シナリオ詳細
オネエヤクザとクリスマス
オープニング
■ヤクザとは一体
「そういえばクリスマスなのねぇ」
ダンジョンと化した塔。それの踏破を目指す冒険者達と、彼らを相手に商売する人々が集まってできた街。そこに拠点を置くヤクザ一家の頭、明は白い息を吐きながらクリスマス一色に飾られた街並みを見ながら呟く。
この世界にもかの聖人の逸話はあるようだ。子供たちに夢を与える存在であるのも同じく。
「ああ、そういえばそうか。もうそんな時期かー」
明の隣、頭一つ分ほど彼より低い娘……いや、息子。桜姫も一年を振り返りながら父親に同じく街並みを見渡す。
「今年はダンジョンアタックは休みにして、クリスマス楽しんじゃう?」
「珍しいな、親父がそんな事言うなんて」
いつもの明ならば、記念行事なんて無視をしてストイックに塔にチャレンジしているのに。どういった心境の変化であろうか。
もっとも、彼に影響され一緒に行動する桜姫も。こういった行事に参加する事はほぼない為に、少し楽しみになった。
この後の爆弾発言が落とされるまでは。
「ほら、あの格好、お姫ちゃんに似合うと思ってねぇ」
明が指差したのは武具屋の脇に飾られたミニスカサンタ服。言うまでもなく女性用である。
桜姫はれっきとした男である。しかし、父親ほど強靭な肉体ではなく、顔が女顔な為に……彼のコンプレックスの一つである。
「っざけんなこのクソオヤジィィッ!!」
桜姫の怒号と共に、魔力で練り上げられた巨大ハンマーが振り下ろされた。この街ではよくある光景である。
そして抵抗する桜姫を、腕力でねじ伏せる明というのも、いつもの構図なのである……。
■ということで、クリスマスパーティーだよ
「以前に一度出向いてもらった、塔のダンジョン覚えてるかな?」
境界案内人のポルックスは集ったイレギュラーズを見渡しながら、手にした本をひらひら振る。知っているような、知らないような反応が帰ってくるが気にしない。
「そこのふもとの街に暮らしてるヤクザ……とは言っても暴行や恐喝はしないいいヤクザさんなんだけど、その人達が街の人たちとクリスマスを祝おうってしてるらしいの」
ちょうどいい機会だし、異世界のクリスマスを体験してみたら? とポルックスは笑顔でイレギュラーズ達に問いかけた。
- オネエヤクザとクリスマス完了
- NM名以下略
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年12月29日 22時25分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
■聖なるこの夜に
「フフフ、明ちゃんに桜姫ちゃん、キヨちゃんにピコちゃんも久し振り、元気にしてた?」
「あら、誰かと思えばミキティじゃない、久しぶりーっ」
『鬼子母神』豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)の声に、明るい笑顔を向けるヤクザの頭、明。筋骨隆々の男二人がオネエ言葉で会話しているという、慣れない人から見れば一種の地獄絵図である。この場にそんなことを気にする者はいないが。
「そちらは、ミキティのお友達?」
「ええ、そうよ」
美鬼帝に促され、礼を行う三人。『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は相手がヤクザと知って若干身構えていたが、言葉遣い以外は至って普通だと感じて警戒を解く。
(何が悲しくてヤクザと共にクリスマスを過ごさなくてはならないのか……)
と内心毒づくも、独りよりはマシかと考え直す。かわいい女の子がいると思えば、それは女装させられた少年、桜姫だし。それ以外はおばちゃんか子供かしかいないのが少々残念ではある。
しかしそこはこの世界。さほど執着はしない。しているのかもしれないが、顔には出さない。いつもポケットに隠し持っている、そしてどれだけ出てくるのかわからないお菓子を、子どもたちに配るサンタのマネごとをするのも良いかと、いそいそと用意し始める。
「あ、桜姫、だっけか。その帽子、まだあるか?」
「あ、ああ……ほら」
謎の力により外れないカチューシャを隠す為に、サンタ帽子を借り受けかぶる。その際に桜姫が気落ちした表情だったのが気になった世界はせめてものフォローを、と。
「たまにはそういう格好もいいじゃねえか。結構似合ってるしな」
「フォローになってねぇし、たまにじゃねぇんだよ」
冗談だ、と笑う世界に、はぁとため息を吐く桜姫。
そんな彼を、じっと見上げる顔が一つ。
「……なに?」
「桜姫様はひとりだけ服装が違うのが嫌なのでしょうか? なら、ニルも同じお洋服を着ます」
『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)が、何故かスペアの存在していたミニスカサンタ衣装に着替える。止めようとした桜姫だが、どことなく楽しげなニルの顔を見て、まあいいかと手を引っ込める。
性別の存在しないニルが着れば、とても可愛らしい少女に見える。桜姫と並べば姉妹に見えなくもないくらいだ。桜姫にはちょっと心に何かクるものがあるが。
「……ありがとな」
なんとなく気遣われたのを感じたのか、桜姫は礼を言う。首を傾げたニルは、すぐに笑顔でどういたしましてと返した。
「桜姫ちゃんも元気にしてたかしらぁ?」
「ああ、まあ、なんとか……ちょ、潰れる!」
気落ちしていた桜姫を元気づけるべく、美鬼帝がハグをするが。線の細い身体の桜姫には少し痛い。しかし彼は気にする事なく桜姫の頭を撫で。
「似合ってるけど、その服は気に入らなかったのかしら? 大丈夫よ、今度は希望の服が着れるはずだから」
母親を知らず育った桜姫は、男なのに美鬼帝の内部に母親を見る。それが照れくさかったのか、美鬼帝の手を払い除けて視線を外し。
「……うるっせーなー……ありがと」
「ふふ、どういたしまして」
反抗期の少年のような、それでいて素直な反応に、美鬼帝は微笑ましさを感じた。
■宴じゃ宴じゃー!!
「今日はいくら飲んでも怒るババア(同僚)も居ないし好きに飲んで食って遊ぶのよぉ!」
『自堕落適当シスター』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は元気一杯だった。有り余りすぎていた。その発言はシスターとして正直どうなのだと思うイレギュラーズ達であったが、今日は無礼講。この世界の住人達は気にしたりしない。
「おう、姉ちゃんも飲むか!」
「飲む飲む!まぁぁぁぜぇぇぇてぇぇえ!!」
ヤクザの一員が飲み比べをしていたところに、遠慮なく飛び込む。こうなればコルネリアの辞書からは遠慮という文字は抜けさる。駆けつけ一杯、早速呷る。
「くぅー! いいお酒ね、これは!」
「いい飲みっぷりだな、じゃんじゃんいこうぜ!」
(これはお料理頑張らないといけないわねぇ)
その様子を離れてみていた美鬼帝は厨房に入り、料理手伝うわと申し出る。にぎやかな宴会の裏で忙しい盛りだった厨房からは歓迎され、彼も早速腕を振るう事に。
「はい、ニルちゃん。これ持っていってあげて!」
「はいです」
サラダを手にしたニルが、酒盛りの場へと運ぶ。見た目が可愛らしいニルは酔っ払い達に大変好評であったが、手を出されることはない。
なにせ、酔っぱらい達のすぐ後ろには、悪事を見逃さないヤクザ、明がいるのだから。
「おいおい、そんな慌てなくてもまだ菓子はあるぞ」
酔っ払い達から少し離れた場所で、世界は子供達を相手に奮闘していた。お菓子を配ってくれる世界を見て、サンタさん、サンタさんだと興奮状態になった子供達が集合してきたのだ。
トナカイの格好をしたら不審者だな、と思っていたのでサンタ帽子をかぶるだけにした世界だが、逆効果だったようだ。いや、格好は関係ないかもしれないが。
今もまた一人、一人ともらっていない子ともらった子を見分けながら漏れがないように渡していく。ぶっきらぼうなようでいて、面倒見がいいのが世界という男だ。
誰一人見逃す事なくプレゼントを渡す彼もまた、サンタクロースであると言えるだろう。
「ありがとうね、皆にお菓子をプレゼントしてくれて」
お菓子を配り終え、若干疲れた世界が最後に残った飴玉を口に頬張った頃。明が世界に声をかける。その表情はとても穏やかで、ヤクザや喧嘩師といった物騒な言葉とはかけ離れた、普通のお兄さんのように見えた。
「いや、たまにはこういうのもいいかな、と」
「ふふ、いいことをした貴方には、きっといいことが起きるわよ」
「だといいけどな」
ふっと笑い合う二人。酒、飲めるでしょ? という明の誘いに少しだけならな、と返す世界。
「ローストビーフできたわ! シチューはどう!?」
「もう少しっす!」
いつの間にか厨房で仕切り役になっていた美鬼帝。何故か明の右腕であるキヨまでもが駆り出されていた。まさしく戦場、油断は命取りである。
「ミキティ、次は何すればいいです?」
「はい、お酒持っていってあげて!」
とことこと可愛らしく声をかけるニルに、余裕のなくなってきた美鬼帝は声を荒げる。ニルは気にせずに指示された通りの仕事をこなしていく。
「はい、おまちどうさまです」
「ありがとうだわー」
ニルから酒瓶を受け取ったコルネリアはというと。何故か簡易懺悔室を開いていた。一体何がどうなって、そうなったのかもはやコルネリア本人も覚えていないだろうが、意外と人が並んでいる。
「実はこの間、カミさんの大事にしていた皿を割ったのは息子だと罪をなすりつけてしまいまして」
「いや、それは最低だわ父親として。でも家族だもの、きちんと謝れば許してくれるわ。クリスマスだものね」
言葉だけ聞けば立派にシスターしているのだが、聞く方も懺悔する方も片手に酒瓶を抱えているのは異様な光景である。本人たちは至って真面目に懺悔室をしているつもりなのだが。
■聖夜の終わりに
「ほら、桜姫。お前の分だ」
世界が桜姫を探し出し、お菓子を渡す。彼の分は別にとっておいたのだ。
「あ、ありがと」
「さっきは悪かったな、笑ったりして。……フォローとか苦手なんだよ」
「だろうな」
少しは気が晴れたのか。今度は桜姫が世界を笑う。不思議と嫌な感じはしない、友人、悪友といった感じの空気だ。
「言うようになったな。ま、いい傾向だ」
「お陰様でな」
「お疲れ様、ミキティ」
「ええ、ありがと。……んー、いいお酒だわ」
ようやく落ち着いた厨房から抜け出した美鬼帝に、明が酒を一杯手渡す。ぐいっと飲み干した美鬼帝が酒気と共に息を吐くのは、彼の姿が相まってまさしく鬼のようであった。
「ダンジョン、頑張ってる?」
「ぼちぼち、ね。上に行けば行く程魔物は強いから」
それでも、絶対に行かなければいけないのだけれど。と。何かの決意を瞳に宿す明。そんな横顔を見て、美鬼帝はぼんやりと、彼には隠し事があるように感じた。
しかしそれを聞き出す事はしない。今はその時ではないとも感じたからだ。
「また手伝える事があったら呼んでちょうだい。……友誼の盃、といきましょ」
「あら、いいわねぇ」
奇妙な、しかし確かな絆がここに一つ。
「メリークリスマス、……だったかしら? いい言葉ね」
「これが、『おいしい』なのです……?」
まだ続く宴の一角に、ニルは座る。見た目からして酒は駄目と言われたので仕方なくジュースと、チキンを手に。楽しげな皆を見回す。
温かい。料理だけじゃなく、胸が。人と人の繋がりが。こうして皆で一つの卓を囲んで食事をするということが。
『美味しい』というのがわからないニルに、ほんの少しだけ『おいしい』と感じられる料理と、一時。忘れないでおこう、と一人誓う。
「ふふ、君も楽しんでるようで何よりだわ」
ニルの隣に座るのはコルネリア。結構飲んでいたはずだが、まだ口調はしっかりしている。
「はい、楽しいです、ここは」
「そうね。皆が皆、自分らしく生きてる。時々喧嘩をしていても、次には笑い合える。いいところだわ」
美鬼帝と盃を交わしている明を見て、コルネリアは目を細める。きっと彼の努力が報われて、受け入れられてこの街は皆が繋がっている。
そうじゃなければ、彼の一言で街中の人たちがこうして集まったりなんかしない。
「願わくば、この街の絆が永遠に壊れる事のないように」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
出発日が26日。クリスマス終わってるやん以下略です。
この物語は拙作『ヤクザとダンジョンと子供とオネエ』の続きですが、前作を読まなくても問題はございません。奮ってご参加下さいませ。
この街に住まう人々と共にクリスマスを楽しんでくだされば、それだけでOKです。
以下登場NPCとか起きそうなイベントとか。
・ヤクザの頭、明
筋骨隆々の肉体派イケメン。だけどオネエ言葉。そのキャラが功を奏してか街の人々からは慕われている。
何を思ったのか、クリスマスパーティーを主催。費用は全て彼持ちの無礼講です。ですが行き過ぎた行動には鉄拳制裁が下るかも……?
・頭の息子、桜姫
美少女のような少年。父親のような屈強な肉体ではないこと、女顔な事がコンプレックス。父親とは違い魔術師としての道を歩む。
OPでは父親に抵抗してましたが、結局実力行使で負けた為ミニスカサンタ着用です。結構凹んでるのでフォローしてあげると立ち直る、かも?
・ヤクザの組合員
明の部下。結構数はいます。皆それなりに気はいいやつ。口は悪いけど。
たまーに酒癖悪いのがいたり。
街の子供たちにプレゼントを配ったり、街の人々と酒を飲み交わしたり、ヤクザ達と何か語らったり。
ご自由にお過ごし下さい。この日ばかりは暴力沙汰はありません。
ですが公序良俗に反する事や行き過ぎた悪事などは明が見逃さないのでご注意を。
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