シナリオ詳細
偉大なるパンジャン。或いは、盗まれた新兵器…。
オープニング
●荒野のパンジャン
鉄帝国のとある荒野。
身体中に包帯を巻いたツナギ姿の男が1人、地面に倒れ伏していた。
「おや~? 誰だっけ? 見たことのある顔だねぇ~?」
なんて、呟いてフランドール=ジェーン=ドゥ(p3p006597)は自身のこめかみにその青白い指を突き刺した。
指の根元までをこめかみに埋め、ぐりぐりと脳を直接いじる。
フランドールは死体であるため、脳に指を突き刺しても命を落とすことはないのだ。
「あ~? あ! あ~、誰かと思えばパンジャンじゃ~ん!」
しばらくの間、そうやって脳をいじっていたフランドールだが、どうやらその者の正体を思い出したらしい。
時は遡ること数ヵ月前。
鉄帝国の兵器開発者である“パンジャン”が作製した、自走するタイヤ型爆弾の実験にフランドールは参加した。
彼の作った兵器は、タイヤの外周に取り付けられたロケットを推進力として疾駆。
目的地に到達し、衝撃により大爆発を巻き起こすというものだった。
その威力は強大。
とはいえ、僅かな地面の隆起などに突っかかり、軌道が逸れたり、横転したりするという欠陥を備えたものだった。
「あ~? ねぇ、荒野の真ん中で何やってんの~? こんなところで昼寝してたら、ミイラになっちゃうよ~?」
防腐剤いる?
なんて、持ち歩いている薬剤入りの注射器を手にフランドールはそう問うた。
「い、いらねぇ。俺は、死体じゃないからな……それより、話を聞いてくれ」
力を貸してもらいたい、と。
そう言い残し、パンジャンは再び意識を失した。
フランドールは僅かな時間思案した後、とりあえず、といった様子でパンジャンを抱え日陰へと移動していった。
●パンジャンの新兵器
「ってわけで~、パンジャンが開発した新兵器が盗まれちゃったらしいんだよねぇ~」
集まった仲間たちを前にして、フランドールはそう語る。
曰く、イレギュラーズの協力により得たデータを基にパンジャンは兵器に改良を加えたのだという。
彼の作ったタイヤ型爆弾の欠点……狙った場所に辿り着かないというそれを改善するために、彼はタイヤ型爆弾に操縦席を取り付けた。
形としては自動車や装甲車に近いものである。
もちろん、そのタイヤは爆弾であり、推進力は相変わらずにロケットである。
また、取り付けた操縦席にも大量の火薬や燃料を積み込んだのだという。
「そんなもんに乗って突っ込んだら、操縦者も木っ端微塵に吹っ飛んじゃうと思うんだけど~。どういうわけか、それが“イイ”って連中がいたらしいんだよねぇ~」
と、フランドールがいうようにパンジャンの作った新兵器“パンジャン・ウォー・スプリント”は荒野を拠点とする荒くれ者たちに奪われた。
その数は全部で4台。
12名の荒くれ者たちは、現在も4台のパンジャン・ウォー・スプリントと5機の二輪車に騎乗し荒野を疾駆しているらしい。
「まぁ、物騒な兵器だっていうのはパンジャンも理解してるみたいでさ~、悪用される前に破壊してくれってことなんだけど~」
パンジャン・ウォー・スプリントには、小型のタイヤ型爆弾が搭載されている。
命中率は微妙だが、威力は絶大。
また【ブレイク】【飛】【炎獄】の状態異常も付与されるという。
そして、パンジャン・ウォー・スプリント以外に乗った荒くれ者たちは、それぞれボウガンを武器として所持している。
特別な効果は持たないが、こちらは長く主装備として用いていたらしく命中率は高い。
「連中は荒野にある古い砦跡をアジトにしているみたい。砦内には家屋が多く、ウォー・スプリントも最高速度は出せないってさ~」
とはいえ、規格外の速度を誇る兵器であることに違いはない。
そこらの馬やロバなどでは、まっすぐに追いつくことは出来ないだろう。
そこで、パンジャンが用意したのは試作段階だった最後の1機。
5人乗りの大型パンジャン・ウォー・スプリントであった。
その性能は奪われたウォー・スプリントを凌駕する。
