PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<忘却の夢幻劇>琥珀盗人

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●記憶の琥珀
 私は誰なのか、それは琥珀だけが知っている。ただ私が私でないということだけを感じながら、私はこの世界を渡り歩いた。
 様々な街を見た。様々な秘境を見た。人には禁じられた知識を覚え、人には禁じられた景色を知った。
 それでも私が誰なのか、答えは無かった。
 なぜならば、私の記憶は奪われ、宝石として飾られてしまったのだから。
 いたかもしれない家族や友、恋人の声。あったかもしれない故郷の景色。私の怒りや喜び、そして涙を、<記憶盗み>は奪って一つの琥珀にした。
 『記憶を失った私』の最初の記憶には、<記憶盗み>が大粒の、卵程の大きさの澄んだ琥珀を持っている情景が残っている。彼女は愛おし気に琥珀を撫で、
「フレル、フレル、お前の思い出は、こんなにも深い色だったのか」
 そう笑い、霞のようにかき消えた。
 私の名はフレル。<記憶盗み>に琥珀と化した記憶を奪われ、世界を彷徨う羽目になった者。私が知っているのは、それだけだ。

 ラウアザンは夢想家の王が統べる繁栄の大都市である。地上では商人らが異国渡りの品を扱い、神殿からは祈りの歌と様々な香の匂いが風に乗って流れてくる。色鮮やかな硝子窓で飾られた尖塔が並ぶ白い王宮は、文字通り夢の中から現れたのかのよう。人々は混沌の中で生を謳歌し、それによってさらに都市は生き生きと輝く。
 そして、輝く王城の塔らがが大きく暗い影を落とすように、ラウアザンにも暗部がある。迷宮の如き地下には悪しき術師や詐欺師、盗賊等の陰に住まう者らが息づき、第二のラウアザンを作っている。地下湖にある<黒の城塞>は日陰者らの城であり、そこにはラウアザンの第二の王、<素早き指の君主>が住まう。
――そして、私は風の噂に聞いたのだ。ラウアザンの<素早き指の君主>の元には、えもいぬ色合いの、卵程の大きさの琥珀があると。
――<素早き指の君主>は、かつて<記憶盗み>という名の女からその琥珀を買い取ったのだ、と。

●琥珀を盗め
「――と、いうことだ。ざっくばらんにいえば、忍び込んで大きな琥珀を盗んで元の持ち主に渡して来い、という話だな。<記憶盗み>はここにはいないから気にしないでいい。これは一人の男性が記憶を――物理的な形ではあるが、取り戻すエピソードなのだから」
 『学者剣士』ビメイ・アストロラーブが開くはいつもの本。暗い革の装丁に、掠れた黄金の箔押しで文字が記された書物。題名は<忘却の夢幻劇>。開かれた頁には地下湖の中心に建つ暗い色の城塞を眺める壮年の男の姿。男の顔には苦悩によって作られたであろう皺が刻まれ、渇望するかのような瞳で城塞を見ている。
「手段は問わない。正面から押しかけて皆を薙ぎ倒し琥珀を奪取してもよい。こっそりと忍び込んで琥珀を奪取してもよい。大芝居を打ってハメてもいい。とにかく目的は琥珀を無事にフレルの元へ届けることだ」
 そうしてビメイは少しだけ笑う。
「盗賊から物を盗むなんて、面白い話だとは思わないか?」

NMコメント

●今回の舞台
 大都市ラウアザンの地下湖にある、日陰者達の都とその中心にある<黒の城塞>です。周囲は薄暗いですが、所々蝋燭で照らされています。人の行き来は多いですが、あまり目立ったことをすると日陰者らに目を付けられるでしょう。<黒の城塞>内部は明るく、絨毯やタペストリー、シャンデリア等で豪奢に飾られています。複雑な構造になっているため、何も情報が無い状態では迷うでしょう。

●目標
 <黒の城塞>内にある大粒の琥珀――フレルの記憶を盗み出すことです。手段は問いません。正面から強襲しても良し、忍び込んでも良し、一芝居打ってだまくらかすも良しです。琥珀は<黒の城塞>の一番奥、<素早き指の君主>の私室にあります。警備の荒くれ者らや護衛でもある侍女達がいるため、無策で向かった場合は確実に戦闘になるでしょう。

●登場人物達
 フレル:壮年の男です。青年期に<記憶盗み>に記憶を奪われ、自分の名以外を知らぬまま、各地を巡っていました。琥珀と化した己の記憶を取り戻すために様々な知識に触れ、そのため結果的に魔術師となりました。自分一人での<黒の城塞>への潜入は無理だという結論に達しており、<特異運命座標>達が手を貸すならば、出来る範囲でのサポート(人を眠らせる、幻覚を出す等)を惜しみなくするでしょう。

 <素早き指の君主>:中年の精悍な男です。この名は日陰者達のリーダーに代々継がれる称号であり、今の<君主>は二十年前、まだ若かった頃に先代を決闘で殺し、今の地位に付きました。剣の名手であり、直接倒すとなると厄介な相手です。

