シナリオ詳細
僕たちの手でギルオスくんを復活させる
オープニング
●ぼくたちはギルオスくんがだいすき
思い返せば、散々な目にあった。
新規依頼の実地調査に向かっていたのだが、依頼者より受けていた話に明確な差異があり、危うく死にかけたのだ。命からがら逃げ出して、改めて依頼主に問いただしてみたのだが、悪びれもせず、誤魔化すばかりで明確な情報は得られないと来たものだ。
大方、報酬を安く済ませたいだとか、そういう思惑だろうが、何にせよ、悪意のある依頼を低けることは出来ない。情報屋がいるのは、こういったトラブル回避の目的もあるのだから。
ギルドの洗面所で顔を洗い、くまの目立つ顔を鏡に映した。何日もろくに眠れなかったせいだが、ようやく一段落つきそうだ。
首と肩を回してコリを解す。頭を乱暴に掻いて、ひとつ大きなため息を漏らした。
「…………コート、どうしよう」
愛用していたグリーンのコート。今回の騒動であちこちに穴が空き、見るも無残な姿になってしまった。長年使用していただけに愛着もあるのだが、ここまでくれば修繕よりも新調したほうが良いのではと、悩むくらいにはぼろぼろになってしまっている。
くたびれ損。そんな言葉が浮かんで、もう一度ため息を付いた。その時だ。
「ギルオスくん、ギルオスくん!!」
執務室の方で、何やら叫び声が聞こえてきた。
聞き間違えようもない、あれは同僚の声だ。緊急事態、の可能性は極めて低い。あのトラブルメイカーのことだ。またろくでもない話を持ちかけてくるに違いない。
それでも万一ということがある。流石にあれほど悲痛な叫びを聞かされては、無視を決め込むつもりには到底なれなかった。
家を決して、執務室へ。扉を開けると、彼女はまだ叫んでいた。ぼろぼろになった自分のコートに向かって。
「ギルオスくん!! 嗚呼、どうしてこんなことに!! しっかり、傷は、傷は浅いッスよ!!」
何言ってんだこいつ。
「何言ってんだこいつ」
いけない。思ったことをそのまま口にしてしまった。クールだ、クールにいこう。情報屋は常にクールでいなければ。
ひとまず、状況を整理しようじゃないか。同僚はぼろぼろになった自分のコートにすがりついて泣いている。ずっと、「きっと助かるッスよ!」とか「誰が、誰がこんなことを!」とか言っている。
思うにだ。
「こいつ、僕をコートで判断してたのか?」
いや、そんなはずはないだろう。別に四六時中着用しているわけではない。室内では流石にハンガーラックにかけているものだ。
「あの、青雀……?」
「ちょっと黙っててくださいッスギルオスくん!! いま、いま、ギルオスくんが大変なんッスよ!!」
…………どういうこと?
「必ず生き返らせてあげるッス!! みんな力を借りてでも!!」
意を決した表情で立ち上がると、青雀は執務室を走り出ていった。
遠くで依頼募集をかける声がする。
「緊急! 緊急の依頼ッス!! ギルオスくんを、ギルオスくんを助けて!!!」
…………どういうこと?
- 僕たちの手でギルオスくんを復活させる完了
- GM名yakigote
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年01月27日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ぼくたちはきっとギルオスくんがだいすき
仲間たちとの記憶は、今でも昨日のことのように思い出せる。不明点の多い依頼を調査し、確実な情報を持ち帰ったこと。強大な敵に対し、共に闘ったこと。ハメを外して馬鹿をやり、腹の底から笑ったこと。次の日に影響するぐらい、度を超えて酒を飲み明かしたこと。それらの記憶こそがこの世界で行き続ける上での宝であり、動力源だった。そのためなら、穴が空いたって、裾が破れたって辛くはなかった。
なんとも、無残な姿だった。
あちこちに穴が空き、どこを見てもぼろぼろで、無事と言える箇所なんてひとつもない。
専門家に見せても、首を横に振るだろうと。それは素人目にも明らかだ。
しかし、諦めることは出来なかった。彼は我々の大事な仲間なのだ。その生命を、誰が諦めても、ローレットは諦めることはないのである。
さあ、ギルオスくん(コート)を復活させよう。
「裏方のお仕事というものは、概して苦労多くして目立たぬものと申しますが、今回は特に大変だったと聞いております。本当に、ご苦労おかけしております」
『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)の目線は一応、そっちの方に向いていた。
「直接の原因になった調査の依頼主の方にはいずれきっちり対応させて頂くとして、コートのほうも随分健闘なさっていたようで……皆様も気にかけておられますよ」
