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シナリオ詳細

病毒蔓延る温泉郷。或いは、そこは彼らの餌場なり…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●温泉郷の流行り病
 豊穣。
 とある山間の温泉郷に1人の男が訪れた。
 灰色のコートに、小柄な体躯。
 目元から覗く皮膚には、火傷の跡が残っている。
 厚手の手袋をしている彼……シップマンは医者である。
 コートの下には治療器具。
 からころと引くキャリーバッグの中身は、薬や包帯、針や書物が詰まっていた。
 医者といえば、その多くが一所に医院を構え、来たる患者の怪我や病気を治すもの。
 その点で言えば、シップマンはそれらの一般的に医師とは些か性質が異なっていた。
 シップマンは流れの医者だ。
 世界各地を旅して回り、戦場へ、被災地へ、スラム街へ、山奥の小集落へと、いかなる場所へも脚を運んだ。
 戦傷者の腹に空いた銃創を糸で縫い合わせたこともある。
 土砂崩れに巻き込まれ、潰れた男の脚をその場で切断してみせたこともある。
 流行病に倒れ、死を待つばかりであった老婆へと無償で薬を渡したこともある。
 警戒心から槍を突きつけられながら、女の腹を裂いて赤子を取り上げたこともある。
 そのように、各地を回り人々の救済に尽力してきたシップマンが、単なる湯治で温泉郷に脚を運んだはずもなく。
「ふむ……流行病、か?」
 立ちこめる硫黄の臭いに目を細め、シップマンはぐるりと周囲を見回した。
 道行く人々の顔はどこか陰気で、その身なりも薄汚れている。
 街から活気は失われ、時折民家の中からはケホケホと咳き込む音さえしていた。
数名に声をかけ、軽く診察してみたがどうにも原因は分からない。
 シップマンの持つ薬剤で症状の緩和は実現したが、原因を追究し、取り除かねば流行り病が治まることはないだろう。
「診察だけでは限界があるな。ヒアリング……いや、土地柄を考えれば、温泉の源泉が怪しいか?」
 病に侵された住人たちに聞いたところ、日頃から入浴の習慣があり、身なりを綺麗に保つことを心掛けているとのことだ。
 ならばなぜ、皆一様に、薄汚れた身体をしているのか。
 その原因を探るべく、シップマンは源泉を目指し山を登ることにした。

●呪具“病魔の水瓶”
「さて、異変が観測されたのは温泉郷近くの山中にある源泉だ。一応、男湯と女湯、そして混浴の3つに分かれているが、その中を奇妙な瓶が漂っていると報告があった」
 そう告げた『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、頭を掻いて首を傾げる。
 彼の手元に届いた資料は、シップマンからの手紙一枚。
 そこから読み取れる情報には、どうしたって限度があるため、一部意味の不明な記述も見受けられるというわけだ。
「奇妙な瓶から溢れる赤黒い瘴気が流行り病の原因だろうとのことだ。また、その瓶は1体の妖が持って移動しているらしい」
 その妖は、苔むした肌の男性のようであったという。
 痩せた身体に、トカゲのような腕。
 長い舌を持つという特徴から、シップマンはその妖を“アカナメ”であると予想している。
「風呂場や浴場に現れ、垢や汚れを舐める妖だな」
 アカナメは、どこかで手に入れた“水瓶”を持って温泉郷の源泉に住み着いたのだろう。
 温泉郷を垢塗れにし、自身らの餌場にするために。
 流行り病や、人々の身体に染みついた汚れは副産物ということか。
「言葉が通じる相手ではないし、汚れた水質に引かれてか数も次々増えている。シップマンは都合5体のアカナメを確認したということだ」
 アカナメたちは源泉で湯治を楽しんでいる。
 もちろん、水質は体調に異変を来すほどに汚れている。
 辺りに漂う湯気も汚染されており長く滞在すれば【猛毒】【封印】【狂気】などの状態異常に侵されることになるだろう。
「アカナメたちは、トカゲか何かのように壁や天井に張り付き自在に這いまわる。長い舌で舐められれば【石化】するし、殴られれば吹き【飛】ばされるが……」
 主な戦場は温泉内だ。
 さほど広いフィールドでもないため、復帰に時間がかかることもないだろう。
「とはいえ、5体のアカナメは温泉各所に散開している。目的は呪具である水瓶の破壊だ。くれぐれも取り逃さないよう気をつけてくれ」
 と、そう言って。
 ショウは一行を送り出す。

