シナリオ詳細
<菓想世界>ひび割れたチョコレート
オープニング
ビターチョコレート領の貴族『ディープノア』、ホワイトチョコレートの領の貴族『シルディア』。2人はまるで性格が違えど、とても仲が良い王女ということで有名だった。
ついつい強い言葉を使ってしまうディープノアに対してシルディアは、周りに流されず思ったことを素直に言える彼女をカッコいいと思って慕っていた。
トラブルメーカーであるものの、身分差に関わらず手を差し伸べるシルディアに対してディープノアは、本当の強さとはその優しさの事を言うのだと思って慕っていた。
2人はとても仲が良かった。ある事件が起こるまでは――。
「待って、私の話を聞いてよ、ノア!」
「貴方がそんな風に思っていただなんて、ちっとも知らなかったわ。ディア、貴方は陰口なんて言わない人だと思っていたのに! 衛兵! そこの女を追い出して!」
「待って、おねがい、ノア! ディープノア!」
その日から、ディープノアは自室から出て来なくなった。扉越しに母親が呼んでも、父親が呼んでも返事はない。扉の前に置かれた食事が人知れず部屋へと持ち出された後、残された食器だけが彼女の安否を教えていた。
●
ことの顛末は、舞踏会だ。齢16になった2人は社交会デビューというのもあって、大勢の前に出るのは初めてではあったが、シルディアがいるなら怖くないとディープノアは毅然とした態度で参加していた。3度目になるダンスがようやく終わり、喉の渇きを感じた彼女はボーイにドリンクを受け取った後、ソファに座ろうとしたところで、それは聞こえてきた。
「ねぇ、シルディア。貴方はよくディープノアと仲良くできるわね。あの子の言葉で、一体どれだけの淑女が泣いたことか」
「この間なんて、新しくお付きになったメイドから昼食を取り上げたらしいわよ」
「嘘でしょう? 信じられない! シルディア、それ本当?」
いつもなら、シルディアは笑いながら『知らない』と言葉をいなして立ち去っていた。だから、今日もそうするのだとばかり、思っていた。
「うん、本当だよ」
しかし、シルディアは立ち去らずに微笑みを浮かべたまま、取り巻きから離れることはなかった。ディープノアはそれ以上そこにはいられず、走り去った。
きっと何かの間違いだ。彼女はこの夜会中に自分に会いにきてくれる。そして、あれは離れられない理由があったのだと言ってくれるのに違いない。
――結局、その後はシルディアと会うことはなかった。
ディープノアはその時、生まれて初めて〈命の核〉が割れるような痛みを知った。そしてこう思った。『こんな想いをするのなら、もう2度と、誰も会いたくない』と。
●
「ディープノアとシルディア。このまま進めばこの2人の物語は悲劇に終わります。若いが故に、一度の過ちで心が傷ついたあとはひどく臆病になってしまったのでしょう」
この2人の友情を取り戻せるのは、イレギュラーズだけだ。そう告げる境界案内人に一同は頷いた。
シルディアはあれから毎日ディープノアの屋敷に向かっているらしい。しかし、ディープノアはけして自室の扉を開かないようだ。彼女を説得するには、その部屋に入るにはどうするべきか、早速話し合い始めた。
- <菓想世界>ひび割れたチョコレート完了
- NM名蛇穴 典雅
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年02月16日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
今日も追い返されてしまった。自分が悪いのだ。そう、自分が。伸ばすべきタイミングを見失った自分に罪がある。けれど、こうして会いに来てしまうのは、シルディアにとってディープノアが大切な人であるという何よりの証明だった。
――あと、もう一度駄目だったら諦めよう。
ドレスにポタポタと涙が落ちていく。染み抜き担当のメイドには苦労をかけてしまうが、今回だけは、どうしても抑えきれなかった。馬車に揺られながら、シルディアは願う。
『神さま、一生のお願いです。ノアと仲直りできますように』
●
翌日。見慣れない者がシルディアのもとに訪れた。初めこそ警戒していた執事達だったが『仲直りの手伝いをしたい』という言葉に顔を見合わせる。最終的に『シルディアがまた元気に笑ってくれるなら』父親の許可が取れ、メイド立ち会いの元イレギュラーズ達は客間に通されたのである。
「はじめまして! シルディア。大丈夫大丈夫!ㅤ会長もよく勘違いされてすれ違って気まずくなったりしたし!ㅤそういうのは大体雨降ったら地固まるものなんだよ!ㅤディープノアくんともきっと仲直りできる!」
開口一番に励ますのは『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)である。その言葉に同意するように『実証・実験』フィーア=U=ツヴァンツィヒ(p3p008864)も頷いた。
「そうそう! 一度のすれ違いでお友達を無くしちゃうなんてそんなの悲しすぎるよ!」
その言葉に、シルディアは目を潤ませた。諦めようと何度も考えたが、諦めなくてよかったという気持ちと、助けてくれる存在が現れたことに対しての涙であった。
