。どうやら相手は海洋の首都の近海で最近確認された謎の怪魚らしく、海種でも獣種でもない事から何らかの変異種ではないかと騒ぎになっているという。
 そこでただの討伐ならローレットを介した近海警備の依頼として任せる所であるが、実際の正体を見たいと願い出た研究機関や漁師たちが出て来たので捕獲したいのだった。
 イレギュラーズはユリーカの説明に頷き、顔を上げた。
 釣りをするなら何が必要なのか聞かせてほしいと、ユリーカに問うのだった。

GMコメント

 イレギュラーなら負けてないぜ・・・?
 怪魚を全力で釣り上げよう!

●成功条件
 怪魚を釣り上げる(捕獲する)
●失敗条件
 怪魚を殺す・捕獲に失敗する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 海洋首都リッツパーク近海沖。つまり海上での作戦となります。
 ディープシーの方は勿論、スカイウェザーや操船技術に水泳といった活躍できそうなイレギュラーズは張り切っていきましょう。
 海がそれほど得意ではないという方々には依頼人のステルベン・セグァールさんから幾つかの釣り道具を貸し与えられます。
 『銛』『超すごい練達製の釣り竿(パチモン)』『水中銃』『酸素ボンベ(ダイビングスーツセット)』『冷凍本マグロ』
 基本的に船の上で釣り上げようと奮闘しても構いませんが、今回の依頼人からの情報を見るに怪魚は頭と手際が非常に良いものと思われます。
 ※クジラの召喚術はセグァールさんだけしか出来ません

●敵フィッシャーマン
 怪魚:恐ろしく狡猾なくせに目の前に貝類を吊るされると直ぐに食らいつくチョロイ魚。
    しかし侮るなかれ、この怪魚を水中で目撃した海種の女性いわく「すっごく逞しい腕でした……」とのこと。
    また、依頼人の銃撃や召喚クジラのタックルでも仕留めきれなかった事から相当のツワモノかもしれない。
(能力:『水中マッハパンチ(物至単・中威力【連】)』『釣り針ルーレット(特レ・最後に攻撃をしてきたイレギュラーズに釣り針を勝手に付け替える)』)

 リプレイは海上に到着した所からスタートします。
 皆様よろしくお願いします。

  • その怪魚、挑戦者を待つ完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月07日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
ギルバート・クロロック(p3p000415)
フロウ・リバー(p3p000709)
夢に一途な
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
ファリス・リーン(p3p002532)
戦乙女
エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)
ShadowRecon

リプレイ

⚫︎青い空、蒼い海、そして……
 リッツパーク付近の港から沖までボートで揺られ十数分。
 船のエンジンを切りながら舵を操作する大柄な体躯の男、依頼人であるステルベン・セグァールは甲板のベンチから立ち上がったイレギュラーズへ振り返る。
「この辺りだ。あの怪魚は潮の流れからして他の魚を嫌がる性質を持ってるらしい。まったくシャイな魚もいたものだな。
 後は君たちローレットの出番というわけだ、ここからは少し長いぞ?」
 船内の倉庫からセグァールが取り出して来たのは幾つかのダイビングスーツのセットや水中銃、そして新鮮な貝類の詰まったバケツを四杯だった。
 貝は彼曰く、今回獲物(ターゲット)となる怪魚が好む好物だと言う。そこで『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)と『銀翼の歌姫』ファリス・リーン(p3p002532)が港で購入、用意したのである。
 ならばとセグァールはかつての友人達に海洋の軍部に卸す予定だった中から一部、貝類を分けて貰ったのだ。
「針に付ける時は中に食い込ませて殻はそのままにするんだ」
 甲板中央にバケツを四つ並べてセグァールが実際にやって見せながらイレギュラーズに説明をする。そもそも何故に彼も来たのかと言えばこの辺りのサポートが必要だと思ったからである。
 尤もその背景には前日にローレットでの打ち合わせにて
『あの魚はのう…激戦を繰り広げた強敵(とも)であるお前さんに釣られたいんじゃないかのう……いやそうに違いない。なぁに、戦闘面はワシらに任せておけ。一緒にこんか?』
『うんうん、ステルベンさんは釣りの補助とか船の運転をお願い!』
 と言うように、『魔法騎士』セララ(p3p000273)と『梟』ギルバート・クロロック(p3p000415)の二人に頼まれて快諾したという背景もあるのだ。
 セグァールの実演にそれぞれが頷き、或いは釣竿に貝を取り付ける作業を進める。
「腕の生えた怪魚……なの……足は生えてないのか…にゃ? レアものには、違いない……にゃよね。ミア、珍しいのは大好き……なの♪」
 がんばって捕まえるの! と息巻きながらしゃがんで尻尾をパタつかせているのは『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)。彼女は持ち込んだロープに貝を括り付けながら網状にしようと試行錯誤しているようだった。
「貸してみるといい、網状にするならこうして絡め縛れば……」
 他にも元々編み込んだものを持ち込んだようだったが、数は多いに越したことは無いだろう。『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)が横からミアの作業を手伝いながら納得した。
 と、そうこうしている内に準備ができたのか。『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が用意されていた釣竿を担いで船の後ろへと回った。ルアーの具合を確かめる手順に従ってセグァールに始動された通り問題ないことを確認する。
「怪魚と言われてもなぁ……どんな変なヤツが釣れるんだか、想像がつかねぇっス」
 首を傾げながら竿をフルスイングして糸を投げながら葵は「てか逞しい腕ってなんスか、腕って」と呟いた。
「あのさ。魚ってのはね、水中に適応するために進化してあの姿になってるはずなんだよ」
「そうだな」
 船を一周してきた『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)がエイヴの後ろで海原を眺めつつ言った。
「その為にはね、本来は人みたいな腕って不要なはずなんだけどね。どういう必要性があって生やしたんだよそんなの! アホか!」
「たしかに……にゃ」
 不意に頭上を通り過ぎた海鳥に気を取られながらも一同が頷く。そして次に向かう視線は依頼人のセグァールだ。
「……あんな奴は今まで見たことがない。俺もモンスターの類かと思ったんだが、ありゃ違う」
「海種、とも違うのですよね?」
「そうだ。なったって奴はまさに、逞しい『漢』って奴だからな」
 フロウの問いに首を縦に振るセグァール。しかしイマイチ頭に入って来ないのが、逞しいとはどういうことなのか。
 エイヴとミアが二人同時に立ち上がって釣りに移ろうとする中、フロウは直ぐ傍の左舷に向かって釣竿を振り抜いた。
「これで釣り上げたなら楽ですが……」
 背後ではそろそろ10本目の竿に貝を取り付ける作業をセグァールが終えようとしていた。その、瞬間。
「あ、釣れました……」

「「 嘘ォッッッ!!? 」」

 フロウから上がった震え声に振り向く船上のイレギュラーズと依頼人一同。
 そこで見たのは青い空、蒼い海、そして────バタフライ泳法から一気に飛び上がって空中を舞う貝付きの釣り針に食らい付いた。マグロっぽいマッチョな何かだった……。

●捕獲作戦A
 開始僅か八分。船上は大騒ぎになった。
「うおおおおお!! 今のは魚にかけた洒落じゃないぞ、巻け! 巻くんだお嬢さん!!」
「は、はい! っつ、う!? 重い……!!」
 信じられない速度で釣れてしまった怪魚を前にして焦る依頼人の横で、恐ろしい速度でリールが引かれるのを止めて巻き始めるフロウ。
 その原因は彼女のギフトに思いっきりヒットしてしまったことが挙げられるのだが。まさかあれが食べられる『魚』とは死んでも思いたくなかったので何も言わなかった。
 しかし重量は人間や小魚の比ではない。必死にリールを手繰り寄せる様に巻くが、細身の彼女では些か膂力に欠けるというのかその足元が揺れ動いていた。
 そこへ駆け付けたセララとファリスがしっかりとフロウの釣竿を掴んで支えようとする!
「しっかりするんだ、私たちが着いている」
「ファリスさん、セララさん……!」
 背中を支えられ、共に竿を引こうと踏み締める三人。
 彼女達の横ではミアにエイヴと葵、ギルバートの四人が糸が伸びる先を見ていた。
「この距離では届いても捉えられるか分からないな」
 エイヴがAMライフルのスコープを覗きながら、未だ海面に浮いてこない魚影を見て舌打ちをする。海面ならばヒットしても、水中3mを超えれば威力も弾道も変わってしまうのだ。
 隣にいるミアもそれは同じで、やはり今はフロウ達が釣り上げてくれることに期待するしかないのであった。
 そこで彼女達の声を聴いて縁に乗り出したのがリンネだった。彼女の持つエネミースキャンならば狙撃の補正に役立つと考えた。
 距離的には届くはず……そう思い意識を釣竿の先に移した。

   【『「( 魚ッッ!! )」』】

「!?」
 脳内に突如浮かび上がるマグロの正面顔。かお……?
 思わず尻餅を突いたリンネに「大丈夫か?」とエイヴが声をかける。リンネは頭を軽く振りながら無事であると伝え、現在の怪魚の挙動を実況し始めた。
 なんかもう全体的にぐねっぐねしている。気のせいだと思いたいがなんか尾ひれ以外にも生えてる。……と。
「海面に上がらせる、或いは海中に潜らないと狙撃は無理だな」
 エイヴはそう結論付け、ライフルを下げた。そこで竿を引いていたフロウ達の方から声が上がった。
「さ、サメ!?」
「何を馬鹿な、さっき見えたのはマグロだったような……」
「背びれ! 背びれが見えてきました!」
 フロウの言葉は本当だった。確かに海面にはサメらしき背びれが露出していたのである。
 しかし、そこへ待ったをかけたのは依頼人であるセグァールだった。
「騙されるんじゃない、あれは奴の『尾びれ』だ!! まずい! あの体勢に入っている時の奴は更に獰猛に逃げるぞ!」
「獰猛の意味は理解しているか依頼人!」
 セグァールの告げた直後、一気に船外へと引き摺られる三人。ファリスのツッコミが入るがそれどころではない。
 もうダメかと思われた刹那、海面に向けて電流が走る炸裂音が鳴り響いた。
 ミアが援護すべく担いだレールガンを撃ったのである。釣り糸の先にある尾ひれらしき物に着弾し、水飛沫が上がった。
「やった……の?」
 恐る恐る隣のリンネにミアが目だけを動かして問いかける。それに対してリンネは静かに首を振った。ダメだった訳ではない、動いている。
 では、なぜ? とミアの頭上にハテナが浮かぶ所だったが、不意に肩を突っ撥ねられた感覚に襲われた。
「みゃっ?」
 直後、隣のフロウ達が「でぇあー!!」と掛け声を上げたのと同時にミアの身体が宙へ投げ出されてしまう。
 声が尾を引くように、白い小柄な影はボート正面の海に落ちて行った。ざっぱーん、と。
「あー……やられちまったっスかー……そっかー」
 葵が救助のために釣竿を下に伸ばしたのだった。

⚫︎捕獲作戦B
「ミアは、泳げる猫……にゃけど、お魚違う……の!」
 涙目ながら憤慨するミアの声が船上に響く間も時間は刻々と過ぎて行く。太陽は真上を過ぎ、一同はセグァールに振る舞われた『元戦艦勤めコックの海鮮料理』を食べて精気を養っていた。
 相談の結果、彼等は新たな作戦を立てた。その名も、
「怪魚をボコボコにしてから釣り上げる作戦、だ」
 イレギュラーズの総意である。フロウのギフトで釣り上げながら戦う方法も考えられたが、謎の技術で釣り針をこちらに付け替えて来るのではどうしようもない。
 ならば水中で見つけ出し、誘き出し、死なない程度に痛めつけて獲る。
「海中にはできるだけ入りたくないのじゃがな。必要となれば入るしか有るまい」
 ギルバートが船の縁に片足を乗せて立ち上がる。その姿は輝くフンドシスタイル。セクスィーの一言である。
 その姿にエイヴの眠たげな表情が僅かにくすっとする、が……その隣では勢いよく水飛沫を上げてセララが飛び込んでいた。
「魔法少女セララ、マリンスタイル! この水中戦スタイルで怪魚を一撃必殺なのだ。海の平和はボクが守る!」
 先ほどは惜しくも逃してしまったが、次こそは銛の錆にして見せるという意気込み。本当に必殺してはいけないことは勿論分かっている。
 依頼人の持ち込んだ装備に身を包んだセララは、ボートの下で隠れ潜んでいるミアに親指を立てて頷いた。釣られた当初は少し憤慨していたミアも今では落ち着いた様子でいる。
 海底や周囲の海中には彼女達の作った、または持参した貝類が撒かれており。エイヴのライフルによる銃声で小魚群は近くにはいない。これならば他の魚たちを嫌う怪魚が姿を現しやすい筈である。
「船の上は暑いですから、水分補給とエネルギー補給は大切に」
「ありがとうファリス。私たちも上から何か分かれば言うよー」
 ファリスの持ち込んだ水やおやつといった軽食を船の上に残るリンネと葵、エイヴの三人に配る。
 どれだけ時間がかかるかは分からないのd
────「怪魚が出たようじゃぞ!!」
 早っ。
「ど、どれだけちょろいんだあの怪魚……!?」
「貝類に目がないからな、奴は」
「これでなんでまだ捕まらないんスかアレ」
 ギルバートの声が上がった海面までファリスが飛行で直ぐに駆け付ける。上からでは未だ怪魚や仲間の姿はうっすらとしか見えない。
 一抹の不安を覚えながらもファリスは船の上にいる葵達に手振りで待機していて貰うように頼んだ。
(水中組次第か……)
 ファリスは歯痒いと思うが、その場で歌を紡ぎながら待ち続ける。

●その怪魚、挑戦者を待つ
 フロウとセララの二人は水中で激闘を繰り広げていた。
 僅かに離れた位置で細かく射角を変えながら威嚇術を乱射するフロウ。海中に渦巻く衝撃波が一個の影に炸裂するが、上手く捌いているのかダメージらしいダメージがない。
 同時に水中で肉薄して己が聖剣を切り上げる様に下から『セララスペシャル』を撃ち込んでいくセララ。海種ではないにも関わらず常に反応良く先行する彼女にさしもの怪魚も受けきれず、二度の直撃を受けて僅かに浮上した。
「…………じょーず」
 海面から射し込む陽の光に照らされ映し出されたその姿は、まさしく怪魚である。頭部はマグロのそれであるが、胴体は腹筋の割れたシャチ、尾にかけてはサメの背びれのような歪な形。
 そしてなにより特徴的なのは、まるで人のような逞しい腕と脚が生えている点だろう。しかし人間よりの肌ではない、どこか肉質が違うようにも見える生物だった。
(あれ、いま喋った!?)
 というより喋っていることにフロウが気付く。
「じょうず、じょーず……じょうずずず……」
 セララの剣に再び弾かれながら、怪魚は逞しい腕で海中に漂っていた網に括り付けられた貝を瞬時に奪って口へ放り込んでいた。水中にゴキゴキと貝が砕かれる音が鳴る。
「もう少しですセララさん、もう少しで海面に……!」
 威嚇術を撃ち込みながらフロウが泳ぎ回る。それによって怪魚は逃げ道を探そうとする隙が生まれ、セララの剣がそこに滑り込まれるのだ。
「じょーず……!」
「~~ッ!?」
 水中で突如拳がセララの目の前で閃いたと思った瞬間、衝撃波が多量の泡と共に駆け巡り、少女の姿が一気に回転しながら投げ出された。
 速く、そして重い連撃にセララが声にならない悲鳴を酸素ボンベから散らした。
「セララさん……!!」
 咄嗟にフロウがセララを受け止める。幸いたまたまクリティカルしただけだったのか、肩口に痣を作った以外は大した傷は無い。否、恐らくはエネミースキャンで様子を逐一確認していたリンネがヒールオーダーを撃ってくれたのだ。
 そこへ、フロウの視界を幾つかの閃光と黒い影が通り抜けた。
 「じょうッ!!?」
 ギルバートの呪符と、狙撃すべく船の下で隠れていたミアからの射撃。それら両方が怪魚の頭部に叩き込まれたのだ。
 突然の不意打ちに怪魚が黒い血潮を撒きながら海面に向かって急浮上した。それは怪魚が一時的に光を求めたからなのか、敵のいない海上を目指したからなのか。
 いずれにせよ、怪魚は選択を誤った。
「見えた……!」
 海上にいた誰かが、或いは誰もがその言葉を漏らした。次の瞬間、海面近くに浮上した怪魚は刹那に謎の閃光を目の当たりにした直後、莫大な水柱と共に宙へ吹き飛ばされた。
 リンネの撃ったマギシュート。そこへ狙い澄ましたエイヴの遠距離集中射撃。どちらも見事怪魚に直撃していたのだ。
 そして、宙を舞う怪魚は濁った黒い瞳で船の上を見た。文字通りである。上を、船の上空へ飛び上がった葵の姿を。
 凄まじい轟音が空に打ち上がった。葵の全身を活かした渾身のシュートは砲弾の如く、そしてレーザーの如く怪魚に突き刺さったのである。
 くの字に折れ曲がった怪魚はその一撃を最後に、海中へ落ちた後も動かなくなったのだった。

●深淵の者
 かくしてイレギュラーズは怪魚を捕獲することに成功した。
 依頼人やリンネ、そしてギルバートの治療によってギリギリ怪魚は死を回避したのだ。これだけ苦労したのだから死なせるわけには行かない。
「凄いものだな、俺のジョナサン……クジラなんだが、あれの体当たりを受けてもぴんぴんしてる奴をよく倒せたもんだ」
「クジラ……」
 まじまじと貝類と一緒に海水に浸かっている怪魚を眺めていたミアがびくっと振り返る。
「……しかし、釣り道具の中の冷凍本マグロや魚なのに逞しい腕とは一体?」
 ふと気になったエイヴがセグァールに訊ねた。そもそもこの怪魚は何者なのか、そもそもバベルがあるのに何故言葉が分からないのか。
 そして冷凍本マグロはどうして用意されたのか。
「奴については俺にも分からん、だが……奴は恐らくマグロなんじゃないかと疑っている。
 あのぷりっとした筋肉を見ろ、そしてあの目を。俺は日ごろから海賊に襲われた時の為に冷凍マグロを用意しているが、奴の目はマグロそのものだ」
 そして決定的なのは、言葉ではない言葉。バベルによって意思疎通が果たされない者、即ちその点が海種や純種とは違い、『人ならざる進化』をした生命体なのではということなのだ。
 イレギュラーズは船の内部にある貯水槽で揺られる怪魚を見た。
「…………」
「で、このマグロどうするよ、若干溶け始めてんぞ。ミア、お前コレ持って帰るっスか?」
「にゃっ!? ……なんで、ミアが……!?」
 もう魚はこりごりだというミアのしょぼくれた様子に、一同は笑って帰還するのだった。

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

なし

あとがき

イレギュラーズの皆様お疲れ様でした。
ディープシーでもブルーブラッドでもない謎の魚人というちょっぴりホラーの含んだ釣りシナリオでした。
皆様のプレイングの各所に判定的クリティカルが見られ、要所での難所を見事に乗り越えていました。
またそのうちディープブルー(勝手に命名)のシナリオを書いてみたいと思いますので、その時はぜひよろしくお願いします。

それでは皆様ご参加いただきありがとうございました。

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