シナリオ詳細
<希譚>ゾンビ争奪戦L&R<呪仔>
オープニング
●L&R株式会社
シングル・アクション・アーミーのリボルバー弾倉が引き金をひくたびに回り、水平持ちした二丁分の銃口から弾頭を次々と打ち出していく。
放たれた弾頭は回転をもって空気をうがち透明螺旋の軌跡をひきながら人間の――否、歩くシカバネこと『ゾンビ』の脳天へと打ち込まれた。
一発で大きくのけぞり、二発目で転倒。ワイシャツの上に西部劇に登場するガンマンのような革のジャケットを羽織った男が『Hit』とつぶやいて笑った。
「ハッハー! やっぱゾンビはいいよなあ。何人ぶっ殺しても誰も文句言わねえ」
「スミス=サン。レジャー気分は困りますよ」
黒いクナイを抜いた、ビジネススーツに面覆をした女がゾンビたちの間をジグザグに駆け抜け、彼らの足を重点的に斬り付けていく。
動きの弱った所へ、ジーパンワイシャツ姿にウィッチハットを目深に被った男が空中に火の玉を無数に出現させ、フィンガースナップひとつでよろめいたゾンビたちへと殺到させる。
「おっと、やりすぎたかな。死体は回収する約束だったっけ?」
「オーダーを忘れたのかジョンソン」
魔術師ジョンソンの横を風のように駆け抜け、ヒートクローによってゾンビたちの四肢を切り落とし身動きのとれない状態にしてから押さえ込む赤髪のアンドロイド女性――イング。
「我々のオーダーは『ゾンビの調達』だ。客がいる限り――」
「客がいる限り」
言葉に重なるようにして、白い軍服の男が現れた。若い容姿をしているが、雰囲気はそれを裏切って深く年老いているように見える。
「リアム様……」
イングの呼びかけに小さく手をかざすと、確保したゾンビ数体をみて頷いた。
「客がいる限り、それが歩くシカバネだろうが神の残滓だろうが、なんだって売る。あの『個人国家主義者』は気に入らないだろうが、な」
戦闘は終わったのだろう。皆武器を納め、無力化したゾンビに麻袋をかぶせるなどして梱包してからコンパクトワゴン車へと積み込んでいく。
「まあ、さしあたって……ゾンビを売ろう。こんなに勝手に『湧き出した』のだから、金に換えないのは無駄遣いというものだ」
●『日常』の守護者たち
「――と、いうのが『L&R株式会社』の主要実行メンバーたちの情報だ」
所変わって希望ヶ浜学園校長室。
校長無名偲・無意式(p3n000170)はため息交じりにスマホを操作すると、大きな液晶テレビ画面にミラーリングした映像や写真を指さした。
「『L&R株式会社』は異常存在(アノマリー)の売買を専門とする団体だ。代表者は二人いて、その一人だけが分かっている。このリアム・クラークだな」
画面に映し出された白い軍服の男である。
その周囲に隠し撮りされた写真が並び、それぞれイング、スミス、ルカモト、ジョンソンと名前が振られていく。
「それで、この四人が主な実行部隊だ。異常物品の回収を行っている。今回は、石神地区に溢れかけている『ゾンビ』を回収しているようだな」
ゾンビ。
――と一口にいっても多種多様の解釈があるので、まずは今回の背景から語ろう。
ここ練達再現性東京希望ヶ浜エリアには、石神地区という場所がある。
日本の片田舎をモデルとした再現区で、阿僧祇霊園石神支社もある。
ゾンビはこの周辺でどこからともなく湧き出しては増えており、もしこれが平和に生活しているエリアに湧き出せばその平和が崩壊するのは必至。ゾンビを媒介にして狂気が伝染すればどうなるかわからない。
「ゾンビと聞けば死体をあやつるウィルスや悪魔の操り人形や異界の侵食と色々解釈が分かれるだろうが……今回は『神』と接触して発狂した人間達。及びそれらに連れ去られた供物たちだ。皆既に死亡しており、呪いや神威のたぐいによって動いている」
ただ歩いているだけならまだいいが……と校長は先ほど見せた画像資料を指さした。
「『L&R株式会社』はこのゾンビを回収し、販売しようと試みている。既に回収した個体の奪取や販売ルートの破壊は別口で行っているから、今回は新たな回収作戦を妨害、同時にゾンビたちを破壊する。まあつまり……」
B級映画のタイトルでも思いついたような顔をして、校長は言った。
「ゾンビ争奪戦だな」
