PandoraPartyProject

シナリオ詳細

満たされぬもの

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●満たされない渇望
 いつからかは忘れてしまった。でも記憶を辿ればずっといつも同じことを考えていた。物心ついた時から、渇きのようにずっと付きまとってきたこの感覚。

 ――自分はきっと、最初から間違っていた。

 欠けてしまったのならば埋めればいい。だが最初から”無い”ものならばどうすればいいのか?
 答えに辿り着くまで随分と長い時間がかかってしまった。だがそれも、解を得た今となっては些細なことだ。
 目を血走らせながら石の床へと一心に陣を刻んでいく男が一人。狂ったように、されどどこか満足そうな笑みを浮かべた。
 初めから”無い”ものは、”有る”ようにすればいいだけなのだから。

 ――でも、どうやって?

●理想という名の欲望
「理想というものは高すぎてもいけないよねぇ」
 『黄昏』アヴローラと名乗る境界案内人が、微笑みながら姿を現した。
「さて諸君。今回は随分とシンプルな内容だよ……ある術師を暗殺する。ただそれだけだねぇ」
 簡単だろう? と言外に告げる微笑みがどこか不気味に思えてしまう。
 そもそも開幕早々に人を暗殺してこい、などと突然言われても特異運命座標としては戸惑うしかない。
「まぁ突然こんなことを言われても困惑するだけだろうから説明しようか」
 曰く、対象はとある優秀な術師なのだが、この度完成させようとしている術が非常に危険な代物なので完成する前に研究資料諸共に消してしまえということである。
「おや、納得できないという顔をしているねぇ?」
 なら仕方ないねぇと、笑いながら話を続けるアヴローラ。
「皆も想像し、憧れくらい抱いたことはあるだろう? 自分じゃない自分。より一層上の自分に」
 例えばそれは力。例えばそれは美貌。もっと強くなりたい。もっと美しくなりたい。もっと、もっと、もっと……あの人みたいに。
 他人のが欲しい。自分のはいらない。なら取り替えてしまえばいい。奪えばいい。
「とまぁ、そんな感じでだね。己の欲望に歯止めが利かなくなった類だねぇ」
 そして溢れた欲望は際限なく、満たされることを知らずに終わりまで猛進するのだろう。それも周りを巻き込んで。
「最初から破綻するのであるならば、せめて被害が出る前に。ねぇ?」

NMコメント

 特異運命座標の皆様、こんにちは。外持雨です。
 今回はサクッとシンプルな依頼です。

●舞台
 ある街の郊外にある術師の家兼工房の地下。時間帯は深夜なのでできればお静かに。

●目標
 ・術師の暗殺。戦闘経験のない研究者タイプなので楽にやれます。
 ・研究資料の破棄。どうせなら証拠隠滅も兼ねて建物ごとファイアーする勢いで。

●術師
 幸か不幸か優秀すぎた男。今回開発しているのは奪取の術式。あれが欲しいこれが欲しいでいろんなパーツを集めて理想の自分を作ろうとしているけれども他人のだからこそ欲しがる人。ブレーキがないのなら発進する前に止めてしまえ。

  • 満たされぬもの完了
  • NM名外持雨
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月22日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
司馬・再遊戯(p3p009263)
母性 #とは

リプレイ


 とうに夜の帳が下り、草木も寝静まったほどの時刻。良い子ならばとっくに寝ているであろうが、生憎と今この場にそのような者はいない。
 周囲を照らすのはたった数個の古びた街灯のみ。それも郊外とあっては光源など無いと同じ。むしろぽつりぽつりと薄暗く照らされた地面が余計に寂寥感を募るだけでしかない。

「他人の力ですか、チート行為みたいな話ですね。私には到底理解できません」

 密かに呟いたのは司馬・再遊戯(p3p009263)。努力が伴わない成果に意味はなく、ただただ虚しいだけでしかないだろうにと考える彼女には、件の術者の思考がわからない。

