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シナリオ詳細

<Raven Battlecry>『真珠』と、盗賊と、パカダクラと

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 少し前まで、幻想を拠点に盗賊稼業をやっていました。
 空き巣、通り魔、誘拐、まあ一通りの悪事はやってきた自負があります。多分。
 ……やってきたはずなんですよ。

「家の火の不始末を見つけてくれて有難うございます。消化まで手伝ってくれて……助かりました」
「ちゃうねん」
「まさか我々より先に変装した賞金首を見抜いて昏倒させてくれるとは……幻想の平和によく貢献してくれた」
「違うんですって」
「息子が潜伏性の難病に罹っていたなんて。急いで病院に連れて行ってくれてありがとうございます!」
「ちげーっつってんですよちくしょぅ!?」

「……まあそんなわけで、拠点を移そうと考えたわけですが」
 やってきた先はラサ。傭兵を主とした商会連合が実質的に支配しているお国です。
 地続き……と言うわけではなくとも、幻想とは河一本で遮られた程度の距離。こっそり密航すれば国境を越えるのは存外簡単でした。
 そんなわけで、新天地でいざ悪だくみ! ……と、思っていた矢先。
「荒らせ荒らせェ! 金目の物は二の次だ!
 食い物は果実の種一粒、水は一滴に至るまで搔き集めろ!」
「お止め下さい、お止め下さい!
 それが無くては、我々は明日を過ごすことすらままなりません!」
 ……初めて着いた村が、何か、盗賊に襲われてました。
 首都ネフェルストに遠く及ばずとも、小さなオアシスに面したその村で暴れまわる盗賊たちと、それに向かって哀願している村人たち。
「住民共は一纏めにしろ。一々殺すのも面倒だ。
 ブツを漁り終えたら最後に燃やして、俺たちは首都に向かうぞ」
「了解です、兄貴」
「お止め下さい、お止め下さい……!!」
 泣き崩れる住民たちを村の中央に連れていくもの、或いは家探しをして食料品を漁る者などに分かれる盗賊たち。
 ……えー、首都襲撃犯? 此処襲ってるのは其処に至るまでの糧食を補給するため、ってことです?
 思ったより大事になりそうな事態に頭を抱えますが、同時にこれはチャンスだな、とも思いました。
 何故と言って、盗賊たちの狙いは食料品。加えてこれから首都を襲うとなれば、余計な重しになる金品等は奪わないはず。
 住民たちには悪いですが、彼らは見捨てて……火事場泥棒も十分イケそうかなと。
「おっと、其処なご家族。そっちは盗賊が網貼ってますよ。遠回りになりますけど反対側から逃げた方が確実かと」
「あ、有難うございます!」
 ……さて。
 盗賊に気づかれず家々を移動するため、感覚を研ぎ澄ませます。
 足音と彼らの声、砂獣除けの香の匂い、あとこっちの肩を甘噛みしてくる感触……いや何ですかこれ。痛い痛い痛い。
「………………んぃ?」
「ダカー」
 背後を振り返れば、其処には轡と鐙が取り付けられた騎獣の姿。
 何でしたっけこの子。ぱかだく……パカラクダ? とか言う騎獣が、いつの間にやらずらっと並んで私の方を見ていました。
 漸く彼らを認識した私に、対するパカラクダ? さん方は私にめっちゃ鼻先をこすりつけてきまして。
「い、いや何ですかあなた方。私は美味しくないですよ?」
「……ダカー」
「んん? ……あ。轡と鐙ですか? それが邪魔?」
「ダカー」
 ふんす、と鼻を鳴らす騎獣さん。合ってるんですかねこれ……まあ良いや。
 正直、そんなことしてる暇は無いと言えるんですが――若しこの騎獣さんが盗賊たちの乗り物だった場合(それはそれで見張り番つけとけって思いましたが)、下手に断ると『主人』を呼ばれる可能性もあるわけで、それは避けたいのもありましたし。
「ええい、時間無いからちゃっちゃと済ませますよ。ほら、全員其処に並んだ並んだ」
「ダカー!」
 そんなこんなで、騎獣さん方の装備を外すのに約十数分が掛かりまして。