GMコメント

●ミッション
呪具“病魔の水瓶”の破壊

●ターゲット
・アカナメ×5
温泉郷、源泉に巣食う妖怪。
苔むした緑の身体に、トカゲのような長い手足。
腕力に優れ、また吸盤のような手で壁や天井に張り付き這いまわる能力を持つ。
長い舌で垢を舐めて生きている。
そのうち1体が“病魔の水瓶”を手に入れ、所持している模様。

垢嘗め:物遠単に中ダメージ、石化
 したでなめる

渾身の殴打:物近単に大ダメージ、飛
 垢を舐めるだけの妖とはいえ、身を守る力は必要なのだ。


・シップマン
灰色のコートを着込んだ小柄な男性。
放浪の医者である。
非常に無口ではあるが、腕は確かな模様。
状態異常の回復を得意としている。


●フィールド
豊穣。
温泉郷の源泉。
入浴施設があり、男湯、女湯、混浴の3つに分かれている。
それぞれに室内温泉と露天風呂が用意されている。
男湯の湯気には【猛毒】
女湯の湯気には【封印】
混浴の湯気には【狂気】
の状態異常付与効果が含まれている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 病毒蔓延る温泉郷。或いは、そこは彼らの餌場なり…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月05日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

すずな(p3p005307)
竜断ち(偽)
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀の約束
音無 九内(p3p008678)
バトルラビット
陰陽 秘巫(p3p008761)
神使
金枝 繁茂(p3p008917)
焔鎮めの金剛鬼
トキノエ(p3p009181)
特異運命座標
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
白妙姫(p3p009627)
特異運命座標

リプレイ

●湯けむり病毒事変
 豊穣。
 とある温泉郷。
 コート姿の小柄な男、医師“シップマン”は、視界の端で揺れる湯気を見て吐息を零す。
「一見するだけなら普通の湯気だが……含まれる毒素の量は桁違いだな」
「温泉ってのは人を癒す場だ。時には病だって治しちまう。そこが病魔に蝕まれてるなんて聞いたら、見過ごしちゃおけねえな」
『特異運命座標』トキノエ(p3p009181)の吐いた紫煙が、白い湯気に紛れて霞む。
 煙管の吸い口から唇を離し、くるりとそれを手の中で回す。逆の手の平に柄を打ち付ければ、煙草の灰が地面に散った。
「皆の癒しである温泉に悪さするのはねー、許せないよね? それに湯舟を汚すのはマナー違反でーす!」
『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は硫黄の臭いを遮るように鼻と口を手で覆いそう言った。
 クルルをはじめ、イレギュラーズの面々がやって来たのは温泉郷の源泉である。男湯、女湯、混浴の3つの入浴施設が用意されたその場所こそが、温泉郷を汚染する“病毒”の発生源であった。
「いち日本人、温泉を好むものとしては見過ごせません! 物の怪、アカナメに恨みはありませんが――退治させて頂きます!」
「良いことしはる同族もおるんちゅうに、嘆かわしいこと。ほな、妖退治といきまひょか」
 『竜断ち(偽)』すずな(p3p005307)、そして『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)がそれぞれの得物に手をかけそう告げた。
 頼む、とシップマンはそう言った。
 医師であるシップマンには、状態異常の治療は出来ても、怪異との戦闘を行うことはできない。彼の持たない“矛”としての役割を、今回イレギュラーズが担うこととなる。
「さてさて僕は女湯へ向かうッスよ! とりあえずアカナメとやらを退治するッス!」
「俺は混浴に突撃だ! テメェ覚悟しろアカナメ野郎!」
 ピンクとグリーン、ツートンカラーの髪を風にたなびかせ『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)は女湯へ向け駆けていく。
 負けじと『バトルラビット』音無 九内(p3p008678)は一路混浴へ。
「着装! バトルラビット! 行くぜ!」 
 暖簾の下から漏れる湯気に九内の姿が紛れた瞬間、ピカリとその身を閃光が覆う。
 わずか0.05秒。
 一瞬でヒーロースーツを纏った彼は、まさしく“脱兎”の勢いで脱衣所へと飛び込んでいく。
「アカナメ、悪性の妖怪ではないはずだが、呪具を手に入れ気が強くなったか」
 金の髪に黒い肌。
 筋骨隆々とした鬼人『背負い歩む者』金枝 繁茂(p3p008917)は男湯へ。
 その後ろに続く白い女は『特異運命座標』白妙姫(p3p009627)。口元を着物の袖で覆い、口元に浮いた笑みを隠す。
「妖怪アカナメ……話に聞いたことはあるが、ばっちいのう」
 向かう先には汚染された温泉。
 そこに潜む妖“アカナメ”が、本日の獲物である。

