シナリオ詳細
春キャベツを捕まえて
オープニング
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「困ったなぁ……」
「困りましたねぇ……」
広大な畑の脇で、村人たちが困り果てていた。
ここは幻想の片田舎――肥沃な土地を利用し農業で生計を立てている小さな集落。
彼らが見つめているのは春キャベツ畑。そこでは収穫期を迎え瑞瑞しく美味しそうに育った春キャベツが、何故かぴょんぴょんと跳ねまわっていた。
それも一つ二つではない。大量の春キャベツがキャッキャウフフと音をつけたくなるような感じで楽しそうに跳ね、動き回っている。そしてその中にはやたらと巨大なやつも……。
「いくら何でもこの数は対応しきれねーべ?」
「そうだなぁ……ほっとくか?」
「ほっとくにしても数が多すぎるだろ。あんな数枯らしたら大損だぞ」
「「「どうしたもんかなぁ」」」
うんうんと唸りながら相談を続けた村人たちの決断は。
「……ローレットに、頼んでみるか……」
●
「『春キャベツを捕まえてほしい』という依頼が来ているのです」
何気ない様子で『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の話を聞いていた『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)の動きが止まった。
「え? 捕まえるの? 収穫するとかじゃなくて?」
思わず問い返したクルルにユリーカが頷く。
「依頼人はとある村の村長さんです。住人の多くが農業で生計を立てていて、今は春キャベツの収穫時期なんだそうですが」
収穫期を迎えた春キャベツの半数ほどが突然変異し、畑の中を元気に跳ねまわるようになってしまったのだという。
「動き回ること自体は珍しい話ではないそうです」
「珍しくないんだ?!」
突っ込むクルル。再び頷くユリーカ。
「ただ、いつもはごく少数しか発生しないらしいのです」
そのため村の若手が総出で逃げ回る春キャベツを捕まえたり、それが無理な時は枯れるまで放置しておくのが常だったらしい。
しかし今回は数が数である。更に言えば、少々元気が良すぎる巨大化した春キャベツもあるらしい。
基本的に畑から出て来ず直接的な害はないため「枯れるまで放置する」という案も出たのだが、そうした場合育てた春キャベツの半数が出荷できないことになる。はっきり言って赤字、大損害だ。
「なので、皆さんの手で何とかして動き回る春キャベツを収穫して欲しいのです」
ちなみにこの動く春キャベツ、追いかけっこを楽しむかのように散々逃げ回った後ヒトに捕まると『捕まっちゃったー♪』みたいな感じで普通の春キャベツに戻るんだそうな。
ユリーカの説明になるほどと頷きかけて、クルルはふと疑問に思った。
――そもそも変異した春キャベツは出荷できるのだろうか、と。
クルルの疑問に答えるようにユリーカが続ける。
「突然変異した春キャベツは甘味が強くてとても美味しいんだそうです」
変異した春キャベツはその美味しさと希少性もあって、普通の春キャベツより遥かに高額で取引される。そのためローレットへの依頼金を支払っても十分に元が取れるのだとか。
「そうそう、『収穫が終わったら是非味わってみてください』だそうです」
春キャベツを使った料理を村人が振舞ってくれる他、自分で調理したい等の希望があれば村の食堂の厨房を貸してくれるようだ。
ユリーカの言葉にクルルが目を輝かせる。
もしやこれは村の人を助けられる上に美味しい料理が食べられる、一石二鳥な依頼なのでは?
クルルの内心を知ってか知らずか、ユリーカは彼女が考えたことと同じ言葉を紡ぐ。
「村の皆さんも助かるし、皆さんも美味しい料理が食べられるのです」
なので、どなたか行っていただけませんか――?
