群れで集り、貪り食らう

オープニング

●無惨な姿にされた海洋軍兵士
　ガジガジガジガジガジガジガジガジ……。
「んん？　何でしょうねこの音？　船底から聞こえているみたいですが……」
「ちょっと、潜って調べてみるか。お前は船長に連絡してくれ」
　海洋本土からアクエリア島に向かう、海洋の軍艦の中。船底から聞こえてくる謎の音に、その正体は一体何なのかと二人の兵士は首を捻る。上役らしき兵士は、もう一人に艦長への連絡を指示すると、蛸の姿になって海中に飛び込んだ。
「――！？」
　蛸の海種が目にしたのは、数多の巨大な魚が船底を少しずつ囓って削っていく光景だった。魚達は蛸の海種に気付くと、わっと群がり、次々と噛みついていこうとする。蛸の海種は海上に逃れようとするが、魚達を振り切ることは出来なかった。
「た、助けてくれえー！　このままじゃ、く、食われちまうよぉ！」
　海面に浮上した蛸の海種は、軍艦の仲間の兵士達に必死に助けを求める。何事かと驚きつつも兵士達は蛸の海種を救出したのだが、その時には無惨にも、蛸の海種の触腕は全て食われてしまっていた……。
　蛸の海種から状況の報告を受けた軍艦の船長は、積荷の中にあった肉の塊を海中に投棄させて魚達の注意をそちらに引き付けると、全速力でこの海域から離脱した。
　蛸の海種は一命は取り留めたものの、軍人としては再起不能であり退役を余儀なくされた。そして、魚達に船底を囓られた軍艦であるが、もう少し囓られていたら船底に穴が開いており、浸水、沈没の可能性もあったとのことだ。

●数の暴力に注意を
「この魚達……おそらく、カワハギの類の狂王種と見られていますが、この退治が今回の依頼内容です」
　ギルド・ローレットにて、『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵（p3n000126）は眼前のイレギュラーズ達にそう説明した。
　海洋とアクエリアを結ぶ途上にこんな魚がいては放置しておくわけにもいかず、かといって退治するにしても蛸の海種の事があって誰も積極的に手を上げない上、怯える兵士さえ出てしまっている始末だ。こんな状況では退治はままならないというわけで、海洋軍からローレットに依頼が回ってきたというわけである。
「件の海種が攻撃された時点では、囓ってくる以外の攻撃は確認されていません。
　しかし十や二十では効かない数がわっと襲ってきて齧り付いてくるのですから、油断してると件の海種以上に酷い結果となるでしょう。
　どうか気をつけて、無事に依頼を成功させて戻ってきて下さい」
　神妙な面持ちで、勘蔵はイレギュラーズ達に向かって頭を下げた。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●狂王種さえも食えれば食らう
　海洋本土とアクエリア島を結ぶ海域を、軍艦と漁船が進んでいく。軍艦はイレギュラーズに狂王種退治を依頼した海洋軍のものであり、漁船は『風読禽』カイト・シャルラハ（p3p000684）が用意した『紅鷹丸』だ。
「カワハギって、酒塩焼きとか煮付けとか旨いんだよな……狂王種でも、旨いんだろうな」
　魚が好きなカイトは、カワハギの狂王種を食べるのが楽しみで仕方ない様子で、舌で嘴を舐めた。
　カワハギとは言え、狂王種を食べようと考えているのはカイトだけではない。
（普通のカワハギだと食べるとこは限られるが……一メートルもあるならそれを気にする必要も無さそうだな）
　それなら焼き魚だけでなく煮魚も堪能したいと考えているのは、『波濤の盾』エイヴァン＝フルブス＝グラキオール（p3p000072）だ。
（カワハギ、聞いたことあるの……美味しいんだよ、ね？　でも、狂王種だから、食べれるのかな……）
　見た目によらず食いしん坊である『闇と炎』アクア・フィーリス（p3p006784）は、そんなことを考えていたせいか、くぅ、とお腹が鳴るのを感じた。何とかして倒した狂王種の身体を確保して、食べたいものだとアクアは考える。
（……狂王種、食べちゃダメですかね？　刺身をキモ和えでポン酒をキュッとなんて……）
　『裏表のない素敵な人』小鳥遊 美凪（p3p009589）の想像したメニューは、間違いなく美味しいものであった。だが、美凪はその想像を頭をぶんぶんと横に振って振り払う。
「今度の仕事はお魚退治。ローレットって本当に何でも屋なんですねえ。
　でも、こういった仕事も任されるのはそれだけ信頼と実績があるんでしょうね。
　んじゃまあ、それを崩さないように頑張りますか！」
　自分は依頼に集中していると言わんばかりに、美凪は左右の頬を掌でパァンと張った。
（一メートルもの大きなカワハギの群れ……私も海で育ってきた者ですから、ええ、カワハギの獰猛さはよく耳にしております。
　あの蛸のお方……他人事とは思えません）
　実際、今回狂王種の犠牲者となったのは蛸の海種だったが、カワハギがクラゲを好み集団で襲いかかって貪るのを知る者は知っている。クラゲの海種である『揺蕩ゆ』スミ・オキシマ（p3p009615）もその一人であり、ゾッとしたように顔の横に髪のように垂れ下がっている触腕を両手で握りしめた。
「食欲旺盛過ぎるのも考え物よねぇ……船ごとかじり尽くされるなんて、まっぴらごめんだわ？」
　『never miss you』ゼファー（p3p007625）は、カワハギの狂王種が軍艦の船底まで囓ってくると言う事実にふぅ、と溜息をつきながら、肩をすくめた。そんな末路を迎えてはたまったものではない。
「何でもかんでもかじるとか、生意気な魚だね。いわし見習いな？
　いわしは上品にごはん食べるから。そいつらみたいなのと一緒にされたら困るんだよ」
　頑丈な歯を持つのはフグ類の特徴ではあるのだが、いわしを愛する、と言うよりは愛しすぎている『いわしを食べるな』アンジュ・サルディーネ（p3p006960）からすれば、いわしと違って何でもかんでも囓ると言うのは下品でしかなく、ましてや同じ魚だからと一緒にされるのは心外である。
　それを隠す様子もなく、アンジュはプンプンと立腹していた。

