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シナリオ詳細

<忘却の夢幻劇>月がとてもきれいな夜に

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●<奇しき月>
 一人の主を求める剣がある。時の中で忘れられていたその剣は城の宝物庫から盗み出され、様々な人の手を渡ってきた。天を映す銀の刃に、次々に色を変えるオパール飾りの鞘。名を<奇しき月>という。
 さて、由緒を持つ物品は追々にして人格を得てしまうもの。<奇しき月>もまた、時の中で人格を得た剣であった。
 そして、意識を宿した剣は、不幸なことに殺戮に向いた魔剣であった。

 色硝子の城そびえる王都ラウアザン、裕福な者達が住まう<星貨通り>。ソラは『平均的でラウアザン貴族』のイオラス家に使える小間使いであった。イオラス夫人の奇癖は小間使いを集めることであり、夫人の部屋にはいつでも身綺麗にした数人の娘達が楽しそうに仕事をしていた。気質の優しいソラはイオラス夫人一番のお気に入りであり、彼女の主は人形のようにソラを飾り立てては自慢をしていた。同僚との関係は悪くなく、報酬と扱いはまとも、ラウアザンで幼い妹弟や老いた両親を食べさせていくには、十分すぎる仕事であった。

 その、ソラが消えた。

 イオラス夫人は慌て、イオラス卿もまた別の意味で慌てた。卿の自慢である美しい剣もソラと共にまた忽然と消えていたのだった。
――あの子が盗みを働く訳がありません。
 そう何度も訴えるイオラス夫人の訴えを跳ねのけ、イオラス卿はソラを盗人として探し出すよう部下に命じた。何せ彼女と共に消えたのは比類なき美と確かな力を持つ、オパール飾りの鞘持つ魔剣、<奇しき月>であったのだから。とはいえ、ようとしてソラの行方も剣の行方もしれず、何時しか魔剣の話も消えた小間使いの話も噂話の中で消えていった。

 そして、ある日、ふいにソラとよく似た面影の娘が噂に上がる。神出鬼没にしてラウアザンの騎士も手をこまねく剣の達人。踊るように首を刈る娘――月の美しい夜に現れる殺人者。あちらに現れたと思えばこちら、犠牲者に共通点はなく、ただ、月の見える日に出歩いていたがゆえに殺された。
 無法者住まう地下のラウアザンから貧民住まうスラム街、そして貴族集う王城も皆恐怖に震えた。ラウアザンの王はこの事象に特に心を動かされることはなかったようで、夜毎に気まぐれに人が死んでいった。

 人はいう。犠牲者は、美しい月の光に誘われてふらふらと外へ出て、殺されたのだ、と。
 <奇しき月>の名に相応しいように。

 ソラと呼ばれていた娘は歌をうたう。今宵は良き月の光。この子もきっと喜ぶでしょう。
 抱きしめたオパール飾りの鞘持つ剣は、月の光を受けて、無邪気に輝いた。

●月のある夜の殺人鬼
「という訳で、魔剣に憑りつかれた殺人鬼を倒して来てほしいのだよ」
 『学者剣士』ビメイ・アストロラーブは己の剣をちらりと見てから皆を見る。
「世に魔剣は多々ある。命を吸い取るもの、不幸をもたらすもの、使用者を乗っ取るもの――私もかつて様々な魔剣の噂を耳にして来たし、この<図書館>にある物語にも様々な魔剣が記されている。斬った者の命は取らず、服だけ散り散りにさせるとか、持ったものの語尾を強制的に変えるとか」
 さらっとトンチキ魔剣を例に出すビメイ。真顔である。
「殺人鬼の正体は小間使いのソラ。魔剣<奇しき月>に魅了されている状態だ。半ば乗っ取られているともいう。魔剣に魅了されてそのまま持ち出した。剣の影響を受けている今は、並の戦士以上の剣の技を使う」
 まあ、四人がかりでならどうにかなるかもしれないな、とビメイは続ける。
「――<奇しき月>は主を求めている。理想の主を求めるあまり、持ち主の意識を狂わせてしまうほどに。故に、君達も……決して、乗っ取られないようにしたまえよ? 会えなくなるのは寂しいからな」

