PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Rw Nw Prt M Hrw>夜に踊るヒト

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 そう望まれたからそうふるまうのだ。
 そこに心はなく、意志はなく、あるのは在りし日の面影と「生きて動いている」ように見える土塊の体。
 人形だもの。
 香草と人体のスープがしみこんだ粘土にかすり傷が治る程度にささやかな願いをかなえる石を埋め込んで。
 ささやかなあなたの願いを叶えましょう。
 だって、そうなるように望まれたから。

 踊る、踊る。
 舞踏者は踊る。武闘者は踊る。
 積みあがる大鴉盗賊団の先兵の死体。
 踊りながら戦った、戦うために踊った、遠い昔に滅びた誰か。
 大量に作られたホルスの息子たちに刻む名前のレパートリー。思いつくまま刻まれた民話の中の名前が刻まれた土塊が起動した。
 百人の盗賊の前に立ちふさがって日の入りから夜明けまで戦いとおした誰かの名。
 宙を舞う足。鎧の上から蹴られても、その威力は骨を砕く。地面すれすれから伸びてくる指。ほんの少しかすれただけで肉が骨までえぐり取られたという。
「そこで、足止めしててくれ!」
 作り主はそう言った。
「やり様は、その体が知っている!」
 有象無象をたくさん叩きのめすことに最適化されたホルスの子供達。
 一刻を争うというのに、転がる盗賊共がとても邪魔だ。

 夜踊るヒト達。ラサの老人ならば、昔滅びた戦闘部族にそう呼ばれた者達がいたことを覚えているかもしれない。それを寝物語に育っている誰かもいるかもしれない。
 人形に刻まれた名は、ヴァサーガ。
 四肢は細く長く、掌と足は大きく。選りすぐられた踊り手。
 すでに死んだ青年の姿を与えられた人形は踊る。
 そうふるまえと命じられたから。


 願いを叶える秘宝』が眠っていると噂され、学者達が調査を行っていた遺跡群『FarbeReise(ファルベライズ)』
 その中には、小さな願いを叶える宝、『色宝(ファルグメント)』が眠っていた――

『歪な死者蘇生』の産物である『ホルスの子供達』の製作者『博士』
 その精神と同化し、狂気に陥った遺跡の最奥の祠にまつられた大精霊ファルベリヒト。
 一攫千金をもくろむ大鴉盗賊団は構成員の犠牲をものともせずに進軍してくるだろう。
 放置すれば、混乱は更なる暴走を呼びラサ全域に広がりかねないだろうと推測された。
『ホルスの子供達』の戦闘能力はかなり高い。死人と同じ姿の狂った戦闘マシーンが遺跡の外に流出する事態も避けたい。


「古来、生者の悲しみを和らげるため、死者の面影をうつした人形を作る文化はありますよ。ありますとも。広義では肖像画や銅像ってのもそんな感じだよねー」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は今日も元気に茶をすすっている。
 気候に合わせてか、薄荷を大量混入した茶に大量に砂糖を投入していた。歯茎はけいれんしないのだろうか。
「実際、かわいいもんだよ。しゃべりもしないし。動くだけだよ。死んだ人の仕草で。でもさ。しゃべったら違うってわかるけど、動きだけだとそのまんまって逆につらいってケースがあって――」
 メクレオは、茶の表面に浮いた茶葉を吹き飛ばして、おいしいところだけをすすり上げた。
「遺跡の中核で大鴉盗賊団をちぎっては投げ、ちぎっては投げしてるホルスの子供達がいるんだけど、大鴉盗賊団がそこで停滞してて、こっちの動きに影響を与えてるんだよ。排除してほしい」
 別のルートを構築すればいいものを、仲間が倒されれば面子や情に駆られた奴らが無駄に血を流す。
 ローレット・イレギュラーズと鉢合わせすればそこで無駄な小競り合いが勃発して、戦力がそがれる。
「盗賊共は多勢に無勢で囲い込んでタコ殴りにしようとしてんだけど、内側から崩されていってる感じ? ただ、こっちから見ると大鴉盗賊団が肉壁状態。めっちゃ邪魔。視認もきつい。まとめてやっちまっていいから。敵は巻き込む。こっちは敵の攻撃に巻き込まれない」
 おいしいところだけ頂いてこいと、情報屋は言う。
「奥まで戦力は温存したいからね。先陣よろしく」

