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シナリオ詳細

ポルホガン沼地の奪還

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●穏やかなるポルホガン族・再び
 幻想王都のずっと東に位置する広大な沼地には、獣種のポルホガン族が暮らしている。
 まるでワニのような頭と尻尾をもつ彼らポルホガン族は、自然主義と大地信仰の強い部族だ。
 朝は湖に半身まで浸かり、先祖と大地に感謝の祈りを捧げる。
 昼には沼地へ狩りに出て魚をとり、それを食べて日々を過ごす。
 温厚だが排他的で、沼地に他部族の者が立ち入ることを拒んだ。
 それは彼らの暮らしを平穏無事に保つための努力であり、強い掟でもあった。
 今より一季節前のこと、よそ者が沼地に人の骸を捨てたことで沼の主グエンナッハが荒ぶる怒りを表わし、その沈静化のためにイレギュラーズを頼ったことは記憶に新しい。
 そんな彼らだが、昨今新たな問題に悩まされていた。

「叩いても叩いてもキリが無いぞ」
 ポルホガン族の青年ザヌーは、石と木でできた槌で大きなムカデの頭を潰した。
 大人の腕ほどあるこのオオムカデは、沼の主グエンナッハの守護を失った沼地へ侵入してきた外来種である。
 魚を荒らし、土を弱らせ、草を枯らす。子供はおろか大人ですら結構な怪我をおう。
 幸い身体のつくりは脆く、魚をすりつぶすための石器でたたきつぶせる程だが……。
「黙って作業をしろ。アオノタ族長にどやされる」
「オレには嫌な予感がするんだ。これだけでは終わらないような予感が」
「縁起でも無いことを……んっ?」
 同じく作業をしていた青年が、遠くの沼地を凝視した。
 沼が一部盛り上がって見えるのだ。
 盛り上がったそれは不思議に波打ち、波紋を無数に生みながらこちらに近づいてくる。
 それが沼などではなく、巨大な何かの影であることに気づいた青年は悲鳴をあげた。
 いや、悲鳴をあげるくらいしか、もはやできなかった。
 沼の表面を割って現われる巨大な……巨大な……それは、見上げるほど巨大なムカデの王であった。

●ヌンナイギギ
「幻想の東にあるポルホガン沼地というところから依頼があったのです。前に一回だけ依頼を受けたことがあるので、何人かは知っているひともいるかも知れないのです。
 今回は沼に入り込んだ巨大ムカデのモンスターを退治してほしいという依頼なのです」
 王都、馬車の発着場。『わたしはぎるどのおかねをないないしました』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は本件とは関係のない看板を首から提げつつ、集まったイレギュラーズに説明をしていた。
「ポルホガン族は温厚な釣り人たちで、戦闘の心得は全然ないのです。
 そこへモンスターが侵略をかけてしまったから、戦える人に頼るしかないのです」
 ここで幻想貴族に助けを求めないのは、彼らの思想故だろう。あくまで第三者でいてくれるギルド・ローレットが必要なのだ。

「情報をまとめると、そのモンスターは『ヌンナイギギ』だと思うのです」
 ユリーカが取り出したのは図鑑の一ページだ。ヌンナイギギとは辺境部族の言葉で『大百足(イギギ)の大将(ヌンナ)』という意味を持つ。
「ヌンナイギギは配下の大百足たちをとりまとめて、沼地を占拠してしまっているのです。
 これをやっつけるには、取り巻きの大百足を倒しながら一気に近づいて、手強いヌンナイギギを倒さなくちゃならないのです」
 図鑑によればヌンナイギギは硬い外甲と血による自己治癒能力、そして高い凶暴性をもつとされている。

「平和に暮らすポルホガン族のみなさんのためにも、でっかいでっかいむかでをやっつけてください!」

GMコメント

 いらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
 お弁当は持ちましたか? メンバーがそろいましたら馬車が出ますので、どうぞ中でお待ちくださいませ。

