PandoraPartyProject

シナリオ詳細

咎負い少女は登りて沈む

完了

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オープニング

●授けられたトリルの様に
 古今東西、あらゆる時あらゆる場所で悪魔は人に多くの知識をもたらした。
 例えば、息を呑むほど美しいヴァイオリンの旋律。
 例えば、座を追われた者への復讐の術。

 そしてこの世界において、どういう訳か悪魔の姿で顕現してしまった『境界案内人』ロベリア・カーネイジも、無垢なる少女へ残酷な知識を突きつける。

「よく見上げてご覧なさい。アルス……貴女が長い旅をして、取り戻したこの空は……ただの映像。偽物よ」

 とある異世界に住まう、孤独な少女アルス。彼女は失った空を探し、特異運命座標と共に長い旅を経て、ようやく"それ"を取り戻す事が出来た。
……澄み渡る程の青空や星の煌めく美しい空。だが――彼女が今まで馴染んできた空は偽物で、本物の空とはほど遠い。

「偽物……」

 アルスは顔を俯かせた。ついに心を折ってしまったかと心配そうに様子を伺うロベリアだったが……次の瞬間、アルスが勢いよく顔を上げる。

「じゃあ、本物の空はもっと凄いの? いいなぁ!私、その"本物の空"を見てみたい!!」

 手にした物が偽りでも、特異運命座標との旅はアルスの心を大きく変えた。冒険の最中、知識を授かり、恋を授かり、何よりも希望を授かったのだ。
 きらきらと澄んだ瞳で笑うアルスに安堵を滲ませながら、ロベリアもまた微笑んだ。

「それならまた、探しにでかけましょう。今度こそ貴女に、本物の空を」

●探求者アルス・トロメリア
――あれから、実に一ヶ月の時が過ぎた。

「特異運命座標の世界には"冬"っていうのがあるんだ。いつか行ってみたいなぁ」
「アルス、準備はできた?」
「うわっ!?」
 後ろから唐突に声をかけられ、少女はテーブルに並べていた手紙を隠そうと慌てふためく。その様子がおかしくて、ロベリアはクスリと微笑んだ。
「大丈夫。私よ」
「……っ、なんだロベリアかぁ。入って来る時はノックぐらいしてよ!」
「仕方ないでしょう? 村の人に私の存在がバレたら大目玉どころじゃないんだから」

 この異世界には不思議な理が浸透している。それは――"知識を得る事は罪である"という事だ。
 そこに在るものをよく分からないまま、漠然と使って生きている。罪を犯した者はたちまち魔物に襲われてるという事も相まって、人々は知恵を求める者へ冷酷だ。
 ロベリアという悪魔を呼び、この世の真理を突き止めるべく調査に勤しむ。安らぎを異界との文通で求め、交流し――今のアルスの行動は何を取っても罪深い。

「帰って来てから、お祖父さんの部屋を色々探してみたの。そしたら……ほら!」

 知識を書き留める事さえ罪深いと言われる世で、彼女の祖父は亡くなる前まで、あらゆる情報を密かに書き留めていた。
 それはアルスの名字が「トロメリア」という事から、日常生活において便利な豆知識まで。内容は様々だが――中でもアルスが興味をひかれたのは『黒い塔』と呼ばれる場所の記述だ。

「この黒い塔って、特異運命座標と一緒にアルスが行った場所よね?」
「うん。だけど塔の1階で引き換えしてきちゃったでしょ? あれのてっぺんは"真実"に繋がってるんだって」

 しかし、塔を登るには多くの困難があるという。行く手を阻む魔物達に、奇妙な景色を投射するフロア。
 とてもじゃないが、少女一人で探索できる場所ではなさそうだ。

「お願いロベリア。もう一度……特異運命座標の力を借りたい。また皆と冒険したい!」
「いいでしょう。私もこの塔の頂に何があるか、気になって仕方がないもの」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 はじめましての方も、久しぶりの方も、アルスとの冒険を楽しんで戴ければ幸いです!