「ほら、馬鹿と天才はなんとやらというだろう。高みを目指すことはよくても際限なく求めると碌なことにはならないといういい例だな」

 まったく、どうして天才にはこう馬鹿が多いのかね、と静かにため息をつく『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)に同意するかのように頷いたのは『アルラ・テッラの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)だ。
 彼女曰く、

「嘗て国を治めていたものとして断言するわ、理性なき才能程に恐ろしいものはない、とね」

 彼女の放つ言葉には上に立つものとしての風格が、底知れぬ重みがある。”嘗て”という彼女の過去に何があったかのか。しかしそれは今この場で語られるものではないのだろう。

「『足るを知る』ことは生きる上で重要だ。『隣の芝は青く見える』というその気持ちはわからなくもないが」

 羨ましい、満たされない。そんな想いはきっと誰しもが持っている、本来ならばとるに足らないもの。ただ今回は底が抜けていただけで。
 『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)はそっと目を瞑る。もう力をもって止める以外の方法はないと知りながらも、他に方法はないものかと考えてしまうのは、きっと彼の優しさが故なのだろう。

 闇の中、静かに言葉を交わす一行の元へと一匹の黒猫が忍び寄る。不自然なまでに人に慣れたような猫は予め偵察のためにエトが放っておいた使い魔だ。
 帰ってきた使い魔を抱きかかえると、猫の目で見たものをエトは淡々と報告する。

「付近の家は皆寝静まってるようね。周囲をうろつく人もいないわ。術師はわからないけれども家の中から気配がしたから中にいることには間違いなさそうね」

 だからあとはただ、行動に移すだけ。奪わねば満たされぬという執着を終わらせるために。


「よし、俺にいい案がある」

 世界が提案したのはまずは扉を叩いて相手が出てきたところを不意を突くという作戦。こんばんは、死ね! などとというシンプルながらも殺意の高い案。だがそこにエトは待ったをかける。

「そう上手くいくのかしら? わたくしなら気づかれないように侵入にしてそのまま仕留めるわね」

「まあ試してみる分には問題ないだろう。それにもし応えてくれるようならばせめて訳だけでも聞いてやりたい」 

 さらにはリゲルまでもが。三者各々の言い分の何が正解かはさておき。

「じゃあいきますね」

 ―――コン、コン、コン。

 このままでは埒が明かぬと再遊戯が扉を叩く。だが返事はおろか、何一つ反応は返ってこない。

「留守ですかね?」

「いやそんなことないはずよ」

 中から物音が聞こえたし誰かしらいる気配があったのだから留守のはずはない、とはエトの言。ならばただ相手が気づいてないだけか。

「よしわかった。プランBだ」

 出てこないのならこっちから行くまで。一歩踏み出すと扉を開け、無造作に中へと踏み込んでいく世界、そして彼に続く一行。
 一つ、また一つと静かにドアを開けては部屋を確認していく。

「次で最後の部屋だけど……」

 再遊戯が扉を開け放つと、そこにいたのはただひたすらにに床へと紋様を刻んでいく男。極度の集中がなせる技か、侵入者を気にする様子は欠片もない。風体からして間違いなく彼が今回の標的だろう。

「夜分遅くに失礼する。貴方は何故こんな真似をしているのだろうか?」

 ガリガリと石を削る音を上書きするようにリゲルが問いかける。
 この問いに意味などない。どのような答えであろうともこの後の結果は変わらない。だがせめて、理由だけでもというこの思いはきっと我儘なのだろう。それでも尋ねずにはいられないのはリゲル自身の性分だ。