【今回の依頼会場】
 王都から八人乗りの大きな箱馬車が出ます。
 八人そろったら出発しますので、がたんごとんと揺れる車内で相談をなさってください。
 現地までは時間がかかりますので、お弁当をお持ちになってくださいね。

(当依頼では巡り会った仲間と街角感覚のロールプレイをはさんでの依頼相談をお楽しみ頂けます。互いのPCの癖や性格も把握しやすくなりますので、ぜひぜひお楽しみくださいませ)

【オーダー】
 成功条件:ヌンナイギギを倒す

 ポルホガン沼地を占拠した巨大なムカデ大将『ヌンナイギギ』を倒します。
 そのための障害となるのは、周囲を囲む大百足(オオムカデ)の群れ。
 そして足をとられやすい沼地です。
 それぞれ分けて解説していきましょう。

【フィールド効果(沼地、大百足の群れ)】
 戦闘中は以下のフィールド効果を受けます。

・沼地
 浅く広い水たまり。泥で歩きにくくなっています。
 そのため、基本的に『機動力-2』のペナルティがかかります。

・大百足の群れ
 沼地に適応した大百足が沢山這い回っています。
 個々は一般人が殴って倒せる程度の虫ですが、群がってくるため放置すると非常につらいことになるでしょう。
 1ターン目から『命中回避-10』
 2ターン目から『ダメージ50』
 5ターン目から『行動不能率50%』
 のペナルティが継続してかかり続けます。
 これらを払うには大百足たちに対して範囲攻撃を仕掛けて蹴散らすか、群がられた仲間に直接攻撃を仕掛けて散らす必要があります(この場合仲間にも通常通りダメージが入ります)。
 もし群がられても一度攻撃を仕掛ければペナルティはリセットされます。

【エネミーデータ】
●ヌンナイギギ
 巨大なムカデのモンスター。
 また配下のムカデを区別できるため、全ての攻撃対象に大百足は含まれない。
 高い防御技術と自己再生能力があるため、ターン毎の平均ダメージ量が低いとアウト。
 命中度判定や防御技術判定を計算して作戦を組もう!

・能力特徴
 総合戦闘力:とても高い。みんなで力を合わせて戦おう。
 長所:防御技術、特殊抵抗、HP
 パッシブ:再生100、充填100、マーク・ブロック不能

・使用スキル
 あばれまわる(物自域):とにかく暴れ回る
 つかまえる(物近単【連】、高CT補正):一人を捕まえてばきばきとやる

※ヒント的補足
 ヌンナイギギの攻撃も『大百足を散らす攻撃』に含まれるので、攻撃対象になったり範囲攻撃を誘発させることで『大百足の群れ』ペナルティを避けることができるぞ!

【オマケ】
 こちらはシナリオ攻略に必要の無いオマケ解説です。興味のある方はお読みください。

●ポルホガン族
 依頼『ポルホガンの願い』にてローレットとゆかりのある一族。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/189
 大地信仰や偶像崇拝の文化があったり何代も昔はガチガチの武闘派部族だったりと個性的な部族。みんなワニっぽい獣種なのが特徴。
 よそ者には排他的だが、ローレットが沼の主グエンナッハの暴走を完璧に止めてくれたことで『ローレット、ナカマ。ローレット、タノモシイ』的な歓迎ムードを見せている。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • ポルホガン沼地の奪還完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月18日 21時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
世界樹(p3p000634)
 
アレフ(p3p000794)
純なる気配
キュウビ・M・トモエ(p3p001434)
超病弱少女
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
リジア(p3p002864)
祈り
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
ヴァン・ローマン(p3p004968)
常闇を歩く
ホリ・マッセ(p3p005174)
小さい体に大きな勇気を

