シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>ネオ・ノワールの花畑
オープニング
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緑と季節の花々。美しきかなその花園は『Aström』の中に存在して居た。
その領に一体の鬼が現われた。馨しい花々には似合わぬ腐臭を纏わり付かせた巨鬼である。
ずんぐりむっくりとしたその体を引き摺るようにやけに長い腕で地を抉る。
おおおああ―――
鬼の唸りが響く。地響きのような、怨嗟を纏わり付かせたその聲は花畑を愚弄するかのようであった。
おおおああ―――
それ以上の言葉を発することはない。その鬼は何かに憤っていた。生命の象徴たる花々に、そして、その地で生きる人々に。
死のかおりを纏わり付かせた巨鬼は地を踏み荒らし、慟哭す。
自身の死を、そして、現実を受入れられないかというように。幼児の如く地を蹂躙するように。
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「『古廟スラン・ロウ』で見られるモンスターと類似した案件、ですか」
悩ましげにそう言ったのは『花の騎士』の通り名を持つフォルデルマン三世の近衛騎士であるシャルロッテ・ド・レーヌである。
柔らかな陽の光を帯びた金の髪に冴えた青紫の瞳を持つ可憐なる女騎士は幻想国内を騒がせる一連の事件に憂うように溜息を吐いた。
国内で起こっている事件は大まかに云えば4つである。
奴隷商人達による大規模な奴隷販売、レガリアの盗難、神翼庭園への侵入、そして町の壊滅――
其れに加えるように国内にモンスター達が発生し領を蹂躙しているというのだ。
頭が痛い。どうしようもないほどに。シャルロッテが溜息を吐けば「女騎士、暗い顔をしては『得るものも無い』だろう」とせせら笑う声がした。
「今微笑んで居る方が可笑しくはありませんか?」
「だが、微笑む事ができる可能性を与える事はできる。丁度、そのモンスターが発見されたのはこの俺の領だ。
イレギュラーズを派遣して出来る限り早期の撃破を行う事で被害の軽減が出来るとは思わないか?」
ふん、と鼻を鳴らした偏屈な彼は『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)――その人格の一つ『稔』である。
傲慢な天使を体現する彼はシャルロッテとも知己だ。パーティーなどでは良く一撃をお見舞いされている。
「……ええ、そうですね」
「素直に肯かれると驚くばかりだが――まあ、いい。それで、お前が得ている情報を提供して貰おうか」
『古廟スラン・ロウ』――それは王家のレガリアの一つが眠る場所だ。その地が暴かれ、調査に向かうイレギュラーズが居た事は記憶に新しい。
その地で見られるモンスター達には死や怨恨と云った負の気配を纏わす者が多かったそうだ。
其れ等が幻想王国の様々な領地に攻撃を仕掛けているという。その標的となったのが稔達の領地である『Aström』である。
花々の咲き誇る風光明媚なその地には余りにも似付かわしくない巨大な鬼が長い腕をずるずると引き摺って進軍し来ている。
どうやら、生命の息吹感じさせる花や人々を毛嫌いし、其れ等を蹂躙するべく現われたようだが――
「此の儘では民も犠牲になります。其れを赦しては置けないでしょう」
「ああ、奇遇だな、女騎士」
稔の言葉にシャルロッテは「それで――」と口を開く。
「王はそれらの対処を願って居られます。皆さんには新時代の勇者となって頂くべくメダルを配布する、と。
どうか、敵を退け『英雄』となって帰ってきては下さいませんでしょうか。……お待ちしております」
頭を下げたシャルロッテに稔は何とも言えない顔をした。
どのような思惑が交差しているかは分からないが、モンスターを斃すこと、そして『メダルを貰う』事は全てに共通している。
(……事件があれども楽しめるのはあの莫迦王の才能だな。さて、英雄ごっこと言うくだらない戯曲を演じるか……)
――人々を救い、英雄となるべく。
花畑は救いの風を求めるように静寂を保っていた。
- <ヴァーリの裁決>ネオ・ノワールの花畑完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月29日 22時11分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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絢爛に咲き誇る花々の美しさを讃える暇もないほどに、その刻はやってきた。
