PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<リーグルの唄>奴隷解放戦線。或いは、湖上のオークション…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●招待状
 幻想。
 とある貴族の邸宅にて、ラサの商人パンタローネは食事をしていた。
 ゆったりとした緑の衣。
 金細工や宝石で着飾った痩身の男だ。
 美味い儲け話がある、と呼ばれてこの地を訪れたものの肝心の貴族は未だ姿を現さない。
「茶は一級品。ソファーの布も、部屋の丁度も、どれも金がかかっているな。けれど、調和がなっていない」
 ぽつり、と。
 部屋中にあるあらゆる品を見定めて、パンタローネはそう呟いた。
 彼は一流の商人だ。
 その目で見れば、物の価値もある程度判別できるし、それが幾らで売れるのかも予想できる。
 貴族の屋敷にある品々は、なるほどどれも高価であろう。
 けれど、物には組み合わせというものがある。
 高い物から順に並べたてたところで、時としてそれは互いの“価値”を台無しにする結果につながることもある。
「金はあるようだが品がない。ここの主は成金か? 儲け話があると聞いたが、期待ももてまい」
 と、そう告げて彼はカップに残った琥珀の液体を飲み干した。
 それから、ソーサーにカップをコトリと戻し席を立つ。
 時は金なり。
 儲け話があると聞いたが、肝心の屋敷の主が現れないのならこれ以上時間を無駄にするのももったいない。
 せっかくラサから、幻想の地までやって来たのだ。
 この地の名産を幾らかでも買い込み、ラサにある自分の店で売った方がよほどに儲けが出るだろう。
「……君、主殿はどうにも忙しい様子。パンタローネは帰ったと伝えてくれ。もしも用事があるのなら、こちらの宿へ使いの者を寄越すがいい」
 話ぐらいは聞いてやろう。
 そう言い残し、屋敷のメイドにパンタローネはメモ書きを渡し帰路につく。

 パンタローネの元に、貴族の使いがやって来たのはその日の夜のことだった。
 厚い謝罪の言葉に注いで、貴族の使いは一通の招待状をパンタローネに手渡した。
 それは、奴隷オークションの招待状である。
 内分けは、人間種が4人、鉄騎種、飛行種、海種、幻想種が各1人ずつの合計8人。
「会場は屋敷の裏にある湖、そこに浮く主の豪華客船内となっております。当日は選りすぐった戦士たちを護衛として10名配置しております故、何ら不安を抱くことなくオークションをお楽しみいただけます」
「……ふむ? 奴隷オークションね。これが儲け話というわけか」
「えぇ、今回はお試しということで。次回からは、ぜひパンタローネ様にもご参加いただきたいと主は申しております」
「なるほどな。確かに、奴隷は良い額で売れるのだろうが……」
 帰路に着く使いを見送って、パンタローネは招待状へ視線を落とす。
 数瞬、思案した後に彼はにぃと口角をあげて笑みを浮かべた。
「趣味ではないな。さて、誰かにこの情報を売れば、さて幾らになるかな?」
 例え金にならなくとも、音の1つでも売れるのならばラサから幻想にまで足を運んだ甲斐もあるというもの。
 将来の“得”を手に入れるため、パンタローネは静かに宿を抜け出した。

