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シナリオ詳細

マッチ売りは幸福の火をま【だいだい】ている

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●炎に燻る幸せを
 寒空の下、貧しい身なりの少女がひとり、マッチを売ろうと街をさ迷っていた。

――さむい。

 誰も彼もが忙しそうに少女の前を通り過ぎるばかりで、マッチは一向に売れる気配がない。
 冷たくなった身体を少しでも温めようと、少女は最初、紙箱から1本だけ取り出してマッチを擦った。
 するとその拙い炎の中に、温かいストーブやおいしいごちそう、心がぬくもる幻を見るようになったのだ。

「あたたかい?」

 ふと、少女の背中に声が降る。振り向いた瞬間、少女は叫びそうになった口を慌てて塞いだ。

「ッ……!?」
「ごめん、驚かせるつもりは無かったんだ。ただ、君があまりにも辛そうだったから……温もりをあげたくて」

 しゃがれ声と気弱そうにハの字に寄った眉。不吉な空気を纏う大鎌を持った少年は、気落ちしたような溜息を吐いた。

「僕は死神。今際の刹那に命を刈り取る者。死の世界に近いこの身じゃ、君を本当に温めてあげる力は無いから。
……せめて、心だけでも温める事が叶ったら」

 嗚呼、少女は貧しい暮らしで命をすり減らしすぎたのだ。死神が見えて傍にいる。それが指し示す理由は――もう。

「私はアンネ。死神くんのお名前は?」
「……フラッツ」
「素敵な名前ね! ねぇフラッツ。貴方がもしマッチに幸せを浮かべるとしたら、どんな幻を浮かべるの?」
「僕の幸せ? それはちょっと……考えた事、なかったな」

 人の命を奪う不幸な存在が幸せなど求めていい筈もない。そんな謙虚なフラッツのため、アンネは彼の幸せを探そうと――街の家に火を点けた。

●赤信号と黄色信号
 なぁーん。
 黒猫に頬をぼてぼてと殴られ、新郷 赤斗(しんごう あかと)は微睡みから現実へと引き戻された。
 彼は境界案内人であると同時に、異世界にあるこの店――Cafe&Bar『Intersection(インターセクション)』の店主でもある。

「嗚呼、集まってくれてたのか。いやぁどうもね、蒼矢と別々の身体になってから体内時計が狂いっぱなしで……って、世間話をするために集めたんじゃあなかったな。
 この店にお前さん達を呼んだのは他でもない。実は最近、この街で――」

 赤斗がたっぷりと間を取ったところで、店の入り口から鋭い女の声が上がる。

「放火魔事件が起こっているんだ。特異運命座標、君達にはこれから、犯人の確保に動いてもらうよ」

 全員が唖然とする中、赤斗だけが苦い顔をする。

「ちょっと待て、神郷 黄沙羅(しんごう きさら)! ここに特異運命座標を呼んだのは俺だ。俺の依頼だ!」
「事件の元凶は僕が追いかけ続けている魔術師グリムの仕業だ。君こそ横取りはやめて欲しいな」

 バチバチと火花を散らし、いがみ合う二人の境界案内人。
 さてさて、犯人をどちらに引き渡してみるべきか……。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 寒いのでちょっと放火事件を起こしてみました。

◆目標
 アンネとフリッツを捕え、赤斗か黄沙羅に引き渡す。

◆場所
 異世界にあるCafe&Bar『Intersection(インターセクション)』が今回の拠点となります。
 外は西洋風の街並み。幻惑のように普段は賑やかですが、放火騒ぎで活気が薄れつつあります。
 今回の時間帯は夜ですが、街にはある程度街灯があるため視界はそこまで悪くならないでしょう。

◆登場人物
『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
 この異世界に貴方を招き入れた境界案内人。Cafe&Bar『Intersection』の店主であり、バーテンダーでもあります。
 仕事に対して誠実であるため、新入りにも関わらず無遠慮に仕事を横取りしようとする黄沙羅をあまり快く思っていません。