「奴隷だの領地荒らしだの、幻想ってところは話題に事欠かないねー。どうせならいい事で話題沸騰! てなってほしいんだけど」
そう唇を尖らせた『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は大剣をぎゅうと握りしめる。少女の身体を包み込んだのは魔法の鎧、戦の場には似付かわしくないような可憐なる小さな乙女は花畑の中で肩を竦めた。
「新時代の勇者を大々的に募るとは……流石は王様、話の規模が大きいですね」
そう呟いた『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)に『思いつきだと思うぜ!』と軽快に笑ったのは『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)――の虚である。
「えっ、『流石』じゃ無い、ただの思いつきだって? ……と、とにかく! 目の前で侵攻する敵を野放しにしておく事は出来ません。これ以上の被害を出さない為に、必ずここで止めます」
『そうだよな! 酷い事しやがって! アイツ許せねぇよ!』
「別に。俺は庭の一部を荒らされた程度で腹を立てたりはしない」
ルーキスに大仰に頷いて、憤慨しているのは虚であった。二種の顔を使い分ける虚から転じて稔がふん、と鼻を鳴らす。
『でも稔君、ここの花大切に育ててただろ? フッ、あの女騎士の困惑する顔が目に浮かぶようだってすげー楽し――』
「はアァ゛ーーーッ!!? 何のことだ全然全く身に覚えがないな!!!」
騒がしさは二人分。そんな彼等の領地にモンスターが現われたというのだ。それも、花畑には決して似合わなさそうな『巨鬼』である。
「一応、おれっちも領地をもらってるから領地にモンスターが出る大変さはわかるつもりだけど……今回のはでかくて強くて大変そうだもんな。被害が出ないように頑張るぜー!」
任せろとやる気を漲らせた『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)に小さいく頷いたのは『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)であった。
「あれが、巨人。お花畑には全然似合いません。
こんなにきれいなお花畑も、領民の人達も、傷付くのは厭なのです。少しでも、役に足ればいいなと思うのです」
そう小さく頷いたニルは保護の術式で周囲を護る。『Aström』の花々は美しい。芽吹きの季節に喜ぶように。花々の香りを堪能し、日々を過ごしたいものだが――それも赦されぬ事なのだろうと『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)は知っていた。
地を揺さぶるような遠吠えは喇叭の様に広がってゆく。だらりと腕を引き摺るように歩み続けるのは腐肉を思わせる巨躯であった。腐臭を漂わせ、馨しい春をも消し去る勢いで進行するそれには角と、一つ目が存在して居た。「鬼」と唇にその言葉を乗せて、『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)は険しい表情を見せる。
「豊穣で見かけたこともありますがそれとはまた随分と気配と大きさが違いますね。
……まるで、生きること事態に対して怒りを感じるほどに、死の臭いが強い」
「ええ、ええ。生ある者に執着するその気質には親近感を覚えますが……。
無為に命を奪おうというのは放置できませんね。そんなことをされたら、話の種が減って困ってしまいます」
生命(おはなし)を悪戯に消し去る事は『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)にとっては我慢ならないことであった。
骨の腕を翼のように揺らし動かした四音が小さく笑えば剣を構えたルアナが勇者たる気概を背負い鬼を睨め付ける。
「どこからあんなのが……。無暗に命を奪うのは好ましくないけど、このままにはしておけない!」
それが、誰かの命を奪うと言うならば――勇者の言葉に頷いて「ここで討ち果たしましょう」と微笑んだ正純は背を向けた。
ならば、救うべきは此の地の民。あの鬼に無残にもなぎ倒されてゆくであろう命を救うが為に。
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軟らかな土を踏み締めて白百合の美しき刀を抜き放ったルーキスは師を関する刀技を鬼――グリグランへと放った。神経を蝕む毒素、興奮作用と酩酊にも似た奇妙な心地がグリグランのその身体に侵蝕し続ける。
