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シナリオ詳細

海霧

完了

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ネオ・フロンティア海洋王国近海、夜。
 舷縁を越えて立ち昇る白い煙が海霧だとわかるのは、闇の色を裂いてしぶく波のせいだ。帆船は首都リッツパークの港を目指して黒一色の夜の海を静々と進んでいた。
 突如、黒い夜が割れて、前方からボロボロに崩れた船嘴(せんし)が現れた。
「主舵いっぱい!!」
 わずかに時間を置いてから、押し出されるようにして船首が右に向いた。
 甲板に出た水夫たちのすぐ前を、ボロボロの船体が通り過ぎていく。擦れる音が、耳を塞ぐ程に体を伝って響いていた。
 このまま通り過ぎてくれ。祟らないでくれ。もうすぐなのだ、家族が待つ港まで。
 水夫たちはみな、神に祈りを捧げた。
「お、おい……あれを見ろ――生きている人がいる!?」
「なんてこった。ああ、間違いない。マストに人がいるぞ!」
 幽霊船とすれ違った商船の水夫たちは確かに見た。
 船体が波にのまれた船のマストの上で頼りなく揺れる、小さくも暖かな光を。
 その火が照らす、少年の怯えきった顔を。 
 生き返った死者たちがマストを囲んで見上げているのを。


「よく来てくれた。ちょいと毛色の変わった海賊退治の手伝いを頼みたい」
 まあ座ってくれ。『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は、イレギュラーズたちに椅子を進めた。
「このところネオ・フロンティア海洋王国の近海で、相次いで幽霊船が目撃されている。最新の情報によると、幽霊船に『少年』が乗っていたらしい。目撃した水夫たちの話では、どうやら少年は幽霊たちに囲まれて逃げられないようだ」
 クルールは色のない薄い声でイレギュラーズたちに告げた。
「船乗りたちはみな、迷信を信じて幽霊船と関わりたがらない。だが、もし自分たちが見たのが本当に生きている子供だったら……見殺しにするのは嫌なんだと」
 船はリッツパークのとある豪商が寄与してくれるらしい。イレギュラーズたちへの報酬も、その豪商がだしている。
「ついでに幽霊船を退治してくれ、と頼まれた。交易に差しさわりが出てきているんだと。操船技術を持つものが最低一人いるが……ま、いなきゃいないで俺が舵をとる。幽霊船に乗り込む度胸のあるヤツに来てもらいたい」

GMコメント

●依頼条件
 ・少年の保護。
 ・幽霊船の撃破。

●時間と場所
・ネオ・フロンティア海洋王国近海。
・夜 曇り。月明りなし。真っ暗です。

●幽霊船とよみがえった死者と幽霊たち。
・幽霊船
 もともとは海賊船だったと思われる船。
 砲列甲板が二層になっている。
 これまで、大砲が撃たれたという話は聞かれていないが……。

・幽霊たち 29体
 甲板に15体。うち1体は舵をとっている。
 船内に14体。うち10体は大砲の傍にいる。
 【憑依】……至単神/不吉

・よみがえった死者 1体
 マストの近くにいる。
 【切る】……近単物/出血
 【噛む】……至単物/致命
 【叫び】……遠列神/暗闇

●少年
 ・鳥種のようだった、との証言あり。
 ・ひどくやせ細っていたらしい。
 
●その他
・PCたちの船
 武装商船です。砲列甲板が一層の中型船。
 左右にそれぞれ4門、大砲が備えつけられている。
 大砲は使用可能だが、一台につき1人必要。
 ※PCに操船系のスキルを所持する者がいなければ、クルールが舵をとります。
 ※クルールは幽霊船には乗り込みません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

よろしければご参加ください。
お待ちしております。

  • 海霧完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月20日 21時45分
  • 参加人数 9/9人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(9人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
大いなる者
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
ヨハン=レーム(p3p001117)
砲兵隊長
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運

