PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決> ラパンの流れに逆らって

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ギルド・ローレットに訪れたコゼットは、その視線の先で、こちらに手を振る女性を見つけた。
「コゼットさん、こんばんは。少し、よろしいですか?」
 女性――テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は、コゼット(p3p002755)の前まで来るとそう声をかけてきた。
「は、はい! なんですか?」
「……実はここ数日、ブラウベルク領にて少しだけ魔物が騒がしいのです。
 気のせいと言われればそうかもしれない、程度のものなのですが。
 たしか、コゼットさんのご領地は難民、孤児の方も多かったかと思います。お気を付けください。
 ブラウベルクに魔物が出るということは、オランジュベネに魔物がでる可能性が大きいともいえます」
 テレーゼの管轄するブラウベルク領とオランジュベネ地方は、真隣りであり、イレギュラーズの領地以外の場所は彼女が管轄している。
「心苦しいのですが……オランジュベネ全域に警戒網を敷くのは純粋に手が足りません」
 そう言ってテレーゼが少しばかりうつむいた。
「もしも、何かあればお手伝いできればやれることはしますから」
 そこまで言うと、テレーゼが立ち去っていく。



 それから数日して、コゼットは領地にて領民からの連絡事項に気になるのを見つけた。
「…魔獣が出てる」
 ぴくりとうさ耳が揺らいだ。
「そういえば…テレーゼさんが言ってた…
 んっ、ちょっと行ってみようかな」
 魔獣の報告は、領地に流れるラパン川の流域に見られていた。
 今のところはまだ遠いが、やがては水田や病院がある場所にも到達するだろう。
「…他のみんなにも連絡してみよう」
 念のために、とローレットへ依頼状をさらさらと記して、領地の軍備の中から20人ほど選別する。

 麗らかなる陽の光が川面に煌いている。
 豊かな水量を保有する玲瓏なる水面は、反射する陽光をそのうちに吸い込むばかりに透き通っている。
 コゼットの領地を流れる恵みの大河――それがこのラパン川である。
 良質な水質を持つ川から人工的に引かれた支流により、広がる水田もまた、時期が来れば豊かな実りをみせるのだろう。
 のどかという言葉を絵にかいたような美しくものんびりとした空と大地が広がっている。
 その田畑の幾つかには、数人の領民が楽しそうに談笑していた。
「……もう慣れた?」
「はい! ここの人達にもよくしてもらってますし」
 コゼットがころりと首をかしげて問うたのは、つい最近領地にきた元兵士という2人組。
 戦いに疲れたといっていた2人は、来た当初はやつれていたが、今は元気を取り戻しつつある。
「……それなら良かった」
 そういうコゼットの懐には、領民から手渡されたお土産がいくつかある。
「……もうすぐ魔物が来ると思うから2人も避難して」
「……そのことですが、僕達にも手伝わせてください!」
「いいの……?」
「はい。僕達は、もう戦いなんて嫌ですけど……
 それでも、戦う術を知ってるのに、逃げちゃだめだと思うんです……」
 そういうのは、少年だ。
「それにあの人たちに、私達が戦わなかったって、失望されたくないんです」
 そういうのは女性の方。『あの人たち』とはきっと、領民ではなく、2人の元上司のことだろう。
「……それじゃあ、お願いします」
 ぺこりと礼をして、コゼットが顔を上げれば、その視線の先、空を黒く染める影が見えた。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 そんなわけで始まりました<ヴァーリの裁決>の一幕をお送りします。

●オーダー
【1】テンペストアヴィス及び鳥型魔獣の討伐。
【2】被害を抑える。

●フィールド
 コゼットさんの領地、ラパン川の畔にある平野部。
 奥へと侵攻されると水田が広がっており、更に内陸には病院もあります。
 直撃されると困ったことになるでしょう。

●エネミーデータ
・テンペストアヴィス
 嵐鳥の名を持つやたらデカい鳥の魔物です。
 田畑を荒らし、草木を薙ぎ払い、羽ばたきで洪水を起こすなど、
 その被害が『嵐に遭ったよう』であることから名づけられました。


