PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ペインズフォール・イブ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●痛みは欠落のあとにやってくる
 ある晩のことである。
 女は泣き叫ぶ乳幼児を抱えて家の床に伏していた。
 家には人間だったものが三つ。
 複雑な形の角がはえた男と、首から上が山羊の男。そして学ラン姿の男子高校生。角の男は頭を割られ、山羊の男は首から離れて上がテーブルに乗っており、男子高校生は今まさに首を掴んでつり上げられていた。
 喉がしまっているのか声も出せず、なんとか腕を振りほどこうと暴れるもまるでブロンズ像のようにぴくりとも動かない。
 高校生の足や拳が身体に叩きつけられるも、白銀の全身鎧を身につけた青年は小声で祈りの言葉を唱えながらただ眺めるのみ。
 やがて高校生はぐったりと動きをなくし、命が絶えたことを確認すると彼は、祈りの言葉をとめた。
 家には泣く乳幼児の声だけが残り、それを抱え必至に頭を伏せ続けていた女の視界に、鷹の頭に似た影が見えた。
 ハッと顔を上げると、鷹鎧の青年がこちらを見下ろしているではないか。
 次は自分が殺される。そう考えた女は喉から声を絞り出した。
 どうかこの子だけは。
 きっと世界中のあらゆる父母が考えるであろうことを述べると、鷹鎧の青年は手を伸ばし――乳幼児を女から無理矢理奪い取った。
「可愛そうに。穢れた血を混ぜられたのですね」
 はっきりと、青年はそう言った。
 その後に起こることを予期した女は手を伸ばし我が子を奪い返そうとするも、それを蹴り飛ばすことで青年ははねのけてしまった。
「あなたも恥じるべきです。世界を滅ぼす外来種と交わるなど……あなたの父と母を、隣人を、この世界のあらゆる人々を裏切ることになるとなぜ気づけなかったのです」
 何を言っているのかわからない。女がヒステリックに叫びそうになった――その時。
「そこまでです!」
 大声とともに一矢。星の如き輝きを纏い屋内へと飛び込んできた矢が破裂し、鷹鎧の青年は素早くそこから飛び退いた。
 窓を飛び越え床を転がり、女と青年の間に割り込むように片膝立ちをして弓を構え直す小金井・正純(p3p008000)。
「『新世界』構成員――いいえ、アドラステイアの聖銃士(セイクリッドマスケティア)!」
 女を守った……まではいいが、青年の手に子供が抱えられたままであることに気づいて強く青年をにらみつけた。
「その子を返しなさい。そんな小さな子まで殺すっていうんですか!?」
「……」
 青年は目を細め、半歩後退する。
「この子供はウォーカーとのハーフです。純人間種(カオスシード)であるとはいえ、血が汚れたことには変わりありません」
「だからってそんなの――」
「『可愛そうだから殺すな』っていうんですか!」
 突然、青年が目を見開いて怒鳴った。
 激高した様子に、正純が目を見張る。
「あなたたちはいつもそうだ! 可愛そうだから殺さないでだの、手を取り合って生きていけるだの……! この世界を見てください! 冠位魔種が国を滅ぼしかけたのも、アークモンスターという凶悪な怪物種が現れたのも、みんな大召喚によって旅人が大勢この世界に紛れ込んでからではありませんか!
 あなたたちがそうやって生ぬるく自体を引き延ばし続けるから、あちこちで不幸に家族を亡くす人が増えるんです!」
「まってください。ちがいます……」
 正純は弓を構えたまま首を振った。
「旅人害悪説なんてでたらめです。私たち特異運命座標(イレギュラーズ)は世界滅亡を防ぐために召喚されパンドラを集める者。魔種やアークモンスターはむしろ天敵です。だから――」
「その理屈で、僕の弟も殺したんですか」
 だから、のあとが続かなかった。
 青年の、鷹鎧の奥に見える青い目を、正純はみたことがあった。その目から光が消える瞬間すらも。
「おと……うと……」
「僕の弟。『撃鉄』の聖銃士セダ。勇敢にも悪しき巫女の討伐に出かけた彼は、帰らぬひととなりました。手をかけたのは、あなただ、『流星の弓使い』」
 いつでも撃てる。
 にもかかわらず、正純の手は動かなかった。
「あなたも騙されているのでしょう? ローレットという悪徳団体に偽りの教典を刷り込まれ、洗脳されているのでしょう。だから『弟の報復』などとはいいません。許しましょう。けれど……この正義だけは侵させません」
 そう言って、青年は家を飛び出し走り去る。
 幼子を腕に抱えたまま。