リプレイ


 海に伸びる月の光の上を、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が舵を握るビッグドリーム号が進む。
 『魔剣少女』琴葉・結(p3p001166)は明かりの落ちたデッキで手すりに腰を預け、肩越しにぼんやり海面を眺めていた。
「幽霊船に生存者か。そもそもなんで幽霊船にいるのか不思議だけど、そこら辺は救助した後に少年から聞いてみれば判るかしら?」
 肝試しかもしれぬぞ、とデイジーが言う。
「妾も幼き頃は幽霊船の話で脅かされたものじゃが、今となっては怖くもなんともないのじゃ」
「こんな沖まで?」
 と言った後で結は海を渡る鳥がいることを思い出した。少年にとっては住んでいる島からちょっと離れただけ、深夜の散歩だったのかもしれない。その散歩の途中で偶然、幽霊船を見かけ、少年らしく好奇心を発揮して――。
 腰に下げた剣が手すりにあたり、甲高い音を立てた。
『イヒヒヒ。臭う……臭うぜ、結。あの情報屋、やっぱり結たちに話していないことがあるぞ』
「なんじゃ、ズィーガー。起きておったのか。港を出てから以降、ぱったりと喋らなくなったから、妾はてっきりお主は寝てしまったのだと思っておったぞ」
 ズィーガーは意思を持つ魔剣、結の実質的な支配者だ。ただ、普段は何かと面倒なので彼女を自由にしてやっている。
『いろいろ考えていたんだよ、いろいろとな』
 デイジーは舵を固定したまま結たちを見つめ、話の続きをまった。一体、クルールが何を隠しているというのか。
 だが、いつまで待ってもズィーガーは黙り込んだままだった。
「……なんにせよ、親御はえらく心配しておるはずじゃ。早く助けて家に帰してやらねばの」
 デイジーはゆっくりと海へ顔を向け、夜の闇に仲間の船影を探した。

 海に半身を出して吐く陰陽 の 朱鷺(p3p001808)の背を上下にさすりながら、『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は『囁く太陽の影』の内なる声に耳を傾けていた。
「裏って何だよ、裏って……はっきり言ってくれなきゃわかんねえ」
 自分で考えろ、と冷めた声が脳内で響く。
 一悟は手を止めた。肩越しに舵を握る男を見る。
 喉が渇いたな、と、思った。漁師たちに『幽霊船を退治し、少年を助けに行く』と大きな声で言ってまわったせいで喉が渇いていた。『囁く太陽の影』がどうしてそんなことを一悟にさせたのかまったく解らない。
 ちなみに火籠は一つも借りられなかった。
「やっぱ、わかんねえ。ヒントくれよ」
 依頼主、とだけ呟くと、それっきり『囁く太陽の影』は沈黙した。
 クルールが「雲が出てきた」と言うのを聞いて、『空き缶』ヨハン=レーム(p3p001117)は頭に手をやり、サイバーゴーグルを降ろした。
(「僕がいちばんに幽霊船を見つけて、みんなに知らせるんだ」)
 間もなく、多数の目撃証言が重なる幽霊船の出現海域だ。情報どおり、どこからともなく雲が湧き出て、あれよあれよという間に月を覆い隠した。
「すれ違った幽霊船に見えた子供を助けようだなんて、海洋の船乗りはだいぶ有情なんだねー」
 張り切るヨハンの横で、『悪意の蒼い徒花』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)が目を凝らしながら言った。
 船員たちが見たというマストの明かりを、超視力を使って探しながら反応を待つ。
「ほんとだね。海洋の船乗りさんはみんないい人たちだなーって、僕も思ったよ」
 左舷側を見張るヨハンの頭越しに、クロジンデは沈黙を守るクルールの横顔を盗み見た。
(「セントエルモの火は素直で可愛いなー。それに比べて……道化師のマスクはダンマリか。ま、万が一にもイレギュラーズたちを危険にさらすようなことはしないだろうけどー」)
 すればギルドマスターのレオンが黙っちゃいない。クルールはローレットで仕事ができなくなるばかりか、その庇護を失い、果てはかつての仲間たちに追われることになる。
 クルールが何かやるとすれば、自分たちが依頼を終わらせた後だとクロジンデは睨んでいた。
 サイバーゴーグルをつけて右舷側を見張りつつ、『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は頭の中に浮かんだ一つの疑問をずっと持て余していた。
 どう考えても理屈に合わない。
(「幽霊船に少年が一人……てか、いったいどうして乗り込んでしまったのか?」)
 仮に肝試しだったとしよう。いまは夏だ。真夜中に家を抜け出して、悪友たちと冒険に繰り出す――そうなのだ、肝試しというものは一人でやっても面白くない。それなら少年の友だちはいまどこにいる?
 1人で真夜中の海に出ていって幽霊船に遭遇したとしよう。家を出た理由はなんだ。親とケンカしたからか。では少年の親はいま、どこで何をしている?
 メートヒェンは今更ながら、依頼主が少年の両親ではないことに気がついた。依頼主は海運業を営む豪商だ。この豪商が少年の親であれば、クルールもそういっただろうし、ローレットに救出を依頼するのも自然な話なのだが……。
(「うーん、わからない。その辺りは後から確認すればいいかな、怖い思いをしているだろうし、まずは助け出してあげよう」)
「そろそろ明かりをつけてもいいんじゃないデスかぁ?」
 『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)は、船縁を越えて海から上がってくる霧を手でかき回した。
 霧は美弥妃の持つカンテラの光を通してゆっくりと過を巻き、優しく柔らかなほのぐらき物のように甲板に広がりだした。そろそろと這い進んで、ぐったりと横たわる朱鷺の体を上掛けのように覆う。
「……やっぱり見てあげましょうか? 朱鷺さん、顔が真っ青デスしぃ」
 やっとりことで顔にサイバーゴーグルを装着した『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)が首を振って止める。
「我輩も心配ではあるが……港に戻るまで我慢してもらうであるよ。美弥妃殿には戦いまで力を温存していて欲しいのである」
 帰ったらこのサイバーゴーグルを竜人の顔にすんなりつけられるよう改造してもらおう、とボルカノは思った。
「あ! あれじゃない?!」
 ヨハンが声を上げた。
 一悟はあわててたいまつに火をつけた。朱鷺の傍を離れ、ヨハンに駆け寄るとヨハンのたいまつに火を移す。メートヒェンもカンテラをつけたが、それでも全然光量が足りない。
「あ~あ、照明器があればねー」
 ロジンデはギルドの倉庫をあさったが、目当てのものを見つけることができなかった。薄く光る蝶の髪留めを二つ身に着けているが、暗闇で同士討ちを防げるという以外は役に立ちそうにない。
 闇中にぼんやりと小さく船影が見えた。まっすぐこちらへ向かってくる。風がないにもかかわらず、ありえない速さで。
 クルールが主舵をいっぱいに切って、正面衝突をかろうじて回避した。二つの船の間で行き場を失った波が高くせり上がり、イレギュラーズたちが乗る船の横ッ腹を押す。
 ボルカノは片手で強くデッキの縁を掴んで傾く甲板を踏ん張りながら、波しぶきを挟んですれ違う幽霊船を見上げた。
「ヒエエエ、幽霊船……! どうしてそんなのに乗っているのであるかな、少年!」
 ボルカノは見た。幽霊船の帆を畳んだ主マストの上で、小さな明かりが揺れるのを。その火が照らす怯え切った顔を。
「しかし、要救助者なら早く助けないとであるな……!」
 是非もない。
 中型武装商船はできる限り速やかに回頭すると、幽霊船を追った。