◆目標
『黒い塔』をのぼる

◆場所
 ライブノベルの世界(仮)
  表題の掠れた本の世界。名前はいつか知る機会があるかもしれませんが、大変難しいでしょう。
  なにせこの異世界は『知識』が『罪』と定められた世界なのですから。

  今回はこの世界にある『黒い塔』と呼ばれる塔をアルスと一緒に登っていただきます。
  内部には積み重なるように沢山の部屋があり、様々な罠が特異運命座標とアルスを待ち構えています。


◆できる事
 皆さんは以下の4つの中から好きな行動を選ぶ事が出来ます。
 黒い塔の罠は、特異運命座標の心象を読み取り内装をがらりと変えるようです。

【1】魔物と戦う
 魔物蠢く戦闘部屋に辿り着きます。塔を目指す者を拒むかのように、アルスの言っていた『魔物』が出現します。各階1~3匹いる様なので、上手く倒して先に進んでください。
<敵情報>
 犬型の魔物
  四つ足で追いかけて来る殺戮マシン。近接では噛みつき、引っ掻きなどの獣らしい攻撃を行い、遠距離に居ると背中の砲台を使った遠距離攻撃を仕掛けてくる。

 蜂型の魔物
  四つの翅で空を飛ぶ殺戮マシン。お尻の針にエネルギーを充填し、ビームによる中距離攻撃を行います。

【2】部屋を調査する
 書物だらけの図書室のような部屋に辿り着きます。いろんな音が聞こえたり、匂いがしたり。非戦スキルやギフトを使って探してみると、色々な情報が手に入りそうです。

【3】アルスと交流する
 塔の中には、何の仕掛けもない「ハズレ」の部屋もあるそうです。アルスを休ませるには好都合。
 彼女と遊んだり話したり、色んな事をしてみましょう。勿論、彼女が知らない知識を授けるのも面白いかもしれません。

【4】その他
 他に試してみたい事があれば、ご自由に。
 可能な限り反映させていただきます。

◆登場キャラクー
 アルス・トロメリア
  ふわふわの白い癖毛に赤い瞳。だぼついた白衣の女の子。華奢で肌は陶器のように色白です。
  甘いものと不思議なものが好き。前回の特異運命座標との冒険で植物を操る魔術を覚え、恋心という物に興味を持った様です。
  空を飛んだ経験から、敵との高低差も意識して戦う様になりました。また、魔物と呼ばれるものの正体が機械という事も気になっています。

 謎の少年
  アルスの夢の中に現れる少年。アルスに何か話しかけているようですが、声が聞こえず不明な点が多いです。

『狂海のセイレーン』ロベリア・カーネイジ
  境界図書館に所属する境界案内人。普段は足を束縛した姿でしたが、この異世界に呼ばれた拍子に人魚のような姿の悪魔へ姿が変えられてしまいました。
  特異運命座標とアルスに同行しており、頼まれればサポートを行います。

◆情報制度
 この依頼の情報制度はCです。依頼人に嘘はありませんが、未踏の地で予測不能の自体が起こる可能性があります。
 ただ、死亡の様な大きなペナルティはありませんので、冒険をお楽しみ戴ければ幸いです。

◆その他
 このラリーは「空なき世界のジュブナイル」の続編ですが、前回不参加でもお楽しみ戴けます。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4920

 当ラリーはオープニング一覧から消えるまでプレイングを受け付ける予定です。何度ご参加戴いても問題ありません。状況によって続編が出るかもしれません。

 他のPC様とご同行の際は、プレイングの一行目に【】でグループタグを記載して頂けるとスムーズに対応できます。
 どうぞご活用いただければ幸いです。

 説明は以上となります。それでは、よい旅を!

  • 咎負い少女は登りて沈む完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月26日 20時45分
  • 章数1章
  • 総採用数5人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

エドガー(p3p009383)
タリスの公子

「……エドガー!!」
「待たせたね、アルス」
 無邪気な笑顔を向ける彼女にエドガーもまた微笑み返す。

"きみが助けを求めたなら、必ず馳せ参じよう"

 己が名と騎士の誇りに賭けて誓った男は約束を果たしに来たのだ。
「真実を知る事は怖くないか?」
「怖さもあるよ。けれど、それ以上に知らなきゃいけない気がするの……お祖父さんのためにも、私のためにも」
 言い切るアルスの横顔に迷いはなく。この一か月で多くを学んだのだなと、彼女が重ねた努力の日々をエドガーは思案した。
(トロメリア翁には頭が下がる思いだな……彼の行動がこうしてこの世界に少しずつ変化をもたらす。
 そうだな……賢者と言ってもいいだろう)
 塔内部の螺旋階段を登り、辿り着いた扉の奥には幾つかの殺気。それに怯む事もなく、エドガーは雄々しく駆る。
「では行こうか、アルス。私が前衛、君が後衛だ!」
 愛馬の助けがなくとも、その槍は錆びる事なく。扉を開け放った瞬間拡散したSADボマーが殺戮マシンを爆砕し、逃れた獲物をアルスが魔術の蔓で縛る!
「エドガー、あの敵どうしよう!」
「宙に浮かれているのは面倒だが……なに、やってやれない事はない!」
 捉え逃した蜂の機械虫に伸ばした蔓は届かない。焦る彼女を守るようにエドガーは身を翻し、槍に魔力を、そして力を。
 渾身の魔力双撃で粉微塵に撃ち砕く!
「すごい……」
「遠慮はいらない、どんどん打ち込んでやれ!」
「……ッ! 分かった!」

