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シナリオ詳細

深更の落椿

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●落椿の紅
 くびを、ください。あかい、くびを。
 あなたのくびを。うつくしい、くびを。

 ふらりと酒に酔った足で歩いた夜の街。それまでは良い気分だったというのに。
 ふいに聞こえた呪いのような歌、湿った足音、見えたひときわ暗い影に、男は酔いを忘れて腰を抜かした。

 その地には、古くから恐ろしい女の霊が出るのだという。
 長い黒髪を揺らめかせ、黒い着物を血に染めて、ひたり、ひたりと夜を歩く。
 言い伝えによれば、遥か昔にこの世を生きたその女は、愛しいものに先立たれて気を狂わせてしまった。
 夫の顔を忘れたくない一心で、似た男を探してはその首を持ち帰るべく、斬って殺してしまうのだとか。
 その執念が妖気を宿すまでに至り、ヒトの形をしていながら、彼女はヒトでなくなってしまったのだ――とか。

 出逢ったひとへと首を乞う。答えようと、答えまいと、手にした刀で斬り伏せる。
 まるで椿が落ちるように淡々と、静かに、美しいとすら思えるほどに鮮やかに、首を斬る。
 その女の怪物幽霊は――『落椿』と呼ばれている。 

●血の滴るより疾く
「――怪談として終えるならば、この話はここまでだけれど」
 『境界案内人』カストル・ジェミニが捲った頁には、豊穣の地に似た風景――いわば『和』の情緒を醸す城下町。
 だがそこは、凶暴で兇悪な、あやかし、怪奇の蔓延る世界。人間たちは、彼らの現れる夜に怯えて生きている。
 立ち向かうものがいないわけではない……のだが、人並みを超えたそれらの力に、人の力は及ばない。
「罪があるでもなく、はたまた縁すらもないのにもかかわらず。怪物に命を奪われるのは、少し理不尽にも思えるね」
 
 そう思う旅人が、君たちの中にもいるのなら。どうかこの物語に身を馳せて、襲われる者を救ってほしいと少年は続けた。
 幸いにも、次のシーンへは間に合うらしい。
 見せた挿絵は、夜に出歩いていた町民の男が『落椿』に出逢ってしまうまさにその場面。
 不思議な災厄と対峙するために。さあ飛び込んでと、カストルは『特異点』たちへと瞬いた。

NMコメント

磐見です。よろしくお願いいたします。

▼目標
 『落椿』の討伐

▼場所
 鎌倉~江戸時代的な、城下町の風景。時間は夜、人気はほぼありません。
 被害者となる町民の男がふらっと歩いているくらいです。
 PPPの世界観でいうと豊穣に似てる……というのがたぶん一番近いと思います。

 男は避難させたり護ったりすれば大いに感謝してくれますが、そういった内容がプレイングになくてもマイナスの効果が発生することはありません。特に触れられることがなければ、逃げるか後ろに下がっているものとなります。

▽敵『落椿』
・「袈裟斬り」……肩口から斜めに斬り降ろします。
・「唐竹」……両手に刀を構え、まっすぐに斬り降ろします。
・「くびを」……くびをください、と呪詛のように唱え、相手を惑わせようとします。まともに食らうと防御技術が下がりそうな感じがします。

 範囲はすべて単体です。
 何度も何度も人の首を斬っているために多少手慣れていますが、すべて独学・我流の術のようです。
 元々は夫が持っていた刀を振り回しているだけの一般人で、技巧に優れているわけではありません。
 敵はこの一体のみです。また回復手段は持っていません。


【プレイング例1】
わたしは落椿が声を発する間を与えないように畳み掛けるよ。
刃物同士なら、わたしと落椿の鍔迫り合いの合間に味方も攻撃できる隙が生まれるはず!

