PandoraPartyProject

シナリオ詳細

二輪目の花は、あなた自身

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●灰色の花園
 空は分厚い雲に覆われて薄暗く、地面は灰でも降り積もったみたいにネズミ色で風に合わせて砂が舞う。
 ただ白い柵が立てられていて、歩ける場所とそうでないところを区別している。
 柵には看板がいくらか間をおいて取り付けられていた。内容は全て同じ、ただ一言『花畑』と。
 よく見れば柵の向こうの灰色の地面は歩いているところよりは柔らかそうで、人の手が入っているように見える。
 しかもさらによく見れば灰色に抗うようにいくらか色彩を纏った花が見えない太陽を目指すように花開いていた。

 ここは花畑。世界中の花を集め彩で溢れた花園。美しき花の色どりが世界を染め上げていた場所。
 どうしてだか、いつからか世界は雲に覆われ、灰色の砂を纏った風が吹き始めてからこの花畑の花々はみな枯れてしまった。
 世界を染めていた花が枯れてしまったのだから、世界には灰と白しか残らなかった。
 色がなくなり滅ぶのも時間の問題だからと助けを願ったのはしばらく前のこと。植えられた花は今もこうやって色を纏って生きている。
 世界が少しだけ色づいた。でもまだ足りない。
 だから願うのだ、もっと花畑に花々を、と。

●あなた自身を花として
「やぁ、僕はマフティ」
 ぱたんとふわっとした尻尾を振って『緑の郵便屋さん』マフティはイレギュラーズに挨拶をする。
「君たちに手紙を届けに来たんだ。場所はそう、今は枯れちゃった花畑ってところかな?」
 ごそごそと郵便バックから手紙を取り出すと、同時に手紙から灰に似た砂が零れ落ちる。
 一度行ったことがある世界かもしれないね、とマフティは前置きをしたうえで説明を始めた。

 目的地はかつては花の色で全てが彩られていた世界。その中心にある花園。
 しかし今は花は全て枯れ果て、彩を失った世界は緩やかに滅びの危機を迎えている。
 以前イレギュラーズの介入があり、花が植えられた結果いくらかの色を取り戻したがまだ世界は分厚い雲と灰に覆われている。
 だからまた花を植えてほしいのだと、マフティは言った。
「でも、前にいくらか花が植えられて世界本来の姿を取り戻し始めたからだろうね。その世界に行くと不思議なことが起こるんだ」
 曰く、花園にやってきた人の記憶や想い、性格などを反映して新しい花を花畑が生み出し、植えるらしい。
 まるでその人自身を花にしたかのように。
「世界に花を増やすためにも現地に行ってきてほしいんだ。後は花を愛でるでも散策してみるでもご自由にって感じみたいだよ」
 といっても花はまだ少ないけどね。とマフティは付け加えて、ついと持っていた手紙を差し出す。
 受け取ったら了承の証ということらしい。

 手紙を受け取ったイレギュラーズは気が付けば薄暗い、花園とは名ばかりの世界にいた。
 ふと隣の花畑を見やれば見知らぬ花。
 なるほど、これが『自分を元にして生まれた花』のようだった。
 さて、この世界でどうしようか。

NMコメント

 心音マリでございます。今回はイレギュラーズ達をお花にしてみたら、という趣旨のシナリオでございます。
 前作ラリー『花を一輪、くださいな』の続きの世界ですが特に気にしなくても大丈夫です。
 メインはイレギュラーズをモデルにしてお花にすることです。
 経歴や設定、性格や好み等々から素敵なお花を作らせてください。
 もれなく私の好みによりそれっぽい花言葉が付きます。

・目的
 現地に向かい自身を元にした花を花畑に作らせること。
 花が植えられているのを確認した後は自由に過ごしていただいて構いません。

・場所
 灰色の花畑。
 花は白い柵で覆われた内側に植えられます。
 見回せば花にはすぐにそれと気づくでしょう。

・住人
 花畑の管理を生業にしていた人が数名まだ残っています。
 声をかければ会話に応じてくれます。会話してみたいようでしたらどうぞ。

・プレイングについて
 生まれる花の部分についてはよろしければ以下のテンプレをご利用ください。
 使わずにいろいろ書いていただいても大丈夫ですし、丸投げいただいても大丈夫です。