 ……その後がああなるとは、私も思ってなかったんですよ。はい。


「……大鴉盗賊団、ね」
「はい。それが今回、首都ネフェルストを襲おうと画策している敵の名前なのです」
『ローレット』に緊急招集を受けた特異運命座標達に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が真剣な面持ちで一つ頷く。
「此度、彼らが首都を襲う目的は偏に色宝……小さな願いを叶える宝、と言われているものたちです。
 集まってくださった方々の中には、それを見たことがある人もいるかもしれませんね」
 色宝は発見された際、その管轄がネフェルストに移り、現在に於いても現存する色宝は彼の地の倉庫にて保護・管理が徹底されている。
 それを襲うとは大それた、とも思う反面、それだけの動機……欲望と、『襲撃が行えるだけの実力』を彼らが併せ持っている、と言う可能性に、特異運命座標達は空恐ろしさを覚える。
「とは言え、露見した強襲作戦に対するリスクは高くは無いのです。
 ボク達が行うべきは、その対処――それだけなのですよ」
 ……実際は。
 その襲撃自体がブラフであり、真の狙いは別にあることを、のちに彼らは知ることとなるのだが。
 それでも、今この時に於いては、特異運命座標達はユリーカの言葉に励まされたように、決意を新たに眼前の依頼に立ち向かう。
「皆さんに今回向かってもらう場所は、首都ネフェルスト近郊に存在する村の一つなのです。
 其処を襲撃した盗賊たちは村人たちから食料品を略奪した後、手薄となっている防衛線を一息に突くつもりみたいですね」
 最初から糧食を持たずに動いていただけあって、敵の売りは最小限の装備を代償とした騎獣での高機動戦闘らしい。
 前衛から後衛の術師に至るまで、素早い挙動を以て先の先を撃ち、種々様々な状態異常を主軸に特異運命座標達の動きを制限したのち、じっくりと嬲り殺す……と言う手法が主『だった』。
「……だった?」
 特異運命座標の一人が、鸚鵡返しに聞き返せば、対する情報屋は乾いた笑いで視線を逸らす。
「……えー、実はですね。
 今この盗賊たち、戦闘状態にあるのです」
「は?」という表情を浮かべた特異運命座標達に、さもありなんといった表情で頷くユリーカ。
「……昔、ボクが出した依頼で、一人の盗賊さんが居たのです。
 まあ、盗賊って言うのも自称で、その子が行う行動全てが第三者が助かる……要は善行ばっかり結果的に働いている人なのですが」
 曰く、『真珠』の二つ名を冠するその盗賊は、元の拠点としていた幻想からラサに移った後、今回の村襲撃に立ち会ったらしい。
 ……そこまでは良いのだが。
「先ほどの盗賊たちが騎獣を駆ると言ったのですが。
 その騎獣……パカダクラは元々温厚な草食獣なのです。それを魔力の籠った轡と鐙で、強制的に従わせていたみたいで」
「うん」
「それをですね。外しちゃったんですね。その『真珠』の盗賊さんが」
「……それで?」
「自由になって、それまで拘束されていたパカダクラたちが、現在その村で暴れているのです」
「………………」
 幸い、と言うか、村人たちはその後騒ぎを起こした『真珠』の盗賊が解放して村から逃がしたらしい。
 結果、現在は騎獣と盗賊たちの大混戦中。それを聞いた特異運命座標達が首をかしげる。
「……放っておいていいんじゃね?」
「流石にそれは盗賊たちをナメ過ぎなのですよ」
 実際、ことが起こった現時点こそ混乱はしているものの、消耗しているかと言えば否だ。
 それも時間と共に収束し、盗賊たちは再び騎獣を調教し終えた後、襲撃に再び移ってしまうだろう。
「だからこそ、彼らが混乱している現在がチャンスなのです。
 勿論、皆さんも騎獣たちに襲われるリスクはありますが……この機を突いて一気に盗賊を壊滅させてしまうのです!」
 要は、ハイリスクとハイリターンがセットとなっている戦場に飛び込んで漁夫の利を得てこいと言う依頼である。
 一部、頭を抱える者も居たが、一国家の危機となれば否やも言える筈も無く。
 斯くして、特異運命座標達も含めた三つ巴の争いが、一つの村を基点に始まろうとしていた。



