PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<リーグルの唄>ペールブルーの陽だまり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 アイル・トーン・ブルーの空は透き通り、薄く細く掛かった雲が冬模様を描いていた。
 マントの裾を揺らす風。多くの人が行き交う足取り。靴底ですり減った石畳は飴色だ。
 沢山の種族、色が混ざり合い、坩堝と化すこの場所は『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)のお気に入りの場所の一つだ。
 青き視線が人混みを見下ろす銅像をゆっくりと這う。

 幻想国(レガド・イルシオン)王都メフ・メフィートのルミネル広場には銅像がある。
 勇者と呼ばれた『建国王』との事だが、慣れ親しんだ風景の一部と化した像など誰も見向きもしない。
 風化というものは恐ろしい。どんな非日常、どんな異常であれど、続ければそれは日常になる。
 召喚という非日常を体験したイレギュラーズの生活も、日常へとなりつつあるのかもしれない。
 幻想王国はローレットの本拠地がある『伝説的勇者』が打ち立てた国である。
 しかし、『長すぎる時間の経過』により、勇者の誇りや理念、伝統を受け継いだはずの国は淀み腐敗しきっている。封建制的な王侯貴族の統治は弱まり、門閥貴族が台頭し続けているのだ。
 幻想に巣くう貴族達の身勝手な政策。人権や生活を考えぬ傲慢な圧政に苦しむ人々がいる。
 現国王フォルデルマン三世は、先王がギリギリの所で押さえていた大貴族連合を制御することが出来ず、彼等の思惑のままに国政が回っていた。
 されど、サーカス事件でイレギュラーズが奮闘したお陰で、貴族の筆頭たる三大貴族アーベントロート、フィッツバルディ、バルツァーレクの当主を含め、国内の主要な勢力とローレットの距離が縮まり、国が傾く程の腐敗はストップしている。
「ゴールド・スパークというものは被る方からしてみればノクターンブルーのそれかしらね」
 当然、ローレットの介入によって流れを変えた主要な勢力と相対する考えの者も居るのだ。
 大々的に甘い蜜を啜れなくなった貴族達は、隠れるように悪事を働いていた。
 否、他人の悪事を見て見ぬ振りするのかもしれない。

 ファルベライズ遺跡の一件で、ラサのブラックマーケットは喧噪に包まれているらしい。
 それでも、流通がストップすることは無く、各地では日常が営まれている。
 ――それは『裏家業』も同じ。
 プルーは目の前を通り過ぎて行く荷馬車を視線で追う。
 幕の張られた荷台の隙間に見えた鉄檻。『普通』に考えれば鶏や豚の家畜だろう。
「グーズグレイの悲しみは雨となり降り注ぐ……」
 おそらく運ばれていくのは何処から集められた――『奴隷』たち。
 日々、沢山の商品が幻想国のマーケットに運び込まれていく。
 彼等の行き着く先は『裏市場』と呼ばれるところだろう。

 ――奴隷の一斉売り出し。

 ファルベライズ遺跡の動乱で、ラサのブラックマーケットでの奴隷の売り買いが難しいと判断した商人達。ラサで混乱が起きているという情報は各国に知れ渡っている。多少物流が多くなったところで咎められはしないと各地を拠点にしていた奴隷商は思ったのだろう。
 木を隠すには森の中と言わんばかりに、幻想国の裏市場に集結し『大奴隷市』を行っているらしい。
 プルーは目深くフードを被り、裏市場へと向かう。
 目の前を通り過ぎた荷馬車に着けた目印を追って――


「貴方達にシシリアン・アンバーの心を助けてほしいの」
 奴隷市には様々な子供達が並んでいるのだろう。
 孤児の少年少女。村を燃やされた幻想種。宝石の瞳を持つ旅人、美しい角を持つ獄人。
 枷を着けられ、自由を奪われる。絶望の只中に震える身体。全てを諦め空を見つめる瞳。
 労働力として屈強な肉体を持つ成人を好む貴族もいるだろう。
 美しく着飾られ愛玩用に買われて行く子供も居るだろう。
 多くの奴隷が無理矢理この場所に集められている。
「市場はアラベスク・タークの涙に溢れカイエンヌ・レッドの思考が渦巻いている」
 商人達は在庫となった奴隷達を売りさばきたいと思っているのだ。

「今回の依頼は奴隷市場に運ばれる前の荷馬車を奪取すること。街中での戦闘となるでしょう。
 住人の不安を煽らないよう速やかに事を運ばねばならないわ」
 馬車の中や周りには傭兵がいるらしい。
 多少の荒事は承知の上で、それでも奴隷を売りたいのだろう。
 果たしてどのような手段で手に入れたものなのだろうか。

「あまり時間が無いわ。カルメン・コーラルの如く素早さで向かって頂戴」
 プルーは青き瞳を僅かに伏せて、イレギュラーズの背を押した。

GMコメント

 もみじです。奴隷を助けて仲良くなったりしましょう!

