シナリオ詳細
<濃々淡々>琥珀糖の夢
オープニング
●宵好む
夜明けが来る。待ち望んだ朝が。
桜は朝焼けに乗って街に降り注ぎ、世界は目覚めていく。色付いていく。
橙の夢が世界を照らしていく。それと同時、人も妖も世界も呼吸を始め、一日を再び始めるのだ。
そんな橙の朝焼けが夜を急かすほんの少し前に時計の針を戻してみよう――
――飴の森。
絢が手押しの屋台を連れていつか向かった美しい半透明の甘い森に。
新しい菓子がなるのだと、言うのだ。
ひとり情報を手に入れた絢は興奮冷めやらぬ様子で森を潜り抜けていく。
「琥珀糖と、言ったっけ。どんなものなのだろう」
ちょこれゐとに大好きな飴。飴のほうは彼女が喜んでくれるからと、今でもたまに持って行っている。
甘いものは大好きだ。皆を幸せにしてくれるのがいい。
(……どんなものなんだろう)
わくわくした心地になって、自然と足取りは弾み尻尾だって耳だって、揺れてしまう。
ぱき、ぱき、ぱき。
ざく、ざく、ざく。
飴を割るような音から、砂を歩くような音に変わっていったそのころ。
「――わあ!」
きら、きらきら。そこにあったのは、美しい宝石でありました――
●明けてはいけぬ
ここは境界図書館。幾多の本がおさめられている、そんな図書館。
で、騒ぐ男が一人。騒ぐといっても、興奮した、そんな様子だ。
しかも、冒険に行く前のような様子。そんな少年のような男が口を開けば、こうだ。
「ねえ、ねえ、聞いてくれるかい。宵が開けていくころのはなしさ」
珍しく興奮した様子で特異運命座標に詰め寄る華奢な男の名前は絢。妖怪の男で、此度の舞台、濃々淡々出身の境界案内人でもある。
「情報をね、仕入れたのさ。そこでね、見つけたんだ、おれ」
おちついて。
促した貴方に申し訳なさそうに頬染めはにかみ、絢は頷いて深呼吸。
すぅ、はぁ。
「で、でね。いいかな、つづき」
頷いた貴方をみたならば、花が咲くように笑うだろうか。
「その森は、夜が明けるまでに琥珀糖の実をつけるんだ。……ってことで」
どうか、よろしくね。
にゃあん。
猫の声がしたような気がして、貴方は近くを見渡してみるだろう。
目の前にいた男は消え――代わりに、宝石が詰まった瓶が、そこにある。
きらめくほうせきを、もとめて。
- <濃々淡々>琥珀糖の夢完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年02月28日 22時20分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●ようこそ、異世界へ
ようこそ、濃々淡々へ。
人々の往来の中に佇むゼノポルタの乙女がひとり。
「ほう……ほうほう!
これが異世界か! いやまったく、世は広いでは片付かぬのう! よいよい!」
慣れぬ異世界。カムイグラにもよく似た雰囲気のこの世界に、『特異運命座標』白妙姫(p3p009627)は興味津々だ。
街を抜け歩いた先にあった森。辿りつくまでの道のりも又美しく、和を感じさせる建築風景が広がっていた。
色鮮やかな街並みの中には、白妙姫のきれいな赤い瞳に似た暖簾も広がっていて。
森に入ってからもきらきらと光る飴が美しい。色とりどりの木漏れ日が降り注ぐ姿は丸で花畑のようだった。
「いや、それにしても――これはまた、美しくも奇々怪々。
ガラス細工の森のごとき光景よ。葉の代わりに飴がなるとはのう」
きらきらと目を輝かせた白妙姫は、手の届きそうなところの飴を手折ることにした。
「摘んで食べてもよいのであろ? ありがたくいただこう」
ぼきっと折って食べてみれば、甘い苺の味がした。
舌の上でとけていく飴はとてもおいしかった。
「さて、それにしても何故この世界に呼ばれたのであったか。
まぁよいよい。ここでは気兼ねなく羽を伸ばせる上、文化的になじみがある。気兼ねなく楽しませてもらうとするかの」
森を進み、さらに奥へ。奥へ。
そうして進んでいくと、琥珀糖の森が見えてきた。ざくざくとした地面がよく音を鳴らす。
ぱきぱきと鳴る音はいつのまにやらどこかへ去ってしまった。辿りついた一角は桃色の木が聳え、みずみずしい果物の香りを指せていた。
「これが琥珀糖のなる樹か。見事な代物じゃ。
この世界では和菓子屋は存在していなさそうじゃのう。ほっほっほ」
和菓子屋があるとしたら何が売っているのだろう?
