PandoraPartyProject

シナリオ詳細

種を撒く喜びを摘み取るモノ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 桜の時期が過ぎ、世界が新緑で満ちる頃。その村は田植えの時期を迎え、賑わっていた。
 というのも、近年はただ米を作るだけではなく、余った水田を他人へと貸し出し彼らに田植えや収穫体験をしてもらい、それ以外の期間は村の農家たちが植えた稲の世話を行うオーナー制度を、数年前より導入したのだ。
 若者たちが都会へと出てゆき農家のなり手が減ったがゆえの苦肉の策であったが、新しい体験に飢えていた都会の住人に喜ばれ、村の活性化につながっていた。
「お父さん! わたしたちが植えたお米っていつ食べれるの?」
「秋になったらだな。ルリが植えたお米だ、きっと世界一おいしいぞ」
 夕刻――田植え体験を終え、宿への帰路につく父と娘。
 自分で育てたお米を食べられる日を夢見てはしゃぐ娘につられ、父親も笑みを零す。慣れない田植えの作業で疲労困憊だが、心はとても清々しかった。
 茜色の空に夜の黒が滲み、宿へ続く道もすっかり暗くなってきた頃。
「おーい、あんたたち、田植えに来たお客さんだろ?」
 背後から声を掛けられた。
「はい。今日はいい体験をさせてもらいました」
「早くお米食べたいなーって、今お父さんとも話してたんです!」
 親子を背後から呼び止めたのは、10人ほどの男たち。見回りに出た村人たちだろうか、剣や斧といった得物を携え、武装している。
「それなら良かった。いやあ、本当に今日はお疲れ様でした」
 にこやかにこちらに語りかけて来るものの、武装した集団に遭遇しては居心地も悪いというもの。娘に至っては怯えたように父親の手をぎゅっと握り締めた。
「ええ……なかなか疲れましたので、それでは失礼しますね」
 娘の手を引き、そそくさと宿へと向かおうとする父親の行く手を遮るように、剣が突きつけられた。
「お疲れのところ悪いんですけどね。ちょーっと、お願いしたいことがありまして……」
 そして。男たちは武器を掲げて――親子を取り囲む。
「ウワアアアアアアアッ!!!!」
 いつのまにか茜が闇に塗りつぶされた空の下、男達の罵声と親子の悲鳴が響き渡った。
 父にも、そしてまだ幼い娘にも振るわれた暴力。命に別状こそないものの、重傷を負わされ気絶した親子を見下ろして、男達が笑う。
「いやー、やっぱ村の外から来た人間ってのは金持ってんなぁ」
「そりゃあ、わざわざ田植え体験なんてしに来るような奴らなんだからよぉ」
 気絶した親子から金目のものを奪い、それを掌の中で弄びながら、男たちは下卑た笑みを浮かべる。
「安心しな。秋になったらあんたたちの米は、ちゃーんと俺たちが食べてやるからよ」
 それじゃあ、気をつけて帰るんだぜ。嘲笑しながら、男たちはすっかり夜の闇に消えていった。


「みなさん! お仕事なのですっ!」
 ギルド『ローレット』に勢い良く駆け込んできた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)へと冒険者たちの視線が集まる。
「稲作が盛んな村で、今は村の住人以外に向けてオーナー制度、なんてのをやってるところがあるんですけど、そこに来た人を狙っているならず者がいるらしいんです」
 オーナーとして田植え体験に訪れた観光客を襲い、金目のものを奪う。そんな目に遭った観光客は収穫体験になどまず訪れない。収穫体験にオーナーが来なければ、農家たちはやむを得ず米を収穫し、オーナーに連絡が取れるまで保管する。そして今度はその米を盗み奪っていく。……恐らくそういう算段で観光客を襲っているのだろう、とユリーカが苦い表情を浮かべながら語った。
「そこで、です。田植え体験をするお客さんのフリをして村に行き、盗賊たちをおびき出して、彼らを捕まえて欲しいんです」
 盗賊たちが観光客を狙うのは、夕刻、田植えを終えて宿へと戻る道すがらだという。
 そのタイミングで、いかにも田植えに来た観光客ですという素振りを見せながら歩いていれば、やがて盗賊たちは現れるだろう。
「まだ被害は、今回依頼されるきっかけになった一件だけなんですけど……今後も田植えに来るお客さんが来る予定が幾つもあるらしいので、その前に対処したい、ということです」
 村の活性化の為に始めたオーナー制度が盗賊たちに狙われてしまっては、かえって村から人が遠ざかるばかりだ。直接的に村を襲撃している訳ではないにしても、それはいつか村の滅びへとつながってゆくだろう。その前にどうか、盗賊を退治し村を守って欲しい。それが今回の依頼だ。
「そうそう。せっかくなので実際に田植え体験もして欲しいそうです。なのでその準備もお願いしますね!」
 泥まみれになって、そしてそのときの体験談でも語れば、より盗賊たちをおびき出す芝居もリアリティを増すだろう。
「という訳で。皆さん、よろしくお願いします!」