「まあやれるだけやってはみるが、あまり期待しないでほしいものだな」
「とはいえ、僕達がお手伝いをしても、それが叶うかどうかは二人次第だけど」
『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)と『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)はシルディアのその様子に眉を下げながら答える。そう、自分たちはあくまで『お手伝い』であって、仲直りを成功させることができるかどうかはシルディアにかかっているのだ。
「それじゃ、行こうか」
「でも、門はいつも閉じていて……」
「なぁに、そんなの簡単だよ! 空を飛んで、窓から直接の、ディープノアちゃんの部屋に行けばいいのさ、茄子子ちゃん!」
「なるほどね! フィーアくん頭いい! それじゃあまかせてまかせて! そぉら!」
ふわりと広がる歌声に混じり、編まれた魔力は翼の形となってイレギュラーズとシルディアの背に空を飛ぶ力を与える。羽衣賛歌『蓮の胞子』のその力にシルディアは目を丸くさせた。
「メイドさん達はどうする? ついてくる?」
「……ええ、万が一のこともございますので」
「それじゃあ、行こう。ディープノアの屋敷へ」
新たに翼をメイド達に付与したのち彼女らと5人は大きな窓から飛び立ち、ディープノアの屋敷へと向かった。
●
あれから何日経過したのだろうか。日中にもかかわらず暗い部屋なのはカーテンを閉めたままなのが原因だ。嫌味なほどに質の良いカーテンは、夜なのか昼なのかを一切伺わせなかった。扉の前に置かれた食事のうち、スープだけを食べ、返す日々。ネグリジェごしでもわかる痩せた腕を一瞥する。このまま眠りについたまま目が覚めないのも悪くないかもしれない。このまま、ずっと。
そのとき、窓からガタガタと音が聞こえた。不思議に思いながら、窓に近づき、カーテンを開ける。そこにいたのは――
「ノア」
「……帰って」
「ノア、お願い。話を聞いて!」
悲痛な声。カーテンを閉めようとしたディープノアを止めたのは、回言の言葉だった。
「新人メイドいびりの件だが。何か理由があっての事なんだろう?」
「……どうしてそう思うの」
「素直じゃないだけで、悪い子には見えないからね」
「そうそう! シルディアちゃんがここまで仲直りしたいって思うんだもん、悪い子なわけがないよ」
回言に続くフィーアの言葉。信じてもらえるだろうか、と怯えを含む瞳にカインは頷く。大丈夫、というそのまっすぐな瞳を数秒見つめたあと、目を閉じ、カーテンに再び手をかけた。
「ノア!」
「その方々に免じて、一度だけ話をしてあげてもいいわ。客間で待っていて。……見繕いをしてから、話しましょう。淑女として、このままの姿での会談は少々抵抗がありますから」
そう告げると、改めてカーテンを閉めた。今度は正門から訪れてももう追い出される事はないだろう。イレギュラーズは顔を見合わせたあと、ガッツポーズを決めた。
何はともあれ、第一関門は突破したのだ。
●
「本当は2人きりにさせて、話し合いをさせようかと思っていたんだけどな」
時間にして1時間半。湯浴みと着替えを済ますのに充分な時間を取ったと言えるだろう。カインがポツリとつぶやいた言葉に、イレギュラーズは苦笑する。自分達もそのつもりだったのだ。けれど『貴族のやり方』となれば仕方ない。
「お待たせいたしました」
ようやくやってきたディープノアの姿にシルディアはぱっと表情を明るくさせるが、ディープノアはシルディアに目もくれず、優雅にソファーに腰掛けた。
「……さてメイドの話、でしたか」
「そうだ。何か理由があってのことだろう?」
カインの言葉に、ディープノアは頷いた。それから、給仕していたメイドに一言『下がっていいわ』と告げると彼女達は退出した。その気配がなくなるのを確認したのちに口を開く、
「……お客様が何族かはわかりかねますが、人々の中には相いれぬものがあります。種族によって、口にした場合毒になるもの、と言うべきでしょうか」
不思議そうに首を傾げるフィーアに、回言が『犬にチョコレートを食べさせてはならないのと同じと言う感覚かもしれないと耳打ちすれば、ようやく納得できた。
「まさか、そのメイドさんに毒が?」
「知ってか知らずかはわかりませんけどね。ジェリー族はパイナップルやキウイを口にできないのですが、件のフルーツサンドにはそれが入っていました。ジェリー族が食べられるように処理されているものも中にはありますが、手作りとなればそれは難しいと考えて処分させていただきましたの」
「そう言う事情が……」
「もっとも、新人メイドはこの事実を伝えたあと、保護も兼ねて休暇を取っているわ。だから私が虐めた結果辞職したように見えても仕方がないかもしれないわね」
はぁ、と長くため息を吐くディープノア。彼女は新人メイドを虐めていたわけではなかったのだ。
次はシルディアの番だ、と茄子子が背中を押せば、シルディアはオドオドと手を組んだり解いたりを繰り返した後に、ポツリポツリと話し始める。
「……本当はね……」
●
――嘘でしょう? 信じられない! シルディア、それ本当?
