シナリオ詳細
<Raven Battlecry>出撃! クリフォードナイツ
オープニング
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太陽が昇り始めてからのほんの少しの時間が、砂漠の起伏や砂の表面のディテールに表情を与え、その後間もなくオアシスの都全体が眩いばかりに光り輝きだす。
ごくありふれたネフェルストの朝。その日もいつもと変わりのない一日になるはずだった。死を予感させる羽音が乾いた砂に落とし、触れただけで焼け落ちそうな熱風を連れて砂丘を滑り下りてくるまでは。
知らせを聞いたヴィヴィアン・K・クリフォードは、翼人部隊『クリフォードナイツ』を率いてすぐさま街の東へ向かった。
(「――くっ、なんだこれは! くそ、アイツら!」)
いたるところであがる炎が肌を焼き、黒い煙と砂漠から飛んでくる砂が目と鼻を痛めつける。
ヴィヴィアンは地べたにうずくまる女たちの悲鳴と子供たちの泣き声を飛び越えた。着地で弾みをつけて、そのまま不吉な羽音とそれに向けて射られた矢の風切り音で満ちる空を目指す。
配下の者たちも、一斉に大地を離れ、空中に舞い上がった。
忌々しい魔物の群れは雲に届くほど高いところを飛んでおり、街を守ろうと雄々しく立ちあがった男たちが飛ばす矢は届かない。それ以前に、放たれた矢は空中で赤い風に巻かれ、メラメラと炎をあげて灰になっていく。
それでも――。
ヴィヴィアンの口角が上がる。
逃げずに戦うその心意気がいい。それでこそ男だ。それにしてもよく頑張ってくれた。あとは引き受ける。
「『クリフォードナイツ』推参!」
空中で静止し、剣を抜く。翼の後ろで、鞘を滑り出る刃の音が幾つも続いた。
「挨拶もなしにアタシの頭上を越えていこうだなんて、百年……いや、千年早いよ! ネフェルストの空はアタシら『クリフォードナイツ』が守る。死にたい奴からかかってきな!」
まるでウロコを光らせて海を群遊する魚の群のように抜き身の刃をきらめかせながら、『クリフォードナイツ』たちは左旋回して向かってくる魔物の群れ――デスコンドルとそれを駆るコンドルライダーに切りかかっていった。
●
『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は丸めた紙を振り回して、ファルベライズ遺跡へ向かうイレギュラーズの気を引いた。
足を止めた数人に、東を指さしながらまくしたてる。
「いますぐ街の東へ。魔物の侵入を防いでくれ。先行した傭兵団『クリフォードナイツ』が健闘しているが、魔物の数が半端ない。劣勢に追い込まれつつある、という情報がいま届いた」
聞けば街の東を襲う魔物の大多数は空を飛んでいるという。『クリフォードナイツ』たちが抜かれれば、街のどこへでも飛んでいって、人々を襲いだす。一度、マークを解けばその後の行動を阻むのはほぼ至難だ。
ラサの首都、ネフェルストは大鴉盗賊団とそれに従う魔物たちから強襲を受けていた。
強襲の情報自体は、フィオナ・イル・パレストが独自の情報網を駆使して手に入れ、ローレットにも事前に知らされている。以前から、『赤犬』ディルクとの連名で大々的に張り出された依頼書を読み、『色宝(ファルグメント)』を集めるために来ていた者もいるにはいるが、イレギュラーズの大半がここネフェルストに集まっているのはそういった事情があったためだ。
「もう判っているとは思うが、こっちはコルボが画策した陽動だ。いま、街を襲っている連中の中に大鴉盗賊団の幹部たちは参加していない。コルボ以下幹部たちは、パサジール・ルメスのみが立ち入ることが赦されたその場所に、レーヴェン・ルメスを人質に進もうとしているらしい。お前たちもそれを聞いて急いでいたのだろうが――」
だが、とクルールは言葉を継ぐ。
「人々を守らずして大鴉盗賊団の野望を挫いたとしても、それは勝ったとは言えないんじゃないのか。自分たちの背後に護るべき人たちがいる……イレギュラーズとして、彼らの命を守ってくれ。頼む!」
- <Raven Battlecry>出撃! クリフォードナイツ完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月19日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