 ――否。正確には、もう一人。


「待てコラクソガキィィィィィィ!」
「待ったら絶対無残に殺される奴じゃないですかちくしょぅ!?」
 小さな村の家やら道やらを縦横無尽に駆け巡る私と、それを追う盗賊たち。
 盗賊始めてから戦闘技術ぶん投げて非戦スキルと逃げ足に全振りした甲斐あって、現在は上手いこと逃げきれていますが、それが何時まで保つかは怪しいところ。
 ……いや、スタミナの差とか、人数差とかありますが、それ以前に。
「手前の所為で襲撃がどれだけ遅れると思ってやがる!?
 つま先から鉈で体をスライスしてやるからとっとと「ダカー!」おっぶ」
「あ、兄貴ィー!」
 村内を現在も駆け巡る騎獣さんに高々と吹っ飛ばされる盗賊の一人。
 何時私もアレに巻き込まれるのか、気が気じゃないです。マジで。
「くそう、変な色気出して村人の拘束解くんじゃなかった……!」
「兄貴の仇だ手前ェ! 止まりやがれ!」
「いやそれは変なマジックアイテム使って騎獣さん操ってたアンタらの過失でしょうが! 私が襲われる謂れ一切ないですし!」
「でもお前俺たちが奪った奴に加えて手持ちの食糧も軒並みパクって逃げる村人共に渡してたよな?」
「はい」
「あのガキを開きにしてバーベキューにしろォ!」
「絶対捕まってやんねーですからねば――――――か!」
 ……逃走劇に終わりが見える様子は、未だなく。
 頼むから誰か助けに来てほしいと思いつつ、土煙舞う村を、なおも私は駆け巡るのでした。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
『盗賊』全員の討伐、乃至捕縛

●場所
 ラサの首都、ネフェルストを近郊に於く村の一つ。時間帯は昼。
 首都が比較的近距離で目視できる程度には近く、騎獣を使えば一時間と経たずに首都につくでしょう。
 闘いやすい場所は中央の広場。家々は風の通り道を作り為に細めの間隔で建てられており、其処を移動しながら盗賊と戦うことも可能です。
 シナリオ開始時、『盗賊』『真珠の盗賊』は村内をバラけて走り回っております。

●敵
『盗賊』
 今回ネフェルストを襲う大鴉盗賊団の一味。数は合計20名。
 本来は騎獣を介した素早い戦闘を得意としていますが、シナリオ開始時点では騎獣に乗っていないため、ステータスに一定の下方補正がかけられています。
 彼らは時間経過とともに、戦場内に存在する騎獣を乗りこなしていきます。そうした場合ステータスには大幅な情報補正がかけられます。
 戦闘方法はOP本文参照。基本的には全員近接武器を使用しての戦いを得手としますが、後方での魔術、物理攻撃を可能とするものも。

●その他
『騎獣』
 上記『盗賊』達によって隷属されていたパカダクラたちです。数は合計20体。
 彼ら自身にステータスは在りませんが、戦闘中、このパカダクラの進路上に居たPC、NPCは判定無く吹っ飛ばされ、半径5m以内のランダムな位置に配置されます。
 これはマーク、またはブロックされている対象に対しても適用されます。ただしパカダクラは地上の生き物であるため、飛行等の回避手段を行使している場合はこの限りではありません。
 シナリオ開始時では全ての個体がランダムに移動しているのみですが、『盗賊』達がこれらのコントロールを取り戻した場合、その『盗賊』の移動に上述したノックバック特性が付与されるため、非常に危険です。