●命の対価
 閑散とした集落に集められたイレギュラーズたち。
 それを出迎えた正純は、青い顔をしてベッドに横たわる女に手を振ってから家より出てきた。
「ごめんなさい、おまたせしました。
 あの人は依頼主のメジェーネフさんです。
 依頼内容はもう読んでいると思いますが、あの人のお子さんを取り返すことです。
 攫ったのはアドラステイアの……『撃鉄』の聖銃士セルゲイ・ヨーフ。
 数体の協力な聖獣と武装した子供たちの部隊を率いる形でアドラステイア外周部の占領地でキャンプをはっている筈です。
 アドラステイア内へ戻られれば手出しは難しくなりますし、それまであの子が生きている保証はありません。
 一刻も早く、取り返しに行かなくては……」
 正純は情報屋がもたらした聖獣や武装集団に関するごくわずかな情報を記した資料を投げるようにあなたへパスしてから、自分の馬へと飛び乗った。
「行きましょう。これ以上、殺させたりしてはだめです」

GMコメント

■オーダー
 占領キャンプ地を襲撃し、攫われた幼子を取り返しましょう。
 キャンプ地は聖獣被害によって廃墟化しており、聖銃士たちはそのうちの2~3件を占拠する形で一泊しています。
 敵の配置や情報が不確かなことは否めませんが、時間をかけている余裕はなさそうです。

■フィールド
 廃墟となった集落です。
 元々牧場のあった場所でしたがアドラステイアの聖獣が投入されたことで住民が死亡ないしは避難移住し、廃墟化してしまいました。
 地図等はありませんが、上空から観察した程度でわかる家屋の配置は把握できているものとします。
 どの家屋にどういった戦力が滞在しているかは現時点では不明です。

■エネミー
 部隊長の聖銃士セルゲイによって率いられた『鷹小隊』です。

●『撃鉄』の聖銃士セルゲイ・ヨーフ
 殉死した旧撃鉄の意志と称号を継いだ兄。白銀の鷹を摸した鎧を着ている。
 固体戦闘能力は割と高め。
・超物攻。CTFBやや高。EXA超高。
・付自単アーリーデイズ
・物至単【連】攻撃
・物至単【連】【ブレイク】【必殺】【恍惚】攻撃

●『聖獣』ペネム
 アドラステイアが聖銃士へと与えた使役モンスター。
 聖銃士の命令に忠実でそこそこの知性をもつ。
 全長3m近い人型のシルエットをもつが、頭部はヤツメウナギに酷似している。
 怪力や瞬発力の他、粘液を槍のように硬化させる能力をもち投げ槍など応用のきいた戦い方も可能。
 およそ3体ほど確認されており、一個体ずつが手強い敵だと思われる。

●武装少年少女
 剣や銃などで武装した子供たち。
 聖銃士に憧れ、部隊長のセルゲイを尊敬している。
 個体数は不明。滞在中の雑用を主に担当しており、戦闘はするが能力的に秀でてはいないと思われる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●聖銃士とは
 キシェフを多く獲得した子供には『神の血』、そして称号と鎧が与えられ、聖銃士(セイクリッドマスケティア)となります。
 鎧には気分を高揚させときには幻覚を見せる作用があるため、子供たちは聖なる力を得たと錯覚しています。

  • ペインズフォール・イブ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月27日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

