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シナリオ詳細

イレギュラーズの悪夢Ⅱ

完了

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オープニング

「先日は皆さん、お世話になりました。いやはや、本当に助かりました。『悪夢の書』が逃げ出したとあれば、私の首が飛びますから。……え? 首がどこかって? いやぁ、ハハハ、例え話ですよ、ええ、あくまで例え話です」

 顔のない、名もなき境界案内人は肩をすくめた。

 かつて、ここ境界図書館では『悪夢の書』が逃げ出した。イレギュラーズの悪夢を餌にしたことで満足した『悪夢の書』であったが、その特異なるモノを摂取したが故にか、書物に記述されていた〈物語〉が大きく変質してしまっていたのが近日発覚した。

 周囲の存在が敵となった〈物語〉、世界の全て忘れられた〈物語〉、家族が惨殺された〈物語〉。様々な悪夢を取り込んだそれは、確実な形で〈悲劇〉を連なっていた。
 連れ去られた姫は嬲られ、助けに赴いた王子は大臣に暗殺、奇跡を起こす魔女は火炙りに、全ての存在に幸福は訪れない。

「その種類は多種多様。まさに『悲劇の物語短編集』といったありさまです。悲劇好きには読み物としてたまらないものはありますが……そうはいかないのが実情でして」

 変質した〈物語〉の原因は、『悪夢の書』が『美食傾向にある』と解明した。もはや、境界案内人が定期的に、事務的に与える面白みのない〈悪夢〉は見向きもされない。故に自ら〈悪夢〉を生み出すことで、〈悪夢〉を食すようになったのだ。

 自己生産、自己消費。本来ならば自分たちにとって都合が良いこの事態は喜ぶべきことだが、歪んだ物語を正すのが境界案内人だ。面倒な事この上ないが定期的にイレギュラーズに〈悪夢〉を見てもらう事で自己生産を抑止し、元の『悪夢の書』に戻す必要がある。

 故に無貌の境界案内人はイレギュラーズに助けを求めた。

「皆さんにはお辛い思いをさせますが、どうかご協力を。幸か不幸か、この書によって見た悪夢は当分のあいだ見る事はございません。悪夢に悩む方がいれば治療となるでしょう」

 『もちろん、これが終わったら美味しいモノを提供しますよ』と笑う名もなき境界案内人に、何人かのイレギュラーズはジト目を向ける。

「やだなぁ、別に美味しいモノをあげればなんでも機嫌良くしてくださるとは思ってませんよ。……ええ、思っていませんとも」

 ――『悪夢の書』が美食傾向になったのは、イレギュラーズに美食家が多いからではないか。

 カストルとポルックスにそんな自説を唱えた張本人はどこか面白そうに笑いを含めた声で、そう告げた。他の境界案内人たちから向けられる申し訳なさそうな視線に『やれやれ、仕方ない』とイレギュラーズは重い腰を上げるのであった。

NMコメント

可哀想は可愛い。『うちの子が追い詰められた姿が見たい!』という闇の親御さん向けのラリーです。

●テンプレート
・悪夢のテーマ(おまかせ不可)
・絶望の筋書き(おまかせOK)
・PCはどんな反応をするのか(おまかせ不可)

●注意
こちらで描写された事はあくまでも悪夢です。
四肢切断されても現実では五体満足になります。
ただし悪夢が原因でトラウマになるのはOKです。

『イレギュラーズの悪夢』第一弾
→ https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3640

  • イレギュラーズの悪夢Ⅱ完了
  • NM名蛇穴 典雅
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月06日 20時30分
  • 章数1章
  • 総採用数6人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う

 『ハートキャッチ』澄恋(p3p009412)は笑っていた。優しい母と強い父。2人に愛され、幸せな日々を過ごしていた。
 仕事が終わり、同僚と深酒をしたらしい父に少女は捕まり、うりうりとヒゲを擦り付けられる。やめて、やめてと笑いながらはしゃぐその姿を、母が目を細めて眺めていた。

 ――違う。

 低い、深淵から轟くような声が聞こえた。少女の背後には澄恋自身が立っていふ。暗い闇を宿した瞳が、幸せそうにしていた少女を突き飛ばした。

「全部、ありもしない空想です。鴛鴦夫婦とまで言われた父と母。彼らの幸せを、わたしが壊したという事を、忘れてはいけません。他の誰かが許したとしても……『わたし』は赦しはしない」

 嗚呼、と少女――は瞳を閉じる。全て思い出す。
 離婚した母の衰弱しきった安堵のため息を。
 寒さと飢えに苦しんだその日暮らしを。
 逃げるように縁を切った事を。
 運命の相手と出逢うべく、今日も生きるのだと唇から漏らした声に、もう一人の自分が疑問を投げ掛ける。