「デイジー!!」
「わかっておる! 妾に任せよ、ばっちり真横につけてやるのじゃ」
 結はたいまつに火をつけると舳先へ走った。闇にたいまつを突き出して、少しでも幽霊船を照らそうとする。
『おいおい、結。落ちるなよ。こっちは泳げないし、飛ぶこともできないんだからな』
「大丈夫。それより、ズィーガーも見たでしょ!?」
 ビッグドリーム号は仲間の船と挟み込む形で幽霊船とすれ違った。その際、結とデイジーは幽霊船の甲板や砲窓から半身を乗り出したまま白骨化したおびただしい死体を見ていた。
『そんなに興奮することか? 幽霊船だぞ。空き缶を持った死体で船を飾りつけ、なんてのは普通だ』
 何が普通なのか?
 結が首を振ったその時、船が寄せ帰しの波に持ち上げられて大きく揺れた。
「いまじゃ!」
 布巻にされた長剣を携え、たいまつを掲げた結がデッキから飛び立つと、幽霊船の側面で次々に爆発が起こった。
 デイジーは急いで舵を切ると幽霊船から急いでビッグドリーム号を離した。この程度の横波で転覆することはないが、船内のシャンデリアが落ちて割れ、毛足の長いカーペットに散らばると面倒だ。もっとも、清掃するのはクラーク家の使用人たちなのだが。
(「それにしてもじゃ、あの骸骨たちのことは一切聞かされておらぬぞ」)
 情報にない。つまり、幽霊船はいつも左舷側を見せて他の船とすれ違っていたことになる。そこに意味があるのか、ないのか……。
 デイジーはビッグドリーム号を幽霊船とつかず離れずの距離を保ちつつ、並走させた。
 白髪に伴う音と光に驚いて、マスト周りにいた幽霊たちが一斉に右舷へ顔を向けた。武装商船を見つけて左舷に向かっていた数体の幽霊も、その場で静止する。
 結は甲板に降りたった。
「こんばんわ、お邪魔するわ」
『イヒヒヒ、邪魔するぜ』
 骨に腐った肉をわずかに纏わせた死体が、侵入者へ剣先を向けた。幽霊たちが一斉に動く。
 ――ガッ、ガガガガガガッ。
 右舷で衝突音が響いた瞬間、連続する激しい振動が甲板にいるものたちを襲った。暗い夜空から小さな悲鳴が甲板に落とされる。悲鳴はそのまま、甲板で跳ねず、甲板にあいた奈落のような穴に吸い込まれていった。
 船同士が激しく擦れあい、木くずが散る。波が中型武装船を押し上げる。
 こちらの船が一番高い位置に上がる直前に踏み切れれば良いのだが、ちょっと遅れると、下降する船から飛び移ることになってしまう。指示を出すタイミングが重要だ。
「行け!!」
 幽霊船の舷縁とほぼ高さが揃うと一悟が叫んだ。
 ヨハンとクロジンデ、メートヒェンがそろって膝を屈めた瞬間、わずかに武装の舷縁が幽霊船のそれを上回る。三人は船と船の間にできた暗い裂け目の上を迷うことなく飛び越えた。
「よし! 次は吾輩たちの番であるな。クルール殿、よろしく頼むであるよ」
 船体をぶつけて波を立てるために、クルールは船を離した。再び幽霊船が目の前に迫ってくると、美弥妃と一悟、ボルカノは舷門の縁に並び立った。
「飛べ!」
「飛び移ったら前に進まないで! 甲板に穴が開いているから!」
 メートヒェンの警告とクルールの飛び移り指示が重なった。一瞬の迷いが三人に飛び移りのベストタイミングを逃させた。
「まだ行ける! 飛ぶぜ」
「は、はいっデス!」
 武装商船の舷縁はすでに幽霊船の舷縁の下になっていた。三人は幽霊船の縁に腕だけでしがみついた。
 ボルカノが腕一本で自分を支えつつ、美弥妃の腰を掴んで持ち上げる。
 先に這いあがった一悟が美弥妃の腕を取って幽霊船に引き上げた。
「そこ、気をつけてくださいデス。板が腐っています」
 ボルガノは甲板にあがると、ずれたサイバーゴーグルをきちんと装着した。
「……むむ、でこぼこであるな。板は吾輩の重さに耐えてくれるであろうか」
 甲板ではすでに戦闘が始まっていた。
 クロジンデが危なっかしく穴の縁を回り込みながら、船尾甲板で操舵輪を握る幽霊に向かっていく。その手前ではメートヒェンが足元にカンテラを置いて、幽霊相手に盾を振るっていた。
 ヨハンはマストの前にいた。少年を守るべく保護結界を張っている。駆けつけた一悟が、幽霊たちの攻撃からヨハンを守っていた。
「ワタシもいま行くデスよ!」
 美弥妃が飛び移りの衝撃でひびの入ったカンテラを揺らしつつ、メートヒェンの元へ向かう。
 見上げると、結らしき影がマストの先端で揺れる明かりに向かって飛んでいくのが見えた。
 ボルガノは両手を口の周りにあてると即席のメガホンを作った。
「助けに来たのであるよ少年! 我輩達はイレギュラーズ! もう少しだけ頑張るのである!」