GMコメント

 始めまして、漣よひらと申します。
 おいしいお米が食べたい。


●成功条件
 盗賊たちの撃退や捕縛

●依頼主
 村長の娘夫婦。農家でありオーナー制度を行っている。
 自分達の田んぼもありますが、田んぼの一区画をオーナーに貸し出しています。
 皆さんにはその区画を借りたオーナーのフリをして行動していただきます。

●盗賊
 10人で徒党を組んでます。
 剣や斧といった武器は持っていますが、戦闘のプロという訳ではないので実力はそこそこ程度。よっぽどヘマをしなければ負けることは無いと思います。
 いかにも田植え体験にやってきた観光客です、という素振りをしていればおびき出すのは簡単です。

●田植え体験などなど
 シナリオ前半で軽くさらっとですが、田植え体験を皆様にしていただく予定です。
 その中でのリアクション等何かありましたらご自由に記載ください。
 場合によってはアドリブ描写を入れることもございますので、NGがあればそちらについても記載があると助かります。
(一例)
・田んぼで思うように動けなくてよく転びます
・泥まみれになるのが嫌なのでこういう服を着て来ました
・うちの子は絶対体が痛いとか言わないキャラです
・嫌だ! 絶対に田植えなんて作業はしないぞ! 私は見学だ!!
 などなど。

 それでは、よろしくお願い致します。

  • 種を撒く喜びを摘み取るモノ完了
  • GM名漣よひら(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月02日 20時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
シェンシー・ディファイス(p3p000556)
反骨の刃
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
稲荷・紺(p3p002027)
のじゃロリふぉっくす!
芦原 薫子(p3p002731)
アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)
シティー・メイド
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼

リプレイ


 寸分のむらも無く蒼に染め上げたような空の下。朝晩はまだ冷える時期といえども、昼間であれば降り注ぐ陽光には汗が浮かぶ。
 その日、長閑な農村には娘たちの笑い声が響いていた。
「おぉ、ここがこれから田植えする水田か! 広いのう!」
 陽光がきらきらと反射する水田を眺め、『君を待つ』稲荷・紺(p3p002027)が歓声を上げる。
「紺様。お荷物をお預かりいたします。皆様、こちらにお荷物を置かせていただきますね」
 『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331) が畦道に布を敷き、紺から布で包んだ農具をその上に置いた。
「レッツ女子会! ですねっ」
 どさっと荷物を置いて、『ゆきのはて』ノースポール(p3p004381)が伸びをする。
「女子会……実はやったことないのですよね」
 『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)の呟きに、『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が大きな碧の瞳を瞬かせた。
「そうなんですか? 意外です」
「相手が……」
 思い出すとちょっぴり悲しくなりそうだった。一瞬遠い目をしかけた薫子だったが、ふっと動かした視線の先で、歓声が上がった。
「まあ! 宗高様のコーデ、何て愛らしいのでしょう……!」
 恍惚とした表情を浮かべて『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)が見つめた先で、『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)が気恥ずかしそうに笑った。
「ありがとう、動きやすくしたいし、辛めのコーデだけど、だからこそ色を明るめにして甘めにしたんだ♪」
 酒場を出て依頼に赴くときから、女子を演じているみつき。だいぶ恥ずかしさにも慣れてきたとはいえ、彼の戸惑いの時間はもう暫く続くだろう。
 そう。圧倒的に女子が多い今回の面々。ターゲットであるならず者達を油断させる為に『都会から来た農ガール達の女子会』という体を装って今回の依頼に臨んだ。ゆえに、皆それぞれ、農業に興味はあるけれども慣れてるとは言いがたい都会の女子なるものを演じる為に可愛らしい衣装に身を包んでいる。
 みつきはタンクトップとショートパンツ。そこにカーディガンとレギンス、麦わら帽子で日焼け対策を心がけ、けれど足元はサンダル姿で涼やかに。
 エリザベスも長靴に作業着と、アイテム自体は農作業向けではあるものの、その長靴は派手にデコられていて、長靴というよりはそれだけでコーデの主役になりそうな華やかなブーツだし、作業着もファーをあしらったゴージャスさ。
 ノースポールも足元は長靴で防御を固めているものの、服装は農作業のイメージとはかけ離れたゆるふわデザインのワンピース。
 紺も可愛らしい柄の子供用のワンピースを纏い、その姿は愛らしい幼子そのもの。
 ヘイゼルのロングの白いワンピースも、泥なんてまさに天敵といった風情ではあるものの、初夏の爽やかな雰囲気を醸し出していた。
 勿論、普段着と特段変わらないメンバーもいる。
 薫子はいつも着ているセーラー服、お付きのメイドを演じているアーデルトラウトもメイド服。シェンシーもイレギュラーズなら珍しくない軽装の衣に、常より首に巻いている両端が黒く焼けてしまった白いマフラー。いずれも農作業に特化したような格好では無い。
 けれど、それこそがイレギュラーズたちの狙いである。浮かれた気分で田植え体験に来た観光客に思わせる――その作戦は、十分に功を奏していたといえよう。
 「へえ……こりゃあまた、頭の幸せそうなお嬢ちゃんがたが来たもんだ」
 きゃあきゃあと歓声を上げながら田植えの準備をする観光客――もといイレギュラーズたちの姿を見守る村人たちに紛れ、ならず者たちもその様子を観察していたのだから。


 種籾自体は既に農家たちが苗代で育てている為、今回イレギュラーズたちが植えるのは種ではなくあくまで苗である。
 それでも、初めての体験はなかなかの困難であった。
「うわ、歩きにくい!」
 片足を突っ込んだみつきの率直な感想。水の抵抗、そして水によって柔らかくぬかるんだ土が足を捕らえ、もつれそうになるのを必死に踏み止まった。それを支えるように、あるいは自分もまた支えてもらうように、ノースポールがその手を掴む。
「畑仕事はしたことありますが、田植えは初体験でして……」
 気をつけて静かに歩を進めてもどうしてもバシャリと泥が跳ね上がる。
「女子力は田んぼには通じないのですね……」
 ヘイゼルが稲を水田に植え込んでゆきながら、わざと大きな溜息をついた。爽やかな白いワンピースも、泥にまみれてしまっては女子力は半減だ。それを避ける為にスカートの裾はきゅっと縛ってはいるとはいえ、泥はねを全て防ぐことは難しい。
「汚れは……別に、慣れてる」
 マフラーが水面につかないよういつもよりしっかりと首に巻いて、シェンシーは躊躇せずに腰を屈ませ、苗を水の中へと差し込んでいく。
「この区画が私たちの担当らしいですよ。頑張りましょう」
 敵をおびき寄せる為の田植え体験といえど、やるなら思いっきり働いて思いっきり楽しんで、思いっきり汚れてしまおう。皆を励ましつつ、薫子が泥水を吸ったセーラー服の裾をきゅっと結んだ。
「よいしょ、よいしょ……早く実って美味しいおこめになるのじゃぞ!」
 ワンピースが泥だらけになるのも厭わず、紺が一生懸命苗を植えていく。 
水田の中を歩く感覚に慣れるまでは、ひとつ苗を植えて、間隔を空けて次の苗を植える……その作業も、想像していたよりも時間が掛かりそうだ。集中して作業するように、無言で苗を植えていきながら、時折アーデルトラウトは時折視線を水田の外へと向けた。
 イレギュラーズたちが今回担当している水田の他にも幾つかの水田が畔道に区切られて配置されている。そこは切り開かれた平地の為、視界を遮るようなものも無いが、水田から見て村と反対側の方角には林があった。もしかするとそこに既に賊がいて、不意打ちをする可能性も否めない。
 汗を流し、泥にまみれながらも、水面から瑞々しい新緑の苗を植えてゆく。
「……田植えとは素晴らしいものでございますね」
 エリザベスが恍惚とした表情を浮かべた。娘たちが泥にまみれてキャッキャウフフする、その麗しい光景。そして大地の力強く踏みしめ、この星の鼓動を感じるという行為。何と素晴らしいのか、と感慨に耽る彼女だったが――