●カチコミ作戦
「やってやるです!! 奴隷解放戦線なのです!!」
 ふんす! と、鼻息を荒くして『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は拳を握る。
 これより一行が向かう先は、貴族屋敷の付近にある湖である。
 正しくは、湖の中央に浮かぶ豪華客船。
 それは奴隷オークションのためだけに湖に浮かべられたものだった。
「船の内部は最下層に奴隷たちの保管場所。次のフロアがオークション会場となる大ホール。甲板上には貴賓用の控室が複数用意されているです」
 今回、イレギュラーズはパンタローネの付き人としてオークション会場に乗り込むことになるだろう。
 都合8名の奴隷を確保し、10名の護衛を出し抜いて脱出する。
 可能であれば、参加者名簿か貴族本人を確保できればなお良いだろう。
 船には操舵室のようなものはない。
 湖に浮いているとはいえ、これは貴族の別邸なのだから。航海する機能など必要ないのだ。
 つまり、船から脱出するためには渡航用の小舟を奪うか、別途湖を渡る手段を用意せねばならない。
「貴族の名は“アゲシラオス・ヘイロタイ”。まぁ、さほどに良い評判も聞かないので、多少痛い目に合わせたところで誰かの恨みを買う心配もないのです。そして、危機察知能力に長けているのが特徴ですね」
 アゲシラオスに雇われた護衛は10名。
 それぞれ、剣や短銃で武装しており、その攻撃には【流血】や【呪縛】のBSが付与されている。
 特にリーダーを務めるカーティの指揮能力と戦闘能力は高い。
「カーティの得物は刃渡り1メートルを超える長剣とのことです。何らかの魔道具のようで【封印】の効果が付与されているです」
 10名の護衛が、当日どのように配置されているかは不明だが、少なくとも奴隷保管室へ繋がる通路に誰もいないと言うことはあり得ないだろう。
 また、作戦の内容によっては会場に集うオークションの参加者や、その同行者など30~40名ほどが騒ぎを起こす可能性もある。
 混乱に乗じて逃走を図ることも可能だろうが、場合によっては予定外のトラブルに巻き込まれる可能性もある。
 例えば、逃走に使おうとしていた小舟を他の者に奪われるなどだ。
「移動に使う小舟に乗れるのは1度に10名ほど。10人の奴隷を連れて逃げるとなれば、最低でも2隻は確保する必要があるのです」
 以上が作戦の概要だ。
 ユリーカは拳を突き上げ「行くですよ!」と、声を張り上げた。
 奴隷たちの解放に向けるユリーカの志気は高いらしい。

GMコメント

●ミッション
奴隷10名の奪還
※可能であれば主催者であるアゲシラオスの捕縛か参加者名簿の確保。

●ターゲット
・アゲシラオス・ヘイロタイ
悪徳貴族。
奴隷オークションの主催者である痩せて顔色の悪い小男。
彼は自身が悪人であると理解している。
彼は自身の身に迫る危険に敏感だ。
ある種の予知能力に近いほど、彼は危機察知能力と状況判断能力に長けている。
つまり当日は、イレギュラーズの潜入を知った段階で逃走に移ることだろう。

・カーティ×1
黒い衣と髑髏を模したマスクを被った護衛部隊のリーダー。
指揮能力が高く、また刃渡り1メートルほどの長剣を携えている。
身のこなしから判断するに、おそらく獣種かと思われる。

封技の剣:物中単に大ダメージ、流血、封印
 魔力を纏った剣による斬撃。

・護衛部隊×9
カーティ配下の護衛部隊。
アゲシラオスに雇われており、船内の各所に散っている。
剣と短銃を装備している。
万が一の場合、オークション参加者を巻き込まないよう命中に長けた者が多く集められているらしい。
とはいえ彼らは所詮雇われのならず者。
優先順位は、オークションの参加者よりも商品である奴隷の身柄と命じられているらしい。

剣撃:物近単に中ダメージ、流血
銃撃:物遠単に中ダメージ、呪縛

・パンタローネ
砂漠の国に拠点を持つ強欲な老商人。
護身用の武器として拳銃を持っているが、射撃の腕には期待できない。
アゲシラオスに招かれ幻想の地を訪れた。
奴隷売買を悪趣味と感じているのか、彼はオークション開催の情報をローレットへと売ったようだ。
オークション当日、イレギュラーズは彼の同行者として船内に乗り込むこととなる。