『真珠の盗賊』
 拙作「悲劇的少女は悪事がしたい」にて登場したNPCです。年齢十代半ばの少女。
 基本的に自己の利得を主として、他者を踏みつけにしてでも行動する……と本人は言っていますが、生来の人の良さと奇妙な運の巡り合わせによって、人助けしてばかりの人生を歩んでいたり。
 シナリオ開始時点では盗賊たちから逃げ回っている最中です。
 戦闘スキルはほぼ無し。多量の非戦スキルと反応値、移動距離が殊に秀でたステータスとなっております。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。



 それでは、ご参加をお待ちしております。

  • <Raven Battlecry>『真珠』と、盗賊と、パカダクラと完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
一条 夢心地(p3p008344)
殿
三國・誠司(p3p008563)
一般人
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ

リプレイ


「とっとと捕まって騎獣共のはやにえになれっつってんだろガキィ!」
「うっせーですよ騎馬無しライダー! 私一人にしてやられて体面無くなってるくせに粋がるのマジで笑えるんですが!」
「うおぉぉぉぉぉ殺す!」
 ――以上、現在の状況。
 人気がめっきり少なくなった小さな村内にて。一人の少女と大勢の盗賊&大量のパカダクラが入り乱れる様は正に阿鼻叫喚そのもの。
 とは言え、その混乱は一時的なもの。時間と共に盗賊たちは己の騎獣のコントロールを取り戻し、逃げ回る少女を捕まえて縊り殺してしまう事だろう。
 ……だからこそ、『彼ら』は現れたのだ。
「ふっ、アニマルライダーが肝心の騎獣に振り回されるとは、間抜けな話よの」
「何だと!? 手前一体何者………………」
 戦場に突如響く聞きなれない声に、盗賊が振り向けば。

「この麿がパカダクラの乗りこなし方、教えてやらねばなるまいて!」(←殿)
「……いつも思うんですが、パカダクラって気の抜ける名前と見た目ですよね……」(←たい焼き)
「盗賊の討伐っすかー。人間を相手にするのは家電的にはちょっと心が痛むっすねー」(←扇風機)

