Fernweh

オープニング

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　冴え月の降り注ぐ宵の空、天蓋飾られた星は金平糖のようだと初めて口にした時を思い出し綻び咲く笑みは隠さずに。冬の跫音がリズミカルに聞こえるその時に、海洋王国のある洞窟に奇跡の花が咲くことをジェック・アーロン (p3p004755)は聞いた。
　潮が引き、僅かな道を辿り進む水没遺跡。僅かな時間だけその姿を覗かせるというその場所は200年に一度だけ、最奥まで入ることが出来るらしい。
　ぽっかりと天蓋を望むことが出来るその場所には一輪の花が咲く。その花は燦々と降り注ぐ陽の光を喜ぶように花開き、潮が満ちると共に姿を隠してしまう。それでも、200年に一度、必ず咲くからこそ奇跡の花とそう呼ばれているそうだ。
　丁度陽の傾ぐ地平線へと歩を進めるような奇妙な感覚。夕日の色を映す柔らかな花弁は真白の雲と地平の波を思わせた。その場所は空と海のはざま。
　煌めく飛沫の道を辿り進もう。迷わぬように。その遺跡へ辿り着くためのしるべとして手にするのはアンティークのランタン。決して溶けない雪と妖精達がキスをした白百合の蜜を固めて作った蝋は淡く光湛え、海向こうを指し示す。

　――さぁさ、おいで。迷わぬように。このあおいろに溶けてしまうように。

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　200年に一度の風景を見に行こう。
　ジェックがそう口を開いたとき、御天道・タント (p3p006204)「素敵ですわぁ！」と笑みを零した。
　指先を絡めることも気恥ずかしい。共に過ごすことも緊張に頬が緩んだ、そんな関係。ふたりだけの、淡いこいごころを揺らがせて。
　海洋王国の片隅にひっそりと存在する海底遺跡――その数日だけは潮が引き立ち入ることが出来る――の事を告げたとき、タントは陽を溶かした眸を煌めかせ、甘く夢見るように笑み浮かべる。まほろばに揺蕩う如く幸福を溶かしたその表情にジェックはほうと口元を緩めた。
「その場所に向かうまではモンスターや『守護者』がいるらしいんだ。
　その帰還にだけ咲く陽の愛し子、白い花……名前はないんだけどさ。まるで、タント様じゃない？」
「まあ。ふふ、陽の愛し子だからですの？」
　くすりと笑みを浮かべて。額をこつりと合わせて微笑み合って。他愛もない冗談もこんなにもひだまりのように胸が躍るから。
「ね、タント。皆に内緒で、見に行かない？」
　しい、と。口元に人差し指を当てた。誰かに聞かれているわけではないけれど。
　これはとっておきの、とっておき。
　二人だけの約束に聲は楽しげに踊り出す。
「ないしょないしょ、ですわね！」
　往きましょうと手を取って。

　――まだ、見た事も無い。二人だけのささめきごとを始めましょう？

参加者 : 2 人

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参加者一覧（2人）

リプレイ

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　君と、見たいと思ったんだ。
　君と、行ってみたいと考えたんだ。
　君と、語らい分かち合いたかったんだ。
　あの景色を――ずっとずっと、遠くの未来。
　その花が咲く、200年後も一緒であるようにと願って。

「ふたりのひみつ、ね」
「ええ、ええ。秘密の思い出、ふたりだけの……」
　こつり、とおでこを合わせて約束しよう。
「とっておき、ですわ！」
　心躍らせひみつの場所に。スケジュール帳の丸印は誰にだって悟らせない。
　ふたりきりのたいせつな、ひみつを指切りで約束しては、その日を待って。