もっとも、タイヤ型爆弾は装備されていないため追走および自爆特攻以外に出来ることはないのだが。
「さぁ~、行こうじゃないか~、命知らずの諸君~。荒野を舞台にデス・レースと洒落込もうぜ~」
なんて、言って。
フランドールは肩を揺らしてキヒヒと笑った。
- 偉大なるパンジャン。或いは、盗まれた新兵器…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月31日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●The Road Fighter
鉄帝国のとある荒野。
荒れて乾いた岩の遺跡に、爆破の音が鳴り響く。
それから、男たちの野太い雄叫び。
「爆炎を讃えよ!」
ドラム型の爆弾をタイヤ代わりに走るマシン――パンジャン・ウォー・スプリントという名の破壊兵器だ――に騎乗している禿頭の巨漢が叫んだ。
彼が一団のリーダーだろう。
「「「爆炎を讃えよ!!!」」」
唱和するは、同じくパンジャン・ウォー・スプリントに乗った荒くれ者たち。うち5名は2輪の車両に乗っていた。
小気味の良い爆音を響かせながらP・W・Sが疾駆する。
正面を塞ぐ遺跡に向けて撃ち出されたのは、小型のタイヤ型爆弾だ。
タイヤの外周に添って取り付けられたロケットが炸裂。
それを推進力として、タイヤは猛スピードで遺跡……岩づくりの小さな家へと激突した。
直後、爆音。
響く轟音。舞い上がる黒煙。ごうと吹き荒れる火炎。
「お~、敵もいないのに爆弾撃ち込むとか、キマってんねぇ~。なら、こっちもいざゆかん。最後まで転がってた奴が優勝だ~。さあ~、パンジャンフォ~」
「OKOKOKOKOKOK!!!! ガンガン行けるじゃん!!」
黒煙を見つめ、発進を告げる『パッチワーカー』フランドール=ジェーン=ドゥ(p3p006597)。『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)は赤と緑のオッドアイをぐるぐるさせて、頭上で拳を振り回した。
「承知した! 派手に散らせてやるとしよう!」
ぐい、とアクセルを踏み込んで『不完不死』伊佐波 コウ(p3p007521)がハンドルを握る。彼女たちが騎乗しているそれもまた、試作品のP・W・Sだ。
荒くれ者に奪い取られたP・W・Sが、被害を拡大させる前に破壊すること。
それが、イレギュラーズに依頼された今回の任務の内容である。
「偉大なるパンジャンを崇めよ! 道を誤った荒くれ者達にP・W・Sの救いを!!! P・W・Sと共に爆発する事を赦そう!!!」
今日のハッピーは最高にハッピー状態だった。
そんな彼女を横目で見つつオリーブ・ローレル(p3p004352)はため息を零す。
「……妙な熱狂を持っている様ですが、自分はそうなれそうもありません。自分なりに頑張りましょう」
そう言って、オリーブは背後へ視線を向けた。
P・W・Sに繋がるワイヤー。その先に結び付けられている人型兵器を問題なく牽引出来て居るかどうかを確認しているのだ。
その人型兵器の名はAG(アームドギア)。
搭乗しているのは『倫理コード違反』晋 飛(p3p008588)だ。
「ハハッ、ほんとに走ってやがる。頭わりぃ。頭わりぃが……なんでだろうな? 頭悪い兵器ってなんでこんなに魅力的に映るんだろうな?」
なんて、飛の声を聞きオリーブは静かに首を振る。
飛もまた、自爆特攻を前提として狂気の兵器に魅了されかけているようだ。
続けざまに響く爆音。
濛々と天へ上る黒煙。
それを遠目に眺めつつ『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)はにぃと笑った。
「敵も味方も命知らずばっかり……その挑戦心、実にイエスだと思うよ」
「ン.地上 待チ伏セ パンジャン奪取」
「うん。可能ならね。それにしても、ちょっと見ない間に進歩したのね……もう少し方向性なんとかならなかったの?」