●フィールド
アゲシラオスの邸宅裏にある湖。
その真ん中に浮かぶ豪華客船。
湖の岸から豪華客船までの距離はおよそ60メートルほど。

船の甲板上には参加者たちの控室となる小部屋が多数。
その下のフロア、船内にはオークション会場となる大ホール。
さらに船の最下層には奴隷の保管室がある。
奴隷保管室の壁は厚く破壊は不可能。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <リーグルの唄>奴隷解放戦線。或いは、湖上のオークション…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月14日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
鍵守 葭ノ(p3p008472)
鍵の守り手
イスナーン(p3p008498)
不可視の
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
雑賀 才蔵(p3p009175)
アサルトサラリーマン
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
日高 天(p3p009659)
特異運命座標

リプレイ

●奴隷オークション
 貴族の屋敷のその裏手。
 広い湖の真ん中に巨大な船が浮いていた。
 一見すれば、それは単なる税の限りを尽くした船だ。けれど、その実態は航行能力など持たない単なるハリボテ。貴族“アゲシラオス”の所有する奴隷オークションの会場である。
「さて、近づいて来たぞ。引き返すことはもう不可能だが、覚悟は良いのか?」 
 小舟の一角。
 豪華な席に腰かけた老爺が告げる。
 豊かな顎髭を蓄えた彼の名は“パンタローネ”。この度、アゲシラオスの主催する奴隷オークションに招待されたラサの大商人である。
 奴隷売買に思うところがあったパンタローネは、その情報をローレットへ売った。
 その結果、奴隷解放のために集まった混沌戦士は都合8名。
「当然。奴隷のオークションなど不愉快ですね。是非とも再起不能なまでに懲らしめてやりたいです」
 パンタローネを横目に見やり、そう告げたのは『夜に溶け込む』イスナーン(p3p008498)であった。
 イスナーンの返答を聞き、パンタローネは満足そうに1つ頷く。
 次第に近づいて来る巨大船。
 その甲板には、着飾った貴族たちが談笑している姿が見える。
 一見するだけならば、暇と富とを持て余した貴族たちのパーティー会場のようにしか見えないだろう。
 けれどその実、誰もが見目麗しい奴隷を買おうとその場に集った、悪徳貴族たちである。

 豪華客船の甲板。
 そこに造られた1室が、パンタローネに割り当てられた控室であった。
「個人的に奴隷なんて趣味じゃないが……ま、暇を持て余した大人は悪い遊びにハマるもんだ」
 給仕の運んだ酒を煽って『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)が呆れたような溜め息を零す。
 室内にはパンタローネ、ブライアン、そして『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)の3名のみが残っていた。
 残るメンバーは、それぞれの役目を果たすべく、既に船内に散っている。
 酒とつまみを楽しみつつ、時間を潰すこと十数分。
 リィンゴォン、と船全体に鐘の音色が鳴り響いた。それを合図としたように、貴族たちが動き始めた。向かった先は船の内部。奴隷オークションの会場だ。
「……さぁ、仕事の時間だ。俺たちは俺たちのやるべき事をやろう」
 ずれた眼鏡を指で押し上げ、才蔵は席を立ちあがる。

 物陰に潜む少女が1人。
 羽織ったマントで顔を隠した彼女の名は『光の槍』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)。狐の特徴を持った義賊である。
「これだから貴族は……悪い貴族ばかりでないことは知っていますが自分の欲を優先する貴族の多いこと……。自分がされたら悲しいことは人にはしないということなんて子どもだって知っているのに」
「応よ。奴隷の売買とかそんなんゼッテーやっちゃいけねえに決まってるだろ!」
 マントの襟に身を隠し『鍵の守り手』鍵守 葭ノ(p3p008472)はそう告げた。30センチ少々という小柄な身体。妖精にも似た容姿の青年であり、その背には蜻蛉のそれに似た翅があった。
「まぁ、趣味が良くないことは理解できます。というか依頼人も中々アレな人ですよね」
「パンタローネの爺さんか。なかなか食えねぇお方だったよな」
 と、言葉を交わす『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)と『被吸血鬼』ヲルト・アドバライト(p3p008506)。依頼人であるパンタローネの性格に思うところがあるらしい。
 相手は悪徳貴族。
 とはいえ、パンタローネの行いは裏切りと言えばその通り。
 土壇場になれば、イレギュラーズとて売り払うだろうことが予想できた。
「とはいえ、既に事は始まってんだ。迷う必要はない、なんとしてもオークションを潰して奴隷にされた者たちを助け出す。今はそれが最優先だろ?」
 なんて、言って。
『特異運命座標』日高 天(p3p009659)はきつく拳を握りしめた。