- <希譚>ゾンビ争奪戦L&R<呪仔>完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月08日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
マイクロバスのエンジン音がやみ、砂利道にタイヤが止まる。
スライドドアが開いて、学生服をきた少女が砂利道へと降り立った。
『笑顔の配達人』小烏 ひばり(p3p008786)である。希望ヶ浜ぐらしに慣れた、というべきなのだろうか。学生制服がぴったりと似合っている。
「L&R株式会社って、たしかこの前学校を使って子供達を虐殺しようとしていたひとたちですよね」
あのときはひばりたちの尽力で子供達にあれ以上の被害を出すことはなかったが……。
「今度はゾンビだなんて、許せないことに使われるに決まっています! ね、イルミナ!」
「ん」
赤い眼鏡をかけなおした『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)。
彼女の脳裏にも夜の小学校を舞台にした戦いが思い描かれているが、ひばりとは異なりイングの目がこうこうと浮かんでいた。
自分にまっすぐ向かい、ロボットの意義を唱えた彼女。元の世界に帰れるのだと説いていたが……。
「生憎、イルミナはこちらの世界が大好きになってしまったので! 帰る気はさらさらないッス! ね、ひばり!」
砂利道へおり、ぱちんとハイタッチするイルミナとひばり。
彼女たちが百貨店の廃墟へと歩いて行くのを眺めながら、『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)は車から降りて背伸びをした。
マイクロバスに収まるのは彼にとって窮屈だったのかもしれない。
一緒に降りてきた『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)が依頼書……というか依頼内容をメモしたファイルをスマホで開いた。
「今回の依頼内容はゾンビ退治……と、闇バイヤーの撃退か。二つセットとは珍しいな」
「やることは戦闘だ。そう言う意味じゃ変わらない」
鉄板を仕込んだタクティカルグローブをはめ、握って開いて感触を確かめるイズマ。
「それにしても、ゾンビなんて誰に売るんだ? 売る方も買う方も何を考えてるんだか」
「さあな。動く死体を買って何が楽しいのか。人間の考えることはよくわからないな」
『神隠し』を象徴するような仮面を装着し、刀身の黒い刀を数センチほど抜いてから鞘に収め直す華。
「くくるなくくるな。俺も人間だけどわからないぞ」
「すまん。人間の機微や境界には疎くてな……」
で、どうなんだ? と二人はあとから降りてきて横向きに身体を反らす柔軟体操をしていた『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)へと振り返った。
そらしたまま固まるアンナ。
「なによ。私だって知らないわよ。
あんな制御のできそうにないものをどう使うかなんて、考えたくもないわ」
ぴんと背筋をのばし直して、腰に手を当て、腰巻きにしていた布の結び目を解き始める。
「ビジネスで厄介事を増やされたら堪ったものでないし、お引き取り願いましょう」
「それもそうだ。神の供物として捧げられたものが人に好き勝手されるのはなんとなく気分が良くないしな」
「ビジネス感覚はこっちも同じだが、気持ちの上では賛成だ」
そうして歩き出す仲間達。
……から一足遅れて、『裏咲々宮一刀流 皆伝』咲々宮 幻介(p3p001387)が車の中で丸くなって寝ていた『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)を揺り起こしていた。
「リュコス殿、ついたでござ……コホン、ついたぞ、リュコス!」
「んっ」
髪の毛若干不自然にたて、尻尾を振って身体をおこす。顔を拭ってから車から這い出ると、もう準備万端といった様子でまばたきをした。
「ゾンビは石神地区に捕まった人たち……。
そしてゾンビを捕まえて売ろうとしてる人がいる……。
それってジンシンバイバイってやつだよね!
もう死んで……ううん、死んでるからこそだよ。
同じ人間だよ? どうしてそんなひどいことができるの?
