シナリオ詳細
<Raven Battlecry>オルフェンズの襲撃
オープニング
●神は天にあり、地に地獄の広がり
「ほんとに使えるのか、このガキども」
一行は砂漠を行く。目指すは夢の都。ネフェルスト。
彼らは、大鴉盗賊団と名乗る一派である。彼らの目的は、ネフェルストの倉庫に収蔵された、色宝の奪取。
一同は、ネフェルストへの襲撃を仕掛けるために、こうして砂漠を渡っている所である。
盗賊団の一派、と先ほど記述した。だが、それにしては、そのメンバーは些か異質であった。
一段のしんがりを務めるのは、いかにもな風貌をした三人の男である――これは良いだろう。だが、その前列に位置するのは、いずれも10代前半の子供たちである。
子供たちは、人種、性別、年齢までもがバラバラであった。だが、一様に相応の装備に身を固め、確かに意思を伴った瞳で、行軍を続けている……。
「カチヤとか言ったか、あの神官……」
男の内の一人が、声をあげた。
「前々から大鴉盗賊団(ウチ)と取引してた傭兵派遣業者だ……送られてくるのは、全部自分で育てた孤児のガキどもだとよ。いかれてやがるぜ、あの女」
「だが、ガキどもの腕は確かだそうだ。それに、こっちはどうせ、本命じゃないんだ。適当に暴れさせておくには、ちょうどいい手ごまだろうよ」
彼の言う通り、ネフェルストへの攻撃は、陽動に近いものだった。
もちろん、首尾よく色宝を収奪できれば上々。相応の戦力は用意していたし、決して手抜きの軍隊という訳ではない。
だが、本隊の本命は、あくまで別のところ、と言う事実が、彼ら盗賊の男たちから、些かの士気を失わせていた。
……そんな彼らとは裏腹に、子供たちの士気は高かった。
「マザー・カチヤのために♪」
隊列を率いるリーダーの少女、オイリが歌うと、それに後ろに並ぶ子供たちも続く。
『マザー・カチヤのために♪』
「お家で待つ、弟と妹のために♪」
『お家で待つ、弟と妹のために♪』
「皆でお仕事、がんばろう!」
『皆でお仕事、がんばろう!』
「ねぇ、ねぇ、マイサ。今日のお仕事って何なの?」
幼さの消えぬ少年が、隣を歩く少女に尋ねた。
「まぁ、聞いていなかったの? トルスティ。今日のお仕事は、きょーしゅーさくせんよ!」
小さな胸を張って、マイサがそう言う。
その眼にも声色にも、罪悪感のようなものは感じられない。幼さゆえの無邪気さと言うモノともまた違う。これは、そういうモノだと教え込まれたが故に生じる、残酷な凪だ。
マザー・カチヤなる者に拾われた孤児である彼女たちは、生きるための糧を手に入れる手段として戦闘技能を叩き込まれた子供たちだ。
カチヤは大鴉盗賊団と取引し、金銭と色宝の一部を報酬に、傭兵として子供たちを派遣したわけである。
「そうなんだ! それでネフェルストに行くんだね。ラサの一番おっきい街なんでしょ? いっぱい殺さなきゃいけないね!」
トルスティの言葉に、マイサが笑った。
「そうよ! でも、きっとみんなが無事では終わらないわね。今日ははじめてのお仕事の子もいるから、足がすくんじゃう子も出るかもなのよ」
「でも大丈夫だよ! 僕たちが死んだって、稼いだお金はお家の子達たちのご飯になるものね」
くすくすと、トルスティは笑った。
「無駄じゃないものね! マザー・カチヤが教えてくれたわ!」
くすくすと、マイサは笑った。
「ふたりとも、おしゃべりしないの!」
オイリが眉を吊り上げて、叱りの声をあげるのへ、トルスティとマイサは身をすくめて、『ごめんなさい!』と声をあげた。
「油断しちゃだめよ! きっとラサの兵士やローレットのイレギュラーズ達が邪魔してくるわ! ちゃんと皆やっつけて、出来ればお家に帰るのよ!」
『はい!』
子供たちが一斉に声をあげた。
それは確かに、士気の高い一個の軍隊であった。
戦闘行為を仕込まれた子供たちの群れ……悪夢のような光景に、大鴉盗賊団の男たちは不気味なものを見る思いだった。
●ネフェルスト防衛作戦
大鴉盗賊団による、ネフェルスト強襲の知らせが入った――。
これは、フィオナ・イル・パレストによる情報網からもたらされたものだ。
大鴉盗賊団の目的は、ネフェルストの倉庫に保管された色宝。これの収奪である。
敵は大攻勢を仕掛けてくることが予測されており、もちろんこれを見逃しては、ネフェルストに甚大な被害が発生するだろう。