「オイ何だこの芸人集団!?」
「待って待って違うから! 『ローレット』の冒険者だから!」
 思わず突っ込んだ盗賊の一人に『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)がばたばたと手を振って訂正する。
「『ローレット』……ああクソ、特異運命座標共か!」
「げ、特異運命座標……」
「『真珠』さんは此方に! 一先ずは安全です!」
 盗賊に続いて渋面を浮かべた少女に対して、『Dramaturgy』月錆 牧(p3p008765)が手を伸ばしながら声をかける。
「……いやー、私あなた方の事苦手なんで一旦距離を置かせてもらっても」
「其処の人(まきさん)ジェットパック持ってるから騎獣に轢かれずに済むよ?」
「一生ついていきます姐さん! 靴舐めた方が良いですか!?」
 いやそれはちょっと。って顔してる牧と少女を遠巻きに眺める『一般人』三國・誠司(p3p008563)が、「あー、こういう感じの人かあ」と言いたげな(生暖かい)表情をしていた。
「ははっ、随分愉快なことになってるじゃないか。
 真珠の盗賊クンとやらにも興味はあるが、今は仕事を優先しようかな」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が苦笑交じりの表情で、その手に携えた霊刀をしゃらりと振った。
「付与、確かに。有難うございます」
「……うむ、中々インパクトのある姿じゃないか」
 切っ先は『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)へと。得物を媒体にゼフィラが魔術を行使すれば、見た目たい焼きのディープシーには白く輝く翼が出でて。
「クソッタレ、見た目色物でも実力は本物か……野郎ども!」
「おっと、指示は止めて貰いましょーか」
 言うが早いか。放たれた魔砲に対し、盗賊の一人がたまらず吹っ飛ばされる。
 数回、地面をバウンドして尚起き上がる盗賊。仕留めそこなったことに対して『扇風機』アルヤン 不連続面(p3p009220)が無念そうな声音でぽつりと呟く。
「先刻こそああ言いましたが、依頼は依頼。悪いやつはやっつけるっすよー」
「やって……みろ……ゴミが!」
 ゼフィラによる付与と合わせ、戦闘開始時点に於いて既に特異運命座標らのほぼ大半は空中移動の手段を獲得していた。
 それが意味するところは、この戦闘でパカダクラによる被害を受けるのは主に盗賊側と言う事。初動からの逆風にしかし、盗賊は舌打ちを零すにとどめる。
「……騎獣共の操作を第一に考えろ! 乗れてないやつらはマトモに特異運命座標共とやり合うんじゃねえ!」
「賢明じゃの! だが、しかし愚策よ!」
 言葉を返したのは『殿』一条 夢心地(p3p008344)。妖刀『東村山』を構え、自分で駆ってきたパカダクラのパカ君共々襲い掛かる彼がチャージと斬撃を続けざまに放ち、それに耐えきれなかった盗賊の一人が悪態と共に地に伏した。
「徒歩の貴様らが騎獣の制御を取り戻すまで、パカくんに乗って機動力のある麿たちに何人がやられるかの!」
 突如現れた特異運命座標達によってさらにかき乱された混乱。それが盗賊たちへ十分に伝播したと考えたタイムは、くいと傍らの仲間の袖を引っ張って。
「一悟さん、今の内よ!」
「お、おう。分かってる」
 引っ張られた『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は若干戸惑った様子で、しかしタイム共々ある場所へと歩を進める。
「ダカー! ダカー!」
「……え、えーと。ぱかぁ、ばかばか?」
 向かった先には、暴れまわるパカダクラの内一頭が。
 協力を申し出るために敢えて向こうに合わせた語調で前に出る一悟に対して、パカダクラの方は。
「……。ダカー!」
 動物疎通を通じて、曰く。『うるせえとっとと踏まれろ人型共』とのことで。
「いやちょ待っ……うおおおおお!?」
「い、一悟さーん!?」
 叫び声と共に、空高く舞った一悟の姿。
 ……斯くして。敵も味方も20体の騎獣に振り回される争いが幕を開けたのである。


 特異運命座標達の行動は大別して三つだ。
 一つは盗賊たちが騎獣のコントロールを取り戻すことに対しての阻止。
 二つ目は上記によって挙動を遅らされている盗賊たちの各個撃破。
 そして、三つ目。暴れまわるパカダクラたちを説得して味方につける……要は戦況を完全に特異運命座標側の有利に運ぶ行動なわけである。のだが。
「……いやまあ、あの方ら、あなた方の想定以上にキレてるんですよ」
 とは少女……『真珠』の盗賊の言である。
 誠司に頼まれて『二人』のサポートに就かされた彼女は現在、家々の隙間……実質的な路地の片隅に隠れて相談を行っていた。
「あの方らの拘束解いてあげた私ですらこうして轢かれそうになりまくってますから。初対面のあなた方の言葉一つで翻意できるかっていうと……」
「……みたいだな。相当怒り狂ってるみたいだ」
 ダメージこそないものの、吹き飛ばされて後急いで戻ってきたためにぐったりした様子の一悟のそばで、タイムがぴっと手を挙げて少女へと問いかける。
「それじゃあパカダクラさんへの説得は無理ってこと?」
「先ほどあなた方がおこなってたの、動物疎通の類ですよね?
 意思が通じる以上無理とは言いませんが、怒りを覚まして、お願いして。ってのは相当根気要りますよ」
 ――動物疎通は相手の知性据え置きですから、『手っ取り早く懐かせる手段』が在るならまだしも。
 その言葉に対して、頭を抱える一悟とタイム。仮に言葉を発したとしたら「それまでにかかる時間が惜しいんだけど」だろうか。
「……本来騎乗後にやる行動を挟みつつ、アイツらの説得を続けるしかないか?」
「それしかないんだけど……」
 言いかけた、他の仲間たちへの不安を飲み込んで。タイムが「行きましょう!」と言って立ち上がる。
 迷っている時間が惜しい、と判断したタイムの懸念は、間違いなく的中しているのだ。今、現在も。