GMコメント

 田奈です。
 足止めが得意な「ホルスの子供達」に群がる大鴉盗賊団をなるはやで撤去願います。
 
●敵・「ホルスの子供達」
 夜に踊るヒト「ヴァサーカ」×1
 ラサの生まれで話好きの人なら聞いたことがあるような内容なレベルの民話に出てくる戦士。知っていてもおかしくないし、知らなくてもおかしくない。
 青年。奇妙な間合いとレンジの広さで虚を突かれます。
 特徴的な体格なので、見分けるのは難しくはないです。

 夜に踊るヒト×10
 そういう民族が昔滅んだというのを以下同文。
 ヴァサーカのアシストをします。
 特徴的体格なので、見分けるのは難しくはないです。

●敵・大鴉盗賊団・有象無象×たくさん
 油断していればこちらに特攻してきて致命傷を与えられなくもないくらいの強さ。
 ホルスの子供達に殺到しているので、接敵するのにとても邪魔です。
 大体、体格は千差万別ですが、大体カオスシードの範疇です。

●場所・ファルべライズ・中核。ドーム状の一室。
 遺跡内ですので、天候の影響はありません。
 内部は黄昏時。闇ではありませんが誰が誰やらわからない程度に薄暗いです。乱戦になったらとっさに味方か判断できない程度に暗いです。
 射程は最も長くて中です。
 天井は3メートルありません。飛行戦闘するのは難しいです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Rw Nw Prt M Hrw>夜に踊るヒト完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月21日 22時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
浜地・庸介(p3p008438)
凡骨にして凡庸
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

リプレイ


「時刻はトラモント──」
『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は、巨大な盾を携えて最善を行く。
 黄昏時という意味だと、違和感なくローレット・イレギュラーズに伝わった。
「遺跡の最奥に進むため……ワタシ達の邪魔なんかさせないよ……。アナタ達が踊りを止めないように、ワタシ達もここで立ち止まる訳にはいかない……」
 障害を排除し、まかり通る。突破口をこじ開け、維持し、後続の部隊を通すのが先駆けの華だ。
「……尊ばれるべき魂は無く、弔われるべき遺体でも無い。ただかつての残照を映すだけのモノ」
『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は、首を横に振った。
「いくら誰ぞ彼の刻といっても気分が悪い」
 グリムは死んだ者の名を知ることができるギフトを、その者が最初に受けた贈り物を知ることだと認識している。
 それが刻まれるべき墓標ではなくかりそめの泥に刻まれて、死者を穢す起因になっていることに心中穏やかではない。
「さっさと壊して憂いを断とうか」

 網の目のように張り巡らされた遺跡群。
 互いの武運を祈りながら、散開していく各部隊。
 後続部隊の移動の妨げにならないように露払いするのが任務だ。
 進軍の要所でホルスの子供達が盗賊を屍の山にしている。
「敵同士が争っている事自体は好都合だけど……場所が邪魔すぎるわね」
『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が、提示された地図を押さえて言う。
「双方ともに退場してもらいましょう」
 幼い少女のような見目をしているが、妙齢と言っていい年頃に達している。淡々とした物言いは理知的な彼女の内面がうかがえた。
 速やかに処理し、現場を制圧しなくてはならない。
 情報屋は言っていた。
 その人形は夜に踊るヒト達を模している。

