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シナリオ詳細

鏡の国に至る物語

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鏡の国のマリス
 それはとある男が夜道を急いでいるときに始まる。
 男は中流家庭で、愛しい妻と可愛い子どもが二人いる、贅沢とは決して言えないがそれなりの幸せをそれなりに謳歌している人間だった。

 ――そこで、ふと。

 何か気配を感じて立ち止まる。
 辺りはしんとしていて人影はない。
 ただ、街灯と月明かりだけが煌々と周囲を照らしている。
 気のせいか、と息を吐く。

 ――瞬間、男が見たものは。

「――――――!!」

 男が見たものは、自分自身の姿だった。
 鏡写しになったように立ち尽くす自分自身。
 手には男が護身用に持ち歩いていた小さなナイフが握られている。
 それは無表情から、にたりとした笑みに変わった。

「や、やめ――!!」

 鮮血が、舞った。

●マリス・イン・ミラー・ワールド
「というわけで、新しい依頼だよ」
 『L.Lの立証者』ヴァン・ルドゥレジィ(p3n000019)が、軽く息を吐きながら椅子に座った。先日の依頼は大変だったろうけれど、とても助かった、と前置きをする。
 そして、その顔には常通りのひょうひょうとした笑顔が浮かんでいた。
「何だか被害者が出てるみたいでね。ちょっと放っておけないかなって」
 彼の話はこうだ。
 夜、月明かりの下で路地裏を歩いていると、"何か"に襲われるという事件が頻発している。
 その"何か"とは、噂では"自分自身"とのことだ。
 自分自身と全く同じ姿形をしたそれは、まるで自分こそが本物だと主張するようにその人物を殺してしまうらしい。まるで鏡に写ったかのようなその"何か"は、武装や戦闘能力も同じものを写し出してしまう。何の対策もないまま対峙すると、本物かどうかを見分けられるのは本人以外には難しい。加えて、その"何か"はその場に居合わせた全員の写しを現すため、イレギュラーズたちが立ち向かった場合、それと同じ人数が立ちふさがることだろう。
「まさか、そんなドッペルゲンガーみたいなことになってるなんて、ちょっと面白いでしょ。まぁ、被害者が出てるから笑い事じゃないんだけどさ」
 ヴァンはそう言ってから、一枚の地図をイレギュラーズたちへ差し出した。
「このマークがついている場所に現れるみたいなんだ。危険な相手だけど、君たちなら何とかなるでしょ? 精々気をつけなよ」
 こともなげにそういうと、彼はひらりと右手を振るう。そして、バラバラと零れ落ちたのは、鉄製の真っ直ぐな釘だった。
「……作戦と運次第、かな」
 そう呟いた声は、ローレットの喧騒に小さく消えていった。

GMコメント

初めまして。久部ありん(キューブ・アリン)と申します。
ご閲覧いただきまして、ありがとうございます。
今回はとある鏡写し、ドッペルゲンガーを退治するための依頼です。
以下に情報を開示いたしますので、ご確認ください。

●依頼達成条件
・鏡写し(ドッペルゲンガー)を退治すること

●鏡写し
・鏡写しはイレギュラーズと同じ人数、同じ姿を取ります。
 後から遅れて参戦する場合でも、その人数分の新たな鏡写しが現れます。
 そのため、結果的に8名を相手にすることになります。
・スキルや戦闘能力もコピーされますが、強さは本物にやや劣ります。
・便宜上鏡写しと表記しておりますが、左右が反転していることはありません。
 本物に忠実なドッペルゲンガーとなります。

●状況
・月明かりと街灯のある広い路地裏です。
・人気はないため、人払いは必要ありません。

以上です。
ご縁がございましたら、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

  • 鏡の国に至る物語完了
  • GM名久部ありん(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月28日 20時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
ティバン・イグニス(p3p000458)
色彩を取り戻す者
オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド

リプレイ

●鏡の国のマリス
 月が空を支配する。太陽は夕陽によって殺されて、星のない月だけが夜を覆い尽くしていた。
 そんな仄明るい月明かりのもと、イレギュラーズたちは目的地へと足を運んでいた。場所は人通りの無い裏路地。広さは充分にあり、獲物を振り回すのに支障はない。支配者たる月の明かりのおかげで、見通しも充分にある。
「ドッペルゲンガー……ああ、能力をコピーする怪人となら戦った事があります」
 ぽつりと呟いたのは、『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)だった。腕を組んで指先を顎にあて、考える仕草をする。相手に勝つためには、本物にしか持ちえない物を使うこと。しかし、今回の相手はどうやら所有品やスキルまで写されてしまう。であれば、思考で真贋の差をつけるしかないだろう。
 一体、誰がこんなことを。
 その呟きは、夜の闇へと溶けていった。
「鳴や皆の鏡写し、偽物……自分がもう一人いる、なんてことは凄く不快なの、文字通り鏡を見ている気分なの」
 『緋焔纏う幼狐』焔宮 鳴(p3p000246)が苦々しい表情で言葉を紡ぐ。
「凄く凄く、嫌なの! 被害も出てるみたいだし、すぐに解決させるの!」
 立派な毛並みの尻尾を揺らして、鳴は言う。誰が、だとか、どうして、だとか、そんなものは関係ない。そんな理由など必要ない。ただ、目の前にある不愉快な障害を排除する。ただただそれだけで、鳴にとっては充分な理由となる。
 ティバン・イグニス(p3p000458)もまた、彼女たちに同意する。なぜこのようなモノが出現するのかはわからない。だが、敵ならばただ滅するだけ。至ってシンプルで、明快な答え。自分が召喚される前の記憶は残っていないが、なぜかこの月明かりにはシンパシーを感じる。もうしばらくすれば、月の支配も終わるだろう。そう考えると、少しだけ頭が痛んだ。
 そして、『Esper Gift』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)もまた思考する。ダンジョンの中枢部に侵入者対策としてこういったモノが出現するという話を耳にしたことはあるが、実際に相見えるのは初めてだ。しかも、そのレベルと同等のコピー能力を持ったモノが街中で現れるとは思っても見なかった、と。しかし、いくらそう考えてみたところで結果は変わらない。
「まさか、偽ってる私のさらに偽物なんて、ね」
 秋空 輪廻(p3p004212)が口元に薄く笑みを浮かべてささやく。偽りに身を浸した自身を、さらに偽ろうと言うのか。その行為がおかしくて、その行動があやしくて、指先を唇に当ててくすりと笑う。
「良いわ。偽物同士、望み通り殺し合ってあげる」
 真っ白な面で隠されたなかで読み取れるのは、唇が薄く弧を描いたということだけ。妖艶な雰囲気をまとった彼女は、夜の闇がよく似合った。
 そんな彼女たちを見て、エリーナ(p3p005250)も腕を組む。
「見た目だけでなく装備や能力まで似せてくるとは厄介な敵ですね」
 今回の敵は見た目だけのコピーではない。その標的が用いる戦闘能力さえも写してしまう。容易には判断することが難しい。しかし、だからといって遅れをとるわけにはいかない。事前に準備した合言葉や目印となる行動の最終確認を行った。
「がんばりましょう」
 エリーナがそう言った瞬間、そのモノたちが蠢いた。

●ドッペルゲンガーの夢
 影が蠢く。
 それぞれが月明かりに照らされて伸びた影が、まるで意志を持つかの如く波打った。
 そして、それはやがて像を結ぶ。
 集まったイレギュラーズたちと全く同じモノたちが、そこには現れていた。
 きつく睨む表情や、戦いに備えて獲物を握りしめる腕のかたち、それら全てが全く同じに象られている。
「さて、こいつは真似できるか? やってみろよ」
 『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019)が、己の武器をギフトによって自身の中に仕舞い込む。すると、彼と全く同じかたちをしたモノが、同様に武器を己の中に収納した。そして、叫ぶ。
「本物のオレに試させようなんざ、いい度胸じゃねぇか!」
 自身こそが本物であると叫んだ声によって、イレギュラーズたちは一瞬真偽のほどを見失う。
 しかし、『主無き侍従』オフェリア(p3p000641)はイレギュラーズたちが最初に立っていた位置から動いていないことを見て、どちらが偽物か理解していた。だが、それも最初のうちのみ。戦闘が開始されれば乱戦になることは必至。いまのうちに、出来るだけ対象を絞ろうと声を張り上げる。
「輪廻さんの鏡写しから狙ってください!」
 まずは攻撃力の高い前衛に位置するモノから。その作戦に則って、彼女は叫んだ。そして、遠距離から術式を放つ。
 それを見て、鳴が動いた。輪廻は二人で向かい合うかたちに立っている。それだけでは、どちらが本物なのか見て取れない。だからこそ、事前に確認した合図を使う。
「目印を見せるの!」
 鳴がそう言うと、片方の輪廻は目印を堂々と晒し上げ、もう片方の輪廻は目印を隠した。それによって、真贋のほどがはっきりする。
「貴方が鏡写しだねー」
 クロジンデが術式を放つ。それは、目印を晒し上げた方だった。
 目印を見せろと言われたら、見せずに隠すこと。
 それが、取り決めていたルールだ。
 鏡写しには、それがただ目印を確認するための行動としかとらえられていなかったのだ。それが決め手となり、輪廻の鏡写しは判明した。あとは、叩き潰すだけ。
「さようなら、偽物のニセモノの私」
 輪廻が漆黒に染まる絶望の大剣をもって、ニセモノの命を散らした。
 次いで狙ったのはリオネルの鏡写しだった。
 合言葉として決めていたのは、通り際に見た店の名前。
 鏡写しは当然その言葉を言えずに、真っ先に攻撃対象として狙われた。
「どかんと、喰らえやぁ!」
 リオネルが自身の鏡写しに向かって、我が身を顧みない攻撃を繰り出す。その一撃で、鏡写しはさらさらと砂のごとく闇夜に溶けて消えていった。
「本物は僕です!」
 アルプスが叫ぶ。いや、正確には、アルプスの本物と思われしモノがそう叫んだ。そして、もうひとりのアルプスへ向かって人身事故のような捨て身の攻撃を放った。
 それを見て、オフェリアが疑念を抱く。
 確か、アルプスは自身の鏡写しが存在している間は蹴戦で戦うと言っていたはず。それを記憶していた彼女は、いまの攻撃を放った方がニセモノであると看破した。しかし、自身だけが判明していても、他のメンバーはそれぞれ行動を取るべきか否か悩んでいる。
「合言葉を! アルプスさんの好きなモノは!?」
「…………!」
「良質なガソリンとオイル、降水確率0%!」
 言葉につまった片方と異なり、もう片方のアルプスは即答した。それを見て、皆が標的を見極める。全員の攻撃が集中するなか、ティバンの一撃で鏡写しは夜露に消えた。
 しかし、そのティバンに向かって攻撃してくる相手がいた。
 そう、ティバンそのものだ。
「よう、鏡写し。お前と俺の合言葉を言ってみろ」
「…………」
「知らないなら教えてやる。俺の合言葉は『パカダクラ』だ!」
 その言葉で、ティバンの鏡写しも容易に判明した。味方にもその言葉は伝わっている。これで、前衛に位置していた三名がそれぞれ鏡写しを屠った。
「本物の鳴は鳴なの!」
「違うの、鳴こそが本物の鳴なの!」
 ウィッチクラフトでファミリアーとして召喚したカラスを肩に乗せ、鳴が叫ぶ。しかし、どちらの鳴も同じようにカラスを肩に乗せており、どちらが本物なのかわからない。味方が攻撃しようにも、もしも誤って鏡写しの方を攻撃してしまったら鳴の生命が危うい。だが、最初から鳴は自身の鏡写しにのみ攻撃を加えていた。鏡写しは本物よりもわずかに能力的に劣る。それが唯一の手助けとなり、ギリギリのところで片方の鳴が消滅した。死体が残らないのは鏡写しの証。生き残ったのは、間違いなく本物の鳴だった。それを見て、オフェリアが迅速に彼女を回復する。だが、消耗が激しくもう戦える状態では無いだろう。
 次いで、前衛を全て倒しきり、後衛に位置していたクロジンデが動く。合言葉を口にしたため、今度は真偽のほどがハッキリした。ギフトの有無によって鏡写しか否かを区別しようとしていたが、鏡写しはギフトごとコピーしているためにその作戦は失敗だ。せめて合言葉を決めていたことが好機となった。もしも合言葉を決めていなかったならば、もしかすると戦闘不能にまで追い詰められていたかも知れない。
 そう、鏡写しは本物を狙う。
 そのため、いくらイレギュラーズたちが一体ずつ撃破する作戦を用いていたとしても、相手の鏡写したちももまた一体ずつ撃破するためにターゲットを決めてくるわけではない。
 鏡写しは自分自身の本物にのみ、執拗に攻撃を繰り返していた。
 そのため、クロジンデもこれまでの戦いのなかでずっと自身の鏡写しに攻撃を加えられていた。オフェリアの回復も、ひとりでは全員分まで手がまわらない。回復の優先順位を決めていたことが幸いしたか、いまのところは脱落者は出ていない。
「合言葉は、チーズケーキです!」
 残り二体。
 エリーナが叫ぶ。それは本物が決めていた合言葉だ。事前にマントを着ており、それを脱ぎ捨てることも作戦のひとつではあったが、それも鏡写しに真似されてしまい、本物との差は無かった。決めていた合言葉を叫ぶことで、彼女の真偽のほども確認された。
 エリーナは鏡写しに向かって遠距離から術式を放つ。だが鏡写しもまた同様に、その場から動くこと無くエリーナに向かって射撃した。
 あと少しで倒せる。
 そう思った瞬間。
 エリーナの鏡写しが祝福の光で包まれた。
 そう、後衛で攻撃力の低いオフェリアの鏡写しが、彼女の鏡写しを回復しているのだ。残り二体となったことで、回復相手がぶれることもない。ただ集中して、エリーナの鏡写しを回復することが出来る。それは自身が鏡写しであるということを証明することにほかならないものの、一体ずつ撃破するという行為にのみ焦点を当てた作戦では際立って効果を見せていた。
 一体ずつ撃破するということは、残りのモノがフリーとなる。先程のように、本物のみを狙う鏡写しはバラバラに動いていた。
 攻撃しても、すぐに回復されてしまう。
 この状況を打破すべく動いたのは、リオネルだった。徐々に距離を詰めていた彼が、重い攻撃を繰り出すために息をためる。
「いくぜ、ハンマーナックル!」
 その一撃で、オフェリアの鏡写しがひるむ。その隙を見て、皆が一斉にエリーナの鏡写しに向かって攻撃を集中させた。
 絹を裂くような悲鳴を上げて、エリーナの鏡写しが砂となる。
 残るは一体、オフェリアの鏡写しだ。その正誤を確認するまでもない。先程までエリーナの鏡写しを回復していたのだ。その区別はもうすでにイレギュラーズたち全員がついている。
「なん……で……」
 苦しそうに、鏡写しが言葉を零す。
 イレギュラーズたちの攻撃を一身に受けながら、苦渋の表情を浮かべて血を滴らせる。
「どう……して……」
 その攻撃を身に受けて、なんとか自身を回復する。
 だが、すぐに別の者からの攻撃を受けて、身体を跳ねさせる。
「私たちは……」
 集中攻撃を受けてなお、立ち続ける。
 血にまみれて傷を受けてなお、存在し続ける。
「……私たちは……ただ……」
 身体を折り、眼から血の涙を流し、イレギュラーズたちをぎらりとした瞳でにらみつける。
 
「ただ、存在していたかっただけなのに――――!」

 鏡写しがサイズを振りかぶる。
 そして、それをオフェリアが受け止めた。
「――偽物に負ける道理はございません」
 その冷たく透き通った声とともに、オフェリアは術式を唱える。
 勝負は、それで決まった。

●ドッペルゲンガーの現
 月の支配が終わる。
 地平線から朝日が差し込み、月は星の断末魔とともに空から姿を消していた。
 全ての戦いを終え、イレギュラーズたちはその身体を癒やしていた。
「ところでよ、偽者は本物を殺した後、どうしてたんだろうな?」
 リオネルが何気なく、誰にともなく疑問を口にする。
 倒した後、変身が溶けて本体が顔を覗かせるのか。
 それとも――本物として成り代わり続けるのか。
 鏡写しが最後に残した言葉。
 ただ、存在していたかった、と。
 その言葉が答えならば、それはどんなに悲劇的で、そして、虚しい物語だろうか。
「んー、何もないねー」
 雰囲気をかき消すようにのんびりした声をあげたのは、クロジンデだった。彼女はこの現象について物珍しさを感じ、何かしら裏があるのでは、と危惧していた。本来ならばダンジョンの奥深くに登場するかのような能力を持った鏡写しが、なぜこのような街中で現れたのか。その原因を探るべく、周囲を捜索していたのだ。
 だが、成果は無かったようで、ただその小さな顔を少し傾けるだけだった。

 この戦いで残ったモノは、ほんの少しの悲劇と、自身が本物だという実感。
 すれ違った何かがあったのかも知れない。
 その真相は、月とともに消えてしまった。
 こうして、イレギュラーズたちの長い夜が明けていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
この度はご参加いただきありがとうございました。

皆さまのおかげで、鏡写しの怪は終焉を迎えました。
よく練られた真偽を確かめる術、お見事でした。

素敵なひとときをありがとうございました。
次回もご縁がありましたら、ぜひよろしくお願いいたします。

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