 結はこちらの素性を探っている少年の目をまっすぐ見据えた。
「いまの、聞いたでしょ。依頼を受けて助けに来たの」
 年のころは十二、三。まだ幼い頬が削げて、やたら目ばかりが大きく見える。
 少年は縄で柱に自分の体を括りつけていた。カンテラの鎖を左手に巻きつけている。海に明かりを見つけるたびに、右手一本でカンテラをつけて助けを求めていたという。
 それだけのことを聞き出すのにずいぶんと時間がかかってしまった。詳しい事情徴収は後回しだ。
 怯える少年を宥めすかし、傷の程度を調べるために翼をゆっくりと広げた。ひと目で撃たれたと分る銃創傷が左の翼の根元にあり、人でいうところの肩甲骨を砕いていた。これでは飛べない。抱きかかえて下に降りるしかないだろう。
 結は少年の背後に回り込むと、ズィーガーに頼んで縄を切ってもらった。
「デイジー、頼んだ!」
 デイジーは一悟が投げ落とす幽霊たちを、片っ端から大壺蛸天から飛ばす水球で撃ち砕いた。衝撃で砲窓からぶら下がった死体のいくつかが揺れ、骨が鷲掴みにしていた缶詰が海に落ちた。
(「クラーク家のものがゴミを海に残すわけにはいかぬのじゃ……しかたない。拾うとするかの」)
 幽霊の落下が止むと、デイジーはビッグドリーム号を幽霊船に寄せた。
 救い上げた空き缶はラベルの文字がほとんど消えかかっていた。あの人たちはなぜ、この缶を大事に握りしめたまま死んでしまったのか。
 考えるのはもう少し後にしようと思った。いまは受けた依頼を果たすことが先決だ。
 ヨハンは少年を抱えて降りてくる結を守るべく、結界外に身を置いて幽霊たちの相手をしていた。
「美弥妃さん、こっち! 急いでください!」
 美弥妃を脇から結界内に通してから、追いすがってきた幽霊に重盾『海洋』をたきつける。暗い甲板に星が散り飛んだ。
 美弥妃は降ろされた少年を見て息を飲んだ。撃たれて折れた翼はもちろんのこと、縄でこすれた腹回りが赤く爛れ、皮膚がめくれている。太陽と潮風にさらされた顔や肩は水ぶくれだらけだった。
「すぐ手当をするデスよ。痛いの、痛いのとんでいけーデス!」
 美弥妃が放った柔らかな光が少年を包み込む。
 そのすぐ前で、メートヒェンとボルカノは蘇った死体を相手に丁々発止を繰り返していた。
 ぐらり、と船が揺れた。右に左に、動きが定まらずフラフラし始める。少しずつ船が沈み始めていた。
 どうやらクロジンデが操舵士――と近くの穴から上がってきた幽霊を倒したようだ。
 クロジンデはマストの根元にいる四人に向けて腕を上げると、とん、と飛んで穴から下へ降りた。砲をいくつか壊すつもりらしい。
「適当なところで切り上げろよ! 沈没に巻き込まれたら浮かび上がれねぇぞ」
 左舷で次々に浮き上がってくる幽霊たちを海に投げ込み終えて、一悟が走ってきた。
「……で、どうやって船に移す?」
 美弥妃がせっせと回復させているが、飛び移れるほど体力も気力も戻ってはいない。その証拠に少年は真っ青な顔で柱にもたれかかっていた。
「私が抱いて飛ぶ。デイジーの船とは高さがありすぎるから、商船に行くよ」
 そうと決まれば早い。
 ヨハンは船を呼び戻すため、信号弾がわりにセントエルモの火を打ち上げた。青い光が夜空いっぱいに広がり甲板をくまなく照らす。
 よみがえった死体が腕を上げて降り注ぐ青い光を遮った。
 メートヒェンが一気に距離を詰める。腰を落とすと踵を軸にしてくるりと回り、重いスカートの裾を翻らせて死体の足を払った。
 バランスを崩し倒れる死体に向けてボルガノが竜の咢を開く。体内で生成された魔力の氷弾が、螺旋を描きながら飛び、死体の骨という骨を砕きながら突き抜けた。
 断末魔とともに、幽霊船が本格的に沈み始めた。
「急げ! 逃げるであるよ!」
 最後にクロジンデが中型武装商船に飛び移る。
「幽霊の成仏と言えばお焚き上げだと思うんデスけれどぉ」
 放列甲板から突き出した大砲が一斉に火を放った。


