PandoraPartyProject

シナリオ詳細

幻想アイドルすぴかちゃん救出作戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ふぇぇ捕まっちゃったよ~

「みんなー! 今日は来てくれて、ありがとおおお! すぴか、とぉっても嬉しいよぉ!!」

 壇上から上がる天使のような声に、観客は更なる声援を送る。
 幻想アイドル、すぴかちゃん。
 狂気に飲まれる幻想を、その愛らしい姿と歌声で清めんと精一杯の活動をし続けるアイドルである。
「うぉおおお、拙者、どこまでもすぴかちゃんを応援しますぞおおお」
「やばばば、スカートぎりぎりで、おぉぉ、やばばば!」
 ちょっと客層がアレなのは、ご愛敬であるが。
「それじゃあ、ラストの曲、いっくよぉぉー!」
 元気に跳ねる小柄の少女は、スケジュール目一杯に幻想を回る予定だった。
 だが、このライブの数日後、消息がわからなくなる。
 そして――。

「ととと、と言うわけで、拙者達がすぴかちゃんを預かったのであぁる。
 拙者達の要求はただ一つ、すぴかちゃんと我々の国外脱出であぁる。
 拙者達には禁忌の法具『ゾンビデール』があることを忘れるなかれ。
 武力行使には徹底抗戦させてもらうのであぁる。
 さぁ、早急に我々が無事に移動できる用意をするのであぁる!」

 突然の犯行声明、映された写真には見るからにすぴかちゃんファンと分かる男達に捕まり大粒の涙を溜めるすぴかちゃんの姿が映っていた。
 直ぐさま憲兵を派遣した所属事務所関係者だったが、犯人達の言葉通り大量のゾンビに襲われ撤退。
 事態を重く見た所属事務所関係者は、遂に荒事ならお手の物であるなんでも屋『ローレット』に依頼するのであった。


「ゾンビが大量にいる場所に乗り込んで、アイドルの救出?」
 イレギュラーズが確認すると、『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)は楽しそうに頷いた。
「そう、ゾンビの群れを倒して囚われのお姫さまを悪い魔法使いから助け出すのよ」
「魔法を使うのか?」
「程度の低いものだけど、使うみたいね」
 そういって、リリィは依頼書を見せてくる。
「オーダーは先にも言った通り、幻想アイドルのすぴかちゃんを『無傷』で救出すること。
 犯人達の生死は問わないけれど、できたら殺さないで欲しいということよ」
 犯人の数は五人のファンであるということだ。
 そして犯人達は程度の差はあれ攻撃的な術式を使う。
 戦闘経験豊富というわけでは決してないが、なんとかに刃物と言う奴だ。手にした力を無闇矢鱈に使う相手は、場合によっては手慣れた物より恐ろしい。
「そして、一番の問題は大量のゾンビね。なんだかよく分からない法具『ゾンビデール』とか言う物で召喚しまくれるそうよ」
 犯人達が立て籠もっている古びた屋敷は、ゾンビで埋め尽くされているそうだ。
 このゾンビ達は『ゾンビデール』を持つ物の意志に従い動く。戦闘能力は大したことないが、とにかく物量がやっかいだろう。
「屋敷の見取り図に、犯人達の居場所も此方で調べておいたわ。一点突破。無駄な戦闘を避けて一気に乗り込むべきでしょうね」
 リリィの言うことはもっともだろう。無駄な戦闘をして犯人達に逃走の余裕を与える必要はない。
 更に言えば、犯人達はゾンビを戦力的に高く評価している。余裕をもって立て籠もっている犯人達の裏を掻いてやろう。
「それと、犯人達はすぴかちゃんの熱心なファンだから物理的に傷つけるということはないと思うわ。だから遠慮無くやってしまって大丈夫だけれど――」
 そこまで言ってリリィは一度大きく息を漏らす。
「物理的には傷つけないけれど、追い詰められれば何かいやらしいことをしでかさないとも限らないわ。オーダーは『無傷』の救出。心の傷も含まれてるからね」
 つまり、犯人達がすぴかちゃんを『傷物』にするまえに救出しろという話だ。
「というわけで、依頼お願いするわね。マネージャーさんも心配そうにしているから頑張って頂戴な」
 イレギュラーズの肩を叩いてよろしくすると、リリィは席を立つのだった。