 常に飛行状態にあります。
 反応、回避、命中、EXAに秀でています。

<スキル>
スレイクロウ(A):強靭な足で対象1人を切り刻み、全体重を押し付けます。
物遠単 威力中 【万能】【崩れ】【体勢不利】【移】

フェザースレイ(A):羽ばたきにより生んだ風の刃で斬りつけます。
物理中扇 威力中 【万能】【飛】【致命】

バーニングスター(A):口の中で巨大な球体状の炎を生みだして発射します。
神遠貫 威力中 【万能】【業炎】【炎獄】

アイシクルメテオ(A):大気中の水分を凍結させ、地上に振りまきます。
神超範 威力中 【万能】【氷結】【氷漬】

飛行適正(P):飛行時に命中、回避、防技へのペナルティを受けず、地上時にペナルティを得る。

・鳥型魔物×20(炎×5、氷×5、雷×5、呪×5)

・炎鳥
 羽毛が炎で出来た鳥型の魔物です。
<スキル>
 ファイアウイング(A)
 神遠単 威力中 【万能】【火炎】【業炎】

・氷鳥
 羽毛が冷気を纏う鳥型の魔物です。
<スキル>
 フリーズミスト(A)
 神超域 威力中 【万能】【凍結】【氷結】

・雷鳥×5
 羽毛がスパークを放つ鳥型の魔物です。
<スキル>
スパークショット(A)
神至単 威力中 【痺れ】【ショック】【麻痺】

・呪鳥×5
 胡乱な輝きを放つ瞳をした鳥型の魔物です。
<スキル>
 カースアイズ(A)
 神超単 威力中 【万能】【呪殺】【呪い】


●友軍データ
・領民兵×20
 コゼットさんの領地から出動中の兵士達です。
 基本的に鳥型魔物との戦いに専念します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決> ラパンの流れに逆らって完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
蛇蛇 双弥(p3p008441)
医神の双蛇
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy
雑賀 才蔵(p3p009175)
アサルトサラリーマン
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ
微睡 雷華(p3p009303)
雷刃白狐