イレギュラーズ達はラサの傭兵たちと協力し、ここに迎撃作戦を展開することとなったのだ。
さて、このチームのイレギュラーズ達は、ネフェルスト近郊の砂漠にて、大鴉盗賊団の一部隊を迎撃する手はずになっていた。イレギュラーズ達は防衛線を構築し、敵を迎え撃つ――だが、彼らの前に現れたものは、異常ともいえる光景だった。
武装した子供たちが、目の前に現れたのだ。まるで子供たちが遠足でもしているかのような光景に、目を丸くする――だが、手にした武器は、確かにぎらつく業物であることに違いはなかったのだ。
「みつけた!」
と、戦闘に立つ少女が声をあげた。
「前方……八名! きっとローレットのイレギュラーズ!」
がしゃり、と子供たちが武器を構えた。重そうなそれを軽々しく構えるその姿は、出来の悪い悪夢のようでもあった。
「全員、こうげきかいし!」
無邪気に――しかし、その殺意は本物であることを、イレギュラーズ達は感じ取った。些かの困惑を抱きながらも、しかしその殺意の前に無防備でいることはできない。
イレギュラーズ達は武器を構え、『敵』の迎撃を開始するのであった――。
- <Raven Battlecry>オルフェンズの襲撃完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月21日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●砂塵に傭兵は踊って
「あ? 何、希ちゃん。……少年兵だぁ?」
『白い死神』白夜 希(p3p009099)の報告により、『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)が目を丸くしたのは、迎撃陣地をあらかた構築し終えた時のことである。
ネフェルストにほど近い、砂漠の途上である。周囲には、イレギュラーズ達が仕込んだバリケード類や、何やらジャンプ台のようなものまで設置してある。
「ネフェルストにいるともだちから確認したの。向かってきてる敵の中に、子供たちで構成された傭兵部隊が存在するって。その傭兵たちの裏には、マザー・カチヤって言う人物がいるって事も」
「ほう。子供の傭兵か」
ふむ、と唸るのは、『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)だ。その眉をあげ、興味深げに頷く。
「勇者……という訳ではないのだろうな。しかし、子供の傭兵、とは。効率的なものなのだろうか」
「暗殺者に仕立て上げる、ってのなら聞いたことあるのですけれど……戦士に仕立て上げるのです?」
『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)がうぇぇ、と肩を落とした。
「一体どんなしこー回路してるとそんな発想になるのか……不思議でたまらねえですね…」
ルリの言う通り、真っ当な思考回路でそのような発想を思いつくとは思えない。
「マザー……と言うと、アドラステイアを思い出すけれど。流石にそこまでは分からなかった。でも、天義の方面からやってきた傭兵団、って言うのは情報があるから、きっと、あそこ関連だと思う」
希が言う。アドラステイアとは、天義の一部を占拠し、独立国家のようなものを築いた危険思想の集団だ。子供を利用するという点で今回の件とは似ているが、その本流となるやり口とは、今回の件は些か外れているようにも思える。
「なんにしても……ガキが相手だって? やりづれぇ……」
千尋が舌打ちをする。グレイシアはが眉をひそめた。
「大丈夫かね。我々は、その子供たちと命のやり取りをするのかもしれんのだぞ?」
その言葉に、イレギュラーズ達は背筋が凍ったような思いをした。命のやり取り。つまり、殺し合うという事。子供に殺され、子供を殺す。その覚悟を、今持っているか、と、グレイシアの言葉は告げていた。
『殺すってのか!? 子供を!』
『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)、虚が声をあげた。言葉にすれば、さらに冷たい想いが心を侵す。
『冗談じゃねぇ……冗談じゃねぇぞ!』
虚の言葉は、多くの者が同じくする思いだ。冗談ではない。