「パカダクラはわたしも飼っているので、彼らを助けてくれた真珠の盗賊クンには好感を覚えているが……」
 場面は変わる。家々が並ぶ路地に入り込んだゼフィラが衝撃の青を撃ち込めば、それに当てられた盗賊の一人が、それまで轡を嵌めようとしていた騎獣から距離を取らされる。
「……逆に、君たちに対しては幾らか怒りが先立つ。お分かりかな?」
「気障な言い回しがお得意じゃねえかクソアマァ!」
 返す刀と盗賊が短剣を投げる。
 飛行するゼフィラの回避が僅かに遅れた。擦過する刃。薄皮一枚を裂いた程度の傷から、しかし虚脱にも似た酩酊感を覚える彼女が苦い表情を見せて。
「とは言え、役目は果たせている……!!」
 よろめくゼフィラ。無防備な盗賊。それらを前にしながら、しかし残されたパカダクラはわき目も降らずに一つの方向に向かって疾走した。
「あぁ、僕は餌じゃありません……効き目が良くてうれしいやら悲しいやら……」
 向かう先は、甘い香りを最大限放ち続けるベークに対して、である。
 最初からパカダクラに対してのドローイングを担当していた彼に群がる大量のパカダクラたちに浮かべる表情は悲しげだが、これもまた有効な戦術である。
 元より飛行持ちが多いとはいえ、戦場を撹乱する存在が居なくなったことで格段に動きやすくなった特異運命座標に対し、盗賊側はそもそも騎獣に乗り直すことが目的である以上、仮に轢かれようと彼らの元に向かわざるを得ない。
 行動を阻害されない分、彼我の使えるリソースには更に差が生まれる。当然、それを特異運命座標らも見逃しはしない。
「一発撃つっすよー。お仲間さんは離れてくださいっすー」
 何処か気の抜けたアルヤンの声。ばたばたと四枚羽が勢いよく回れば、其処に籠められた魔力が放出。直線状に存在する者全てを薙ぎ払う。
 撃ち込んだ魔砲は、アブソリュートゼロはこれで何度目か。
 充填能力も持たない以上、気力が枯渇すれば自身の身が危ういことを理解しつつも、しかしアルヤンは己を『使い捨て』と判じて一切の躊躇なく攻勢一辺倒に務める。
「……うん、パカダクラへの被害も無しっすねー」
「ガラクタ野郎……!!」
「僕たちの仲間に対してその言いざまは看過しかねるね!」
 返された言葉は誠司のものである。
 ぶんと振るうは『御國式大筒【星堕】』。遠心力を介して引き延ばされた砲身を両腕に抱えて、狙ったのは悪態を吐いた盗賊その人。
 飛行する誠司が地上に打ち込んだ弾丸は、武器の名そのものに相応しい。悲鳴を上げる間もなく力尽きた盗賊には最早目もくれず、彼の視界は上空から見る戦場、ひいてはその配置にのみ向けられる。
「牧さん! そっちから見て左!」
「畏まりました……!」
 パカダクラがベーク目掛けて集まっている今、誠司の言葉に左側に『何方が襲ってくるか』を言う必要は無い。
「くたばれイレギュ……!」
「生憎と」
 路地の只中。言われた方向から現れた盗賊が牧の姿を両断した。
 ……正確には、牧の姿をした、幻影を。
「私は、他の方々と違いまして。
 村人を。彼らの『大切な人』を奪うようなあなた方は、魔種(やつら)同様殺しても構わないと思っているんですよ」
「は――――――」
 切り伏せた幻影の向こう側から現れた牧が、盗賊の鳩尾を強く叩いた。
 突き立てられたのは刀の柄。もんどりうって倒れた盗賊を適当な家屋に放った彼女は、すました表情のままで「冗談ですよ」と言い残した。
 集中の度合いによって精度が決まる幻影は、戦闘中に作れるレベルが限られるも、路地の隙間から突如現れる盗賊たちの眼を一瞬惹く程度の役割は果たしてくれている。
 ――嗚呼。だが、しかし、『善戦は其処まで』。
「……とまれ悪心を抱いておっては、真の意味でアニマルズたちと心通わすことはできぬ」
「ほざいてろ、ヒーロー気取り共」
 路地から視点は映る。
 砂塵舞う戦場の最中。パカダクラのパカくんに乗った夢心地の言葉に、盗賊は。
「手こずらせてくれた礼をしてやるよ。
 ……簀巻きにして、流砂にでも放り込んでやる。精々泣き叫んでくれよな?」