●混沌渦巻く豪華客船
 豪華客船の構造は以下のようになっていた。
 甲板には参加者たちの控室。
 その下には、奴隷オークションの会場となる大フロア。
 最下層には奴隷たちの保管庫がある。
 加えて、カーティという名の男をはじめとした護衛部隊が合計10名。
 アゲシラオスの身と、商品である奴隷たちを守っている。
 大ホールに移動したパンタローネと、ブライアン、才蔵たちの目の前に大仰な仕草で歩み出てきた男が1人。
 ガリガリに痩せた小男であるが、彼こそがこの度の主犯アゲシラオスに他ならない。
「はぁん? あいつがアゲシラオスか。いかにも悪人ってな顔付きだな」
 などと宣いながら、ブライアンはテーブル上のサンドイッチを手に取った。
 片手でサンドイッチを口に運びながら、するりとその手を給仕の女性の尻へと伸ばすが、そちらはあっさり躱される。
 じろり、とブライアンを睨むパンタローネ。「品性に欠ける真似をしないでくれ」と、その瞳は告げていた。
「用心深く、危機察知能力に長けてるって話だったか? とてもそうは見えねぇが」
「人は見かけによらぬものだよ、ブライアン。最前列に並ぶ者のうち数名は貴族や商人でなく護衛だろう。あいつらからは金の臭いがしないからな」
 酒を煽るブライアンへ、パンタローネは注意を促す。
 金の臭いに敏感なパンタローネならではの読みであろう。こうして貴族たちを呼び集めておきながら、アゲシラオスは何よりも自身の身の安全を優先しているということだ。
 例えば、貴族の誰かがアゲシラオスに刃を向けるような真似をすれば、護衛たちが即座に排除へ動くはずだ。
 その隙に、アゲシラオスは逃走を図ることが予想された。
「問題ないさ。俺のギフト『狩人の直感』はそう言う手合いを追い詰める為のギフトだからな」
 と、そう告げて才蔵は眼鏡を押し上げる。
「さて、皆さん。随分と長らくお待たせして申し訳ない。長ったらしい挨拶など抜きにして、早速オークションを始めましょう」
 なんて、かさついたアゲシラオスの声がフロアに響き渡った。
 彼がパチンと指を弾けば、ステージの上に拘束された翼種の女性が引き出された。