「とは言え、覚悟は決めないといけないよ」
『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が言った。仲間達がぎょっとした様子を見せる。しかしカインは、頭を振ると、
「もちろん、殺す覚悟を、と言っているわけじゃない。ただ、救うにしても……なんにしても。戦う事自体は避けられない、という事だよ」
「救えるのならば、救おう」
静かに、『元神父』オライオン(p3p009186)が言った。
「希君のいう事が正しいなら、説得は不可能だろう。相手はプロだ。ならば、一度無力化せねばならないことだけは確実だ。だが、救えるものは、救いたい」
「そうですね!」
『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)が声をあげる。そのまま意を決するように、天甜酒をぐい、と飲み干した。
「殺さぬように戦う……それは、難しい事でしょう! ですが、我々にはそれを行うだけの実力があると信じています!」
笑う迅へ、仲間達も同意の視線を送った。仲間達の思惑は様々であっただろうが、いずれにしても、方針は決定した。子供達の部隊と遭遇しても、殺さずに制圧する。それが、彼らの方針だった。
かくして、万全の迎撃態勢を整えたイレギュラーズ達は、敵勢力を待ち受ける。
「さて……どうやら来たようだよ」
敵の接近に真っ先に気づいたのは、グレイシアである。
果たして――熱砂の向こうに見えてきたのは、情報通りの悪夢であった。
行軍歌のようなものを歌いながら、やって来るのは武装した子供たち。その後ろには3名の大人の姿が見えて、彼らが子供たちの監視役のようなものなのだろうか? 銃で武装している。
「ぜんたい、とまれー!」
リーダー格と思わしき少女――名をオイリと言う――が、号令を発した。戦闘にいた子供が、声をあげる。
「前方……八名! きっとローレットのイレギュラーズ!」
がしゃり、と、子供たちが構えた。くそ、と千尋は呻いた。冗談であってほしかった……だが、目の前にあるのは確かに現実だった。
「全員、こうげきかいし!」
がしゃり、と鎧を鳴らして、子供たちが走ってくる。イレギュラーズ達の間に、僅かな困惑と、しかし確かな決意が漲った。
「……っしゃ! 悪い子を躾んのも大人の役割だ! いっちょお尻ペンペンしてやろうじゃねえか!」
ぱん、と両手で、己の頬を叩いて。
気合を入れなおした千尋が、声をあげる。
その言葉を合図に、イレギュラーズ達の戦いは始まった。
●子供たちの戦争
放たれた矢が、イレギュラーズ達の設置したバリケードに突き刺さった。敵の弓、そして魔法を援護にして、剣を持った子供(ようへい)達が突っ込んでくる。
「オーソドックスな戦法だな。しかし、敵意をむき出しに襲ってくるところは、まだまだ子供と言った所か」
どん、どん、と、焔の魔術が、イレギュラーズ陣営へと落着する。ふむ、とグレイシアは唸った。
「こちらもオーソドックスな術式か。傭兵を量産するには長けているようだが、勇者となるには、遠い」
グレイシアが術式を編み上げる。それは、裁きの光。悪を貫くとされる、聖光。
「では、此方も基本に忠実に……教育してやるとするか」
放たれた聖光が、砂地を薙ぎ払う。その衝撃に、子供たちがたまらず構えるのへ、
「さて、防衛戦は防衛側が有利だ。どう攻める? キミ達!」
カインは続けざまに神気の聖光をうち放つ。
「うわぁっ!」
その衝撃に、子供たちの悲鳴が上がるが、
「だめよ! 怯まないで! 後ろから援護はするから、こうげきをつづけて! ……ほら、トルスティ、マイサ! あなた達もえんごえんご!」
オイリの叫びに、子供たちの統率が戻っていく。
「トルスティ、あの邪魔なのを壊しましょ! まほうをおねがい!」
マイサの言葉に、トルスティが頷いた。
「せーの、ふぁいあっ!」
トルスティが放った火球が、バリケードに直撃。屑を散らして損壊する。
「おっと、やるね。引きこもってばかりじゃ不利になりそうだ」
カインが言う。
「……危ない! そんな威力の魔法、友達にあたるでしょ……っ!」
希が窘めるように叫んだ。確かに、トルスティの魔法は、些か周囲への気配りが駆けているように見える。