●撒き餌で誘き寄せて
　バアッ！　と盛大にゴカイや海老、貝の剥き身、蛸や烏賊などが海にばら撒かれた。
　美凪のモンスターに関する知識――と言っても、ほぼカワハギに関する知識と同然であるが――と、漁師としての技量を持つカイトの相談によって決まった撒き餌だ。
　果たして、イレギュラーズ達の船を見つけて接近しつつあった狂王種達は、次々と海面に姿を見て我先にと撒き餌に食いついていく。
「おー、大漁大漁……とか言ってる場合じゃねーな、これ？」
　バシャバシャと周囲の海面が狂王種で埋まる有様に、『童心万華』篠崎 升麻（p3p008630）は苦笑いして見せた。何しろこれから、この狂王種を退治していかねばならないのだから。

「さぁ、もっと食いでのある餌がここにいるぞ！」
「僕を食えるものなら、食ってみろ！」
「空も風も、俺らの味方だぜ！」
　撒き餌が食いつくされないうちにと、エイヴァンと升麻が甲板の左右に分かれて、海面に向けて大声で叫んで狂王種の注意を引いた。そしてカイトが、升麻の側に降りたって先見の眼を升麻に与える。
　果たして、狂王種達はエイヴァンと升麻の下にそれぞれ集まると、バシャバシャとエイヴァンと升麻を狙って海面から跳ね上がった。甲板までは距離があり、密集している中で我先にと跳ね上がっていることもあり大半の狂王種は二人まで届かないのだが、それでも一人につき五匹以上が齧り付いてくる。
「やあねぇ。バカみたいにがっついちゃって。馬面な上にそんなせっかちじゃあ、モテないわよ！」
　魚相手に言っても仕方ないとは思いつつ、ゼファーは疾風の如く愛槍『run like a fool』を真っ直ぐに突き出して、升麻に齧り付いてきた狂王種の一匹を貫いた。狂王種はビチビチと暴れるが、すぐにぐったりと息絶える。
「そっちがカワハギなら、こっちはいわしで対抗だよ！　いわしとカワハギ、どっちが格上なのか徹底的に教えてあげないとね！」
　アンジュは天に向けて人差し指を突き立てると、エイヴァンに齧り付いた狂王種の一匹を目掛けて振り下ろす。いわしに仇なす者に降される裁きの雷に撃たれた狂王種は、ブスブスと焼け焦げて甲板に落ちた。
「まとめて……倒すの……」
　升麻の下の海面に集まっている狂王種に向けて、アンジュは絶望の海の歌を歌う。その歌声は冷たい呪いとなって狂王種を蝕み殺め、数匹をプカリと海面に浮かせた。
（皆様、頼もしい熟練の方々です。落ち着いていけば、大丈夫……）
　大きく深呼吸して自らの精神を落ち着けたスミは、やや傷の深い升麻に治癒魔術を施していく。升麻の受けた傷は、そのほとんどが癒やされていった。
　美凪は指揮杖『タクト・オブ・グレイゴースト』の先端からオーラの縄を伸ばし、エイヴァンの下の海面にいる狂王種の一匹を捕える。
（え？　遊んでる？　いやいや私は一向に真面目ですよ）
　とは美凪の内心の弁ではあるが、傍から見ればどう見てもカワハギ釣りをしているようにしか見えなかった……。