「さて……自分はどこへ向かうべきか」
 と、そう呟いてシップマンは首を傾げる。
 戦闘は不得手ではあるが、状態異常の治療であればお手の物。必要な時、必要な手助けをすべく、彼は頭を悩ませた。

●汚れた湯に潜む
 湯気で視界が真白に染まる。
 ところは女湯、室内温泉。湯気の中に蠢く黒い影を視認するなり、鹿ノ子は脱兎と駆け出した。下段に構えた黒剣が温泉の床に一条の傷を付けた。
 チリ、と切っ先と床とが擦れる音。
 その音に気付いたのか、黒い影……トカゲにも似た妖“アカナメ”が鹿ノ子を一瞥。長い脚で床を蹴って背後へ跳んだ。
「攻撃が届く範囲にいるなら……」
 下段から、打ち上げるような斬撃を放つ。
 背後へ跳んだアカナメの顎先を、鹿ノ子の刃が傷つけた。
 瞬間、アカナメの赤い瞳が暗く淀んだ。
「傷口から狂気に侵されていくがいいッス!」
 反撃のためか振り上げた拳で、アカナメは自身の胸部を殴打する。
「満月に魅入られるウサギのように、さぁ踊り狂え!」
 鹿ノ子は床を蹴って跳躍。
 追加の一撃を、アカナメの胸部へと叩き込んだ。

 壁を駆け上がるアカナメを追って鹿ノ子が駆ける。
 白く煙る視界の端にその姿を捉え、クルルは眉間に皺を寄せた。汚染された湯気の影響か、鹿ノ子のスキルが上手く発動していないのだ。
 アカナメを追う鹿ノ子が、室内湯から野外浴場へと移動していくが、間を遮る木戸の向こうで何かの影が揺らめいたのを、強化されたクルルの瞳は確かに捉えた。
「2匹目っ⁉ 鹿ノ子ちゃん、足元注意で!」
 先行する鹿ノ子に注意を促すが、悲しいかな後一瞬だけ遅かった。
 木戸を抜けた鹿ノ子の足首を、横合いから伸びた緑の舌が激しく撃ち抜く。ミシ、と骨の軋んだ音さえ聞こえた気がした。
 思わずクルルは目を閉じる。姿勢を崩した鹿ノ子の顔面を、アカナメの拳が撃ったのだ。
 鼻血を噴いて鹿ノ子はスリップ。
 室内の浴槽に背中から落下した。
 盛大にあがる水飛沫。2匹のアカナメが追い打ちをかけるが、そこでクルルは自身の役目を思い出す。
「鹿ノ子ちゃん、耳を塞いで!!」
 注意を一言。
 構えた弓に矢を番え、キリリと弦を引き絞る。
 跳んだ姿勢のアカナメたちに、クルルの矢は躱せまい。狙いをつけて、弦からぱっ指を離せば、風を切り裂き矢が疾駆した。
『ァぁぁああああああああああああああああああああぎゃぁああああああああ!!!!』
 悲鳴をあげる不気味な矢だ。
 その先端には、赤子のような顔の浮いた根菜……否、マンドラゴラが同化している。
 耳を塞ぎながら、もんどりうって床に転がるアカナメたち。その隙に立ち上がった鹿ノ子は、なんと豪快に濡れた衣服を脱ぎ捨てた。
 同性だけしかいないとはいえ、豪快に過ぎる脱ぎっぷり。思わず、クルルは頬を赤らめ視線を逸らした。
「えぇ!? ぬ、脱いじゃうの?」
「濡れたままじゃ動き辛いッス。それに、そんなことより大切な使命があるッスから!」
 当の本人は肌を晒すことに、一切合切躊躇いなどないようだった。
 確かにここは温泉だ。
 服を着たまま湯に浸かる奴なんていないのだから、鹿ノ子の行動は至極自然と言えばそうなのだろう。
「う、うん、そうだね。綺麗さっぱり退治して、平和な温泉郷を取り戻そうねっ!」
 次の矢を弓に番えつつ、クルルはアカナメを追いかける。

