PandoraPartyProject

シナリオ詳細

血より出でて、血肉に帰すなり

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●ノーザンキングス
 鉄帝東北部に位置するヴィーザル地方には多くの少数民族が暮らし、長い歴史の中でそれぞれ固有の文化を築いていた。
 だがその一方で古代兵器の軍事利用に成功し軍事的な影響力を拡大していたゼシュテル鉄帝国は無数の部族を併合。その多くは軍事制圧や交渉と言う名の恫喝によって土地と権利を奪われたと……ハイエスタの民、エンダルは教わっていた。
 雷神の末裔を称する誇り高き高地部族ハイエスタ。
 彼らは狩猟と農耕に生き、鳥に歌い風とともに生きる穏やかな民族であったと語られている。
 それが戦火の中に飲まれたのは、ゼシュテルによる侵略もさることながら戦闘民族ノルダインによる圧迫も原因だと言われていた。いや、エンダルがそう教わったにすぎないのだが。
「ダル、それでわざわざ出稼ぎなんてしてるのかい」
 十人もはいれば一杯になるような酒場で、たき火を囲む男女の姿があった。出身地はバラバラで、種族も年齢も、そして身なりもバラバラだった。
 それでも火を囲み同じエールとハニーロールを口にするなら分け隔てはない。そんな場所だ。
 時折酒場には傭兵を求めたキャラバンがやってきて、ゼシュテル周辺の冷えた大地の共として金を稼ぐのが彼らの常である。
 そんな酒場に、見慣れぬ一団がやってきた。
 セーラー服に鋼の左腕。腰には刀をさげた敵機種の女。夜式・十七号 (p3p008363)である。
 小さい酒場だ。そしてこんな場所を行き来するキャラバンだってそう多くない。
 それになにより、彼女とその連れの格好がキャラバンのそれとはあまりにも違いすぎた。

「注目、されている、な」
 エクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)は十七号の横に立って、一応の警戒をはしらせていた。
 敵意……は、感じられない。
 だがいざとなればいつでも剣を抜くという視線や気配を、酒場の常連客もとい傭兵達は放っていた。
 ジョージ・キングマン (p3p007332)と日車・迅 (p3p007500)が二人を守るように前へ出て、腕組みや拳を鳴らす姿勢をとることで彼らのどこか攻撃的な視線に対抗する。
「連中がやる気なら、軽くもんでやっても構わないが?」
「必要でしたら、お供します」
「まあ、待て」
 十七号は小さく手をかざして、ジョージたちの間をわって前へ出た。
「ダルという男を捜している。ハイエスタの狩人、ダルだ」
「それなら、俺だ」
 耳が長く肌の白い、緑髪の男が角コップのエールを飲み干してからゆっくりと立ち上がった。
 未だ、彼の目から警戒は消えない。
 それどころか腰の短剣に手をかけさえしていた。
「そう身構えないでください。拙たちは敵じゃありません」
 身の丈よりも長いのではと思うほど大きな剣を背負った少女、橋場・ステラ (p3p008617)が両手を挙げて見せた。
 その後ろにやや隠れる形になった溝隠 瑠璃 (p3p009137)は、成り行きを見守るように個性的な形の杖をぎゅっと抱いている。
 シャノ・アラ・シタシディ (p3p008554)が、黒い翼を畳んで一歩前に出た。
「自、名、シャノ。仕事、届物……」
 視線を向けられ、それまで黙って静かに構えていたウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)がナップザックからひとつのペンダントを取り出した。
「これを、あなたに。持ち主から届けるように言われてきたんです」
 それは独特な赤さの宝石が内側に込められたペンダントだった。
 両目を大きく見開き、震える手でそれを受け取るダル。
 表面を撫でて刻まれた模様を確かめてから、仕掛けを操作してふたを開いた。
「ああ、母さん……」

