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シナリオ詳細

子供たちはただ飢えない明日を待ち望む

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●孤児院の状況はまだ苦しいです
 ユルコフスクの町、五番街コチュソフ通りに、孤児院『朝日を待つ子らの家』は建っている。
 今日も蝋燭の灯りが点る中、孤児たちが眠りについた後の夜、休憩室でスタッフが紅茶を飲んでいた。今日は院長のパーヴェルも一緒に卓を囲んでいる。
「ふーっ、今日の仕事もこれで終わりね」
「ええ、無事に乗り切れてよかったわ」
「こうして仕事終わりに紅茶を飲むのが、一番の楽しみですな」
 抽出し尽くして薄くなった紅茶を飲みながら、ヴェーラとマルガリータが長く息を吐いた。いつもならそれだけだが、今日はパーヴェル神父が個人で持つ蒸留酒を、紅茶に数滴垂らしている。いつもより味わい深い香りに、三人ともが頬を緩めている。
「はい、神父様。子供たちも日に日に元気になってきました」
「食事は相変わらず一日一食、蕎麦の実の粥、卵のスープに牛乳だけですけれど……それでも、以前より量を増やせるようになったからよかったです」
 かつて寄付に訪れた旅人の力で、孤児たちを取り巻く状況は随分改善された。雌鶏と鶏草は毎日元気に卵を産み、毎日一個の卵を孤児たちに食べさせることが出来るようになっている。今まで週に一回しか買えなかった蕎麦の実も、二週に三回買えるようになった。
「……本当は、一日二食は食べさせてやりたいところですけどね」
「……やはり、資金難は脱せていないですか」
 しかしパーヴェルが力なく吐いた言葉に、ヴェーラが項垂れる。
 結局、この孤児院の最大の問題である資金難は、未だに三人の間に暗い影を落としていた。
 ヴェーラとマルガリータどころか、教会の後ろ盾があるはずのパーヴェル自身も、ぜいたくな暮らしは出来ていない。金を使えるようになったとは言っても微々たるもの、教会の助けなど相変わらず期待できない。
「光臨教会にも度々陳情を上げているのですが、相変わらず返事は貰えていません。まるで何かが邪魔をしているかのようです」
 パーヴェルが頭を振って、紅茶をぐっと飲みこむ。その瞳には、諦めの色が濃く浮かんでいた。
「……どうしましょう、ヴェーラ」
「このままでは、孤児たちより先に私たちの方が……」
 ヴェーラとマルガリータも、落胆しながら顔を見合わせる。
 休憩室を沈黙が包み込んで。
「……もう一度、彼らの力を借りられればいいのですが」
 パーヴェルがぽつりと、神に祈るように言葉を零した。

●この男性は不振がっているようです
「やあやあお歴々、今日もお日頃はいかがかな?」
 『ツンドラの大酒飲み』グリゴリー・ジェニーソヴィチ・カシモフは珍しく獅子の顔に笑みを浮かばせることなく、そう特異運命座標たちに告げた。
 口調こそいつものように軽妙だが、表情は愁いを帯びている。
 何かあったが故にこうして出てきたのであろうが、何かあったのか、と特異運命座標の一人が問いかけると、彼はゆるゆると頭を振った。
「お歴々の中で、『朝日を待つ子らの家』について、覚えている者はいるかな? ……そう、俺の故郷たるユルコフスクの町、五番街コチュソフ通りに建つあの孤児院だ。
 以前にお歴々に力を尽くしてもらって、まぁだいぶ状況は良くなったんだがね……資金難の問題は、未だに解決できていないらしい」
 そう話しながら、グリゴリーは眉間に指を押し当てる。曰く、孤児たちの食事事情は幾分改善され、建物の状況もよくなったのだが、如何せん資金面だけはどうにもなっていないとのこと。
 特異運命座標は首を傾げた。確か報告によれば、何人かの孤児が孤児院を卒業していったはず。孤児の人数が増えて首が回らなくなったのか、と誰かが問えば、グリゴリーは小さく首を振った。
「あぁ、いや、孤児の数が増えて回らなくなった、なんてわけじゃないんだ。受け入れ人数の上限はちゃんと定めているとも。食料事情もそれなりに改善された。だがそれ以外のところに、とかく金が回せられない。先般訪れた際に、グロムイコのお嬢さんが嘆いていてね」
 そう話しながら、彼は手にするショットグラスにウイスキーを注いで飲み干す。
 不思議だ。建物は修繕され、食糧事情も節約しながらではあるが改善し、孤児たちがいくらか元気になった。それでも日々金の節約をして、その日を乗り切るので精一杯。
 金が足りないのが継続している現状に、何か理由があるとしか思えない。
「不思議だろう? 子供たちの数は増えすぎてはいない。しかし金は相変わらず無い……何か、裏があるとは思わないかい?」
 彼の言葉に、特異運命座標の表情が硬くなった。確かに、おかしい。
 状況を把握した彼らを見ながら、グリゴリーが両手を広げた。
「だから、お歴々にはまたあの孤児院に赴いてほしいのだよ。アクショーネンコ神父には許可を取ってある。あの孤児院の窮状の原因を、探ってきてくれたまえ」
 曰く、グリゴリーの方で孤児院に顔を出し、パーヴェルに話を持ち掛けているとのこと。彼らは喜んで調査に協力してくれるだろう。
 頷いた特異運命座標に、グリゴリーはうっすら笑みを浮かべながら指を差し出した。
「教会が素気無く彼らの頼みを聞き入れていない、そういうシンプルな話ではないのではないか……俺はそう思えて仕方なくてね。何か、第三者の手が入っている予感がするんだ」
 その指で円を描きながら、グリゴリーは目を細めて、ダメ押しとばかりに問いかけた。
「なあ、お歴々はどう思う?」

