シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2020>砂漠に降る雪。或いは、氷雪の魔樹と雪の精霊…。
オープニング
●真白の大樹
ラサの砂漠に雪を降らせる。
そんな依頼を受けた老商人・パンタローネはこれ幸いにとつい最近手に入れ、そして持て余していた魔樹を高額で売りつけた。
ところは砂漠の真ん中にあるオアシスの街。
多くの旅人や商人たちが、長く過酷な旅の途中で立ち寄り、つかの間の休息と商売を満喫する交易都市だ。
オアシスの畔に植樹されたそれは、全長10メートルほどの氷の樹。
地面から吸い上げた水を氷に変えて、周囲にまき散らすという性質を持つ。
魔力を多分に含んだ氷は、どうやら精霊たちにとって絶好のおやつに思えるようで、夜になれば色とりどりの精霊が魔樹の周囲を飛び回る。
その光景はこの世のものとは思えぬほどに美しく、そして幻想的でさえあった。
多額の報酬を得たパンタローネは、そのままどこかへ旅立った。
次の商売に向けた買い付けにでも向かったのだろう。
つまり、真白の大樹を植えた数日後に起きた異変について、彼は何も知らなかったということだ。
真白の大樹を植えてから数日後。
集まっていた精霊たちに異変が起きた。
火や風、雷、土、花、砂など多様な要素を司る精霊達だが、ある日を境にその全てが真白い精霊に姿を変えた。
冷気を振りまき雪を降らせるその精霊“フロスティ”は、たった1日でオアシスの街を雪と霜で覆い尽くした。
元より砂漠の街である。
冬支度などとは縁の無い住人達が大半であり、彼らはその日以来、家屋に閉じこもり厚い布や絨毯にくるまって過ごす日々が始まった。
パンタローネの話では、シャイネンナハトが終わる頃には真白の大樹を回収に来るとのことだったが、このままではその日を待たずに住人の大半は凍死してしまう。
街を捨てて逃げようにも、食料も馬車も凍り付き、とてもではないが砂漠越えを実行出来ない状態にあった。
「せめて、精霊たちを元の状態に戻せれば……」
と、そう呟いたのはオアシスの街で宿屋を営む男性である。
かつては旅の冒険者であったという彼は、似たような状況に直面した経験がある。
その際は、変質した精霊に炎や電気、水、氷、風といった攻撃を浴びせることによりその性質を強制的に変更したことで事なきを得たそうだ。
けれど、しかし……。
「生憎と、今この街にはそれが出来る者はいねぇんだよな」
有るのはせいぜい、油の染みた松明とカンテラ程度のものだろうか。
それでも十分、精霊の性質を変える事は出来るだろうが、ラサの住人たちは雪上での戦闘に不慣れな者ばかり。
とてもでは無いが、自由自在に飛び回る精霊相手に松明やカンテラを浴びせることは叶わない。
●氷霜の精霊
「というわけで、お前さんらに頼みたいのは精霊達の沈静化だ」
討伐依頼なら楽なんだがな、と頭を掻いて『黒猫の』ショウ(p3n000005)は言う。
今回、砂漠の街に雪を降らせる精霊たちは、何ら悪さをしていないのだ。
雪の精霊に変質したことで、砂漠の街が雪に覆われる結果になっただけのこと。
誰が悪いのか、と敢えて罪を問うのなら、碌な下調べもせず街に魔樹を植えようとした管理者と、それを売ったパンタローネということになるだろうか。
その両名にしたところで、ここまでの事態に発展するなど予想外であっただろうが。
「街を駆け回るフロスティの数はおよそ20体」
20体のフロスティを沈静化させることが、今回の任務の主目的となる。
「フロスティたちに【火炎】や【痺れ】【石化】などを当てれば、その性質の精霊に変わる。街にある松明やカンテラを使うのも良いだろうが……1点、極端に同一の性質を持つ精霊を増やしすぎないでもらいたい」
例えば、火の性質を持つ精霊が増えてしまえば、街の気温が極端に上昇してしまう。
光の性質を持つ精霊が増えてしまえば、夜も煌々とした明かりに包まれ落ち着いて眠る事も出来ない。
何事もほどほどが一番。
極端な話、真白の魔樹周辺だけ雪や氷が降っていればそれでいいのだ。
砂漠の民たちは、普段目にすることの出来に無い雪や氷を、なんとなく目で見て楽しみたいだけなのだから。
「直径30メートルほどのオアシスを中心に街がある。また、オアシスの畔に魔樹が植えられているのだが、その影響か現在オアシスは凍り付いている」
つまり、オアシスの上を通って移動ができるということだ。
天然のスケートリンクのようなものである。
何かの拍子に氷が割れて水に落ちれば【氷結】を負う程度には凍えるはめになるだろうが……。
「フロスティの攻撃……悪戯には【凍結】が付与される」
風邪を引きたくないのなら、しっかりと防寒対策をして行くことだ。
たかが風邪とは言うものの、悪化し重症化すれば数日は体調不良に悩まされることになるだろう。
「それと、街のところどころに小さなかまくらが作られているのだが、どうやら変質しなかった精霊たちが、籠もって暖を取っているらしい」
かまくらの中に避難しているのは、それなりに強い土や火、光、風の精霊達だ。
寒いせいか、積極的に外に出てくることは無いが、場合によっては協力を頼むことも可能かもしれない。
「以上が今回の任務の内容だ。可能な限り街への被害を出さないよう、事を収束させてほしい」
と、そう言って。
ショウはイレギュラーズを送り出す。
- <Scheinen Nacht2020>砂漠に降る雪。或いは、氷雪の魔樹と雪の精霊…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月06日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●雪精騒動
白い世界に吹く寒風。
ラサの大砂漠にあるオアシスの街に雪が降り始めたのは、ほんのしばらく前のこと。
原因は、とある商人がオアシスの街に持ち込んだ1本の樹であった。その樹の名は“真白の魔樹”。 地面から吸い上げた水分を、雪として降らせるという特性を持つ。
魔樹の降らせる雪には多分の魔力が含まれている。それは、精霊たちにとって“美味なるおやつ”に相当するものらしく、魔樹を持ち込んで以来、夜毎にオアシスの街は煌めく精霊たちが集うようになった。
赤、青、黄色と様々に煌めく精霊の姿と魔白い魔樹。その光景はひどく幻想的でさえある。その美しい光景にオアシスの街の住人や、立ち寄る商人たちは喜んだ。しかし、それも一時のこと。精霊たちの一部が、魔雪を取り込み雪の精霊“フロスティ”へ変質したことで状況は一変した。
街の気温は急下降をはじめ、オアシスは凍り付いた。
街中をフロスティが駆けまわることで、いたるところが雪と氷に覆われた。
砂漠の民たちは、その状況に対応できず……。
今ではすっかり、オアシスの街から活気は失われているのであった。
さて、そんな凍り付いた街に現れたのは8人の男女。
イレギュラーズの戦士たちである。
「砂漠の夜って、意外と寒いのよね。熱が全部逃げていくから当たり前なんでしょうけれど……」
雲一つない空を見上げて『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)はそう呟いた。燃えるような赤の髪が、冷たい風に吹かれて泳ぐ。
そんな彼女の髪にじゃれつく白い光球。それこそが、雪の精霊“フロスティ”であった。
なるほど、フロスティに悪意や害意は無いのだろう。悪戯好きの精霊であり、雪を降らせる性質を持つ。それゆえに、街が白く染まる結果となったのは、果たして誰が悪いのか。
その結果は、誰にも予想が付かなかったことである。
で、あるのならば。
強いて言うのなら、運が悪かった。その一言に尽きるだろうか。
「砂漠がこんなに白い景色……うぅ……寒い……ラサが凍えてしまうわ」
肩を抱き、しゃがみこんだ『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)の黒い髪には、うっすらと雪が積もっていた。
そんな彼女の足元には小さなかまくら。暗がりの中、ぼんやりと黄色く光って見えるそれの中には、フロスティに変質しなかった精霊たちが籠っている。
精霊にとっても、今のオアシスは寒すぎるのか。かまくらに籠って、暖を取っているらしい。雪で作ったかまくらは、あれで存外に暖かいのだ。
「一刻も早く沈静化しないとね……」
「うむ。とはいえ、己に出来ることなど、ただ敵を斬る程度だが」
白い息を吐くエルスの言葉に、そう返したのは『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)。 その手が腰の刀に伸び、チャリと鍔が揺れる音。
その音に驚いたのか、ルチアの髪にじゃれついていたフロスティが慌ててその場を逃げ出した。
フロスティの軌道をなぞるようにして、キラキラと細かな雪が降り注ぐ。
辺りの気温が一気に下降したのを感じ、『砂の聲知る』ラウル・ベル(p3p008841)は口元をマフラーで覆い隠した。
「なんだか凄いことになってるね……」
彼の頭頂部では狼耳がペタンと寝ている。寒いのだ。とても。
手袋に包まれた手を足元に向け、ラウルはその場に火を灯した。
「砂漠でも雪を楽しめるのはいいけど……これは流石にいきすぎだね」
地面に落ちていた枯れ枝を、火の中に放り込みながら『折れた忠剣』微睡 雷華(p3p009303)はそう告げた。彼女の視線はところどころに点在しているかまくらの方へと向いている。
こうして焚火を起こしていれば、かまくらに籠った精霊たちも外に出て来てくれるかもしれない。かまくらにいる精霊たちは火や光、土といった性質の精霊だ。
彼らの協力があれば、フロスティを元の性質に戻すことも可能であろう。
そのためには【精霊疎通】を持つ雷華や、『ぽんこつ魔法使い』ユージェニー・エンデ(p3p008892)、トリフェニア・ジュエラー(p3p009335)が積極的に交渉を行う必要がある。
「さ、砂漠に雪というのは珍しいことなのですね……わたくし、砂漠も雪も初めてで……」
寒さに震えるユージェニーが、雪混じりの風を避けるようにしゃがみ込む。
そんな彼女の足元に、ふわりと淡い燐光が寄った。
彼女の不安を感じてか、それとも焚火に誘われたのか。
現れたそれは土の精霊であった。
「この寒いのをどうにかしたいの、力を貸してくれないかしら。あまり炎ばかりで暑くなりすぎると困るから、出来れば土の子や風とか光の子が嬉しいのだけど」
雪の上に膝を突き、トリフェニアは告げる。
長く尖った耳からも分かるように、彼女の種族はハーモニア。自然と高い親和性を持つ種族ということもあり、精霊たちからの警戒も薄い。
それゆえか、土の精霊はトリフェニアの真意を窺うようにふわりひらりと彼女の周囲を飛び回り……。
「力を貸してくれるなら、私のコートの中に居ても良いわ。カイロもあるからカマクラより温かいかもしれないわね」
開かれたコートの中に、しゅおんとその身を潜り込ませた。
「精霊か……うむ、力を借りられればこれほど力強い存在もいないからな」
よろしく頼む、と馬上から頭を下げた『タリスの公子』エドガー(p3p009383)は、軍馬に鞭を入れ、雪塵散らして駆けだした。
●悪戯好きの精霊たち
煌々と、白く輝く精霊を連れ雷華は街を疾駆する。
彼女と共に駆けるそれは光の精霊。
白光の軌跡を描き雪中を駆ける1人と1体が追う先には、ひらりひらりと螺旋の軌道で舞い踊るフロスティの姿があった。
「わたしは右から。君は左からお願い。え? 付いてきたけど、無償で協力はしたくない? うぅん、それなら……終わったら、わたしに出来る範囲で何かお願いを聞くよ」
精霊に指示を出す雷華であるが、当の精霊は聊か不満な様子であった。
けれど、雷華の出した条件に納得したのか、一応の指示には従ってくれるつもりらしい。
雷華に先行し、光精霊は左へ大きく進路を変えた。
フロスティの前方に回り込んだ光精霊が放つ光が、より一層に強くなる。
周囲一帯を真白に染める輝きの中、雷華は加速し自身の右腕に業火を灯した。
「……そうだね。終わったら、一緒に雪遊びしてみる、とか?」
雪塵を散らし雷華は跳んだ。
直撃させぬよう細心の注意を払いつつ、業火を纏ったその右腕を大上段より振り下ろす。
熱波に炙られ、舞う雪が解けて水へと変わる。
すぐにそれも蒸発し、雷華の周囲は濃い霧に覆いつくされた。
しかし、白に霞んだ視界の中でも光精霊の輝きだけは目に映る。
一閃。
叩きつけられた火炎の拳が積もった雪を抉って散らす。拳が掠ったフロスティは、火炎に包まれ炎の精霊へと姿を変えた。
白いコートで身を隠し、庸介は足音も立てず地面を這った。
まったくもって度し難いほどに凡庸であると、僅かに自嘲し、しかして彼は歩みを止めずただ前へと進むのだ。
雪の冷たさに手がかじかむ。
血の巡りも滞り、本来の機敏さも損なわれている。
けれど、しかし……。
「タイ捨流、浜地庸介。断ち切りに参った」
視界には1体のフロスティ。
獲物の姿が視認できているのなら、後はただ繰り返すだけ。
何千、何万と剣を振った日々を思い出す。
体に染みついた、ただ単一の目的と、そこに至るための行動。
獲物に近づき、そして斬る。
心は捨て、意も捨て、故にタイ捨と名が付いた。
「疾!」
大上段に構えた刀を、フロスティへ向け振り下ろす。
斬、と空気を切り裂いて、迫る刃をけれどそれはひらりと避けた。庸介の手に凍える吐息を吹き付けて、驚かせる程度の余裕さえも見せながら。
庸介の剣は、フロスティに届かない。
構わない。
問題ない。
むしろ、僥倖とさえいえる。
あぁ、なるほど……フロスティの注意を己に引きつけた彼の行動は、きっとこの場における最適解。
なぜならば……。
「吹雪はやりすぎよね。砂漠の人には縁遠いものでしょうし、凍えてしまう人が出たりでもしたら大変だわ」
白き世界を切り裂いて、飛来するのは1本の槍。
閃光を槍の形に固めたようなそれは、ルチアの祈りによりこの世界に顕現したものだ。
赤い髪を靡かせ、数十メートルの彼方より彼女の投げたその光槍がフロスティの胴を貫く。
決して命を奪うことのない祈りの光槍を確実に命中させるため、庸介は囮になったのだ。
槍に射貫かれたフロスティは、次第にその姿を光の精霊へと変質させる。
「お見事である」
「そちらもお疲れ様。さて、早い所、フロスティたちをなんとかしないと、ね」
少し騒ぎ過ぎたかも、なんて呟いて。
ルチアは街の様子を見やる。イレギュラーズたちが各所で戦闘を始めた結果、フロスティの気分が高揚したのだろう。
吹雪の勢いが、先ほどまでより増していた。
庸介に向け【クェーサーアナライズ】を行使しながら、次はどこへ向かおう、なんてことをルチアは思案するのであった。
かまくらの前に膝を突き、エルスは静かに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、あなた方にも協力をお願いしたいの……このラサを元の砂漠の地に戻す為に……どうか」
オアシスの畔。
真白の魔樹からほど近い場所には、幾つものかまくらがあった。
「フロスティを沈静化させるためにも……どうか、力を!」
彼女の言葉は精霊たちには届かない。
けれど、想いだけなら伝わるはずとこうして彼女はこの場に訪れたのである。
そんなエルスの背後に、ゆっくりと近づく人影が1つ。
青い髪を風に揺らす彼女……ユージェニーは、胸の前に手を組んでエルスの隣に腰を落とした。
「わたくし、う、上手く、お話出来るか自信がありません……ですから、エルスさん、わたくしにお言葉を。あなたの想いは、違わず精霊たちに届けて見せますわ」
ユージェニーを中心に、緑の燐光が周囲に散った。
それは暖かく、柔らかな光。
春の日差しにも似た癒しの波動。
優しい魔力に誘われ、かまくらのうちから精霊たちが顔を出す。
そんな彼らに向け、エルスは笑んだ。
「皆さまが無事に素敵なシャイネンナハトを迎えられるといいですわね」
「えぇ……ラサの為だもの、奮っていくわ!」
ユージェニーの静かな声に、エルスは応じた。
彼女の言葉を、彼女の想いを、ユージェニーは違わず精霊たちへと伝える。
1つ、2つ……かまくらの内より、精霊たちが現れた。
白き世界を彩る燐光。
赤、青、黄色と眩いそれは、どこまでも幻想的でさえある。
この場こそが、夢の世界。
ならばこそ、その結末は必ず“幸福”でなければならない。
「「お願い。皆の力を貸してちょうだい」」
声を、想いを。
届けた2人に精霊たちは何を思ったのだろう。
次の瞬間……。
彼らは一斉に、空へ向かって飛び立った。
雪を巻き上げ軍馬が駆ける。
「元の世界でも精霊とは上手くやっていた、その経験が……活きればいいが」
「うん。皆困っているだろうし、早く精霊たちを沈静化させないとね」
軍馬に跨るエドガーと、追走するラウルの背後に猛吹雪が迫り来る。
2人してフロスティを追いかけ回したその結果、10体ほどを一ヶ所に追い詰めることに成功したのだ。
そこまでは順調。計画通り。
問題はその後、憤ったフロスティによる最大規模の悪戯により手痛い反撃を受けたことだろう。
あっという間に2人の視界は白に染まって、今現在はどこを走っているのかも分からないような有様だった。
「ちっ……マジックフラワーじゃどうにもならないよ!」
「あぁ、精霊というのは気まぐれで気難しくてな……こちらの精霊が物分りのいい存在であれば良かったのだが、そう上手くはいかないらしい!」
ラウルの放った火炎の花は、吹雪に飲まれて掻き消えた。
馬首を転じたエドガーは、愛槍に紫電を纏わせる。
吹雪の中に見え隠れする精霊の影へ向け、刺突を放った。
解き放たれた稲妻が、吹雪を貫き地面を抉る。
その、直後……。
ビシと、何かの軋む音が2人の足元から響き……。
「なっ⁉ これは……まさか!!」
「ビシって聞こえなかった!?」
2人の足元……凍り付いたオアシスが砕け始めたではないか。
「くっ……う、馬だけでも」
「駄目だ。間に合わないよ!」
オアシスを脱出しようにも、吹雪のせいで岸の方角が分からない。
風邪をひくぐらいは覚悟すべきか、と顔面を蒼白にさせたラウルの耳へ「こっちよ!」と誰かの声が届いたのは、その時だった。
「右へ跳んで!」
ラウルが叫ぶ。
ラウルの言葉に従って、エドガーは馬に鞭を入れた。
2人そろっての跳躍。
衝撃で足元の氷が砕けた。
そんな2人の背に吹き付ける暖かな突風。
それは、火の精霊と、風の精霊によるもので……。
「っと、危ない危ない。変な音がしたから様子を見に来てみたら……間一髪ね」
着地の拍子に姿勢を崩したラウルをそっと抱き止めて、トリフェニアはそう告げた。
吹雪に煽られるトリフェニアのコートの内には、数体の精霊が集まっていた。
精霊たち引き連れたトリフェニアは、鋭い視線を吹雪へ向ける。
「暑いよりは寒い方が好きだけど……これは寒すぎるわ」
淡々と。
白い吐息を吐きながら、彼女はそう囁いた。
●幸いたる精霊の輝き
互いに背中を預けて並ぶエドガー、ラウル、トリフェニア。
周囲を飛び交う数体の精霊。
炎の精霊が取りついたことにより、エドガーの槍が業火を纏う。
「よくぞ力を貸してくれた。お互いの利益のためにも奮戦しよう」
一閃。
エドガーが槍を振るえば、火炎が散った。
吹雪を切り裂き、その切っ先がフロスティを掠める。業火に包まれたフロスティが、火炎の精霊へと変じる。
ほんの僅かに吹雪の勢いが減少した。
顕わになった1体へ向け、ラウルが跳んだ。
手にした剣で突く、払う。
ひょい、と軽い動作でラウルの攻撃を避けるフロスティ。揶揄うように、その顔へと接近し、耳にふぅと凍える吐息を吹き付けた。
びくりとラウルの肩が跳ね、その手は剣を取り落とす。
ケケケと笑う声が響いた。
ラウルのリアクションがお気に召したのであろう。けれど、その隙を突きトリフェニアの手が精霊を掴んだ。
【奇襲攻撃】を受けた捕らわれた精霊の元に、黄色い光球が接近。それはトリフェニアに協力する土の精霊であった。
フロスティと土の精霊が衝突し、周囲にぱっと光が舞い散る。
雪の精霊は、土の精霊へと変じ、寒さから逃げるようにトリフェニアのコートの下へと逃げ込んだ。
「土ね……あまり炎ばかりで暑くなりすぎると困るからちょうどいいわ」
真白の大樹が光を放つ。
否、それは大樹の周囲を舞う無数の精霊たちの姿だ。
「あれは、何事だ? 何が起きている?」
「誰かが上手くやったのかも。さて、これでまともに出歩けるくらいの寒さになれば良いのだけれど」
その光を見た庸介とルチアは、真白の大樹を目指して駆けだした。
きらきらと、降り注ぐ光の粒子。
舞い踊る精霊たち。
降り注ぐ雪。
飛び散る燐光。
夢でも見ているのだろうか、とその光景を目にした雷華は言葉を失い立ち尽くす。
「はは……雪が砂漠の人にとって嫌な思い出になる前に、どうにか解決できればいいと思っていたけど」
最高の思い出になるんじゃない?
なんて、掠れた声でそう言って彼女はただ空を見上げた。
数十体。
否、百を超える精霊たちを引き連れて、エルスとユージェニーは街を進む。
精霊たちの放つ、鈴の音にも似た羽音。
くすくすという童のそれに似た笑い声。
どこまでも楽し気で、そしてどこまでも陽気。
吹雪は止んで、フロスティは次々と別の性質へと変じる。
炎の精霊により雪は溶け、風の精霊が雪塵を宙へと舞いあげる。
土の精霊によって、濡れた地面はあっという間に元の渇きを取り戻す。
煌々と空から降り注ぐ燐光は、光精霊によるものだ。
魔樹の降らせる雪にも色が灯った。それは雪を食む精霊たちがいるからだ。
赤、青、黄色。
輝きに彩られた魔樹を、どこかの世界ではクリスマス・ツリーなどと呼称しただろうか。
「ラサではいつも雪の降らないシャイネン・ナハトだったけれど……少しはロマンだったかしら、ね?」
街の異変に、閉じこもっていた住人たちが次々と通りに飛び出した。
エルスの想いが、ユージェニーによって正しく伝えられた結果、精霊たちはこうして彼女たちに力を貸すことを決めたのだ。
「なんて素敵な素敵なシャイネンナハト……」
空を見上げて、ユージェニーはそう呟いた。
飛び出して来た人々は、やがて吹雪が去ったことを知ったのだろう。男たちは手に酒を。女たちが竈に火を入れ、宴の準備を開始する。
暖炉の前で丸くなっていた犬や、これまで我慢を強いられていた子供達が表の通りに飛び出した。
喧噪。
笑い声。
グラスを打ち鳴らす音が響く。
あぁ、これぞシャイネン・ナハト。
雪と、輝き。
降り注ぐそれは、誰かにとっての幸福か。
すべての者に、幸いを。
争いも、諍いも、今宵は全てを忘れよう。
輝かんばかりのこの夜に!
グラスを掲げ、歌を歌って、友と語らおうではないか。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――輝かんばかりの、この夜に!
GMコメント
●ミッション
20体のフロスティの沈静化
●ターゲット
・真白の魔樹
氷雪を散らす白い魔樹。
魔力の詰まった氷雪を降らせる性質を持つ。
真白の魔樹から供給された魔力によって、周囲に集まっていた精霊たちが“フロスティ”に変質したことが今回の事件の原因。
・フロスティ×20
雪の精霊。
元は別の性質を持つ精霊だったが、真白の魔樹の影響により変質。
フロスティとなった。
火や光、風、土などといった性質を持つ攻撃を当てることで、フロスティではなくなる。
例えば、火を付ければ火の精霊に変質するようだ。
どうにもこの30体の精霊、随分といい加減な性質であるらしい。
精霊の悪戯:神至単に0ダメージ、凍結
・その他の精霊
街のあちこちにかまくらを作って暖を取っている比較的力の強い精霊。
火、光、風、土の精霊が確認されている。
寒すぎるせいか、自主的にかまくらから外に出てくることは無い。
寒い時は、暖かい部屋でぬくぬく過ごすのが一番である。
●フィールド
ラサ近郊。
オアシスの街。現在、積雪と吹雪に包まれている。
中央に直径30メートルほどのオアシス。
その周囲を家屋がぐるりと囲んでいる。
オアシスの畔に真白の魔樹が植えられている。
また、街のあちこちに精霊が作ったかまくらがある。
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