おい、と声をあげた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が見上げる先で、翼人は左右から仲間に腕を取られ、墜落を免れた。
盗賊が騎乗するデスコンドルが追撃する。騎手を失って身軽になったデスコンドルたちも四方から集まってきて、思うように飛べない三人に食らいつかんと大きく嘴を開いた。
「調子に乗るんじゃないよ!」
赤毛の女翼人――ラサの傭兵、翼人部隊『クリフォードナイツ』を率いる女首魁、ヴィヴィアンは部下を救うべくデットゾーンへ飛び込んだ。二振りの剣で次々と魔物を退ける。しかし、ヴィヴィアンの繰り出す技はどれも精彩を欠いており、致命傷を与えるに至らない。部下と自分の身を守るだけで精いっぱいの様子だ。
「マジかよ、アイツら結構ギリギリじゃねぇか!」
「ヒヒヒ、なかなかヒヤヒヤさせてくれますね」
葵はすぐ隣を走る人物の声に驚いて、空から目を降ろした。
「どーもどーも、葵チャン。お久しぶりデス」
「く、空太郎!?」
虚木 空太郎。クラスメイトでありサッカーのチームメイトが、なぜか自分の隣を走っている。クルールから依頼を受けた時はいなかったはずだが。
「え、何でいるのかって? 理由なんてどうでもいいデスよね? この戦場真っ只中デ!」
それもそうだ、と葵は顔を前に向けた。今、最優先すべきは人々の安全確保だ。
前方では、地上に落ちた虫――盗賊を見つけた『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)が、嬉々として民家に飛び込んで行くところだった。
「邪魔なものは排除しないとね」
「ちっ、邪魔が入ったか」
盗賊は逃げ出した。
「残念だねぇ、君はもう逃げられないよう」
玄丁にとっては、本命の相手と手合わせる前の軽いお遊戯だ。示し合わせて家の裏手に回り込んだ『麗金のエンフォーサー』ロスヴァイセ(p3p004262)と挟み撃ちにする。
「くそっ! 俺たちには熱風の精霊がついているんだぞ。ただじゃ済まねぇぞ!」
「熱風の精霊……? まぁ、人型だから妥協点程度にはいいかなぁ。このあと、遊ぶよぉ」
一角に追い詰められた盗賊は、手にしていた金細工が見事な水パイプをむちゃくちゃに振り回す。
「まだ砂の都の芸術は極めてないの、盗賊に荒らされるのは困るわ?」
ロスヴァイセの声に続き、人の不幸に盗みを働くゲス野郎の甲高い悲鳴が、軒に吊り下げられた瓜を震わせた。
「先を急ぐっス」
路地の三つ、四つ先に見える屋根から、ヒュンヒュンと音をたてて矢が飛んで行く。街を守るために立ちあがった男たちだろう。おーい、と呼びかけるが、一向に気づいてもらえない。
「自分が盛大にぶっぱなして気を引くっすよー」
『扇風機』アルヤン 不連続面(p3p009220)がドッカンドッカン、魔砲をぶっぱなす。
爆風で可燃性蒸気が吹き飛び、行く先を遮っていた炎と煙が払われた。
「オレもやるぜ」
『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)もアルヤンと一緒になって光の柱を飛ばし、完全に炎に包まれた家を壊す。
家の持ち主には悪いが、これで沙漠で貴重な水を使わずに延焼を防ぐことができる。人々を守るためにも、手がつけられないほど燃えている家やその周辺は壊すしかない。
「これも必要悪っていうやつっすよね」
「まあ、あとでちゃんと持ち主には謝るけどな」
さらに一悟は精霊たちに呼びかけて、炎に砂をかけるよう頼んだ。
「なるほど、面白い試みっすねー。それじゃ自分は冷たい風で壁が燃えないように冷やすっす」
崩れかかった家の中から、壺や小ぶりの箱を脇に抱えた盗賊たちが走り出てきた。
すかさず『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)が道を塞ぐ。
「リディア・T・レオンハート、推参! 私の眼前で、このような狼藉は許しません! この剣で、全てを護ります!」
「なんだテメェ」
リディアは肩越しに炎を灯した目を仲間たちやり、先に行けと促した。
「すぐに成敗して、街の人たちを避難させますから」
「怪我したくなかったらそこを――」
金髪を揺らして振り返ったリディアの顔を見て、盗賊たちは身を強張らせた。遅まきながら気づいたようだ。目の前に立つ女が、おどせば震える子羊などではなく、牙をむいて立ち向かってくる獅子だということに。
「矢をつがえるまで待ちます。相手が愚かな罪びとであったとしても、正々堂々戦う。それがレオンハート王立騎士団の騎士ですから」
リディアはゆっくりと剣を抜いた。
葵は空太郎とともに、瓦磯になった家の山を駆けのぼった。段差をジャンプして屋根へ移り、驚いて振り返った男たちに声をかける。
「ここはオレ達に任せるっス! アンタらは避難誘導に回ってくれ!」
お前たちは、と戸惑う声に、空太郎はおどけたしぐさでイレギュラーズと答えた。
「おれっちだけじゃありません。ほら、アレをご覧ください」
男たちは弓を降ろすと、空太郎が示す先を見た。
●
近くの屋根に翼をかすめるようにしながら、デスコンドルが向かってくる。
「うわぁ!」
広げた翼が三メートル近くある巨大なコンドルの魔物が、目をぎらつかせながら真っ直ぐ迫ってきていた。街の男たちは弓を投げ出して逃げだした。
そこへ――。
真っ白いものが飛んできて、デスコンドルをまるで張りぼての鳥かのように、一撃で鮮やかに屠った。
助かった、と安堵する街の男たちからの感謝と称賛をうけ、天にのぼる白き翼は、『天空の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)だ。
カイトは葵たちに手をひと振りして、苦戦しているクリフォードナイツと合流した。
「お師匠、これは借りですからね!!」
「今頃ノコノコ現れといて。アタシに貸しを作ろうなんて十年早いよ!」
久しぶりの再会を喜び合うかのように、互いに互いを罵りあう。心なしか、魔物相手に剣を振るうヴィヴィアンの表情に余裕が出てきたようだ。
カイトは傷を負ったクリフォードナイツの同士に、無理はするな、といって防御に徹するよう指示を出した。
「ああん? 小僧、アタシを差し置いて、なに勝手なことを――」
「小僧言うなや! うっせぇな!! 第二の故郷無くなったら困るんだよ、俺は!!」
本当は、すぐに手当てしてみんな一緒に戦ってほしいところだが、あいにくクルールに呼び止められた面々は、誰一人として、他者を癒す術を持っていなかった。地上の戦いがひと段落するまでひたすら耐えるしかない。
「大人しく護られてろ、ババア!!」
弟子の生意気加減にフリーズしたヴィヴィアンを、背後からデスコンドルにのった盗賊が弓で狙う。
それに気づいたカイトが、デスコンドルの嘴をしのぎながら叫ぶ。
「お師匠、うしろ!」
刹那、亡者の嘆きを思わせる弦音がけぶる空に鳴り響いた。
ヴィヴィアンが振り返ったときには、背中を狙っていた盗賊はデスコンドルの背から落ちていた。
盗賊は背から降ろした矢筒に跨って飛び、ゆるゆると地上へ降りて行く。
「あっちはわたしに任せて。前からハゲ鳥がまた突っ込んでくるよ」
限界まで弦を引いた白髪のブルーブラッドにそう言われて、ヴィヴィアンは即時気持ちを切り替えた。
突っ込んできたデスコンドルの嘴を、胸でクロスさせたアズライールとイズライールで受け止めた。白骨化した頭を膝で蹴り上げる。
魔物は甲高い泣き声を発しながら、上空へ逃れて行った。
ぎゃっという男の悲鳴が下で聞こえ、すぐ後に重い音が響いた。
盗賊を仕留めたブルーブラッドが、ヴィヴィアンと目を合わせてサムズアップする。
「あんたは?」
「わたしは、雷華」
『折れた忠剣』微睡 雷華(p3p009303)は、螺旋模様が美しい大弓を降ろして微笑んだ。
雷華は市民の避難誘導を一悟たちに任せると、一人で仲間を助けに空へ向かったカイトをサポートしに来てくれたのだった。
「あなたがヴィヴィアンさんだね。カイトからいろいろ聞いてるよ、よろしく」
「助かったよ、ありがとう雷華」
「どういたしまして」
「ところで小僧」
地獄の炎も凍りつくようなまなざしを、デスコンドルの猛攻を退けてひと息つくカイトに向ける。
「イレギュラーズのみなさんに、アタシの事、いろいろなに言ってくれてんだい?」