【例2】
僕は魔法で遠くから仕掛けよう。一体しかいないから集中攻撃するよ。
それでも味方が負傷したら回復役をつとめるつもり。

  • 深更の落椿完了
  • NM名磐見
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月28日 22時20分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
レオンハルト(p3p004744)
導く剣
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●朱に交わらず
 くびを、ください。あかい、くびを。
 あなたのくびを。うつくしい、くびを――。

 呪詛のような唄声は、ふらふらと揺らいだ不調和音を奏でて男へ忍び寄る。
 ひっと喉が甲高く鳴って、逃げようと思えども身体はうまく動かず。足がもつれて体勢を崩した町人の男へと『落椿』が刀を振り上げた――そのとき。
「これ以上の狼藉はさせないよ。さあ、首級が欲しいのならば先に僕達と死合う事だねっ!」
 『落椿』が男に向けていた視線を遮って迫った『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)の気配に反応が遅れ、女は刀を振り切ることなく、勢いに圧されて数歩退く。
 見渡した世界はたしかに豊穣のものと似通っている。呪霊、怨霊の類が出るのもそれと何か関係があるのか――興味は深まるが、考えるのは後にして。今は被害が出る前にあれを祓わないと、とカインは意志を強く固める。
「……首が欲しいかい?」
 夜の透き通る空気へ明瞭に響いた『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)の声に、『落椿』は体幹も定まらず揺らいでいた動きをぴたりと止めた。
 左手に持つカンテラが淡く照らすその首元を、機械の右手で指し示す。まぁ俺は落椿の旦那さんには似てないと思うけど、とは心のうちで思いつつ。
 されどその光に、虫のように釣られて女は灯りを見る。
 そうして、ゆっくりと町人の男から彼へ視線を移し――ゆらりふらりとそちらへ歩み出す。
 いま襲おうとしたもののことはもう忘れてしまったかと思しきほど、女の目は虚ろで光もない。
「きれいな、くび」
「いやぁ、誰でもいいんだねキミ」
 対話の望めぬ相手と言葉を交わす気はなく、ただその狂った唄を聞いてふと笑う『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は町人の男へと視線を配せ、「今のうちに行ったらどうだい」と促した。
「だ、誰なんだ、アンタら……!」
 混乱した様子で尋ねる男の目には、異国情緒に溢れた彼らは常でさえ物珍しく見えただろう。
 彼らの物怖じせぬ佇まいはこの怪異を前にしてはむしろ奇妙に映って、けれどルーキスは、きょとんと何でもないように答えた。
「……え、私の見た目が気になる? まあ安心してほしいな、救助に来ただけの良い鳥さんだよ。知らない世界とはいえ無害な人間を襲ったりしないさ」
「とっとと逃げろ。死にたくないならな」
 戸惑う男へは『解放する者』レオンハルト(p3p004744)の視線も一瞥だけ注がれる。それを皮切りにして、着物の裾を翻し、男は慌てて通りを駆けて逃げ去った。
「元は一般人みたいだけど――だからといって、容赦する必要はないよね」
 カインの夜色の瞳が『落椿』を見る。だって彼女はすでに幾多の人々をその刀で血に染めてきたのだから、彼が持つ熟練の技能を出し惜しむ理由はない。
 処刑人の剣を持つ身として、首落としにはこだわりがある。無駄な恐怖を与えるのはそれに反することだ。胸に刻む矜持を表すがごとく、レオンハルトも処刑剣を構えた。彼女とは、相容れない。
「悪いが、滅びて貰おう」