それは複雑そうな顔をしていたとか。
「ギ、ギルオスゥゥゥ!!!! 貴様が浅い致命傷を負ったと聞いて駆け付けたのだが……くっ、これ程とは」
『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)が動くことのないコートを抱きしめて慟哭していた。傷は浅いぞ手遅れだ。
「貴様ほどの男がここまで……正直半信半疑だったが、目の前に現実を突きつけられては認めざるを得ぬ。いや、とにかく今は貴様の修ふk―――治療が先だな。もういい、動くな、喋るな……後は、我々に任せよ!!」
「おお、ギルオス殿……なんて無惨な姿に!」
『血道は決意とありて』咲々宮 幻介(p3p001387)は、コートを抱きしめつつもちらっとそっちの方を見た。すげえ嫌そうな顔をしているのを確認すると、コートに向き直る。
「情報を得る為に、その身を傷だらけにしてまで情報を集める姿。拙者、感服致したで御座る。今、拙者達が―――より強く、凄まじく、格好良く、可愛らしいギルオス殿として復活させてやるで御座るからな。覚悟しておくで御座るぞ!」
「えっと……青雀さん、これがギルオスさんなの?」
『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)は衝撃の事実に戸惑いを隠せないようだ。
(もしかして、あたしが分かってなかっただけで、このコートがギルオスさんだったのかも。人間の方だと思ってたよ……じゃあ、人間の方はホリスさんなのかな。なるほど、コンビの情報屋さんだったんだね……!)
ホリスさんが頭を抱えているけれど、きっとギルオスさんが怪我をしているせいだろう。
「ギルオスが大変になってんのなー? くまさんも手伝うのぜー」
『もりのくまさん』カナメ・ベアバレー(p3p005191)は穴だらけになったギルオスくんを手に取ると、悲しげに首を振った。確かに、ここまで傷んでしまっては破棄するしか無いだろう。しかしコートというものは高い。それも、修羅場をくぐり抜けられるような強固なものとなればなおさらだ。
「くまさん、お裁縫もそこそこ出来るのぜー。破けたところをくまさんが紡いだ糸でチクチク縫うんだぜー」
「フフフ……このトラブルを利用して、ギルオスさんには私の店の『歩く広告塔』になってもらおう」
『Stella Cadente』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は自身の店の名前が入ったワッペンを取り出した。ようはアスリートがユニフォームにつけているロゴのようなものである。それをつけて活躍するだけで、宣伝になるというのだ。
「もちろんスポンサー料は払うさ」
取り出した紙束を揺らしながら。
『泡沫の夢』ラグリ=アイビー(p3p009319)(よみ:らぐりー=あいびー)はコートを持ち上げて考える。確かにこのコートは痛み方が限界点を超えているように思える。ただ穴を補修し、取り繕うだけでは、またすぐに穴だらけに戻ってしまうだろう。だからみんな、思い思いの補修材を持ち寄っているわけで。
「う~~~ん、この際色々ついてる方がお得ですね!」
リボンやレースを取り出して言う。きっとかわいいものになるだろう。
「あちらが……ギルオス様」
アヴニール・ベニ・アルシュ(p3p009417)の言葉に、向こうの方でそのとおりだと頷いている人がいる。
「こちらが……ギルオスくん様」
向こうの方で違うよ違うからねと首を振っている人がいる。
「どちらも、大事……本体は、どちら?」
こっち、こっちって主張している人がいるが、しかしみんなの視線はギルオスくん様に向けられている。ということは、いま大事なのは少なくともこっちなのだろう。
●ぼくたちはたぶんギルオスくんがだいすき
こんな仕事をしていて、いつも無傷でいられるなんて思っちゃいない。大怪我をして、いつかどこかの、誰も知らぬ場所で息絶えたっておかしくはない。だから今回のことは、まだ幸せな方だって言えるのだろう。穴だらけになって、動くことも叶わないけれど、みんなのもとに帰ってこれたのだから。
「最初はグー!」
みんながじゃんけんをしている。
コートを治すのに、総掛かりで同時に行うことはできないため、順番を決める必要があったからだ。
8人も一斉にじゃんけんするとなかなか決められないなかで、穴だらけのコートがその行末を今か今かと待ち構えていた。
●ぼくたちはもしかしたらギルオスくんがだいすき
ありがとう。感謝の念で、涙が流せないことを悔しくすら思う。
瑠璃が穴の空いた箇所を裏からシートを貼り付けて塞いでいる。切断面の生地をなじませさえすれば、早々にほつれていくことは無いはずだ。