「……見たことはあるか。届かぬ高みというものを」

 背を向けながらの返答は枯れた声。込められた感情は渇望か。

「努力をしても触れることすら叶わない頂点というものを」

 有無を言わさぬ決意と凄みに満ちた声。ただそれを聴くだけで説得などできないと悟るには十分すぎるほど。

「ですが貴方にも他人が羨むような才があるではないですか」

 それでもなおリゲルは言葉をかける。

「貴方が人を羨むように、貴方にも人に羨まれるような才能が。ですから貴方自身が自分を受け入れてあげられなくてはあまりに悲しい」

 しかし返されたのは明確な拒絶。

「他人の評価など知ったことではない。私が、私自身が足りぬと知っている。それだけが重要なのだ。あの高みに至らなければ意味などないのだ」

 振り返った男の目に宿るのは狂気と憤怒の炎。

「お前の言う悲しみは侮辱に他ならない。お前の言う”受け入れる”というのは諦めるということだ。そんなことできるはずあるまい」

 見ている世界が違うのだから、リゲルの言葉は一蹴されるだけでしかない。

「あの頂に手をかける。そのためならば何であろうと差し出そう。いかなる悪行にも手を染めよう」

 ――あの高みに手を届かせる。そのためならば人の道を外れることであろうとも厭わない。

「ならせめて誰かに迷惑をかける前に逝きなさいな」

 背後から一筋の光が男の胸を貫く。ぽっかりと空いた胸の穴。その向こう側にはいつの間に移動したのか、エトが立っていた。

「せめて為政者に取り入るなんてしていたら結末は違ったのかもしれないわね」

 だがそうはならなかった。”もしも”など起こりようがない。だからこそ男は倒れ伏して二度と動くことはない。滑稽なほどにあっけない終わりを迎える。

「それじゃあ終わらせましょうか。徹底的にね」

「ああ……そうだな」

 リゲルはほんの少しだけ目を瞑ると踵を返す。祈ったところで届くかどうかもわからないが、それでも祈らずにはいられない。憐憫は侮辱だと否定されても、自分自身を認められないという彼の生き方はあまりにも哀しすぎたから。


「思っていたより早かったな。リゲルだけならもっと時間はかかると思ったんだが」

「お二人がなんやかんやしてる間に目についた資料はあらかた集めておきました」

 部屋を出たところで待っていたのは世界と再遊戯。どうやら問答の最中に部屋を抜け出して家探ししていたらしい。
 二人の隣には紙の束に書物の山。難解な公式や文字や図形が描かれているが理解したところで碌なものではないことは確かだろう。

「こういうのは二度と悪用なんかできないようにするのが大事です。手っ取り早く燃やすのは良しとして……」

 紙はまだいい。だが石の床に刻まれた魔法陣はどうしたものかと悩む再遊戯。

「……よし、吹き飛ばすか」

 こんなこともあろうかと。持ってきておいてよかったと呟きながら精霊爆弾を乱暴に部屋の中へと放り込んでさっさと逃げだす世界、そしてなるほどと頷きながらも一緒に逃げる再遊戯。
 エトとリゲルも念のためにと資料へと火を放つと急いで二人の後を追う。
 家から離れて十分な距離をとったあたりで背後から聞こえる轟音に衝撃。真夜中であるというのに立ち昇る火柱が周囲を明るく照らしている。これほど派手に炎上しているようならば資料の欠片も残らないだろう。

「結局、どうしてあの人があそこまで他人の力を欲したのか理解できないままです……」

 赤く照らされた顔で思案する再遊戯。詰まる所考え方が根底から異なるのだからしかないとしか言いようがないのだが。

「理解する必要などないわ。でもそうね……可哀想ではあったわね」

 ――だから今は眠りなさい。再び目覚めるまで。魂が巡るまで。

 この炎がきっと邪念を払って満たされることのなかった魂を少しは癒してくれるだろうからと、目を伏せながら呟くエト。

 遠くから騒ぐ人の声が聞こえてくる。そろそろ野次馬なりがやってくる頃合いだろう。あまり長々とこの場に居座るのも得策ではないと、一行はそっと夜に紛れて消えていく。
 妄執は妄執のまま、すべては炎と灰の中に。

成否

成功

状態異常

なし

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