「よろしくお願いしますなのです」
そう言うと、ユリーカはペコリと頭を下げるのだった。
- 春キャベツを捕まえて完了
- GM名乾ねこ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月10日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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よく晴れた青い空。遠くに見える山の稜線。目の前に広がる広大な畑――と、その中を元気に遊びまわっている美味しそうな春キャベツ。
「今年の玉菜は活きがよいのう」
口元を袖で覆いながら『特異運命座標』白妙姫(p3p009627)が呟く。
「混沌すごいなぁ、野菜も動くんや」
実際に畑で動き回る春キャベツを目にし、驚いたように目を見張る『砂原で咲う花』箕島 つつじ(p3p008266)。
「キャベツちゃん、美味しく栄養満点に育つ余りに走り出しちゃったのかな?」
『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)が微かに首を傾げる。
「あはは、鮮度抜群って感じだね!」
「……いやそれで済ませてしまってよいものか」
楽しそうに笑うクルルに、はたと世間の常識……つまり「通常の野菜は動物のように動き回ったりしない」を思い出した白妙姫が突っ込む。
「まあ、この地域ではそういうものらしいですから」
『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)が言えば、『期待の新人』ダイア・コルドー(p3p009611)が身を乗り出すようにして口を開いた。
「おいしいんですよ! 前にお父さんが奮発してちょっとだけ買って来てくれたんですけど、とっても甘くっておいしくて、いっぱい食べちゃいました!」
ダイアは『動く春キャベツ』を食べたことがあるらしい。
興奮気味にダイアが語る話を聞きながら瞳を輝かせているのは『魔女見習い』ハク(p3p009806)だ。
(ハクは春キャベツ大好きなのです! ハクはお野菜でも美味しく食べれる系のいい子なのです! むふー!)
一見無表情ながら微妙に小鼻が膨らみ、ハクの中にある抑えきれない期待が窺える。
「春キャベツ……元気なキャベツ、なのですね」
納得したように『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)が呟いた。
「元気な春キャベツは甘い春キャベツ。ニルは憶えました」
深々と大きく一回頷いて見せるニル。微妙に間違った知識を吸収してしまった気がしないでもない。
「美味しいって言うならいつまでも眺めてるのは勿体ないな」
つつじが言えば、クルルもグッと力こぶを作るように片手を挙げる。
「よーし沢山捕まえてキャベツ料理にしちゃおうっ」
「農家さんも困ってるし、どんどん捕まえにいくで!」
クルルとつつじ、二人の言葉に頷く一同。
「じゃあみんなでがんばろー!」
「「「おー!」」」
●
「網借りてきたよ~」
言いながら『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が両手で抱えていた塊を広げる。
本来鳥獣避けに使うらしいその網は縦幅はそこまで広くないものの横幅がとても長く、広い畑でキャベツ達を追いこむには丁度良さそうな形状をしていた。
「ウチも借りてきたで」
つつじが並べるのは持ち運んで使えそうなお手頃サイズの網や籠。小回りのききそうなこちらははぐれた春キャベツを捕まえるのに役立ちそうだ。
畑の一角に大きな網を張り、春キャベツ達を追い込む準備をするイレギュラーズ。当の春キャベツ達は彼らから一定の距離を保ちながらもその周囲でチョロチョロと動き回り、まるで『何してるのー?』と言わんばかり。
(跳ね回るキャベツって意外と可愛いな……?)