許さないんだから、とっちめてやる!」
「やる気十分でなによりだ」
幻介はこの季節には少々遅れたロングコートを羽織り、襟を立ててハンチング帽をかぶった。
胸ポケットからスマホを取り出し、資料を見直す。
(前回はいい様に遊ばれちまったが……今回はそうはいかねえ。
見せてやるよ、本当の咲々宮の速さって奴をよ……第二ラウンドの開始だぜ!)
スマホのスリープボタンを長押しすると、上部から半透明な霊力刀がはえた。
●
一階生鮮食品売り場。
……といっても、商品などどこにもなく、はるか前にそれらしいものがあった形跡のみが棚やワゴンという形で残るばかりである。
たちこめる腐臭は、おそらくこの場所に入り込んでうろうろしているゾンビたちのものだろう。
そんな空間を走り抜けるビジネススーツの女。手にした苦無を幾度も閃かせ、棚から棚へと飛び移り壁際のお惣菜用棚へと着地。足音をほとんどたてぬまま腰をかがめ、面覆の奥で目を細めた。
「やはり、来ましたか」
「前に戦った時から思っていたんだが。てめえ、以前に何処かで俺に会った事があるんじゃあねえか?」
スマホのリングアクセサリに中指を通し、くるりと回して逆手持ちする幻介。
なぜならば、忍者ルカモトが話の途中でフロアの天井を走って飛び、反転しながら幻介の喉元めがけて斬り付けてきたがゆえである。
あまりにわかりやすい殺意ゆえ、幻介は逆手に展開した刃でそれを防御。相手もこちらも、刃を交えることがアイサツのようなものだ。……と、幻介は本能でわかった。
「俺を殺したいか?」
「言葉は無粋。我々は刀で語るべきでは」
「違いない――が、『あの子』がそれを許すかな?」
片眉をあげ、幻介がちらりと右脇を見やる。ルカモトがそちら側をちらりと見た――瞬間、『反対側』の棚裏からエクスマリアが飛び出した。
跳躍。拳を引き絞る姿勢に連動して頭髪によって巨大なこぶしが形作られ、大きく見開いた蒼い瞳が咄嗟に振り返るルカモトと『えっ俺も?』という顔をした幻介を映した。
巨大な、黄金の双腕によって繰り出される回転ダブルラリアットによって周囲の風景がまるごとなぎ払われていく。
ルカモトは幻介の顔面を揃えた両足で蹴りつけることでギリギリ回避。幻介はその場で大きくのけぞってブリッジ姿勢をとることで回避した。(エクスマリア自身も味方に当たらないように振ったが)
それによって吹き飛んでいくゾンビたち。野菜がペイントされた壁に叩きつけられたゾンビが力なくずり落ちていくのを背に、エクスマリアがビッとルカモトを指さす。
「商品として、ゾンビの捕獲、とは。商魂たくましいのは結構、だが。今回は、お引取り願うと、しよう」
「ゾンビを引き取って良いと?」
「それは引き取らせない」
ルカモトがクッと人差し指でアメリカンな手招きをするような動きをすると銀色のワイヤーがエクスマリアに絡みつき、ルカモトを中心とした円周軌道を振り回されるように飛んでいく。
「――ッ」
まだ無事だった棚をいくつも破壊し転倒させながら飛び、キャスターつきのワゴンに激突するエクスマリア。
「なら、この場を制した者の主張を通すべきでしょう」
「……確かに、な」
むくりと起き上がり、自分に治癒の術を施すエクスマリア。
そこへ、左右からうなりを上げながら掴みかかるゾンビの集団。
ドリルめいた螺旋構造にした頭髪を四方八方に伸ばしてゾンビを破壊していくエクスマリアの一方で、幻介はルカモトへと斬りかかった。
順手に持ち直したスマホから短い霊力ブレードを展開し変幻自在に斬りかかる。
それをルカモトは左手に持った苦無で次々に受け流していった。
「お前みてえな良い『女』、俺が忘れるとは思えねえんだよな」
「その絡み方はズルいですよ」
強烈に刃をぶつけ合わせ、散る火花をはさんで顔を近づける二人。
互いの目には、一本の刀のみが映っているようにみえた。
●
「ハッハー。動く的を撃つってのは楽しいねえ。血も出て呻きもする。いいオモチャだぜ」