この森を出たらあとで探してみよう。きっと散策も楽しいはずだ。
「さて、一つ味見を。この桃色の宝石はどんな味がするかの?」
手を伸ばし。ひとくち。
しゃり、しゃり。
「――うむ、これは。桃じゃの。さわやかな甘さがかけぬけおったわ。よいぞよいぞ!」
これならば、持って帰って楽しむこともできそうだ。
今度は橙の木も発見する。ああ、美味しそうだ。
●甘いものは正義
「甘い物!ㅤいいよね、糖分は頭にもいいしね!ㅤ会長ももちろん好きだよ!
今日はいっぱい食べていいって聞いてるし、虫歯にならない程度に食べまくるよ!」
『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)もまたこの街に足を踏み入れた一人だ。
きらきらと光る木々には茄子子にとっても見慣れぬ風景だ。そしてこれは飴である。手を伸ばせば届きそうだ。けど、少し高くて届かない。ああ、翼がないからこんなことになるのだ! 早く翼を手に入れたほうが、きっとしあわせになれるんだ。
「おお、木々が飴で出来てる……不思議だなぁ。なんかこう、飴の落ち葉を足で踏む感覚がいいね!ㅤぱりぱりしてて!」
足を進めていけば、飴でできた落ち葉に草花、混沌ではありえなかった風景がそこにあった。
進むことを止めない。
進むことを諦めない。
清きを続ければ、人は翼を手に入れ天へと至れるのだから。
そう、説いたのだから。
ぱりぱりとした踏み心地を踏みしめる内に、いつのまにかそれは湿り気混じりのそれであった。
じゃりじゃりとした道は、少しだけ雨上がりの道に似ているような気がした。
「で、これが琥珀糖……綺麗で美味しそうだ!」
さきほどよりは煌めき少なく、けれどしっとりとした美しさを感じさせるそれは、例えるなら六月の紫陽花のようだった。
「会長は色気より食い気だから!ㅤ目で楽しむより先に食べちゃうぜ!」
手を伸ばし。食む。
口の中で溶かして。甘みを堪能して。
(外はサクッと中はトロッと……なんかコロッケとか食べてるときの感想みたいだ)
コロッケは果たしてこの世界にあるのだろうか? 帰り道にはどこかで探してみよう。
美味しいものを食べているときはえがおがこぼれてしまう。それはきっと、自分が幸せだから。
(これは是非とも持って帰って羽衣教会のみんなにも食べて貰いたいね! 勿論、虫歯にならない程度にだけどね?)
持ってきたハンカチにいくつか、いろんな味をまんべんなく包んでいく。
帰ってみんなで食べられるように。
このせかいの話を沢山出来るように。
今日の思い出に。
みんなへのお土産に。
「ふふふ、みんな喜んでくれるかなぁ……!」
●
(此処の世界は、いつ来ても…不思議やねぇ)
目を閉じて。『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は森に広がる飴の甘い匂いを吸い込んでから、ふぅと息を吐いた。ふと視界に入ったのは、ぴょこんと白い長耳がふたつ。ゆらゆらと、ご機嫌に揺れる姿であった。
(一人で回るのも何やし……そや)
『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)もまたこの森に足を
以前は、ゆっくり回る、時間はなかった。だから今日は、のんびりと過ごしてみよう。きっと新しい発見があるはずだから。
ゆらゆら揺れた耳は、優しい声を拾った。
"ねぇ、そこの可愛らしいお嬢さん"。
「……蜻蛉様!」
「いつかの雪うさぎさん、ネーヴェさん。こんにちは。
せっかくやで一緒に、飴ちゃん集めてお散歩せん?」
親しい仲である二人。ネーヴェは蜻蛉の誘いに頷いて、二人は肩を並べて歩き出す。
「折角だから絢様も、どうでしょうか」
「そやねぇ。ちょっと、声かけてみよか」
顔見知りである二人の誘いを絢が断るはずもなく、二つ返事で了承し。
ひとりはふたり。ふたりはさんにんへ。肩を並べ、また歩き出す。
「寂しがりなのは、意外に猫も同じなのかもしれへんねぇ…それは、内緒」
唇に人差し指を押し当てた蜻蛉。それを見たネーヴェは不思議そうに首を傾げる。
「兎は寂しいと、死んでしまいます、が。猫様や…ヒトも、でしょうか?