 一方、そのころ。
 オークションの開始と同時に、イレギュラーズは最下層への進行を開始した。
「湖に浮かんだこのハリボテを船、か。うへ、趣味わりぃ」
 先陣を切って駆けるヲルトは壁を殴ってそう呟いた。
 頑丈な壁だ。護衛たちを逃がさぬようにという思惑が透けて見える。
 ゴォン、と響いた低い音に反応し「誰だ」と誰何の声が響いた。階下の暗がりから聞こえたその声は、護衛兵士のものだろう。
「っと、出て来たか。よし、ここはオレに任せとけ。オレはちょっとダメージ受けたくらいから調子が出てくるタイプなんでね」
 走る速度を上げたヲルトは、腕に巻かれた包帯を解く。
 包帯の下の傷口から溢れた血液が、瞬間、彼の腕を紅に染めた。
 暗闇の中、妖しく光る血に濡れた腕。飢えた獣のごとき赤い瞳。
 それを見た護衛兵士は、ほんの一瞬、恐怖した。得体のしれない侵入者に剣を向けるも、竦んだ身体は意思に反して動作を拒む。本能と理性の乖離による僅かな隙。
 その一瞬を付いて、ヲルトの拳が護衛兵士の頬を打ち抜く。
 その隙に、と仲間たちはさらに奥へ。
「侵入者だ。とっ捕まえろ!!」
 護衛兵士の数は4人。
 そのうち2人はヲルトへ対峙し、残る2人はイレギュラーズを追い立てる。
「ここが誰の船か分かってやってんだろうな!」
 怒号と共に、兵士の1人が剣を振るった。
 一閃。
 殺意の乗った鋭い斬撃。刃の先にはルルリアの細い背があった。
 けれど、その剣が彼女の身体を裂くことはない。
「っ……!」
 その身を盾に、斬撃を受け止めたのはルーキスだった。
「依頼遂行の為ならば、この程度の痛みなど些細な事です」
 腰に差した2刀を抜いて、ルーキスは言う。
 振り返り様に放たれた斬撃が、護衛兵士の胸部に深い傷を刻んだ。
 
 兵士の剣がルーキスの頬を切り裂いた。
 彼は血の雫を飛ばしながらその場に深く身を沈める。
「疾!」
 短く息を吐き出すと刀を一閃。兵士の脚を切り裂いた。
 姿勢を崩した兵士の顔面にヲルトの拳が突き刺さる。噴き出した血は、意思を持つかのように蠢き、兵士の顔を朱に染め上げた。
 苦しみ、呻く兵士へ向けてヲルトは告げる。
「アンタは自分の手によってその身を血で染めることになるよ。恨むなら恨むといい」
「心配せずとも殺しはしませんよ。ギリギリのところで、ですが」
 そう言ってルーキスは狂気状態に陥った兵士を一瞥。
 踵を返し、次の相手へ斬りかかっていく。

 奴隷保管庫で起きた騒ぎは、当然ながらオークションホールにも伝わっている。
 ざわめく客たち。
 怒声をあげるアゲシラオス。
 困惑した表情の翼種の女性。
 様々な感情が交差する中、パンタローネは1人ひっそりとフロアを後にする。
「っし、行くか」
「だな。仕事の時間だ」
 ブライアンと才蔵は、騒ぎに乗じて行動を開始。フロア前方に詰めていた2人の護衛を躊躇いもなく殴りつけ、軽い動作でステージへ上がった。
 即座に逃げだすアゲシラオス。
 それを追い駆ける才蔵。
 ブライアンは、翼種の女性の救出へ向かう。
 その騒ぎの中、パンタローネに続きオークション会場から出ていこうとする貴族の姿を確認し、イスナーンは足早にその者の元へと向かう。
「私パンタローネさんの所で見習いをしているイスナーンと申します」
「パンタローネ? あぁ、ラサの商人だったか……商売の話なら、日を改めてもらえるかな? 私は一刻も早く、この場を後にしたいのでな」
「えぇ。そうでしょう。それがいいと思いますよ。実はですね……私はローレットの人間でして今回の奴隷オークションを摘発して奴隷を助けに来たのです」
「……ほぅ?」
 イスナーンの言葉を聞いたその貴族は、すいっと顎でフロアの外を指し示す。
 続きは外で、とそういうことだ。
 にぃ、と口元に笑みを浮かべたイスナーンは貴族を伴い急ぎ足でフロアを後にした。
「あぁ、イスナーン君だったか。そこの男が扉の鍵を持っているはずだ。中にいる貴族たちの身の安全のためにも、施錠しておいてやったらどうだ?」
 そう言って貴族は扉番の男を指示した。
「えぇ、それがいいでしょうね。ご協力、感謝します」
 なんて、言って。
 イスナーンは、腕を掲げた。手首にはめられていた腕輪が、ぐにゃりと形状を変えカトラスへと変化。
 扉番の男は慌てて剣を構えたが……残念ながら、遅すぎた。

