シナリオ詳細
砂漠の遺跡。或いは、狂気の画家、ベクシーの遺作…。
オープニング
●盗賊画家の工房
ラサ。
広大な砂漠の一角にある古い遺跡の一角に、彼の工房は設けられていた。
土色の遺跡が立ち並ぶ中、その一角だけは赤や青といった極彩色に塗りたくられている。
サイケデリックなその色使いを視界に収めコルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)はにぃと頬を吊り上げた。
咥えた煙草を揺らしながら、彼女はふっと紫煙を吐き出す。
「ここが、あの男の工房……」
コルネリアの手には1枚の紙面。
かつて彼女たちと戦い、そして命を落とした盗賊画家“ベクシー”が所持したものだ。
絵具で他者に紋様を描き起爆させるという戦法を得意とした彼は、狂気に侵され自身の部下さえ道具のように扱った。
その末路は、未練を残したままこの世を去るという、自業自得とはいえ哀れなものであっただろう。
偶然にも彼の遺体から零れた1枚のスケッチを拾ったコルネリアは、ふと思い立ってその場所を探すことにしたのだ。
単なる思い付きか、それともベクシーを看取った者として何か思うところがあったのか。
道半ばにしてこの世を去った彼の残したものを、一目確認したかった、という想いもあるかもしれない。
とはいえ、しかし……。
「スケッチからじゃ分からなかったが、ひでぇ色合いなのだわ」
古い遺跡特有の趣も、ベクシーに彩色されたせいで台無しだ。
やはりあの男の言う芸術は理解できない、と。
煙草の吸殻を足元に投げ捨て、コルネリアは工房の入り口へと歩を進める。
既に家主はこの世にいないとはいえ、盗賊団の幹部の隠れ家だったのだ。
決して油断をするつもりはないし、していたつもりもない。
けれど、しかし……。
「っ⁉ な、何なのだわ、これ?」
工房に1歩、足を踏み入れた瞬間、鼻を突く顔料と、血や臓物の腐った臭い。
思わず鼻を手で覆い、次の瞬間コルネリアは目を見開いた。
広い工房の奥に並んだ無数の死体。
そのうち1体が、突如として身じろぎしたのだ。
これまで多く死体を見て来た。
体を斑に彩色されたその男は、確かに死んでいる。
「こいつ……こいつまさか、死体でゴーレムを作ってんのか?」
動き出した死体は4体。
さらにその背後には、身体に幾つもの棺桶を括りつけた石造が立っていた。
「あっちも酷い色合いなのだわ……腕や脚の模様は見たことあるわね」
石造の手足に描かれているそれは、ベクシーが使用していた【業炎】の紋様だ。
コルネリアは咄嗟にガトリングを構えるが……しかし、間に合わない。
彼女が愛銃のトリガーを引き絞るより速く、ゴーレムの腕は業火を噴射し射出された。
ごう、と風の唸る音。
放たれた巨大な拳がコルネリアの腹部を捉え、爆音と共にその身を背後へ弾き【飛】ばした。
●ベクシーの作品
「ってなわけで、どうにか逃げて来たわけなのだわ」
と、そう言ってコルネリアは腹部を抑えて顔を顰める。
工房の外に弾き出されたコルネリアだが、あの後もしばらくの間、ゴーレムたちと交戦を続けた。
けれど、彼女1人ではそれを倒しきることは出来なかったのだ。
「どんだけ鉛弾を撃ち込んでも、あいつらすぐに再生するのだわ。使役していたベクシーは既にあの世にいるわけだから、もしかするとどこか別のところから魔力の供給を受けているのかもしれないのだわ」
戦闘を行いながらコルネリアはしっかりと敵の様子を観察していた。
それは、少しでも多くの情報を仲間たちのもとへと持ち帰るためだ。
「工房は、奥行き30メートルほどあったかしらね。ベクシーの描いた絵が大量に飾られていたから、そのどれかがエネルギー源になっているのではないかと思うのだわ」
つまり、ゴーレムたちを停止させるためには、エネルギー源となる絵を破壊する必要があるということだ。
けれど、その絵はどれもベクシーの描いたもの。
「ベクシーの奴は、絵具を媒介にした対象の弱体化を得意としていたのだわ。つまり、あの大量の絵も……」
当然、単なる絵ではないだろう、とコルネリアは予想する。
エネルギー源でない絵を破壊すれば【狂気】や【呪い】【封印】【暗闇】といった状態異常に見舞われるだろう。