返答内容の如何によっては、かわいい愛弟子(なんて口が裂けても小僧には言わない、言わないからな!)といえども、白骨頭のハゲ鳥と一緒に空から落としてやるつもりだ。
カイトは一瞬、狼狽した。
あわよくばここで死ねぇい、だとか、くたばれババァとか、そんな感じのことをみんなの前で言ったが、それは本心ではない。たぶん。
「そんなこと、いま確認している場合じゃないでしょ?」
「いまじゃなきゃ、いつ聞かせてくれるんだい!」
ずいっと前に進んだヴィヴィアンの目が危険なほど尖っていた。助けてくれ、と仲間を振り返る。
いつのまにか、背の後ろにいたクリフォードナイツたちがいなくなっていた。魔物よりも怒れる隊長に恐れをなし、自主的に地上へ退避したのだ。とばっちりを受けるのはごめんだと。
(「げ……マジか」)
カイトは、デスコンドルに弓を引く雷華に助けを求めた。
「そ、そうだ。雷華、下の様子は? 地上はどうなっている?」
「あらかた火は消えているみたいだよ。悲鳴も聞こえなくなったし」
確かに、黒くなり始めていた煙の色が薄くなっている。その数も目に見えて減っていた。
「……すまないね。あたしたちが不甲斐ないばかりに」
「まったくです。お師匠があんな『ハゲ』鳥ごときに後れをとるから、『バカ』鳥たちが調子に――って、きたぁ!」
カイトの発する言葉は分らずとも、侮辱されていることは分かったらしい。怒り狂いながらデスコンドルたちが襲い掛かってきた。
「小僧、アンタが『ハゲハゲ』連呼するからだよ、どうするんだい?!」
カイトは苦笑しながら雷華と目を見合わせた。
左右からヴィヴィアンの腕を掴かむと、デスコンドルたちを引きつけたまま、地上へ引っ張っていく。
「な! 逃げるっていうのかい。離せ、アタシは退かないよ!」
「お師匠、これは戦略的撤退っていうやつです」
反対側で、そうそう、と雷華が頷く。
「わたしたちに任せて!」
●
仲間が魔物を連れて落ちてくる。
「ロギ! 避難誘導の補助と逃げ遅れた人の探索と救助頼む!」
「ヒヒ……人使いが荒いですね、葵チャンは」
駆けだしたチームメイトには目もくれず、葵は空に顔を向けたまま、腹まで持ち上げていた銀のボールから手を放した。
「空中の的とか、外したらボールがどっかいく……とか言ってらんねぇっつの!」
全身の筋肉を使って、後ろへ引いた足をしならせながら甲でボールを蹴りあげる。
カイトとヴィヴィアン、雷華がさっと分かれて作った間隙を、ボールはカーブしながら突き抜けた。狙ったのは先頭を飛ぶ一羽だ。
ボールを翼のつけ根に食らったデスコンドルが、ぐぇっと呻いて身を大きくよじる。
騎乗していた盗賊がバランスを崩して、背中から落ちた。すぐに背中に腕を回し、長い矢筒を前に回す。
「逃げようたってそうはいかないっす。自分の風で凍えさせてあげるっすよー。ぶぉんぶぉーん」
アルヤンは全力で羽を回した。絶対零度の風を吹きあげて、矢筒を媒体にして飛ぼうとしていた盗賊にぶつける。盗賊は瞬時に固まり、真っ逆さまになって、一つ先の屋根へ落ちた。
地上から攻撃に驚いたデスコンドルたちは、翼を大きく広げてブレーキをかけ、急停止した。
そこをリディアとロスヴァイセが狙い打つ。
「散れ、悪しき者ども。わが剣の前に」
輝剣リーヴァテインに込められた翠色の闘気が、太陽の光に弾け、透けて輝きながら飛ぶ。
そこへ――。
「砂は、如何様にもその姿を変える……砂のアート!」
ロスヴァイセが世に放った作品は、蒼き翼を纏う砂の弾丸となって黒い翼を撃ち抜いた。
カイトと雷華がトドメを刺すと、デスコンドルたちはきりもみしながら地に落ちた。どすん、と鈍い音がたち、もうもうと土埃があがる。
「武のアートも、なかなかのものでしょう?」
遠くでわっと歓声が上がった。避難したはずの人たちが、空太郎とともにイレギュラーズを応援しているのだ。
「頑張らないとっすね」とアルヤン。
「ハーフタイム待たずに終わらせるっスよ!」
空に残るはあと一羽と一人だ。だが、さすがに仲間がやられて地上から距離をとりだした。太陽に届くほどの高みから矢を撃ち、イレギュラーズの頭の上に落としてくるが……。
「無駄、無駄、無駄っすー」
アルヤンが風を起こして吹き払う。