 汗や血、そして黴の臭いに満ちた空間だった。
 並ぶ無数の牢の中には、奴隷となった者たちの姿。人間種はもちろん、鉄騎種、飛行種、海種、幻想種も少数ながら存在している。
 誰もが粗末な衣服を着せられ、手足を鎖で繋がれていた。
「なるほどな。アゲシラオス様は、こうなることを予想していたのか」
 そう告げたのは黒い衣服に髑髏の面を被った男だ。護衛部隊のリーダーであるカーティであろう。彼が無言で片手をあげれば、イレギュラーズの背後から数名の兵士が現れた。
「やっぱり一筋縄じゃいかないよな。鍵守さん……奴隷の解放は任せていいか?」
 拳を握り、天は1歩前へ出た。
 警戒心も顕わに、カーティはゆっくりと剣を掲げた。
 直後、カーティの構えが整うよりも早く、天は床を強く踏み込み跳び出した。
 カーティは慌てて剣を振り下ろすが、間に合わない。
「くっ……ぉお⁉」
 降り抜かれた天の拳が、カーティの顔面を打ちのめす。

 鳴り響く銃声。
 狭い通路を鉛の弾が弾け回った。
 ライフルを構えたルルリアは、護衛部隊を牽制しつつ後ろへ下がる。
 彼女の背後には並んだ牢屋。
 そして、蜻蛉の翅で宙を舞う葭ノの姿があった。
「見たところ牢屋の鍵は見当たりません。きっとカーティかアゲシラオスが持っているのでしょうが……」
「問題ねぇよ。鍵の解錠はギフトでやるからな!」
 手近な牢に取りつくと、鍵穴へ向け葭ノは小さな掌を翳した。
 静かに目を閉じ、集中すること数秒。
 ガチャン、と重たい音を立て牢の扉が解錠される。鍵をかける、開けることに特化した彼のギフトによるものだ。
 唖然とした海種の少女へ手を差し伸べて、葭ノはにぃと微笑んだ。
「さぁ、逃げるぜ」
 差し伸ばされた葭ノの手を少女が取ったその直後。
 手首に嵌った鋼の錠が、ガチャンと重たい音を鳴らして床に落ちた。

 ルルリアが護衛部隊の気を引くうちに、葭ノは次々、牢の鍵を開けていく。
「行かせるな!!」
 カーティが叫ぶが、間に合わない。
 護衛部隊の1人は、腹部に弾丸を受け意識を失う。残る2人も、ルルリアの正確な射撃に阻まれ、思うように前進することは出来ないでいる。
 相手も銃で応戦するが、ルルリアの牽制射撃によって狙いを定められないのだ。
「くっ……いった」
 とはいえ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるというもので。
 めちゃくちゃに撃たれた弾丸が、ルルリアの肩を深く抉った。

●奴隷解放戦線
 流れる血が止まらない。う
 カーティと打ち合う天は、朦朧とする意識を【パンドラ】を消費し繋ぎ止めた。
 “殺った”と、カーティはきっと確信していたのだろう。
「まだ息があるか」
 努めて冷静を装っているが、その声には僅かな恐れがあった。
 一瞬、彼は怯んだのだ。
「足止め役なのでな。そう易々と倒れられん」
 淡々と天はそう告げた。
 1歩。
 気圧されたカーティは、思わずといった様子で後ろへ下がった。
「今なら……っ」
 仕留められる、とそう確信を得たのだろう。
 ルルリアの放った銃弾は、天の顔の横を通過しカーティの腹部を撃ち抜いた。膝を突き、倒れたカーティ。その部下たちの放った弾丸がルルリアを射貫くが、リーダーを失った護衛部隊の面々は浮足立っている。
「よし。カーティが倒れたならこっちのもんだ。さっさとここから逃げ出すぜ!」
 牢に捕らわれていた奴隷の解放は成った。
 燐光を散らし舞う葭ノを先頭に、奴隷たちが通路を駆ける。傷ついたルルリア、天も互いに肩を支えながら逃走を開始。
 護衛部隊が通路を阻むが、囚われていた怒りに燃える元奴隷たちに殴り倒されていく。
「皆さん。逃走経路は確保しています!! こちらへ!」
 逃げる一行の前にイスナーンが現れた。
 彼と、その協力者たる貴族の活躍によりオークションの参加者たちは全員ホールに閉じ込められている状態だ。
 当の貴族とパンタローネは既に逃走済み。後は奴隷を連れて脱出するだけといった状態である。