 ハイエスタの、それもダルの部族にはある文化が伝わっている。
 『ボーン』と呼ばれるその文化は、家族に宝石を与え生涯それを守らせるというものである。
 この部族に生まれた子供は宝石の治めたブローチや指輪を贈られ、死するその時まで大事に身につけ、そしてあるときに限り、ある重大な意味を込めて他人に贈るのだ。
 その意味とは。
「『我が無念を晴らせ』、だ」
 ダルはペンダントを自らの首にかけ、土着の精霊へ祈るような仕草で印をきった。
「届けるように言われた、と言ったな。その人物は……母は、死んだのか」
「……ああ、死んだ」
 ペンダントを贈ることの意味を知らなかった十七号たちはしかし、ここへ来て隠す必要もなくなったとしてダルの言葉に肯定した。
 そして。
「私たちはあなたの母上を依頼人として、ノルダインよりの襲撃から村を守る依頼を受けて数日前に村へと向かった。
 しかし……」

 回想する十七号たち。セピア色の風景に色がつき、それは立ち上る黒煙から始まっていた。
 彼女たちは馬を走らせ村へと急ぐが、その途中大きな岩に寄りかかるようにして倒れた女性を発見した。
 女性はファエンと名乗った。十七号たちが引き受けた防衛依頼の依頼主の名である。
 彼女は血を吐きながら伝えた。
 予想していたよりもはるかに早く、ノルダインの略奪者たちは村へと入ったこと。
 村の者たちも抵抗したが、みな殺されたこと。
 冬に備えた食料も何もかもが奪われたこと。
 ブローチを息子のダルという男に届けて欲しいということ。

 そこまでを聞いたダルは、閉じていた目をうっすらと、そして怒りの炎が見えるほどの光をもって開いた。
「話は、分かった。あんたたちがブローチひとつの運搬に八人がかりだったのは、そういうことか」
「ああ、『そういうこと』だ」
 エクスマリアがホットミルクを息で冷ましながら返した。
 瑠璃が身を乗り出してくる。
「僕たち依頼をうけて集まったのに、仕事もなければ成功報酬もナシだなんてあんまりですしね!」
「仕事、在、受」
「拙たちに依頼したいことはありませんか。前金は受け取ってるんです。報酬分の仕事はしてみせますよ」
 つぶやくシャノを通訳するようにステラが頷いて言った。
 ダルの表情から、何を言うのかをもう分かっていたからだろう。
「村を」
 ため息のように言ってから、深く息を吸い込んで、ダルはあらためて力強く宣言した。
「村を取り返してくれ。憎きノルダインの略奪者には、死を。そして母と同胞たちには、正しき弔いを」
「かしこまりました」
 ウィズィはあえて仰々しく頭を下げると、『今すぐ行こう』と立ち上がってみせた。

●復讐は結実を生む
 所変わってここは問題の村。
 家のいくつかは火矢によるものだろう火災によって未だに煙をあげ、しったことではないという風に男達がたき火を囲んで飯にありついている。
 炭だらけになった家にはわずかながら人のシルエットが見えたが、それもまた炭と同化しきっていた。
 物資は奪い、邪魔者は殺し、死体は火をつけた家ごと燃やす。手慣れた略奪の作法だ。
「敵の数は……およそ15といったところか」
「殆どが戦闘経験のなさそうな連中です。数人ほど手練れがいそうですが……」
「問題ない。今の戦力で制圧できるだろう。油断さえしなければ」
 こっそりと茂みの間から様子をうかがっていたジョージと迅が、森に隠れていた仲間達のもとへと戻った。
 待機していた仲間達が、それぞれに武器をとる。
「それでは、始めようか」
 十七号が立ち上がり、なめした革の籠手でぎゅっと拳を握った。
 晴らすべき無念が、ある。

GMコメント

 大変お待たせしました。ご用命ありがとうございます。

■ここまでのあらすじ
 村の防衛依頼を受けてやってきたローレット・イレギュラーズ一行だったが先んじた戦闘民族ノルダインの略奪兵たちによって村は焼かれた後だった。
 遺品を届けるべく出稼ぎにでていたことでこの難を逃れた息子のもとを訪れた一行はそこで改めて依頼を受けることになる。
 今度は村の防衛ではない。取り返す依頼である。
 村を。
 無念を。
 失われた尊厳を。
 そして弔うべき魂を。
 そのすべてを取り返すのだ。