●目的
 奴隷を助ける

●ロケーション
 幻想国首都メフ・メフィート。プリマヴェーラ通り。
 麗しい名前とは裏腹に、得体の知れない空気が渦巻く通りです。
 喧嘩は日常茶飯事ですが、流石に大量の死者が出るような抗争があれば住民は不安がります。
 日中です。煤けた感じですが、明かりや足場に問題はありません。
 至る所に隠れる場所があります。少ないですが、通行人もいます。

●敵
○奴隷商人
 そこそこの強さです。剣と銃を所持しています。
 自分の命が危ういと奴隷を盾にするかもしれません。

○傭兵×10
 馬車の中や周り、または通りの何処かに潜んでいたりします。
 剣や弓等で戦う、精強でバランスの良いチームです。
 それなりに強いです。

●奴隷
 人数は不明ですが荷台に載せられていたり、檻の中に入れられています。
 色々な子が居るでしょう。皆、怯えて震えています。
 助けてあげましょう。

●戦闘後
 少しだけ交流することが出来るでしょう。
 怖がっているので、優しい言葉を掛けてあげてください。

●ポイント
 どんな奴隷の子が居るか決めて見ましょう。
 愛玩用だから可愛い。労働用だから逞しい。
 耳が長い。男の子。女の子。低身長童顔成人男子など( ・◡・*)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <リーグルの唄>ペールブルーの陽だまり完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月11日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
斑鳩・静音(p3p008290)
半妖の依り代
一条 夢心地(p3p008344)
殿
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
首塚 あやめ(p3p009048)
首輪フェチ

リプレイ


 飴色の石畳を馬の蹄が通り過ぎて行く。そこには幌が張られた荷台が引かれていた。
 荷馬車の周りには傭兵が辺りを警戒しながら歩いている。
 それだけ重要な『売り物』を積んでいるのだろう。

『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)の黄金の瞳は憂いを帯びていた。
「光あるところに影あり、世界がこんなに破滅へ秒読みという段階なのに相変わらずクズ貴族や商人は平常運転ですか」
 幻想という国は腐敗した貴族階級に支配されている。
 スラムの子供達が貧困に喘いで居ようとも己の私利私欲を満たさないのならば手を差し伸べる事は無い。
 それどころか奴隷として買い付けようというのだろう。
 その需要に応えるために商人達も動く。売り込みによる供給が先か、欲望の需要が先か定かではないが。
「ああ、反吐が出ますね、本当に出ますね……穏便にいかなければいけないことがすごく悔しいです!」
 拳を握りしめる利香に『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は頷く。
「金のために人をも売る。人の欲望は果てないですねえ」
 同意ではあるけれど、四音の言葉の意味は底知れない。面食らった利香は落ち着きを取り戻そうと息を吐いた。このままの殺気では奴隷が怖がってしまうだろう。務めて冷静にしなくてはと自分に言い聞かせる。
 四音は利香から視線を流し、ローレットの窓の外、空高く飛んで行く鳥を見つめた。
 奴隷という要素が加わる事により、きっと面白さが増すのだろう。紡がれる物語を心底楽しみにしながら四音は朗らかな笑顔を浮かべていた。
「正直、奴隷自体には嫌悪も興味もないのですが」
「奴隷が良いとか悪いとかは分からないけど……。ただそれでも、私欲の為に彼等の命や意思、尊厳を踏み躙る真似をしてはいけないと思うんだ」
『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)の声に応えるのは『半妖の依り代』斑鳩・静音(p3p008290)だった。
「ええ。罪のない者たちが奴隷にされるのは見過ごせません。特に子供となれば……絶対に奴隷たちを助けましょう!」
 ラクリマのブルーグリーンの左瞳は強い光を宿す。
 年端も行かぬ子供を、その人生を、商売の為に利用するなんて非人道的過ぎるのだとラクリマは憤った。
 それはそれとして。静音は奴隷といえば可愛い女の子が居るのだろうかと真剣な表情をする。
「クヒヒ! 奴隷商人の家系である私が何の因果か同じ奴隷商人を襲って奴隷を助ける……割と日常的にやってますがまあ周りから見れば滑稽でしょうね!」
 唇に三日月を浮かべ『首輪フェチ』首塚 あやめ(p3p009048)がくつくつと嗤う。
「ですが、私は『慈愛』のザントマンの妹! 『奴隷は家族』なので不当な扱いをされる奴隷は見過ごせないのですよ!」
 奴隷は自らが望んでその場所に留まり続けるという判断が無ければ意味が無い。
 隷属である事に誇りと安心感を抱かせなければ本当の主人とは言い難いのだ。
「と言う訳で……レッツ奴隷奪還! クヒヒ! どんな首輪を付けた子が居るんでしょうかね?」
 出会いを予感させる震えに、あやめは息を荒らげる。
「アァ……私の首輪センサーがぁ!」
 彼女のギフトは的確に作用している様だ。