リプレイ

●星が流れる夜だから
 日が暮れ始めた西の空を、風吹く荒れ地でひとり……『不義を射貫く者』小金井・正純(p3p008000)は眺めていた。
 季節柄籾殻を焼く香りがしたはずの、きっと畑と果樹園だった場所。
 今や鬱蒼とした林と枯れた草の野原しかのこっていない。
(攫われたのは、私がほんの少しでも躊躇ったから。……私は、本当は……)
 『撃鉄』の聖銃士セルゲイ・ヨーフ。彼が逃げ去るその瞬間、撃つことはできたはずだ。
 子供に当たることを恐れたのだろうか。
 母親のそばを離れないように警戒したためだろうか。
 いや、やはり。
「後悔、していたのでしょうか」
 自分一人の罪じゃない。
 進んで、喜んでやったことじゃない。
 仕方なく対立し、仕方なく殺し合った、その結果の戦死にすぎない、はずだ。
 なのになぜ。
 こんなにも。
「正純、準備はできたか?」
 強襲戦闘用の、特別な生地でできた服を纏い樹精の力をみなぎらせた『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)。
 既に覚悟は出来ている。そんなふうに、彼女は見えた。
「旅人だからと父親を殺したうえに、子供を、それもまだ母親に抱きしめられる様な幼い子を奪うなんて許せない……! 必ず幼子を取り戻して母親の元へ返してやろう」
 その通りだ、とポテトの肩を叩き横に並ぶ『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)。
「奴が自身の正義を貫くなら、俺は自身の正義を貫くべく幼子を取り返す。これ以上犠牲を出してなるものか!」
「はい。もちろんです。早くお子さんを助け出さなくては」
 頷く正純。ポテトたちは『先に行ってるぞ』と言って野原をはなれていく。
 すれ違いにやってきた『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が、正純の後ろ姿を見て足を止めた。
「わたしの親は――」
 ぴくり、と動く正純の背中。
「親はいるのかいないのかわからない。
 でも、子を奪われた親は深い悲しみから酷く恨むはず。
 その子が災いを生めば、さらに恨みを生む。
 恨みの渦は……さらに死を呼ぶ」
「わかってる」
「やらせない」
「わかっています」
 自分の頬を叩き、きびすを返す正純。
 ココロは頷いて、彼女と共に戦場へと向かった。

「自分が他者を殺すのは善行であり、同じく善行をなした弟が殺されたことは糾弾すると仰る。
 無知な被害者面をしているだけなら不快ですませることも出来ましたが、魔獣を連れまわして人を殺めているのはあなた方でしょうに。この村に住んでいた人々も、罪だなんだと難癖付けて魔獣の餌にしたのでしょう? 世界を救うと抜かしたか、自分で壊してる最中でしょう。
 それとも彼らが悪だから殺した自分に罪はないとでもいうのですか? 御冗談を。
そもそも我々を呼びつけたのは『あなた方』ですよ」
 未だ遠い野営地に向けて、『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)はコートのポケットに両手を入れたままつぶやいていた。
 あとからやってきた『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が横に並び、ちらりと彼女の横顔を見る。
(旅人害悪説、か。此方からすれば、唐突に攫われた側なのだが、な)
 もとは旅人(ウォーカー)の行為に対する抗議団体として発足した『新世界』。
 ウォーカーであると同時に必然的にイレギュラーズでもあるせいで天義から特別扱いを受け、ローレットに至っては各国とギルド条約を介した特別措置がとられどの国も容易に手を出せない団体となりつつある昨今……確かにウォーカーが起こす被害が零だとは言い切れないだろう。だがしかし、旅人の存在が魔種のように世界を崩壊させているという説はあまりに乱暴だった。
 そして新世界は抗議団体の枠を大幅に逸脱し、大多数の幹部が地下へ潜り対旅人の暗殺集団へと変貌しているとも聞く。アドラステイア建設に初期から携わっていたとも。

 目的の村近く。
 ホウホウと遠くでふくろうが鳴く声を聞きながら、『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)は伸び放題となった茂みに身を伏せ隠れていた。
(アドラステイアの子達は戦災孤児……だから、親がいなくても兄弟がいる可能性は考えていたけど……)
 未だ手に残る、人を殺したという感触。
 そして、そうせざるをえなかったという記憶。
(謝罪も懺悔も出来る筈がない。理由の有無なんて、何の言い訳にも慰めにもならないだろうから。
 けど、だからって彼らが正しいなんて。旅人が悪いなんて認める訳にはいかない)
 深く息を吸い込んだ。
 土と草のにおいが、なぜだか彼女の心にぽっと小さく火を灯す。
「間違ってるのは貴方達だって……お兄ちゃんならそう信じる筈だから」
 彼女の隣では、『白い死神』白夜 希(p3p009099)が同じように身を伏せて様子をうかがっていた。
 さっき会ったときはダウナーな様子だったのに、今は目をぱっちりと開いて勇猛な雰囲気を思わせる。もしかしたらメルナと同じたぐいの人なのかもしれない……と、内心で思った。
「セルゲイ……あの人物は、子供なのに大人ね。旅人の小金井を斬らず剣も向けず我慢した。
 わざわざ攫わずに、道中で子供を殺すことだってできたはずなのに」
「…………」
 ハッとして振り返るメルナを、希はちらりとだけ見た。
「追いかけてきて欲しかったのかな。迷っている、のかな」
 それはさながら、背中を撃つことをためらった正純のそれと同じように。
 もしかしたら。