●カワハギの狂王種、全滅
　カワハギの狂王種は狂王種とは言え、一匹一匹はそう大して脅威ではなかった。イレギュラーズ達が攻撃すれば、おおよそ一撃で仕留められた。だが、問題はその数であった。エイヴァンと升麻は甲板の上から狂王種の敵意を煽ったために集中攻撃を受けた。とは言え、海中に比べれば一度に攻撃してくる数は限られたのだが、狂王種は防具や身体を囓ってくるために、次第に攻撃される度に二人が受ける傷は重いものになっていった。
　最初から回復に回っていたスミに加えて、途中からアンジュ、美凪も回復に回るのだが、それでもエイヴァンと升麻の受ける傷は徐々に深くなっていく。エイヴァンと升麻は傷の痛みに耐えながらも自身に齧り付いてきた狂王種の排除を試み、カイト、ゼファー、アクアも二人に齧り付いている狂王種を払い落とすことに専念せざるを得なくなっていった。
　そうして、甲板に狂王種の死体を何十匹と積み上げた頃、無限と思われた狂王種との戦いにも終わりが見えていた。

「……所詮は魚だったな。これで、残らず焼きつくしてやろう」
　エイヴァンは全身の力を右手に集めると、自らの周囲で爆裂させる。エイヴァンに噛みついていた狂王種は一匹残らず炎に焼かれ、ボトボトと甲板に落ちていった。
「ぐっ……こいつら、いい加減にしろ！」
　既に升麻に齧り付いている狂王種二匹に加えて、海に未だ残っている二匹が升麻目掛けて飛びかかってくる。
「……大丈夫ですか？　すぐに、癒やしますね」
「私も、この薬で回復させます！」
「たくさんのいわし達、愛を升麻さんに注いで！」
　しかし、スミ、美凪、アンジュがすかさず治癒魔術、回復ポーション、そしていわし達の愛による癒やしを升麻に施していく。三人がかりの癒やしは、今升麻が受けた傷は完璧に癒やし、さらにそれ以前に受けた傷も幾分か癒やしていった。
　そして、これが狂王種達の最期の攻撃となった。
「喰われるのは、テメエの方だ！　後で美味しく頂いてやる！」
「……全く、とんでもない数だったわね」
　エイヴァンの方から升麻の方へと飛行してきたカイトの『三叉蒼槍』と、甲板に転がる狂王種の数に呆れた様子のゼファーの『run like a fool』が、それぞれ升麻に齧り付いている狂王種を貫いた。狂王種達は升麻から口を離すと数回痙攣したが、すぐに動かなくなった。
（はやく……カワハギ……食べたい……）
　狂王種が甲板に積み重なる姿に加えて、残りの狂王種が二匹のみと言う状況に、アリアの食欲は我慢の限界にまで至っていた。早く狂王種を食べたいという思いのままに、アリアは闇と炎の二種類の魔力弾を放つ。 黒と赤の魔力弾は、交わるように螺旋を描きながら狂王種に命中した。内から毒に、外から炎に蝕まれた狂王種は、升麻から剥がれ落ちるように甲板へと落ちていった。
「随分好き勝手やってくれたが、やっと終わりだな……雄々しく喰らえ、汝は『黒鳶』！」
　升麻は『リヴァイ・アポカリプス』に黒鳶色のオーラを纏わせると、自身に齧り付いている最後の狂王種に叩き付けた。黒鳶色のオーラは、狂王種の身体をどんどんと侵し食らっていく。そして、程なくして狂王種の身体は全て食らい尽くされて消滅した。