「これ以上先へは行かせません。師より受け継ぎし毒の技、その身を以て味わうがいい……いざ、勝負!」
堂々と名乗り上げるが如く。グリグランをその双眸に映し込んだルーキスへ巨大な腕が音を立て旋回する。
その光景がどれ程恐ろしいものか、とニルはまじまじと見遣った。垂れ流すようにだらりと落としたままの腕を駆使した攻撃が相応のリーチを所有していることは確定的に明らかだ。だが、それでも予備動作が付き物であることが後方での観察で見て取れた。
「避難誘導は任せるね! わたしはあいつが動き回らないように、抑えるの頑張るから!」
役割分担を行う事で、救える命が多いとルアナはハイペリオンの羽根をぎゅうと握りながら巨鬼を睨み付けていた。
民を救い、巨鬼を相手にする。それが容易ではないことをルアナは知っている。暫くの時間の間、自軍の手数が減る為に抑え役に負担が掛るのは当たり前だ。だが、それでも――それでも、民を救い、敵を倒す。その両方をやってこそイレギュラーズであるとルアナは『勇者』である為に剣を振るい上げた。
「鬼さんこちら――!」
ルアナ・テルフォードは異界の唯一人の勇者である。世界の定め、運命、宿命。そんな言葉で言い表される『勇者』は自らの意志で勇者となる。
勇者とは――民を救う者のことだから。
正純や虚と稔、そしてリックが領民達へと声を掛ける。領民達の避難が進む中でЯ・E・Dはできるだけ其方にグリグランが向かわぬようにと己に物理攻撃を遮断する障壁を纏った。
牙を剥きだし地を蹴る。その距離はゼロ。狼の牙が何故鋭く大きいのかを問い掛ける御伽噺の如く、Я・E・Dは黒きオーラで食らいついた。狙うのは鬼の太く逞しい脚である。巨躯を支えるだけの其れは食べ応えに優れているが肉を千切るにはまだまだ時間が掛る――つまり、食べ甲斐があるというもの。
「時間は稼ぐ。そっちはお任せするね」
正純へと静かにかけられた声音は、何処か楽しげに踊る。腐臭漂う鬼などそうそう食せる機会は無いか。ぺろりと舌を覗かせてЯ・E・Dは小さく笑って見せた。
「悪いけどしばらくの間つきあってね。貴方がどれだけ長い腕でも、ピッタリとくっつけばあんまり変わらないよ」
「――あれは美味と云えるのだろうか」
稔の問い掛けに『さあ』と虚が返す。劇作家にも想像つかぬ巨鬼のお味を考えながらも、領民達に手を貸して安全地帯へと運び続ける。
いざとならば衝撃で鬼の方向を変換せねばならないかと――騎士の為に育てた花をちらりと確認しながら、離れるように子供の手を退いた。
「こっちだぜ!」
リックが戦略眼を用いて避難経路を確認し続ける。領主としてのと虚の知識、そして正純の強力なカリスマを利用すれば避難はそう時間も掛らぬという計算だ。
「あちらで宜しいですね? では、皆さん。此方へ。今はとにかく避難を。
大丈夫、あなた達の帰るべき場所は守り通して見せますから」
領主からその様に言付かったと柔らかに告げる正純について領民達が避難を行ってゆく。これで被害は可能な限り減らすことが出来るのだと稔が僅かな安堵を抱いたことを虚は感じ取って『素直じゃない』と小さく笑った。
ずんずんと音が響く。ルアナとルーキスの引き寄せるグリグランの攻撃が徐々に激しさを増して往くことを正純は感じ取る。後少しだと領民の安全を確認する正純が振り返れば調和を奏でた四音の癒しがルーキスへと施された。
(……まだ、アチラは保つ。万全を期してから、向かいましょう)
正純の袖をくい、と引っ張った幼い少女の双眸には涙が溜まっていた。遅れ、小さな子供を引き連れてやってくる稔を確認してリックは「此れで最後か?」と問い掛ける。
「ああ。全く、花畑で遊ぶのも時と場合によるだろう。此れで避難は完了か」
「ええ。……不安でしょうけれど、安心して下さい。私達はイレギュラーズ……いいえ、『勇者』ですから」
ルアナが勇者とは民を護る者だと告げていた。ならば、此処に存在する誰もが勇者の資質を持った者なのだから。
正純が安心させるように微笑めば、稔は「行くぞ」と素っ気なく声を掛ける。領民の無事に安心したのだと感じたリックは「さあ、敵がお待ちかねだ!」とからからと笑って見せた。
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外見な人間に似ていた。鬼と言われたときルーキスの頭に浮かんだのも豊穣の『鬼人』であったのは確かだった.ならば、人体の急所を狙うことでより効率的に敵を倒すことが出来るのではないかと青年は考えた。
姿勢を崩すが為に、足下で食らい付くЯ・E・Dと同じく脚を狙う。筋肉質で曲を支えるだけはある。叩き付けた刃から感じられたのは腕への僅かな痺れだった。硬い、とルーキスは感じていた。