■シチュエーションデータ
 村はノルダインの戦士たちが占拠しています。
 数件の木造家屋と馬小屋がありますが、そのうち何件かは燃やされています。
 火はほとんど消えていますが、まだ略奪がおきてまもないためか煙があがっているようです。
 村は集落程度の規模で、周囲を森に囲まれています。

■エネミーデータ
 ノルダインの戦士たちは一応武装を解かないまま、住民を皆殺しにした廃村でキャンプをはっています。
 人数は15人前後とされ、その大半は戦闘能力の低い海賊崩れです。
 バイキング船を使ってヴィーザル地方をあちこち移動しては略奪を繰り返している連中のようです。
 武力で統率されているだけあって数人は手練れがいるようなので、それらを個別にタイマンに誘い込むのもお勧めの戦法になります。

■オマケの解説
・戦闘民族ノルダイン
 略奪を主とするヴィーザル地方の一大勢力。
 力強い戦士が多く、重鎧や土着の魔術による派手で暴力的な戦闘スタイルが主。

・高地部族ハイエスタ
 屈強な戦士を多く輩出する部族だがノルダインの圧力に押され気味な面も。

 ノルダインもハイエスタもノーザンキングス連合王国の同名部族だがこうした内乱も度々おきている模様。

  • 血より出でて、血肉に帰すなり完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月11日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)
魂の護り手
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士

リプレイ

●インフィニット・ホワイトアウト
 しんしんとふる雪と遠い山々。
 雪原にまっすぐ引かれたラインの先には、ゆっくりと進む馬車があった。
 革の窓をおろし、蝋燭の揺れる箱馬車の中にて目を瞑る『倶利伽羅剣』夜式・十七号(p3p008363)。
 ゆらめくオレンジ色の光が彼女の前髪をちらちらとゆらしているようだった。
(晴らすべき無念。弔うべき死者。そして、倒すべき者共。シンプルな依頼だ。だが、彼はーー)
 彼女にとって珍しく、と言うべきなのだろうか。十七号は他人の視点にたって考えてみた。
 里を離れ出稼ぎをする日々。雪深い土地で護衛業を営んでは酒場でたき火を囲んでエールをすする日々。
 いつか帰る日を想像しては家族から譲られたペンダントなど眺めたことだろう。
 だがそんな故郷がある日突然現れた来訪者によって消えたと知らされ、しかし今すぐ帰ることもできずにただチケットだけが渡される。
「余所者に報復を任せるのは、どういった気持ちなのだろう」
「…………」
 つぶやきに反応して、『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がぱちりと目を開けて彼女を見た。
 聞き流すことも出来たが、雪の馬車というのは静かで寂しいものだ。きっかけがあれば語りたいものである。
「本来なら、奪われる前に守り切るはずだった、が。こうなった以上は、仕方あるまい。奪われたものは、取り戻す」
「無念を晴らせと、そう遺されたなら、それを全うする。それが、彼の望みだろう」
 同意するように語る『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)。
 御者席で手綱をゆるく握って、小窓越しに会話へ加わる。
 毛皮で作られたコートと帽子を被りった防寒装備で、肩にかかる雪を払った。
「俺も、あまり正義も偽善も振りかざせる身ではない。
 今更、間に合わなくて済まないとも、頭を下げる意味もないしな」
 まるで消極的に振る舞っているが、彼の全身からは闘士と殺意がわき上がっているようにも見えた。義憤なのか、それとも彼なりの正義があるのか。
 時として正義と悪は同居するというが、これがもしかしたら……。
「分かっている。これは『託された報復』だ。だから必ず……」
「守るのでは無く、取り返す戦い、ですか」
 『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)から見て、理解できる感情なのだろうか。生まれ育った環境からすれば、共感できるのかもしれないし、逆に相容れない価値観なのかもしれない。いずれにせよ、今自分にできることがあるのは確かだ。
「喪われた命は返っては来ませんけれど、弔う事で新しい依頼者さんの気持ちを整理する事が出来れば、でしょうか」
 どう思いますか、ウィズィお姉ちゃん。
 そう呼びかけてみれば、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はいつも通りに割り切った表情をしていた。
「よく『復讐はむなしい』って言うけど、むなしさを感じること自体が必要な通過儀礼なのかもしれないよね。お葬式やお墓だって、言ってみればむなしいものだけど、必要だしね」
「尊厳ある弔い、ということか」
 エクスマリアの言葉に、『そうだよ親友』と顎をあげて返した。
「尊厳、か。……もしかしたら、私が一番大切にしているものかもしれないな」
 自分が死んだら誰かが報復をするんだろうか。
 それが尊厳ある弔いに、なるのだろうか。
「その理屈からすれば」
 きゅっと唇を引き結んでいた十七号が再び口を開いた。
「私たちの仕事は、さながら葬儀屋だな」