リプレイ

●グエンナッハのいない沼
 蹄の音が重なる箱馬車で、『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)はことことと揺られていた。
 膝にはフルーツタルト。手には甘い小説本。
 黙々と読書をしているかと思いきや、ふと隣の『常闇を歩く』ヴァン・ローマン(p3p004968)へ話しかけてきた。
「……何ともおぞましい相手のようですね」
「あれですか」
 食べかけのサンドイッチを手早く飲み込んで気分を変えるヴァン。
 オオムカデの群れというのは、食事中に考えたい光景ではないだろう。
 『小さい体に大きな勇気を』ホリ・マッセ(p3p005174)が図鑑から写したというスケッチを見て顔をしかめた。
「でけぇ、ムカデだぜ。まぁ、蠍を喰らう自分らにとっても、厄介な数だと思うんだぜ。とりあえず、一丁やるかな」
「この手の駆除依頼は少し慣れてきたが……」
 静かにしていた『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)が目を開く。
「少し、見た目が不快だ。これでいて凶悪というのだから、それは依頼を出されても仕方ないのだろう」
 『鉄帝軍人』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)と『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)が、何気なく資料を覗き込んだ。
 ヌンナイギギ。
 沼地に生息するオオムカデのヌシで、魚や草を食い荒らすことから環境被害をおこす害虫として認知されている。
 もっとも、環境被害の最たる原因はオオムカデ(イギギ)の群れであって、それを駆除しづらくしているのがヌンナイギギである。
 今回のハイデマリーたちの受けた依頼は、その排除にこそあった。
「成程ね、近江の百足よりも小さいのが沢山居る分、ある意味厄介だが。今時の虫の多くは言葉も通じないもの。楽と言えば楽だね」
 『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)が肉をもしゃもしゃとやりながら不思議なことを言った。
「うむ、いかにも強そうじゃのう。これに沼を占領されるとは」
 隣でお茶をぐびぐびとやる『飛行する樹』世界樹(p3p000634)。
 ムカデのことを考えながらものを食べられるほど神経が太いのか、それともあえて造形を考えないようにしているのか、どちらにしてもたくましい話である。
 『超病弱少女』キュウビ・M・トモエ(p3p001434)は持ち込んだ薬草をもしゃもしゃやりながら、『強くなった私に敵はないわ』と目を光らせた。
「けど、油断はだめね。ちょっとしたことで体力が尽きるし、不安だわ……」
「心配ない」
 『堕ちた光』アレフ(p3p000794)が資料を畳んで顔を上げた。
「地形条件は劣悪、おまけに前衛の壁としての機能も期待できない始末。いつも通りの戦闘とは行きそうには無いが……全ての作戦が通じないと言う訳ではあるまい」
 まるでタイミングを合わせたかのように馬車がとまる。
 カーテンで仕切った窓を開けば、そこは森と沼の土地。ポルホガン沼地である。
 木々のずっと先に、高く頭を上げて周囲を見回すヌンナイギギの姿があった。
「ここまで大きな百足は初めて見るな……抵抗のない者が見たら卒倒しそうだ」