成否

成功


第1章 第2節

白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

「黒歴史の塔?」
「では無くて……」
「ああ、黒い塔ね。……まんまだね」
 訂正するロベリアをよそに、希は暫し考え込む。
(真実があるっていうならブラック・ボックスみたいな意味合いかな……)

 何にせよ、進めばわかる。そう思って踏み入った先は――なんと無人の書庫だった。
「わぁ、凄いね。本が沢山!」
「本当に沢山……ここには罪しかないね??」
 はしゃぐアルスが真っ先に手に取ったのは『甘党必見! 甘味図鑑』なるものだった。
「そんな俗世的なものもあるんだ……」
 何が気になるか聞くまでもなく読書に没頭しはじめた彼女はさておき、希がその部屋で手にしたのは神話の本だ。
 魔物と呼ばれる機械体は、どれも生き物の姿をしていた。アルスが操る魔法も植物。となればそれなりの生命がこの世界には息づいていたという事だ。
 お目当ては……棚の端の方に、ひっそりと置かれていた。開けばたちまち流れ出る音と映像。
(これは……普通の本じゃない。記憶されているものを再生する……)

 しかし映し出されたのは古代の竜でも、ましてや世界を創る大樹でもない。
 ファンタジーとはかけ離れた光景。まず見えたのは泡だ。映像が鮮明になると、その視点は培養液が満たされた管の、内側から見ている光景の様で。
 目の前を白衣の少年が横切りかけ、こちらへ気づくと驚いた様子で駆け寄る。
『ねぇ、僕の事が分かる?』
「貴方は――」
 ぷつり。答える前に映像は途切れてしまった。

成否

成功


第1章 第3節

エドガー(p3p009383)
タリスの公子

 魔物の追撃を搔い潜り、二人は新たな部屋へと滑り込む。
「魔物部屋の次は、何やら書庫の様だな」
「しょこ……?」
 聞きなれない単語にアルトが問い返す。知識死すべしと言わんばかりに本を禁じられていた世の住人としては、至極真っ当な疑問だろう。
「本が沢山収蔵されている場所だ。さて……あらゆる本がある様だが、出てくる敵――この世界的に言えば魔物か。
 奴らを見るに、どうも機械的というか、私から見れば未来的な文明は存在したように思える」
「きんみらい??」
「嗚呼、そうだ。そうなると私もあまり知識的には役立てないかもしれないが……まぁ、なに。無駄にはならんさ、行動することが肝心だ」

 そもそもこの様な塔、更に部屋が存在する事自体が矛盾ではある。
 人に知が罪ならば、塔を見せる必要も、こういった書物を残しておく必要もないはずだ。
(ふむ。元々は何か他の目的があって作られたのか……?)
 考えるうち、探り当てる事が出来たのは『機械生命体』にまつわる研究ファイルだ。あちこちに置かれている革張りの本とは一味違う、金属プレートの様な表紙を捲ると、紙のページの代わりに薄型の液晶が現れ、今まで相対した殺戮マシンの他に蜘蛛型、鹿型もある事が分かった。それら何かの施設のセキュリティとして造られた物であるようだ。

 アルスに意見を求めようと、エドガーは本から視線を外す。ふと――怯えた様子のアルスと目が合った。

成否

成功


第1章 第4節

白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

「……」
「希?」
 アルスに顔を覗き込まれ、希はようやく我に返った。
 手にしていた液晶は光を失い、反射した自分とアルスの姿だけがうっすらと映っている。

「何でもないよ。それより少し休憩しない?」
「うん! 長い冒険になるかもと思って、色々持ってきたんだ。お昼のおやつと、夕方のおやつと、バナナ」
「全部おやつね」

 他愛もない話をしながら、希は得たばかりの情報を頭の中で整理した。

 さっき見た子供博士はなんだったんだろ。
 あの視点はよくある試験管の中の生命体の記憶?

(なんかやばい気配……命を作ってた、と?)