煙草をくわえたガンマン風の男スミス。
ベルトに接続したホルスターからリボルバー拳銃を抜くとゾンビの群れめがけてどかどかと撃ちまくった。
ニヤニヤとしながら射的ゲームを楽しむ彼――が、突如として下り階段側へ発砲。
放たれた弾丸は正確に大気を螺旋状に穿ちながら音よりも早く飛び、今し方階段を上がってきた華――の抜刀した刀身によって切断され真っ二つになって壁と床へぶつかった。
「できるだけひっそりと上がったつもりだが?」
「悪いねえ」
スミスは硝煙をあげる銃口で帽子のつばをちょいとあげると、引きつるように笑った。
「人殺しが趣味なんだ。その様相からすると、あんたもかい?」
「悪いが、オレにそんな趣味はない」
改めて刀を握り直すと、華は斜めに構えた。
彼女の姿をみつけたゾンビの一部が方向転換し、両手を突き出して駆け込んでくる。
邪魔をするな、とつぶやいた華は体勢を低く取り、駆け寄るゾンビたちの中央へと滑り込むように移動。
二度の閃きが孤月を描き、ゾンビたちが崩れ落ちていく。
「ほら、やっぱシュミなんだって。身体が人体の壊し方を覚えてやがる。おまえさんは人間殺したくてしょうがないニンゲンなんだって」
「二度も言わせるな。そもそも……ニンゲンであったつもりはない」
「そうかい」
華めがけて三度発砲。
対する華は二度の斬撃によって弾丸をはじく――が、三発目が肩に命中し仰向けに転倒した。
銃弾をくらっただけでここまで押されるものだろうかと傷口を指でいじると、梵字の彫り込まれた弾頭が出てきた。
「ただのトリガーハッピーではないらしい」
「そーゆーコト」
近づいて中の狙いをぴったりと定めるスミス――の背後に、イズマは突如として現れた。
「うおっ!?」
猛烈な勢いで振り込まれた拳。放った殺気によって気付いたスミスは回避行動をとるも、頭部へ思い切りパンチをうけ、派手に吹き飛んで周囲のゾンビごと転がっていった。
覆いかぶろうとしたゾンビの脳天を打ち抜き、蹴り飛ばしながら起き上がるスミス。
「どっからた来たコラテメェ!」
何を今更という顔で天井……というか上階側の階段を指さすイズマ。
「上からだが」
「やっべ下だけ見てたぜ」
などと言いながら、イズマと華それぞれへ銃を向けて連射。
「こいつ、ゾンビより俺たちを優先して潰す気か」
イズマは両腕と両足に硬化の術を施すと、飛来する弾丸をクロスした腕で防御しながらスミスめがけて突進していく。
「俺はスミスを抑える。ゾンビどもを頼む」
「オレたちの都合に沿ってくれるほど優しい奴じゃあなさそうだが……」
任せろ、とゾンビたちを斬り始める華と背を向き合わせ、イズマは助走をつけた膝蹴りをスミスめがけてたたき込んだ。
その後方にあったソファに倒れ込み、両腕でイズマの膝をガードするスミス。
イズマはそのまま頭を押さえ込んでさらなる蹴りを入れよう――とするが、スミスは至近距離からイズマの腹を打ちまくった。
「くっ……!」
「ハッハーなるほど、胴体は弱いと見た」
追撃をさけるべく飛び退き、ガードを固めるイズマ。
「ゾンビを回収して、一体誰に売る気なんだ? どんな奴が異常存在を欲しがる?」
「知るかよ。変態か動く肉の的が欲しいジャンキーじゃねえのか? どうでもいいけどな!」
「同感だ!」
イズマへ撃ちまくるスミス。拳と膝のラッシュで銃弾を跳ね返しにかかるイズマ。
意地の勝負が始まった。
●
魔法使い然としたウィッチハットにジーパンワイシャツというスタイルで、ゾンビを片っ端から燃やしていく男、ジョンソン。
「おっとそこのお嬢さん、俺に喧嘩を売るのはやめたほうがいい」
自動車用スロープを使って屋上へあがってきたアンナを指さし、帽子のつばを摘まんで見せた。
「お断りよ。私達ローレットが来たからには、ゾンビの一片たりとも持ち帰れるとは思わないことね」