リプレイ


 まるでその集団そのものが大きな鳥であるかのようにもみえる巨大な鳥の集団が飛んでいる。
 空の一角を黒く埋め尽くすそれは真っすぐに突き進んできていた。
「みんな、来てくれてありがとう。
 イレギュラーズのみんなも、ありがとう、心強いよ」
 出動中の兵士達に声をかけた『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)は、そのままイレギュラーズにも声をかける。
「コゼットは今更知らねえ仲じゃねえ。
 俺が仲間に手を貸すの理由はいらねえだろ?
 この先には病院もある。何としてでも、魔物を喰い止めねえとな」
 コゼットに答え、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は大空を飛翔するその鳥影の中核、巨大な一羽を見据えた。
「オレも幻想じゃないけれど領地ケイエイしてるから他人事じゃないし、頑張らせてもらうよ! 持ちつ持たれつだね!」
 同じようにコゼットに答えた『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は、自らの役目を熟すべくジェイクの近くへと歩き出す。
「領地に魔物……なんつうか、他人事じゃねえな。俺んとこは豊穣だけどよ。
 領地の兵士が身を切るってんなら、俺も少しは気張っていくかね」
 20羽あまりの鳥の魔物を見上げていた『蛇に睨まれた男』蛇蛇 双弥(p3p008441)も術式を起こして準備を整えていく。
「わたしの生まれた土地は水田の多い平野にありました。
 黄金の稲穂が見渡す限り広がる光景は鮮やかで、住む者の命を支えるものでした」
 豊穣を想う『Dramaturgy』月錆 牧(p3p008765)は周囲の光景を見渡して、やがて空へ視線を向けた。
「守っていきましょう。
 そしてそのために速く鳥を一掃する」
 静かに愛刀を抜いて、牧はそれらを見る。
 戦場は平野部。跳躍で登れるような高い場所はなかったが、兵士たちに紛れるようにして身を隠すと、自身の幻影を戦場に配置する。
「至る所でイレギュラーズの所有する場所が狙われているか……
 偶然のように見えてこうも立て続けに起きるのは厄介ではあるな」
 少しばかり考えていた『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)はそれを中断すると領兵達の方を向いた。
「ミス・コゼットも君達の意思を嬉しく思っている。
 自分達の護りたい物、鳥如きに奪わせるな! 必ず生きて勝つぞ!」
 発破をかけるように告げれば、兵士達から喚声が上がった。
「自分は領地とかは持ってないっすけど、大変なのはわかるっすよー」
 式神に担がれて現地に現れたのはまさに扇風機と呼ぶ以外にない物――『扇風機』アルヤン 不連続面(p3p009220)である。
(……この戦いは、防衛戦。
 わたしたちの命だけでなく、守るべき領民の命も掛かっている……)
 脚を踏みしめて調子を確かめ、『雷刃白狐』微睡 雷華(p3p009303)は空を見る。
 鳥の影が、各々の姿をはっきりと視認できるまでに近づき、鳴き声が、羽ばたきが聞こえ始めた。
 ここまでくればその影の中核が他の鳥の数倍のサイズ感であることは明白だった。
 その鳥の嘴から、炎が零れだす。
 反動に備えるように羽ばたきを変えた鳥の嘴から、紅蓮の炎球が放たれた。
 一直線に放たれた弾丸は複数の兵士とイレギュラーズを巻き込みながら戦場を駆け抜ける。
 牧の幻影めがけて、羽毛が炎で出来た鳥が大きく羽ばたいた。
 翼の形状のまま放たれた炎が牧の幻影を一瞬で焼き払う。
(――今)
 それと合わせるように、牧は跳んだ。
 持ち前の跳躍力を駆使して飛ぶように跳ねる。
 そのまま鳥の背後を捉え、その翼を切り裂いた。
 強烈な慣性を抱き、真っすぐに打ち出された一太刀を受けた鳥の背中が、すっぱりと斬り開かれる。