つつじがそんなことを思ったとしても無理はないのかもしれない。
「このまま追い込むかの?」
「反撃で網を壊されない様に大きい子達を捕まえてからかな?」
白妙姫の問いにクルルが答える。
「保護結界張り終わりました!」
「ニルのほうも終わったのです」
広大な畑に残る普通の春キャベツの守るべく手分けして保護結界を展開したダイアとニルが声を掛ける。
「ふむ、では始めるか」
クスクスと笑う白妙姫の脇、ひょっこりと巨大春キャベツが顔を出す。
「隙あり!!」
伸ばされたクルルの両手を巨大キャベツがすり抜けた。
「あっ」
「ふ、知ってますよ! 雹はキャベツの天敵だってことを!」
ココロがバッと手を伸ばせば、巨大春キャベツが逃げた先……巨大春キャベツが特に集まっていた一帯に白い雹が降り注いだ。
『!!!!』
アワアワと慌てたように動き始める春キャベツ。雹害(?)から逃れた巨大春キャベツにもイレギュラーズの包囲の手が迫る。
「逃がさんで!」
全速力ではぐれ巨大春キャベツに接近し、多段牽制を放つつつじ。
「美味しく食べてやるさかい、大人しくしとき!」
足代わりの根っこを縺れさせ地面に転がったキャベツをしっかりと捕獲する。
『♪』
つつじに抱え込まれた春キャベツはぶるん! とその身を震わせ、動かないただの『巨大な春キャベツ』に戻った。
「逃げちゃダメなのです」
畝に残るキャベツとキャベツの合間を飛び越えたニルが巨大春キャベツにピタリとついて逃げ道を塞ぐ。
ニルの手の中に現れた闇の月が、動く春キャベツ達を暗い運命で照らし出した。
「それにしても活きがよい。魔物ではないのか?」
ニルに逃げ道を塞がれた春キャベツの外葉を、朧月夜という名の打ち刀を操る白妙姫がその無形の術で削り取っていく。
「まーったくわしの刀は包丁ではないんじゃがの」
そう言いながらも「ほほほほ」と笑い声をあげる白妙姫はどこか楽しそうだ。
「フハハハ! ハク達の美味しいご飯になる為に神妙にお縄に着くがいいのです!」
ハクが春キャベツ達に鋭い眼光を浴びせると、春キャベツ達がザワリ、と体を震わせた。
眼光に圧倒されてかクルリと身を翻す春キャベツに、ハクの麻痺の魔眼が炸裂する。
「痺れるがいいのです! しびびー!」
「ハクさんナイスです!」
遠距離術式発動により更に動きが鈍った春キャベツに近づき、ダイアがそれを抱え上げる。
ダイアの腕の中でやはりふるると体を震わせ普通に戻った春キャベツの外葉には、ほとんど傷がついていなかった。
「丈夫な葉っぱですね、お料理する時大変そうです」
呟くダイア。余談だが、頑丈さも普通のキャベツレベルに戻っているのでそのあたりの心配が無用だったとわかるのは収穫が終わった後である。
クルルが放った矢が巨大春キャベツ達の中心に着弾した瞬間、凄まじい絶叫が鳴り響いた。
「ココロちゃーん! そっち行ったよー!」
「こっちで捕まえます、任せて!」
進行方向に立ちはだかるココロに向け、巨大春キャベツがバッと土をまき上げた。
「ぶわっ?!」
思わず顔を両手で庇ったココロのの脇をすり抜けようとする巨大春キャベツ。
「甘いです!」
ココロの味方を立て直す号令があたりに響く。自身の号令で土の目晦ましから即座に立ち直ったココロが春キャベツにオリジナルの格闘術式を叩きこむ。
「捕まえましたよ」
フラフラとしたところをココロに抱え込まれた春キャベツは、わさわさと外葉を揺らしその動きを止める。
「ココロちゃんグッジョブ!」
グッと親指を立てるクルル。
「よーし、この調子でどんどん捕まえていこうー!」
●
春キャベツの行動を制限するようなスキルを駆使し互いに連携して動くイレギュラーズの前に、巨大春キャベツは一つ残らず収穫された。
残るは通常サイズの動く春キャベツ。幸いというか、巨大春キャベツの周囲をウロウロとしていたものは巨大春キャベツへの範囲攻撃などに巻き込まれ随分と動き回るスピードが落ちている。中にはイレギュラーズが追い込み用として設置しておいた網にうっかり絡まり身動きが取れなくなっている春キャベツも……。
「こっちは追いかけるだけでも大丈夫そうやな。足には自信あるしここはワイに任しとき!」
お疲れ気味の春キャベツ達の前、つつじがどんと胸を叩く。
「ではわしはこの大きな網で皆が追い込んだ玉菜を一網打尽といくか。主、手伝ってはくれぬか?」
白妙姫の問いに、頷くマヤ。二人は事前に張っておいた網との位置を確認しつつ網を広げていく。
白妙姫達の準備ができたことを確認すると、畑の中で散開したイレギュラーズがそれぞれの方法で春キャベツ達を追い込みにかかった。
「まてまてー! この『魔眼王』からは逃れる事は出来ないのです!」
カッとその瞳を輝かせながらハクが春キャベツを追い回す。ちりじりに逃げ出そうとした春キャベツ達の脇を、敢えて標的をずらしたニルの攻撃が掠めていく。
『!』
春キャベツ達が驚いたようにピョンと跳ね、くるりと身を翻す。
「さあネコさん、私達も行きましょう!」
ファミリアーで使役したデブネコと共に走り出すダイア。
「あー! かじっちゃダメですってば!」
ネブネコの暴走に慌てながらも、網から大きく外れそうな位置にいる春キャベツを遠術で攻撃しその動きを鈍らせる。
「そっち、小さいのが行きました~!」
「よっしゃ任せとき!」
「あははー待て待てー!」
クルルが再度泣き叫ぶマンドレイクを放ち、春キャベツ達を狂乱の坩堝へと落とす。宣言通り春キャベツを自慢の足で追いかけ捕まえていたつつじが、動きの鈍った春キャベツをガシッと両手で掴み上げる。
生きのいい春キャベツも四方八方から追い込まれ、徐々に追い詰められていく。少しずつ密集し移動していった先に待ち構えるのは白妙姫。
「今じゃ!」
彼女の号令で網を一気に狭めて逃げ遅れた春キャベツをごっそりと捕獲する。
『!!?!』
網の中でわちゃわちゃと動く春キャベツ。やがて捕まったのに気が付いたのか、一斉に葉を振るわせた後だたの春キャベツに戻った。
「ほほ、大量じゃな」
満足げな白妙姫。これを何度か繰り返せば数の多い通常サイズの春キャベツも粗方収穫できるだろう。
「捕まったときの春キャベツって、なんだかかわいいですね」
網からこぼれた春キャベツを捕まえたニルは、それがキャッキャとはしゃぐようにして普通の春キャベツに戻る様子に思わずそう零した。
「逃げちゃ駄目だよーキャベツちゃん! 大人しく捕まって、美味しいお料理になってね!」
言いながら春キャベツを追うクルル。
「あははっ、まてまて~」
「まてまてー」
ココロを真似るようにニルも続き、ハクはがおー! と猛獣のようなポーズををしながら春キャベツを追い回す。
「さあ、大人しく捕まるがいいのです!」
どこか楽し気な春キャベツとイレギュラーズの追いかけっこは、動く春キャベツがいなくなるまで続いたのだった。
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「しゅ、収穫ってとっても大変なんですね……」
逃げ回るキャベツとの戦闘? を終えたダイアが疲労感を漂わせながら呟く。
「農家の人達ってすごいです」
「確かに肉体労働ではありますけれど、あそこまで特殊な収穫は私達も初めてです」
ダイアのしみじみとした呟きに、村の女性が困ったように苦笑する。
「本当に助かりました。まさか全部収穫してくださるなんて」
動く春キャベツの取りこぼしはゼロ、畝に残る春キャベツも無傷。村人にとっても予想以上の成果であったらしい。
改めて礼を言い、女性はイレギュラーズの面々を村の食堂へ誘う。
「何っ、お礼に料理をよこしてくれるとな」
白妙姫が嬉しそうに目を細める。
「うむうむ、苦しゅうない、苦しゅうない。わしゃもう走り回って空腹じゃ!」
「ええ、ええ。皆さんが収穫した春キャベツ、是非召し上がっていってください」
「春キャベツ、私も料理してみたいな!」
ココロの申し出に、女性がふわりと微笑んだ。
「でしたら調理場をお使いください。そこにあるものでしたら自由に使っていただいて構いませんから」
「はいはい! 私もお手伝いします!」
「春キャベツのお料理、ニルも作るのお手伝いしたいです」
元気に手を上げるダイア。ジッとココロを見つめるニル。
「ウチも手伝うで。苦労して捕まえた春キャベツやもんな、美味しく頂かんかったら損や」
つつじも調理の手伝いに名乗りを上げる。
「では、わしは一足先に食堂に向かわせてもらおうかの」