「ぬおー! 人をモノのように売り買いするなどこの麿が断じて許さぬ!」
 目を瞑り地団駄を踏む『殿』一条 夢心地(p3p008344)は、興奮気味に息を吐いた。
「なんで……なんでそんなひどいことができるのじゃ……。
 うっ、うっ……ぜったいだめでしょ……そんなの……」
 子供達の震える声が聞こえてくるようだ。怖い、助けて欲しいと言っている。夢心地には分かる。
「行くぞ! 皆の者! 麿に付いてくるのじゃ!」
 唇を噛みしめ夢心地はローレットから飛び出した。

 夢心地は怪しまれぬようプリマヴェーラ通りに入る前に露天のパンを買っていた。
 それを食いながら、馬車が向かう進行方向から回り込んで、通行人の振りをする。
 じりじりと縮まる間合い。

 ――――
 ――

「望んでもないのにその身を売られて、好き勝手に使われるなんて……」
 胸元で拳を握りしめる『もう少しだけ一緒に』シルキィ(p3p008115)はペリドットの瞳を上げた。
 此処で止めなければ、奴隷の子供達は不遇の人生を歩むことになるだろう。
 手を伸ばせば届くのならば、多少の無茶無謀は承知の上。必ず助けてあげなければならないのだ。
「……申し訳ないけど、荒っぽく行くよぉ!」
 シルキィの耳に物陰に潜む傭兵の足音が聞こえてきた。
 反対側の通路に居る『Adam』眞田(p3p008414)の前にも傭兵と思わしき男が現われる。
 眞田にとって奴隷は教科書や漫画の中でしか見たことがなかった。
 遠い過去の話やファンタジーの中の出来事だったのだ。それらは大抵労働力として使われ、鞭打たれている印象しかなかった。けれど、目の前の現実はそれよりも残酷。
「子供もいるんだ。まあ、放ってはおけないよね。……だーるまさん、だーるまさん、かーくれんぼしーましょう」
「何だ? てめぇ」
 ゆらゆらと上半身を揺らす眞田に、傭兵はナイフを構える。
「このだるまさんは誰を指すか。もちろん筋肉だるまさんのこと」
「ふざけてんじゃねぇぞ!」
 ナイフの刃が鈍く光り加速した。眞田の喉元を狙った太刀筋は揺らめく黒い影に吸い込まれる。
「ああ、もう始まってるんだっけ……せっかちだなぁ」
 眞田の拳は黒い影に惑わされた男の頬を打った。飴色の地面に転がる傭兵。
 だが、反動を着けて回転し眞田と間合いを取る。
「へぇ中々やるじゃん」
 流石は傭兵ということか。眞田が四音へと視線を送ると彼女も同じように交戦を始めていた。
「さて、何か耳よりな情報が有れば助かるのですが。どうでしょう。
 金のためなら奴隷売買の手伝いもする。傭兵というのも大変ですねえ」
 挑発をしながら、四音は傭兵の気を引きつける。
 眞田とシルキィ、そして四音のお陰で物陰に潜んでいた傭兵は全員見つかった。
 物陰から聞こえる剣檄の音に奴隷商人は馬車を止めて警戒する。

