シナリオ詳細
死にたくないなんて思ってしまったんだ。
オープニング
●貴方は己の勇者であり、世界を救ったのである
――肩で息をしているのがわかる。
貴方は勝ったのだ。あの憎き宿敵に。
それがぬいぐるみか、両親か、はたまた天使か悪魔か友人か、絶対悪か、午後三時に置き去りにしてきた紅茶とフィナンシェかは人それぞれであるけれど。
己が半身。または刃とも言えようそれを片手に敵を討ち滅ぼしたのである。
両足は立っているのが精一杯で、今にも崩れ落ちそうで。
両腕はもうぼろぼろだ。幾度も剣を振るい、魔術を行使し、敵から受けた傷だってあるし、そうやってボロボロにしたのだから。
力なく仰向けに倒れる。
見る余裕すらなかったけれど、ようやく理解したのではないだろうか。
後悔のない空というのはどんなに晴れやかで、美しいのかということを。
笑みが溢れているはずだ。そうだ、喜びで満ちてきたからだ。
それと同時に、貴方は自分の命の灯火が残りわずかであることを理解するだろう。
貴方は、何を思った?
滅び往く己のセカイ。自分はもうすぐ死んでしまう。
愛した人にさよならを告げるか?
生きてと呪いを残すだろうか。
食べたかったあのケーキをたらふくたべるかもしれないし、死装束はあれと決めているから着替えるかもしれない。
息絶える前の最後の――最期の願い。
貴方は、何を叶えるだろう?
●そうしてつもった幾多の願いを抱き締めて
「最期を思い描いたことはある?」
ポルックスはご機嫌に微笑んで。片手には白磁のティーカップを握り、もう片手にはチョコチップがふんだんに使われたカップケーキが伺える。
「今日はね、最期の瞬間が味わえる世界にいってもらおうかなって」
口の中にカップケーキを詰め込んで。ごっくん。
ポルックスは満腹になったお腹をさすりながら、本のページを捲った。
「その物語の中ではね、あなたは最高に大嫌いな敵と最後の戦いをしているのよ。
その結果はあなたの大勝利! ただし、そいつとは相討ち……つまり、少ししたあとにあなたも消えてしまうわけね」
はい、と差し出された本の中。そのページは白紙で。
「――あくまで物語の中だから、実際に死んでしまう訳じゃあないけれど。
あなたがもしも、死んでしまうとしたら。あなたは愛していた何かに、何を残すのかしら」
ねえ、おしえて。
ポルックスは寂しげに微笑んだ。
- 死にたくないなんて思ってしまったんだ。完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年12月26日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●『闇之雲』武器商人(p3p001107)
嗚呼、不愉快だ。珍しく舌を鳴らして敵と対峙する。纏った金銀の惑星環は幾度目かの滅びを告げるが、翳した手をゆるりと握ればまたふわりと漂って。
白衣を揺らし男は微笑んだ。その背に浮かぶ満月がやけに憎らしくて世界もろとも壊してやりそうになった。鳥籠さえあれば、『小鳥』だけは護って壊してやったのに。嗚呼でも、それじゃあまだお気に入りが救えない。二度目の舌打ち。男は喉を鳴らしながらまた一歩近づいてくる。
あたたかなコートが嗤うようだった。
――ああ、此方へ来るのかい、我が愛しの銀の君。
――厭、どうだろうね。そうじゃないといいな、小鳥もいるからね。
風が狐の尾の刺繍を撫ぜる。いのちの答え。血脈のありか。
ああ、そうだな。惜しいかもしれない。この時間が消えてしまうのは。
灯揺れる。いのちのひかり。
男は攻撃の手を止めない。ならば応えるまでだと武器商人も同じように攻撃を重ねる。
「ちゃあんと我(アタシ)を倒してくれるだろぅ? ニンゲンは、強いものねェ!!」
砕く。
折れる。
嬲る。
飛ぶ。
肉片が飛ぶ。赤が咲く。切り裂かれた腕を庇うように男は後退する。逃がすものか。
この世に生かしてやるわけにはいかないとそう、強く胸を焦がしたあの思いに背を押されるがままに武器商人は駆ける。狩りを楽しむように笑みを浮かべて。
「ちゃあんと我(アタシ)を倒してくれるだろぅ? ニンゲンは、強いものねェ!!」
ぺしゃり。
肉をつぶす音。男は小さく呻く。
「よく耐えたねえ。それじゃあ――さよなら」
心臓を貫き、残さず握りつぶす。
せめて殺してやると、残る力で執拗に武器商人の脊髄を刺す男。武器商人の唇に赤い雫が伝う。
「残念。我(アタシ)の勝ちだ」
頽れた男の亡骸。踏みしめて一歩、進みたかった。
けれど。
傷ついたろうそくが炎を続けるのは難しい。
星のきれいな夜だった。
男が死んだことを確かめると、できるだけ遠くへとその身を動かして往く。
彼の小鳥は星を孕むようであった。だからこそ、あのコの愛した星を眺めれば、その体温までも思い出せるような気がして。
(星空が綺麗であれば小鳥は笑顔だろうから安心できる。
後は従者や近しい人物があのコを守ってくれることを願おう)
『死ぬ』のは初めてじゃないけど、ここまでヒトリが寂しい死は初めてだ。
砂が風に溶ける。
後には、何も残らないのに。
●『子鬼殺し』鬼城・桜華(p3p007211)
月が照らす。
己が下にて絶命している紫の肌の男――羅刹十鬼衆が一人、『餓鬼道』の我流魔を見る。
其れは壮大な絶戦であった。
肉薄しその身を切らんと進み、嗚呼けれども交わされて、かと思えば新しい武器を出し、石を投げ目を抉り――壮絶であった。
お互いにボロボロで、お互いに肩で息をして。
それでも『コイツ』だけは許せまいと桜華が立ち上がった。それが勝機であった。
悲劇の代弁者たる娘は自身が折れることを良しとはしなかった。たとえ腕が、目が、角が、腹が裂かれようと、失われようと貴様の首を捥ぐのだと。
その決意が背を押した。
我流魔は桜華に首を斬られ死んだ。あまりにもあっけなく。さめざめと。
だからこそ告げねばならない。我流魔が為に涙をのみ歯を食いしばり血反吐を吐いたものたちの為に。
「『餓鬼道』我流魔ッッ!!!! 討ち取ったりィ!!!!!」
掲げた刀が月の光を受けて光る。
誰も居ない。ここには誰も居ない。けれど嗚呼、その事実は桜華の胸を震わせた。
(……ざまみやがれ!
これこそ己が所業の報いよ! 貴方に喰われた人々……虐げられた彼女達の無念、晴らさせてもらったわよ! この子鬼殺しでね!)
ざまあみろ。
子鬼殺しは我流魔の血を啜ってなお煌々と輝き続ける。
「だけど……はは。やっぱり……腐っても魔種ね。この怪我じゃぁ……もう助からないかな……」
霞む視界は血に濡れて。
肌撫でる風は意識を攫い。
重力は彼女を折らんとつよくつよくのしかかるようだった。
(嗚呼…思えば遠くに来たものね…お姫様やってて祖国を滅ぼされ、子鬼どもの奴隷として苦渋を舐めさせられて…この世界に召喚され…『鬼賊』としていっぱい人助けしたり、お腹いっぱいご飯食べられたり…全力で生きられた)
懐かしい過去を想う。ゆるり、影か斜めを向いた。
(それに…あのクソッタレな子鬼帝王「蛭間」に似た魔種である我流魔も討ち滅ぼせて…「鬼楽」…我が祖国に似たこの豊穣の地で果てるならそれも本望。
…嗚呼…だけど…願わくば…最後に…妹に会いたかったな…)
「……蒼華」
(お姉ちゃん頑張って生きたんだよ…多分…汚れたあたしは同じ所には逝けないけど…「流石姉様です!」って褒めて欲しかった…なァ…)
こだまする妹の声。
この手は届かない。
月が綺麗だ。
貴女にもういちど。
折れた刃。尽きる命。
大切な妹へ。
●『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)
馬鹿みたいだ。
情けない。
来なければよかった。
どうしてこんなことに。
あの時こうしていれば。
あの時ああしていれば。
くだらない。
後悔なんてらしくないじゃないか、俺。
苦しいとか悲しいとか痛いとか、そんなことを感じるほどロマンチストじゃなかっただろう。
自問自答の果て。溢れたのは苦笑と、己も気づかぬ涙。
(俺が生きていく上での障害になるから倒した、ただそれだけだ。
もっとも結果は見ての通り。結局死ぬ羽目になるなんてな……まったく、俺の努力は大概徒労になっちまうからやってられねぇ)
神様。見えてるなら俺と一緒に死んでくれ。いやまじで。
こんなにも災難に遭遇するのは俺が前世でなにかやらかしたからなのだろうか。どうしようもない。外れないカチューシャは不格好だし、死ぬのはこんなにひとりぼっち。
立ち上がるのも難しい、ただあいつには致命傷を与えられた、だからよしとしようか。
「……ってえな」
この体じゃあ金持ちになりたいだとか異性にモテたいだとか人生楽して生きたいだとか、あの馴染みの店のお気に入りを食べたいなんて願いでさえ叶えられそうにない。ああ、走馬灯。こんな感じなんだ。死ぬんだな、俺。
(あーあ、誰もいない場所でひっそりと命を落とすだなんて、いつか思い描いたはずのまさしく理想的状況ではあるんだけどなぁ……。こんなくだらない願いだけが叶っちまうなんて人生ままならないもんだ)
血に濡れた瓦礫。ここじゃあ押しつぶされそうだ。
せめて誰もいないところで。
壁に手をついて動く。せめてもの悪足掻きだと、神様ににらみを利かせるように。
(さて、もうどうせ他にやる事も無いしな……過去の思い出でも遡りながら命の灯火が消えるそのときを、待つか)
朽ちていく世界。
古ぼけた路地裏。
誰も居ない場所。
誰も来やしない。
わかりきってた。
光が差した。世界を照らすような爽やかな光が。
朝を告げるひかり。砕かれたビル群の隙間を縫って、世界の元へ。
「……最期まで地味なままかよ」
真白い世界のワンルームの扉を開けて。
拗ねた妖精に笑顔を戻し。
そうして、世界が紡いできた物語が手を伸ばすようだった。
『世界。私を、置いて逝くなんて。……ばーか』
(は。馬鹿なんかじゃ、ないから……)
くだらない人生だった。
ちっぽけだったかもしれない。
それでも。
悪くは、なかったよ。
●『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
自分を撃った駐在警官を見つけたときの興奮といったら、ああ。
殺してやりたい!