GMコメント


 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 幻想アイドルすぴかちゃんピンチです!
 みんなで助けてサインを貰いましょう。

●依頼達成条件
 幻想アイドルすぴかちゃんの『無傷』での救出。
 犯人達の撃退(可能な限り生かして捕縛すること)

●情報確度
 情報確度はAです。
 想定外の事態は起きません。

●犯人(ファン)について
 ファンクラブ会員番号5、10、41、76、101番の五名です。
 それぞれが、近距離術式と、遠距離術式を使えます。
 リーダー格の5番が手に持つ『ゾンビデール』によって毎ターンゾンビが一体召喚されます。
 戦闘経験は少ないので、彼等だけであれば制圧は容易でしょう。

●ゾンビについて
 速度が遅く単純な攻撃しかできませんが、マークとブロックを行ってきます。
 囲まれれば移動することが出来なくなってしまうでしょう。
 とっても弱いです。

●呪われし法具ゾンビデールについて
 会員番号5番の家に伝わる呪われた法具(杖)です。
 選ばれし血筋のものだけが使う事ができる。
 術者の魔力と引き替えにゾンビを召喚することができます。
 召喚されたゾンビは、ゾンビデールを持つ物に従います。
 一度出したゾンビは消すことができません。
 売ると安く買い叩かれます。

●想定戦闘地域
 ある街の外れにある古びたお屋敷になります。
 ある程度の広さがあり戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。 

  • 幻想アイドルすぴかちゃん救出作戦完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月22日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鏡・胡蝶(p3p000010)
夢幻泡影
フェスタ・カーニバル(p3p000545)
エブリデイ・フェスティバル
主人=公(p3p000578)
ハム子
ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)
ノベルギャザラー
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
灰塚 冥利(p3p002213)
眠り羊
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠

リプレイ

●ふぇぇゾンビがいっぱいだよぉ
 幻想はとある街のはずれ。
 森林に囲まれた広い空間に、その豪奢な造りの古びた屋敷はあった。
「やれやれ、辺鄙な場所に立て籠もったものだね」
  『眠り羊』灰塚 冥利(p3p002213)が屋敷を見て開口一番にそう言うと、集まったイレギュラーズは苦笑を浮かべる。
「こんなとこに立て籠もって……、逃げ出すのには向かないってわからなかったようね」
「まったくである。行き当たりばったりの稚拙な犯行であるのぅ」
 屋敷の造りを確認した『戦花』アマリリス(p3p004731)が呆れて言うと、『瑠璃蝶草の花冠』ルクス=サンクトゥス(p3p004783)も同意するように頷いた。
「それにしても、こんなボロボロの屋敷にすぴすぴを閉じ込めるなんて、アイドルをなんだと思っているだろう。それに、ここで独占してる訳だよね。同じく地域限定アイドルである所の私は憤っているのですよ」
 『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)がアイドルなのかはさておき、その憤りには同意せざるを得まい。
 『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)が連れてきた地元のダチコー、ロアンとその他大勢(十名)のすぴかちゃんファンクラブの皆さんが大きく頷き声をあげる。
「あーえー、お集まりのみなさーん。
 今からオイラ達は、みんなのアイドルすぴかちゃんの救出に向かいまーす。
 すぴかちゃんがあの建物から出てきたら、みなさん盛大なコールをお願いするぜー!
 はい、える・おー・ぶい・いー! すぴかちゃーん!」
 犯人達にも聞こえてそうな元気のある声でコールの練習をするジョゼとダチコー。自分から乗せといてなんだが、ジョゼは「……いやー、アイドルってすげーなー」と思わず呟いた。
 大きなコールが響くも、屋敷は静まりかえったままである。
「どうやら犯人はまだこっちには気づいていないようだね」
「まあ、気づかれてもこっちのやることは変わらないけどね。一点突破あるのみ!」
 『異世界なう』主人=公(p3p000578)が安心して言うも、続く『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)の言うようにイレギュラーズの作戦は決まっているのだ。
 正面から突入しての一点突破な電撃戦。イレギュラーズの力を理解していない犯人達の虚を突く進撃だ。
「さて、それじゃそろそろ行きましょうか。引きこもってる犯人達にお灸を据えてやらないとね?」
 『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)が屋敷の見取り図を確認した後に仕舞うと、仲間達に声をかけた。
 犯人達がすぴかちゃんと共に立て籠もっているのは、屋敷二階の右奥の部屋だ。そこまで辿り着くのがなかなか骨である。
 というのも、一階は大きなホールになっていて、左手に大階段がある。階段を上った先は廊下になっているが、立て籠もっている右奥の部屋は階段とは真逆の対面だ。ぐるりと繋がる廊下を進む必要がある。
 これが唯の屋敷であれば、ものの数十秒で辿り着くのであろうが、事前の情報通りならば屋敷の中はゾンビで埋め尽くされている。
 そのゾンビ達を排除しながら進むのは、イレギュラーズであっても容易なことではないだろう。
 イレギュラーズの面々は、武装を確認し屋敷の入口、正面扉の前に立つ。
「扉の前に立つと、このボロボロさが実にゾンビ屋敷って感じだね」
「文字通り中はゾンビだらけだけどね」
「それじゃいっくよー」
 フェスタが扉に手を掛け、引く。軋むような音を立てながら扉が開くと、中には――。
 腐った肉が今にも崩れ落ちそうで、青ざめた身体は破れた衣服を身に纏い、抜け落ちた髪の隙間から脳を思わせる臓器が覗いている。ぎょろりとした、今にも落ちそうな目玉が昏く窪んだ眼窩からこちらを覗き込み、いやこちらを覗き込むは夥しい量の目玉で、っていうかホールを埋め尽くすゾンビ達が一斉にこっちを振り向い――バタン!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 思わず音を立てて扉を閉じたフェスタが細切れに息を漏らす。地球は日本からやってきた中学生には刺激が強すぎたのだ。
「いやいや、閉じてどうするの」
 思わず突っ込む冥利にフェスタは思わず苦笑して、
「い、いやぁ、一斉に振り向くものだから思わずですね。なんか目があっちゃったし」