NMコメント

 特異運命座標の皆様、こんにちは。
 屋守保英です。
 ユルコフスクの町のスラムに建つ孤児院依頼、第二弾。お待たせしました。

●目的
 ・孤児院『朝日を待つ子らの家』の資金難の原因を突き止める。

●場面
 グリゴリーの故郷、ユルコフスクの町五番街に位置する孤児院『朝日を待つ子らの家』です。
 孤児院は相変わらず困窮しています。子供たちの食事は相変わらず一日一回ですが、粥に使う蕎麦の実をちょっと増やし、卵のスープをメニューに加えられるようになりました。
 スタッフのヴェーラとマルガリータはいずれも30代の女性で、それぞれ熊と猫の獣人族です。院長のパーヴェル神父は60代後半の男性で、兎の獣人族です。
 前回の報告については、下記をご参照ください。お読みいただくと状況が飲み込みやすいかと思います。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3315

 それでは、皆さんの楽しいプレイングをお待ちしております。

  • 子供たちはただ飢えない明日を待ち望む完了
  • NM名屋守保英
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月26日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士

リプレイ

●零下
 ユルコフスクの町の冬は、長く厳しい。11月の下旬であるこの日には、既に雪が舞っていた。
 その町の冷え切った空気の中を、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はゆらゆら泳ぐ。
「この町の冬は……とても厳しいですの」
 彼女の言葉に頷きながら、『アルラ・テッラの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)も赤くなる自身の指先を見つめた。
「かつてのわたくしは、国を修める立場にあった。命の取り零しを是認した。多くを守るために、少数を切り捨てた……けれど今は、違う出来ることがある筈よ」
 かつては切り捨てた者を、今なら救えるはず。彼女はそう信じて、スラム街を進む。
 『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)も五番街の通りを進みながら、力なく頭を振った。
「まだ資金難は解決していなかったのか……」
「世界さんは、前回の案件にも参加していたんだったな?」
 彼の零した言葉に、『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)が声をかける。彼女に頷いて、世界は雪の降る曇天を見上げた。
「ああ。そういや確か、運営元の教会があまり関与したがらないとか何とか言ってたな」
 その言葉に、三名が沈鬱に目を細めた。子供たちは今日も苦しんでいることだろう。そのことを想うと、やりきれない。
「資金難の原因に第三者が介入しているなら、助成金の中抜きや買い付け辺りが怪しいかしら」
「嘆願が教会で握り潰されている可能性もあるかもしれませんの」
 エトが漏らせば、ノリアも頷いて言葉を継ぐ。『朝日を待つ子らの家』が近づく中、瑠璃がぐっと拳を突き上げた。
「何はともあれ、兎さんの願いなら叶えてあげるのが兎スキーの義務だゾ!」
「……パーヴェル神父は70手前の爺さんだぞ」
 彼女の迸る兎愛に、その愛が向けられる先の姿を知っている世界がため息をついた。