 彼女たちの馬車に続く形で、荷物を沢山積んだ同系の馬車があった。
 御者席についた『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)は、遠くにあがる黒い煙に目を細める。
 いかなる理由であがるものか、既に知っているからだ。
「まだあそこで野営しているんですかね。流石はノルダイン、豪胆ですね。まあこちらとしては大助かりですが!」
 好戦的に歯を見せる迅。
 『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)は馬車の革窓を巻き上げて、小窓から顔を突き出した。
 冷たい風に一瞬目細め、頬に感る冷気をぽっと灯った赤みではらった。
「あいも変わらずノルダインの連中は本当に野蛮だゾ!
 このような略奪行為、例えお天道様が許しても僕達が許さないゾ!
 何よりダルも含めた村の人達の無念を晴らすのだ!」
 翼を畳み、その様子を見つめていた『新たな可能性』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)。
 決して他人事ではないヴィーザルの出来事である。身分や出身が知られないようにと、シャノは特徴をできるだけ隠していた。
 いざ出陣! と叫んで拳を突き上げる瑠璃。
「敵は悪逆無道の略奪者。行うは無念を晴らす弔い合戦。
 さあ、思う存分に暴れるゾ!」
 馬車は煙のもとへと進んでいく。
 その先に待つものが何か、誰もが理解していた。