『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)
 謎多き女性の境界案内人。男装の麗人で、白い中折れ帽と白いジャケットがトレードマーク。
 ポーカーフェイスの奥底には何か秘めた思いがあるようで、何故か赤斗を苦手としているようです。
 仕事の傍ら、魔術師グリムという人物を探し、異世界を渡り歩いているようです。

魔道師グリム
 この世界の異変の元凶となった魔導師。消息不明で今もどこかに身を潜めているようです。

◆エネミー
 異説『マッチ売りの少女』アンネ
  死神に憑かれたことで、炎の魔術の力に目覚めた少女。あちこちにマッチで放火しているようです。
  1本のマッチを媒介に火球を現し遠距離攻撃を行います。
  また、見る者の幸福を映し出す幻惑の炎も操るようです。

 『死神』フリッツ
  アンネの死期を悟り、かわいそうに思ってしまった死神の少年。
  彼女が命尽きるまでに少しでも幸せである事を願っています。
  大鎌を使って立ち回り、近距離から中距離への攻撃を得意としています。

◆備考
 アンネとフリッツの捕まえ方や生死は特異運命座標にゆだねられています。
 また、今回は引き渡し先が赤斗と黄沙羅ふたつあるため、どちらに引き渡すか、などは相談で決めておくとスムーズかもしれません。

 説明は以上となります。それでは、よい旅路を!

  • マッチ売りは幸福の火をま【だいだい】ている完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月08日 22時00分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う

リプレイ


『ハートキャッチ』澄恋(p3p009412)は愛ある物事には寛容な方だ。しかし今回ばかりは放火現場を目にして、眉をひそめずにはいられない。
 逃げ惑う人々の流れに逆行して訪れた場所は、阿鼻叫喚の地獄だった。
「可哀想は可愛いという言葉もあるように、そのときめきが愛の着火剤になることもありますが……マジの着火剤になっているではないですか」
「別に放っておいてもいいんじゃないか? ほら、一部の界隈ではこれから毎日家を焼こうだとか何とか言ったりするらしいし」
 欠伸を噛み殺しながら気だるげにのたまう『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)へ仲間たちの視線が集まり、彼は冗談だよと肩を竦めたがーー不思議と責められる事はない。何故なら場にいる全員、世界と仕事を共にした経験があるからだ。軽口を言えど、彼は人を助けるにあたり誠実である。
「何にしても、色々と手遅れだね」
 白夜 希(p3p009099)の評価は妥当である。放火騒ぎの足がつけば、マッチ売りもその家族もただでは済まない。
「うちの領地で引き取れたらいいんだけど……」
 希が統治する海辺地帯は、行き場なく帰る場所のない魂が寄り合う場所だ。まさに今回のターゲットを保護するには持って来いの場所ではあるが、境界図書館を隔てた無辜なる混沌と遠い異世界。橋渡しにはいくつか手間がありそうで。
「まずは依頼人に委ねるのが妥当かな」
「依頼人といえば、説明中にいきなり乱入があってビックリしたよね」
『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は特異運命座標の中でもなかなかのベテランだ。境界図書館を介して色々な異世界を渡り歩いてきた彼ですら、今回の様に現地で境界案内人がターゲットを奪い合うケースは初めてだった。
「バチバチやり合うのは僕達が来る前か出立した後にして欲しいよ。
 まぁ、僕達の仕事は変わらないんだけど!」
 これ以上、面倒事に巻き込まれないためにも早く終わらせよう。マッチ売りの少女が抱く幸福は、既に朽ちた幻だから。


 煙がひどく、誰もが寄り付かない場所に2人はいた。燃え盛る建物を前にしても恐れず、死への恐怖が麻痺してしまった少年少女。
「フラッツ、何か見えた?」
「うん」
「ねぇ、見えたのはどんな幻?」
「それは……」
 フラッツと呼ばれた死神の少年は言い淀み視線を虚空へ逸らしたが、すぐ何かに気づいた様子で鎌を構える。彼が睨みつける先には幻想的な精霊の姿があった。舞い上がる火の粉に混じり飛び回る様は、ただ踊っている様にも見えるがーーその舞は、召喚者である世界に2人の居場所を知らせる物だ。
「見つけたぞ。厄介な場所にいやがって!」
「死神は独りでいるべきなの。中途半端に手を差し出すくらいならやめといたほうがいい……こうなるから」
「――ッ!」
 バシッ!! と弾く音が響いた。希がよんだ死神の魔手は大きく目の前を薙ぎ払い、フラッツを鎌ごと弾き飛ばしたのだ。
「フラッツ!」
 手を伸ばそうとしたアンネの前へ世界とカインが立ちはだかる。退いて、と彼女が避けぼうとした瞬間――燃えていた建物が倒壊し、目の前の道を瓦礫が塞いだ。
「死神でもあんなのに降られたら、たまったものじゃないだろ。希に感謝するんだな。さて……」
「君のナイトは離れた訳だけど、諦めて大人しくしてくれそうな感じじゃ無さそうだね」
 大の男2人と対峙しても、少女の瞳は未だ強い意思に燃えている。マッチを取り出し擦りはじめた彼女に対抗すべく、世界もまた力を奮った。
「カイン、支援は任せろ。他は頼んだ」
「分かった。じゃあ少しの間、彼女を引き付けて」
「えっ?」
 ミリアドハーモニクスで賦活の力をカインに与え、盾になって貰える――と軽い心構えだった世界は、虚を突かれ目を見開いた。彼に生まれた隙に漬け込もうと、力を解放するアンネ。燃え上がる炎に幻惑が滲み、世界の前に現れた幸福は極彩色。可愛らしい彩のお菓子達だ。
「うん。いや、嫌いじゃないけどな? わざわざ幻で出されても今持ってるし」
 本当はもっと放火魔の捜索に時間がかかる見込みだったので、いつもより沢山持ってきた。ポケットから飴を取り出しひと口頬張り、舌の上でころころ転がす。
「なっ……貴方達、幸福を見ても心が揺れ動かないの!?」
「動かされはするさ」
 すぐ後ろからカインの声が降り、アンネの背筋が凍る。
 マッチの炎は遠くを燃やすが、間近で使えば己の身にまで燃え移る破滅の炎と化すだろう。
 そこから守り抜いてくれる大切なナイトは此処に居ない。
「いつの間に……!」
「気配遮断で近づいたからね。僕が見た幻は本当に凄かった」
 誰も踏破した事のないダンジョンに絶海の孤島。大空に浮かぶ天空城――。カインの目に映った幻は胸躍る冒険の舞台たち。いつかそこへ向かうために、今は目の前の事件を片付けなければ。
「素敵なものを見せてくれてありがとう。だけど、やった事がやった事だ」
……少しは痛い目を見て貰わないと。
「――ッ!!」
 カインの手元に神聖の光が宿る。それは火災の火さえも霞むほどに激しく輝き――少女の身体を鋭く貫いた。
「幸せを見せる炎、使い道が少し違えば未来は大きく違ったかもしれないけどね……」


「貴方も死神なら、死は等しく皆に訪れることを知っているでしょう?」
 与えられた役目を果たすどころか、私利私欲で少女に声をかけ、力を与えるなど言語道断!
 それは死神自身も自覚していたようで、澄恋の問いに言葉を詰まらせた。
「僕は……好きで死神に生まれた訳じゃない」
 希は彼の叫びに成程と思考を巡らせる。要はこの死神、己の仕事にうんざりしているのだ。
「この手の輩は矯正教育(物理)しかありません」
「待っ――」
「捻じ曲がったその精神、一発ぶち込み正してさしあげます!」
 澄恋が振り下ろした鎚は鈍重で、クラッシュホーンを受け止める度に手がしびれる。このままではガードごと持っていかれるぞと少年は歯を噛みしめた。受けきるのが難しいならと、攻撃に転じ打ち合いへともつれ込む。
「何で放っておいてくれないんだ! 僕はただ、彼女の――」
「彼女の幸せが、貴方の幸せになるということですね?」
 死神の動きが止まる。図星を突かれて怯んだ隙に、澄恋は競り合いから抜けるように一歩前へと踏み込んで強烈な足蹴りを放った。突然の蹴戦をもろに喰らい、身体をくの字に曲げて吹き飛ぶ死神。
「――ッ、ぐ!」
 業火の中に覗いた幻は――微笑むアンネと並ぶフリッツ。人間にはごくごく当たり前の光景で、死神にはあまりにも遠い幸福だ。それでも未だ彼は幸福を抱いている。抱き続けて苦しんでいる。
「貴方はその気持ちを、ちゃんと彼女に伝えましたか?
 もしも幻の意味を見出せず、戸惑いから彼女に伝えていないのならば――想いは言葉にしないと伝わりませんよ」
 先輩からのあどばいすです、とふわり微笑む澄恋。諦めきれず死神は震える膝で立ち上がる。
「口にしたって迷惑なだけだ。僕は死神失格だし、人と歩むにも犠牲が――」
「誰も死んでないんでしょう?」
 希の推理は正しい。死神の務めを投げだした彼は、不慮の事故に巻き込まれる人間にすら心を痛めていたのだ。
「マッチ売りが自身の死期も顧みず、自分の幸せを願ってくれたことが嬉しかったんでしょう。
 なら貴方がちゃんとお返ししてあげないといけないよ」
「で、でも。なんて言ったらいいか……」
「ん? ん-……『君がとても嬉しそうに笑っている姿が見えた。ありがとう』……とか?」
 アンネは貧困に喘ぎ、死の縁へ立った。金銭は大事だが、金だけで人は生きていけない。

 思い出のマッチに幸福を託したように、最期に求めるのは人の心だ。コインも紙幣も冷たいのだから。

「ただ、澄恋の言う通り……死神として、貴方は失格。私の知ってる死神は殺すことしかできない。声なんてかけやしない」
 だからお仕置きはしっかり受けなきゃ。希が呼び寄せた死神の魔手を前にして、フリッツは――最早、抵抗をせず受け入れた。


「お疲れさん。随分と大変な場所で戦ったみたいだな」
 煤だらけの特異運命座標を見回し、赤斗は労いの言葉をかける。アンネとフリッツはいずれも死する事はなく、希の事後処理によって健常な状態で引き渡された。
「さて、よくやく帰れそうだ」
「この後どうなるか聞かないのか?」
 早くも踵を返そうとしたカインへ赤斗が問うと、彼は「そうだな」と顎に手を当て思考する。
「気にならないとは言わないけど……どんな未来を引き寄せるかは、二人次第だろうからね」
 正式に4人へ依頼を行い、アフターケアまで気に掛けるような男に引き取られたのだ。悪くはされないだろうという彼ら彼女らの読みは正しく、死神とマッチ売りの少女はその後、赤斗の指導の元、罪を償いこの世界の片隅で共に生きていく事になる。

 これでお話は一件落着――のように思えたが、まだ話の続きがある。

「澄恋、希。異世界で不思議なコスメの店を見つけたんだ。今度一緒に行かないか?
 カイン、世界。君達また一緒なのか。……え? たまたま依頼がブッキングしただけ?」

 4人が満場一致でターゲットを赤斗に引き渡した事で、黄沙羅は焦りを禁じえなかった。
「僕にはマッチ売りの少女が必要なのに、どうして!」
「当たり前だ。お前さんの方は非正規の依頼だし、何より信用がないだろ。まぁ俺を介して情報の橋渡しはしてやるから、アンネに聞きたい事は書面で――」
 赤斗のフォローも耳に入らず、黄沙羅の心に芽生えたのは怒りでも恨みでもなく、大きな嫉妬である。
(どの境界案内人よりも、僕が一番、君達の事を求めてるのに……それを証明しようじゃないか!)

「ありゃ当分、付きまとわれそうだな」
「そうは仰いますが世界様、貰った飴をちゃっかり戴いてますのね」
 澄恋に指摘され、肩を竦める世界。
 彼らの日常はまだまだ騒がしさが続きそうだ。

成否

成功

状態異常

なし

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