「俺にタイマンを挑んで無傷で済むことはない。話し合いって手もあるんじゃあないのかい? ……まて、『私達』?」
目を細めたジョンソン。すぐ後ろの扉が内側より破られ、リュコスが猛烈な勢いで接近。
慌てて身をかがめたジョンソンの上を、影の爪がかすっていった。
空振りはしたものの、今まさに燃えさかっているゾンビを豪快に切り裂き、ごろんと前転運動をはさんでから起き上がる。
ジョンソンは二歩ほど飛び退き、指を立てて火の玉を召喚する。
「俺相手に距離を詰めれば有利……そう思ったんだろう?」
何か隠し球があるのか。そう構えたリュコスに――。
「正解!」
「せいかい!?」
「やけに素直ね……ゾンビも黒焦げにしてるのなら、早めに諦めても良いと思うけれど?」
「やっぱり? 実はそう思ってたんだよなあ。俺こういうの向いてないんだ」
ジョンソンは肩をすくめ、アンナとリュコスをそれぞれ射線に捕らえ――そしてフィンガースナップによって大量の火の玉を殺到させた。
回避は困難。リュコスはたちまち炎にのまれ、本来こういった回避行動は得意中の得意であるアンナでさえも、殺到するゾンビに足を(物理的に)引っ張られる形で着弾、炎上してしまった。
「人を捕まえ売るとか……どうしてそんなひどいことに手伝えるの?」
燃える身体をがまんしながら、リュコスは周囲のゾンビをなぎ倒していく。
「そりゃあ金のためさ。誰だってこんな汚くて悪いことしたくないだろ? だから御賃金も高い! 生きるためには金がかかる! Win-Winってわけだ。わかるかい?」
「わかんない、そんなの……」
「その方がいいさ。みんなが分かって貰っちゃ安くなるんでね」
「ビジネスは構わないのだけど、もう少し倫理観を持ってくれないかしらね」
炎を布によって払いのけ水晶剣でもって斬りかかるアンナ。
「倫理観でメシが食えればそうするさ。けど社会は俺のママじゃない。わがままいってもお金は降ってこなかったのさ。かなしーよね」
●
各階で戦いが激化する中――。
「イング!」
「イルミナぁ!」
まるで前回の再来と言わんばかりにイルミナとイングは猛烈に激突していた。
さびた三輪車が並ぶコーナーをポップコーンメーカーのごとくまき散らしながら、イルミナの顔面を掴んだイングが突っ切っていく。そしてオモチャの箱が大量に積み上がった棚に叩きつけ、壁越しへ強引にスライドさせていく。
棚のプレートやブロック玩具が飛び散っていくのを至近距離で見つつ、目をカッと光らせるイルミナ。
「バージョンアップしたアステールを見せてやるッス――Ready,テネムラス・トライキェン!」
イングの腕をつかみ、身をひねり、反転して壁を駆け上がったイルミナはその勢いのままイングを放り投げた。
ワゴンに突っ込み大量の箱を崩すイング。起き上がろうと手を伸ばしたところへ、イルミナの銃弾のごときショルダータックルが炸裂した。
ワゴンを粉砕しながら吹き飛び、転がるイング。
「強くなったのが自分だけだと思うな、イルミナ!」
イングはビームクローを次々に射出。
側転運動で回避するイルミナに、ゾンビたちが襲いかかる。
「まかせてください、イルミナ! イングの相手はお任せします!」
そこへ割り込むひばり。ゾンビの集団へ自ら飛び込んでいくと、彼らの注意を自分に引きつけながら一メートル程度の金属ステッキを構えた。中央のバーをひねり、ロッドを展開。三段ロッドの要領で前後に伸びたスチールロッドでゾンビたちを舞うように殴り倒していく。
最後に足を払って転倒させると、イルミナのほうをチラリと見た。
ゾンビたちはひばりの引きつけ作戦にばっちりかかり、全員がひばりを追いかけ回す状態にある。イングVSイルミナの構図はどうやら保てそうだ。
イルミナがイングを無視してひばりを襲えばこの構図は崩せるのだが、どうやらそうはしないらしい。
そして……。
「イルミナ……私と手を組む気は無いか」
くずれた棚から立ち上がり、乱れた髪をはらうイング。