 今回、戦場にいる兵士達は、遠距離の攻撃が可能な銃兵や弓兵、魔術師が多い。
 才蔵はそれらの兵士を纏めると、複数の魔物達の方へ射線を整えさせる。
「あの眼が光っている魔物や周囲に結晶を生んでいる鳥を優先的に狙うぞ!」
 才蔵の指示に応えるように、射線が上がっていく。
 才蔵自身も、ライフルを構えてスコープを覗く。おおよその射線を定めるや、氷鳥の一羽を中心にするようにして引き金を絞った。
 放たれた弾丸は無数。一度にして放たれるそれらは鉄の驟雨と化して複数の鳥を突き刺していく。
 多種多様な羽毛が吹き飛び、戦場に彩りを加えていく。
「さあて、おっぱじめようか!」
 ジェイクの言葉に答えるように、羽ばたきの度に嵐の如き暴風を放つ巨大な鳥が一つ鳴く。
 それぞれが木製のグリップに狼のレリーフを刻む二丁の拳銃。
 ジェイクはそのうちで大口径の大型拳銃を嵐鳥へと構え、静かに引き金を弾いた。
 撃ちだされた弾丸は、意図的に嵐鳥の目元を掠めて走り抜ける。
 その視線が、ジェイクを睨み据える。
 イグナートはそれを感じ取ると共にジェイクの前へと移動する。
 構え取り、敵を見据えれば、対処は問題ない。
「イグナート、頼むぜ」
「モンダイないよ!」
 言葉を躱すと同時、ジェイクが走り出す。
 戦場を遠くに離れるように動くジェイクに続くようにイグナートも走れば、2人はその背中に嵐鳥の視線を確かに感じていた。
 雷華は一つ深呼吸する。
(負ける事は出来ない……全力を、尽くす)
 覚悟を定めると共に、バチリと身体を稲妻が奔り、風が微かに己が身を包み込む。
 それは破邪を為す障壁となっていく。
「遠くを飛び回りやがって、ウザってえったらありゃしねえ」
 双弥は静かに両手を掲げた。
 その手に破壊を。その手に想像を。
 その手に怒りを。その手に沈黙を。
 相反する二柱、反発しあうべきそれらの力は、この両手により無理矢理に圧縮される。
 行き場を探すかのように軋む二つの力の反発を利用して、射出する。
 不可視の猛毒となった逆棘が胡乱な輝きを放つ瞳の鳥を中心に炸裂する。
 幾つかの瞳が、双弥を射抜いた。
 2羽の胡乱な瞳の輝きが、双弥へと注がれる。
 雷華はその瞬間、双弥を隠すように前に立った。
 胡乱な輝きの瞳は質量を伴った視線で雷華に撃ち込まれる。
 しかし健康体の今、その瞳にある呪性は意味をなさない。
 続くように、呪鳥の付近にいて巻き込まれた2羽の雷鳥がその身のスパークを大きく走らせて雷華めがけて突貫してくる。
 雷華へ放たれたそれは雷華へと触れる前に阻まれる。
 同時、雷華は至近して来た鳥を蹴り飛ばした。
「それじゃあ、お願い」
 背後にいるアルヤンへ声をかけて、雷華は風雷を迸らせた。
「双弥先輩、自分の後ろにいるっすー。自分、結構頑丈な扇風機なのでー」
 アルヤンはその場で自らの頭部?の羽をぐるぐるさせながら声を発した。
 双弥がアルヤンの背後に移動する中、羽をぶん回していく。
 風を切る音が響き、旋風が勢いよく放たれ、鳥に向かっていく。
 不可思議な風の流れを感じ取った鳥たちが各々羽ばたき、ぶつかり合う。
 数匹が喧嘩し始める中で、アルヤンは首を上げて次に狙いを定めていく。
「あたしの、あたし達の領地を…領民のみんなと力を合わせて
 ちょっとずつ、みんなで作ってきた、あたし達の居場所を。
 モンスターなんかに、荒らされてたまるもんか…!」
 覚悟を見せるコゼットは嵐鳥の方へと走り出した。
 大きく羽ばたく巨大な怪鳥の眼前に躍り出てふわりと跳躍。
 月面を跳ねる兎のように軽やかに跳んで、硬質化した兎毛付きの盾で殴りつける。
 殴られた鳥の視線がコゼットへ入った。
 小柄でややもすると華奢に見える少女を見つけた鳥が一つ鳴いた。
 怒りに満ちたその声は、それがコゼットの狙いであることを気づいていないことを示している。
「あなたがどんなつもりで、うちに来たのかは知らないけど、とっても迷惑だよ」
 返答は、再度の鳴き声と羽ばたきだけだ。