 冷たい風が木々の間を抜けていく。まるで、昨日なんて知らなかったみたいに。

●悲しさは、我慢できない傷なんだ
 強襲作戦はすぐさま行われたわけじゃない。
 相手の野営地が分かっていて今すぐ移動しないのであれば、攻め方を選ぶなり探るなりする余裕がある。
 瑠璃はじっと耳を澄ませ、その横では希がシャッフルしたタロットカードデッキから一枚ひいて裏返した。
「言葉ではなく行動で、旅人害悪説は間違ってると、理解して貰いたいけど……」
「話し合いで解決できない段階に至ってしまったのが、今なんだろう」
 一方で精霊に問いかけていたポテトが交信を終えて深呼吸をした。
「占いの結果は?」
「『予想外の事』『心を強くもて』。そっちは? 精霊は子供の場所を教えてくれた?」
 カードをぱたぱたと振ってみせる希。
「人間並みの知識を持ってる精霊が少なかったから十全ではないけど、子供がまだ生きてることは分かった。潜入したエクスマリアの確認待ちだな」
「みんな」
 ジェットパックによってゆっくりと降下してきたココロが、二人のやや後ろへと着地した。
「村の子供たちがこっちの存在に気づいたみたい。迎撃態勢に入ってる。エクスマリアは?」
「ここだ」
 茂みから音もなく現れると、手早く書いた略図をポテトたちに手渡した。
「子供の位置は把握した。ペネムは村中をばらばらに巡回しているようだから、遭遇はランダムだと考えろ。あとは、作戦通り行こう」
 ポテトたちは頷いて、村の様子を監視していたリゲルたちへと手を振った。
 了解とでも言うように音を立てて剣を抜き、その刀身を白銀に輝かせるリゲル。
「俺はローレット・イレギュラーズのリゲル=アークライト!
 アドラステイアの聖銃士鷹小隊よ。理由があろうとも、貴方達の悪魔的な所業に同調することは出来ない。その不正義、糺させて頂く」
 と同時に、メルナと正純も立ち上がった。ジャミングスキルをオンにしてテレパス通信を阻害すると、それぞれに剣と弓を構えた。
「出てきなさい、撃鉄の聖銃士!」
 声はどこまでも響くようで、誘われたように武装した子供たちが飛び出してくる。
 その光景を見て、改めて思うのだ。
 もはや引き返せぬのだ、と。
「行くよ、みんな!」
 戦士の表情をとったメルナが、蒼き炎をオーラのように剣に纏わせ、坂道を駆け下りていく。