 部屋に飛び込んだとたん、まず、鼻の中に苔と泥と血と砂の匂いが擦り付けられた。
 複数のカンテラに照らされた先で、命のやり取りがされている。
「おぉ。ごちゃごちゃしてるな。有象無象が揃いも揃ってうぞうぞと」
『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)が、眉一つ動かさずに目を凝らす。
「こちらは露払いを任された有象無象の凡骨。似合いで腹が捩れる」
 にこりともせずに抱腹絶倒を宣言。一つは軽口、一つは皮肉。一つはは身体表現に齟齬がある場合。更に全部混じっている場合もある。
 相反する二つの流れが多数の命のやり取りを核になって、一つの生命のようにうごめいている。
 ひたひたと、砂の上を跳ねるように人形は動く。
 手が空を掻けば、指先は盗賊の皮をはぎ、爪先が翻れば、盗賊の頭が割れる。
 何かの拍子で捕まった人形は哀れだ。
 寄ってたかって、原形をとどめなくなるまで叩かれて、石をえぐり出されて戦利品にされる。
 部屋の中は、盗賊の血と人形だった粘土から匂う香草の臭いでいかんともしがたい。戦場に慣れていない者なら、二、三日は食事も喉を通らないだろう。
 それが、ローレット・イレギュラーズにはよく見えない。十重二十重と殺到した盗賊たちで事前にそこにホルスの子供達がいると知らされていなければ、盗賊の内輪もめとも見えただろう。