カイトと雷華はヴィヴィアンをつれて、イレギュラーズが陣取る屋根に降り立った。
「なんで降りたんだい。街を守らないと――」
「お師匠、無理しないでください。もう年なんだから」
「こ、小僧。いまなんてった!?」
下から手で強く顔を挟み込まれたカイトは、ひょっとこ口になった。必死に何か言おうとするが、まともに喋れない。
あーあ、また始まったと苦笑いする雷華の肩に、ロスヴァイセが手を乗せる。
「説得は難儀している感じ……? 誇り高いのね」
「誇り高さは……関係ない……かな」
見かねたリディアが仲裁に入った。
「ヴィヴィアンさん! 今、ここで貴女に万が一の事があれば、貴女がこの先、その手で護るべき数多のモノが失われるでしょう! そんな事、私は決して許しません! どうか、賢いご判断をなさってください!!」
「そうそう。負けたら全て終わり。勝てば今だけの恥よ」とロスヴァイセ。
「あ……う、うん。そうだな」
「交渉成立。じゃ、カイトさん。矢が尽きて街へ向かわれる前に、わたしたちで降ろしにいくよ」
カイトが首をブンブン回してヴィヴィアンの手をふりほどく。
「もう、なにするんですか!」
「うるっさい。さっさと行きな! 雷華、小僧のことよろしく頼むよ」
二人が屋根から飛び立った瞬間、建物のドアが煙と熱風によって中から吹き飛ばされた。
台風なみの烈風がごうごうととどろきながら空を駆けあがり、カイトと雷華を背中から襲う。
「小僧!」
「雷華っ」
炎に飲まれた二人が体を丸めて落ちていく。
葵とロスヴァイセ、リディアが腕を伸ばして二人の体をキャッチし、屋根に戻した。アルヤンが冷風で二人を冷やす。
「すまねえ! 二人は無事か?」
屋根から身を乗り出して下をのぞくと、炎に焦がされて上着をボロボロにした一悟が見上げていた。顔にも煤をつけて、むき出しの腕は火傷を負っている。
「熱風の精霊を見つけて、玄丁と一緒に足止めしてたんだけど――っと!」
ごぉ、と風が一悟の体を巻いて噴き飛ばした。イレギュラーズたちいる家自体が熱を帯びて、屋根の上に陽炎がたつ。熱風の精霊の仕業だろう。
「ぶぉんぶぉーん。ぶぉんぶぉーん!」
アルヤンが必死になって屋根を冷やすが、焼け石に水だ。
「すぐに火がつく。急いで下に降りるっスよ」
いうやいなや、葵はアルヤンを抱きかかえて屋根から飛び降りた。
「僕と雷華さんは空の魔物を仕留めてくる!」
カイトたちを見送るヴィヴィアンに、ロスヴァイセが声をかける。
「空の敵はあなたたちの領分、私達は地上の敵の掃討を」
振り返ったヴィヴィアンにウインクしてみせた。
「だから早く行ってあげて」
下ではリディアが家の中から出てきた熱風の精霊に剣を向けていた。葵とアルヤンが倒れた一悟を介抱している。
ロスヴァイセは熱風の精霊の背後に飛び降りた。
くにゃりと風景を歪ませながら、精霊が振り返った。赤く燃える髪が風を起こし、熱い空気の渦を押し飛ばす。あわや――。
「とぉっても残念だけど、その程度の炎じゃ闘志の炎ぐらいしか僕は燃えないんだよぉ?」
玄丁がロスヴァイセを庇って立っていた。
特有のリズムで砂地にステップを刻み、あっという間に精霊との間を詰めると、流れるような動作で拳を突きだした。
鈍い底唸りのような風音が、半透明の口から出る。
「ん、何か伝えたい? ごめんねぇ、まずは言葉を覚えてから喚こうねぇ?」
葵に支えられて体を起こした一悟が精霊に通じる言葉で、「なあ、なんで盗賊なんかに加担しているんだ?」と問いかけた。
「もしかして、この騒動の背後には魔種がいるのか?」
返事はない。風に舞った土挨が、さあーっとイレギュラーズたちの足下を洗う。
突然、熱風の精霊は空へ逃げだした。
「せっかく見つけたおもちゃなのにさぁ、逃げないでほしいんだけどなぁ……!」
精霊は残念そうに呟く玄丁に熱い風をひと吹きくれると、落とされたデスコンドルと盗賊を熱風で焦がした。
それを地上から見ていたリディアが、「ひどい、仲間になんて仕打ちを」と眉を顰めた。
カイトと雷華が、熱風の精霊に立ち塞がる。
「この場に座す精霊とお目見えするが、何ゆえ魔物に力を貸すのか!」
先ほど一悟がしたように精霊に解る言葉で問いかけたが、やはり返事はない。
「僕たちは精霊まで傷つけたくはない。どうか鎮まり、訳を話ししてくれないか!? てか普通に女の子に攻撃したくねえわ!」