 ルーキス、ヲルトとも合流した一行は葭ノの船に乗り込んだ。
「初めての依頼だったが、まぁ首尾は上々かな?」
「後はアゲシラオスの身柄を確保できれば文句なしなのですが」
 2人とも多少の傷は負っているが、未だ戦意は衰えていない。それぞれ臨戦態勢を整えており、必要とあらば即座に豪華客船へ引き返す心算であろう。
「っと、ブライアンさんも無事のようです。となると、後は才蔵さんだけですか」
 ルーキスの視線の先には、翼種の少女を連れたブライアンの姿があった。
 アゲシラオスの後を追うようにして、オークション会場から脱出してきたのだろう。
「よぉ、貴族どもは?」
「ハッハー! 大人しくしてるよう脅しておいたぜ。でけぇガタイと人相の悪さ、こういう時しか役に立たねえがな!」
 わざとらしく悪人染みた笑みを浮かべ、ブライアンは握った拳で自身の胸を叩いて見せた。そんな彼の隣では、助けられたはずの翼種の女性が怯えた様子で身を竦めている。

 背筋に走る悪寒に恐怖し、アゲシラオスはみっともなくも頭を抱えて蹲る。
 その頭上を、才蔵の放った弾丸が通過。
 危機一髪のところで、アゲシラオスは命を拾った。
「しつこい男だ。まるで猟犬だな」
 震えた声で悪態を吐き、彼はすぐに走り出す。専用に作った逃走路を逃げているというのに、才蔵は迷いなく後を追って来る。
 才蔵のギフトは、まさにアゲシラオスにとって天敵といってよいものだ。
「奴隷どもはもう連れ出したのだろうが! 私を追ってどうするというのだ!!」 
 堪らず、アゲシラオスは叫び返した。
「どうせ貴様の事だ参加者名簿諸共持って逃げているのだろう!」
 怒鳴り返す言葉。
 そして、銃声。
 アゲシラオスは壁に身体をこすりつけるようにして、それを回避した。危機察知能力を得意とすると宣言するだけあって、かなりの回避能力だ。
 呆れるやら感心するやら。
 狭い通路を通り抜け、アゲシラオスは甲板へと出た。
「しめた! おい、船を出せ! 曲者だ!」
 豪華客船に着けられていた一隻の船へ飛び込むなり、彼は怒鳴った。
 だが、しかし……。
「おぉ、飛んで火に入るなんとやら……ってな。いけ好かないヤローをふん捕まえる機会に恵まれて、俺は実に幸運だ」
 その顔面にブライアンの拳が突き刺さる。
 アゲシラオスの飛び乗った船は、葭ノの用意したものだ。気絶したアゲシラオスの懐から、参加者名簿を回収し、ルルリアはにぃと笑みを浮かべた。

成否

成功

MVP

鍵守 葭ノ(p3p008472)
鍵の守り手

状態異常

ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)[重傷]
光の槍

あとがき

お疲れ様です。
奴隷は無事に解放され、アゲシラオスは捕縛されました。
依頼は成功です。

この度はご参加ありがとうございました。
ギフトが活きていたように思います。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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