皆、皆。自分だけでは、生きられない。そんな生き物、なのですね」
そんなネーヴェの考えに、絢は笑みを浮かべて告げた。
「でも、おれには友達がいるからさ。そんなに簡単には、死にはしないよ」
だろう? と首を傾けた絢。二人も顔を見合わせて、くすくすと笑って、頷いた。
ゆるりと優しい時間が流れていく。
進んでいけば変わっていく風景は、一瞬一瞬が特別で、かけがえのないもので、もう二度と、同じものはない。
六つ、なかよく並んだ耳がご機嫌にぴょこ、ぴょこ、ぴょこ。
「ふふ。こうやって歩いてるのも、楽しいよね。ほら、あそこなんか、綺麗じゃないかな」
「ほんまやね。水色に黄色に…光に当たるときらきらして、綺麗やねぇ。ほんに宝石みたい」
絢が示した木は、空の青をそのまま木漏れ日として落としていた。蜻蛉は頷き、ネーヴェは目を輝かせて。ゆっくりと散歩をするだけで色々な表情を見せてくれるこの森が、さらに美しいものに思えた。
「ほら、あそこは薄い桜色…集まって咲いとると木に咲いとるお花のよう。だいぶと…気ぃの早いお花見やね、ふふ」
「まあ、本当。桜の、飴? 絢様、ここでは、お花見とか、できるのでしょうか?」
「あ! できると思うよ。そうだ、それなら、春になったらまたここにこようか」
「ふふ、はい。きっと楽しいです、ね」
ぱっと表情を明るくさせた絢にネーヴェは頷いて。
「ほなひとつ、頂いてみよか?」
蜻蛉の誘いに二人は頷いて。せーので、口の中へと桜を運ぶ。
「わ……甘い。とっても、甘い、です」
「そやね。春の匂いがこもってて、美味しいわ……」
「だね。おれ、この琥珀糖すきだなぁ」
色とりどり。華やかに咲き誇り、実ったそれは、三人の興味を惹いて仕方がない。
次はあっち。次はそっち。
ひょい、ぱくり。ひょい、ぱくり。お行儀が悪いなんて怒るひとはいない。
こんなにも楽しいのだから、ちょっとくらいお行儀が悪くたって仕方ないというものだろうから!
「二人はどの色が好き? うちは濃い赤色した子が好き」
「迷います、ね。わたくしはこの、淡い桃色、かしら」
「おれはうーん。この黄色かな」
見せあって、交換して、ぱくり。瓶につめて、今日の思い出にしよう。
濃い赤に、淡い桃に、黄色に、桜色。今日の思い出をぎゅっととじこめた絢は、ご機嫌に尻尾を揺らした。
(ふふ。これを持って帰って、皆で食べたら、きっと、どれほど楽しいことだろうか)
一生懸命手に取っている蜻蛉も、ネーヴェも、その表情を輝かせ、楽しんでいるから。
「……今日、ここに来れてよかったなあ」
なんて、思ってしまうのだ。
時間が過ぎていくのは早いものだ。
もうすぐ帰らなければいけない。その前に、作った瓶を見せ合う。どれもらしさが出ていて、素敵で。
名残惜しそうに笑う絢をみて、蜻蛉は微笑んだ。
「こやって新しい出逢いにも恵まれて。素敵な場所へ連れて来てもらえる…今年初めの思わぬ出会いやった」
「ふふ、そう、ですね。また、ここに来られて……ゆっくり、回れて、楽しかったです」
「そうだね。おれも、とっても楽しかったよ、ありがとう」
こくこくと頷いた絢に、蜻蛉は寄り添った。
「貴方の導いてくれる所は、いつも暖かで穏やかな気持ちで過ごせます、おおきに」
「そんな、大げさだよ、蜻蛉。おれも、だって、一緒に居られると、たのしいだけだからさ」
照れくさそうに笑った絢に、ネーヴェはくすくすと笑みをこぼして。
「蜻蛉様とも……絢様とも。また、一緒に、こんなお出かけができたら、嬉しいです」
「うん、そやね。また一緒に、お出かけしよね」
「ああ。やくそく、だ」
三人の語らいに。星の光を受けて、瓶は煌めいた。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
挨拶がお久しぶりになるのをなんとかしたい。
染です、こんにちは。
甘いもの、足りてませんよね。
●依頼内容
飴の森で琥珀糖を楽しむ。
・<濃々淡々>あわくもゆる
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4316
・<濃々淡々>千夜を超えて咲く花よ
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4355
で訪れたことがあります。参考程度に、見る必要はありません。
●飴の森
煌めく木漏れ日が降り注ぐ、不思議な森。
飴の木の葉がなる木が生えた森ですが、その奥には琥珀糖がなるスポットがあったようです。
色とりどり、様々な味の琥珀糖がなっているようですから、持ち帰ったりそこで楽しんでみるのがいいかもしれませんね。
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。またヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神です。
昔の日本のイメージで構いません。
●絢(けん)
華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいるようです。
屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。お呼びがあればご一緒します。
●サンプルプレイング(絢)
おれは、そうだな。さっきはつまみ食いをしてしまったから……。
そうだ、ふふ。桃の琥珀糖と、蜜柑の琥珀糖を持ち帰ろうか。
これは華に、それから、あのひとに。
喜んでくれるだろうか。きっと、よろこんでくれると、いいな。
以上となります。
皆様のご参加をお待ちしております。
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