 ――『騎獣に乗った盗賊十組』は、唯一人相対する夢心地を、せせら笑った。


 不足していた点は多い。
 不確定要素の多いパカダクラへの対応を前提としていた作戦もあるが、今回の戦闘に於いて最も稚拙だったのは敵の妨害と撃破の比率、そして立ち位置の分散によるターゲットの散逸化が主だった。
 最初に言った通り、特異運命座標らの作戦は(パカダクラたちの増援目的を除けば)基本的に騎獣の操作を取り戻す盗賊を妨害しているうちに各個撃破する、と言うのが作戦の主軸だ。
 この妨害を単体攻撃しか持たないゼフィラ一人が担当するのは負担が大きすぎる。大多数の誘因、足止めを可能とするスキルを持つベークが、その能力対象をパカダクラにのみ絞っていたことも――無論、彼の耐久性能では盗賊まで対象に含めれば最悪「倒れることが念頭」になりかねないが――理由としては大きい。
 尤も、妨害担当が少ないというのは、その分が撃破担当に回されているという意味でもある。
 その分の火力が『適切に』運用されていれば、この状況ももう少し改善されていたかもしれない。
 ……事前に情報屋が説明した通り、戦場は二種類に大別される。村内の広場と、家々が遮蔽となり得る、それらの隙間による路地が。
 このうち、どちらかをメインの戦場にするかの判断、若しくはそれぞれの場所に於ける連携が為されていなかったことも大きな要因だ。
 例えば強力な威力が在りながら、貫通属性のみを持つアルヤンの魔砲は、その属性上広場での運用が望ましい。だが牧の行動は路地での戦闘を念頭に置いたものであるために同一のターゲットを狙いにくい……言ってしまえば個々人へダメージを集中できず、各個撃破とは縁遠い状況を構築してしまっていたのだ。
 メンバーの大半が飛行属性を持っていたとはいえ、これは致命的だった。上空から戦況を把握し、指示を出していた誠司とて、小さくとも村一つ分の、しかも敵味方合わせて30人近くの動向を把握するのは無理がある。
 負傷していた個体等、ターゲットの優先順位が付けられていなかったこともあって、盗賊たちが騎獣に乗りなおすまでに倒せた数は想定よりもはるかに少なかった。
「ぶっ飛べ………………!」
 ――唯一の救いは。
 殊、『騎乗した盗賊』に対しては、特異運命座標らはそれを優先的に狙う、という共通認識が図れていたことだろうか。
 一悟の拳が騎乗した盗賊を打つ。刹那、カチリとなった掌の中で、気功爆弾が起動の音を鳴らした。
 爆ぜる盗賊とパカダクラ。だが、与えられたダメージは粗末なもの。
 これは一悟の攻撃力が問題ではない。本来の戦闘スタイルに戻ったことで機動力を取り戻した盗賊の側が、寸でのところで距離を取って威力を大きく殺したことが原因だった。
「手前がな、餓鬼ィ!」
「……っ!!」
 そうして、反撃。
 騎獣の足によるスタンピング、同時に毒を絡めた斬撃……二次行動。
 更なる斬撃に籠められた呪殺属性が、一悟の生命を削り切った。運命が意識を繋ぎ止め、自身が倒れることを防ぐ。
 騎乗しなおした盗賊と相対してから、経過した時間は少なくなかった。