「そういえば、アルスちゃんはこの一か月、お祖父さんの残したノートを色々読んだんだよね」
 黒い塔についての記述があったのであれば、暗号や縦読みなどの仕込みがあるかもしれない。
 水筒で紅茶とおやつを楽しみながらアルスの口から語られる情報は星空のように無数にありとめどない。
(この子の適応能力はしゃれにならない……特異運命座標並みに戦闘スキルの習得が早い、これで記憶力とかも異常な感じだし……)

「実はね。お祖父ちゃんが残してくれた日記の中に、私の事が書いてあったの。森の中で彷徨っていた記憶喪失の女の子を見つけて、保護したって」
「つまりお祖父さんとは血が繋がっていないという事?」
「うん。でも悲しくないよ! だって実の娘みたいにいっぱい愛してくれたから」

 希は確信した。
 先程の映像――あれは、アルスの物だ。

成否

成功


第1章 第5節

エドガー(p3p009383)
タリスの公子

「機械『生命体』、ときたか……」
 やはりこの異世界には、相当高度な機械文明が存在するらしい。
 アルスや村の人間がいる以上、これらを作ったのは人類ということになるだろうが――"彼ら"に何があったのだろうか。
 機械生命体を野に放ち、塔を登る者を阻み。まるでアルス達を拒絶している様な。
「やはりもう少し探索と調査を……む。……どうした、アルス?」
 エドガーと目が合い、アルスの華奢な身体が跳ねた。怯える彼女の方へゆっくりと近づき、目線を合わせようと膝を折る。
「顔色が悪いようだが?」
 相手を気遣う様な穏やかな声音に彼女は頭を振り、気丈であらねばと本へ視線を落とす。
「分からないの。どうしたんだろう、私……この子を知ってる」
 示されたのは蜘蛛型の機械生命体だ。そして次は鹿型までも指差して、
「その子も、あの子も、それから――」
 描かれている機械生命体をどれも知っているというのだ。
「……ロベリア殿」
 エドガーの呼び出しに応じ、境界案内人がすいと宙を泳いで現れる。
「私にはこれらの敵と交戦した記憶がないのだが、他の特異運命座標とアルスが遭遇した可能性は?」
「無いわ。私は物語の導き手として全て見て来たけれど、さっぱりよ」
 ロベリアが肩を竦めた所で、バン! と上の階へ続く扉が突然開け放たれた。部屋に侵入する犬型の機械生命体。
『この先には行かせない!』
「……!」
 剣を構えたエドガーの前で、その犬は確かに喋った。

成否

成功


第1章 第6節

●世界が"知"に塗れたら
――怖い。
 覚えのない記憶。唐突に聞こえるようになった機械達の声。
『この先には行かせない!』
『そうだ、そうだ! 行かせないぞ!』
 漠然とした恐怖の只中でも、アルスが足を止める事はなかった。
「君たちがどうして私達を止めるのかは知らないけど……通して!」

――怖い、けれど……知りたいんだ。本当の空。世界の真実。特異運命座標が分けてくれた勇気を、絶対に無駄にしない!

 もうどれほど階段を登っただろう。塔にはひとつの窓もなく、いま自分がどこに居るかも分からない。
「はぁ、はぁ……」
 肩で息をしながらアルスが辿り着いた部屋は――特異運命座標と調査したはずの本棚だらけの部屋だった。
(元の場所に戻されてる? ……ううん、きっとそうじゃない)
 同じ様に見える部屋でも、新たに部屋に入るたびに"知らない記憶"が増え続けている。
 まるで穴があいた水瓶のように、望まずとも湧き出る思い出。

 液体の満たされた場所で眠る記憶。
 魔物達とじゃれあう記憶。
……夢の中で何度も見た、あの少年が……何かを叫んでいる記憶。
『忘れるんだ、アルス。君は知っちゃいけない! じゃないと君は――』

「…………ぁ」

 ガラガラと音を立てて風景が瓦解する。
 天井も横壁も床も、全てが割れたガラスのように崩れ去り、虚無の闇に放り出されたアルスは、そのまま意識を手放して――。

●空亡き世界のジュブナイル
 ぱち、と長い睫毛が揺れて瞼が開く。
 コールドスリープから目覚めた白髪の少女は、棺めいたカプセルを内側からこじ開け、白い足を床につけた。

 かつて、ここは何かの施設だったのだろう。
 コンクリートの壁の名残がそこかしこに瓦礫として残り、周囲に倒壊した建物が並んでいる。
 それら全てが草に覆われ、チグリジアの花が緑を蝕む様に咲いていた。

 知識を求めた果て、辿り着いた退廃的世界。

「これが、私の求めていた……本当の、空」

 見上げた空は目が冴えるほど赤く、こほ……と咳をしたアルスの口元から、一枚の花弁が溢れ落ちた。

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