 ところ変わって場所は混浴。
 露店の湯を盛大に巻き散らしつつ、九内は拳を振り抜いた。
 握った拳に絡みつく闘気の糸。その先端はアカナメの身体に巻き付いている。
 引き絞られたその糸が、アカナメの皮膚に食い込み切り裂いた。零れた血が、白濁した湯を赤に染めた。
「動ける限りどんどん攻めてくぜ! 何とかなんだろ!」
「九内はん、敵は1体やからて、調子に乗り過ぎたら……」
「おう!  ヤバかったら誰か助けてくれよな! 俺も助けっから!」
 秘巫の警告に軽く言葉を返した九内は、追撃を叩き込むべく湯を掻き分けて駆けていく。
「聞いちゃいねぇな。ってか、もう【狂気】にかかってんじゃねぇか?」
 額に手を翳し、湯気の奥を覗き込むトキノエ。
 殴られ、殴り返されて……と、激しく打ち合う九内であるが、アカナメの怪力に若干押され気味の様子であった。
「あぁ、もう。先走り過ぎや。盾役は妾(わたし)に任せぇ言うたのに」
「おう。任せていいのかい?」
「モチロン。簡単に死ぬような妾(わたし)やあらへんよ。防御性能はこれでも結構悪うないんやし……何度倒れたとて蘇るんやから」
 そう言って秘巫は、悠遊とした足取りで露天へと歩いて行った。
 そっと九内の背後に近づくと、その襟首を掴んで後ろへ引き倒す。
 姿勢を崩した九内は、頭から温泉へと転落。つい一瞬まで九内の頭があった位置を、アカナメの舌が通過した。
「ふふ、うふふ、妾(わたし)を殺せる子はおるかしら──?」
 伸びきった舌を掴み上げ、秘巫はくすりと笑みを零す。
 よほどに強く舌を掴まれているのだろう。
 アカナメは、舌を引き戻すのを諦めたらしい。秘巫へ肉薄するなり、その肩目掛けて拳を振るった。
 一瞬、秘巫の身体が揺れる。
 けれど、その口元には笑みが浮いたままだった。酷薄ささえ感じる眼差し。
 その目で俺を見つめるな、と言わんばかりの殴打の雨が秘巫の頭部や、頬を打つ。
 唇が切れ、その白い顎を血が伝う。
「オイコラ!」
 湯気を突き破り、アカナメの背後へ迫ったトキノエの声。
 秘巫へ注意を向けすぎたのか、アカナメは彼の接近に気づくことが出来なかった。
「ここはてめぇらの餌場じゃあねえんだよ! 薬にもならねえ病魔なんざ持ち込むな!」
 掲げられた掌から、黒く淀んだ影が滲んだ。
 ともすればそれは黒い犬のようにも見える。
「そんなんじゃ……温泉で飲む酒が不味くなっちまうじゃねーか!!」
 白い湯気を切り裂いて、宙を疾駆する黒い犬。
 それはまっすぐ、アカナメの胸部を貫いた。
 じわり、とアカナメの身体に吸い込まれるように黒犬はその姿を消す。
 直後、アカナメは硬直。
 白目を剥いて、湯舟の中に倒れ伏す。
「っと、ここは片付いたか。んじゃ、次だな。ちゃっちゃと達成して仕事終わりのビールが飲みてぇ!」
 濡れた髪を搔きあげながら、身を起こした九内が告げた。
「……治療は、必要か?」
 戦闘を後方より眺めていたシップマンが、露店へと足を踏み入れる。
 頭を振る九内を一瞥し、静かな声でそう問うた。