なかなかにワイルドな見た目になったが、これはこれでおしゃれだと言い張ることもできるかもしれない。いわゆるダメージトレンチコート。これもファッションだとすれば、やはり直接縫い合わせてはいけないのだ。お母さんにダメージジーンズを補修されようものなら、泣き崩れるしか無い。なんであれ、穴が空いてるほうが高いんだろうね。
しかしなにかが足りない。やはり、補修するだけで今回の事での教訓が生かされていないのではなかろうか。
「カーボンプレートを、着心地を損ねない程度に裏地に縫い込んで、今回の様な事態に備え防御性能を上げておきたいですね」
やはり身に着けるものは鎧でなくてはならない。その分重量は大いに増すだろうが、命には変えられないのだ。
「これで重いと思うのでしたら、いささか鍛え足りないのではないでしょうか」
「我は情報屋故、こういう時の対策は考えてある」
リュグナーはその役柄故に、緊急の事態にも備えているのだ。知は力である。
「要は、布には布を逢わせれば良いのであろう?」
なんとなく、いきなりゴリ押し感が出てきたが、知は力である。
「貴様の一部を持ってきたが故、これで傷を塞いでやろう」
取り出したのはパンツだった。どうして一個人の下着が市場に流れているのか今を持って不明であるが、今更事実の書き換えなど出来ようはずもなく、ギルオスくんの下着は結構色んな人が持っている。顔よりも下着が知られている男。それがギルオスくんなのだ。
コートの内側に、パンツを縫い付けていくリュグナー。確かに上着の内側に装着するのだから、これでも立派に下着と言えるのかもしれない。ごめん無理があった。
縫ってみたはいいものの、不器用故か、内側でべろんと剥がれかけのパンツが短冊みたいにぶら下がっている。
「…………ふむ、妙にちぐはぐしているが、応急処置ということにしておこう」
「さて、では拙者は……こういうのを用意してみたで御座る」
幻介が用意したものは、えらく鋭いニードルがついた肩パッドと、鋲が万遍なく打ち付けられた生地であった。
「……うむ、格好良いで御座ろう? この世紀末っぷりが男らしさを表す様で、きっとよく似合うと思うので御座るよ」
ちょっと想像してみた。肩パッドと、鋲付きアーマー来て、火炎放射器で、汚物消毒するギルオスくん……うん、イイネ。
「縫い付け技術は……まぁ、そこそこで御座るが。きっと何とかなるで御座るよ、うん。多分、きっと、恐らく」
ところで、ああいう肩パッドって凄く硬そうだけど、どうやって縫い付けるんだろう。参考資料を探してみても、どいつもこいつもベルトで自身に固定していたけれど。
「……はっ、閃いた! サイズ違いの少し小さいものを、肘の所にも取り付けたら格好良く御座らん? 拙者、天才か?」
目に入らないとこだからめっちゃ引っ掛けそう。
「あたしもギルオスさんパワーアップ案をかんがえよう」
意気込むコゼットの向こうで、ホリスさんが、違うそうじゃないと叫んだ気がしたが気のせいだ。
「情報屋さんだから、耳がよかったり、身軽だったりすると仕事の役に立つよね、きっと。よし、ウサミミと、ついでにウサ尻尾をつけよう、なんかこの前大流行してたし」
うさみみとうさ尻尾をつけて屋根伝いに飛び回りながら情報を集めていくギルオスくん。間違いなくかっこいい。
「バニーの力を取り入れたギルオスさん……バニオスさんだ! これできっと大活躍だね」
探したらもうあるんじゃねえかなと思ってアトリエ探したけどまだなかった。いつかきっと。
「あたし昔、刺繍ちょっとだけ教わったことあるの。へたっぴだけど、背中にギルオスって、刺繍しとくね」
自分のものに名前をいれておくのは大事。普通コートの内側にいれるもんだけど。
「お礼はお菓子でも奢ってくれれば十分だよ、いつもお世話になってるからね……!」
カナメは街まで買い出しに出ていた。
ギルオスくん(コート)の破損具合は強く、手持ちの糸だけでは足りなくなってきたのだ。
ギルドを出る際に見た、今の状況を思い返してみると、やはり酷いものでしか無い。一応、穴はある程度塞ぎ、ついでに目立たないところに肉球マークをひとつつけておいたが、まあそれどころではない状態には陥っていた。
「くまさん、よくテキトーな性格って言われるけどあんまり羽目を外しすぎるのが出来ねー性格なのな」
いと、いと、いと、と。口ずさみながら店を探す。戻ってくるまでに、あれはもっと劇物と化しているに違いない。
と。
ショーウインドウの並ぶ中で、カナメの足が止まった。ガラス越しに飾られていたコートに目が行ったのだ。
緑のコート。形も、あれによくにている。
覚えておこうと、カナメは思った。
「残念ながらギルオスがコートと一緒に過ごした日々と、それによる経年劣化までは再現できねーけどな」