「命をくれた肉親の幸せを壊した挙句、その縁すらも捨てたあなたに幸せになる権利があるのですか」

 悪夢が嗤う。彼岸花が足元に咲き誇る。白無垢を染める親殺しの麗しき花だけが、花嫁に微笑んだ。


――うしろのしょうめん、だぁれ

成否

成功


第1章 第2節

虚栄 心(p3p007991)
伝 説 の 特 異 運 命 座 標

 『伝 説 の 特 異 運 命 座 標』虚栄 心(p3p007991は絶句していた。埋め尽くさんとばかりに溢れかえった空中神殿の姿はまるで、生前によく見た満員電車のよう。一体何があったのかと問いかければ、全ての存在が召喚され、特異運命座標となったのだと困り顔で答える姿があった。

「ええ……!?」

 己のアンデンティティの危機……だけなら良かったのかもしれない。だが、因果応報。普段の行いというのは同じ立場になった時、全てが露呈するものだ。

「よぉ、いつぞやのイレギュラーじゃねぇか」
「あの時はよくもあんな言葉を吐き捨ててくれたな」
「今度はお前の番だぜ」

 『特異運命座標は"特別"な存在である』。その言葉を印籠の如く口にしてはあれやこれやの面倒ごとからのらりくらりと逃げてきた虚栄に、かつてそれらを押し付けた民が迫ってくる。

 『凡種』と差別し続けて来た彼らの復讐に燃える瞳が、貪欲に光る。その手に持った棍棒が、ナイフが、この先の未来を物語る。
 
「ま、待て! おちつけ、話せばわかッ……!」
「立場を弁えろ!!」

 殴る、蹴る、刺される、けれど死ぬ前にパンドラが発動する。傷が癒える。カサブタが剥がれるよりも先に再び痛みが押し寄せる。

 『コンテニューしますか?』 ……▶︎はい いいえ

 強制終了なんてものはなく繰り返されるのは、虚ろな自己満足。その円環から助ける者は誰もおらず、悲鳴だけが響き渡った。

成否

成功


第1章 第3節

マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

 ずるり、ずるり。
 雨音が響く世界で、それは泥を纏いながら、その身体を引きずるように人里へと迫っていた、残されたのは、人形のように動かない人々の末路。赤いかんばせは、もはや誰だったのかもわからないほどぐちゃぐちゃに壊されていた。

 化け物だ、とぼんやりと意識の端で『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は呟いた。生きるために獲物を狩る肉食獣とはワケが違う。この身体の持ち主は、ただただ、悲鳴を聞くために、手慰みに肉を引き裂くために人々を殺戮していた。
 まるで、出来の悪い映像作品を眺めているかのような景色。脳にホワイトノイズがなだれ込んで来る。正常な思考回路が出来ない。

 ――だが、とつぜん、それはクリアになる。

 本来は愛する夫と子供に食べさせるために作ったであろうシチューの入った器を、怪物に向かって投げる。

(待て、やめろ、だめだ、ここは――!)

 マッダラーが叫ぶように悲鳴をあげる。代わりに喉から出て来たのは獣の咆哮だ。子供の泣き声は一層酷くなり、女の悲鳴が短く上がる。

 耳障りだったのであろう。まず子供が首を刎ねられた。絶望感が女を蝕み、抵抗という術を殺した。次に女の首に手をかける。柔らかい肉が易々と締め上げられていく。

「あ……なた……」

 最後に愛しい人に向けて祈るような、助けを呼んだ声を最後に、ゴキリと音が聞こえた。

 マッダラーの慟哭は、遠吠えとなって夜に響いた。


成否

成功


第1章 第4節

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera

 『Stella Cadente』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は窮地に追い込まれていた。第二号店、第三号店と目標を高く持ち続けてきたモカが最後に手にしたのは、誰の名前もない真っ白な予約リストだけである。

 ――はは。『Stella Bianca(白き星)』とはよく言ったものだ。

 自嘲めいた乾いた笑いしか、もはや喉から溢れてこない。飲食店における致命的なミス。食中毒という、最悪の結果を招いてしまったStella Biancaは名声を地に落とし、あれだけ賑やかだった客足もぱったりと途絶えた。当たり前だ。食事とは命の左右するもの。信用ならないモノを食べようとするのはよほど飢えている状況でもなければ、ありえない話だ。
 ……いや、毒を喰らうならばと飢えを選ぶかもしれない。店は食中毒で死亡者を出している以上、スラムに住まう者たちは生き延びるために必死だ。だからこそ、リスク管理は何よりも重要視しているだろう。
 いずれにしろ、モカの望みは途絶えた。あれだけ努力した数々の料理レシピも、かき集めた資金も、もはやなんの役にも立たない。データは買えたとしても、信用と命は買えるものではないのだ。