・花の見た目(具体的に〇〇に似てる、円形、細長い、等々)
・色(赤、青、黄、複数の色、等々)
・花言葉(決めていただいても、悲しい感じ、嬉しい感じ等のふんわりした物でも)
・その他(香りなど、こういった要素が欲しいという場合にご利用ください)

 生まれる花の内容を決めていただいた後は生まれた花に対するアクションでも、植えられた花を見に行くでも、お好きにお書きください。
 以下プレイングの一例です。

・花の見た目:チューリップに似てる
・色:虹色
・花言葉:私は輝いてる!といった明るい感じ
・その他:ぴかぴか光ります
 隣を見たらめっちゃ派手に輝く虹色の花があるので驚きます。
 恐る恐る触れてみて、揺らしたらさらに光るのでも一つビックリしますよ、派手だなぁ。
 え、この花の花言葉知ってるんですか?
 ……うん、なかなか見た目通り派手な感じですねなるほど。
 これが私かぁ、と不思議な顔になります。

・補足
 このシナリオは1章完結シナリオです。

 それでは皆様の素敵な花の姿をお待ちしております。

  • 二輪目の花は、あなた自身完了
  • NM名心音マリ
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月15日 15時30分
  • 章数1章
  • 総採用数10人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ

 その花は水を思わす青い色をしていた。もしくはこの世界ではいまだ見えない空の色なのかもしれない。
 知る人がいるならば水葵と呼ばれる花が近いだろうか。ただ花の美しい青さと、シダに近い根元の葉の形が差異を感じさせる。

 『地上戦五分』トスト・クェント(p3p009132)にとっては花というものは馴染みのないものだ。暗い暗い地底湖ではわずかな光でも育つ苔ぐらいなら見かけるけれど、色鮮やかな花を咲かせるものなどなかったのだから。
 だからどちらかといえば今この花園の方が明るさを除けばトストが見ていた世界に近い。
 初めての地上は明るくにぎやかで澄んだ風が知らないものを運んでくる。でもたまには暗くて静かな澱んだ空気の地底が恋しくなるのだ。
「……これがおれの花かな?」
 どこか懐かしさと故郷への思いを抱えながら土をいじっていた彼が視線を移すと、いつの間にか青い花が一輪、目に入った。
「こんな風にきれいに、咲けるのかなぁ、おれは」
 花の青さが眩しい。花びらにそっと手を伸ばして触れると、小さく揺らいだと同時に少し湿った甘い香りがする。
 トストが手を戻すと、花の下に小さなプレートが刺さっていることに気づいた。
 プレートには花言葉の欄だけがあり、こう書かれていた。

 ──希望を持って歩む。

 それを見てトストは微笑む。いつかどこかで咲くとしても、今は知り歩いていこう。
 地底では生まれなかった興味が今はあるのだから。

成否

成功


第1章 第2節

郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

「えー、どうなのこれー、ちょっと派手すぎない??」
 その花を見て『新たな可能性』郷田 京(p3p009529)は真っ先にそう言った。花は探すまでもなかった。花園へとやってきた彼女の目の前にどーんと花を咲かせていたのである。

 見た目はダリアと呼ばれるものが近いだろうか。ただ一般的なものとは明らかに違い、向日葵も真っ青なほどに大きい。目立つ、とにかく目立つ。
 ただでさえ大きさで迫力があるのに、色も中央の黄色から外側に向かうにつれて橙から赤へと変化していくグラデーション。とても鮮やかで華やかである。
 見た目、色で大変インパクトのある花がそこに咲いていたのであった。

「あ、なんか発見ー」
 花の根元に埋もれるように刺さっている小さなプレートを見つけて京は手に取ってみる。花言葉、だけ書かれたプレートの続きはこうであった。

 ──私が一番強く輝く。

「えー、何この花言葉。アタシってもっとほら、慎ましやかっていうかー、可憐っていうかー?」
 可愛らしくてー、ちっちゃい花が似合わない? 野に咲く一輪の話……みたいな?
 等々、大変可愛らしい理想を早口で語る京に、聞く側であったマフティは目を逸らした。
「……おい緑のわんちゃんよー、いまなんで目を逸らしたの?」
 逸らしたら、秒でバレた。
 そういうところだと思うな。とは言えるわけもなく、しばらく笑顔で追及する京とあたふたする緑のもふもふ生物がいたとかいなかったとか。