「各地で同様の敵も発見されていると聞きますが……有益な情報が得られれば良いですね。これからも領地を騒がす可能性が有り得なくはない」
それで民が危機に陥るというのは見てみて嬉しくはないのだが、とルーキスは困ったように笑い巨鬼を振り仰いだ。
近付く避難誘導組の気配を感じ取ってからЯ・E・Dは小さく息を吸った。「始めたようか」とルーキスへと囁けば、青年も頷く。
「此処までは前哨戦、それでは――参ります」
「ここから先はどっちかが倒れるまで殴り合いだね。けど、こっちの人数も増えたから、もう貴方の勝ち目は無いよ」
せせら笑うように、声音を降らせる様にЯ・E・Dはその脚に力を込めた。魔力を込めた一撃がその脚へと叩き付けられる。
ニルの傍で描かれた魔法陣が魔力を光らせた。ハイペリオンの羽根を握って居れば、巨鬼が痛む脚よりも尚、何かを庇おうとしているのが見て取れる。
「……目?」
粘膜。そう感じ取ったのは、動きの癖だ。首を傾いだニルは闇の月で皓々と周囲を照らしながらも己の損傷を自動修復しながら巨鬼を見詰めていた。
この素敵な花畑が傷付かぬように。そう願う。疲れ切ってしまわぬように、へばっていては傷付く者が増えると己に言い聞かせる。
「目です。粘膜が弱いのだと、思います」
「ええ、ハイペリオンの羽根が『応えて』下さいましたね。では――導きましょう。星の声の通りに」
正純が構えたのは星々によって鍛えられた神弓であった。ぎり、と音を立てる。狙い定めるように天つ星の煌めきを放つ。
空に眩き美神の星。その囁きを纏うが如く魔性に煌めく一射は貪り食うが如く。
「死の臭いを纏った鬼よ、ここは貴方の嫌いな生で溢れています。
大人しく元いた場所へ帰りなさい。私たちが、その手助けをして差しあげます」
その憎悪が数多の人々を脅かすというならば正純は赦しては置けぬと放った弓が射る、一つ目。
叫声が響き渡る。
その声にチャンスだと踏み込んだのはルアナ。大剣を持ち花畑を走り抜けてゆく。
小さな少女の身体を支えるように、四音は癒しの福音を奏でた。和らぐ身体の不安にルアナはより前へ、前へと進み往く。
「有難う!」
「いいえ。皆さんの命を癒し守るのが私の使命。どうぞ安心して戦ってください」
うっとりと微笑んだ。少女の瞳がすうと開かれて、嬌笑が浮かぶ。四音という娘が一番にさいわいに感じることが何であるかを語らう様に。
「敵の力は強大ではありますが。それを打倒してこそ物語として盛り上がりますよね。信じて見届けさせて貰いますよ皆さん……」
進む。世界に定められた勇者が、全く違う世界で勇者となるために。
痛む目を押さえて叫声を上げ続ける巨鬼をまじまじと見遣った稔が描いたのは白紙の魔導書に語られた『英雄譚』
稔が「いいか」と問えば虚は『OK』と小さく笑う。ファムファタールの笑顔にでも魅入られたが如く、赫々たる焔はその熱さを増すばかり。虚は一気に距離を詰めて巨鬼の横面を殴りつけた。
『何処を見てるんだ? 稔君が悲しんでんだろ!』
「だから悲しんで等ないと――」
『おっ、行ったぜ!』
脚に集まった攻撃で巨鬼の身体が僅かに揺らぐ。その角度に気付いてルアナは歯を食いしばり剣を大きく振り上げた。
「―――――いっけぇぇぇっ!」
鋭い一打に巨鬼の身体が音を立てて叩き付けられる。「おっ、チャンスだ」とリックが小さく笑った。戦場で式をするが如く、進軍を約束するタクトを振り上げる。
ニルが気にしていた『息切れ』など感じさせるものかとリックが放った号令が己の身を修復し続ける秘宝種を勇気づけた。グリグランの行く手を遮り、そして、その命の終を迎えるために。
「此れでもまだ倒れないってんだから、モンスターってのは面倒だな」
「……ですが、もう少しだというのは分かります」
リックは大きく頷いた。乾きの杯が如く、魔力を欲するニルは生命を我が物にするが如く、巨鬼へと術を放った。魔法陣より生み出された魔力の塊がグリグランを包み込む。
これは根比べだと告げて居たЯ・E・Dはぺろりと舌を見せた。手にしていた貰い物の謎肉を食べたが良いが、グリグラン以上に食べて良かったのかが気になって仕方がない。僅かに其方に意識が往くが――さて、腐肉は美味しくなさそうにのたうち回るばかりだ。
「綺麗な花畑……貴方が何を憎んでいるのかは知らないけれど。ダメだよ、この花達は大切にしてる人たちが居るんだから。――食べるならともかくとして、破壊をするだけなんて勿体ないよ」
美しい花を穢すその香りを厭うイレギュラーズ達に巨大な腕が振り上げられる。ニルはは、と息を飲み、それを受け止めた。驚きに瞠った瞳が、足を引きずりながらも目を潰され呻く鬼を捕える。