「生まれは違えどラサに身を置く者として。そして何より踊りを愛する者として――」
『砂山鼬鼠』アルトゥライネル(p3p008166)は、ヴァザーカの物語を知っている。
「雑な囃しで踊らされているような人形達を眠らせてやりたい」
 ヴァザーカの一族が夜に踊るなら、アルトゥライネルは月の踊り子だ。狂乱に任せて戦場で踊る。
「夜に踊る」
『地上の流れ星』小金井・正純(p3p008000)は、人形に付与された名を舌の上で転がした。
「今は叶わぬ夢ですが、生前のその舞を、星の元で見たかったものです」
 ここまでの道中でアルトゥライネルから昔話を聞いてきたのだ。
「今宵は星の巫女として、星の代わりに私が貴方達を照らしましょう」
「唄となり、語り継がれるような存在をこんな形で利用するなんて。私は怒っているよ」
『さよならの香りがする』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)は嘆いた。
 幸い、この土地はアントワーヌが駆使する魔法と相性がいい。
「命を弄び続けるか……神に背く、許されざる行為だ」
『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は、地面を踏みしめた。
 身に着けた蒼銀の鎧が柔らかく光をはじく。はじいた光の粒はリゲルの意思を以て集束し、小さな流れを作る。増幅。足甲から床を伝い、壁からドーム状の天井まで。
 相当量の魔力を消費しながらも、光が戦場を舐め尽くした。これで仲間と攻撃対象を誤認することもあるまい。生も死もあいまいは許されない粋の場に引きずり出される。
「人形に古の誰かの名前を与えて力と役割を与える、のう。ポピュラーな様式ゆえその分有効性は実証済みじゃな」
『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)の言うとおり。遍く世界で体系化されている洗練された魔術だ。宝石に己の全てを刻印し、現在の肉の体を構成しているクラウジアと術の根幹は大分近い。
「故に厄介、故に邪魔」
 そううそぶき、笑みを浮かべる。物騒極まりない。
「というわけで、小細工無用、こういう時の一番は力押しじゃあ!」
 部屋の中全域に神威をぶっ放すスタイル。
 リゲルは、仲間を正確に攻撃対象から外すための布石を打っていたのだ。でないと、みんな巻き添えになる。
「場を整えよう。この舞台には登場人物が多すぎる」
 アルトゥライネルは、盗賊たちのただ中に身を滑り込ませた。
 鼻先をかすめる切っ先。隙あらば手足をつかみ地面に引きずり倒してめった刺しにしようとする悪意が四方八方から迫る。
 得体のしれないホルスの子供達のせいで、たまりにたまったうっぷんを、殺せば死ぬとわかっているローレット・イレギュラーズで晴らそうというのだ。
 あれは、亡霊でもなんでもなく魔術の産物であることを聞いていても、寝物語で聞いた「盗賊を一晩じゅう殺せる戦士」は恐ろしい。
 しかし、面子にかけて殺さなければ、仲間に役立たずと段されて石を投げられて撃ち殺される。あるいは、砂漠のただ中で置いてきぼりにされるだろう。
 彼らも退けない。崖の上で出来るだけ上手に踊らなければ、どんな道をたどるにしろ明日の太陽は拝めない。
 アルトゥライネルの、地面をこする足先が導火線、打ち鳴らす手拍子は火打石。仲間が周囲にいないことを確認して、自分を中心として爆発を巻き起こす。舞い散る火の粉が追い打ちをかけ、焼けただれた皮膚に盗賊が悲鳴を上げて、地面を転げて回る。
『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)がゆらりとアルトゥライネルに添った。
 半開きのうつろな目。沼のように濁った緑色の瞳。土気色の肌からは活力を感じない。泥色のローブに身を包んだ大男。
「泥人形がぁ!」
 盗賊がマッダラーに曲刀を以て切りかかる。
「ああ、確かに俺は泥人形だ――」
 不退転を誓う赤い旗。最後に亡骸を包む真紅がひらめく。
「お前らは宝石に群がる鴉だな」
 マッダラーの呟きに、アントワームはいらえた。
「ああ、そうだね。プリンセスとするには彼らはあまりにも下品が過ぎる。プリンセスに狼藉を働こうとする者共――かな」
 アントワーヌの足に吸い付くようにぴったりなブーツ。呪いのエナメル靴ではないけれど、履いている限り、アントワーヌは王子様として華麗にステップを踏み続けることを自らに課すだろう。その優雅な爪先が床を滑って、自分のための領域を聖別する。そこに立っている限り、王子様たるアントワーヌは難攻不落だ。
「さあ、プリンセスに至る道すがらの案内をしてもらうよ。とりあえず、君」
 砂月幻夢、乾いた砂を瑞々しい黄色いバラの花びらに変えて見せる幻術士。
 筆舌しがたい優美さに、盗賊の脳裏に茨が刺さりかきむしる。茨の漬けた傷の名は嫉妬だ。何でこんな戦場で、化け物に蹴り殺され続けるくそみたいな場所でおきれいな様子で踊ってやがる。沸き上がる嗜虐心。取り澄ました顔が乗った首をつかんで髪をつかんで引っこ抜いてやりたい。嗜虐の意思が起爆スイッチだ。体中に電撃が迸り、ビクンビクンと不自然に痙攣する盗賊の眼窩と耳と鼻から鮮血がしたたり落ちる。
 喉にこみあげる術の反動をやり過ごしながら、アントワーヌは次の術の準備を始める。
 この道化師を起点にしてどれだけの狼藉者とプリンセスを炎の扇の中に閉じ込められるだろう。
「さあ、盗賊団が崩れたところで前線を押し上げるよ」
 フラーゴラは正純とクラウジアの位置を確認した。アントワーヌの戦術を敵にやり返されたらかなわない。後衛は目に入らぬよう、一番前で注意を引くのが盾持ちの仕事だ。
「ああ、心がけていこう。挟み撃ちにしなくては」
 マッダラーがじりじりと進む。
「三つ巴になれば人数差で不利になる。出来れば盗賊を殲滅してから戦いたいところだ。よく見なくては」
「ワタシ達から背を向けているかもしれないけど……、こちらに向かって来て混戦になる場合もあるかも」