●カーム
 雪の溶けた村にたき火がひとつ。
 男達がそれを囲み、殺した山羊をさばいていた。
 誰がどれだけ肉をとるかで揉めていたらしく、最後は取っ組み合いになるほどだったが……。
 ドッという衝撃と共に一人の頭部が消えて無くなった。
 それが頭髪を大砲に変えてエネルギー弾を発射したエクスマリアによるものだと気づいた時には、既に彼女たちによる村への侵入は完了していた。
「攻撃は、この一発だけ、だ。マリアはここから、回復支援に移る」
 しゅるしゅると髪をほどくエクスマリアにビッと親指をたてて走り出すウィズィニャラァムとステラ。
「さあ、Step on it!! 取り戻すよ……尊厳を!」
 もはや身体になじんだ巨大テーブルナイフを槍のようにぐるぐると振り回し、咄嗟に手斧を取って立ち上がった戦士の武器をその腕ごと切り払った。
 血を吹いて回転しながら飛んでいく腕と斧。やがて周囲から別のノルダイン戦士達が現れ集まってくる。
「まだ村の連中が残ってやがったかァ?」
「そうは見えんがな」
 金髪に目つきの悪い男と大柄で熊の毛皮を一頭分被った巨漢がそれぞれ現れ、大柄な熊男がウィズィニャラァムめがけて突撃を仕掛けた。
 本来両手で扱うような大斧を片手で振り回し雄叫びを上げる男。
「お姉ちゃん!」
 ステラはその間に割り込んで剣を噛めた。
 『纏え』と唱えると剣に収められた赤石が輝き、アストラル体が渦を巻くように生成。黒く巨大な剣へと変わる。
 そんな剣による防御――をぶち抜くような直撃をうけ吹き飛ぶステラ。
 しかしそれを先読みしていたウィズィニャラァムが力強く巨大テーブルナイフを地面に突き立てて抑えると、その柱を『足場』として蹴り、ステラの豪快な跳び斬撃が巨漢へ浴びせられた。
 その一方。
「集まってきたな」
「私たちの出番、か」
 ジョージはネクタイをキュッと締め直し、十七号は革籠手越しに鋼の左腕をこんこんと叩いた。
「来るがいい、ノルダイン! 私達ローレット・イレギュラーズが相手になろうッ!
 ……それともなんだ? まさか音に聞こえし戦闘民族ノルダインが、尻尾を巻いて逃げ出すとでも?
 吼える龍のごとき声が集落じゅうに響き渡り、男達の目つきがかわった。
 だが彼女にばかり意識が集中するのもよろしくない。
「ご機嫌よう、賊ども。奪い尽くし、狩り尽くしたのなら、当然。自らが奪われ、狩られる側に回ることも覚悟の上だろうな?」
 ジョージもそれに続くように声を上げ、あまり戦闘練度の高くない集団へビッと二本指を突きつけた。
 敵集団をやんわりと分断し、そこから外れた集団へ瑠璃が襲いかかる。
「因果応報。自分達がやらかした事を悔やみながら死ね」
 毒を塗った鉄串を無数に投擲しノルダイン戦士たちへと浴びせていく。それを掻い潜った戦士の棍棒が直撃するも、得物を間にかませることで防御。吹き飛ばないようにかかとでこらえた。
「これしきの苦しみ…貴様等に蹂躙された人達の苦しみに比べたらまだまだだゾ?」
 そこへ援護射撃を行うシャノ。
「殺された、人達の、無念、だと思って。逃がさない、よ」
 『シャロウグレイヴ』の呪術を練り上げ、エクスマリアの影に隠れるようにしながらノルダイン戦士たちへ打ち込んでいく。
 瑠璃の浴びせた複合毒も相まって、戦士たちは胸を押さえて苦しみだし、次々に倒れていった。
 そんな中で、金髪の戦士が見事な剣を抜いてゆっくりと前に出てくる。
「お頭、こいつらただの兵隊じゃねえ」
「見りゃわかる」
 こきりと首をならし、シャノたちの顔ぶれを見る金髪。
「おぉ! お出ましですか! いや良かった、木っ端共を何匹潰しても誉れにはなりませんので!」
 迅はそれを迎え撃つように仲間達を下がらせると、得意の格闘姿勢をとってみせた。
「『鳳圏』の兵たる日車迅が、勇猛名高き『ノルダイン』の勇士に一騎討ちを所望します!」
「お? 一騎打ち。いいねぇ、乗ってやるぜ」
 ニィっと笑って剣を構える。
 上段から大胆に打ち下ろす姿勢だ。空いた手でクイクイと手招きをするので、迅は目をカッと見開いて突撃――した瞬間、横から鋭い投石が浴びせられ迅の側頭部を直撃した。
「グッ!?」
「ハッハァ、乗るわけねえよな」
 血を流し片目を瞑った迅に、笑いながら斬りかかる。コースは見事に首狙い――が、しかし。
 迅の片手が金髪男の剣をがしりと握って止めていた。
「そうでしょうね!」
 罠へ誘い込んだつもりが逆に誘い込まれた。金髪男がそう察し剣を手放そうとするも、それよりも早く迅の拳が金髪男の腹へとめり込んでいた。
 内部へ打ち込まれた気が爆発を起こし、連鎖的な衝撃が金髪男に死の舞踏を踊らせる。
 崩れ落ちた男を、周りの戦士達は驚いたように見つめていた。
 この集落に、これだけの戦力が咄嗟に送り込まれるなどと考えていなかったのだろう。
「それじゃあ、惨めにみっともなく苦しんで死んでくれ。これは復讐だからな、依頼者からはそう望まれてるのだゾ!」
 再び無数の毒串を抜いてゆらりと歩き出す瑠璃。
 何人かの戦士は『付き合ってられるか!』と叫んで海側へと走り出したが、ジョージが回り込むほうが早かった。
 一人を回し蹴りによって転倒させると、眼鏡を抑えて顔を見下ろした。
「一人も逃しはしない。貴様らも、そうしたのだろう?」
「ヒッ、殺さな――」
 次の瞬間には毒串が次々と突き刺さり、それを呪うようにシャノの呪術が打ち込まれていく。
 まるで、これまでのツケを払わせるかのような光景であった。
 一方でエクスマリアを倒して一点突破を狙った熊毛皮の大男。
 エクスマリアは『ふむ』と頷いて大男の斧をあえてよけなかったが、その際に握り込んだ手や絡みつけた髪から電気ショックを流し込んだ。
 思わぬ反撃に身体をのけぞらせる大男。
 抵抗力の弱った所に、十七号が脇を素早く駆け抜けた。
 抜刀。閃空孤月。
 かわそうと試みた大男だが、思わずがくりと膝を突いてしまった。
「――斬ったのが私で良かったな」
 背を向けた時にはもう一度の斬撃が走っており、大男の首は身体から外れて地面に落ちていた。
(これまで出会った人達との絆が光となり、最善の“これから”を導いてくれる……連理の一刀)
「‪──‬縁を断ち切る侵略者に、報いの一太刀を!」
 その一方では逃げだそうとする戦士たちを次々に斬り捨てていくウィズィニャラァムと飛ぶ斬撃を連発して戦士達にトドメをさしていくステラの姿があった。
 最後の一人を切り倒したところで、迅がその顔を確認する。
「これで、全員……ですか」
 依頼はこれで完了ということでしょうか。
 迅のそんな問いかけに、しかしステラたちは容易に頷けなかった。
 自分たちは望まれた報復を行い、そのために殺した。
 そういう意味では、引き金をうけて発射した弾丸とおなじだ。
 弾丸と違うのは、標的と射手に対して思うところがあるという所だろう。
 どう思うかは、もはや重複して語るまい。
「まずは、火を消しましょうか……」
 ステラは剣の戦闘モードを解いて鞘に収めると、水場を探して振り返った。