「私達は奴隷を助けに来た者達です! 正義は我々にありです!」
 通りにあやめの声が響き渡る――


 一斉に飛び出してきたイレギュラーズに傭兵が獲物を構える。
「ヒィ!」
 突然の戦闘に怯えて逃げて行く通行人に混ざって夢心地は馬車の影に身を隠した。
「何だァ、てめえら! やんのか!?」
「正義かなんだか知らねぇけど、ごっこ遊びは余所でやんな。痛い目見たくなけりゃな」
 傭兵達が威嚇するように剣を振り回す。
「こっちも遊びじゃないのよ。さぁ、出てきてリカちゃんと遊びましょ! なんちゃって!」
 長い睫毛でぱちりとウィンクしてみせる利香。
 彼女の色香で傭兵が惑わされる事は無いだろう。
 だが、この緊張感のある状況では怒りを誘発するには十分な効果を発揮する。
「くそが! 舐めてんじゃねぇよ!」
 利香へと怒りの儘、剣を振り下ろす傭兵達。
 走る敵刃に利香の皮膚が割け、アガットの赤が地面に散った。
 されど、その赤き血を呼び水に、無数の手が地を這い花咲くように広がり複数の傭兵を切り裂く。
「……っ!」
「おい。お前ら、何かやべえ奴らが襲ってきてんぞ!」
 荷馬車へ向けて叫ぶ傭兵。
 その声と同時に荷馬車の影に隠れていた夢心地が幌に刀を突き刺した。
「うわ!?」
 闇雲に刺しているのではない。透視によって開かれた夢心地の視界は幌の中を垣間見る。
 残っている傭兵が危険を察知して、荷台から飛び降りた。
 中には傭兵と思わしき者は居ない。鎖に繋がれた奴隷達が恐怖に震えている。
 夢心地は子供達を怯えさせないように、切り裂いた幌の隙間から顔だけを突っ込んで声を掛けた。
「わけあってそなたたちを助けに来たゆえ、しばし我慢するのじゃ」
 突然の夢心地の顔に肩を振るわせる奴隷達。
 だが、助けに来てくれた事は分かる。夢心地は安心させるように真剣な表情でこくりと頷いた。
 そして、直ぐさま幌から顔を上げて、迫り来る刃を弾く。
「後ろから狙うとは、卑怯者じゃ……」
「うるせぇ! てめぇもグルか! 叩きのめしてやる!」
 敵の怒号が戦場に響き渡った。

「街の人や、捕まってる皆を無闇に怖がらせたくはない。だから、命までは取らないよぉ」
 朱と碧。二つの糸は敵の目の前をゆらりと流れていく。
 シルキィはよりあわせた糸を媒介に魔法陣を作り上げた。
「ちょっと痛い目には遭ってもらうけど……ねぇ!」
 放射状に拡散する光の粒。傭兵の目を押しつぶす様な光量が戦場に散らばっていく。
「さあ! お縄についてもらうよぉ!」
 シルキィは傭兵が怯んだ隙に糸で雁字搦めにして縛り上げた。

 あやめへと畳みかけられる集中攻撃。
 裂かれる痛みに身を捩る。されど、これは仲間や奴隷達が受ける筈だった傷。
 それを代わりに受けているという事実に、いっそ歓喜さえ覚える。
「クヒヒ……もっと、もっとくださいよ? ねえ、ねえ?」
 あやめの声は傭兵達の神経を逆撫でした。
 彼女へと攻撃を叩きつける度に傭兵へと徐々に蓄積されるダメージ。
 明確な外傷ではない。反射してくる精神的なダメージが傭兵を蝕んでいく。
「この逞しい首にはどんな革の首輪が似合いますかね?」
「ひっ!」
 その様子を場違いなほど朗らかな笑顔で見つめて居るのは四音だ。
「皆さんの傷を癒し、その命を守るが私の使命。全力で尽くさせていただきます」
 あやめの肌を走る傷に向けてダークヴァイオレットの腕が伸びる。
 ゆるゆると白い肌に黒い腕が絡みついた。
「あぁ……これは」
「心配しなくても大丈夫ですよ。一応、癒やしの術です」
「いいえ。いいえ。もっときつく抱きしめてくれても構いませんっ!」
 四音の癒しの術式は一見攻撃に見える程に禍々しいものだろう。ダークヴァイオレットの腕に驚く者も多い中あやめは嬉々としてそれを受入れていた。
「珍しい方ですね?」
「そんな、ことは……」
 照れた様にはにかむあやめに四音は微笑みを浮かべる。