 フラーゴラの血管の中を走る青い血はフラーゴラの生存本能の象徴だ。
 いかにも荒事好きな輩を徴発するデザイン。殴らずにはいられない。
 戦闘用ドレスのフリルが挑発的に翻る。
「堅実に行こう。自分達が崩れるわけにはいかない。そうだろう?」
 グリムは、切りかかってきた盗賊の一撃を受け切り、跳ね返し、更に押し込んだ。杖に宿った重たい想念が、敵を前にグリムが停滞することを許さない。
 その陰から、飛び出した獣のような影が盗賊の打ち気を誘う。不用意な攻撃は命を飛ばす。曲刀が届く前に刃が盗賊を地面に縫い付ける。盗賊の見開いた目は何が起こったかも理解できずにいる。災厄だ。
「タイ捨流、浜地庸介。先陣の露払い、いざ参る」
 打ちかかってくる輩に律儀に切刃を入れ、これはと思う首をころりと落とす。
 正純は、予定の変更を余儀なくされた。
 鋼の驟雨を振らせるには部屋が狭すぎる。多少の威力と命中率の低下は目をつぶるつもりだったが、思った以上に狭い。それ以前の問題だ。
「手数で稼ぐしかありませんね」
 クラウジアの放つ閃光が盗賊とホルスの子供達の別もなく嘗め尽くしているが、命はとらない慈悲の御業だ。
 邪悪を罰する光に悪漢がわなないている間に、片付けなくてならない。
 リゲルは、剣を構えた。距離を超越し貫く必殺の剣。それは煌星。きらめく星。
 理想の騎士と称された、亡き父シリウスの剣技はリゲルが受け継いだ。
 多重の影の残像が無数の星となり、最善の軌跡に力を与える。
 盗賊を突き抜け、夜踊るモノに届く切っ先。
「人形に延々と足止めされているだけあって、大したことはないわね」
 匂い立つような全盛の日々。肉体強化魔法の名に体が従うなら、アンナの今の力は輝かしい未来予想だろうか。
 果てなき海の気配をまとわせた水晶剣に黒い雷をまとわせるアンナは、周囲に味方がいないことを確認してここぞとばかりに振り回した。この術式は、制御の設定がやや甘く、雷が自分にもバックラッシュする。だがそれを計算に入れてもこの技を使うことが最適解だとアンナは戦場の流れを読む。それは指を切るように冷たい水の流れ。生き残ることに特化したものに見える境地だ。
「おんどりゃああああぁぁぁ! ローレット共ぉっ! この火事場泥棒ども! お呼びじゃねえ。おととい来やがれ!」
 大鴉盗賊団からしてみれば、ローレット・イレギュラーズはあとからのこのこやって来てご大層なお題目を唱えながら上前はねていく漁夫の利野郎だ。
「プリンセスとの逢瀬を邪魔する無粋はやめてくれたまえよ」
 アントワーヌの指が優雅に炎をを編み上げる。指向性を持った火炎は淑女の小さな手に収まる域を越え、その熱にあおられてアントワーヌの金の髪が宙を泳いだ。
「見つけたよ。やあ、素敵な帽子だねプリンセス。もっとその可愛い顔を見せておくれ」
 有象無象を焼き払い、君とダンスを踊るためにここに来たんだ。
「もう一押しだな」
 フラーゴラは攻勢に転じた。違法改造済み加速用スラスターを、シールドに接続。機動よし。出力制限解除よし。安全装置一時抜去。
 異常加速は破壊力に変換され、罵声を浴びせてきたおそらくこの場の仕切り役をつら向いた。先ほどまでそこにいたフラーゴラが次の瞬間もう得物を引き抜いていく。仕切り役の膝ががくりと折れて、地面に崩れ落ちた。
「そろそろ場も整ってきたか」
 軽やかな足さばきに折々魔術が混ざる。アルトゥライネルが繰り出す人形劇が盗賊を帰れない暗がりに引きずり込んだ。
 徐々に盗賊の数は減る。
 ホルスの子供達の様子がだんだんはっきりわかってくる。
 分厚い人垣のむこう。彼らの手足は目立って細く長かった。草原を駆け抜ける優美な羚羊のように。あるいは、葉の上をすべるように走る繊細な巣を持たない蜘蛛のように。
 大きく空を掻く腕はゆっくり見えて、驚くほど正確に盗賊の急所――例えば耳殻と頭蓋骨の隙間――を穿ったし、高く降り上げられたかかとが目と目の間を前頭葉に骨ごとめり込ませるのに瞬きほどの時間もいらなかった。
 盗賊たちも完全に無能という訳ではない。数はいつだって有効な暴力要素だ。
ぐちゃぐちゃに踏み固められた泥。中から出てきた宝玉を拾おうとした盗賊の首はかかと落としで首を折られたが、別の手がそれをえぐり取る。
 ヴァサーカを囲むように動く夜に踊る者たちは、同じメソッドで動いているのはわかるのに、それぞれのリズムで動くので間合いがとりづらい。
「今宵は星の巫女として、星の代わりに私が貴方達を照らしましょう」
 正純が、すすすと戦線を上げた。
「邪魔な鴉も大体片付きましたし。ここではその舞は封じさせていただきます」
 狙うのはその手足、申し訳ありませんが。と、断りを入れ、星々に鍛えられた神弓の弦を引く。
 その技の名前は凶星。最期まで支配を拒んだ神の名。麗しのまつろわぬ神の一撃はかりそめを粉砕する。
 ゆっくり倒れていく体を盾に正純に飛び掛かろうとする盗賊の視界一杯に広がったのは朱の旗だった。
「残念、その攻撃じゃあ俺を殺せないな」
 マッダラーは、うっそりと笑った。誰かの盾になれば、アタッカーが攻撃に集中できる。自らが立てた誓いを破りはしない。
「疲れ知らずの泥人形同士の根競べと行こうか」
 ここまで人数が減ってくると、面子が保たれない、仲間の仇を取らねばならぬ等の同調圧力も弱まる。命あっての物種だ。死んだ奴に分け前はない。通路から敗走していく者もいる。逃げた先が安全とは限らないが、この場にとどまり続けたら
 反動が多い技を多用した面々の顔色に陰りが見え始めた。
 盾を持つ者たちが懸命にかばっていても、数とタイミングには限界がある。
 予期せぬところから巻き込まれるのはこちらも同じだ。
 ホルスの子供達の一体がグリムに飛び掛かる。
 グリムに名を導き出された死者達が、彼らの聖域を守る。掲げられた魔上はあたかも大館のように長い腕から繰り出される殴打をそらし、流されたグリムの血が頭部を打ち据える鞭となる。振りかぶられた魔上に見通せぬ闇をまとわせ叩きつけた。
「……死者を模すのと死者を動かすのは別なんだ。だから、恨みはないけど壊れてくれ」