 スーハースーハーと深呼吸をしたフェスタは今度こそと、目配せをする。入れギュラーズ達はコクリと頷いて、同時にフェスタが勢いよく扉を開いた。
「と、そこは邪魔だよ!」
 誰よりも素早く動いた公が武器に魔力を纏わせ一点に突く。倒れ伏し、スペースができれば、そこにルクスが滑り込む。
「うむ、これは掃除しがいがあるかの」
 放たれるは魔力の弾幕。扇状に放たれた魔力の弾丸が、ホールを埋め尽くすゾンビ達に次々命中する。
 腕を、足を、頭を打ち抜かれ、倒れ伏すゾンビ達。
「よし、一気に行こうぜ!」
 ジョゼが口を開くと同時に駆け出すイレギュラーズ達。屋敷の中に侵入すれば、腐臭が鼻を突き思わず鼻を押さえる。
 倒れたゾンビ達を踏みつけながら、即座に左手にある階段へと向かう。
「うわわわ、いっぱい来た!」
 侵入者を捕まえようと迫り来るゾンビ。
 冥利のサイリウムブレード(どうみてもトンファー)が唸り、階段前を占拠する一軍に穴をあけると、ジョゼが駆け込み追撃が来る前に次を倒す。
 とにかく迅速に、足を止めることなく疾駆するイレギュラーズ。
 イリスのシールドバッシュで階段にたむろしていたゾンビが吹き飛び階下へ落ちる。そのイリスを狙うゾンビに胡蝶のトンファーが振り下ろされた。豆腐を殴りつけたような柔らかい手応えに、思わず背筋が震えるが構うわけには行かない。
 ゾンビを打ち、階下へと突き落としながら階段を上っていると、アマリリスから悲鳴があがる。
「くっ、どこ触って……痛っ、髪の毛引っ張らないでっ――このっ!!」
「えーい邪魔するなー!」
 腕を掴まれ、足にすがりつかれ、髪の毛を引っ張る。そのたびに全力の攻撃を見舞って、ゾンビを蹴散らしていく。
 階段を駆け上がり二階へと辿り着く。目当ての部屋はここから廊下をぐるりと回り進む必要がある
 その道中には、廊下を埋めつくさんとひしめくゾンビ達。
「やるしかないわね」
「ああ、一気にいくよ」
 ゾンビ一体一体の力は雑魚といっても差し支えがない。しかしあまりにも物量が多すぎる。想定以上のゾンビの量を前に、目眩がする。
 しかも、途中にある扉からもゾンビが現れる。倒しても増援として現れるゾンビ達を前に、(主に精神的な)疲労が溜まり、危うくパンドラに縋りそうになったりもした。
 だが、イレギュラーズの組み立てた作戦は、確かに機能しゾンビ達を蹴散らしていく。
 長い長い戦いだったと錯覚する程、その扉までの道のりは遠かった。
 しかし、扉の前に待機するゾンビ群をルクスのエーテルガトリングが肉片に変えた時、その辛苦、想いは報われる。遂に辿り着いたのだ。
 後ろから追ってくるゾンビを振り切るように、扉の中に駆け込むイレギュラーズ達。最後のフェスタが入ると、すぐに扉を閉めた。
 そうして、情報通りの部屋へと乗り込めば、そこにはベッドの上で縛り付けられているすぴかちゃんと、五人の犯人達の姿があった。
 犯人達が驚愕の表情でイレギュラーズを見やると口を開く。
「ば、ばかな! あのゾンビの群れを突破してきたと申すか!?」
「ど、どうするのでござる、拙者達で殺っちまうでござるか!?」
 動揺する犯人達を見て、すぴかちゃんが涙を溜めながら、助けを呼ぶように声をあげた。
「た、助けてくださいぃ~。この人達、私に変なことしようとしてぇ……」
 なんて羨ましいことを――もとい、非道なことを! ジロリと犯人達を睨めば慌てたように、
「いや、まて、まだ何もしてないのであぁる!」
 などと弁明するが、放っておけば何をしでかすかわかりはしない。イレギュラーズ達はいち早く片付けてしまおうと顔を見合わせ、とりあえず、まずは降伏を勧告する。
「さあ、無駄な抵抗はやめて投降なさい。大人しく降参したなら、悪いようにはしないわ」
 胡蝶の艶めかしい声色は、その抜群のスタイルと相まって男心を擽る。
 思わず頷きそうになる会員番号四十一番を五番が引っぱたく。
「無駄だ! 我らはすぴかちゃんと共に生きる者! そ、そのようなゆゆ誘惑には決して応じないのだ!」
 動揺を残しつつ、会員番号七十六番が宣言する。
「……仕方の無い人達ね。すぴかさん、そのまま耳は……ふさげないか、なら目を閉じて少しだけ待っていて。大丈夫よ、私達がアナタを必ず護るわ。だから信じてね」
「なにをバカな! すぴかちゃんを守るのは我々達だ!」
「こうなっては仕方ないのであぁる! 徹底抗戦! 徹底抗戦であぁる!」
 杖を掲げた会員番号五番が声をあげれば、すぴちゃんを監禁していた犯人達が身構えた。
 あとはこの犯人達を縛り上げればお終いだ。イレギュラーズ達も応戦の構えを見せ、戦いに臨むのだった。