「アタシが起こしてしまったのが不味かったかも……きっと今も石製の番兵ゴーレムは工房の入り口に待機、死体ゴーレムは工房の周辺警戒を行っているはずなのだわ」
おそらく、ゴーレムたちはベクシーからそう命令を受けていたのだろう。
帰ることのない主の命令を、ゴーレムたちは今も待ち続けているのだ。
「ゴーレムたちは【業炎】を巻き散らすのだわ。戦況次第では、付近の遺跡が崩落することもあるようだし、なかなか難儀するのだわ」
眉間に皺を寄せ、コルネリアは言う。
「あれに巻き込まれた、大怪我確実なのだわ」
なんて、言って。
わざとらしく自身の肩を抱いて見せた。
どうやらゴーレムから逃げる最中、何か恐ろしい思いをしたらしい。
- 砂漠の遺跡。或いは、狂気の画家、ベクシーの遺作…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月25日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●盗賊画家ベクシーの隠れ家
ラサ。
広大な砂漠の一角にある古い遺跡の一角に、彼の工房は設けられていた。
極彩色に塗り立てられたその古い家屋は、ある盗賊の隠れ家だ。
盗賊の名はベクシー。
先だってラサで起きた騒動に関わっていた、芸術家気取りの男であった。
工房の主であるベクシーは既にこの世を去っているが、彼の残したゴーレムたちは今もずっと亡き主の帰りを待ち続けている。
「芸術には明るくないけど、ああいう極彩色を好む者も一定数いるのかな。だが砂漠の日差しの中ではなぁ。目がチカチカしてくる」
フードを被った半人半馬の女性『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、ライフルのスコープを覗き込んだ姿勢のままにそう呟いた。
彼女の瞳に映っているのは、極彩色に塗り立てられた男の死体。ベクシーが死体を基に作製したゴーレムであった。
「死しても尚、芸術への執着心はこんなにも強いという事なのかしら……兎にも角にも対処していきましょ」
ラダの背後に控えるは、艶やかな黒髪を持つ女性。
『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)は、ラダの肩を軽く叩いて合図を送る。
エルスの合図を受けたラダは、指先にそっと力を籠めた。
直後、空気の爆ぜる音。
硝煙の臭いと火花が散って、放たれたのは1発の弾丸。それはまっすぐ宙を疾駆し、極彩色に彩られた死体の頭部を撃ち抜いた。
頭部を射貫かれ、死体が傾ぐ。
ドサリ、と受け身も取らずに倒れたそれは、けれど暫くの後にもったりとした動作で再び起き上がった。
「再生……? 悪趣味なこった、構ってる暇ねぇってのよ!」
「姉御がぶっ飛ばされたとなりゃあ、わんこも黙っちゃいられマセン」
「はっ。嬉しいこと行ってくれるじゃないか。それじゃ、いっちょかましてやるか」
先の銃声で、イレギュラーズの接近は既にばれただろう。
『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)が駆け出すと同時、バララと連続した銃声が響く。
わんこの進路を切り開く弾雨は『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)の放ったものだ。
先だってベクシーの工房を訪れたコルネリアは、敵の数やその特性を知っている。
死体ゴーレム、そして工房正面を守護する番兵ゴーレムはベクシーの“絵”から魔力供給を受け稼働していた。
根本たる絵を破壊しない限り、それらは何度でも蘇る。
そういった特性もあり、コルネリアは1度、この場を敗走しているわけなのだが……。
「味も見た目どおり最悪ですねぇ、そこでみっともなく這いずってなさい」
一閃。
振るわれたそれは、刀だっただろうか。
鏡(p3p008705)の放った斬撃は、斬ると納めるをほんの一瞬で終わらせる。居合の極致ともいえるその技を受け、死体が1体二つ胴に分かたれた。
呻き声をあげ、地面を引っ掻く極彩色に塗られた腕を踵で踏みつけ、鏡はくっくと肩を揺らす。