 グリムにとって、ホルスの子供達に訪れるのは死ではない。作動停止だ。
 だから、丹念に、丹念に。一体一体確実に破壊する。起き上がってくることのないように。潰して砕いた。
「夜が訪れ闇で閉ざすというならば、俺は意志の光でもって道を照らし斬り開く!」
 リゲルは叫んだ。切り結び、打ち据える。
「そこか。そこだな!?」
 クラウジアは、十重二十重に守られて、時折ふらりと前に出て蹂躙を鉈してまた戻る個体を確認した。
 即座に仮想宝石を作成する。本当はない宝石。これから打ち砕かれる泥人形によく似たもの。『宝石』という魔術をため込む概念を持つもののようにふるまうことを命じられるもの。きっと親和性が高いだろう。実存する宝石ならあり得ない、概念ゆえに過剰にため込まれる魔力が臨界を起こし、破滅的な奔流がクラウジアの導きで指向性を持って飛んでいく。目印をつけるようにそれはヴァサーカの名を与えられた泥人形に叩き込まれた。
 よたりと人形はよろめいた。
 はくはくと口が動く。その隙にローレット・イレギュラーズは間合いを詰める。
「ヴァサーカ、君も月光人形と同じなのだな」
 突出していたリゲルが人形に話しかけた。
 グリムは目をむいた。止める暇もあらばこそ。乱戦の中、数メートルがあまりにも遠い。いけない。死者の名前をあいまいなものに向けて呼んではいけない。
「…………」
 ヴァサーカは答えない。だが、傷がうごめいた。修復されていく。
「ヴァサーカ」
 こき、くき、と人形の首が不自然に触れる。胸のあたりが光っている。
 刻まれた名はヴァサーカ。
 その手の機構を使っているフラーゴラにはわかった。死者の名の重みを知るグリムにはわかった。
 再起動だ。
 リゲルは気が付いた。打ち込まれる技は確かに強力だ。だがそれに意志が乗っていない。全く闘志や害意を感じない。
 ヴァサーカの顔。目。目が、生きていない。
 月光人形には思い出がある。その思い出をベースにして、生きているかのように動く。
 だが、今ここにいるヴァサーカにはない。何もない。あるのはヴァサーカという名前だけ。それを起因として、色宝が色々混ぜ物された泥にその面影を投影して形作る。
 違うものだ。リゲルは唐突に理解する。
 そこに命はない。体がない命の依り代ではない。そこに死者の尊厳はない。死者の威光を借りて動く人形なのだ。
 そして、今、『ヴァサーカ』と呼ばれた人形は、自らをヴァサーカ――夜明けまで敵を退け続ける戦士――としてふるまうことを再認識する。そう望まれたからそうするのだ。それだけがほぼ唯一のプログラム。
 名前を持つもののようにふるまえ。ヴァサーカの思い出などひとかけらも持っていないのに。その手足が振るう技をヴァサーカがどんな思いで習得したか、敵を退け続けた一晩をどんな気持ちで過ごしたかも、その痛みも疲労も高揚も絶望も知らないくせに、ヴァサーカとしてふるまうのだ。
 感傷は、ホルスの子供達の餌になる。
 名を呼ばれれば、何度でも体を再構成してくる。生き返ってくるのだ。
 強烈な打撃がリゲルを襲う。首がもげるかと思ったが無欠城砦は伊達ではない。側芽に切り返し、追撃を阻む。
 リゲルは、剣を握りしめ直した。
「こんな形で戦わされては不本意だろう」
 人形に否はない。命じられれば、誰のためにでも踊ろう。乞われれば、どこででも踊ろう。本当のヴァサーカが唾棄しようとも。
「――ここで眠らせよう。そして元凶を倒し、次なる不幸が訪れぬよう願う」
 リゲルは、天義の騎士だ。
 いつでも人事をつくし尽くして最後は祈る。神の前に首を垂れて願う。ないを作ることはとても難しいのだ。
 召喚された異界の神々が跋扈する混沌世界で、神は手の中でさいころを転がしておられる。
 今は侵攻するため。前に進むため。
「さあ、押せ押せ。ここからじゃ。向こうが治るならこちらも治すぞ。力押しじゃ。まかせろ。援護の巡航モードに切り替えたからのう! 大船に乗った気でいろ!」
 クラウジアが音頭をとる。柔らかな旋律が仲間の傷をいやし賦活する。時には白い光が人形を焼く至れり尽くせりだ。
 生き人形に虫唾が走るのは、今は亡き者の尊厳を踏みにじるから。人形はそのヒトではない。そのヒトの顔で、体で、あたかもその人が選択したかのように行動するから。
 そして、人形にはそのように存在したくないと選択する余地もない。
「蘇ったばかりで申し訳ありませんが、その死出の旅を、私たちで彩りましょう。どうか安らかにお眠り下さい」
 正純が新たな矢をつがえる。今宵の星は宝玉を射るための矢じりだ。
 死者の体面を守るため、人形は打倒されなくてはならない。
 アルトゥライネルは、少し残念そうな顔をした。
「惜しいな……本物であれば間近で見てみたかったものだが」
 踊るだけではだめなのだ。内側からあふれる衝動が踊り手を躍らせるのだ。そして、衝動は魂から湧き出てくるものだ。
「心も無い、ただ踊らされるだけの人形の悪夢には子守唄が相応しいか」
 アンナのふるう布に、遊び心のある踊り手ならば寄り添うように踊りながら一撃を繰り出してくるだろう。
(……舞で戦う先達だけれど、惜しむらくは彼らが歪な存在であること)
 彼らにその場のノリはないのだ。
「魂の入ってないそれに負けるわけにはいかないの」
 夜より深い漆黒の布が躍る間隙から、水晶の剣が乱舞する。別の生き物のように舞う布は人形の手足を絡めてそらし、叩きつける。味方に自由を。敵には足止めを。
 ヴァサーカに届く一撃が少しづつ増える。つかみかかられ、神をつかまれ、引き戻され、それでもその手を斬り飛ばし、からむ腕を割り裂き、前に進む。
 盾で押しつぶし、渾身の一撃で一時に貫き、露わになった色宝を射貫いて砕く。
 誰でもいい。あの人形の前に立ち、それを砕け。
「生命への冒涜、それを犯した相手を追うために……押し通らせてもらうわ」
 ひときわ強く、したたかに戦う人形。名前を呼ばれて、再構成された人形。ヒトは、そんな風に治りはしないのだ。
 余りに歪な人形。
「……必ず彼らに報いは受けさせる。必ず」
 一撃に迷いはない。
 アンナはそう言って、目を伏せ、弔いとした。