●死刑囚のパラドクス
 誰よりも先に、誰よりも派手に村への強襲をかけたのはリゲルとポテトのコンビだった。
 毒を塗った矢を放つ少年兵たちの中を、衣より湧き上がる樹精の力で無理矢理に防ぎながら突き進むポテト。
 弓兵を一人体当たりによって転倒させると、それをリゲルが馬乗りになって押さえつけた。
「皆、先へ!」
 瑠璃とココロが先へ進もうとするが、それを阻むように木製の剣や槍で牽制しようと子供たちが集まってくる。
「出て行け、外来種!」
「俺がやっつけてやる!」
 むき出しの、ともすれば無邪気ですらある敵意がポテトたちへと向けられるも、リゲルは心を殺して剣一閃。
 ひらめく銀の流星が子供たちをまとめてなぎ払っていく。
 村への侵入を果たした瑠璃は、武器と呼ぶにも粗末すぎるものをもって家々から飛び出してきた少年少女へ向け『眩術紫雲』の忍術を行使した。
 虹の如く煌めく雲が広がり、子供たちを昏倒させていく。
 そこへ、武装したセルゲイ・ヨーフが駆けつけた。
「子供を巻き込んだことが不服ですか? セルゲイ、貴方は狙って子供を殺したでしょうに」
「あの子をどうするの? 最初の最初から教義を教え込んで、純粋思想のエリート戦士にでもするつもり?」
 セルゲイへ指を突きつけ、ココロはフォースオブウィルの術を発動させた。
 生成された真珠色の魔術弾が放たれ、衝撃を伴ってセルゲイへと迫る。
 セルゲイはそれを紙一重で回避すると、翼飾りのついた白銀の剣を抜刀。無数の残像が生まれるほどの素早さでココロたちを斬り付けた。
 が、圧倒するにはまだ浅い。
 家々の壁や草木の影から伸びた『闇』が鋭利な槍となってセルゲイへ襲いかかったからである。
「この影は……希!」
 振り返ったココロに小さく頷き、希はセルゲイへ指さすようにしながら歩み寄った。
 一歩大地を踏むたびに影がざわめき、複雑怪奇に折れ曲がる怪物の爪のごとくセルゲイを追い詰めにかかる。
 が、狙いは撃滅ではなく、追い詰めることにこそあった。
「今」
 囁くように出した合図に伴って、流星の如き矢がセルゲイの腕へと突き刺さる。
 その矢を無理矢理引き抜いて、セルゲイは握力でべきりとへし折った。
 素早く次の矢をつがえる正純と、セルゲイの目があう。
「『流星の弓使い』……やはり追ってきましたか」
「私は私の意思で、貴方の弟を殺しました。洗脳などされていない。貴方たちの醜悪な教義を否定するために、手にかけたのです!」
「洗脳された人はみなそう言うんですよ。けれどいいんです。弟は正義のために死んだ。私も、正義のためにあなたを倒すまで!」
 と、そこへ。
 猛烈な突進と共に斬撃をたたき込むメルナが現れた。
 咄嗟にかざしたセルゲイの剣とぶつかり、激しい火花が散る。
「弟を殺されて尚、恨みを抑えて正義に殉ずる貴方の心は本当に、凄いって思うよ。……”私”はね。
 それでも、”私”が生きている理由を、否定なんてさせない」
「あなたも外来種か。本当にあなたたちは、自分を正当化するのが上手だ!」
 声をかけたのは彼を説得しようとしたからではない。
 自らの意思の表明は、もちろん意図したことではあるが。
 それよりも。
「子供は確保した」
 がちゃりと扉をあけ、泣く赤子を抱えたエクスマリアが自らの頭髪でくるくると子供をくるんでいく。
 仲間達が派手に突入作戦をしかけ、ここは任せて先に行けとばかりに子供が囚われている家まで手を伸ばそうとしたのは、迂回しひっそりと家の裏から物質透過侵入を果たすエクスマリアから目を背けさせるためであった。
「目的は達した。撤収するぞ」
「――!」
 待ちなさい。と手を伸ばそうとするセルゲイへメルナがさらなる踏み込みを仕掛けていく。

 ポテトたちがわざわざ『ここは任せて先に行け』を繰り返したのはまた別のわけがある。
 子供を回収した味方が村を突破する際に、別の味方がガードするポイントをなぞるように経由するためでもあるのだ。
 そういう意味では作戦は順調に進んでいる。
 が、エクスマリアや希たちは油断しなかった。占いに出た『予想外の事態』を警戒したため。あるいは、まだ姿を見せていない聖獣ペネムの出現を。
「――!!」
 大きな獣が唸るような声を上げ、エクスマリアへ殴りかかる人型の聖獣ペネム。
 よもや子供を抱える自分をもろとも叩き潰そうとするとは……と内心思いながらもエクスマリアは赤子を庇って防御。
 その柔らかく小さな身体を傷つけることはなかったものの、エクスマリアは直撃を受けて近くの民家へと叩きつけられ、さらには壁を破壊して屋内のテーブルに激突した。
 ちらりと見ると、野営物資のコンテナに『スニーア商会』のロゴがあった。
「通りで聖獣のセンスがわるいわけ、だ」
 そのドサクサに紛れて駆けつけるセルゲイ。
 エクスマリアはビッと指を突きつけ、セルゲイに問いかけた。
「あえて言う、ぞ。この子供は『可愛そうだから、殺させん』。生温いと思うなら、まずその武器を魔種にでも向けてみろ。
 ファルマコンだかいう偶像の名で、弱者を殺すしか能のない正義を、語る前に」
「詭弁を! 穢れた血を絶やすためなら、それが弱者であっても関係はありません!」
「……どうやら、本心からそう思っているようだ、な。平行線だ」
 だが時間は稼げた。
 エクスマリアはそう言って、赤子をくるんだものごと放り投げた。
 ハッとして手を伸ばすセルゲイへ、青い炎のようなオーラを纏ったメルナが鋭いショルダータックルをあびせた。
 注意のそれたセルゲイを地面に押し倒すには充分だ。
 そして、放られた子供はポテトがぎゅっと抱きかかえ、仲間達のガードする帰投ポイント目指して走り出した。