　透き通った空気にふわり、と熱が舞踊る。静謐と静寂の石階段は昏い蒼を忘れたようにその姿を空へと滲ませた。紺碧の空に滲んだ白い雲は踊る魚のようにふわりと揺れる。流れる雲は魚の背骨、燦々と暉す陽光はふたりのひみつを包むように柔らかに。
「それでは、元気よく参りましょう！」
　心躍らせワンピースの裾をふんわりと揺らした『きらめけ！ぼくらの』御天道・タント（p3p006204）の唇が淡く色づき音を響かせた。白日の如きハニーブロンドの毛先が楽しげにぴょこりと跳ねる。
　今日は『お仕事』ではなく『デート』だから。ガスマスクにはお留守番をお願いした。顔を包み込んだ内緒話は今日はなく、『鎮魂銃歌』ジェック・アーロン（p3p004755）は素顔のままでタントの甘い柘榴の瞳を覗き込む。
「楽しみだね、タント」
「ええ！　とっても楽しみですわ！」
　弾める声に、眸を細めれば、タントよりも更に甘いストロベリーの眸に喜色が踊る。手入れ行き届かぬ白髪には出発前にしっかりとブラシを掛けてなめらかに。折角の『ふたりきりのひみつ』を楽しむために、笑み溢れてワンピースをふわふわと踊らせた。風の悪戯に、髪を擽りタントはそっと振り返る。
「さあ、お手を」
　恭しくも王子様のように。寓話めいて、小さく一つ。
　その言葉にどきどきと胸の奥で鼓動が跳ねた。心臓が「楽しみ」だと飛び出して踊り出しそうなその感覚にジェックとタントは顔を見合わせ笑い合う。同じだなんて、言葉にしなくても分かるから。
　繋いだ手のぬくもりは少しの緊張と、高揚が感じられて。海底へと続く階段は空と海が混じったような、不思議で不安定な魔法の世界。一歩、踏み外したならば昏き底に攫われそうだと強く握りしめればランタンが淡く光を揺らがせる。溶けない雪と妖精のキスに綻ぶ白百合の蝋の炎はゆらゆらと。甘く香ったその気配に「この先は、何が待っているかしら」とタントの唇がねだるように問い掛ける。
「きっと素敵な景色だよ。ほら、みて、タント。海の花だ」
　波雫が形作った花のかたち。日々を営む魚たちの日常に、全てが見た事が無いからと目を細めてはにかんで。
「ほら、あれは？」
「ふふ、あれは泳ぐ白い雲の骨ですわ！」
　何だったって二人でみれば不思議と弾む。そんな景色に心躍らせ指絡めて。
　海の中を歩いて、空の上を進んで。そんな階段をひとつ、ふたつと辿れば少し開けた景色が見えてくる。
　ぽかりと浮いたその場所は空に揺蕩う浮島か、海に浮かんだ小島であるか。光苔が飾られて、ちょっとした休憩スポットのようだとバスケットからランチセットを取り出した。
　ランタンをレジャーシートの中央において、その赫々たる焔の傍でバスケットを広げよう。地上の喧噪と、人の声などまるで忘れた静謐なる青色の随に。身も心も染まりそうなその場所で、タントとジェックは「きめた！」と何方ともなく頷き合った。
「ひとまずここでお弁当を食べましょうか！」
「うん。タントのお弁当楽しみなんだ。っていってもサ、アタシもちょっとだけお手伝いしたけど」
「ええ、ええ。ジェック様のお手伝い、とっても助かりましたわ！」
　にんまりと笑みを零したタントがふい、と顔を上げれば悪戯な魚達が顔を出す。
　美味しそうな香りに誘われて。遊び相手が現われたというように自由気ままに蒼を泳いだ。
「まるで空を泳いでいるかのようですわね……？」
「そうだね。どうする？　ちょっとだけ遊んでみようかな」
　すくりと立ち上がって、ステップ踏んでワンピースをひらりと揺らす。
　悪戯っこは気儘に泳ぎ、タントの立てた波に驚いたように鰭をゆらり。遠くに見えた陽の光は小さな鰭に光を宿しきらりと星の如く煌めかせた。それは悪戯っ子を喜ばせるとっておき。狙撃手の『ちょっとした遊び』に魚たちはもっともっとと強請るように鰭揺らがせる。
「普通に泳いでたら発生しない波でしょ？」
「ふふ。さあ、ジェック様。それから、お魚の皆様。お食事にしましょう？
　お魚の皆様もおいたはいけませんわよ！　皆様の分もあるのですから！」
　早起きして作ったミニオムライスにミートボール、コロッケサンドはジェックが一生懸命にパンに挟んで少し歪に。魚たちのためにと小さく千切って作ったパンやデザートは小さな子供が作ったかのような悪戯心がちらりと見える。
　クロワッサンから香ったバターに、柔らかな食パンを摘まみ投げれば其れも遊びのように魚たちは尾を揺らがせキャッチを続ける。
「美味しい？」と、問い掛けたその言葉に応えるように、もっともっとと揺らぐ鰭。
「さあ、準備できましたわ！」
　開いたバスケットの中にはたっぷりの食事を。ミニオムライスに立ったフラッグにはジェックとタントを描いている。ミニトマトをちょこりと乗せたサラダのドレッシングも手作りを。
「美味しそう」
「ふふ、ジェック様のお手伝いのお陰ですわ！」
　水筒の中のポタージュスープがゆらりと揺れる。海中での食事だというのに不思議な事に違和感も感じずに食事を楽しむことが出来て。
　タントの食事はどれも美味しいからと胸躍らせるジェックに少し照れた微笑みが擽ったい。
　お砂糖ひとさじ、ことりと落としたミルクティを飲みながら、少し食休みをしてから動き出そう。
　まだまだ、魚たちが遊んでいて欲しいとおねだりしてくるのだから。
　魚たちとの和やかなランチタイム。空と海の混じり合う、蒼のせかいで揺蕩う様に。思う存分、お腹がいっぱいになるまでここで楽しんでいよう。