斬り落とされた下半身は、駆け抜け様にわんこがフルスイングキックで遠くへ弾き飛ばしていた。
「なんて酷い光景と臭い……やった張本人はもう退治されてるのが幸いね」
「まぁ、こっちは埋めれば何とかなりそうだから、ずいぶんと楽なんだけど」
『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)は、赤い頭巾を深く被って身を低くした。また『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)はルビーへそっと手を翳し、その身に不可視の鎧を付与した。
ダン、と。
地面に足跡を刻み付け、ルビーは疾駆。
土埃をあげ、死体へ向けて突貫していく。その手に握るは真紅の剣。
駆ける勢いそのままに、ルビーは死体を袈裟に斬る。
戦闘の様子を尻目に見つつ『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は、ひっそりと、けれど迅速に工房へ向け駆けていく。
「死体は死体らしく土の下で腐っていて欲しいですねぇ……臭せぇなぁクソがよ」
その影より滲む人型は、怨嗟の叫びをあげる邪霊だ。
背後より死体ゴーレムにとり憑いたそれは、コキリとその腐った首をへし折った。
ぐらり、と姿勢を崩し倒れる死体。
それを数瞬眺めた後、ライは静かに胸の前で手を組んだ。
「死者の眠りを冒涜するとてもとても悲しい事件ですね……どうか、安らかに」
なんて、言って。
先に吐いた暴言なんて、まるで嘘であったかのような優しい声音で彼女は祈りを捧げるのだった。
●番兵ゴーレムと死体ゴーレム
火炎が噴いて、拳が飛んだ。
人の上半身ほどもある巨大な拳だ。番兵ゴーレムの放ったそれは、ルビーの腹部を激しく殴打し、爆炎を散らす。
轟音。
身を焦がしたルビーが地面を転がる。
「い……っ。業炎は無視できるとはいえ、これは……」
腹部を押さえ、ルビーは体をくの字に折って地面に倒れた。先の一撃で内臓にダメージを負ったのか、その口元は吐血で朱に濡れていた。
けれど、彼女の【名乗り口上】が効いているのか、番兵ゴーレムは未だルビーを捉えたままだ。
一度は射出した腕を回収し、再度それをルビーへ向ける。
「やばっ……」
痛む腹部を押さえつつ、ルビーは這うようにしてその場を離脱。
ちら、と視線を向けた先には急ぎ足で工房へ向かうライの姿があった。
「ライさんの方は、絵画から変な効果が飛んで来ても無効化できるようにしたよ。わたしの方は大丈夫だから、早めにエネルギー源の絵画を見つけてね、って言っておいたから」
「そっか。それじゃあこっちはゴーレムたちの相手だね。犠牲になった人たちがちゃんと眠れるようにしてあげないと」
ルビーを庇うようにЯ・E・Dが前に出た。
陽光の中では分かりづらいが、Я・E・Dの身体は淡い燐光に包まれている。【ルーンシールド】と【聖骸闘衣】を纏ったЯ・E・Dであれば、多少のダメージは無視できる。 事実、放たれた番兵ゴーレムの拳を、Я・E・Dはその身を挺して受け止めた。
一拍遅れて、吹き荒れる業火と爆風。
髪を爆風に乱れさせ、ルビーは武器を巨大な鎌へと変形させた。
土埃が舞い散る中、駆ける小さな影がある。
「べクシーの遺作とやら、叩き潰してやろうじゃありマセンカ!」
キヒヒ、と引き攣ったような笑みを浮かべてわんこが疾駆。
死体の顔面に膝を叩き込んで倒すと、次いでその顔面に握った拳を叩き込んだ。
ぐちゃり、と肉の潰れる音。
砕けた歯が宙を舞うが、わんこは構わず1発2発と続けざまに死体へ拳を落とし続けた。
「わんこ、鏡、ここは頼んだよ。突入する……!」
「えぇ、どうぞぉ。っと……なんかいやな感じ」
ガトリングを抱え、コルネリアが駆けていく。
その背後を駆けながら、鏡はふと背後を見やった。
「む。狙ってますねぇ」
しゃらん、と。
鞘の鳴る音がして、直後付近の死体が斬れた。
腰の刀から手を離し、鏡は死体の頭部を掴む。くるりと身体を回転させて、勢いをつけて死体を投擲。
撃ち出された番兵ゴーレムの拳と、死体の上体が宙でぶつかり爆炎を挙げた。
燃える死体が地面に落ちる。
あれではそう遠くないうちに、死体は炭と化すだろう。
「お手伝い、どうもありがとぉ」
にぃ、と口角を吊り上げて鏡はくっくと笑うのだった。
そんな鏡に背を護られつつ、コルネリアは工房内部へと侵入。先行したライと共に、エネルギー源である“絵”を破壊する心算であろう。
降り注ぐ無数の銃弾が、死体の身体に穴を穿った。
腕が千切れ、脚が吹き飛ぶ。
けれど、それでも死体ゴーレムは生きていた。
「崩落にも注意してくれ。マズい時は開けた所へ避難しなよ」
空薬莢を排出しつつラダはエルスへそう告げた。
大鎌を手にしたエルスは、大きく回り込むようにして番兵ゴーレムの背後へ駆ける。
「えぇ、分かっているわ。けれど、これ以上暴れるのは止めて頂かないと、コルネリアさんたちが危険だもの!」
死角から放たれた一撃は、番兵ゴーレムの脚関節へ突き刺さる。
ミシ、と岩の砕ける音がして脚の1本がへし折れた。
バランスを崩し、前のめりに倒れ込む番兵ゴーレム。
転倒に巻き込まれた死体が1体、ぐちゃりと音を立てて潰れた。
広い部屋に飾られた、50を超える不気味な絵画。
所せましと並べられた、極彩色のオブジェクト。
そのうちいくつかは、人の死体を材料として造られたものだ。
「面白くはありますが趣味の悪い場所ですねぇ……ひでぇ臭いだ。鼻が曲がっちまう」
「……ライ?」
「あら……こほん。さぁ、コルネリアさん、お仕事の時間です」
「あ、あぁ、そうだね。そうだ。それにしたって、こん中から本物を探せってかぁ? まぁ、やるしかねぇか……!」
手近な絵画を手に取って、ライはそれを壁から剥がして地面に捨てた。
ふふ、と薄い笑みを浮かべて何ら躊躇なく彼女はそれを踏みつぶす。絵から滲んだ青い絵具がライの脚に絡みつくが【狂気】の効果は彼女の影響を与えない。
一方コルネリアは、ガトリングのトリガーを引き部屋奥の絵画をまっすぐ撃ち抜く。
本来であれば、無差別に弾丸をばらまきたいところだが、生憎とここは古い遺跡の内部である。無茶な掃射の結果として、生き埋めになどなろうものなら笑えない。
ゆえに50を超える絵画を相手に、1つひとつ撃ち壊す以外に術はないのだが……。
「うぉっ!? 目が、目がぁ!?」
「あらら……“暗闇”でしょうか」
視界を黒に染められて、コルネリアは身をよじる。
振り回されたガトリングをひょいと回避し、ライは口に手を添えた。
轟音。
地響き。
砂埃。
けほ、と黒煙を吐きながらわんこが地面に転がった。
倒れたわんこに歩み寄るは、腕に火炎を纏った死体だ。ノーモーションで振り落とされたその一撃が、再び業火と轟音、そして衝撃を撒き散らす。
「げっ……ぁ!?」
ミシ、と軋んだ音がした。
わんこの頬に走る亀裂。バチバチとそこから紫電が零れた。
倒れたわんこに背を向けて、死体は次の獲物へ向かう。
その、直後……。
「被造物同士、喧嘩と行こうぜ……!」
火炎に焼かれながらも、起き上がったわんこの掌打が死体の背を打ち抜いた。
瞬間、わんこの身を焼く火炎は散った。
内臓も、胸骨も破砕された死体は、地面に倒れのたうっている。
「ふむ……砂や瓦礫に埋めとくか」
と、そう呟いてラダはライフルのトリガーを引く。
乾いた音と共に放たれた弾丸が、遺跡の柱を撃ち抜いた。元より朽ちかけていたそれは、1発の銃弾によってついに崩壊へと至る。
崩れる柱の真下へ向けて、エルスとわんこ、そしてルビーは寸断された死体を叩き込んでいく。
「埋めても元に戻っちゃうのは面倒だよね。エネルギーを供給するための可能な距離がある気もするけど、今回試すのは無理かなぁ」
鋭い爪の生えそろった足先で、Я・E・Dは死体の腕を踏みつける。
崩れた瓦礫の中から這い出して来たその腕は、Я・E・Dに踏まれたまま空しく地面を搔いていた。
「だったら炎を利用して焼いてはいかがでしょう?」
タン、と軽い足音を鳴らしЯ・E・Dの隣へルビーが並ぶ。鎌を手にしたルビーの見つめるその先には、彼女に向けて拳を突き出す番兵ゴーレムの姿があった。
がおん、と空気の唸る轟音。
火炎に包まれ発射された巨大な拳がルビーへ迫った。
大質量の熱波が迫るのを確認し、ルビーとЯ・E・Dは身を伏せ回避。