「ご苦労だったな」
 報酬を配り終えると、クルールはイレギュラーズたちにさっさと幻影に戻れと言った。
「「あの少年は?」」
 メートヒェンと結が詰め寄る。
「しかるべき所で保護する」
 胸の前で手を握り合わせて美弥妃が言った。
「……ならいいデスけど」
 
「デイジー殿?」
 ボルガノは暗い海に面と向かうデイジーに声をかけた。
 デイジーは開いた缶詰のフタで、沖を行く小舟の明かりをさした。鳥種を挟んで座る獣人がオールを漕ぎ、沖に停泊している大型商船へ向かっていく。
「あの少年じゃないねー」とクロジンデ。
 ふと視線を感じて振り返ると、クルールが仁王立ちで睨んでいた。くわえ煙草の火が小刻みに揺れている。クロジンデにはそれが、余計なことに首を突っ込むな、と言っているように見えた。依頼は無事成功。終わったのだ、と。
「違うであるな……ところでデイジー殿、あの商船をごぞんじであるか?」
 デイジーは首を横に振った。
 海洋籍の船ではない。あれはおそらく鉄――。
「幻想行の馬車が来たぞ」
 先ほどまでクルールが立っていた場所で、一悟とヨハンが並んで手を振っていた。
「みんなー、帰るよー」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

成功です。
幽霊船は沈み、航路に平和が戻りました。
助け出した少年はクルールがどこかで保護しているようです。
ええ、ちゃんと保護していますのでご安心を……。

このたびはご参加ありがとうございました。

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