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　階段降りる爪先に力を込めたならば、ひとつ、ふたつと追い越して行けそうで。ランタンがゆらりゆらりと揺れるその灯りと共にあおいろに溶けるように進み行く。
　小石がかつりと音立てて転がり落ちるその様を追いかけるのは不思議の国の寓話のようで。
「もっと、続いて居るのかしら」
「さあ。勢いよく飛び降りたらそこは穴があったりして？」
　追いかける兎さんがいないから、ヘンゼルとグレーテルのように帰る道を見失いたくはないと手を繋ぐ。カンテラ揺らいだ焔は帰る道はあちらだよと微笑むように温かに。
　広がる海中遺跡に転た寝のように座っていた守護者が音立て動き出す。無骨な体に無数の苔が繁り、深き海の底に共に過ごしていたことがその姿からも感じられた。
「ゆきましょう、ジェック様！」
「うん、行こう……頼りにしてるよ、タント」
　名残惜しく手を離す。ランタンも見守っていてねとバスケットと後方にちょこりと添えて。
　白百合刻んだ鎧にはその地を護りし者としての矜持が揺れる。言葉無くとも振りかざされた剣こそが自身らの行く手を阻み『花』護る者の試練の証左。
　金平糖を舌先に転がして、ひだまりの甘さを楽しんでからタントは金色の色彩をふわりと揺らす。
　太陽の魅力を浴びて、輝いて。天照らすひかりは『夜』が来るまで沈まない。故に、不動のこころなのだと。金色の色彩の中でタントのきらめきは剣を受け止める。
　世界の成り立ちは法則性が存在して居る。だからこそ、計算し、置き換えて、思考の一部を自動演算。黒の猛禽が猛々しくも鋭くその眸で守護者を睨め付けた。
　拓くに難く、歩くに易い。そんな道など存在しなくとも、人は憧憬を抱き追い求める。
　此の地を進む者を遮る守護者が存在するように。二人の前に立ったそれは障害として、そして花の唯一の友として剣を振るい拳を固めるのだろう。
　――けれど、害するわけではない。『おはなし』を。そう求める愚直な弾丸が剣を弾いた。
　白百合の鎧にかつり、と音立て当たった弾丸に守護者は驚いたようにタントの後方、静かに狙い定めるジェックを見つける。命奪う最短ルートは『花を見る』為の道のためにと探られた。
　狩人の鋭さに、僅かに乗せられた愛おしさは恋人と分類されて、あいを重ねたその人の『こころ』に届かせるように静かな声を響かせる。
「……今だよ」
　視線は明後日、意識は他所に。囁くように、静かな声音が海の泡の如くぽかりと浮かぶ。
　その隙。それは、『狙撃手』にとっての一番の好機。
　一面の紺碧に吸い込まれるように弾丸が踊る刹那に、想像するのはライフル。まぼろしが、てのひらに重くのし掛る。目を閉じる、五感を研ぎ澄ませる。感覚という感覚が、手を伸ばして求めるように叫び出す。
　あの声が、耳朶を伝って、指先に重なった。重さなど、何処にもない。