●氷水
 孤児院関係者と挨拶を済ませ、仕事に取り掛かる中、ノリアはパーヴェルの許可を得て子供たちを連れ出し、町のそばを流れる川にやってきていた。
 川べりに建つ炭焼き小屋の中で、ノリアが子供たちに声をかける。
「今から、皆さんに魔法を、おかけしますの」
「魔法?」
 首を傾げる子供たち。この世界には魔法らしい魔法が存在しない。現実味を感じられない彼らへと、ノリアがにっこり笑う。
「そう、ほんの少しだけの間ですけれど、魚のように、水を泳げる魔法」
 自分たちと同じくらいの年頃に見えるノリアの言葉に、彼らはますます首を傾げた。
「でも、この時期の川は冷たいよ?」
 獣人の子供が口を開く。今の時期の川は、身を切るように冷たい。泳ぐなど、酷な話だ。しかしノリアは首を振って笑う。
「大丈夫、この世界の魚なら、凍ってさえいなければ、寒くはないでしょう? とはいえ、続けて泳げるのは、10分程度のこと……それにわたしから、あんまり離れられませんけれど」
 そうして彼女は子供たちの手を引いて小屋を出た。川に入り、誘うように手を伸ばす。
 恐る恐る子供たちが川の水に手を付けると。
「あれ!? 冷たくない!」
「凄い! 泳ごう!」
 冷たいどころか温さすら感じることに驚き、すぐに服と靴を脱ぎ捨てた。泳いで、はしゃいで、水をかけあって。そして魔法が切れ始め、また冷たさを感じるようになったら、火を焚いた炭焼き小屋で休憩だ。
「楽しめたですの?」
「うん、すごかった!」
 初めての冬場の水遊びに、興奮で顔を赤らめる子供たち。その笑顔を見て自身も表情を緩めながら、ノリアが指を立てた。
「じゃあ、休憩している間、皆さんの最近のこと、たくさん聞かせてほしいですの。お返しにわたしから、遠い遠い海のお話、聞かせてあげますの」
 そうして彼女は語り出す。故郷の海の話、冒険してきた世界の話。お返しに、と子供たちが語り出す日常の話や楽しかった話を、ノリアは笑顔で聞いた。
「それでね、神父様がお歌を歌う時、大きくくしゃみをされてね……」
「おかしかったよね、あの時」
 話は神父やスタッフにも及ぶ。聞かれていたらきっと当人が恥ずかしがって止めるような話も、次々に飛び出した。
「それはおかしいですの。他に、大人の人には聞かれたくないお話、ありますの?」
 頃合いだ。ノリアがそれとなく水を向けると、一人。
「あ……」
「ボリス?」
 熊の獣人の少年が、不自然に視線を落としてモジモジし出した。彼に視線を向けると、ボリスと呼ばれた少年が顔を上げる。
「えっと、シスターや神父様には、内緒にしてるんだけど……」
 何かを話し出そうとするボリス。彼の言葉を制止して、ノリアは薄っすらと笑った。
「あとで、水の中でこっそり、聞かせてくださいですの」
 その後、再び泳ぎに出た時に、ボリスがノリアに耳打ちした内容は、こうだ。
 神父と大事な話をしに来た偉そうな大人が、部屋で何かをしているのを見た。