 殴打のラッシュを刀の背で捌きつつ、すずなは1歩前に出た。
 ところは男湯。
 湯気に含まれる状態異常は【猛毒】であるが、耐性を持つ彼女には効果がなかった。
 目下のところ問題は、アカナメの怪力と、そして舌による殴打であろうか。
「さぁさぁ、大人しく呪具を返して頂きましょうか……」
 降り抜かれた拳がすずなの頬を掠めた。
 皮膚が抉れ、血が飛び散る。けれど、すずなは瞬きのひとつもしなかった。
 その青い瞳に映るのは、ただ1匹の妖のみ。
 すずなと交戦するアカナメの背には、一抱えほどの水瓶が背負われている。
 一閃。
 閃く白刃が、アカナメの胸部を裂いた。
 回避のためか、アカナメは後方へと跳躍。
 追撃を阻むべく、長い舌をすずなの胸部目がして伸ばした。
 けれど、すずなは返す刀で舌へ向け斬撃を叩き込む。
 ぴり、と舌の端が切り裂かれ血が滴った。すずなの攻撃を察知したアカナメは、舌を落とされる直前でそれを逃がしたのだ。
「ふふ、いつまで私の剣からその舌を逃せるか……頑張って下さいね……!」
 タン、と。
 軽い音をたて、すずなは前方へと跳んだ。

 ぬめった舌が、繁茂の身体を舐め挙げた。
 ねっとりとした唾液が彼の身体を濡らしたが、しかし繁茂は表情を微塵も変えないままゆっくりと前へ進んで行く。
 その手を前に出し、上に向けた掌をくいっと手前へ折り曲げる。
 かかってこい、と。
 そう言った意図を込めたジェスチャーだろう。
「街の人達が今も苦しんでいる。なるべく早く呪具を破壊し、体を清められるようにしなければならんのでな。悪いが、すずなの邪魔をさせるわけにはいかぬ」
 まっすぐにアカナメを睨みつけた。
 混浴と男湯を分ける塀の上方、張り付いていたアカナメは一体何を思ったのか。
 ダン、と塀を揺らして跳躍。
 振り上げた両の腕を、繁茂目掛けて振り下ろす。
「ぬ、ぉう!!」
 頭部の上で腕を交差し、繁茂はそれを受け止める。
 怪力に押され、彼の身体が悲鳴をあげる。
「取っ組み合いは己の体をもって行う。白妙姫ぇ!!」
「応さ。刀のさびにしてくれるわ!」
 殴打を浴びる繁茂の額から血が零れた。
 けれど、彼は1歩も後ろへ下がらない。それどころか、さらに前へと進んで行く。
 顔面を殴打され、鼻が潰れた。
 顔の下半分を朱に濡らしながらも、防御ではなく攻勢へ。伸ばした腕が、アカナメの腕をしかと掴んだ。
「ファファファ。どうせなら良い男が裸で迎えてくれればよかったのだがの」
 手にした刀で、白妙姫は自身の手首を切り裂いた。
 遠慮も呵責もなく、深く裂かれた白い肌から、紅の雫がつぅと溢れる。直後、流れた血はまるで意思を持つかのようにゆらりとうねった。
 形成される血の刃。
 一閃。
 それは、アカナメの背を深く切り裂く。
「ふふふ……わしの血はよい香りがするじゃろう? お主らにはもったいないわ!」
 さらに追撃。
 刃を振り抜く白妙姫だが、その瞬間にアカナメは低く身を伏せ回避。
「ぬっ⁉」
 予想外の事態に目を見開く白妙姫。
 起立する勢いを乗せた拳が、繁茂の顎を打ち抜いた。
 脳が揺れたのか、ほんの一瞬、繁茂の意識が遠のいた。その上体に飛びついたアカナメは、きっと笑っていただろう。
「ぐ、ぁ」
 地面を揺らすほどの威力で振り下ろされたその拳が、繁茂の顔面を殴打する。