　――今だよ、タント。

　ええ、今。今ですわ。黒き猛禽の弾丸は――あなたの眸が描く先を決して逃さない。
　故に、ブラック・ラプター（あなたのなまえ）を、守護者の許へと届けるのみ。
「隙を見まして、ジェック様直伝‪――ブラック・ラプター！　この技こそ！　二人の愛の結晶ですわー！」
　愛するということを。その弾丸に乗せて届けて。
　タントの言葉に「ふふ」とはにかみ、放ったのは身の内で花開く、血吸い啜る銀の華。
　毒の気配に。甘え踊って、命を奪うその弾丸が守護者の白百合を赤く染める。その気配に、動きを止めて、頭を垂れて――「さあ、どうぞ」と言わんばかりに守護者の剣が収められた。

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　ぽかり、と空いた天蓋は光が差し込んだ。空の中に居るような鮮やかなる色彩が身を包む。
　守護者のみちびきに、進める歩は少しばかり緊張の気配を感じさせる。
　ゆっくりと歩を進めれば暗がりの石屑は星々の如く光を湛え、きらり、きらり。光を放つ。
　かつり、かつりと音鳴らして進む度に感じる僅かな緊張は、煌めく飛沫の道よりも尚、静謐溢れる『ふたりだけのひみつ』に近づくようで。
「なんだか、世界に取り残されたみたいだね」
「ええ、ええ。この場所にふたりきり。まるで世界がわたくし達を置いて言ってしまったかのよう。
　……時刻を止めたこの場所を、進む。其れだけなのに、どうしても心が躍ってしまうのです」
　だから、離さないで居てと手を差し伸べる。指先絡めて力を込めて。
　星の海を歩いて、ひかりの許へ。辿り着けば陽の愛し子がゆらりゆらりと揺れている。
　周囲を取り囲んだ静寂に光の海が微笑み湛え、空と海のはざまの向こうを眺めるように顔を上げれば少しばかり恥ずかしがった陽光が姿を隠す。
　それは奇跡と呼ばれた白い花。透き通った無防備なる白色は、真珠の如く光を返す。純白のレースに包まれたかの如きその花を双眸に映して、二人はぱちりと瞬いた。

「……きらめいておりますわ」
「……すごい……」
　言葉なんて、それ以上にはなかった。その花と、その周囲の美しさに。
　単純な言葉しか出てこないことを悔やむことはしない。それ以上に、その美しさを表すことは出来ないのだと、そう思えたから。
　想いを言葉にすることなく。爪先にこつりとぶつかった小石の感覚に息を飲む。
「あれが――？」
　陽の愛し子、君と似た愛らしい太陽の花。

　立ち尽くしたまま、握る手に力がこもってゆく。
　静かな、光に満たされた淡いせかい。空の蒼と、海の青。ふたつが混ざり合って溶け合って、覗くぽっかりとした天蓋の光がスポットライトのように降注ぐ。
　愛を見ることは出来ないと。
　誰かが言っていた――けれど、それは愛をかたちにしたような、そんな美しい景色で。
　何方ともなくぬくもりに寄り添った。愛する人と混じり合うように、その温度を重ね合わせて。

　言葉なんて必要は無いと、注ぎ合うように。
　それは永久への誓いのように。誓句なんて、述べることなど必要は無い。
　ただ、この美しさを留めるために、伝えるために、胸に、しまっておくために。
　光のヴェールを浴びながら花瞼を閉じて唇を重ね合わせた。

　――「200年後もまた、一緒に見に来ましょうね」

　そんな、永遠と呼ぶに似た優しくも甘い約束を交すように。
　愛情に揺らいだその花よりころりと零れ落ちた雫は、誓いのように二人の指先を飾るのだろう。

　永久の名を――遠い、遠く、更に遠くの時刻へと夢を見て。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

なし

あとがき

　お二人の素敵な世界を描くことが出来ましたら光栄です。
　この度はリクエスト有難う御座いました。
　青色の中で、どうか、美しい永遠のかけらを見て頂ければと、そう願っております。