成否

成功


第1章 第3節

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種

 『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)の前には真っ赤な花が咲いていた。草丈が1mほどのそれは、花の咲かせ方はチェリーセージに近く、ただ一つ一つの花は一般的なものより二回りほど大きい。
 しゃがんで花をよく見ると真っ赤だと思っていた花は白が混じったマーブルであるようだった。白の主張が弱いのと少し離れてみることで真っ赤に見えていたようだ。
「これが花言葉かな?」
 しゃがんだ際に目に入った小さなプレートを手に取って、ユーリエはその中に書かれている言葉を見た。

 ──私の恋は燃え、愛は輝く。

「恋と愛かぁ……おっと?」
 真っ赤で少し派手さを感じながらも、これが愛を知り吸血鬼となった自分自身を表しているのなら、この派手さも自分の思いの証。我ながら素敵な恋心だと感心していたユーリエは、ただでさえ薄暗かった花畑がさらに暗くなったように感じて空を見る。見上げた空は灰色の雲ばかりで、星はもちろん月も太陽も見えない。
 今が昼か夜かもわからないな、と思いながら花に視線を戻したユーリエは驚くことになる。
「花が……!」
 先ほどまで真っ赤だった花がいつの間にやら白い部分がきらきらと輝き、白く淡く発光していたのだ。先ほどまでと別の顔を見せる姿は光と闇、どちらも持ったユーリエ自身のように。
「愛は輝く、そうかもしれませんね」
 銀の髪を揺らして花の隣に座ると、肩に乗った蝙蝠にそっと笑いかけるのだった。

成否

成功


第1章 第4節

歩行機 RPT-0R コア番号71F(p3p008664)
二足歩行型機械生命

 キュルキュルとレンズのピントを合わせる。すぐにレンズはネズミ色の土の中に咲いた白い花を捕らえた。
 ズームする。これといって特徴の思い浮かばない白い花だ。強いて言うなら三枚の花弁のつき方がアヤメに似ているぐらいだろうか。それほどまでにその花は小さく白く静かに咲いていた。
「花? 花 は 有機 シャーシ 生命体。植物 の 一形態」
 小さく首を傾げてから『二足歩行型機械生命』歩行機 RPT-0R コア番号71F(p3p008664)は首を伸ばしてもう少しだけ花に近づける。
「……機能的 一部分? 判別不能。原因:理解 不足」
 じーっと見つめていても花は動かないから、少しずつ少しずつ距離を詰めて、彼はようやく花の前にやってきていた。腕代わりのアームを伸ばして、恐る恐る花弁に触れてみる。
 力を加えられた花がふわんと揺れて、白い花粉を散らしながらゆらゆら動く。それだけだ、花は動くことがない。
 彼の世界に花はない。人工物しかない世界しか知らない彼にとって、この花も、そして他の花畑に咲く色とりどりの花も、全てが珍しく興味深い存在だった。
 だから71Fと識別される彼は駆ける。灰色の土を蹴って、いろんな花を映し、そして……。
「花 説明 観察 希望!!!」
「おや、変わったお客様だこと」
 住人へと声をかける。溢れる好奇心を満たすように。そんな彼の花に添えられていたプレートにはこうあった。

 ──色づく言の葉。

成否

成功


第1章 第5節

感染体 RPT-0R 識別名“長蟲”(p3p008665)
駆け回る半生命

「イライ? 花 の 再設置 および カダン 再生? 参加 希望!」
 依頼の話を聞いたとき『駆け回る半生命』感染体 RPT-0R 識別名“長蟲”(p3p008665)は腕代わりの……触手(?)を振って興味を示した。
 人工物だらけの世界で他の機械に寄生することで生き、人工物と生命体の混じった姿となっている彼にとって、人工物ではない有機生命体には何か惹かれるものがあったのかもしれない。
 脚が触れる土の感触は柔らかく、尻尾を動かすと土ぼこりが舞う。そんな灰色の土に彼の花は咲いていた。
「花 は 有機生命体。植物 の 一形態」
 それはあくまで彼の持つ知識だ。それ以上の言葉を感情を言い表すのはなかなかどうして難しい。