――うん、本当だよ
――やっぱり!
――でもね、ノアは……ディープノアは……その、みんなが思うより悪い子じゃない……と思う……
その言葉に目を吊り上げたのは、この女性陣を牛耳るリーダーであるふたつ上の娘だった。シルディアは、初めて言葉を濁したのだ。それは、リーダーである彼女に取って、謀反とも言える行為だった。
それからは地獄だった。八方美人の因果応報といえば仕方がないのかもしれないが、シルディアがこれまで、どのような事柄や噂話に同意したのか、その結果どうなったのかを挙げ連ねると、女達は口角を上げて、笑った。
シルディアはその日、素直に言葉を告げることの難しさを改めて思い知らされた。そして、同時にディープノアの強さを改めて知ったのだ。悪口を言われているにもかかわらず、気持ちはずいぶん、澄んでいた。
「……今シーズン、招待に預かる数がずいぶん減ると思いなさい」
舞踏会や社交会が減ると言うこと。それは、すなわち貴族として行き遅れる可能性が高いと言うことだ。シルディアはそれでもよかった。ディープノアを貶すような行いをするよりかは、ずっとずっとマシだった。
――だが、生まれて初めての社交会での『生贄宣言』は大いに心を蝕み、駆け込んだ手洗い場で泣いた事によって化粧を崩したシルディアはディープノアに会いにいくことができなかったのだ。
●
「初めての社交界、ノア嬢でも緊張していたその場所で、周りの影響を受けやすいディア嬢がそれ以上に一杯一杯だったのは想像に難くない。そんなディア嬢がいつもと違うその場所で、いつもと同じ様にできるとは思えない」
「……そういう、こと」
カインの補佐もあり、言葉を全て吐きだしたシルディアはぼろぼろと泣きながら、謝罪繰り返す。ディープノアは、目を見開いて驚いていた。それほど、シルディアが自分の意見を発することがこれまで少なかったこともあった。故に想像の範囲に無かったのだろう。
「人の心なんて他人にわかる訳ないんだし、やっぱりお互いの考えをすり合わせるのが一番仲直りをするのに手っ取り早いだろう?」
その言葉に頷いたあと、ディープノアは立ち上がり、シルディアの元へ歩み出す。そして、ハンカチを差し出すと、目元を押し当てた。
「まったく、化粧が崩れるほど泣くなんて。化粧を崩さずに泣けるように練習が必要ね、ディア」
「うええ、ごめんなさいぃ、ノア〜〜!」
「私こそ……ごめんね、ディア」
一件落着、と安堵する男性陣。そこにフィーアがニコニコ顔で提案する。舞踏会の続きをしよう、と。悲しい思い出を塗り替えるのだ。
茄子子の歌声が響く。傾き始めた夕暮れの空にイレギュラーズと2人の娘は踊り始める。美しい翼を得て踊るその姿を目に捉えた者が居た。
そのシーズン、確かにディープノアとシルディアは呼ばれる事はほとんどなかった。けれど、夕暮れの空に天使の翼を得て踊るその姿にひどく惹かれた男が婚約を申し込み、痛手はおろか『社交会にめったに現れない秘する華』として、話題になったのは後の話である。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
シルディアはこの件に協力的です。イレギュラーズから要請があれば進んで行動するでしょう。
しかしディープノアの両親は元凶であるシルディアを嫌ってはいないものの、屋敷に入れる事に抵当があります。
なお、真相は下記にある情報とOPを頼りに推察してください。
●ディープノアの新人メイドいびり疑惑
ジェリー族の新人メイドはその日、恋人から差し入れで貰った『手作りのパイナップルフルーツサンド』を昼食にする予定だったようですが、ディープノアはそれを取り上げてしまったとの事です。
新人メイドは昨晩、恋人が浮気をしていた事が発覚し、大喧嘩をしていました。朝になって『お詫びの印』という恋人の名前が書かれていたメモと共に置かれていた初めての手作り弁当だったというのもあり、奪われたことに酷く悲しみました。
なお、シルディアはこの光景を見ているので疑い用のない事実です。
●シルディアのトラブル暦
シルディアはたびたび身内でトラブルを引き起こしていました。内容こそけしてネガティブなものではなかったものの、話す相手によって意見が二転三転するという点で、周りの人たちは彼女の真意を汲み取るのに苦労したようです。
ディープノアはこれに対して、シルディアの素直な気持ちを言うまでは口を開かず聞きに徹していました。たいがいは数秒でシルディアが彼女自身が感じている事をぽつりぽつりと口にしています。
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