●大群
 ポルホガンの民に手早く歓迎されたイレギュラーズたちは、そのままスパッとヌンナイギギ退治をすべく沼へと赴いた。
 もしお食事中の方がいたら申し訳ない、というくらいオオムカデの大群。
 足の踏み場こそあれ、十秒もすれば数匹しがみついてくるであろうわさわさ具合だった。
「ううむ……」
 世界樹が大きく飛行してみると、オオムカデたちは彼女に組み付こうと沼地をばしゃばしゃと飛び跳ねまくった。50センチそこそこのオオムカデである。ジャンプすればそれなりの高さまでは飛ぶが、数メートルというわけにはいかないようで空をうねっては再び沼へ落ちるということを繰り返していた。
 自分に触れないとはいえ、ものすごく気持ち悪い光景である。
「しかし、飛行時のペナルティがキツいのじゃ」
「3m以下のラインギリギリならペナルティもないのであります」
 ハイデマリーが実際にそのラインを飛行してみせた。
 なるほど、とその辺りの位置をキープすることにする世界樹。
「ああ、わたくしも空を自由にとびたいな……っと」
 ギリギリ危ないフレーズを呟きながら、背負った樽をドンと足下に置いた。
「はい、たるばくだーん」
 爆弾とはいっても、いわゆる『めっちゃ燃え続ける樽』である。自力ではあんまりうまく作れなかったが、グリムペインが細かく手伝ってくれたおかげで完成したようだ。
「火を」
「うむ」
 世界樹のもった松明から火を借りると、エリザベスは樽を横にしてガッと蹴りつけた。
 火が回って燃えだした樽は火車のごとく沼を転がり、火をおそれたオオムカデたちはさきほどのジャンプでパパッと飛び退いていく。中には逃げ遅れてひきつぶされるものもいた。
「さあレッツラゴーでございますわ!」
 樽につづけとばかりに走り出すエリザベス。
 一度飛び退いたオオムカデたちが寄せては返す波のごとく迫る……が、飛びかかる前、わずかに躊躇した。
「効果があったようだ」
 グリムペインが透明な瓶を揺らした。
 持ち前の薬学知識や科学的素養その他諸々をつかってイギギの嫌がる薬剤を作り出していたのだ。勿論それはメンバー全員にふりかかっている。
 おかげでオオムカデの組み付きによるペナルティ効果を1ターン遅らせることに成功した。完全によけきれないのは、相手も相手で必死だからなのかもしれない。
 こうして聖者の奇跡がごとくオオムカデを割って進むグリムペインたち。
 その周囲を固めるように陣形を組んでいくハイデマリーたち。
 やがて樽が止まり、くずれてゆく頃。
「そろそろ、出番のようですね」
 ドラマが懐から本を取り出した。
 右手に本。左手にも本。
 二つをクロスさせ、禁断の魔術を複雑に練り上げていく。
「魔砲――」
 破壊力そのものとなったエネルギーが放物線を描いて発射され、ヌンナイギギとその手前にいるオオムカデたちに着弾。凄まじい衝撃と共にあたりを丸ごと吹き飛ばした。
 見上げるほど巨大なヌンナイギギすら大きくのけぞってもがくほどの衝撃である。恐るべきは、その衝撃が結構な精度(命中値)で飛んでいくところである。
「「…………」」
 キュウビたちは軽く震えた。自分だったらワンチャン即死する衝撃だからである。
「追撃を」
「わ、分かってるわ」
 スクロールを取り出したキュウビは、眼前に大きく広げ、射程延長術式を発動させた。
 解き放った魔力が放物線を描いてヌンナイギギへと叩き込まれていく。
 アレフが手を翳し、まばゆい光の魔力を放出しながらヌンナイギギへと走って行く。
 ヌンナイギギはずりずりと移動し、アレフを捕まえようと巨大な身体を巻き付けてきた。
 咄嗟に跳躍して回避するアレフ。無数の足が彼の身体スレスレを通っていく。
 反撃にと放った光が放射状に走り、ヌンナイギギへ降り注ぐ。
 対するヌンナイギギは光を振り払い、アレフへの追撃を始めた。
 身体を大きく振り上げ、食らいつく――その寸前。顔面に破壊の力が叩き付けられた。
 四枚の翼を展開したリジアがオオムカデの上を滑るように飛行し、破壊エネルギーの砲撃を放ったのだ。
 リジアの翼は光の翼だ。剣のように鋭く平たいが、翼から生み出されるエネルギーは破壊そのものを司っていた。
 ヌンナイギギが顔を向ける。リジアは対象の円周軌道上を水平に滑るように飛行すると、エネルギー弾をひたすらに乱発していく。
 その反対側をアレフが走り、光線を連続で放射していった。
「さて、そろそろ仕掛けるか。ヌンナイギギ――舌を噛みそうな名前だぜ!」
 手足に装着した武装をガチンと打ち合わせ、ホリがヌンナイギギめがけて突撃した。
「フォローします」
 ヴァンがその横に並んで突撃を開始。
 水晶のように青白い剣を抜き、攻撃の構えをとる。
 反射的に振り込まれたヌンナイギギの大きな尻尾ないしは胴体後部。
 それをホリとヴァンは同時に飛び、導体の上へと着地した。
 ヴァンの剣が導体の甲を貫いて刺さる。間接部を掴むようにして体勢を維持したホリが、その勢いのまま幾度となく殴りつけていく。
 それをやめさせようと、周囲のオオムカデが飛びかかってきた。腕や足、背中に組み付く50センチのムカデを想像できようか?
「気味悪くて、どうしようもねぇな!」
「けれどこのままじゃ……」
 首に食らいついてくるオオムカデ。
 それなりの体力があるヴァンといえど、こうも群がられてはやりづらい。第一、攻撃の手が緩んでしまう。
 このままではいけない。そう考えたとき……。
「伏せていろ」
 跳躍によって彼らのそばへ着地したアレフが、光の翼を展開した。天使のような六枚の翼がはばたくが、風は起こらない。その代わりに巨大な光の球がアレフの眼前に現われた。
 手を翳す一瞬。球が爆ぜたように無数の光線を放つ。拡散した光線は周囲のオオムカデを一斉に払った。
「相手は長期戦に優れた面倒な相手だ。だからこそ我々も可能な限り、連携を行い長い間戦場に立っておかなければならない」
 服にひっかかったムカデの牙を抜いて捨てる。
「厄介な事だが、我々にとってそれは決して出来ない事ではあるまい」
 ぐわん、と大きく揺れる足場。否、ヌンナイギギが大暴れを始めたのだ。
 あたりの沼地をめちゃくちゃにしながら、身体を捻ったり回したり、時に近くの木へ叩き付けたりした。
 凄まじい衝撃に吹き飛ばされるアレフやホリたち。
 一方で、グリムペインは頭上を抜ける巨体をかいくぐるようにして攻撃をよけ、相手の頭の下まで至っていた。
 下あごにひたりと触れるグリムペイン。
 接触面が不思議と鈍い黄金色に変わり、ぼこぼこと不気味な音を立てて破壊された。
 悲鳴をあげるヌンナイギギ。
 グリムペインは自分の身体に不思議な印を描いて、その場から一時離脱した。
 ヌンナイギギの巨体が落ち、沼が爆ぜるように散る。