NMコメント

 <忘却の夢幻劇>へようこそ。ろばたにスエノです。
 月の夜に踊る殺人鬼、魔剣の持ち主と戦いましょう。

●今回の舞台
 色硝子の城そびえる大都市ラウアザンです。「琥珀盗人」、「逃亡」の舞台でもありますが、今回の話には関わりはありません。貴族の住まう<星貨通り>から商人の集まる<絢爛の大市場>、スラム街に無法者の住む地下世界――様々な顔を持つ大都市です。人口は多く、港や門から様々な旅人や商人が行き来しています。

●目標
『殺人鬼<奇しき月>の退治』
 <奇しき月>の正体は後述する小間使いのソラが同名の魔剣に魅了された姿です。素早さにと奇襲に重きを置いた剣術を使います。攻撃を避ければまたどこかに隠れ、襲い掛かって来るでしょう。彼女の次に現れる場所は、ビメイによって教えられています。曰く、酒場の多い下層街、<炎酒通り>です。本来は夜も行き交う人の多い場所ですが、<奇しき月>の噂に怯え、人の影は見えません。路地は二、三人が行き交える狭さで隠れる場所は沢山あります。

●登場人物達
 <奇しき月>:同名の剣を持った殺人鬼。正体は魔剣に魅了された小間使いのソラ。現在の戦闘能力はほぼ魔剣に由来するものです。剣の方は、優美な装飾を施された澄んだ銀色の刃の長剣で、オパール飾りの鞘に入っています。持ち主に戦闘能力を与える代わりに、魅了して己が理想の主でいるように支配する剣。観賞用として作られながらも、武器として使われるうちに意識を持ちはじめ、殺戮の中で発狂。犠牲者に美しい死を与えることに執着するようになりました。ソラの手を離れたとしても、また主を探すかもしれません――。

●サンプルプレイング
「いかに魔剣といえども振るう腕がなければただの金属。全力を尽くして立ち合い、付け焼刃の剣技を真正面から破るとしよう。その後、他の事件が起こらないように剣を破壊する」

 それでは、よい冒険を。

  • <忘却の夢幻劇>月がとてもきれいな夜に完了
  • NM名蔭沢 菫
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月27日 22時00分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
浜地・庸介(p3p008438)
凡骨にして凡庸
黄野(p3p009183)
ダメキリン
カルマ・モンクスフード(p3p009282)
魔法少女(?)マジカル★カルマ

リプレイ

 夜明け前の昏い空に、首を刈り取る刃にも似た逆三日月が冷たく輝いている。ラウアザンの<炎酒通り>には、今は人はいない。皆、美しい魔剣を持つ殺人鬼の噂に怯え、戸口を閉めて息をひそめている。
「お月様、お月様、今宵の月は細い月、明け方さすらう者の月」
 澄んだ娘の歌声が、ふいにどこからともなく聞こえる。愛らしい少女の歌声だ。歌はふいに止まり、影が道に音もなく舞い降りる。
 影の主は若い娘、お仕着せの白い衣は返り血で染まり、こけた頬と爛々とした緑の瞳は病に侵されたかのよう。長い黒髪はもつれ、ところどころが血で固まっている。
 ラウアザンの都を脅かす殺人鬼、<奇しき月>。彼女はすらりとオパール細工の鞘から剣を抜く。月の光の様に冷え冷えとした光を放つ銀の剣からは、明らかな殺気が漂っていた。
 腐った血の香りを漂わせた殺人鬼は、朗らかに微笑む。
 ――<特異運命座標>達へ、殺意など似合わない、無垢な表情で。

 意気揚々と殺人鬼を見、剣先を下げて誘うのは『正直な旅人』黄野(p3p009183)。
「ほうれ、ここに首があろう? 風月を愛で、人を愛づる、仁の獣の首よ」
 誘われた様に殺人鬼<奇しき月>は足を進める。
「ああ、綺麗な子。綺麗な月が好きなのでしょう、殺されるのは、嬉しいでしょう……」
 夢見心地に呟く殺人鬼。
――民の安寧が奪われたままでは、この地の『まことの王』に申し訳が立たんからの。
 黄野は、かつてラウアザンで会った男のことを思い出した。