●カワハギパーティー！
　イレギュラーズ達は狂王種の討ち漏らしがないか、船に被害はないかのチェックを行ったが、討ち漏らしも船の被害も確認出来なかった。卵が残っているのではとの懸念があったが、卵が残っているとすれば海底であり確認のためにはそこまで潜らねばならないこと、そして何よりカワハギの産卵期は基本的に春から夏にかけてであり今は時期を外れていることから、確認のしようはないが卵が残っている可能性は低いと言うことで落ち着いた。
　そして、これらの事実を同行している海洋の軍人も確認し、依頼達成完了となる。

「まともなカワハギなら食えたんだろうけどなぁ……って食えるのか、これ？」
　当然の疑問を抱きながら、升麻はカイトの方を見る。そのカイトは、味見とばかりに狂王種のうち一匹の身と肝を啄んだ。そして、大丈夫だと言わんばかりにサムズアップする。
　となれば、軍艦内では海洋軍人達も交えて宴が始まるのは当然の流れであったろう。何しろ、少なくともイレギュラーズ達の半分はこれを楽しみにしていた上、狂王種の死体はイレギュラーズ達だけでは到底食べきれないほどあるのだから。
「ごはん、ごはん……♪」
「んー、やっぱりカワハギのお刺身は美味しいですね……♪」
　まずは、スミのリクエストの刺身が饗された。リクエストを出したスミと、もうこれ以上は待ちきれないと言った様子のアリアが刺身を頬張っていく。フグに似た――フグの一種であるから当然なのだが――淡泊な白身は、獲れたてと言うこともあって歯応えが良い。そして、最初はあまり味がしないように思われたが、噛んでいくにつれて口の中にほんのりとした甘味が拡がっていく。
「ポン酒がないのは残念ですが、これはこれで悪くないですね」
　美凪は刺身の肝和えを、酒の肴として嗜んでいる。肝によるこってりとした味わいが乗ると、刺身はまた一味違った味わいを見せる。そして酒で舌を洗うと、また新鮮な感覚で肝和えを味わえる。さすがに海洋軍艦の中に日本酒はないため、酒はウィスキーやらラムやらだったが、これはこれで悪くない取り合わせのように美凪には思われた。
「焼き魚だー！　貪り食らうぜ！」
　やがて狂王種を焼いたものが饗されはじめると、カイトは待っていたとばかりに飛びついてガツガツと啄んでいく。熱によって活性化された白身の旨みと、微かな塩気が絶妙にマッチして美味い。
「一仕事の後の一杯、たまらねえな」
　煮魚を酒の肴にしているのは、エイヴァンだ。煮汁が狂王種の身に染みこんでおり、焼き魚とはまた違った味わいがある。エイヴァンは一杯とは言わず、次々と杯と皿とを空にしていた。
「……すげえ食欲だな、おい」
　升麻は自身もいろいろとカワハギ料理を楽しんでいたが、アリアがそれ以上に次々とカワハギ料理を平らげていく姿に、その身体の何処にそれだけの食欲があるのかと驚くのであった。

　船上の宴も終わり、後は帰投するだけとなった。
（人間からしたらはた迷惑な連中だけど、まあこいつらも好きで狂王種になったわけじゃなくて、ただ目の前にあるごはんを食べてただけなんだよね。
　けっきょく食べられる側になったし、それでも同情なんかしないけど。
　――次生まれてくるときは、いわしになるといいね。そしたらアンジュが愛してあげるよ）
　調理された後の頭やら骨やらを眺めながら、アンジュは物思いに耽る。
「航路が開かれて久しいってのに、相変わらず此の海はめちゃくちゃねえ……まあ、それもある種の冒険の醍醐味なんでしょうけど」
　ゼファーは眼前に広がる海を眺めながら、独り言ちた。きっとまた何かしらの狂王種が出現して、それを退治しに来ることになるのだろうが――それはそれで悪くないなと、ゼファーは思うのだった。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

あとがき

　シナリオへのご参加、ありがとうございました。カワハギの狂王種達は残らず退治され、皆様に美味しく頂かれました。
　お疲れ様でした！