「白旗をあげるのならば、命を奪う事はせぬ」
 妖刀を構えながら夢心地は宣言した。
「くそっ!」
 向かってくる傭兵に対して、振るわれる一刀は決して命を奪わぬ閃き。
 項に峰打ちを叩き込まれ、昏倒する傭兵。
「どうじゃ! 降参するなら今のうちじゃぞ!」
 夢心地の声が眞田の耳に届く。
「そうそう。いいよ? 降参するなら、見逃しても」
 路地裏に隠れていた傭兵と対峙する眞田。
 黒い影が揺蕩い、一迅の風に消える。
 眞田の拳が空気を切り裂いた。
「はいはいもう君はゲーム終了! だるまさんが……こーろんだ!」
「ぐっ……は」
 続けざまに放たれる急所を狙った蹴り。されど、それは誰の命をも奪わない。
「白昼堂々、目撃者がいる前で殺しなんてしないよ。運が良かったな」
 裏路地から通りの石畳の上に転がる傭兵。

「お前らの狙いは奴隷達なのだろう!」
 奴隷商が荷馬車の幌から奴隷を引きずりだす。
「大人しくしろ! さもないとこの奴隷の命は……」
 言い終わる前に奴隷商へと飛びかかったのはラクリマと静音だ。
「大丈夫、怖いのも痛いのも、全部私が持っていくから」
 静音は奴隷の子供を抱えて幌の中へ戻す。
 振り返れば、真っ白のマントに深々と突き刺さる剣が見えた。
「は、っ……」
 痛みに眉を寄せるラクリマ。じわりじわりと白が赤に染まっていく。
 されど、奴隷商を逃がさぬよう剣柄を握りしめたままの相手の手を上から押さえつけた。
 ――痛いなんてものじゃ無いですね。神経が擦切れそうだ。
 紫水晶の盾は平気そうに笑っていたから多少の無理は利くかと思って居たのに。……そう考えると少し腹立たしい。刺された痛みで攻撃的になっているのだろう。
 遠のく意識を怒りによって繋ぎ止めて。ラクリマは静音へと視線を流した。今が好機なのだと。
「自分に対して攻撃が来る分にはどうも思わないし、性分的に寧ろ大歓迎ではあるけど。
 ただ……奴隷の子達を狙うような真似されたら流石に怒ってもいいよね?
 いくら何でも、傷つけていい道理なんてないんだからさ!!!!」
 静音の怒りに満ちた声と共に白き魔法陣が展開する。
 奴隷商や傭兵の目を焼き付くさんばかりの白の閃光が戦場を覆った。

「本当は殺してやりたいところですが、人の目がありますからね、運が良かったですね?」
 倒れた商人を蹴飛ばした利香は剣が突き刺さったままのラクリマを支える。
「ただ、これ以上やるというのなら。容赦はしませんよ?」
 利香の殺気に満ちた顔と、気を失った奴隷商を交互に見つめた傭兵は溜息を吐いて白旗を揚げる。
 奴隷商(クライアント)が生きていなければ、貰える報酬もあったものではない。
「懸命な判断です。この方にはあなた達が泣いて彼の命を助けて欲しいと縋ったと伝えてあげますよ。
 良かったですね。ちょっとはお金が貰えるかもしれませんよ」
「そうしてくれると助かるぜ」
 溜息を吐いた傭兵をシルキィの糸が縛り上げていく。


「痛っ……」
 ラクリマの身体に突き刺さったままの剣を四音の骨腕がゆっくりと抜いて行く。
「大丈夫ですか?」
「ええ。かなり痛いです」
 四音の影から現われたダークヴァイオレットの腕がラクリマを包み込んだ。
「これ……冷静になってみるとかなり怖いですね」
「そうですか? 黒い腕に抱かれるのってドキドキしません?」
「うーん。どうでしょう。俺には分からな……痛い、痛い。傷口押さないで!」
 重傷であはるが、四音の『献身的』な治療でどうにか歩けるようにはなったラクリマ。
 ブルーグリーンの瞳を見上げると縛り上げられた奴隷商のむなぐらを利香が掴んでいるのが見えた。
「――ああ、拒否していただいても構いませんよ、魔眼でその気にさせてあげますので♪」
「分かった。話すから! 勘弁してくれ!」
「さて、たんと情報吐いてくださいね」
 利香の声にぶるぶると震える奴隷商。拷問は必要なさそうだとラクリマは頷いた。