2人の頭上を通り過ぎた岩の拳が、瓦礫にぶつかり業火と砂塵を撒き散らす。
発射された岩の拳は、まるで逆再生するかのように番兵ゴーレムの手元へ戻る。
一度、腕を戻さなければ火炎の拳を再び射出することは出来ないということだ。
「とはいえ、ゴツゴツで硬くてデカいとかぁ、相性最悪なんでパスですねぇ」
戻る拳をチラを見やって、鏡はそう呟いた。
その気になって居合を放てば、岩の拳も切断できることだろう。けれど、エネルギー供給源である絵画を破壊しなければ、何度斬っても徒労に終わる。
そう考えると、積極的に攻めに出る気にはなれなかった。
幸いなことに番兵ゴーレムの注意はルビーに向いている。
たった今、ラダが工房へ駆け込んだ。
番兵ゴーレムを押さえるべく、わんことエルスが攻勢に出ている。
「まぁ、待ちましょうかねぇ」
しなやかな指を刀の塚へと這わせつつ、鏡はそう呟いた。
1歩、大きく前へ踏み出しエルスは手にした鎌を振るった。
足元から、上段へ。
思い切りもよく一閃されたその鎌が、戻ったばかりの岩の拳を斬り裂いた。
「これ以上暴れるのは止めて頂こうかしらね!」
狙ったのは、ゴーレムの関節部分である。
塗りたくられた赤の絵具が、極小規模な爆炎を散らし、エルスの髪を僅かに焦がした。
「斬っても斬っても再生する……おかしな身体してるわね、あなた」
一度は地面に落ちた拳は、けれどすぐに再生してしまう。
困ったわ、と首を僅かに傾げながらもエルスは再度、鎌を振るった。
こうして彼女が、腕を壊し続けて居れば、その間だけはロケットパンチによる被害を減らすことができるのだから。
●最後の絵画
「何だ、これは……?」
工房に辿り着いたラダの視界に飛び込んだのは、まさに破壊と狂乱の具現といった光景だった。
「さあ十字を切って、【信仰の鎧】を掲げ【平和への祈り】を……面倒くせぇな。これでいいだろ、十字なんて」
と、そういってライは妙に荒い仕草で素早く十字を切った。
直後、彼女の胸元に黒い魔光が形成される。
ダーティピンポイント。
ライの放った魔光によって、壁の絵画が十字に焼かれて燃え尽きた。
「あぁ、べクシー、これで全部かはわからねぇが送ってやるよ!」
一方コルネリアはと言えば、壁面へ向けがむしゃらに弾丸をばらまいている。
どうやら“暗闇”状態に陥っているようではあるが、ならば弾数でカバーしようというわけだ。焼け焦げた紙と油の臭い。黒い煙が充満した部屋。硝煙の強い臭いが鼻を突く。
そう時間をおかずとも、いずれ2人は当たりの絵画を破壊するだろう。
「他の者に任せていいだろうか……いや、駄目か」
頬を引き攣らせながら、ラダは僅かに思案する。
そして彼女は、小さな吐息を一つ零してライフルを構え絵画の破壊へ加わった。
工房の入り口に背を向けてЯ・E・Dは大きく腕を広げる。
その腕を振るい、Я・E・Dは飛来した岩を叩き落とした。
「工房を巻き込まないようにしないと。もうちょっと遠ざけられない?」
背後から響く銃声に耳を傾けながらЯ・E・Dは仲間たちへと告げる。
「やってみます! わんこさん、お手伝いいただけますか?」
「OK! そろそろ体が悲鳴をあげてマスガ、何としても此処で止めるぜ!」
急加速からの斬撃を、番兵ゴーレムへ叩き込みつつルビーは問えば、即座にわんこもそれに応じて駆けだした。番兵ゴーレムが腕を大きく振り回すのに合わせ、わんこは姿勢を低くする。
番兵ゴーレムの膝へ殴打を叩き込みつつ、わんこはキヒヒと笑ってみせた。
わんこと動きを合わせるように、ルビーは剣を一閃させる。番兵ゴーレムの攻撃を受けた結果だろうか。割れた額から流れる鮮血が、彼女の顔面を朱に濡らす。
「単なる絵画と言う美術品だったなら……こんなに痛めつけずに済んだかもしれないのにね」
番兵ゴーレムの腕に描かれた紋様を見て、エルスはそんなことを呟く。
わんこが殴った膝を狙って、鎌の先端を突き刺した。膝が砕け、巨体が傾ぐ。番兵ゴーレムが身体を支えるよう両の拳を突き出した。
地面にそれが触れた瞬間、腕を起点に爆発が起きた。
熱波に煽られ、エルスの身体が地面を転がる。身体を激しく地面に打ち付けた結果、外れた肩の関節が痛んだ。