 銀の剣をふむ、と見るのは『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)。
「魔剣、いい響きだ。しかもエゴがあるとは面白い」
 そして、ちらりと側の筋骨隆々とした男を見る。
「人を魅了して殺人鬼にさせるとか……なんて呪われた魔剣だろうか……まるでどこかの魔杖と似てないか? アザミ」
 世界に見られていることに気付かず、自分の武器を思わずじっと見たのは『魔法少女(?)マジカル★カルマ』カルマ・モンクスフード(p3p009282)。意志持つ魔杖「マジカル★クローバー」の精霊、アザミは不服そうにカルマへ訴える。
『心外でちね!カルマ!我はあんな精神干渉して契約者を自分の思い通りにしか動かさな紛い物よりよっぽどアフターケアに優れた武器でちよ!というか、武器の風上にも置けないあんな紛い物は破壊するに限るでち』
 苦い表情を浮かべるカルマ。意志持つ武器に人生を狂わされた男は、目の前の娘を助けんと、魔杖に呼び掛ける。
「無辜の少女を殺人鬼にして操る剣など言語道断。 彼女を助ける為にも……力を貸してくれ、アザミ」
『勿論でち!さあ、いくでちよ、魔法少女マジカル★カルマ!』
 
――宿業装着……マジカル★クローバーパワ――メイクアーップ!

 冷たい月の光を打ち消すかの様に、屈強なカルマの裸体が光に照らされる。数拍後、月の光の元に現れたのは、魔法の杖を握りしめ、レース溢れるピンク色の愛らしいミニドレスで鋼の肉体を包んだ魔法少女――マジカル★カルマであった。
 あまりのことに、目の前の<奇しき月>はどう対処していいかわからず――依り代であるソラも、本体である魔剣もそのような自体には遭遇したことがなかった為、機会を逃す。
「タイ捨流、浜地庸介。一手、死合おうぞ」
 その隙をついて、間合いを詰めて来たのは『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)。タイ捨流剣術の使い手である彼は、一介の剣士として目の前の殺人鬼<奇しき月>と立ち会うことを望んでいた。
「剣技とは、刃を振う技に非ず」
 呟く庸介。<奇しき月>は一太刀を身軽に避け、そのまま人とは思えぬ跳躍力で側にあった酒樽へと飛び乗り、どこかへと消える。
「どこへ消えたかの――ッ」
 天を見上げる黄野を鈍い斬撃が襲う。痛みに顔を顰めれば、すぐそこには無邪気に笑う<奇しき月>。流れる血を無視して、黄野は素早く動き回る彼女に多段牽制を仕掛ける。武器を一瞬取り落とす<奇しき月>であったが、即座に左手を伸ばし柄を握り直す。転倒を狙う一撃には嘲笑うかのような優雅な横跳びでまた頭上へと消え――襲撃。
「次はどこからくる……」
 呟く世界。しかし黄野が稼いだ数拍の時間は確かに戦列を整える役に立った。世界の横に黄野が立ち、前方にはカルマ、後方には庸介。
 世界は調和を治癒の力へと変え、黄野を癒す。傷から零れるる血は塞がり、黄野はすました顔で
「いやあ、おぬし。助かったぞ?」
 にっこりと笑う。
「――見える」
 静かに目を開き影の落ちた物陰を見据える庸介。彼が感じた殺気は、殺意と恍惚が混じったかのよう。幾ら魔剣といえども、振るうのは人間。娘の体つきから察せられる歩幅、息遣い、全てが手に取る様にわかる。
――お前のソレは、ただの飛び込みだ。
「させません!」
 騎士としての訓練を積んでいるカルマもまた殺気に気付き、魔杖を構えた。
 庸介の斬撃は静かなもの。横跳びで避けた<奇しき月>であったが避け切れず。衣が裂け、髪がはらりと斬り落とされる。
 すかさずそこに、貫くかの様に迎え撃つカルマの突きが割り込み、<奇しき月>は肩に衝撃を喰らう。更に、続けての攻撃。カルマの筋肉が魔力で増強され、屈強な肉体が更に膨れ上がる。
「マジカル★アックスボンバー!!」
 激しい一撃を剣で受ける<奇しき月>。苦痛が口元に浮かぶ。刹那、するりと攻撃から逃げ、カルマの胸元へと入る。
『危ないでち! マジカル★カルマ!』 
 アザミの声に気付く間もなく、カルマの胸を刃が貫かんとする。そこに割って入る小柄な黄野の再びの刃。カルマと<奇しき月>の間に切っ先を滑り込ませ、叩き落そうとする。結果カルマの腹部から血が零れる。<奇しき月>は飛び退きざまに斬撃を放つ。
「全く、素早い上に手数の多い……! まあ、多少の傷なんか容易く癒してやるさ」
 怪我を負う黄野にカルマ。世界は彼らを癒す。卓越した正確な癒しの技は何事もなかったかの様に痛みを止め、血を止め、全てを癒す。
「あやつ、また消えおった……!!」
 むう、と言いたげな黄野。ちらりと側の剣士を見れば、
「六時、背後」
 庸介が告げると同時に明らかな殺気が皆に襲い来る。
「ああ、陽が昇ってしまう。月が消えてしまう。残念だけど、もう終わりにしなきゃ」
 歌うような声は送られる葬送歌。黄野は剣を構え、カルマは纏う魔力を増やす。
 