 眞田は幌の中を覗き込む。
「やっぱいるよな、子供……。超怯えてるし……」
 珠々繋ぎにされた奴隷の鎖を動きやすいように切り離していく眞田。
 一人ずつ抱え上げて、外に待機している夢心地に渡していく。
 眞田は最後に残った小さな金髪の少年に手を伸ばした。
 ビクリと震える肩に一瞬だけ手を引いて。
「大丈夫? 俺も怖かったよ、ごつい人いっぱいでさ。よく頑張ったね、動ける?」
「うん……」
 少年が手を伸ばして来るまで待つ。おそるおそる眞田の手に指を乗せる金髪の少年。
「せっかくいい天気なんだしさ、一緒に遊んでいこう?
 走り回るのもいいよね、君たちはもう自由なんだし」

「もう大丈夫だよ、怖い人達は皆退治したから」
 静音はゆっくりと子供達に声を掛ける。腕を広げて抱きしめられるように構えた。
「大丈夫、これからは怖い事や辛い事以上に良い事があるから」
 怖がりながらも静音の腕の中に身を委ねる子供達を、そっと抱きしめる。
 今まで怖い思いも寂しい思いもしてきただろうから。
 この瞬間だけでも、温もりに包まれていて欲しいから。
 胸に縋り付く子供に静音は微笑み掛けた。

「もう大丈夫だからのう」
 愛玩用のパンダの獣人を抱え上げた夢心地は安心させるように身体を揺らす。
 ふかふかの触り心地。パンダの子供は愛らしい瞳で彼を見つめて居た。
「貴女と似た子が知り合いにも居ますけど。今は笑顔も浮かべて元気に過ごしていますよ
 あなたもきっと『同じ』ようになれますから。安心してください、ね?」
 奴隷に『なってしまった』少女は、森の中でゆったりとした時間を過ごしている。
 だから、心配いらないのだと四音は微笑んだ。

「よしよし、よく頑張りましたね! えらいですよー、いひひ♪」
 利香はハーモニアの男の子の前にしゃがみこんで頭を撫で回す。
「いい子ですねぇ、可愛いですねぇ」
 この愛らしい潤んだ瞳。一生懸命お礼を言う姿。キャトりたい。
 だが、しかし。同じ属性は既に眷属に居る。されど、ハーモニアの男の子は好きなのだ。
「あとはこの子達がちゃんと帰れたり自立できるようにする場所が見つかればいいんですけど」
 邪な思いはさておき。可愛いからこそ。きちんとした場所ですくすくと育って欲しい。

「荒っぽくしてごめんねぇ、怖がらせちゃったねぇ……」
 シルキィは荷馬車に隠れるように蹲る獣種の女の子の元へ近づいていく。
 耳と尻尾が生えた、シルキィと同じ白い髪。その隣には茶色い猫耳を生やした男の子も居た。
 シルキィは怖がらせないようにしゃがんで目線を合わせる。
「もう大丈夫だよぉ。今まで、とっても辛かったよねぇ……けれど、もう怖い思いはさせないから」
 腕を広げておいでと呼べば。ふたりともシルキィの胸の中に飛び込んで来た。
 小さなぬくもりを優しく抱きしめる。安心したようにぽろぽろと涙を零す子供達。

 あやめは奴隷達に優しく声を掛ける。身元が分かっている子供は責任を持って送り届けると約束して。
 それでも身寄りの無い子供が居たのならば。
「もし、嫌でなければ私と『家族』になりませんか?」
 アルビノの少女の手を取ってあやめは問いかける。
「身分は『奴隷』のままですが……私が責任を持って貴方を守ります」
 ――「慈愛」のザントマンの名に懸けて。
 あやめと奴隷との出会い。思い出を紡いでいくのはこれからなのだ。

成否

成功

MVP

ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌

状態異常

ラクリマ・イース(p3p004247)[重傷]
白き歌

あとがき

 お疲れ様です。如何だったでしょうか。
 無事に奴隷達を救い出す事が出来ました。
 MVPは子供達の為に身体を張った方へ。
 ご参加ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM