シナリオ詳細
夜光草を探して
オープニング
●少年の願い
「ああ、どうしよう。夜光草が全然足りない」
大切な家族である姉の誕生日パーティ。部屋を彩るはずだった夜光草。
予想よりも大量に必要になってしまい、明らかに数が足りなかった。
この誕生日パーティは、姉の誕生日を祝う為だけではない。姉は今度結婚するのだ。だから、姉を喜ばせたくて、妹や弟たちも巻き込んで企画した。
姉は優しいから、「そんな事気にしなくて良いのよ」と言ってくれるだろう。けれど、姉の満面の笑みがどうしても見たい。
「おにいちゃん、どうするの?」
幼い妹が少年の袖を引っ張った。うるうると潤む瞳が、困った様に少年を見つめる。
弟も妹も、少年の提案に喜んで賛成してくれたのだ。
(こいつらの期待も裏切れない・・・・・・!)
いつもなら自分で採取に向うけれど、それが出来ない理由があった。
この時期の夜には、夜光草を採取するのを邪魔する狼が出るのだ。
少年は、なけなしの小遣いを貯めた貯金箱を手に、依頼を受けてくれる人を求めて街に赴くのだった。
●特異運命座標の初依頼
「集まってくれてありがとうなのです」
夕刻。ローレットに、少人数の特異運命座標(イレギュラーズ)が集められていた。
情報屋ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がにっこりと微笑みながら、一つの羊皮紙をテーブルに広げる。
お世辞にも美しいとは言いがたい、やや拙い文字はおそらく子供の物だろう。
-夜光草の採取をお願いします-そう書かれていた。
「幻想には、色々なファンタジックなアイテムがあります。夜光草もそのひとつなのです!」
夜光草は、所謂松明の様な役目を持つ植物だ。松明の様に火を扱わない事から、幼い子供でも安心して使えるため、そこそこ需要が高く、またイベントの飾り付けやアクセサリーなどにも使われることがある。
「依頼主は本当は自分で取りに行きたいみたいなのですが、実は今この時期に夜光草がある場所が厄介なのです。昼間の時間はそんなに危なくはないのですが、夕刻を過ぎると、その一帯を根城にしている狼が集まってくるのです」
野生の狼に襲われれば、年端もいかない子供が敵うわけがない。
「狼の数は不明なのですが、ただ以前の目撃情報から推測するに、そんなに数が居るわけではないようなので、皆さんなら何とか出来ると思うのです! あと、あくまで今回は夜光草の収集が目的なので、狼たちを退治する必要はないです。狼の気性は荒いですが、皆さんの力をある程度見せれば、充分です!」
むしろ、狼たち全員との戦闘は避けるべきです、とユーリカは付け足した。
特異運命座標(イレギュラーズ)たちがいかに優秀でも、多勢に無勢な展開は好ましくない。一匹が弱くても、徒党を組めば話は変わってくるのだから。
「夜光草は、花が咲いた状態で採取する必要がありますので、到着時間は夜となります。夜道は月が照らしてはいますが、明りは必要だと思います」
今から向えば、時刻的にはちょうど良さそうだ。
「皆さんの初めての依頼が、無事に成功するように祈っているのです!」
――少年の割れた貯金箱が、テーブルに置かれていた。
- 夜光草を探して完了
- GM名ましゅまろさん
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月18日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●黄昏の時間帯
夕刻。日が沈みきる少し前に、8人は目的地に出発していた。
さして険しい道ではないものの、夜光草の生息地は比較的奥の方にあるので、多少の障害物は存在している。
生い茂る草木を鬱陶しそうに払いのけながら、先頭の『来世もルシファー』n n(p3p003213)が口を開いた。
「自然は嫌いではないのじゃが、やはりこうも生い茂ると厄介じゃの」
自然会話を用いて、狼の気配を探る。草木は優しく教えてくれる、奥の方に気配を感じるよ、と。どうやら夜光草の生えている近くに数匹いるらしい。ただ、どんな風に集まっているかまでは分からなかった。
少し歩いた頃、日がゆっくりと沈み、辺りに暗闇が訪れたのを確認すると、『あかいきつね』雪原 香奈美(p3p004231)が松明に火を灯す。
「なんとしても夜光草を届けてあげたいっす!」
「男の子の為になんとかしないとねー」
アトリ・メンダシウム・ケラスス(p3p001096)、『贄神』オズウェル・ル・ルー(p3p001119)もそれに呼応する様にランタンの明りを灯した。
「土の匂いの香水を事前に作成した。つけると良いだろう」
事前に有効なアイテムを『野良犬』ヘレンローザ(p3p002372)は作成していた。メンバーの何人かは、草などの香りをあえて身に纏っているが、香水までは作っていなかった。何人かは自身で効果がありそうな香水は手に入れて居た様子だが、あえて作成した香水であれば、そちらの方が良いのかもしれないと、ヘレンローザの香水を受け取った。
「ちなみにあたしも色々と調達済みです」
ピースを香奈美がする。
「コネクション」「地元のダチコー」を利用して罠や匂消し調達のサポートをしていたのだ。
「異世界転生召喚モノで大切なのは人脈っす! 頼りになる味方を作っておけばこんな時にも役にたつものっすよ! この世界に来てから毎日元気に挨拶、頼み事を聞いたり悩みを聞いたりを地道に続けてきた成果っす! 現役JKのコネクション形成能力をなめんなって感じっすね!」
JKとはなんぞや?と面々は不思議そうな顔をする面々だったが、香奈美は気にした様子はない。
「体臭は草や泥でごまかせるものなのかな」
オズウェルが率直な疑問を口にすると、ヘレンローザが頷いた。
「やらないよりは有効だと思うぞ、まぁ気休めかもしれないがな」
「私のふろーらるな香りが消えるとは思えないですけど……!」
隊列の真ん中に陣取った『永遠の17歳』四矢・らむね(p3p000399)が明るく言うのを、『Shark Maid』Remora=Lockhart(p3p001395)が微笑ましく見守る。
日が完全に落ちた頃合い、8人は夜光草の生息地にたどり着いた。
●暗闇の夜光草
その光景は幻想的だった。まだ完全には咲いてはいないが、真っ暗な暗闇をふわりと照らす明るい光が地面に広がりつつある。
「これが夜光草、か」
明りを絞りながら、感心した様子で石動 グヴァラ 凱(p3p001051) が呟く。ウォーカーにとっては珍しい物に分類されるのだから、当然だろう。
「俺は警戒に専念する」
「分かった。俺は罠を設置する」
「僕も手伝うよ。罠スキルはないけど、冒険は持ってるからね」
「ああ、頼もしいよ。ありがとう」
アトリの言葉に、ヘレンローザが、忌避剤を群生地周辺の一方向を除いて罠設置で撒きながら言う。
更に、虎鋏をわかりづらいように軽く地面を掘って設置し、くくり罠を足跡の大きさから強固になるように絞った。
「ドキドキしてきたねー」
「そうですね。でも、十分採取できたら即帰りましょう!狼さん達にも生活はあるでしょうし、いたずらに傷つけたくはないですから」
「我とて無益な殺生はしたくないからの、さっさと逃げてくれるといいんじゃが
双方、互いに無駄な怪我は避けたいものじゃな」
らむねの言葉にn nが同意する様に呟いた。
悪戯に命を奪うのは良しとしない。だが、必要があれば、狼たちを追い払う必要はある。
願うならば、狼たちが気付かずにいてくれれば、と思うのは優しい彼女たちらしい話だ。
「夜光草が早く満開になってくれるといいんすけどね」
香奈美が、周囲を見渡した。
辺りは完全に真っ暗だ。仄かに光り始めていた夜光草も、徐々に開花を始めて行く。
各々の持っていた松明やランタンの明りよりも、周囲が明るくなったのを確認した8人は自身の明りを消した。
●満開の花の中で
真っ白に輝く光が、ゆっくりと草木に広がっていく。
暗闇で閉ざされていた空間は、光り輝く宝石のようにキラキラと輝いた。
「これが、夜光草」
「俺も初めて見る」
オズウェルと凱が感心したように零す。
「オズウェルと凱は見たことがなかったか。そういえば、ウォーカーだったな二人とも」
「だとすると、らむねや香奈美も初めてなのじゃろうな」
ヘレンローザとn nが二人を見ると、二人が頷いた。
「知識としては知っていましたが、見たのは初めてです」
「同じくっす!」
ウォーカーにとっては、新しい事ばかりなのだろう。思わずその光景に目を奪われるが、Remoraが口を挟んだ。
「盛り上がるのはよろしいですが、狼たちが来る前に夜光草を採集しませんか?」
「む。確かにそうじゃな。まだ狼たちは襲ってきてはいないようじゃし」
持参した布で潰さぬよう優しく包みながら、夜光草を蒐集する。持って来た入れ物に、詰め込めるだけ詰め込む。使用するものより、多めに集めているのは、またいずれ使うときが来る可能性があるために備えてか。
鞄の部分が外からでも煌々と輝いている。
このまま平和に終わる、そう一息をつこうとしたその時。