そう言う白妙姫にハクが自分も、というかのようにコクリと頷いた。
「わたしもお料理はあんまり得意じゃないから先に食堂に行ってるね!」
手を振るクルルに、ココロも手を振り返す。
「ええ、楽しみしていてね」
「そのまま切って食べても新鮮で美味しいやろなぁ」
村の食堂の調理場、収穫されたばかりの『動く春キャベツ』を前につつじが目を輝かせる。
「塩で揉むのもよさそうや……炒めても上手そうやな……。なあ、何を作るんや?」
期待に満ちた目をココロに向ければ、彼女はにっこり笑ってこう言った。
「それは完成した時のお楽しみってことで!」
「何をすればいいですか?」
尋ねるダイアに玉ねぎを手渡すココロ。
「皮をむいて切ってください。こんな感じで……」
つつじとニルにも人参やアスパラガスを手渡し、それぞれに見本を見せつつ下拵えをお願いする。
「ニル、キャベツってサラダのイメージだったのですけど」
フライパンにオリーブオイルを熱し始めたココロの手元を見ながら呟くニル。
「いろんなお料理があるのですね」
調理場では村人達が事前に仕込んでいた春キャベツが次々と完成し、食堂へと運ばれていく。
「もちろん皆さんの分もありますから心配しないでくださいね」
「ありがとうございます!」
給仕の女性の言葉にダイアが嬉しそうに返事をする。その様子に目を細め、ココロが次なる指示を出す。
「切ったお野菜はベーコンと一緒に炒めちゃいます! その間にトマトを磨り潰しておいてくださいねー」
「「「はーい」」」
食堂ではテーブルに着いたイレギュラーズが料理の到着を今か今かと待っていた。
ハクが無表情のまま、しかし溢れるよだれを隠しもせず訴える。
「ハクは腹ペコなのです! 美味しいお料理をご所望なのです!」
うんうんと頷きハクに同意した白妙姫が、口元を覆い楽し気に笑う。
「しかし何が出てくるか、楽しみじゃ……葉は甘く、芯まで食せるんだったの。何がいいんじゃ?」
「どんな料理が出てくるんだろうね。ポトフ、ホイコーロー、ロールキャベツ……すっごい楽しみ♪」
クルルがキャベツ料理の名を上げると白妙姫が目を輝かせた。
「『ろぉるきゃべつ』か。アレは……美味かった。アレも出てくると良いのう」
「お待たせしましたー」
期待に胸躍らせるイレギュラーズの前に、村人達が心を込めて作った料理が運ばれてくる。
「おお、『ろぉるきゃべつ』ではないか!」
「はい。『ロールキャベツのクリーム煮』です。こちらはコンソメ味のポトフ、よろしければサラダで生のままの春キャベツも是非味わってください」
給仕の女性の説明もそこそこに、早速料理に手を付けるハク。黙々と食べ進むその顔は相変わらずの無表情――しかし。
(とても美味しいのです、もっと食べるのです!)
大喰らいのスキルをいかんなく発揮し、ハクは次々と料理を胃の中に収めていく。
「んー、美味しいっ!」
真まで柔らかく煮込まれたポトフのキャベツに感動し、春キャベツのサラダの甘さに目を見張り。何かを食べる度に感嘆の声を上げるクルル。
「『くりぃむ煮』か……どれどれ」
ナイフとフォークを器用に操り、白妙姫は切り分けたロールキャベツを口に運ぶ。
「ふむ、葉をこれほど厚く巻いておるのに柔らかく筋も残らぬ。中の肉にもくりぃむにも負けぬ甘味と旨味、たまらぬのう」
美味しい料理に舌鼓を打つ彼女達の前に新たな料理が到着した。
「お待たせ! ココロ特製春野菜のミネストローネです!」
春キャベツのみならず新鮮な野菜を使ったミネストローネを並べ終えた四人もテーブルに着き、食事会が再開する。
「わ、やっぱりとってもおいしいです! 新鮮でしゃくしゃくしてて、とっても甘くて!」
ダイアが頬を緩ませ、クルルがミネストローネを絶賛する。
「トマトの酸味とキャベツの甘味がいい感じに融合してて……塩気のバランスも最高!」
「んー、……春の味やな」
しみじみとつぶやくつつじ。その脇ではハクが黙々とミネストローネを口に運んでいた。
「あの……一個買っていってもいいですか?」
とってもおいしかったから、お母さんとお父さんに送りたいんです――そう言うダイアに、村の女性が嬉しそうに微笑む。
「買うだなんてとんでもない。今日のお礼と言ってはなんですが、是非お持ち帰りください」