「火事場の馬鹿力と言うことを知っています」
「……諦めが悪い奴だよ」
リックは小さく舌を打った。癒しの号令を書き綴る稔がニルを励ます。周囲全体をへと響いた巨鬼の慟哭が苛立ちと怨嗟を溢れさせ、鋭い勢いでイレギュラーズの身体を振り回す。
「――このっ……! これほどの怨嗟を抱いた経緯、興味はありますが話が通じないのなら仕方ない。この刃を以て応える他ありません、ねッ」
勢いを付けてルーキスがその腕から逃れ刀を叩き付けた。裂かれた腕から溢れた血潮が至近距離のルアナへと被さった。
酷い匂いだと眉を顰めた小さな勇者はそれでも臆すること無く剣を振り上げる。
「鬼さん! こっちだよ!」
叫んだ声と共にルアナは背面からグリグランの身体へと飛びかかった。見えていないならば、見えないところから突出すれば良い。身を守るよりも攻撃を行う事を優先する。それが護る事であると、告げるが如く少女は剣を振り下ろした。
最後の藻掻き、腕が振り回される。叩き付けられる其れに臆すること無き司令官、リックは「後少しだ!」と声を掛けた。虚と四音の癒しの支え、そして、全戦で戦う仲間達に不屈の精神を与えるように。己が傷付こうともリックは堂々と声を張り続ける。
真っ向勝負もそろそろお終い。互いに傷付け合って、負傷も酷い。後少し、もう少しだと。一撃受けただけでも身体がどれ程に痛むかが正純には分っていた。回復手の支えがあれども、傷を負うのは免れぬほどの巨体。
おおおああ―――!!!!!!!
その声に、正純は「何を言っているのかが分からなくて申し訳ないですが」と囁いた。その鬼が、何かの恨みを孕んでいることを、この場のイレギュラーズは知っていた。強い怨嗟と、破壊の衝動。それが此の国に向けられていることは、如何したことか分かる。ハイペリオンの羽根が与えてくる情報を胸に、怨嗟を断ち切るが如く正純は矢を放った。
「此の地を護り通すと誓ったのです。天つ星よ、我が矢と共に奔れ――!」
煌めくが如く。その矢は鬼の身体へと突き刺さる。心の臓を、ルーキスがそう囁いた言葉の通り深々と刺さった其れが鬼の鼓動を止めた。
生命活動の最果て。青年は静かに鬼を見下ろした。
「……どうして、此処まで怨嗟を抱いているのか。知ることが出来れば、結末は違ったのでしょうか」
囁くその言葉に、四音は「どうでしょう」と首を傾ぐ。
彼等は対話を望んでいたわけではなかったのかも知れない。解き放たれたが如く、怨嗟を、衝動に乗せて振りかざしただけだった。
「慣れ親しんだ腐臭も、真の終わりが訪れれば消えていくのが定め。
少し寂しくはありますが。花々の中に消えるというのも美しい終わりまもしれませんね――面白かったですよ。ふふふ」
くすりくすりと笑みを浮かべて、目を細めて。鮮やかな花の気配を纏うその地の腐臭を拭い去るように。
此の地を美しく保とうとイレギュラーズ達は倒れ伏した鬼を見下ろし決意した。花々を、民にとっての憩いの地を護るが為に。
彼等の救いの声に応える『勇者』であるが為に――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
春の花には似合わない鬼でした。丁度お花も見頃ですね、きっと、Aströmにも美しい花が咲いているのでしょう。
GMコメント
夏あかねです。
●成功条件
『巨鬼』グリグランの撃破
●『巨鬼』グリグラン
長い腕をだらりと落とした一つ目の鬼です。見上げるほどに大きく、膂力を活かした戦い方をするでしょう。
腐臭を纏い、死の気配が濃い生き物です。意思疎通は難しく何かを恨んでいることだけを悟ることが出来ます。
唸り続け、生の気配を毛嫌いして居るようです。非常に短慮、ですが、パワータイプで在る事を活かして一筋縄ではいきません。
物理攻撃が中心。小細工は余り得意では無いでしょうが、その分をタフネスとパワーで補っているようにも思われます。
●『Aström』
『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)さんの領地です。とても美しい花畑です。
狐の嫁入りが多く、晴天に雨が降り続けます。瑞々しい花々が咲き誇り、見る者の心を癒やします――が、其れを蹂躙するように巨鬼が歩き回っています。
周辺の領民は身を寄せ合っており、安全を優先するならば避難を行ってあげることをオススメします。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、宜しくお願いします。
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