ガサリ、と草木が音をたてた。
●野生の獣
――グルルル
低いうなり声が、微かに聞こえた。
僅かに香るのは血の匂いだ。
敏感にも察知した 凱がナックルをきつく握りしめた。
「狼だ……っ」
夜光草はあらかた集め終わっていた。だが、やはり狼は野生の獣。匂い消しなどを充分していても、野生の勘が働いたのだろう。
黒い影が一匹、茂みから飛び出すと、手近にいたアトリへ襲いかかる。
素早く剣を構えたアトリは、狼の一撃を受け止める。
僅かに体勢を崩した物の、やはり狼は狼。それほど戦闘能力は高いわけでは無いようだ。その辺りの魔物と比べれば、一撃も軽い。
「援護します!」
らむねが美しい歌声を奏でる。力強くも美しい旋律は周囲へと広がり、味方の8人全員に力が漲った。
n nが魔力を放出するために意識を集中させる間に、香奈美が前衛に躍り出る。
「かっこよく闘うのはちょっとまだ無理っすからみんなの盾になるっす!」
「充分カッコイイと思いますよ」
Remoraに褒められて、香奈美が満更でも無さそうににかっと笑った。
だが、狼たちは一匹だけではなかった。
気配が、1つ、2つ、と増えていくのを、ヘレンローザは感じていた。
「ふむ。準備は万全だった筈じゃが、やはりそう上手くはいかぬか」
狼たちが気付いたのは、おそらく野生の勘だったのだろう。準備は問題は無かった。ただ、野生というのはいつもとんでもない力を持つこともあるのだ。
2匹目の狼が、ヘレンローザへと襲いかかった。ナイフを構えながら、左足で狼を蹴りあげると、狼がキャインと鳴いた。
「悪いが、向ってくるなら容赦はできねぇよ」
鋭い眼差しが狼へと向けられる。
気付けば、狼の数は5匹になっていた。
「早めに倒さねば、残りの狼たちも出てくるだろう」
木々が震える様な咆哮で威嚇した凱に狼も負けじと威嚇の咆哮を上げると同時、後衛を囲むように、ヘレンローザ、香奈美が陣取る。
後衛側、オズウェルがミスティックロアで魔力を高める。
アトリがマークによって狼の気を引きつけると同時。n nの魔力放出による最大火力の一撃が、一体の狼を襲う。
それに続けるよう、オズウェルのマジックロープが一匹を拘束する。
すかさずヘレンローザが狼を切りつけると、狼が高く鳴いて後ろへと下がり始める。
――グゥウウ!
警戒の色はまだ消えては居ない。
だが、明らかに狼たちは怯んでいた。本来ならば15匹ほどの狼たちが居るはずだ。
狼たちも、こちら側が少数だと踏んだからなのか、仲間を意図的に呼ばなかったのが幸運だった。一匹が弱くても、数が居るのは鬱陶しい事この上ないからだ。
戦況は明らかにイレギュラーズの優勢だった。
「これ以上無益な殺生は好まぬ。下がってくれぬかのぅ」
n nが穏やかに狼に語りかける。しかし、攻撃の手を緩める事は無い。どのような敵であっても、一緒に戦っている仲間を窮地には立たせられない。もし、ここで手を抜くようであれば、それは優しさではないのだから。
同じく穏健派な意見のらむねも、それをしっかりと理解している。
援護に向いているらむねにとっては、直接的に今回攻撃する作戦を取らなかったが、それは決して彼女が微力で在るわけではない。
多数との戦闘に置いて、味方を援護する存在、それは必須なのだから。
凱のナックルで殴打された狼が一匹、その鼓動を止める。
「まずは一匹っすね!」
一匹が倒れ、そして2匹目が倒れる。
甚大なる被害。それは狼たちの撤退の合図になるはずだった。
しかし、狼たちにも意地はあったのだろう。
勇敢にも、残った狼は再び8人を襲い、そしてその命を散らしたのだった。
●
「狼たちにも戦う理由はあったのだろうな」
引かなかった狼たち。傷つけられれば撤退する。そう聞いてはいたが、やはり野生の獣。彼らにしか分からぬ戦いがあったのだろう。
(元より消える筈だった命、今更何所で捨て様と)
そう思っていた凱にとっては、殆ど無傷に近い現状は意外ではあったが。
だが、きっと彼の傷つく戦場は此処ではなく、もっと苛烈な所にあるのだろう。
8人は、ゆっくりと辺りを見渡す。
一面に広がる真っ白な光の絨毯を。
「狼の仲間がやってくるかもしれないからな。そろそろ撤退しよう」
「夜光草は、このぐらいでなんとかなったかなー?でも今度はこの夜景を見に来たいね」
「そうじゃのう。狼が出ない時に来たいものじゃ」
「同感っす!」
女性陣営は、やはり煌びやかな物やロマンチックな物が好きらしい。
「ああ、そうだ。私から提案があるのですが……」
Remoraが控えめに手を挙げる。
