PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あそんでイレギュラーズ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 拝啓 緑照り映える時節、イレギュラーズの皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 私は孤児院を経営しているシスターのイザベラと申します。イレギュラーズの皆様のお噂を聞き、お願いしたいことがありまして筆をとりました。
 最近の暴動により、私どもの住む街も治安の悪化はなはだしく、庇護する子どもたちへ悪影響が出ています。たとえば、昼間の散歩を嫌がる、夜泣きをする、部屋に閉じこもって出てこないなど。空気もギスギスしており、ケンカも頻繁に起こります。
 イレギュラーズの皆様、子どもたちが再び笑顔を取り戻すよう対処していただけませんか。いっしょに遊んだり、武勇伝をお聞かせ願えると、子どもたちは喜ぶことでしょう。
 また、私の孤児院は善意の寄付で成り立っておりますので、遊具や本など娯楽のたぐいが不足しております。ご配慮いただけますと幸いです。なお、道具や資材などはこちらで用意させていただきます。お気軽にお申し付けください。
 子どもたちの詳細につきましては、別添の資料を御覧くださいますようお願い申し上げます。
 それでは皆様のお越しをお待ちしております。
                         かしこ
                 院長 シスターイザベラ

GMコメント

みどりです、こんばんは。
息抜きに子どもと遊ぶと逆にこっちが振り回される、よくある話です。

>詳細
孤児院
 小さな教会を改装したもの広間(講堂)、寝室、食堂、手洗いがある。
 広い庭があり、家庭菜園をしている。
 遊具や本など娯楽の類が少ない。
>子ども
 全員が外出を嫌がる。
 両親を魔物に殺されたという経歴があり、それが関係している可能性がある。
閉じこもり
 12才男ベネラー 根暗
ケンカ
 10才男ユリック いばりんぼう
 8才男ザス おちょうしもの
 8才女ミョール みえっぱり
 5才女セレーデ さびしがりや
夜泣き・不眠
 10才女リリコ 無口
 5才男ロロフォイ あまえんぼう
 3才女チナナ 泣き虫

シスター・イザベラ
 院長 子どもたちの不安行動に困っている。

  • あそんでイレギュラーズ!完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年05月26日 21時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

糸織・紡(p3p000264)
導きの糸
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
シレオ・ラウルス(p3p004281)
月下
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
謎の スーパーヒーロー(p3p005029)
特異運命座標

リプレイ

●大人が集まってなにかしてるぞ
 何せイレギュラーズたちが朝から庭に板を並べてトンテンカン。ペンキも塗り塗り塗り。
 孤児院の子どもたちは興味津々。窓ガラスにおでこをくっつけて観察中。
「まぁまぁ、ボイデルの旦那。キミしかこの大事な役を任せられる人がいないのさ。なにせ、悪役ってのは主役と対になる花形だからねぇ。ひとつ、頼むよぅ」
 歌っているかのような声が誰かをなだめているのが聞こえる。
 ようやく工事が形になってきた。できあがったのは即席の舞台。
「さあ子どもたち、ヒーローショーを始めるよ! 僕が司会進行のムスティスラーフだよ、はじめまして!」
 元気よくドアを開けたのは『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)。
 ひーろーしょー? と、くびをかしげる子どもたち。無理もない。遠出をしたこともないのだから。だけどムスティスラーフの笑顔を見ていると、ワクワクがつのってきた。
「ひーろーしょーってなに?」
 矢継ぎ早に質問されて、ムスティフラーシュはニッコリ顔。
「見ればわかるよ、楽しく痛快。さ、庭へ出て並んで座ろう。特等席へご案内だ」
 庭へ出た子どもたちは順番に腰を下ろし、興奮でおしゃべり。小鳥が鳴いているかのようなかしましさだ。
(そうそう、子どもはこのくらい元気でないとね。僕の孫も同じくらいの歳だったんだよなぁ……)
 センチメンタルになりかけた内心はいったん置いておいて、ムスティスラーフは子どもたちを静かにさせるためにバンザイをしてみせた。
「さあみんな両手をあげて!」
 素直に従う子どもたち。
「次はお膝の上に乗せて。よし、お話を聞く用意ができたね。今回のヒーローは意外なおじさんのヒーローだ! 僕たちは『スーパーヒーロー』って呼んでるんだ。みんなもそう呼んであげてね。心に正義を持てば誰だってヒーローになれるんだ、そう君達だってね。そして実は彼には凄い事が……続きはショーの中で!」
 ムスティスラーフが舞台の下手へ陣取った。ショーの始まりだ。子どもたちの目は釘付け。
 ――ガガーン!
 突然雷が鳴り、稲光が舞台上を走った。『闇之雲』武器商人(p3p001107)の威嚇術が縦横無尽に舞台を走り、不穏な気配を醸し出す。
「び、びっくりしたあ……」
「ふふん、この程度でびびるなんてやっぱりザスは子どもだな」
「なんだよユリックだって驚いてたくせに!」
 顔を真っ赤にしたザスがユリックへ飛びかかろうとした。が、『月下』シレオ・ラウルス(p3p004281)にがしっと抱きとめられてしまった。
「バカにされたら頭にくるよな。その気持ちはよくわかる。だがケンカはしないのが一番、シスターもそういっているんじゃないか?」
 シレオに優しくたしなめられ、ザスは機嫌を直して席へ戻った。その間も威嚇術による脅しは続いている。稲光が薄らいでいくと、舞台の下手から一人のイレギュラーズが現れた。筋骨隆々のたくましい体、いかにも悪人でございと行った風体。『山賊教官』グドルフ・ボイデル(p3p000694)だ。
 グドルフはもったいぶって舞台上を歩き回り、名工の剣を子どもたちに見せつける。その分厚く凶悪そうなこと!
「大山賊、グドルフさま参上だあ! おらあ、シスターを困らせるガキはどいつだ!?」
 大声でがなりたてると舞台を降り、観客席まで近づいてきた。
「おまえか? それともおまえか?」
 刀を子どもたちの顎下へ突きつけらていく。ひんやりした感触がチナナに触れた途端。
「ふえ、ふええええん!」
 泣き虫の彼女は恐怖が勝って泣き出した。そんな彼女を『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)が抱き上げる。
「……よしよし。ちょっと…驚きましたね…もうだいじょうぶ、です。いっしょに…工作を、して、遊びましょう…か…」
「お人形も作れますよ。チナナさん、くまさんはお好きですか?」
 『導きの糸』糸織・紡(p3p000264)も笑顔を向ける。ふたりに慰められ、チナナは落ち着いたのか泣き止んだ。
「くまさん、すき。やる」
「まあよかった。いっしょにかわいいクマさんを作りましょうね」
「ええ、メイメイたちと…たくさん…遊びま、しょう、ね」
 三人は舞台から少し離れた場所へ歩いていった。そこにはイレギュラーズたちが持ち込んだ色とりどりの布や、無地の絵本など工作の道具が並んでいた。
 お菓子やクレヨンの整理をしていた『青混じる白狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)は、ちらりと孤児院を見た。小部屋の窓から、カーテンに隠れて外を覗いている姿が見える。ベネラーだろう。外に興味はあるが出てこれないようだ。彼の心の内を思うと、グレイルは胸がいたんだ。
(…悪い空気が…子供たちにまで…悪影響を与えて…しまっているんだね…。…僕たちが…遊んであげることで…子供たちが…笑顔になってくれると…いいな…)
 チナナがお菓子に目を輝かせているあいだも舞台は続いていく。

「おっと、悪い山賊が現れてしまった! こっちは見るからに凶悪だぞ! 助けて! ヒーロー!」
 ムスティスラーフが熱のこもった実況を入れる傍ら、グドルフはユリックの前で立ち止まった。
「悪いガキはおれさまが連れ去っちまうぞ。ゲハハハッ!」
 そう言うなり、グドルフはユリックを抱え上げた。
「う、うわああ! って、こ、こわくねーぜ!」
「くっくっく、ちょうど試し切りをしたいと思っていたところだ。この刀ですぱーんといってみるか?」
 青い顔になったユリック。そこへ。
 ジャキーン!
 効果音と共に丸い影が舞台の上手から飛び出てきた。
「そこまでだ!! その子を離せ!!」
 真紅のマントをはためかせ、全身を包む蒼のスーツ。ボインと飛び出たビール腹。どこから見ても中年おじさん。『特異運命座標』謎のスーパーヒーロー(p3p005029)こと『英 雄二郎』だ。その姿に子どもたちが半笑いになる。
 グドルフはユリックをおろすと舞台へあがった。
「ああ? なんでえ、てめえは!? パツパツの服着たオッサンがヒーロー気取りか!」
「ヒーロー気取り? ちがうな! わたしはスーパーヒーロー、子どもたちの味方だ! はっ!」
 気合一閃、間合いを詰め、重い一撃をグドルフへ叩き込む。しかしその拳はグドルフの刀身に防がれた。お返しとばかりに蹴りをくりだすグドルフ。
「ぐああ!」
 派手に吹っ飛び、舞台のきわまで後退する雄二郎。ごくりとつばをのむ子どもたち。
「ただの山賊と見たが、やるな!」
「ふふふ、みくびるなよ。あらくれパワー味わっていきな、どりゃあっ!」
 上段からの大振りの攻撃を、雄二郎はすんでのところで避けた。そこからさらに続く連撃にしだいに壁際へ追い詰められていく。反撃をはさむ余地のないグドルフの猛ラッシュ。もし本当に当たっていれば大打撃は間違いない。雄二郎の服が引き裂かれ、宙に舞う。子どもたちが、ああと悲嘆に暮れた。
「うわああああ!」
 グドルフに蹴り飛ばされた雄二郎。膝をついたまま、立ち上がれず、苦しげに呼吸を繰り返す。
「くっ……! 応援が足りない! みんな! ワタシを応援してくれ! 人の思いが人を強くする! キミたちの声援が必要なんだ!!」
 ムスティスラーフが解説する。
「みんなの応援でヒーローはかつての力を取り戻すんだ! さあ一緒に応援しよう!」
 応援? と、とまどう子どもたちの中から声が上がった。シレオだ。
「がんばれスーパーヒーロー!」
 それを皮切りに次々と声援があがる。
「負けるな―!」
「いけー、がんばれー!」
 小さなセレーデやロロフォイまで一生懸命声を張っている。
「うぉぉぉぉぉぉ! キミたちの声が聞こえる! ワタシを応援する声! 負けるわけにはいかない!」
 ピキイイン――!
「な、なんだあ!?」
 グドルフが目を見張る。
 視界が真っ白に染まり、まるまっちい雄二郎のボディが光にかき消されるように変形していく。背は高く、手足は伸び、やがて。見事な逆三角形の肉体を持った、あふれんばかりの若さに満ちた青年がそこにいた。マスクの下からいけてるボイスが放たれる。
「子どもたちの声が、ワタシを救った! 今度はワタシの番だ! スーパーヒーロオオオオキーーーック!」
「うごああああ!」
 見事なドロップキックを胸にくらい、グドルフが倒れる。
「くそお、おれの負けだ、参った!」
「もう悪いことはしないと誓うか?」
「ああ、わかった。もうしねえ」
「よし! ならば許そう! その言葉信じる!」
 二人は力強く握手を交わした。ムスティスラーフが笑顔で飛び上がる。
「やったね! みんなの力もあって山賊をやっつけたよ! 力を合わせればできないことだってできちゃうようになるんだ。だからみんな仲良く、ね。わかったかな」
「「はーい」」
「うん、いいお返事だね! それじゃヒーローショーはおしまい。はい、拍手ー!」
 精一杯の拍手がグドルフと雄二郎たちを包んだ。小さな手と手で奏でられるその音は舞台裏の武器商人へも届いていた。
(最初は我にこのような依頼が転がり込んでくるとはね、と思っちゃいたが。ヒヒヒヒヒ……いいよぉ、キミたちがそれを、望むなら。夢を見せてあげよう)

●おとなもこどももおねーさんも
 子どもたちがチナナの工作に気づき殺到した。ミョールが喜びにほてった顔でグレイルのもちこんだ絵本をとりあげる。
「見てこれ! とってもきれい! こっちはまっしろ、こんなの初めてみたわ!」
「それは好きなように描きこんでいいんだぜ。ほら、こんなふうに」
 シレオが小さな旗を差し出した。手書きで勇ましい紋章が描かれている。
「これをオムライスにさすと最高だよな!」
 しかしミョールはついとそっぽを向いた。シレオの言葉に対してよりも、人前で素の自分を見せた恥ずかしさのほうが先に立ったのだろう。
「わたしはレディーだもの。旗なんかで喜んだりしないわ。こどもっぽい」
「いくつになっても楽しいもんは楽しい、楽しいもんを楽しめなくなってるのはつまらん! ミョールの思う一番すてきなものは?」
「……貝殻のネックレス」
 宝石ではなく貝殻。それが彼女の考える最も美しいものなのだろう。ふだんのつましい生活が感じられるセリフだった。
「わかるわかる。まっしろな貝殻がずらっと並んでいるだけで心が踊るよな!」
「そ、そうなの! ……って、あんたイレギュラーズでしょ、魔物と戦ったりとかしないの?」
 だした答えをやんごとない笑みで肯定され、ミョールはぱっと顔を輝かせ、すぐに気恥ずかしさでしかめつらに戻った。

 舞台袖から出てきた雄二郎のところまでザスが駆けてきた。
「スーパーヒーロー! ウルトラかっこよかったぜ!」
 雄二郎は握手をすると、宇宙怪獣や巨大ロボットと戦った武勇伝を語った。ザスは聞きほれている。
「ところで小耳に挟んだのだが、ザス君は喧嘩をするらしいな」
「……ごめんなさい、よくします」
「うむ、正直なのはよいことだ。ザス君の根はよい子だな。喧嘩をするのは悪いことではない、思いをぶつけるのは大切なこと。ただ、相手の言い分もちゃんとかなきゃいけない。そして、やりすぎたら謝る! 最後には仲直り! それが大切だ!」
「はい!」

 反対側から出てきたグドルフをユリックが見つけた。
「負け犬だ。やーいやーい」
「おれさまが弱ェと思ったかい? そりゃ勘違いだ。強ェやつは、あえて負ける事を選ぶ事もある。逃げるが勝ちってな。辛ェ思いしてまで勝つ事に何の意味もねえ。大切な家族を傷つけてまで勝つ、そいつぁ、本当に皆幸せになれるかい」
 手持ちの酒瓶へ口をつけ、ぐびり。
「……だってベネラーはあんなだし、俺がみんなの面倒見ないとって思うけど誰も俺の言うこと聞かないし……」
 ぼそぼそと本音を言う少年。
「その志を忘れるな。おれさまみてえに強くなって、家族やシスターを守ってやれよ、坊主」

「え、似てない…? クマってこんな形じゃない? あれー?」
 紡はぬいぐるみを作っている。ぴったりくっついているセレーデをおんぶしながらやる針仕事は遅々として進まない。
「ここをこうして、はい、できました! どう、セレーデさん?」
「かわいいの。つむぎおねえちゃん、わたしもやってみたい」
「いいわ。いっしょにやりましょう。最初の細かいところは私にまかせてね」
「やだ、自分でやりたい」
「でもケガをすると大変よ」
「ケガならケンカでしょっちゅうしてるからわかんない」
 幼さゆえか、ことの重大性がわかっていない発言だった。紡は眉を曇らせる。
「ケンカやケガはよくないことです。これだけは覚えてください」
「うん、それならわかる」
 こっくりとうなずくセレーデ。二人は共同でぬいぐるみを作り上げ、それはそのままセレーデへのプレゼントになった。
「…私とお揃いよ。私の作ったぬいぐるみはね、おまじないが掛かっているのよ…安心できるおまじない。もし、セレーデさんが迷子になったり寂しくなった時は、今日の事を想い出してくれる? 此処にいる家族とケンカをしちゃいそうになったときも。そしたらお姉ちゃんも寂しくないし、嬉しいわ。お姉ちゃんも、このぬいぐるみを見たら、セレーデさんを想い出すから」
 セレーデは喜びに微笑んでぬいぐるみを抱きしめた。

 ぬいぐるみを『我が見えざる手』で動かしているのはムスティスラーフ。いっしょになって遊んでいるのはロロフォイだ。連日の不眠のせいか動きが鈍い。
「僕にもロロフォイ君と同じ年の孫がいるんだよ。僕の孫も夜泣きがひどい時期があってね、そういう時は一晩中一緒にいたものだよ」
「そうなの、いいなあ。シスターは夜は書斎にいるんだ」
 心底うらやましそうにするロロフォイ。
「そばに居てあげたいけど僕は長くいられないから、代わりにこのぬいぐるみやおもちゃを置いて行くよ。僕のそばを離れると動かなくなるけど想いは消えない、君を守ってくれるよ。だから、大切にしてあげてね」
 ロロフォイが元気よくうなずいた。

「眠れぬコは、こちらへおいで。寂しいコは、こちらへおいで。なに、どこかへ連れて行きやしないとも。物語を聴かせるだけさ」
 思い思いに遊びや歓談にふける子供たちの中で棒のように突っ立ったままのリリコへ、武器商人が声をかけた。ゆるゆると歌うような言い回しには独特の節がついていて、男とも女とも判じかねるが耳に心地よい。リリコは武器商人を見上げた。長く伸びた前髪で表情を読み取ることのできない顔。けれど、その静けさをリリコは心地よく感じたようだった。
「砂漠を泳ぐ魚、妖精のお茶会、金の花を咲かせる男……噺には事欠かないよ。ヒヒヒ……。これは我が見聞きしたほんの一部、この世にはまだまだ不可思議なことが転がっているとも。怖いことも、楽しいこともね」
 見に行きたいかいと問うと、無口な少女は小さくうなずいた。
「キミたちが怖いことに立ち向かえるようになるまでは、そうだね、大人やイレギュラーズを頼るといい。そうだね、手始めに、手書きの絵本でも拵えようか」
 ただのクレヨンが、武器商人の手にかかれば極彩色の洪水へ変わる。リリコは武器商人の手元を飽くことなく眺めているうちに、船を漕ぎ出した。快い環境は人を興奮を鎮め、眠りへ導くという。いつしかリリコは眠りの世界へ迷い込んでいた。それは武器商人の描く絵本の中かもしれない。

 遊びつかれて夢うつつのチナナをやさしくあやしながら、メイメイは微笑んだ。
 子どもたちは孤児院から外へ出たがらないと聞く。日中の活動不足も不眠の原因のひとつだろう。だがそれだけとは思えなかった。
『ねるまえにね、くらくなるとね、なんだかこわーくなって、わーってなってうわーんってなる』
 そうチナナは言っていた。
 夜の闇への恐怖。そこへ何が起こるかわからない町の惨状がくわわり、パニックに陥っているのではないかとメイメイは推理した。
「…大丈夫、大丈夫。…目を閉じて、楽しいことを…思い浮かべて…。羊が一匹、羊が二匹…」
 やがて安らかな寝息が聞こえてきた。

「はじめまして…グレイルです……。ベネラーさん…一緒に…お話でも…しようか…? …ああ…ドア越しで大丈夫…出てきたい時に…出てくれればいいよ…」
 グレイルはベネラーが閉じこもっている小部屋の前に立っていた。何度も話しかけたが返事はない。外へ興味がないわけではないことは、ショーを覗き見していたことからわかっている。だが。
(出ていけないのか…出てこれないのか…)
 もしかすると両方かもしれない。
「これ……僕が作った絵本なんだ…よかったら…読んで……」
 きれいな風景の中、ピクニックを楽しむ手作り絵本をとりだす。表紙にきらきら光る紙をちりばめた美しい絵本だった。しかし返事はない。
「…僕の背中に乗って…庭の散歩とか…してみないかな…?」
 いろいろと切り口を変えてみるが、まったくの無反応。扉はぴっちりと閉じられていて手紙を差し込むのも無理そうだ。
「……さよなら、また来るね。絵本は…ここへ…置いておくよ。よかったら…ベネラーさんも…描いてみて…」
 押し付けがましくならないうちに切り上げることにした。グレイルが背を向けたとたん、扉が開いた。振り向くと部屋の前に置いていた絵本セットがなくなっていた。
(今はこれで…じゅうぶん…。またね……)

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでした。
おかげさまで孤児院のこどもたちはよい方向へ向かっています。
機会があれば続編が出るかもしれません。
またのご利用をお待ちしております。

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