 庸介が哨戒を引き受けた。急に静まり返ったことを不審に思って増援を出してこないとも限らない。逃走した連中が現金に戻ってくることもあるだろう。戦うつもりはなくとも、仲間の死体あさりは十分に考えられる。
 そのままずるずると五月雨式に戦闘が始まったら二の舞だ。あるいはそういうことがここで起こるように、この遺跡は設計されているのかもしれない。逃走時の時間稼ぎにはなるだろう。
 クラウジアの治癒術式で無様は晒さずに済んだが、前線で反動のある技を打ちすぎたため、体は限界に達している。へたりこみたい自分を叱咤しながら足を前に進める。

「土塊の魔術形式としての興味はあるがのう……」
 クラウジアは、しげしげと人形の残骸を観察する。倒した者を呪うブービートラップは仕掛けられていないようだ。それだけの器には達していなかったらしい。少なくともこの個体群は。急場の足止めのためにここに配置されたのだろう。
「戦闘含む命令遂行能力を与えられただけなのか、自意識があるのか、それが問題じゃて。前者ならコピって弄り倒す所存じゃが……さすがに破壊しきっててわからぬか」
 問答などをする暇もなかった。というより、まともに言語を話す様子もなかった。口から洩れていたのは、物理的に声帯が振動しただけの、意味を持たないうめき声だ。
「終了後はせめて彼等が安らかに眠ることができるように小さい墓を作ってやりたいんだ。……いいかな?」
 アントワーヌがクラウジアに問いかけた。
 変色した土塊と砕かれた色宝があるばかりの、弔われるべき魂もない人形の残骸だ。
 クラウジアは、アントワーヌに頷いて見せた。ここは、大規模な往来に使われるのだ。おそらくは瀕死の重傷者を後方に送る一刻を争う事態になりえるだろう。片付けはしなければならない。
「一方的に作り出され命令を与えられ、これがゴーレムなら破壊して終わりじゃが人形ゆえ弔いが入る……何故なんじゃろうなあ」
「形ばかりとはいえ、ヒトだったからかな。少なくとも、一時はプリンセスだったよ」
 アントワーヌは言った。弔うにはそれで十分な理由だった。
「さらば、偉大なる戦士たちよ」
 生者と死者の両方を愚弄する泥人形と自称するマッダラーだからこそ、弔いの言葉に余計なものは乗らない。
「安らかに眠ってくれ」