女の子はケーキの苺を楽しみに残すように、自分を殺した宿敵をラストのメインディッシュに残す場合だってある。具体例はメリーだ。
「なにそれ」
メリーは指をさす。
木製だったはずの警棒をわざわざ鉄製に変えてきたというのか。くだらない。
「私を殺したいのね。前世でなら認めてあげないこともまぁほとんどないんだけど、今世はあなたに何もしていないでしょう。
それって只の私怨で怨恨よね。気持ち悪。ストーカーは犯罪なんですよ、助けておまわりさぁん!」
黙らせることが目的なのか、殺すことが目的なのか、警官は一心不乱に鉄棒を振るい、懐から出した拳銃でメリーを射抜く。
「ねえ、やめてよ。痛いじゃない」
メリーはあくまでメリーである。
やられたのならば執拗にやり返す。
魔弾の群れ。空間を弾丸と弾丸で埋め尽くす。
ドドドドドドドドド
互いに致命傷ではあるが的の広い警官が頽れる。
「わたしの仇。自分の命を奪った憎むべき敵よ
まあ、元の世界でなら、わたしが社会悪で、法律で裁くことも出来ないから殺すってのも百万歩譲って分からなくもないけど、また殺そうとしてきたってのは、もう義憤じゃなくて私怨よね。
今のわたしはちゃんと人の役に立つこともしてるし、依頼以外では少ししか人を殺してないもの!」
だから、死んでね。
同じように死んでしまったメリーは、幽体となって再び立ち上がる。
「ていうか……こいつ、わたしじゃなく『魔法使い』を憎んでるように思えるんだけど……過去になにかあった?」
亡骸は答えない。
それを承知で、メリーは警官を揺さぶってみたり蹴ってみたり、『もしもーし』と目の前で手を振ってみる。
やがて飽きると、気が済むまで暴力を成してからふうとため息。
「ま、聞き出す前に死んじゃったし確認しようがないけどね」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
どうも、染です。今月はシナリオも頑張りたい月間です。
命は巡り回って、この世界に広がるとは言うけれど。
それでは、今回のシナリオの説明に入ります。
●成功条件
貴方が後悔しない最期を過ごす
貴方はもうすぐ死ぬでしょう。判定としては死にませんが、そんな感じの世界の中で、後悔しない最期を過ごしてください。
何を願うも自由です。
その願いは確実に叶えられます。
貴方がそれを叶えたあとに何を思ったのかを、お聞かせください。
●世界観
混沌によく似たどこか、です。
一番の敵と戦っています。いました。
それは貴方の手によって討ち取られ、先に絶命しているでしょう。
戦闘をしていた舞台などご希望あればご記入ください。混沌の国であれば、地域の詳細などもあると助かります。(例、鉄帝、ヴィーサル)
ただしよく似たどこか、ですのでその国ということにはなりません。
●ご記入頂きたいこと
一番の敵:イラストリンクなど何でも構いません、ご記入ください
戦闘の舞台:ご希望あればでかまいません
敵との関係や、それに対する思い:ご記入くださ
死んだあとの消え方:吸血鬼なら光を浴びて死に、塵になる、とか。人魚なら干からびて死ぬ、とかあると思います。ここは無ければ書いていただかなくて大丈夫です。
最期の願い:これを一番重きをおいて書いていただけるとご希望の描写にそいやすくなるかと思います。
●サンプルプレイング
敵:魔種の関係者、○○
場所:練達の滅んだふるさと
関係:兄弟。○○の弟としてちゃんと葬ろうと思っている
なあ、にいちゃん。
俺、やっぱりにいちゃんがたいせつだったよ。
……あ、あ。やっと、終わらせてあげられた。
さいごは、にいちゃんと最後に出掛けたあの花畑へいきたい。
……しにたく、ないなあ。
以上、宜しくお願いします。
Tweet