 ずぼっ。

「……足が抜けなくなりました」

 ともあれそんなハプニングさえも楽しいもの。皆が泥まみれになって田植えを終えたその頃には空も赤く染まっていた。


 水の抵抗が無くなり地上に戻れば足取りも軽やか――とはいかないもので。帰路に着く娘たちは、慣れない田植え作業に疲れた様子でとぼとぼと宿への道を進む。
「おわったのじゃあ~……はやく帰っておにぎりが食べたい!」
 布で包んだ荷物を抱え直しながら、紺がその声と、ぐうぐうと鳴る腹の音とで空腹を訴える。
「そうですね。思ったよりも……少々疲れましたね……」
 慣れない作業への疲労自体は必ずしも演技でもない。紺に同意するように薫子が頷いた。
「大変でしたが……充実感がありましたね」
「あ、ヘイゼル。まだ顔に泥がついてる! じっとしてて……よし取れた」
 すっかり泥で汚れてしまったワンピース姿のヘイゼルの頬に一つ残っていた泥はねを、みつきがそっと拭ってあげる。
(「なんて……っ」)
 尊い光景なのだろうかと、エリザベスがその光景を目に焼き付けようとまなこを確り開いた、ちょうどそのときだった。
 宿へと続く道へと繋がる細い路地から、10名程の男達のグループが談笑しながら現れた。剣や斧といった得物を携えたその姿は、村の自警団の見回りのようにも見えるが――。
 他愛無い話にガハハと笑っていた彼らだったが、こちらに気づいて気さくな雰囲気で手を振って来る。
「やあ、今晩は、お嬢さん方」
「田植え体験に来たお客さんなのかな」
「こんばんは! はいっ、皆で田植えをしてきました」
 収穫が楽しみです♪ そうにこにこと明るく笑って、ノースポールが男たちの方へと歩いて行った。ちら、と一度こちらを一瞥したのは、今のうちに準備を整えろという合図である。
(「――こいつらで間違いないな」)
(「はい。……今までずっと身を隠していたのでしょう。突然出て来ましたから」)
 シェンシーとアーデルトラウトが目配せをした。談笑しながら脇道から出て来た男たち。角を曲がって宿へと続くこの通りに出てくるまで、足音も話し声も一切聴こえなかったのだ。それは、今まで気配を隠してこちらを待ち伏せていたからに他ならない。
「そうかそうか。俺たちは村の自警団でな。お嬢さん方の安全を守るのが仕事なんだけど――」
 男たちの気さくな笑みが、ニィっと歯茎をまで見せるような下卑た笑みへと変わる。怯えたようにリュックを抱えるみつきの様子に、気を良くしたのか、彼らはあっという間にその本性を見せた。
「疲れてるところ悪いケド……俺たち、米が欲しいんだよね~」
「あんたたちが作ったお米をね!」
 男達が鞘から剣を引き抜き、あるいは斧の刃沓の紐を外す。
 そして、女子供ばかりの観光客へと襲い掛かった。