●すぴか信じてる、みんなが助けてくれるって
「アイドルの活動を応援するのがファンでしょう?
 それを自分達だけのものにしようと誘拐して、彼女が今後の活動すら出来なくなる可能性を生み出すなんて、アイドルファンの風上にも置けない最低の行動だよ!」
 生み出されるゾンビ、飛び交う魔法の最中、生み出されたゾンビを派手に倒した公が声を上げ一喝する。
 純粋にすぴかちゃんを応援していた時の自分を省みて欲しい。顔向けできるのかと問う。
「今からでも遅くないから彼女を開放して罪を償うんだ!」
「だめであぁる! すぴかちゃんは拙者と、拙者達と共に別の国で優雅に暮らすのであぁる!!」
 大げさに首を振りながら答える会員番号五番。他の犯人達もそれに倣うように術式を詠唱する。
「まったく状況を理解せぬやからであるな」
 犯人達のリーダー格は見て分かるとおり、謎の法具ゾンビデールを持つ会員番号五番だろう。だとすれば、やはり最初に抑えるべきは五番に他ならない。
 ルクスが魔力を集中し、遠距離術式を放つ。不殺を心掛け、特に狙うは手に持つゾンビデール。
「くっ拙者を狙うであぁるか! だが拙者にはこのゾンビデールがあぁる!」
 床に描き出される魔方陣よりゾンビが生み出され、イレギュラーズの動きを止めようと這い寄る。
「そうはさせないんだよ!」
 生み出された直後のゾンビをサイリウムブレード(やっぱりトンファー)で叩きのめして、冥利が犯人達に一枚の紙を見せ付ける。
 それは『イベント出禁』のお達しだが、当然偽造文章である。
 中には今後の予定が諸々中止されることが書いてあるが、それを読み上げた上で、「ただし――」と続ける。
「――君達が大人しく降参するのなら話は別だ」
 冥利はアイドルが好きだ。犯人達のようなドルヲタと同じ人種といってもよいかもしれない。
 だからこそ、犯人達の犯した罪は許せない。
 アイドルはステージの上でこそ輝けるのだ。それを無理矢理引きずり下ろして、独占することの何が楽しいのか。
「君達はアイドルとしてのすぴかちゃんを殺す気なのか」
 冥利の言葉に衝撃を受けるのは会員番号十番だ。自分達のしたことが、自分達が愛したアイドルを殺すことになる。行動前に考えればすぐにわかりそうなものだが、熱に冒され想いの向くままに行動した十番は、ことここにきて漸く冷静になって気づいたのだ。
「まだ引き返せるんだよ。戻って来なよ。ファンだからこそ出来る楽しみを思い出して欲しいな」
 最後は仲間を向かい入れるように、優しく。崩れ落ちる十番はボロボロと涙を零した。
「えぇい、ほだされおってからに! もう拙者達は引けぬ所まで来ているのだぞ!」
 肩を怒らせ五番が声を荒げる。ゾンビデールを振り上げた。
「そんな手段ですぴかちゃん独占した気になってるみてーだけどなぁ、そんなお前らにすぴかちゃんは笑いかけちゃくれねーぞ!
 お触り厳禁ってヤツだ、アイドルのいちファンがンな当たり前のことを忘れたってか!」
 ゾンビが生み出される前にジョゼが飛び込み一刀振り下ろす。及び腰でその一撃をもらった五番の手からゾンビデールが落ちる。
 その場にいる全員がゾンビデールを奪おうと駆け寄ろうとするが、その注意を引くイリスの名乗り口上が響き渡る。
「海洋の国民的美少女、イリス・アトラクトス! すぴすぴに対して美少女対決を申し込みに来ました! 異論のある者は前に出るように!」
 会員番号四十一と七十六が振り向いて、イリスに「誰だお前は?」という視線を向ける。その一瞬の間、五番がゾンビデールに手を伸ばそうとした所で、アマリリスの放った小型の気功爆弾がゾンビデールに直撃し、跡形もなく破砕する。
「あ、あぁぁ――!」
 切り札を奪われ、崩れ落ちる五番。一瞬にして失われた戦意。
「う……うぐぅ、おわ、おわったであぁる。これでは全ての計画が水の泡であぁる」
 猛烈に襲い来る後悔が五番を苦しめ動きと止めさせる。もう五番はなにもできないだろう。イレギュラーズは他の犯人達へと目を向ける。
 抵抗の意志を見せる四十一番、七十六番、そして百一番。
 胡蝶とフェスタが、距離の近い四十一番と七十六番に近づいて。ニコリと笑えば――。
「あ、いたっ、いたたたっ! ごめ、ごめんでござる!! あ、胸、胸当たってるぅ――いたたたたっ!」
 胡蝶の魅力的な組技の前に四十一番陥落。
「声援とペンライトの光に思いの全てを込めて、笑顔と元気をくれるアイドルを応援し、感謝する。
 それがファンの心意気!って、私は思ってるよ! 会員くん達はどーなの!?」
 ファンの心意気を語るフェスタが、七十六番に詰め寄る。
 自分達の欲望が叶えられれば満足なのか。それが君達の「好き」なのか。
 熱い想いを語りながら拳を握りしめ。
「ひっ、やめ、やめろぉ! その手で我を殴るつもりか――ッ!」
「当然! 怖がらせて、泣かせる事が、ファンのする事かーっ!!」
 渾身の力を籠めた拳を開いて、全力のビンタを見舞う。
「ぎゃー」
 雄叫びのような悲鳴をあげながら一回転して七十六番が倒れた。
 追い詰められた影の薄い百一番が、すぴかちゃんの方へと走る。
「こんなところで諦められるかぁ!! こうなったらすぴかちゃんの唇は拙僧のものにするのだぁぁ!!」
「な、なにをするんだ百一番! 過激派になりさがるつもりか!!」
 仲間の制止する声も無視し百一番がすぴかちゃんに迫る。思わず目を開けた、すぴかちゃんが迫るファンを前に悲鳴をあげる。
「いやぁ! いやぁ! すぴかの初キッスは王子様のものなのぉ!」
 蛸のように唇を伸ばしながら百一番が顔を近づけて――、
「えぇい、止めなさい!」
 全速力で近づいたアマリリスのスーサイドアタックが直撃し、百一番が吹き飛んだ。
 倒れ伏す百一番にアマリリスが言葉を走らせる。
「アイドルはきらきらしてて、みなさんの心にもそのきらきらで救われたことあると思います。
 あれは、独占しちゃだめなんです
 みんなのもので、アイドルが必死に辛いこと隠して笑う笑顔は、救われているからこそ、みんなの心に響くんです」
 だから、もう罪を重ねるなと。すぴかちゃんのファンであるなら、すぴかちゃんが悲しむことは絶対にしてはならないのだと。優しく諭すように言葉を重ねる。
「ファンは一番の応援団でいないと、アイドルは、アイドルじゃなくなるんです!」
 響き渡る言葉を前に、犯人達は皆項垂れ涙を流す。炎上していた熱情は雨に打たれ鎮火した。
 犯人達の心は折れ、ついに投降に従うのだった。
「素敵……」
 すぴかちゃんの呟きは誰にも聞こえなかった。