「幼子は母親の元へ返してもらう。お前たちがどんな説を信じるかは自由だが、それを押し付け挙句の果てに愛し合っている夫婦を引き裂き、愛されている子供を殺そうとしたお前を許さない」
 子供を守りながら敵陣の中を駆け抜ける。その行為において、ポテトほど適任な人物はいなかった。
 ココロや瑠璃が戦うエリアへとやってきたところでココロは神気閃光を、瑠璃は幻法愛式を行使。
 虹のような光が周囲を暴れ回り、咄嗟に防御しようとするも暴風にさらされたハンカチのように吹き飛ばされる子供たちの中を、ポテトは身を低くして走り抜けることができた。
 が、常にそうであったわけではない。
「――」
 ヤツメウナギのような頭をぐじゅぐじゅといわせ、ペネムが民家の影より現れた。
 まるで小石でも拾うようにネコグルマを掴むと、ポテトめがけて放り投げ来る。間に割り込んだリゲルが剣を唸らせ、それを真っ二つに切断。
 すると粘液を二重螺旋の槍へと変えたペネムが飛びかかってきた。
 剣をぶつけ、ギリギリでガード。リゲルほどの耐久性をもってしても、ペネムの槍に無傷というわけにはいかないようだ。
 そこへ、メルナたちを振り切ってきたらしいセルゲイが追いついてくる。
「セルゲイ、あなたは子供が人生を自分で決める権利を奪うのよ。これが正義だと言い切れない事に気が付いて!」
「見ていますよ。貴方の悪を」
 構えるココロと瑠璃。
 だが暴れ回るペネムに対応しながらセルゲイの凶悪な連続攻撃に耐え抜くのは難しい。
 が、意外なことにセルゲイは彼らを無視してポテトの追跡を優先した。

 仲間に任せなんとかその場を切り抜けたポテトが、瑠璃が村の外に止めたという馬車までたどり着こうとしていた。
「ほんっと運が悪い。聖獣なら……いや、殺さない。でもさすがにその汚い顔なんとかしてよね」
 そこでは、馬車の存在に気づいたのかたまたま居合わせたのか、馬車を破壊しようとするペネムとなんとなくその事態を予想していた希が激しくぶつかり合っていた。
 そこへ加勢しようとするセルゲイ……の足下に、新たな矢が刺さる。
 振り向けば、正純が走りながら次々に矢を放っていた。
「来なさい、白銀の鷹。元より相容れぬのです、ここで撃ち落とす」
「あなたに、私の正義は堕とせない! ファーザースニーアに誓って!」
 飛来する矢を次々に切り落とすセルゲイ。
 が、そんな彼の背を希の放った二重螺旋の『闇』が貫いた。
「ぐっ……!?」
 馬に飛び乗り、その場から緊急離脱するポテト。
 一方で聖獣への対応を中断した希の肩を粘液の槍が貫いていく。
 倒れたセルゲイを足で踏みつけ、顔めがけて弓をひく正純。
「『撃鉄』のセルゲイ。あなたはここで――」
「名を」
 力なく腕をだらんと下げたセルゲイに、ぴたりと手を止める正純。
「名を、名乗ってください。『流星の弓使い』」
 どうすべきか。
 一瞬が無限に引き延ばされたように感じながら、正純はぽつりと。
「小金井正純」
「こがね、い……まさずみ……覚えました。必ず、この手で」
 ゆっくりと閉じていくまぶた。
 次の瞬間、吼える聖獣の声で我に返り、正純は素早くその場から飛び退いた。
 槍がすぐそばをかすっていく。
 肩を押さえた希が叫んだ。
「そいつに構ってる余裕なんかない。逃げるわよ!」
「……わかりました!」

 村の各所で乱戦状態になっていた仲間達はそれぞれに撤退。
 聖獣ペネムと瀕死のセルゲイを残して、戦いは幕を引いた。
 意外なことにというべきか、この戦いで死者はひとりも出なかったという。

成否

成功

MVP

白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

状態異常

なし

あとがき

 ――子供の奪還と保護に成功しました
 ――撃鉄の騎士セルゲイ・ヨーフの情報を獲得しました

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