●サンタ・ムエルテ
 はじめに彼女たちが悩んだのは、遺体を燃やすべきか埋めるべきかであった。
 厳密な話、棺に入れて埋葬するのは死後復活するという信仰のもと行われているもので、『本当に復活するわけじゃないけど先祖代々そうしてきたから』と続けられているケースが殆どである。
 一方で火葬は死後病気の元とならないようにという合理的な判断で行われるケースと、そうすることで死後浄土へゆけるという信仰がベースになっているケースがあるらしいが、ハイエスタの民がどちらに寄っているかはわからなかった。
 そして分からなかったからこそ、合理性が求められるのだ。
「全、魂、安。再、縁、願也。其旅路、祝福」
「どうか安らかに眠ってほしいゾ」
 シャノや瑠璃たちは無残に殺された人々の遺体を一度巨大な気の囲いに集めて火にかけて燃やしきった上で、遺骨と灰を共同墓地らしき場所に埋めて簡単な碑を建てるという形をとった。
「このやり方で、よかったんでしょうか」
「さあ、な」
 ステラに言われて、エクスマリアは小さく首を振った。
 ホットミルクが飲みたい。そんな風につぶやいて。

 ジョージは村のあちこちを周り、遺品になりそうなものを集めていた。
 できるだけ多くを持ち帰り、ダルに受け渡すためである。
「金目の物はともかく、それ以外の物はほとんど燃えてしまったらしいな……」
「無いよりはずっといい。この場所を再び拓くかどうかも、彼ら次第だ」
 十七号は地面に落ちた人形のようなものを拾い上げたが、すぐに崩れて落ちてしまった。

 広い雪原に立つ、ウィズィニャラァム。
 振り返れば煙があがっている。
 弔いの煙だ。
「……また、人を殺しちゃったよ」
 どういうわけだろう。
 人が人の形をしたものを破壊することに、こんなにも罪悪感が湧くのは。
 それゆえだろうか。
 報復や正義や、時には狂気すらも用いて殺人を正当なものとするのは。
「ウィズィさん! そろそろ出発するそうです!」
 迅たちが手を振りながら呼びかけてくる。
 ウィズィニャラァムは手に握っていた、半分灰とかしたストラップを地面に捨てて歩き出した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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