対してイルミナは首を横に振った。
「イルミナは……お友達と笑って遊んで、楽しく過ごせる……」
言いながら、まだ戦うひばりを視界の端に見る。
そして、あらためてイングへと身構えた。
「この世界が大好きなんスよ! その邪魔をするというなら……何をされても文句は言わせないッスから」
「『コード』に従うことこそが我々の幸福だとは?」
「思わないッス!」
「……やはり、特別製なのだな。お前は」
ピピッとイングの耳元のヘッドセットが点滅。イングは手を当てた。
「……どうやらここまでのようだ。お前とはまた戦いそうだな。さらばと言っておこう」
しばらくの後、L&R株式会社のエージェントたちは窓をやぶるなり屋上から飛び降りるなりして撤退した。
作戦、終了である。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――エリアのゾンビを駆除し、L&R株式会社の仕入れを妨害できました。
――作戦は成功です。
GMコメント
■オーダー
石神地区に出現したゾンビを倒しつつ、このゾンビを生きたまま(?)回収しようとしているL&R株式会社の実行部隊たちも撃退しましょう。
ある意味三つ巴のバトルになります。平たく言うとゾンビ殺しながら手強い敵とバトル、です。
放っておくとエージェントたちが「数体持って行ければいいや」くらいの割り切りをおこしてゾンビ抱えて逃げてしまうので、素早く各階層に突入し彼らにぶつかっていく必要があります。
ゾンビ駆除係とエージェント対応係に分かれて各階層に散っていくのがベターでしょう。
※プレイング節約のため、『自分の持ち場がフリーになったら他へ手伝いに行く』といったプレイングは省略してOKです。書かなくても自動的に適切な場所へ適切に再分配するようになります。
■フィールド
・石神百貨店跡地
三階建て屋上つきのデパート風建造物です。
一階正面入り口からの進入と、自動車用スロープを使った屋上駐車場からの侵入が可能です。
内部は全階層屋上含め無数のゾンビで一杯になっており、立ち寄る犠牲者を待っています。
■エネミーA
・ゾンビ
神にふれ発狂したすえ歩くシカバネとなったものたちです。
一応補足しておくと科学ゾンビとは違うので噛まれても感染しません。安心して殴りに行ってください。
数はいっぱいです。いっぱいいます。
■エネミーB
●L&R株式会社のエージェントたち
この四人はHPが低くなると撤退します。
・イング:イルミナと同世界からきたロボットの旅人。
スピード型の近接戦闘を得意とし、戦闘スタイルは割とイルミナに似ています。
三階オモチャ売り場にてゾンビの無力化をはかっています。
・スミス:ガンマン。プロフィール不明。
二丁の拳銃を装備した男。殺人や破壊に対して積極的で、今回の儀式魔術に娯楽性を見いだしている模様。
遠距離攻撃が主体のように見えるが一応オールレンジ対応。
二階家具売り場にてゾンビを撃ちまくる遊びにハマっています
・ルカモト:忍者風の男。男と形容はしたが性別不明。
ビジネススーツに面覆をした忍者風の男。非常に機敏で高い戦闘能力を有しているとみられる。
近接格闘術に優れ、屋内戦闘はとくに得意そう。儀式魔術序盤の進行を担当していた。
一階生鮮食品売り場で黙々と仕事をしています。
・ジョンソン:魔術師風の男。仕事をするたび名前や自称経歴を変えるため詳細不明。
いかにも魔法使いですよといった帽子を被り、ラフなジーパンやシャツで過ごしている男。帽子の主張通り魔術に優れており高い攻撃力が予想される。
屋上エリアでゾンビと戦っているが自分の基礎火力が高すぎるので困っている様子。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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