岩石の巨人『青樹護』フリークライ(p3p008595)が、太い腕を頭上へ掲げた。それを足場に『グラ・フレイシス司書』白夜 希(p3p009099)は、手近な遺跡の屋根へと上る。
カイン、フリークライ、希の待機するこの場所へ、P・W・Sに搭乗している一行が荒くれ者どもを追い立ててくる手はずとなっている。
「珍兵器 ライド 飛ロボット 主 見タラ 眼 輝カセソウ」
黒煙を見つめそう呟いたフリークライは、既にこの世を去ったある少女を想起する。
●Fire Doom
爆音を鳴り響かせながら、4機のマシンが荒野を駆ける。
左右に並ぶ高い岸壁。
進んだ先には、入り組んだ遺跡群がある。
「頭! 連中、追って来ますぜ!」
「あん? 俺らとスピード勝負しようって腹か? だったら相手してやんぞ。P・W・Sの速度と火力を見せつけてやれ!」
頭と呼ばれた禿頭の男は、にやりと獣のような笑みを浮かべた。
荒野を根城とする荒くれ者。
それを纏めるリーダーである。腕っぷしや度胸には当然ながら自信がある。
さらについ先だってP・W・Sという兵器さえも手に入れた。
彼は破壊と火炎が好きだ。
彼は破壊と火炎が大好きだ。
岩盤を撃ち砕き、家屋を吹き飛ばすのが好きで好きで仕方なかった。
「さぁ、爆炎を讃えよ!!」
「「「爆炎を讃えよ!!!」」」
景気づけとばかりに1発。
進行方向へ向け、タイヤ型爆弾を射出しながらP・W・Sを加速させる。
「っと、どうしましょうか……予定していた進路からずれていきそうな気配ですね。二輪車であれば転倒させられれば十分でしょうが、P・W・Sは纏めて爆発に巻き込まないと全機破壊は手間ですよ」
前方を進むP・W・Sを観察しながらオリーブは告げた。
それを受け、ハンドルを握るコウは一瞬思案した。
チラ、と彼女が視線を巡らせてみれば、フランドールとハッピーは輝く笑顔で頷いた。
「うむ! ……総員、衝撃に備えろ。吶喊する!!」
と、告げると同時にコウはアクセルを踏み込んだ。
イレギュラーズが乗る機体は試作品であるため、タイヤ内に火薬が詰まっていない。
その分軽量であり、荒くれ者たちの乗るP・W・Sを速度で勝る。
とはいえ、あくまでメインの推進力はタイヤの回転ではなくタイヤに取り付けられたロケットだ。
アクセルを強く踏み込めば、連動してロケットが点火されるという仕組みである。
ロケットが火を噴けば、それだけタイヤの回転数も上がる。
そうしてP・W・Sは加速するのだ。
「はぁ~、連中、まったくもってわかってないじゃん。アタシが真のP・W・Sの使い方を教えてやるじゃん~」
「そして最後は……皆で共に逝こうぜ……この大空の向こう側へよ」
いぇい! とばかりに手を打ち合わせ、フランドールとハッピーは笑う。
加速による風圧も、視界を覆う砂埃も、彼女たちは気にも留めていないようだ。
ただ、速く。
最後の瞬間が訪れる、その時まで、速く駆け抜けることしか頭にはないのだ。
「……どうかしてる」
と、そう呟いてオリーブは僅かに腰を浮かせた。
「お~、すっげぇはや~い」
「いいジャンいいジャン! このまま連中に追いついて、無理矢理進路を変えさせるジャン!」
「お楽しみところ申し訳ないが、些か加速し過ぎたようだ。このままでは追いつく前に、カーブを曲がれず壁に突っ込むが……如何に?」
ハンドルを握るコウが告げる。
元よりP・W・Sの操作性はさほどに高いものではないのだ。
狙った場所にタイヤ型爆弾を運ぶために取り付けられた、即席の操縦席と、操縦機構に大した性能は備わっていない。
タイヤ型爆弾が走行中に横転したり、明後日の方向へ吹っ飛んで行ったりしなくなっただけでも、実のところ大成功の部類なのである。
「え~、それは困るねぇ~。爆発できないじゃ~ん」
「それなら……晋さんに協力してもらいましょう。伊佐波さんは合図をしたら、ブレーキを踏み込んでください」
「ブレーキ? そのようなものは付いていないが?」
「…………本当にどうかしている。じゃあ、ハンドルを切ってください」
「心得た。だが、それでどうにかなるのか?」
「なるようになるよ!! P・W・Sの導きのままに!!! ってことだよね!!」
「…………そう、ですね」
色々と言いたいことはあるのだが。
オリーブは寸でのところでそれを喉へと飲み下す。
とにもかくにも、まずはこの場を切り抜けなければいきなり作戦が崩壊してしまう。
来る衝撃へ備えながら、オリーブは飛へ合図を送った。
一列になり、遺跡群へと突っ込んで行く荒くれ者たち。
その後を追って、イレギュラーズの乗るP・W・Sが加速した。
道幅は狭い。左右に移動することも難しいほどに。
ならば、速度で勝るイレギュラーズの方が有利だ。
問題は、思ったよりも加速が乗り過ぎたことと、目の前に迫る急カーブ。
そして、反転しこちらへ襲い掛かって来る二輪車部隊の存在であった。
「晋さん!」
「応! 纏めてひき殺してやるぜ!」
オリーブの合図に応と返して、飛はパワードスーツ型戦闘機械AGのレバーを倒した。
持ち上げられたAGの腕が、岸壁にその指先をかけた。
火花と瓦礫を飛び散らせ、岸壁に深い溝を抉るAG。
伸ばされたその肘関節で火花が散った。キシ、と金属の軋む音。
二輪車に乗った荒くれ者たちが、AGやP・W・Sへ向けボウガンを放った。オリーブとフランドール、ハッピーは機上から各々それを防ぐ。一方、防御も攻勢もままならないでいる飛……否、彼の乗るAGには次々と矢が突き刺さった。
「カトンボが! んな世紀末モヒカンみてぇな武器でリアルロボット様に勝てると思ってんのか! こちとら装甲に自信ありだ!」
事実、ボウガンはAGの装甲に刺さるばかりで、内部機構まで貫くことは叶わない。
「おぉぉぉぉ! 見さらせ! これぞパンジャン・ラリアットォ!!」
AGの腕が岸壁に深く突き刺さる。
瞬間、イレギュラーズの乗るP・W・Sが減速。岸壁に刺さった機体を起点とし、コンパスのように大きな弧を描きカーブを曲がった。
「げぇっ!?」
P・W・Sの大質量が、二輪車部隊へ襲い掛かった。
その様を遠くからみれば、なるほど飛のAGにより振り回されているかのようにも映るだろう。
ドン、と鈍い音がして砕けた二輪車と荒くれ者たちが宙を舞った。
「ね~ね~、パンジャンをただ走らせてどうするの~?」
「Hey Guys!! どこに向けてんだGaze! Yeah! OK,c'mon Explode Guys!!」
煽る煽る。
一列になって並んで走る暴徒たちへ、フランドールとハッピーは大声張り上げ煽り立てた。嘲るように舌を出し、挑発するように手招きなんかをしてみせる。
相手は元より喧嘩っぱやい性質の荒くれ者たち。
挑発されて黙っていられるはずもなく、まずは最後尾のP・W・Sがその場で無茶な方向転換。ガツン、と機動力の要であるタイヤ型爆弾が岸壁に掠めた。
ズドン、と火炎を噴き上げてP・W・Sが宙へ浮いた。投げ出される荒くれ者。横転した機体に弾き飛ばされ、ズタボロになって地面を転がる。
乾いた地面に身を投げ出して、それっきり彼はピクリとも動かなくなった。
「さて、こうなれば追って来ざるを得ないだろうな。あの手の輩は何よりメンツを重視する」
コウがアクセルを踏み込めば、P・W・Sは加速する。
横転した機体の横をすり抜けて、遺跡群から飛び出した。残る3機が後を追う。
荒野を走る機体は4。
その後方で、横転していたP・W・Sが轟音と共に爆発した。
遮る物は何もない。
荒くれ者どもが、とっくの昔にどれも瓦礫に変えたから。
地面に散らばる瓦礫を跳ねのけP・W・Sは走る。走る。
「何をちんたらやってやがる!! さっさと追いつかねぇか!!」
ハンドルを握る2人の手下を殴りつけ、禿頭の男が怒鳴り散らす。
部下2人は必死にアクセルを踏み込むが、生憎と思ったように速度は出ない。距離を縮められないことが、もどかしくて仕方なかった。
だから……だろうか。
「リーダー! ここは俺に行かせてくれよ!」
「応! 何か知らんが行ってこい!」
ほんの僅かな思案もせずに、リーダーは中指を空へ突き立て応えた。
GOサイン。
彼はタイヤ型爆弾に取り付けられた全ロケットを起爆させる。弾かれたかのように加速。一瞬、重い機体が宙へ浮いた。
確かに速度は出るだろうが、操作性は著しく低下する。
うっかり何処かにぶつかれば、大爆発も免れまい。
だが、彼は速度を……イレギュラーズへ追いつくことを重視したのだ。
けれど、しかし……。
「地上 待チ伏セ 追イツカセナイ」
加速したP・W・Sの正面で、巨大な何かが起き上がる。
岩石で出来たその体には、びっしりと蔦が張っている。
「あ、何……」
「まんまと誘き出されたね。さて、そのマシン、ちょっと貸してもらっていいかな」
両腕を広げ立ちはだかるフリークライ。
その背後に立ったカインが腕を掲げる。
巻き起こる熱砂の嵐。それはまるで意思を持っているかのようにP・W・Sを操る男の身に巻き付いた。
驚愕した男は、思わずアクセルから足を離す。
ガクン、とP・W・Sは急減速。発破不良を起こしたロケットが、続けざまに小爆発を起こした。
「う、お、ぉぉお⁉」
視線をきょろきょろとさせながら、男はついに悲鳴をあげた。
そんな彼の背後。
タン、と軽い足音を鳴らし降り立つ小さな白い影。
「はぁ? てめ、どっから……」
「運転手、前見て」
「いや、前見ろったって、お前……それ」
女……希の手には釘バット。大きく振りかぶっているそれを、次にどうすかなんてことは、どこの誰にだってすぐに理解できるだろう。
「騒音は迷惑、だよ。それに……ま、死にはしないでしょ」
カコォン、と。
思いのほかに軽い音が響き渡って、男は操縦席からはじき出された。その顔面は血で真っ赤に濡れている。
「鹵獲完了」
頬についた返り血を拭い、希は操縦席へと乗り込んだ。
●破滅のデス・ロード
残るP・W・Sは4機。
うち2機は荒くれ者たちが。
1機は希、もう1機はコウがハンドルを握っている。
地面を削り、爆弾をばらまき、土煙を立て黒煙の中を突っ切っていく。
遺跡群の中央付近。
かつては広場であったのだろう。ぽっかりと空いた空間を、縦横に駆ける4機のP・W・S。そのうち1機の機上から、1人の男が飛び降りる。
「では皆さん、自分はこれで。死んでも死なない方々と同じ戦いは出来ませんから」
ご武運を、と。
短く告げてオリーブは宙へ身を投げた。
高速で駆けるP・W・S上から地面に落下すれば、それなりのダメージは負うだろう。だが、大爆発に巻き込まれるよりははるかにマシだ。
「見やがれ! 爆弾に爆弾をぶつけてラリアットするこの芸術的な自爆をナァ!」
オリーブの離脱と共に、飛も牽引ロープを切った。
自由になったAGを操って、次々と射出される小型タイヤ型爆弾を機体の腕で殴りつける。弾かれたタイヤ型爆弾は、後続を巻き込み盛大に爆発。
熱波に煽られ、AGが横転。
その横を通り過ぎていくタイヤ型爆弾は、まっすぐにオリーブへと向かっていた。
「うぉ、やっべ!?」
慌ててAGの腕を伸ばすが間に合わない。
爆弾の直撃を予想したオリーが、ひくりと頬を引き攣らせる。
その直後……。
「間ニアッタ」
爆弾の前に身を投げ出したフリークライが、盾となってオリーブを護る。
火炎と熱波と砂塵に打ちのめされて、フリークライが地面に転倒。
盛大に巻き上げられた大量の土砂が、フリークライの巨体に向けて降り注いだ。
「お、おぉ。オリーブは無事っぽいな」
「みたいだね。良かった」
AGから身を乗り出して飛は安堵の吐息を零した。
そんな彼の背後、血塗れの男を引き摺りながら現れたのはカインである。
ちら、と飛の視線は荒くれ者へ。
希の釘バットで殴られた彼は、息も絶え絶えといった様子だ。
飛の視線に気づいたのだろう。肩を竦めてカインはくっくと笑ってみせる。
「あぁ……まぁ、盗んで迷惑を掛けた分は償って貰わなきゃね」