「長引かせていたら危ないわ……私達も、あの子たちも。前に出て、指揮官の子を引き付ける!」
希の言葉に、仲間達は頷いた。希は刹那、強い殺気を放つ。それは、死神の気配。ひきつけられずにいられないほどの、強烈な敵意。それを、子供にぶつけなければならないことが哀しかった。
「――っ!」
オイリがびくり、と身を震わせ、
「あのひと、危ないわ! わたしがやっつける! マイサ、トルスティ、指揮を引き継いで!」
叫び、オイリは希に向って駆けだした。接敵。振るわれる、白刃。その白刃を、希は影、いや、闇で迎撃する――。
一方、仲間達は、そのまま、前線に出てきた子供たちを迎え撃つ。
子供たちの振るう、白刃。それは、決して達人の域には達してはいずとも、兵士としては充分な所作を持ち合わせていた。
「ここまでの動き、一朝一夕で得られるものではあるまい、何処で鍛えられた?」
「きたえられた……マザー・カチヤと、年長のお兄さんたちに教えてもらったの!」
少女が、自身の腕をほめられたのだと思い、笑う。可愛らしい笑顔だった。
「刃を手に取り何を願う、手を血で汚し得ようとする物は」
「えっと……なにがほしいか? って事? お金!」
交差する、刃と杖。オライオンの問いに、少女は屈託のない笑顔を浮かべた。
「お金があれば、もっと下層の子を助けることができるの! あんな所に居なくて済むのよ!」
お金、と言う即物的な回答。しかし、彼女たちにとっては、それは確かに救いの奇跡を与えるものであったのだろう。オライオンには、それが物悲しかった。
『そんな危ないもんぶん回すんじゃねーよ! 怪我したらどうすんだ』
Tricky・Stars、虚が叫ぶ。同時に放たれた聖光が、子供たちの身体を打つ。
「だって……働かないと! 駄目なんだよ!」
痛みにうめきながら、少年が声をあげる――眩暈を擦る思いだった。
「そうだな。だが、その働き方が間違っている。お前の命、隣に居る兄弟の命は、パン一切れと等価値なのか」
稔が、静かに告げるのへ、少年は押し黙った。うう、と呻きながら、でも、と声をあげる。
「マザー・カチヤが、そうしなきゃだめだって言ったんだ!」
その彼の手が、少し震えているように見えた。恐らくは、初陣なのだろう。大人だって、戦うのは怖い。その恐怖を、彼らはマザー・カチヤなるものへの忠誠心のようなもので、抑えているのだ。
「足が竦む、体が震える。それは紛れもなく君の本心、生きたいと思っている証だろう。もっと自分の心に耳を傾けてみたらどうだ」
稔が諭すように声をかける。うう、うう、と少年は呻いた。
「だめよ! だまされちゃだめ!」
マイサが叫んだ。放たれたクロスボウの矢が、Tricky・Stars(ふたり)を狙う。二人は寸での所で回避。少年からも距離をとる。
『くそっ、本当にやりづらいな!』
虚が舌打ちをした。実際、イレギュラーズ達は些か攻めあぐねていた。とはいえ、防御に重点を置いた布陣であるため、それは仕方のない事であるのだが、しかし長い膠着状態は、何方にとっても不利になりかねない。
一進一退の攻防――膠着状態。じりじりと、イレギュラーズ達にも傷が増えていく。何か、突破すべき切っ掛けが、必要だった――。
●デッパツ
「みんな、耐えてくださいなのですよ!」
ルリが編み上げた回復術式が、仲間達の下へと降り注ぐ。前線に突撃してきたオイリは希によって討ち取られていたが、一騎打ちの様相を呈した希の負担は大きい。
「回復は厚く……でも、何か攻勢に転ずる切っ掛けが欲しいのです……!」
休む間もなく治療術式を飛ばして、ルリは唸った。今のところ、瓦解には至っていない。が、優勢に立ったという実感もない。
しばしの時が、過ぎた。子供たちの幾ばくかは意識を手放し、戦場に転がっている。だが、死んではいないようで、静かに胸を上下させていた。
ふと――その戦場の真中で、声が上がった。
デッパツ!
誰が声をあげたのか、今となっては誰も覚えていない。
だが、誰もがこの機を逃しては勝機は無いと考えていたし、それが事の時だとは、誰もが理解していた。
だからたぶん、皆がそう、声をあげたのだろう。
「おう!」
だから、彼は応、と頷いたのだろう。
千尋はバリケードの一つを蹴り上げると、中に隠していた『Maria』――魔道バイクのエンジンを唸らせる!