 筈だった。

 パァン、と銃声が夕空に木霊する。
「残念ながら、予想しておりましたよ」
 男たち――否、賊たちの一番近くにいたノースポールに向かって剣を向けようとしたところを、エリザベスの射撃が威嚇する。
「な……っ」
 不意を突かれた男達の前で白き娘が身を翻す。
「貴方達には一粒だって渡さないよ!」
 さながらヒーローや魔法少女の変身の如く、瞬く間に白い篭手と脚甲とを身につけたノースポールが魔術で己の身体を強化する。
「な、なんだこいつら……!」
「子供からやれ!」
 体格のいい男が、紺に向かって斧を振り下ろした。
 ガッ――。
 男の手に確かに手応えはあった。だがそれは、小さき子供を傷つけたそれではなく、地面をざくりと抉る感触。
「コンがちゃちゃっと片付けてやるのじゃ!」
 ひらりと身をかわした紺が、前のめりに体勢を崩した男の脛を力強く蹴飛ばした。
「うぐっ」
「こ、こいつら、ただの観光客じゃないんじゃないか……!?」
 都会から農業体験に来た女子供の集団だとすっかり侮っていた男たちに動揺が走った。
 何とか体勢を立て直した男の視界に映ったのは、泥で汚れた白い布。ヘイゼルの拳が、男の頬を殴りつける。
 よろけていた男の影から飛び出した男二人が、シェンシーへと襲い掛かった。片や剣、片や斧、振りかざした得物は小柄な少女へと確かに傷を刻み込んだが、動じた様子もなく、剣を持った男の胸元へとシェンシーは拳を叩き込み、相手の身体へと痺れを走らせる。
 みつきが女子力高めな可愛らしいデザインのリュックから取り出された本の装丁は可愛らしいそれではなかった。黒き魔術書によって高められた魔力は、癒しの力となって、傷口より齎される痛みを和らげてゆく。
「お、おい、今日のところはもう……」
 臆病そうな男が踵を返そうとしたその足元を弾丸が貫く。
「……逃がしません」
 逃げようとしたが、アーデルトラウトの遠方からの射撃によって阻まれた。他の者が逃走を試みても同じことだろう。
 退路は絶たれたに等しい。もはや男たちは、後に引けなくなっていた。


 プリーツスカートを翻して薫子がソードブレイカーを振るい、間合いを詰めた男の剣を絡め取る。紅雷を纏いし鬼の娘の膂力は男のそれに劣らず、一気に押し切った。がきん、と金属がぶつかり合う音が響き、男の手から離れた剣がくるくると宙を舞い、地面へと突き刺さった。
 得物を失った男へと、エリザベスが拳を叩き込む。あくまで威嚇の為の一撃ではあるものの――既に戦意を失った男を、地に伏せさせるには十分であった。
「くっ、情けねぇやつだ!」
 倒れた仲間に舌打ちしつつ、一際刃の大きい剣を握る男が、アーデルトラウトへと迫った。
「……っ」
 男の攻撃に痛みは身体に走った。そして、彼女は徐々に押し切られるように後ずさる。
「何だなんだ、さっきの勢いはどうしたぁ!?」
 調子に乗り、再び刃を叩きつけようとした男だったが――

 ガキッ。

「人の労働を嘲笑う行為、許されると思うな!」
 紺と、
「アンタらの方を『収穫』してあげるよ!」
 みつきの左右の斜め後ろからの挟撃を受けて、そのまま気を失った。
「女子供にボッコボコにされるなんて、情けない人達!」
 挑発するようにノースポールが言い切ると、残った男達が鼻息を荒くした。
「何だってェ!?」
 けれど男たちが語気を荒げたところでそれに怯える筈も無い。ノースポールが拳を打ち込んだ男が倒れ、そしてシェンシーがまた一人男を張り倒す。
 あっという間に4人もの男が倒されたところで、男たちが顔を見合わせる。降参すべきかどうかと戸惑ったような男たちがほとんどの中、ただ一人。一番体格の良い男が、逆上したように薫子へと襲い掛かる。だがそれも、アーデルトラウトの射撃と、シェンシーの威嚇術に阻まれ、あっという間にどうっと倒れこんだ。
 一番体格が良いその男が倒れたのが、決め手になっただろうか。静かに微笑みながらヘイゼルがぱらりとハイ・グリモアールのページをめくり、新たな魔術を編む素振りを見せた。
「既に判っているでせうが……私達は田植えに来た客ではなく、貴方がたの対処の依頼を受けたイレギュラーズなのです」
「人間の皆さん――ひれ伏していただけません? 根こそぎ殺されたくはないでしょう?」
 薫子が口元を歪ませた。黙っていればしとやかそうな女性――けれども、彼女の内に宿る鬼が放つ威圧感は、既に力量差を見せ付けられた賊たちを怯えさせるには十分だった。
「実力差は判ったでしょうし素直にお縄に着くことをお勧めしますよ。……依頼は生死不問でしたので」
 つまり、それはこちらは殺したって構わないのだ。穏やかなヘイゼルの言葉に、男たちが項垂れる。
「――それでは! 必殺、亀甲縛り!」
 ずずいっとロープを取り出したエリザベスの動作は鮮やかなもので。
「イヤアアアアアアッ!!!」
 瞬く間に男達が縛り上げられるのだった。亀甲縛りで。
「……わあ」
 その光景に、みつきは男としてちょっぴり同情を覚えたとか覚えなかったとか。ともあれ――
「お掃除完了……でございますね」
 縛り上げられむせび泣く無様な賊たちから、そっと視線を外したアーデルトラウトが一礼し、メイド服の裾を翻らせた。