「幽霊っていえば物理攻撃が効かないイメージがあるけど」
 ルーキスは翼広げて縦横無尽に戦場を駆け、狙撃の腕で攪乱しつつ他愛なく零した。冷静に考えて向こうは切り付けてきてるんだし、届くはずなんだよなぁ。
「あちらさんだけが触れられるなんてのもつまらないし。斬られるのは痛いからね」
 まぐれとばかりに捉えた彼女へぬらりと刀身光らせ、女が袈裟斬りの構えを見せても。
 はっは、と軽快に笑うのが彼女の性。残念でしたと至近距離で迫る雷の連撃が、蛇のように『落椿』へ纏わってその身を襲う。
「……!」
「ちょっと重いの一発いっとこうか」
 戦うのは嫌いじゃない。でも直接首を狙われるのは良い気がしない。
 賞金首の気分が分かった気がすると、それもまた冗談交じりな色を乗せた声で笑っては。
「く、びを。くびを、ください――」
 ああ、またその唄声だ。カインには、『落椿』の振る舞いは嘆かわしく映る。――あの願いは間違えている物なんだろうと思う。
 解放する神気は、光に満ちて彼女を灼こうと。カインは嘗ても今も生粋の「冒険者」、あらゆる獣や怪異を識って生きてきた手練れの旅人。
「ただ願うだけで望んだ物が手に入ると思ったら大間違いなんだよ!」
 歪んだ願い、怨と呪と狂で捻じ曲がったそれを、直感的な理解と号令がほどいて、彼の身をすぐに立て直す。
 明るく輝く星のようにひかりを示して奮い立たせるそれは、『落椿』の呪詛など物ともせず撥ね返す。
 だがカインの裡に積まれた経験は、彼に侮らない姿勢を教えていて。
 どんな事情を持っていようとも、加減も容赦もしないし、敵対し討滅せんとする僕らが何かを言う道理もないだろうけども。
「消滅が安らぎ、なんて言わないけれども。きっと今のまま呪い、狂う存在であり続けるよりは格段とマシだと、僕は思うよ」
 『落椿』はカインを狙って刀を振ろうとするものの、気配なきレオンハルトの接近に反応が遅れてあえなく阻まれる。
「お前のその刀は何に使われていた物だ?」
 血に酔って穢して良いものか、と尋ねてもすでに狂った女に響く様子はなし――愛した人に会いたいがために、その刀が彼の大切なものだったということすら、本末転倒にも記憶の隅へ追い遣られているのかもしれなかった。
 それにしてもと改めて観察すれば『落椿』の戦い方は無茶苦茶で、首を獲るというのに刃はそれらしき薙ぎ方を見せてこない。
「頭取りは殺してから派か?」
「そう、あなたのくび――わたしのもの。だいすきなものは、さいごのさいご……」
 心得のない彼女には、一振りで首を刈り取る術は備わっていなかったのやもしれず。命を奪いつくして、それから首をと思っているのであろう動き。
その感情や背景を知っても、同情や慈悲は必要ないとレオンハルトは女を見据える。彼の正義の執行に、無駄な感情は荷物となるのみだった。
「言葉で止めるつもりはない、その段階では既にない。だが滅びる前に思い出せ」
 数多の攻撃を一身に受け、すでに事切れる時も近いと見えるけれど――首が欲しいかと名乗り上げたイズマへは特に惹かれて、『落椿』はその鮮やかな長い青髪を追う。
 慕い、愛し、欲し、呪うがごとき感情はある種の怒りすらを含んでいるようにも思えた。なぜわたしのものになってくれないの。
 しかしイズマの『外三光』が女の動きを縫い留めて、その間に山茶花の魔性なる邪剣が『落椿』を映せば、女はたちまちに恍惚として身動きを失う。
「首を落とす見事な太刀さばきならば、見てみたかったものだが。そのためにここで誰かを死なせるわけにはいかないからな」
 中庸者なれど縁があらばと、この世界の民を守るために織り成した双撃は、魔術と格闘の両面を併せ持つ剣魔の猛攻。
 息を絶え絶えにした『落椿』へと最期に齎すならば――そう、首を狙う者には首を狙うことで返せばよい。
 恍惚が彼女を惑わすその隙に、変幻自在なる剣は振るわれて。椿と同じ種に属し、されど違う花咲かすそれは山茶花。
 レオンハルトが共に繰り出すのはただ一閃、それのみにて壮絶な威力を放つ諸刃の剣の為す技はまさしく「落椿」――くびを、と怪しく歌う者よりもずっと静かで、鋭く、重い一撃。
「、あ」
「首落としに恐怖も歌も必要ない。あるのは極力必殺の理のみだ」
 同じ花に違う花、どちらの鮮やかなる技にも敗れ。
 命落とす椿と同じように首を断たれた怪異『落椿』は、霧のごとく、音もなく、消え去った。

 その後、遠く彼方から戦いを窺っていたらしき町人の男が恐る恐る引き返してきて、己と四人の無事を知れば、この恩は忘れないと何度も頭を下げたのだとか。
 そんな様子に、無事なら無事で何よりだとルーキスが互い違いの瞳を気紛れに細め。
「これ以降、変なのに狙われないようにしなさいね」
 イズマの声色も、怪異のそれのようにおどろおどろしくはない、柔らかな唄声のように夜に溶けた。
「これで少しは、安心して夜を過ごせるようになったかな」

成否

成功

状態異常

なし

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