「行くぜ、迅くん!」
千尋が叫んだ。
「ありがとうございます、千尋殿! 行って参ります!!」
迅が叫んだ。
Mariaのシートに座る二人。エンジン音が、Mariaの歌が高らかに、砂漠に鳴り響く。
ヴォウ、と歓喜の声をあげて、Mariaは走った。その背に二人の男を乗せて。
致命的な事象を避け、致命的な正解を引き当てる。走った。そしてジャンプ台を使って、高く、高く飛び上がる――そして、それは届いた。後方、子供たちの背後に、Mariaは着地した。
「な――あっ!?」
驚いたのは、最も後方でふんぞり返っていた盗賊団の男たちである。元より士気の高くはなかった男たちであったが、突然の襲撃に、瞬く間にその陣形を崩した。
「僕の拳は、あなた方相手には加減を知りませんよ!」
迅はMariaから飛び降りると、そのままの勢いの跳び蹴りを、盗賊の男に見舞った。あごに一発。それだけで、盗賊の男は意識を手放す。
「う、うしろにっ!?」
子供たちがうろたえる様子を見せる。まさか正面突破から背後をとるとは、思ってもみなかったのだろう。この柔軟な運用こそ、イレギュラーズが精鋭たるゆえんである。
「ガキ共前に出して随分余裕じゃねえかええコラァ!! 今日の俺の出目は最高の連続だッ!」
千尋の拳が、盗賊の男の顔面を捉える! ぐしゃり、と鼻の骨を粉砕して、盗賊の男はひっくり返った。
「さて、攻め時か。行くぞ」
グレイシアの言葉の通り。今こそが攻め時だ! イレギュラーズ達はバリケードから飛び出すと、混乱する敵軍へ向けて、攻撃を敢行した。
「くそっ、何してるんだガキどもは!」
残った盗賊の男が悪態をつく。
「そうやって子供の後ろに隠れているとは。大人の風上にも置けませんね!」
「じゃぁ一発キメてやりますか!」
同時に繰り出された、迅と千尋の拳。それが、左右から盗賊団の男の頬に突き刺さった。左右から突き抜ける衝撃が、逃げ場なく脳天へと突き刺さる。ぐえぇ、と悲鳴を上げて、男はぶっ倒れた。
「うわぁ、困ったねぇ。どうしよう、マイサ?」
トルスティが困惑した声をあげるのへ、マイサは胸を張った。
「こうなったらせんりゃくてき撤退よ!」
「なるほど、逃げるんだね。でも、どうやって?」
「敵のほういもーをむりやり突破するしかないわ! 皆、まとまって! 一気に突撃するのよ!」
号令に、残存する子供たちが陣形を固める――だが、一か所にまとまれば、それはこちらの格好の的だ。
「チャンスなのです! 総攻撃……でも、死なせたりしない程度に!」
ルリの言葉に、イレギュラーズ達は最後の猛攻を仕掛けた。決して命を奪う事の無い、聖なる光が、敵群を照らし出す。衝撃に、子供たちが次々と倒れていく。
「きゃあ!」
衝撃を受けたマイサが、意識を失い倒れ伏す。
「マイサ! よくも……!」
術式を編み上げようとするトルスティの前へ、立ちはだかったのは千尋だ。
ひっ、とトルスティが悲鳴を上げた。千尋は眉を吊り上げた。
「こえーか。こえーだろ。こえーんだよ、命の取り合いなんてのは……ケンカならいくらでも相手になってやる。そんでその後美味いメシでも一緒に食おうや。だから殺しはナシだ。殺しは……まあ、やっぱりよくねえよ。そんでこれは、悪い事をした、ケジメだ 」
ごん、と、強いげんこつが、トルスティの頭に落ちてきた。
それは、今まで受けたどんな傷よりも浅く。
今まで受けてきたどんな痛みよりも優しかった。
だから、トルスティは、泣きだした。
その泣き声を合図に。
戦闘は終わりを告げた。
●子供たちの処遇
幸いにして、死傷者は誰一人でなかった。イレギュラーズ達は相応に深い傷を負ったが、その結果、成すべきことを成し遂げたのだ。
Tricky・Starsの二人は、子供たちの介抱を行っていた。傷を負ったものには、その大小を問わずに治療の術式を施した。
「命を粗末にするな。お前達が死んだら俺は悲しい」
「……そんなこと、大人に言われたの、初めてよ」
稔の治療を受けながら、ぼんやりと、傭兵の少女が言う。
「……そうか」
ぽつり、と、稔はそう言った。
「ともあれ――君達にはまだまだ何もかも足りなかった様だね!」
子供たちを元気づけるように、カインは言った。実力も、経験も――イレギュラーズ達には遠く及ばない。それは、少し歪んだエールだったかもしれないけれど、絶望させてしまうよりはずっといいだろう。