●アカナメ
 2体のアカナメの猛攻を受け、鹿ノ子が意識を失った。
 【パンドラ】を消費し、立ち上がるまでの間をクルルが繋ぐ。彼女の射る矢を回避して、2体のアカナメは混浴と女湯を分ける塀へと張り付いた。
「これで……」
 菌糸の付着した矢を弓に番える。けれど、湯気の影響により菌糸は死滅。
 単なる矢の1本程度、アカナメにとっては回避も容易い。
 カン、と音を立て放った矢は塀に刺さった。
「くっ……」
 思わず舌打ちを零すクルル。
 と、その直後、背後に感じた人の気配に矢を構えたままクルルは反転。
「……苦戦しているようだな」
 咄嗟に矢を射かけそうになったクルルだが、寸でのところで制止する。背後にいたのはシップマンだ。
 その手にもった薬瓶をクルルへ手渡し、彼は「飲め」とそう言った。
「これは?」
「よくわかんないけど、ありがたくいただくッスよ!」
「あ、そんな躊躇なく!?」
 説明もなく手渡された薬物を、鹿ノ子は一息に飲み干した。
 思い切りの良さに驚くクルル。けれど、結局は彼女もそれを口へと運ぶ。
「技が十全に使えれば、遅れを取ることもあらへんやろ? 盾役は妾(わたし)に任せて、2人は攻撃に集中してな?」
 シップマンから幾らか遅れ、やって来たのは秘巫である。
 その白い肌には、痣や傷も見受けられたがその程度で倒れる秘巫ではなかった。
「っし! 何だか分からないけど、やってやるッス! それで、今度はちゃんとした温泉に入りたいッスねぇ」
 なんて、意気揚々と剣を掲げた鹿ノ子が駆ける。
 シップマンと秘巫を加えたクルル&鹿ノ子はそう遠くないうちにアカナメを撃退するだろう。
 
 時を同じくして男湯。
 【パンドラ】を消費し、立ち上がった繁茂によってアカナメはその身を拘束された。
 魔力により形成された縄に全身を縛られて、アカナメは苦悶の呻きを零す。
「手間をかけたな、白妙姫。礼と言っては何だが、俺にできる事ならば何でもしよう」
「ならば足止めせよ。もうすぐ、他の者がやって来るでな。逃げ道をふさぐついでに踏んづけてやってもよいの!」
 呵々と大笑する白妙姫。
 その言葉の通り、仕切り塀を乗り越えまずは九内が男湯へと飛び込んできた。
「クッ、混浴ッ煩悩退散!! おらぁ、俺の相手はどこだ!!」
 若干、混浴に名残惜しさがあるのだろう。
 ちら、と背後を振り返りながら飛び込んできた九内を呼びつけながら、白妙姫はアカナメに向け斬りかかる。

 九内の蹴りが、アカナメの胸部を打ち抜いた。
 床を転がるアカナメは、もはや息も絶え絶えといった有様だ。
 一方、水瓶を抱えるアカナメは未だすずなと熾烈な追走劇を繰り広げている。
「えぇい、ちょこまかと‼ さっさと退治させて頂きます!」
 露店風呂での戦闘の結果、すずなはすっかり濡れていた。
「おう、水も滴るいい女ってか?  なかなかいい格好じゃねぇか。仕事が終わったら、一緒に一杯やるか!!」
 すずなの援護に駆け付けたのはトキノエだ。
 後退するアカナメへ向け、黒犬をけしかけた彼はくっくと愉悦の笑みを零した。
 見ればすずなの身体にはぴったりと着物が張り付いており、肢体のラインも顕わである。
「お付き合いしても構いませんが、当然、その時は着替えさせていただきます……よっ!!」
 するり、と。
 すずなは滑るような動きでアカナメの懐へと潜り込む。
 下段より振り抜かれた刀が、アカナメの足首を切り裂いた。
 悲鳴をあげ、床に転がるアカナメ。
 その視界が黒に染まった。
「これで終い……と。流行り病が終息して活気が戻ったら、改めてここの温泉に入りにいきたいもんだ」
 なんて。
 囁くようなトキノエの声。
 アカナメが、この世で聞いた最後の言葉がそれだった。

「これが元凶だったか……ふむ、一見するだけでは単なる水瓶のようだが」
 と、首を傾げシップマンはそう呟いた。
 その言葉を聞き、繁茂は腕を組み首肯する。
「状態異常もそうだが物理攻撃も厄介だったな。言葉が通じていれば、呪具をどこで手に入れたか聞けたが」
 アカナメの遺体は既に埋葬した後だ。
 言葉を介さぬ妖が、果たしてどこでこのような呪具を手に入れたのか。
 経緯に想いを馳せながら、繁茂はブラシを手に取った。
 帰る前に、温泉を掃除していくつもりであるようだ。

成否

成功

MVP

金枝 繁茂(p3p008917)
焔鎮めの金剛鬼

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
アカナメは無事撃破され、温泉郷の平和と健康は取り戻されました。
依頼は成功です。

この度はご参加、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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