「折角ですから、この8人でバースデーカードを少年の姉君に贈りませんか?これも折角の縁ですし」
「あ、それ良いですね!」
らむねが賛成、とばかりに明るく笑った。
男性陣営は、お互いの顔を見て肩をすくめた。
「ああ、だが折角なのだ。それくらいはやってもいいな」
「まぁ、良いんじゃないか?」
「ふふ、自分も構いませんよ」
「では! 帰ろうかのう」
満面の花畑から、今8人のイレギュラーズが帰還となった。
――たくさんの夜光草と共に
●ギルドローレットにて
依頼が終わった翌日のこと。昼下がりのローレットに依頼人の少年が、8人のイレギュラーズと対面していた。
幼さの残る顔立ちの少年は、深々と頭を垂れる。
「本当にありがとうございました。これで姉のお祝いができます」
心の底から嬉しそうに、少年は笑った。
手には例の割れた貯金箱の中身なのだろう。お金の入った袋があった。
「これ、少ないですけど依頼の……」
「俺は依頼料はいらん。その金は姉君へのプレゼントに使うと良い」
照れた様に、視線を逸らしながら凱が言う。
「依頼人の喜ぶ顔が見たかっただけっすから!」
「この居心地のいい世界にこれが喚び出された、対価になると思うから」
「でも今度はあの夜景を見に行きたいねー」
皆それぞれの想いがあるのだろう。
「願い事には相応の対価を要すると。幼き身にしてそれを解しているのは将来が有望と言えます。初回サービスとして言い値でお受けいたしましょうと思っていましたが……」
ちらりとRemoraが視線を少年に送る。彼女もまた、お金を受け取る気はあまりない様子に見えた。
「報酬は、欲しい……欲しいですけど子供からお金を貰うなんてできません!アイドルは夢を与えるモノなんです、私から結婚祝いという事でとっておいてください!代わりと言ってはなんですが、私、カフェを経営してるので、そちらに家族みんなで来てください!精一杯おもてなししますよ!」
「我もいらぬよ。姉君のために使ってやるのじゃ」
n nも少年の肩を軽く叩きながら快活に言った。らむねに至っては依頼を受けた段階で、最初からお金を貰う気は無かったのだろう。
「仕方ないな、皆がそう言うならば、俺だけという訳にはいかないな」
照れ隠しなのだろう。あさっての方向を見ながら、仕方なさそうにヘレンローザが肩をすくめる。
8人の言葉に、少年が少し戸惑いながらも、けれど嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「あたしからはおまけっす」
夫婦円満の「おまじない」を香奈美が教えると、少年は真剣にメモに取っている。
「では、これを」
Remoraが採集した夜光草を少年に渡す。こっそりと8人全員がサインしたバースデーカードが中には入っている。
「あと、こいつも持っていきな。一月くらいは通用すんだろ」
ヘレンローザが余った忌避剤を少年へと渡す。今後役に立つ筈だ。
「本当にありがとう!皆さん」
満面の少年の笑み、それが一番の依頼料なのかもしれない。
●兄妹からの手紙
――ありがとう、お兄ちゃん、お姉さん。皆さんのおかげです。
そこには兄妹たちのつたない文字で書かれた手紙と、夜光草で作ったブレスレットが添えられていた。
余談だが、この話を聞いたどこぞの貴族のじいさまが美談として、8人の参加者に依頼料を払ってくれたのは、また別の話だ。
幻想貴族も捨てた物ではないのかもしれない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
初めての依頼の方もいらっしゃると思いますが、お楽しみ頂けましたでしょうか?
また、参加頂けますと嬉しいです。
本当にありがとうございました。
GMコメント
皆さん、こんにちは。初依頼どきどきですね。
皆さんの素敵な物語を紡げる事を光栄に思います。
●補足
一生懸命貯めたお小遣いを握りしめて依頼人たる少年がやってきたようです。
テーブルの上には少年からの拙い手紙と割れた貯金箱が置いてあるのが見えます。
●目的
夜光草の採取
狼の討伐は依頼には含まれません。
●敵情報
野生の狼×15
フィジカル、テクニックが高めですが、メンタルは低いです。
狼は特殊な能力はありませんが、素早く、全員を真正面から相手にするのは難しいです。
ある程度のダメージを追うと、狼は逃げ出します。
また、家族思いのため、仲間が深く傷つくと撤退を検討するようです。
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