美味しい料理に話も弾む。楽しそうな仲間達を眺めながら、ニルは嬉しそうな、幸せそうな笑みを浮かべた。
仲間と一緒に捕まえた春キャベツ。仲間と一緒に食べる春キャベツ料理。
(皆様と一緒に食べるの、ニルはなんだか嬉しいのです)
――ああ、春キャベツはとってもとっても「おいしい」のですね――。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
動く春キャベツの収穫、お疲れ様でした。
皆様の活躍で動く春キャベツは全て収穫され、予想を超えた結果に村人は「さすがイレギュラーズ」と絶賛、大変感謝しているようです。
ご参加ありがとうございました。ご縁がありましたらまたよろしくお願い致します。
GMコメント
春キャベツ美味しいですよね、乾ねこです。
こちらは『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)さんのアフターアクションから派生したシナリオとなります。
突然変異し畑の中を楽しそうに逃げ回る春キャベツを収穫(捕獲)してください。
収穫方法は問いません。追いかける、網を使う、攻撃し動きが鈍ったところを確保する等々、有効と思われる方法で対応してください。
変異した春キャベツについては外葉にしっかり守られているらしく商品として出荷される部分は攻撃を受けても傷つきません。
しかしながら、足元には収穫待ちの通常の春キャベツも残っています。こちらは攻撃が当たると普通に傷つきますので、そのあたりには注意が必要かもしれません。
●成功条件
・大量発生した逃げ回る春キャベツを収穫する。
全て収穫できるのがベストですが、多少の取りこぼしがあっても構いません。村人たちは「8割から9割くらい収穫してくれるといいなぁ」と思っているようです。
残った分はその量によって村人たちが協力して収穫、あるいはそのまま枯れるまで放置されます。
●地形
とても広い畑です。変異しなかった半数の春キャベツがそこここに残ったままとなっているため、畝に沿った動き以外をする(畝を横切る、斜めに突っ切るなど)場合は足元に注意が必要です。
誰かの手によって遠くへ投げられるなど、強制的な移動が行われない限り春キャベツたちが畑の外に出ていくことはありません。
●敵の情報
突然変異し動き回れるようになった春キャベツが相手です。店頭に並ぶような状態ではなく、畑で栽培されているような外の葉もしっかりついたままの春キャベツが根っこから抜けて走ったり跳ねたりしています。
通常サイズと思われる大量の春キャベツと、数十玉の巨大化した春キャベツの二種が存在します。
どちらも捕まると動かない春キャベツに戻ります(サイズは動いている時と変わりません)。
・春キャベツ(沢山)
通常サイズの動く春キャベツ。攻撃能力はなく、ひたすら逃げ回ります。逃げ足(回避能力)が異様に高く、ただ追いかけているだけではなかなか掴まりません。
・巨大春キャベツ(数十玉)
動くだけでなく巨大化した春キャベツ。通常サイズの春キャベツほどの逃げ足(回避能力)はありませんが、こちらもそれなりに素早いです。
また、通常サイズの春キャベツと違い捕まえようとする相手に抵抗(攻撃)してきます。得意技はその巨大さを生かした体当たりと、大きく分厚い外葉をフル活用し周囲の相手を張り倒す回転ビンタ。また、目潰し的に土をまき上げることもあるようです。
●春キャベツを味わおう
無事依頼が成功すれば、村の食堂で村人が春キャベツを使った料理を振舞ってくれます。
ご希望の料理があればプレイング内にてご指定下さい。よほど特殊であったり世界観に合わない料理でなければ用意されると思います。
自分で調理してみたい! という方には厨房を貸し出してくれます。調味料や調理器具等は一通りそろっていますが、春キャベツ以外の材料は持ち込みが基本となります。作ろうとしている料理に村人が興味を持ってくれれば材料を用意してくれるかもしれません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
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