「そんなもんかね? 俺はそいつらの安否なんざ、心底どうでもいいがな」
ハンドルから手を離し、希が空へ飛翔する。
操縦者を失ったP・W・Sはどうなるか? 決まっている、明後日の方向へ向けただ驀進するのみだ。
「あ? こっちに向かって来るぞ!」
「駄目だ、避けらんねぇ!」
「反転しろ! あ、いや、後ろにも……」
背後に迫るP・W・S。
搭乗しているフランドールがにぃと不気味な笑みを浮かべる。
「いっくぞ~!」
「まさか、偉大なるP・W・Sと共に大空へとぶっ飛ぶ栄誉を逃すつもりはないだろうね!」
「一網打尽だ! いざ、吶喊!!」
ハッピー、コウも降車する気はないようだ。
どっさりと爆弾を積んだP・W・Sへ、自爆特攻をかますつもりであるのだろう。
3人そろってどうかしていた。
狂気MAX。
その目を見た荒くれ者のリーダーは、それを正しく理解した。
ヤバい奴らに目を付けられた。
後悔しても今更遅い。
「あぁ……これが天罰って奴か?」
「栄誉だよっ!!!!」
「せ~のっ、パ ン コ ロ ~!!」
妙に間延びしたフランドールの掛け声が、青い空に響き渡った。
直後、衝突。
4機のP・W・Sがもつれあい、そして業火が溢れだす。
衝撃。
轟音。
地面にクレーターを穿ち、空に黒煙を撒き散らし、周囲に火炎を撒き散らし……。
大爆発が巻き起こる。
黒焦げの大地。
降り注ぐ金属片と焼けた土砂。
立ち上がる影は3つ。
ハッピーも、コウも、フランドールもズタボロながら生きていた。
重症ではあるが、さすがEXF100オーバー。
狂ったようにいつまでも。
3人はただ、ひたすらに笑い続ける。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
3人も自爆特攻するとは思ってなかった……。
依頼は成功です。
この度はご参加いただき、誠にありがとうございました。
また、縁があればどこかでお会いしましょう。
GMコメント
※こちらのシナリオは『偉大なるパンジャン。或いは、勇壮なる新兵器開発秘話…。』のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4696
●ミッション
5台のパンジャン・ウォー・スプリントの破壊
●ターゲット
・荒野の荒くれ者×12
荒野を拠点とする暴走集団。
うち7名は盗んだパンジャン・ウォー・スプリントに搭乗。
5名は二輪車に騎乗している。
荒くれ者である以外は詳細不明。
1人の偉大な指導者に率いられているらしいが……。
二輪車に騎乗している賊たちは、ボウガンで武装している。
ボウガン:物遠単に中ダメージ
命中率の高い射撃。
・パンジャン・ウォー・スプリント×4
4輪のタイヤ型爆弾。
その上部には操縦席と火薬タンクが積まれたもの。
ロケットを推進力に疾駆する。
強い衝撃を与えると爆発するが、それなりに装甲は頑丈。
小型タイヤ爆弾:物遠単に大ダメージ、ブレイク、飛、炎獄
小型タイヤ型爆弾を射出する攻撃。命中率は微妙。
自爆特攻:物至範に特大ダメージ、ブレイク、飛、炎獄
自爆特攻。読んで字のごとく。
・試作型パンジャン・ウォー・スプリント×1
5人乗りの大型自走爆弾。
今回、パンジャンよりイレギュラーズに貸し与えられたもの。
盗まれたウォー・スプリントに比べると強度に難がある。
自爆特攻:物至範に特大ダメージ、ブレイク、飛、炎獄
自爆特攻。読んで字のごとく。
●フィールド
障害物の多い古い砦内部。
石で造られた家屋や兵舎が並んでいる。それなりに道幅は広いため、パンジャン・ウォー・スプリントに搭乗したまま疾走可能。
および、障害物の無い荒野。
周辺に人の姿はないため、誰かを巻き込む心配はない。
思いっきり暴れよう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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