 飛行するハイデマリーは仲間たちを一定の範囲に収めつつ指示を飛ばしていた。
 『敵の攻撃前に対象が4ターン毎に一番近くで順番と攻撃力の低さを見積もって動ける人間に解除攻撃の指示をだす』『範囲攻撃持ちに解除攻撃をヌンナイギギを巻き込ませるように指示する』といったような内容だ。
 中距離攻撃チームはみな飛行が可能だ。ハイデマリーとリジア、そして編隊飛行を組んでいた世界樹が剣を握ってヌンナイギギへと飛びかかった。
「恐れる必要は無いのじゃ。皆で襲えば充分倒しきれるはずじゃ」
 にかっと笑って斬撃を繰り出す世界樹。
 ヌンナイギギの背に剣を突き立て、間接部の隙間から無理矢理ぐりぐりと押し込んでいく。
「ヌンナイギギ、今日がおめぇさんの命日じゃ」
 暴れ、振り払おうとするヌンナイギギ。
 世界樹を直近の脅威とみなしたのか、無理に振り払ったあと巻き付いて捕まえにかかった。
 素早く回復指示をとばすハイデマリー。
「キュウビ様、どうやら出番のようですすわね」
 なんだか奇妙なポーズで片足立ちするエリザベス。
「え、ええ……うん……」
 一方でキュウビは十字架にでも貼り付けられたかのごとく両腕を広げ、直立姿勢のままぷるぷると震えていた。
 自身に50センチ大のオオムカデが何匹も絡みついて這い回るさまをご想像いただければ、同じ気分になれるはずだ。軽く白目をむいていたし、ちょっと死にかけてもいた。
 ハイデマリーの指示で、グリムペインが『緑の目をした不可視の怪物』というなんとも言いがたい不可思議なナニカを放ってきて周囲のオオムカデを払っていく。
 キュウビは『やめて死んじゃう』と思ったが以外と死なないものだった。
 スクロールを広げ、つかまった世界樹めがけて治癒魔術を詠唱する。
 同時にエリザベスも口からダイヤルアップ音声を放って世界樹の体力をもりもり回復させていった。
 なんだかんだでタフな世界樹である。ヌンナイギギの組み付き攻撃にも耐え、反撃にと剣をざくざく突き刺している。
 ヴァンとホリも負けじと飛びかかり、ハイデマリーのマギシュートを援護に受けてヌンナイギギの身体をよじ登りはじめた。
 ヴァンの剣がヌンナイギギの身体に突き刺さり、テコの原理で世界樹を救出し始める。
「僕はまだあまり強くないから、これくらいしかできないですけど……皆さんの力があれば、多分大丈夫だと思います。頑張りましょう!」
「なあに、立派な戦力だぜ」
 反対側から手足を突っ張り、ヌンナイギギの表面装甲を引っぺがしていくホリ。
 派手に装甲を引っぺがした所で、三人は暴れるヌンナイギギによって吹き飛ばされた。
 沼地をバウンドし、転がり、あたりのオオムカデたちを散らかしていく。
「さて……」
 本を開いたドラマ。
 空中に指で文字を書き付けると、それを禍々しく燃え上がらせた。
「これで終わりにしましょうか」
 文字をタップした途端、凄まじい衝撃が発射された。
 衝撃は弾丸となり、はぎ取ったヌンナイギギ装甲間を貫き、肉体を崩壊させながら中に留まり、激しく爆発した。
 身体の途中からぶっちぎれたヌンナイギギ。頭が沼地に落ち、未だにギチギチと動く牙が沈んでいく。
 身体もまだわちゃわちゃと動いていたが、上空を位置取ったリジアが破壊の弾幕を振らせて残らず粉砕していった。
 後に残ったのは、じわじわと動く何本もの足。それもやがて動きをとめ、荒れに荒れた沼地と巨大な死体が残った。
「状況終了だ。ハイデマリー」
 翼を収納し、リジアは沼地へ降り立った。

●沼地
 後日談ではない。
「まあこんなもんか!」
 ヌンナイギギを潰してもオオムカデはまだ沢山残っている。
 その駆除を手伝っていたホリは、石槌を杖代わりにして背筋を伸ばした。
 そのそばでは、ある程度手伝っていたドラマやアレフが額をぬぐっている。
「それにしてもアレフ君と一緒になったのはこれで四度目ですか。なかなかの奇縁です」
「そうかな? しかし随分汚れたね」
 ポルホガンの女がやってきて、水浴びの準備ができたと呼びかけてくる。
 渡りに船だ。アレフたちは好意を受ける形で、沼地でついた泥やらなにやらを落とすことにした。

 ハイデマリーや世界樹、キュウビやヴァンたちがあちらこちらで歓迎ムードに包まれている中。
 エリザベスが不思議なポーズで天に両手を掲げていた。
「何を……」
「お騒がせした事を付近の精霊様にもお詫びしているのでございます」
「そ、そう……」
 気持ちは伝わるんじゃないかな、と控えめなコメントをするキュウビ。
「大きいな……うん。ワニ、か……」
 一方でリジアは歓迎ムードのポルホガンの民を前になんだか妙な反応を示していた。
「皆のおかげでヌンナイギギを退治することができた。これは報酬だ。受け取って欲しい」
 族長を名乗る男がコインの沢山詰まった袋を手渡してくる。
「ふむ、ではこれを渡しておこう」
 グリムペインが差し出した瓶は、イギギ避け……というかムカデが嫌がる香水だ。
「ムカデに限らず、色々な虫に効く」
「おお、これはありがたい」
 と、こんな具合で。
 ポルホガンの沼地とヌンナイギギの騒動は幕を閉じた。
 イレギュラーズたちはしばし村で休息した後、幻想へと帰って行った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――congratulation!

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