 グリムとフラーゴラは、後続の部隊が侵攻しやすいように死体を隅に移動させた。
「罪ある者よ、悪なした者よ、そうでしかあれなかった者たちよ」
 グリムの祈りの言葉にフラーゴラも目を伏せる。
「その罪科はその死を以て償われん。どうか安らかな眠りあれ、そして次なる生に祝福あれと願わんことを」
「花でもあれば手向けるんだけどね」
 フラーゴラの言葉に、グリムは頷いた。その言葉が死者への手向けになる。
「……埋葬はこの戦いが終わったらになるが、お前達の名前だけは持っていこう。それでいまは許して欲しい」 
 後続部隊に踏ませないのが精いっぱい。ここは戦場だ。今この瞬間にも誰かと誰かが命のやり取りをしている。
 リゲルも死体を寄せ始める。アルトゥライネルも加わった。
「どうか安らかに」

 場が拓けた。その中央にアルトゥライネルが立った。
「舞を贈ろう。道を拓こうと足掻いた者達へ。偽物であれど踊り戦い抜いた者達へ」
 手向けの舞に、アンナが加わった。
 舞は決められた動きにどれだけの心を乗せられるかが肝要だ。
 即興の合わせも、互いの動きに呼応して、舞い上げる。
 ホルスの子供達にはなかった魂の呼応。ヒトの尊厳の賜物だった。

 人形は砕かれ、死者は弔われる。
 大きく空けられた要所は、行軍を容易にするだろう。
 深層に赴く戦友よ。ここで流された血と泥に臆することなく本懐を遂げよ。
 我らもまた次の戦場に征こう。
 再び相まみえんことを。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

浜地・庸介(p3p008438)[重傷]
凡骨にして凡庸

あとがき

お疲れさまでした。この要所はローレットの制圧域となり行軍が有利になりました。ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

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