 店の玄関から、ばちばちと音が聞こえる。おそらくは石を投げられているのだろう。それが遺族か、それとも野次馬かはわからない。だが、もはやそれが誰かなんて関係がない。

 ――かの星は、燃え尽きたのだ。

成否

成功


第1章 第5節

バーデス・L・ロンディ(p3p008981)
忘却の神獣

 ――カラーン、カラン。

 教会の鐘が鳴り響く。葬列が続く。黒服の人間たちが、石畳を歩んでこちらへと向かう。その子を此処へと老人が話しかけた。

 けれど『忘却の神獣』バーデス・L・ロンディ(p3p008981)は首を振る。この腕の中にいる『愛しい子』を引き渡すわけには行かなかった。

 きっと、何かの間違いだ。

 たとえば……たとえば。
 ……そうだ。冬の風を浴びて、今は少し冷えているだけなのだろう。それならば、早く温めてあげなくてはいけない。
あの耳障りな鐘の音が聴覚を狂わせた所為で、鼓動を感じられないのだろう。それならば、この音を止めなくてはならない。

 そうだ。この子は眠っているだけだ。
 いつもいつも眠る前にグズグズを鼻を啜ってむずがっていた。真夜中に目を覚ましてまで寝かしつけなくてはならない少し手のかかっていた部分が成長したのだ。
 そうだ。子供の成長は早いというではないか。つまり、今日はすっかり良い子になって眠っているに違いない。

 バーデスの言葉に対して、酷く憐れむような視線で彼らは首を振る。死者は埋葬しなければならない。魂は彷徨うことを許されない。

 ――身体は土へと還すべきなのだ。

「黙レ、コノ子ハ――████ハ、ワタシガ守ル」
「残念だが、バーデス」

 ――お前はな、守れなかったんだよ。

 世界から██が消えていく。
 己から██が消えていく。

「カエシテモラウゾ」
 
 土ではなく、この腕の中へ。

成否

成功


第1章 第6節

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

 ――目の前の『赤』を乱雑に拭い、『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は息を整えた。

 一体どれだけの間、こうして剣を振るったであろうか。屍の上へさらに重なる屍が、皮肉にもバリケードの役目を果たしていた。
 血と脂で汚れた『世界』が呼んでいる。それは、この混沌という世界ではなく、リゲルにとっての『世界』であった。尊敬していた師も、あの日を最後に美しく散った父親の声さえも、彼を呼んでいた。

 けれど、リゲルは沈黙を貫き続ける。誘いに乗る言葉も、拒否の意味を宿す言葉も、返さない。――弱音を吐く前に己の声帯を切除した。

 世界は180度、変わってしまった。反転した世の中は箱に残った最後の希望をも食らいつくさんと、呼びかけ続けている。

 肩を並べて戦っていたヒトを斬った。
 守りたかったヒトを斬った。

 ようやく生き残りに会えたと旅人の友人に手を伸ばすが、その瞳に狂気を宿しているのに気がつけば、剣を取り、呼吸を奪い去る。

 ――おいで、皆こちらで待っているよ。

 己の『世界』は優しくも厳しいモノだったはずだ。粘度の高い奇妙な優しさを宿すモノではなかった筈だ。残響する絶望に染まらぬように時折己を斬りつけた。

 ふと、目にした割れた鏡に映った自分を見つめる。赤に染まり、腐臭を宿し、何者からの呼び掛けにも答えない自分を見て、笑いが込み上げた。


 ――嗚呼! 『正気の基準』とは、なんだ?

成否

成功


第1章 第7節

 はっ、と████が目を覚ます。脂汗が頬を伝い、ゾクゾクとしたものが背中に走る。覚めない悪夢はない。悪夢が現実に侵食することはない。

 ――だが、未来永劫、現実が笑いながら悪夢を見せない確証はない。

 だが、ひとまずは。絶望とは、幸福のひとときを過ごしたものにこそふさわしく、そのスパイスこそが悲劇たりえる要因なのだ。

 今しばらくはこの『物語』を完成させず、エンディングは取っておこう。なに、欲しくなればもう一度要求すれば良いのだ。

「いけませんよ。繰り返される物語を読者はのぞまない」


 ●


 その日を境に、悪夢の書はページを増やす事を辞めた。満足したのか、それとも何か他の要因があるのかはわからない。イレギュラーズ達の仕事が良かったのでしょうと微笑む境界案内人の言葉に嘘はなかったが、真実もないように見えた。

 ――だが、境界案内人はイレギュラーズにひとつだけ報告した。


「『悪夢の書』が消えてしまいまして。いえ、物体としてあることにはあるのですが……タイトルが消えてしまったので、便宜上は悪夢の書と呼ぶことはもうないでしょう」

 〈――なぁ、それは本当に"悪夢"だったのか?〉

「わかりません。ただ、言えることは……」

 黒いインクで塗り潰されたかの本は、因果応報となったのでしょう。他の不幸を喜ぶものもまた、不幸へ堕ちる。身に余る力は経てして滅びを迎えるのですよ。

 無貌の境界案内人はそう言って『██の書』を本棚に戻した。


 ――めでたし、めでたし。

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