●冷涼
「うーん……」
 一方、教会内。休憩室でエトが最近の帳簿を前に、眉間に皺を寄せていた。そこに世界が、たくさんのノートを抱えて入ってくる。
「エト、ここ三年分の保管されていた帳簿を出してもらってきた」
「有り難う、見せてくださる?」
 彼の手から帳簿を受け取り、目を通すエト。と、孤児院の外に出ていた瑠璃が戻ってきた。
「聞き込みに行ってきたんだゾ! 光臨教会はカネコマどころか、十分潤っているそうだ!」
「助かるわ」
 嬉々として告げた彼女に礼を述べたエトが、ますます難しい顔になった。
「本当に、支給額の増額は無いのね。減額もないとは恐れ入るわ」
「はい……減らされていないのが幸いですが」
 彼女の言葉に、パーヴェルが力なく頭を振る。
 教会から入ってくる額は、状況の如何に関わらずこの三年間、常に一定だ。とても嘆願が通っているとは思えない。
「教会からの支給は、どういう形でされるのだ?」
 瑠璃がパーヴェルへ問いかけると、彼が長い耳を触りながら口を開いた。
「毎月1日に、私が一番街の光臨教会まで赴き、小切手の形で受け取っております。それを銀行に持参し、貨幣に換金いたします」
「その小切手は、今も手元に?」
「はい。お持ちいたしますね」
 彼の発言にエトが質問を重ねれば、頷いたパーヴェルが執務室から小切手をまとめたファイルを持ってくる。そこに記載されている額と、帳簿に記載された額に、差異はない。
「出金額の方は? 食材の費用とか……」
 次いでエトが問いかけたのは二人のシスターだ。マルガリータが胸に手を当て口を開く。
「買い出しは、私たちが市内の商店でやってて、教会に請求をするように言っています。商店に教会から金額が支払われて、それから請求書が回って来ます」
「ん……ちょっと待てよ」
 彼女の答えに、目を細めたのは世界だった。何か勘付いたようで、猫の女性へ顔を向ける。
「ということは、直接この孤児院から商店に、支払いをしているわけではないんだな?」
「はい……教会と、そういう形で取り決めましたので」
 次いで為された彼女の返答に、エトと世界の視線が交錯した。その情報を補完するように、瑠璃が口を開く。
「情報屋曰く、教会から回る請求書は教会の中で書いているそうなんだゾ」
 教会を経由して行われる請求。その請求書の出所。通らない嘆願。
 怪しい。
「パーヴェル、力添えをお願いしてもよろしいかしら?」
「え……ええ、私でよければ」
 椅子から立ち上がったエトがパーヴェルに声をかければ、彼がすぐさま頷いた。これは調査の必要がありそうだ。
 と、部屋を飛び出す前に瑠璃の手が上がる。
「あ、それとお出かけの前に、その兎耳を触らせてほしいぞ」
「ええっ? こ、こんなものでよろしければ……」
 彼女の言葉に困惑するも、パーヴェルは大人しく瑠璃に耳をもふらせたそうだ。

●寒風
 ところ変わって一番街。町の中心部に世界と瑠璃、ノリアの姿はあった。通りの交差点に面して建つ大きな教会を見ながら、世界が零す。
「あそこが、光臨教会か」
「確かに、豪華絢爛という言葉がピッタリですの」
 ノリアの言葉通り、教会の建物は随分華美で立派だった。世界も表情を険しくしながら言葉を発した。
「町人に聞いた限りでは、寄進に訪れる人も多いそうだ」
「僕も同じ話を聞いたんだゾ。町の中に孤児院をいくつか建てているそうだけれど、他も状況は『朝日を待つ子らの家』と大差ないらしいんだゾ……」
 瑠璃も悲しげな眼をしながら告げる。曰く、あの協会が経営する孤児院は他にもあるそうだが、どこも資金難に喘いでいるらしい。
「そのボリスって子が言っていた『偉そうな大人』ってのは、教会の関係者で間違いなさそうなんだな?」
 世界がノリアに目を向けると、彼女はこくりと頷いた。
「そうですの。服に孤児院に掲げられているのと同じマークがあったそうですの」
「教会の関係者が資金難の原因……ってことなんだな?」
 確認するように、瑠璃が口を開く。三人の視線が交錯する中、彼らに近づく女性が一人。
「どうやら、それで間違いないようよ」
「エト。どうだった、買い出し先の商店の様子は」
 それはエトだった。パーヴェルと一緒に市場に赴き、スタッフが買い出しに利用する店舗に聞き込みに行っていたのだ。そこで得た情報を書き留めたメモを見せながら、彼女が頷く。
「ビンゴよ。蕎麦の実も、牛乳も、市場の小売価格より請求書の額の方が高かった。教会相手だからと、幾分安く売っているはずだとも、店主は言っていたわ」
 その言葉に、四人の瞳が煌めいた。間違いない。
「どうする? 僕は今からでも乗り込めるけど」
「わたくしも行けるわ。これだけ証拠が揃っていれば……」
 瑠璃とエトが声を潜めて話す。今から乗り込んで犯人を捕縛することも出来よう。
 だが、世界は小さく頭を振った。
「一度、孤児院に報告に戻ろう。乗り込むのは下地を固めてからでも遅くない」
 その言葉に従い、特異運命座標は五番街に戻る。報告してから、決戦だ。

成否

成功

状態異常

なし

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