 月の光を浴びて、娘が跳躍する。きらきらと輝く刃は人を魅了する魔性の光。
「どれほど鋭かろうと、当たらなければ鈍ら同然だ」
 それに向かい世界は呪文を紡ぐ。ブラックアウト。活力を奪い、行動の精度を鈍らせる術式。<奇しき月>の表情が不快な驚きで歪む。

 そして、すっと、音もなく庸介が歩み出る。あまりにも殺気を感じさせぬありのままの足運び。
――置くだけでいい。飛び込んでくるのならただ構えるだけでいい。
 柄に手をやる。跳躍した<奇しき月>の動きは、男にとって手に取る様に簡単であった。
「小手一本、剣技を使うまでもない」
 抜刀し、手元に一太刀。計算つくされた、自然な力の流れが、最も効率よく<奇しき月>を娘の手から離させる。自らの半身から切り離されたかのような苦痛な叫びは、はたして剣のものか、娘のものか。
 殺人鬼を操っていた魔剣は転がり落ち、そこから離れたところに娘が落ちる。すかさずカルマが娘を抱きとめる。
「息は、あるようです」
「それは、何よりだ。剣に操られてる人間は殺さない方針だったからな」
 世界がやれやれと肩を回し、剣に近づき触れる。
 それと同時に、惑わされぬ様に意識を整え、庸介も剣に触れる。

 <奇しき月>は、狂っていた。もはや言語ではない、壊れ果てた感情の残滓が突き刺さる。それは己の本質と乖離してしまった者の苦しみであった。
――かつて僕は美しい品でした、ラウアザンの王は私を幸運の印と呼び、館に飾ってはほめそやしました。
――僕を愛してくれますか。僕の主になってくれませんか。僕はあなたを愛します、剣の愛は殺める愛、沢山の死を与えましょう。
 駄目だ、と言いたげに世界は首を横に振る。完全に剣は発狂していた。愛されるものとして作られた刃は、殺めるものとして使われすぎて、愛の意味を見失った。
――綺麗な月のようだと、呼んでくれませんか。初めて出会った夜の様に。陛下。
「極致を目指すなら、剣の頂を見たいなら、俺と来い」
 呼び掛ける庸介の言葉に絶望にも似た叫びが返る。
――ああ。誰ももう僕を美しいものとして愛さない。
――剣としてしか愛さない。
 四人の目の前で、剣は自壊する。銀の光は失せ、塵となる。鞘も塵となり、こつんと一番大きなオパールが、落ちた。

 世界の癒しの術で、ソラは目を覚ます。人影のいないラウアザンの外れ、海の見える崖は、冷たい風が吹いている。朝の太陽も昼間の月も薄い雲に隠されて、見えない。
「あまりにもその日、月に照らされたあの子が綺麗だったから。愛してほしいという声に動かされるまま……ただ、手を伸ばして、そして」
 ソラは剣を盗んだ理由をぽつぽつと話す。己が何をやっていたか、夢の様に覚えている、といった。
「どうか、死なせて下さい……私は、人殺しなのですから」
「なあ、ソラさん」
 ゆっくりとカルマは口を開く。幸い、普通の恰好ではあるが……ソラは記憶にある彼の全裸を思い出したらしく、なぜか目を伏せた。
「真の贖罪を願うなら……君が犯した罪以上に誰かを救って生き抜いてほしい……それが君の贖罪になると思う」
「おぬしは、何者かにより剣ごと連れ去られた。剣は拐った者ごと葬られた……それで、よいではないかの?」
 ソラは目を伏せて、贖罪、と呟いた。

 『盗人に攫われた』小間使いはイオラス家に戻ったが、やがて神殿に身を寄せることとなる。
 彼女が仕えたのは死者を裁く神、冥府の王であったという。

成否

成功

状態異常

なし

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