●すぴかの王子様
 犯人達は憲兵に連れられ去って行った。
「いれぎゅらーずの皆さん、本当にありがとぉ! すぴか感謝感激だよぉ!」
 天使のように愛らしい声で感謝するすぴかちゃん。
 無事で良かったと、笑いかけるイレギュラーズ。
 公が「アイドルとしてこれからも頑張って欲しい」と言いながらサインをもらったり、イリスが「お互いに頑張ろう」と堅い握手を交わしたりして、マネージャーが迎えにくるまで雑談を交わしていると、不意に、すぴかちゃんがアマリリスに訊ねた。
「それで、あの……お名前聞いてもいいですか」
「私ですか? アマリリスですよ」
「アマリリス様……素敵なお名前……いえ、ありがとうございますぅ」
 笑顔で礼を返すすぴかちゃん。首を捻るアマリリスはすぴかちゃんのキラキラ潤う瞳に気づくことはなかった。
「それじゃぁ、みんなぁ、ありがとおぉぉぉ」
 すぴかちゃんは、その胸の内に秘めたる想いを抱いたまま、迎えに現れたマネージャーと共に所属事務所へと帰っていった。
「さて……私達も帰ろうか」
 古い屋敷から離れて街道にはいればローレットへと帰って行くイレギュラーズ。
 その道中ルクスがふと言葉を漏らした。
「ふむ、ゾンビデールと言えば、ゾンビを出して言うこと聞かせることしかできなかったはずであろう?」
「ゾンビデールを壊したあとは、残ってたゾンビも動かなくなっていたよね」
「後始末……したかのぅ?」
「あっ……」
 その後、とある街の古屋敷にまるで今にも動き出しそうなゾンビがいると噂になり、しばらくの間肝試しの舞台となって若者達の間で流行るのだった――。

成否

成功

MVP

アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。
依頼成功です。幻想アイドルすぴかちゃんの心と純潔は守られました。

MVP候補は複数人いましたのでダイスの神様にお願いしてみました。
外見特徴的にも相応しかったかなと思います。
MVP記念に称号が付与されます。

依頼お疲れ様でした。すぴかちゃんはそのうちまた登場するかもしれません。

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