空気のゆがみで熱風の精霊が首を傾げたことが分かった。赤い髪が揺らめいた瞬間、熱風の精霊はものすごい速さで砂丘の向こうへ飛び去って行った。
「なんだ、いまの?」
「照れたみたい……だね」
●
「アンタが噂のヴィヴィアン隊長? めっちゃ美人じゃん」
「一悟君、お師匠にお世辞を言ったって何もいいことないよ」
ヴィヴィアンがカイトにヘッドロックを決める横で、アルヤンは懸命に羽を回していた。
「お疲れ様でしたっすー。うぃーんうぃーん」
激しい戦闘で火照った葵たちの体を風で冷やす。
「さてと、事は済んだっスけどクリフォードナイツの被害状況が気になるっスね」
大丈夫でしょう、といったのはリディアだ。
おーいという空太郎の声に顔をあげると、クリフォードナイツと街の人々が駆け寄ってくるのが見えた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
熱風の精霊は逃げて(?)行きましたが、盗賊とデスコンドルはすべて退治することができました。
クリフォードナイツも街の人たちにも怪我人はでましたが死人はゼロ。
的確な判断で延焼を最小限に防いだため、ヴィヴィアン隊長と人々からとても感謝されています。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●依頼条件
・魔物たちを街の中心へ進ませない。現地でくい止める。
・『クリフォードナイツ』を全滅させない。
●空中の敵1……デスコンドル×6羽。
頭が白骨化した巨大なコンドル。
人を一人、背に乗せて飛ぶことができます。
会話はできません。
コンドルライダーを乗せているのは3羽だけです。
当初15羽いましたが、9羽が『クリフォードナイツ』に討伐されています。
【飛翼】
【嘴】近単・物/出血
【怪鳴】遠単・神秘/石化
●空中の敵2……コンドルライダー(盗賊)×3人。
デスコンドルに乗って襲ってきます。
全員、【媒体飛行】と【騎乗戦闘】を持っています。
武器は弓。
【媒体飛行】の媒体は矢筒です。
●空中の敵3……熱風の精霊×1体
炎と風の2つの性質をもつ邪精霊。
赤く燃える髪をたなびかせる女性の姿。半透明です。
時々空に上がって『クリフォードナイツ』を攻撃しますが、大半は地上を歩き、建物や人を焼いて回っています。
炎をくぐると体力が回復します。
【精霊疎通】があれば会話ができるかもしれません。
【飛行】
【熱風】遠列・神秘/火炎
【火炎渦】遠単・神秘/炎獄
●地上の敵……大鴉盗賊団の下っ端×9人
攻撃されてデスコンドルから落ちた盗賊です。
媒体飛行で地上に降り、街の人を襲いつつ盗みを働いています。
12人落されましたが、うち3人が『クリフォードナイツ』に落下時に倒されています。
武器を弓からナイフに持ち替えています。
●『クリフォードナイツ』の女首魁、ヴィヴィアン・K・クリフォード。
白銀の鎧をまとうスカイウェザーの女性です。
武器は刀(アズライール、イズライール)。
美人だが、男よりも男らしい豪快な女性。
体のいたるところに傷や火傷を負っていますが、闘争心は衰えていません。
しかし、手当てをしないとイレギュラーズと合流後3ターンで戦闘不能になります。
※上手く説得しないと、下がれといっても聞き入れてくれません。
【翼撃戦闘術】【二刀流】
【名乗り口上】【ソニックエッジ】【ヴァルキリーレイヴ】【戦闘続行】を活性化。
●『クリフォードナイツ』たち×5
スカイウェザー、または空を飛ぶ翼を持つ旅人たち。
大なり小なり傷を負っています。
他にも団員は大勢がいますが、5人を除き全員が負傷。
負傷者はヴィヴィアンの命で街の中心まで退いています。
武器は剣。
【飛行】
【フリーオフェンス】【ブレイブラッシュ】を活性化。
●街の男たち
木の弓と矢で果敢に戦ってくれていますが、ほとんど戦力になりません。
避難誘導に徹してもらった方がいいでしょう。
そこにいても被害者が増えるだけです。
●その他
よろしければご参加ください。お待ちしております。
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