 その花は黒い茎をしていた。うつむくように下を向いていくつも咲いている花は形だけで言うのならカンパニュラが近いだろう。ただしその釣り鐘型の花は一枚ではなく、切れ込みが入り五枚の花弁によって形作られていた。
 花の色は下の方に咲いているものが黒く、上に行くにつれて白い。

 白から灰を経由して黒へ変わっていく花の色を追っていた長蟲は黒い茎のその近くに白いプレートがあるのに気がついた。
 グイッと首を伸ばして覗き込むとそこには言葉が書かれていた。

 ──伸ばした手に気づいて

「伸びる 手?」
 しゅるりと触手を伸ばして花に触れる。勢いの良かった触手に押され、大きく揺れた花から白い花がポトリと落ちた。

成否

成功


第1章 第6節

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

 『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は以前にもこの世界を訪れたことがあった。あの時は花を植えてほしいと頼まれ、向日葵を植えたのを覚えている。灰と白だった大地に向日葵という花のもたらした彩がリゲルの心に温かさを届けてくれた。
 今回は花を植えるわけではないらしいが、自分を元に花を生み出してくれるようだ。
「どんな花畑になるのだろう」
 どこかわくわくとした思いを抱きながらリゲルは二度目となる灰色の大地を踏む。そして歩き始めてすぐにその花が揺れているのを彼は見つけた。

 星のように輝く花だった。小ぶりな桔梗のように星形に広がった花弁は銀色で、中央から外側に向かってほのかな青を帯びている。太陽は見えずとも、空から降り注ぐ弱い光を受けてきらきらと花弁が輝き、濃い緑の茎と葉の色も相まって少し離れてみたらそこには小さな星空があると錯覚してもおかしくないような花であった。

「これが俺の花かい?」
 風に揺れながら輝く花をまるで子供を見守るように眺め、願う。
 この花が強く凛としてこの世界で生き続け、世界に希望を与えることを。そしてこの大地一面が花々で彩られた素敵な世界となる未来を。
 白いプレートに書かれた花言葉。そこにはリゲルの願いを反映したかのような言葉が書かれていた。

 ──凛と立つ光。

 雨の代わりに如雨露から水を貰い、花たちはより一層輝きを増して。灰色の大地の新たな彩となっていった。

成否

成功


第1章 第7節

バーデス・L・ロンディ(p3p008981)
忘却の神獣

 それは不思議な花だった。鮮やかな黄緑色の茎に左右と中央の三か所に下を向いたユリのような見た目をした花が咲いている。花の中央は赤く、まるで血のようで。左右の花は外へ向かうにつれて黒く、中央の花だけ染められる前のように白くなっている。
 そしてどこからともなく漂う甘ったるい香りが『忘却の神獣』バーデス・L・ロンディ(p3p008981)の鼻を掠めた。
 人では嗅ぎ取れなさそうなほど弱く、でも甘い香り。腕の中ですやすや眠っている小さな赤子──愛子では感じ取ることのできない香りだ。

 愛子、バーデスの半身。彼の命そのもので、心の拠り所。
 この子がいなければ理性などとうに失っていただろう。
 心という意味でも命そのものという意味でも手放すことのない小さな命。
 遠い遠い昔では自分たちは同じであり、一つであり、独りであったことをこの子は覚えているのだろうか。
 それともこの花の香りのように感じ取れず覚えていないものだろうか。
 答えはバーデスにはわからない。

 永い永い眠りと時の流れの中で伝承も信仰も消えてゆく。消えてしまえば、伝承で信仰の対象であった存在はどうなるのだろうか?
 ただ目覚めることなく眠りにつくのだろう、他の存在のように自分たちも同じく。
「紙……花言葉、カ?」