それはそれとして。
ちょっとやりすぎたかもしれないと、モカは考え始めていた。
"Stella Bianca"の店名が入ったエンブレム状のワッペン。それをコートの随所に貼り付けて見たのだが、スポンサーロゴというのはこんなにも所狭しに並べて良いものだっただろうか。
やはり、他のメンバーの補修に負けてはならないと、気合をいれたのが良くなかったのかもしれない。
なんというか、これでは広告がメインで、サンドイッチマンに近いものになってしまった。
考えること数秒。手を打って気を取り直すこと刹那。モカはそれ以上を考えないことにした。
なに、支払うべきものは支払うつもりである。現ナマじゃなくて割引券だが。逆に言えば支払う金額次第で実質価値は大いに跳ね上がる。なんと夢のある話だろう。ほらほら、段々そう思えてきたそう思えてきた。
「これは前金だ。宣伝効果次第でもっと割引率が高い券を渡そう」
「この大きく破れてしまったところはいろいろものが詰められるよう裏に袋をつけてポケットにしてしまいましょう!」
補修では誤魔化せそうもない大きな穴。これはこれで収納用にしてしまおうとラグリは提案する。
「私は大きいポケットがあったらうれしいですもん! きっとギルオスさん(コート)も喜んでくれます!」
ポケットは偉大な発明である。手を使わずに物を持ち運ぶ事ができるし、手をいれれば暖房具にもなるのだ。なんて便利なんだろうポケット。
「たしか陸の生き物でポケットに子供を入れて連れ歩く動物がいたような……」
想像してみる。お腹のポケットに子供を入れて連れ歩くギルオスくん。いいかもしれない。わくわくしてボタンを止めてみるが、しかし出来上がったポケットは脇腹のあたりにあった。まあ、衣服でお腹にポケットあったらトレーナーだしな。
「とにかく、これで噂のぎる♂パンツをたくさん持ち運ぶこともできます! やりました!!」
アヴニールは丁寧に畳んだパンツをコートのポケットにしまっていた。何枚も、何箇所にも。
「予備。分身。残機。備えあれば憂いなシ」
安心と信頼。どんなに怖い目にあってもこれで大丈夫。
「我は予備ノぱんつを備えシ者……」
そういうふうに名乗るとかっこいいかもしれない。強敵を前にしたときとか。
「我はあと3枚ノ替えぱんつを残シている……」
変身は大事だ。姿を変えることで強くなったように見えるのだ。それは下着にしても同じことである。3枚もパンツを持っていたら相手も恐怖におののくしか無い。
さらにはベルトだ。これをつけるととても強くなるのだと聞いた。
「自らを拘束する事で、他ノ部分を強化する……あそこではそうやってちからを高める者達がいた」
つければつけるほど自由な場所は強化される。目一杯つけると身動きできないかもしれないけどもっと強くなれる。
「これが日々ノ鍛錬となり、ギルオス=サンをギルオス=ヨンという、新たなステージへと押シ上げる……はず」
●ぼくたちはギルオスくんがだいすき
っていうふうに、青雀は主張している。
ついに出来上がったのだ。
カーボンプレートで防御力を増大し、さらに裏地にはパンツが縫い合わされ、とっげとげの肩パッドで反射性能と、うさみみうさしっぽのバニー能力を備え、肉球マークがぺたんと押され、あらゆるところにスポンサーのワッペンが貼り付き、脇腹に大きなポケットがあって、あちこちに拘束具的なベルトが付いている無敵のコートが。
「さあ蘇るッスこの電撃でーーーーーー!!」
ばりばりばりと、出来上がったコートに電気が流される。
たぶんそれがトドメだった。
了。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
着ているところをみてみたい。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
ギルオスくん(コート)を修復しましょう。
ギルオスくんはあちこちに穴が空いてしまい、ぼろぼろです。
これを縫い合わせたりアプリケットをつけたりして生き返らせてあげましょう。
ついでに今のトレンドに合わせて思い思いに格好良くしてあげれば喜ぶこと間違いありません。
各々が、治りが早くなると思うもの、格好良くなると思うもの、ギルオスくんが喜ぶと思うものを持ち寄って、ギルオスくん(コート)を魔改z……復活させましょう。
きっとあとで満面の笑みで着こなしながらお礼を言ってくれると思います。
【人物データ】
■ギルオスくん(コート)
・ギルオス・ホリス(p3n000016)。
・ひどい目にあったのでぼろぼろ。
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