 イレギュラーズたちによって村の広場まで連行された賊たちを、村長夫妻と、村の自警団らしき体格の良い男たちが出迎える。
「おっと。暴れないでね? ……田んぼの肥やしになりたいのかな?」
「その格好でしっかり頭を冷やすのじゃな」
 白き篭手をかちりと拳を合わせて鳴らしたノースポールと、妖刀をちらつかせた紺が賊たちを威嚇する。見た目は女子供ばかりといえど、その実力は身をもって味わったのだ。賊たちはすっかり大人しくなっていた。……というより、奇怪な縛られ方にただ静かに泣いていた。よもやこんな辱めを食らうとは彼らも予想していなかったことだろう。
「賊の処遇は依頼主様のご随意に。……わたくしのオススメは簀巻きにして紐無しバンジーですけれども」
 実に物騒な刑を提案しながら、エリザベスが自警団へと縄を引き渡す。その刑罰の内容かそれとも亀甲縛りか、自警団たちも少々困惑したように笑った
「皆さん、本当にありがとうございました。こやつらの処分は、村でじっくり話し合うことにしますよ。もう二度とこんな悪さはさせないようにね」
「これで、安心してまた田植え体験に、村の外からお客さんに来て頂けるんですねえ……」
 しみじみと安堵の息を吐く村長夫妻に、みつきが笑う。
「戻ったら、この体験は是非宣伝させてもらうよ」
 その笑みが周りの仲間たちよりも一際疲れて見えたのは、女子を演じていたせいだろう。
 とはいえ、日中の田植え体験に、夕暮れの賊退治。一日中働いた身体は心地良い疲労を覚え、くう、と誰かの腹の虫が弱々しげに鳴った。
「……普通にお腹すいてきましたね」
 何か食べて帰りましょうか、と提案する薫子に、村長の妻がずずいっと歩み寄った。
「でしたら、是非このまま、宿でお食事でも召し上がっていって下さいな!」
「……よろしいのですか?」
 アーデルトラウトの言葉に、村長夫妻が笑う。
「宣伝もしていただけるということですからね、それなら是非お食事も召し上がって頂かなくては!」
「ふふ。ではお言葉に甘えて、お食事頂いて帰りましょう!」
 ヘイゼルの言葉に、表情こそいつものぶっきらぼうでクールな雰囲気を保ってはいたものの、ああ、とシェンシーが頷いた。
「……コメ。食べてみたかったからな」
 彼女を良く知る者であれば、普段よりも楽しみといった風情であった事が読み取れただろうか。足取り軽いシェンシーの歩みに合わせて、涼やかな夕風にひらりとマフラーがたなびいた。

 村人達が丹精込めて育てた恵みを味わいながら、自分達が今日植えた苗もやがて黄金の稲穂となりて、またこうして美味しいご飯となるのだろう。そう思うと、今食べているご飯は自分達が植えたものでは無いけれども――なんだか、いつも食べているご飯よりも美味しく感じられる気がした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

それからその村では、
『農業女子会体験☆開催中!』
というキャッチコピーが、田植え体験の宣伝には必ず添えられるようになったとかならなかったとか……。

華やかな女子会の様相になりましたので、むさくるしそうな賊の皆様にはかなり手早くご退場頂く運びになりました。
キャッキャウフフは良いものです。このたびはありがとうございました!

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