 ──ひとつとすべてへの優しさ

 書かれた言葉を読み終わりバーデスが顔を上げると、赤に白を纏った中央の花だけがいつの間にか空を見ていた。

成否

成功


第1章 第8節

カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇

 ぺカーとしていた。意味が分からないと思うがぺカーとしていたのだ。
 その花はもうこれ以上もないほど目立っていた。
 形は彼岸花そのものだ。そのものなのだが……花の色、茎に葉、そのすべてに至るまでが黄金だった。何を言っているのかと思うが黄金色なのだ。そして弱い光も反射してこれでもかとばかりに輝いてみせる。
 とにもかくにも存在感がすごい。自分を見ろと言わんばかりに。

 これには来たばかりの『闇と土蛇』カイロ・コールド(p3p008306)も引いた。割とガチで引いた。
「これはまた自己主張の激しい花ですねぇ」
 黄金色は嫌いではないが、と思いながらもきょろきょろと見渡して話にあった自分の花を探す……が、見当たらない。あるのはこの黄金の彼岸花のみである。
 と、いうことはつまり……。
「……ん? これが私のですって? この自己主張の激しい花が???」
 そういうことである。丁寧に周囲を確認してもやっぱりこの花以外はないので、ようやくカイロはこの花が自分を元にした花であると理解した。
 なんだか釈然としない思いを抱えながら花の根元に添えられていた(これだけは黄金ではなく白い)プレートに手を伸ばす。

 ──一攫千金。

「お金は好きですが……直球ですねぇ」
 まぁいいかとスケッチブックを取り出した。この後の予定も特にないからせっかくならスケッチしていこう。
 金色の色鉛筆を持っていなかったのを少し悔やんだのは秘密だ。

成否

成功


第1章 第9節

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

(灰色の世界……灰みたいに崩れて無くなってしまいそうだ)
 だから少しでも花が咲いて色鮮やかになると良い。そう思って『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)は灰色の花園へと向かっていった。
「ん? 何か聴こえる」
 そして花園へとやって来た彼がまず気づいたのは、耳障りの良い音だった。さらさらと風の流れる音か小さなせせらぎに似たその音は彼のすぐ隣から鳴っていた。似たような音は思い浮かぶが聞いたことのない初めての音。
 音の方へ目を向けるとその花はそこに咲いていた。

 笹の葉のような花びらを幾重にも持った青い小さな花だ。重なった花びらが風で揺らされるたびに触れあって心地よい音を奏でる。
 そんな花がいくつも咲いているからさらさらさらと流れる音が何重にもなって耳をくすぐる。
「この花、音が鳴るのか」
 手を伸ばして花を触ると先ほどよりも大きく揺れて、合わせるように大きな音が触れあった花弁たちから奏でられる。

 ──響き渡る幸せ。
 花の間にあったプレートにはそんな花言葉が書かれていて、何度か花都プレートを見比べる。
 そういえばここでは自分を花にして咲かせてくれるのであった、と思い出しながら花を見る。見ていれば見ているほど自分を見つめているようで不思議な感じがしながらも花の音は心地よい。
 ふと思い立って指を鳴らす。音色は花の音色に合わせて。
 ささやかながらも美しい音が花畑へと響き渡った。

成否

成功


第1章 第10節

虚栄 心(p3p007991)
伝 説 の 特 異 運 命 座 標

 キャラキャラと耳障りな音が鳴る。音なのだろうか、聞き方によっては高い女性の声のようにも聞こえなくはない。
 笑っているようだ。まるでセレブな奥様達が自身の宝石などを自慢するかのように、噂するかのように、小さくはない声で話し、笑う。
 風に揺らされる花はそんな音を立てていた。
 血のような……否、ルビーのように真っ赤な花だ。百合そっくりの見た目をした花は自身をより見せようと、目立たせようと上を向いている。

 声に惹かれるように『伝 説 の 特 異 運 命 座 標』虚栄 心(p3p007991)は花の根元に刺さっていたプレートに手を伸ばす。
 プレートには花言葉としてたった一言。

 ──虚栄心。

 とだけ書かれていた。
「私の名前? シャレたことするのね」
 プレートをポケットへと忍ばせ、彼女は歩いていく。花と同じく顔を上げて、自分は強いのだと、他とは違う特別なのだと、特異運命座標なのだと、信じて疑うこともなく、振り返ることもないまま。
 心が去っていった後、残された真っ赤な花たちが笑うような音を立てた。

成否

成功

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