けれど、エルスの被害はまだ軽い方だろう。
間近で火炎を浴びたわんこやルビーは地面に伏していた。
「ぐ……まだまだ。全力防御デス!」
「わんこさん、お腹大丈夫? パンドラ復活があるとはいえ、女性なんだからお医者さんにちゃんと診てもらうと良いよ」
「そういうルビーサマも、顔面まっかっかデスヨ?」
【パンドラ】を消費し、立ち上がった2人を視認し、エルスはきつく歯を食いしばる。
外れた肩を無理やりに嵌めなおしたエルスは、震える手で鎌をきつく握りなおし、駆け出した。
それからしばらく、エルスの落とした岩の腕がそのまま機能を停止した。
どうやらエネルギーの供給源である絵画を、無事に破壊出来たのだろう。
にぃ、と。
鏡の口角が吊り上がる。
「目指せ斬鉄、まずは岩からすっぱりとぉ♪」
砂埃の最中を突き抜け、鏡は姿勢を低くし駆けた。
刹那の間に、鏡は番兵ゴーレムへ肉薄。
チン、と。
鍔の揺れる音。
番兵ゴーレムの脇をすり抜け、鏡はピタリと制止した。
一瞬。
静寂が訪れた。
そして、次の瞬間に番兵ゴーレムの首は落とされ、それっきり機能を停止した。
「よぉ、聞こえてるか、ベクシー。あんたの絵は、全部そっちに送ってやったよ。せいぜいあの世で愛でるんだな。その趣味の悪さは理解出来ねぇが、せめての手向けだ」
なんて、そう呟いて。
コルネリアは燃える工房へ視線を向けた。
それから彼女は、ベクシーのスケッチを取り出すと、それをそっと火にくべる。
盗賊画家ベクシーがこの世に残した作品は、こうして全て灰とかしてラサの空へと吹かれて消えた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
ベクシーの絵は全て焼却され、彼の残したゴーレムたちもその機能を停止しました。
依頼は成功となります。
盗賊画家ベクシーの遺産は、これで全てこの世から焼却されました。
たぶん、きっと……。
GMコメント
こちらのシナリオは「<Rw Nw Prt M Hrw>狂乱のベクシー。或いは、描くは不吉な紋様なり…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5135
●ミッション
番兵ゴーレムたちの機能停止
●ターゲット
・番兵ゴーレム×1
全長3メートルほど。
太い両腕と、4本の肢をもつ巨大なゴーレム。
身体には幾つもの棺が鎖で括りつけられている。
また、身体は極彩色に塗られた岩石で構成されている。
どこかからエネルギーの供給を受けて動いているらしく、どれだけ破壊しても時間経過で再生する。
爆砕の紋様:物中範に大ダメージ、業炎、飛
腕や脚に描かれた赤い紋様。
ロケットパンチよろしく、巨大な腕を射出することが可能。
殴りつけた箇所を中心に爆炎を巻き起こす。
・死体ゴーレム×4
極彩色に塗られた男たちの遺体。
番兵ゴーレム同様、どこかからエネルギーの供給を受けているらしくばらばらにしてもそのうち寄り集まって再生する。
焼くなり、埋めるなりすれば該当部位は欠損するため、こちらは“ベクシーの絵”を破壊しなくとも討伐可能。
爆砕の紋様:物至範に大ダメージ、業炎
腕に描かれた赤い紋様。
殴りつけた箇所を中心に爆炎を巻き起こす。
・ベクシーの絵×50
工房の壁に飾られたり、棚に収納されたりしている絵画。
目に優しくないサイケデリックな色使いが特徴。
絵画に触れるとランダムで神遠範に【狂気】【呪い】【封印】【暗闇】の状態異常を付与する。
どれか1つが、番兵ゴーレムたちのエネルギー源となっている。
その1枚を破壊することが今回の目的となる。
●フィールド
ラサ。
砂漠にある古い遺跡の一角にある極彩色に塗られた工房。
奥行き30メートルほど。
室内には無数の絵画が飾られている。
また、周辺には半壊した石造りの遺跡が立ち並んでおり、激しい戦闘の結果崩落する可能性もある。
遺跡の崩壊に巻き込まれれば大ダメージは避けられないだろう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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