 凡そ十名の盗賊を相手に一人、相当な時間を立ちまわった夢心地の活躍は奇跡に等しかった。敵が一か所に集中したために特異運命座標らもそれを追って総力戦の態勢を取れたのは間違いなく彼の功績と言える。
 ……それでも、その奇跡が、受け継がれることは無かった。
 飛行態勢を取っていなかった夢心地とアルヤンが最初に倒れた。次いでジェットパックの稼働時間限界を迎えた牧も集まった盗賊に倒され、そして飛行を持つ者の内、パカダクラの動きを妨害し続けるベークもまた。
 近接攻撃を主体としているがゆえに、上空を飛ぶ者への攻撃は些か威力を減じるものの、それでも特異運命座標達からの攻撃を殆ど意に介すことが無くなった盗賊からすれば然したる誤差だ。
 ――そして、事ここに至って。
「みんな、パカダクラさんたちを……!!」
 タイムが、説得し終えた八頭のパカダクラを連れて、戻ってきた。
 忸怩たる表情を浮かべる誠司。一瞬の瞑目の後、すぐさま倒れた仲間たちを騎獣たちに乗せるゼフィラ。
 味方の半数は倒れた。敵方も半数以上が倒されたものの、それとて残った特異運命座標達を倒す程度には力が残っている。
「……撤退しよう。向こうは首都を狙っている以上、僕たちを深追いはしないはずだ」
「それでも、逃げ始めた時くらいは追い縋られる。
 騎獣の操作で優れている彼らに、わたし達が逃げ切れるとは思えないが?」
「それは――」
 僕が殿を。そう、内面に自己犠牲を有する誠司がゼフィラに言おうとして。
「……んにゃ、アイツら煽ったのは私ですしねえ」
 そう言った『真珠』の盗賊が、よっこいしょとパカダクラに騎乗した。
「……『真珠』さん?」
「もっかいアイツらを挑発して逃げます。あなた方は私とは逆方向に逃げてください」
「……、そんな」
 目を見開くタイム。何故あなたが。そう視線で問うた彼女に、少女は少しだけ恥ずかしげに、笑んで。
「私はね。悪党なんです。例え事実がどうであろうと。あなた方がどう思おうと」
 けれど臆面もなく、そう言い切った。
「悪党は思い切り笑って、最後に惨めにくたばるのが、お似合いでしょう?」
 ――その言葉を最後に、少女は、騎獣と駆け出した。
 自身がこれ以上引き留められることの無いようにと。最早撤退するしかない特異運命座標らに、苦渋の、しかし明確な決断を下させるためにと。



 結果として。
 特異運命座標らは撤退に成功する。先に倒れた四人よりも大きな被害を、一切出すことなく。
 ……その果てに、誰にも語られることのない犠牲を一人、遺しながら。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)[重傷]
防戦巧者
月錆 牧(p3p008765)[重傷]
Dramaturgy
アルヤン 不連続面(p3p009220)[重傷]
未来を結ぶ

あとがき

ご参加、有難うございました。

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