「よかったです。まだ幼い彼らには未来がある。ここで散るには少し勿体ないですからね」
無事な様子の子供たちを見ながら、迅が言う。
「未来か。確かに、彼らにもまた、道が開けたと考えるべきなのだろうな」
ふむ、とグレイシアが唸る。少なくとも、この場で無益に命を散らす、そのような未来は避けられたのだ。
「しかし、彼らの処遇をどうするか……考える必要があるだろうな」
オライオンの言葉通りだ。ここで彼らを解放して、それで終わり、と言うわけにはいかない。
「とりあえず……然るべき所に連れてくのは確実だろ?」
千尋の言葉通りだ。金で雇われたとはいえ、ラサへの襲撃犯。相応の裁きは必要だろう。
「とは言え、情状酌量とか……あるのですよね? 状況が状況みたいなのですから」
ルリの言葉通り、情状酌量の余地はあるだろう。どうにも彼らは、マザー・カチヤなる人物に洗脳に近い騙され方をしているようだ。
「……たとえ拒否されても、私達が全力で偉い人にかけ合おう。助けるって言ったんだ。だから、最後まで助け切ってあげたい」
希の思いは、多くの仲間達も同じくするところだっただろう。
助ける、と思ったのだ。
ならば最後まで、助けてやるのが義務と言うモノだろう。
イレギュラーズ達は、用意していた馬車に、子供たちと――ついでに生き残っていた盗賊団の男も載せた。
これからネフェルストに向って、出発するのだ。
子供たちの正しい未来が、そこに待っているのだと信じて。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様の活躍により、襲撃者はすべて――命を落とすことなく、無力化されました。
子供たちの処遇は、皆様にお任せいたします。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
色宝を狙い、ネフェルストへ進軍する敵部隊を、ここで撃退してください。
●成功条件
すべての敵の無力化。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
大鴉盗賊団が、ラサの都・ネフェルストへ襲撃を行う――そのような情報を得たイレギュラーズ達は、敵部隊を迎撃するために、砂漠にて敵を迎撃することになりました。
しかし、皆さんの前に現れたのは、子供たちを主体とする、奇妙な部隊でした。
幼い子供たちであれど、敵の士気と殺意は本物。無抵抗でいれば、殺されるのはこちらです。
いずれにせよ、この敵部隊を撃退し、ネフェルストへの襲撃を阻止することが、皆さんの任務なのです。
なお、オープニング、『●神は天にあり、地に地獄の広がり』の部分はプレイヤー情報であり、プレイヤーキャラクターである皆さんは存ぜぬ情報です。が、すごい直感力や推理力、事前調査などで事情を知っていても構いません。
●エネミーデータ
大鴉盗賊団 ×3
大鴉盗賊団所属の男性。この人達は大人です。
銃を使用した遠距離攻撃を主に使用してきます。
オイリ ×1
『子供たちの傭兵部隊』を率いるリーダーの少女です。少し自信家の女の子。
オイリが戦場に存在する限り、
オイリ、トルスティ、マイサ、子供たちの攻撃力が若干上昇します。
トルスティ ×1
『子供たちの傭兵部隊』に所属する少年です。どこかおっとりした印象の男の子。
魔法の杖を持っており、神秘属性の攻撃を多用してきます。
マイサが先に死亡した場合、攻撃力が上昇します。
マイサ ×1
『子供たちの傭兵部隊』に所属する少女です。しっかり者の女の子。トルスティが好き。
クロスボウを利用した物理属性の遠距離攻撃を使用してきます。
トルスティが先に死亡した場合、攻撃力が上昇します。
子供たち ×15
『子供たちの傭兵部隊』に所属する少年少女たちです。色々な個性を持っています。
剣や弓を装備しており、前衛、後衛、バランスよく配置されています。
特筆すべき能力はありませんが、数は多いです。
なお、『子供たちの傭兵部隊』に所属する子供たちですが、(よほどクリティカルでない限り)説得などは通用しないと思います。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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