 イレギュラーズは快調に事を進めている。
 幾つも銃弾が、魔法が、矢が空を舞う鳥を貫いていく。
 ばさりと音を立てた嵐鳥が、コゼット目掛けて飛翔する。
 体当たり次いでに爪で引き裂かんとした鳥は、コゼットの軽やかな足取りに翻弄されて攻撃を当てる事すらできない。
「焼き鳥パーティーの主役になりたくなかったら、早く帰って…!」
 コゼットは返すように跳躍。
 突っ込んできた勢いと羽ばたきに煽られたその身を空へ。
 そのままくるりと身を翻し、思いっきり頭上から殴りつける。
 バランスを崩した嵐鳥が地面へと叩き落された。
 何とか起き上がろうとする狼目掛け、ジェイクは再び銃口を向けた。
 術式仕込みの銃弾は未だ起き上がり切れぬ嵐鳥の首筋辺りに該当する腹部を掠め、羽毛を幾つか千切っていく。
 弾丸の痛みに再びバランスを崩した鳥がじとりとジェイクを見ながら、よろよろと羽ばたいた。
 その様子を、ジェイクはつぶさに見据えている。
 神翼鳥の羽根より齎される知識を糧に、敵の弱点を暴くためだ。
 もう少し、もう少しで何かが掴めそうな気がした。
 牧は地上付近まで降りてきた呪鳥らの集団へ飛び込み、破秀滅吉を振り抜いた。
 周囲の全てを巻き込むようにして、手あたり次第、切り刻んでいく。
 宛ら暴風の如き斬撃の乱舞が、幾つもの鳥の羽を舞い散らせていく。
 その位置は、味方の範囲攻撃の範疇だが――一度や二度喰らう事など関係ない。
 冷気が満ちていく。
 冷気は霞のようになってイレギュラーズや兵士達の一部を巻き込み、強烈にその足元を凍てつかせる。
 才蔵は引き金を弾いた。
 精密なる狙撃は無限の如き弾丸の驟雨を牧だけを躱して叩きつけていく。
 何匹もの鳥が地面へと体勢を崩して落ちていく。
 続けて兵士達がぶちまけた銃弾がのろのろ起き上がろうとしている2匹の呪鳥を撃ち殺したのを確認すると、再び兵の方へ視線を向ける。
「あとは冷気を纏っている奴を優先的に狙え!
 くれぐれも深追いと無理だけは止めろ!」
 指示に答えるように、兵士達が各々の弾丸を撃ち込んでいく。
 雷華は風雷を迸らせ、敵陣へと走り抜ける。
 三次元的な立体機動から、鳥たちの腹部に突き立てるように撃ち込む蹴りが、数匹の鳥の注意を引きつけていく。
 同じように稲妻を走らせる鳥が、苛立ちを露わに鳴いている。
 それに合わせるように、雷華は更に自らを包む風雷を迸らせる。
 突っ込んできた鳥を完全に無視して、逆にその身を晒すように動けば、他の鳥たちも雷華の方を向いていた。
 イグナートは多数の魔物の方へ姿を現すと直ぐに自ら名乗りを上げて数匹の注意を引いている。
 迫りくる鳥たちを引っ張るようにして移動した後、着地。
 静かに呼吸を整え、拳を固めていた。
「まずは――イッピキ」
 気功術により、呪腕を構えて押し出すように叩きつければ、インパクト以上に鳥が震え、地面へ落ちてきた。
 双弥は待っていた。
 未だ自身へ注意を向ける鳥たちが近づいてくる。
 じりじりと待ち続け――手を構えた。
「ここだ」
 術式の出力を上げて、放つ。
 ぶちまけられた破壊の衝動が数匹の魔物達を纏めて抉り取っていく。
「くるくるくるくる」
 ギュンギュン羽を回すアルヤンは雷華の方へ飛ぶ複数の鳥を見定める。
 急速に風を吸い込み、魔力を充填し、収束させていく。
 膨張しそうな魔力を無理やりに収束させ続けて、狙いを定め――
「どーん」
 その言葉と同時、全てを切り刻み、吹き飛ばす旋風が戦場を駆け抜けた。
 魔力の刃を抱く風は真っすぐに駆け抜けて多くの魔物の命を一撃で削り落とす。
 不可視の旋風はそれゆえに守りに徹すること敵わず、抉り落とす。


 戦いは続いていた。
 鳥の魔物の姿は既に戦場になく、イレギュラーズは嵐鳥の下へ集結していた。

 嵐鳥が大きく鳴いた。
 瞬間、鳥の全身から白い靄のようなものが立ち込め、やがて雹へと姿を変えていく。
 嵐鳥が羽ばたくのと同時、風にたきつけられたように雹が降り注ぐ。
 さながら氷で出来た隕石の如き損害を残し、弾丸が収束する。
「あたしの領主としての役目は、みんなが安心して暮らせるお手伝いをすること。
 この領地の主役はね、あたしじゃなくて、領民のみんななんだよ」
 雹の弾丸を潜り抜けて、コゼットは跳んだ。
 恨めしそうにこちらを見る嵐鳥へ、ふわり。
 頬に相当しそうな横顔を、裏拳の要領で盾ごと殴りつける。
 ぐらりと、嵐鳥が体勢を崩す。
 牧は嵐鳥の背後にあった。
「ここならば、躱せないでしょう」
 静かにその背中に着地すると、気力をかき集めて集中、そのまま思いっきり袈裟状に斬り伏せた。
 がら空きの背中へと振り下ろされた斬撃は、鮮烈に嵐鳥の身に傷を刻み付ける。
 回避行動を取らず、斬り伏せられた鳥が鳴いた。
「そうか……!」
 敵の様子を見ていたジェイクは遂に気づいた。
 敵の弱点は――背中だ。
 巨大な彼の鳥は、背中にいる敵に対して無防備になる。
 大空を舞う鳥故に背中を取られること自体が珍しいからというのもあるのだろうが、それ以前の問題がある。
「あの巨体と首の位置じゃ『後ろを振り向けないし、そもそも自分の身体に遮られて見えない』……完全な死角だ」
 思考を重ねながら、ジェイクは走る。
 コゼットへと集中する敵の背後へ回り込み、引き金を弾いた。
 放たれた弾丸は、低空飛行を続ける嵐鳥へ向けて駆け抜けた。
 炸裂した弾丸は漆黒の顎の如く苛烈に嵐鳥の生命を削り落としていく。
「此処からは俺達の番だな……! どの攻撃も厄介ではあるが……」
 同じように才蔵は前へ。
 射程の一番いい場所を陣取り、ライフルのスコープに目を通す。
 超視力を得た視線のその先。
「その厄介な翼……嵐だろうと狙い撃つ!」
 集中の後、絞った引き金を通じて、一発の弾丸が奔る。
 弾丸は長大な距離を遮られることなく走り抜け、翼の付け根辺りへと真っすぐに吸い込まれる。
「背中なら――いける」
 雷華は走り抜ける。
 バチリ――蹴りつけた足にスパークが走り、加速。
 嵐鳥へと真っ向から走り抜け、その足元で身を屈めてスライディングし、背中側へ。
 そのまま身を跳ね上げ、無防備な背中に到達すると、短剣を抜いた。
 短剣を投擲してその背中に叩きつけると同時、全身に纏う稲妻をワイヤーを通じて炸裂させた。
 身体を膠着させた嵐鳥めがけ落下すると、突き立つ短剣へと片足で踏み込んだ。
 より深く食い込んだ短剣による痛みで、嵐鳥が鳴いた。
 双弥は術式を展開させた。
「決定打を与えるのは俺じゃねえ、でも精一杯嫌がらせはさせてもらうぜ」
 二重の指輪を媒介として顕現するは神聖の術式。
 術式は赤輪が、黄輪が激しくまたたき、双弥の精神力を糧に一条の矢へと変質を重ねていく。
 強く引き絞り、真っすぐに撃ちだした神の矢は急速な加速を得て炸裂し、嵐鳥の首筋に突き立ち、大きな隙を作り出す。
 アルヤンはその瞬間を待っていた。
 自ら起こした風に乗って嵐鳥の背中へと飛んだまま、急速に羽をかき回す。
 羽から放たれたのは一条の稲妻。
 雷光は嵐鳥の両翼と胴体を絡めとり、刹那、激しい閃光を伴い炸裂する。
 ほぼ死に体となった嵐鳥へ、イグナートは拳を握り締める。
「大地のオキテに従って決着を付けようじゃないか!」
 背後、回り込んで放つは栄光を掴む一撃。
 苦難を破りさる修行の先に至る導き手たる拳。
 漆黒の魔力を引き、真っすぐに撃ち込まれた拳が嵐鳥の身体をめしりと軋ませる。
 それに続けるように、イグナートは拳を開いて構えを取る。
「――弱い者が喰われて死ぬ!」
 引かれた勢いのまま、再度突き出して、掌内と同時、敵の羽をむしり取る。
 剥き出しの皮膚目掛け、イグナートは再び掌底を叩き込んだ。


 才蔵の指揮と指示もあって、兵士達に傷を負った者はほとんどいない。
 負った者もいるが、命にかかわるような致命傷の者はいない。
 戦いを終えたイレギュラーズは打ち上げがてら、戦場にセットを置いてバーベキューを始めている。
「みんな、ありがとう」
 コゼットがぺこりとお礼に頭を下げる。
 そんなコゼットの周囲には、山ほどの焼き鳥があった。
 魔物だが、鳥であることにはかわりがないからと、焼き鳥パーティを開いたのである。
「いい腕をしいてるな。どうだい坊主ローレットに来ねえか?
 最近は魔物の動きが活発になっているし稼ぎ時だと思うぜ」
 ジェイクは一人の少年に声をかけていた。
 一人でも味方が多い方がいいからと。
 しかし、少年は小さく首を振って、申し訳なさそうに頭を下げる。
「僕達を受け入れてくれたここの人達を置いて逃げることをしたくないから今回は戦いました。
 でも、やっぱり僕達はもう戦いたくないんです。それに……そういうことをコゼットさんを通さずに決めるわけにはいきません」
「それもそうか……」
 ぺこりともう一度頭を下げて、少年はその場を後にして同じような立場らしい女性のいる方へ歩いていった。

 各々が打ち上げとばかりに焼き鳥パーティを楽しむ中、コゼットは少しだけ離れて、一同を見渡せるところに立つと、ホッと安堵の息を漏らす。
「ほんとに…よかった…」
 誰一人かけることなく、生きている。
 それが心の底から喜ばしかった。

成否

成功

MVP

蛇蛇 双弥(p3p008441)
医神の双蛇

状態異常

なし

あとがき

果たして羽毛が炎だったり冷気だったり電気だったりする鳥の肉が美味いのだろうか……なんて素朴な疑問はさて置き。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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