 <記憶盗み>:フレルから記憶を盗んだ女です。この物語には本人は出てきません。不可思議な術で人の記憶を宝石に変え盗み取る、謎の人物です。

●サンプルプレイング
 無策に突っ込むよりも忍び込んだほうがリスクは低い。城の内部の情報なら下働きが詳しいだろう。彼らを言いくるめたり袖の下を握らせて情報を買い取り、それを利用して移動する。<君主>との直接戦闘は避けたいから、酒に薬でも一服盛って眠らせよう。

 それでは、よい冒険を。

  • <忘却の夢幻劇>琥珀盗人完了
  • NM名蔭沢 菫
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月03日 22時01分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

驚堂院・エアル(p3p004898)
でうすのかけら
鍵守 葭ノ(p3p008472)
鍵の守り手
黎 冰星(p3p008546)
誰が何と言おうと赤ちゃん
飛燕(p3p009098)

リプレイ

●侵入
 <黒の城塞>から出てきた若い盗賊は、初めての成功に心を奪われていた。胸は興奮で膨れ、懐には金貨が踊る。
「もし、そこの方。一夜の夢は如何?」
 声をかけて来た商売女は、どのようにしてこのような日陰の世界に落ちて来たか、想像をたくましくさせるような高貴な美貌。落ちぶれていても全ては捨て去らぬと言いたげな高慢な様子が彼の心をくすぐる。どうにかして征服したい。うずうずと湧き上がる欲望と金の余裕が青年を動かした。
 彼は人気のない路地裏へと誘われるままに進んでいく。そして愛を交わそうと女の体に手を回そうとし……。

 それをじっと見ていた人影が二つ。人影は飛燕(p3p009098)と記憶なき魔術師のフレルであった。飛燕は気配を隠し青年の後を音もなく俊敏に追う。フレルはあらかじめ使っていた隠匿の呪文を纏いながら彼に続く。フレルの口元からは呪文が紡がれていた。
 飛燕にとって諜報活動は呼吸の如く慣れた物。故に、今回の依頼における最短距離の工程もまた、頭にすっと浮かんで来る。
――目的は琥珀の奪取。必要事項は三つ。情報収集と、ルートの確立、護衛と<君主>の無力化、か。
 故にフレルの手を借り、地図や人員の勤務時間が分かる書類の所在等を知っていそうな下働きを狙う。それが彼の作戦であった。
 
 抱こうとしていた女が突如掻き消え、青年は何かを叫ぼうとする。しかし、女の感触とは違う感覚に後ろから体を絞められ、息をのんだ。気が付けば魔の気配を感じさせる刃が己の首の側にあった。
「<城塞>の地図の在処は?」
 感情薄く問いかける気配の声に首を横に振る。混乱する盗賊に柔らかな声が続く。声の居場所は分からない。
「命までは取るつもりはありません。ただ、一つのことを聞かせてもらえれば、解放します」
 首と刃の距離が近づく。
「話さないなら――分かっているな」
 冷たい口調と恐怖で青年の頭は混濁した。頷き、己が知っていることを全て吐く。
 たわいない、と飛燕は呟いて青年を気絶させ、フレルのいる方角へとちらりと視線をやる。フレルは呪文を青年にかけ、これでしばらくは眠っているはずだ、と呟いた。

 <素早き指の君主>が住まう豪奢なる<黒の城塞>。その内部では様々な下働きがあくせくと動いており、いつの間にか混じっていた『夜光蝶』驚堂院・エアル(p3p004898)に気付く者はいなかった。侍女――メイドとしての空きを紹介してもらったエアルは、上手く紛れ込み、<城塞>奥へのルートを入手していた。
「見ない顔だけど、新入りが一体ここに何の用ですか」
 メモをちらりちらりと見ながら<城塞>の奥の通路へ。気取った様子の古参の侍女らが怪しんでエアルを見る。嫉妬と疑惑のない交ぜになった視線に臆せず、エアルは答えた。
「まあまあ、この新作ビールをのんで機嫌を直してくださいませ。サマービールを護衛と侍女の皆様、そして<君主>様に振舞えと料理長に命じられて来ましたので」
 見ればエアルの後ろにはフード姿の三人の盗賊と台車に乗せられた沢山のビールの樽。はて、そんな話はあったかどうか、と訝しむ侍女達であったが、エアルのメイド然とした立ち居振る舞いに納得。その上酒の魅力に抗えず、気を緩める。
「では、何か入っていたら問題なので、私達でまずは『毒見』を。その後、<君主>様に注ぐように。滅多にない名誉です。心して務めなさい」
 エアルはほんわりとした笑みを浮かべ、爽やかなサマービールを振舞って奥へと進む。フード姿の盗賊三人は頷いてまたビールを運んでいく。

 フード姿の盗賊は『パウダー・アクアの拳』黎 冰星(p3p008546)と侵入側に合流した飛燕、フレルであった。そして、冰星の懐にはリスと一緒に『鍵の守り手』鍵守 葭ノ(p3p008472)が小さな体を忍び込ませていた。
「あちらこちらを飛び回って聞こえてきた話じゃ、<君主>は件の琥珀を部屋の奥の硝子箱に飾っているらしいぜ! しっかし、琥珀、オレが持てる大きさかな。どんくれーだろ!」
 人気の少なくなった瞬間を見計らって、ひょいと顔を出し、台車を動かしている冰星とフレルに話しかける葭ノ。冰星は帰りのルートを忘れないように密やかに白墨で印をつけながら、頷く。
「こちらも、飛燕さんも同じ情報でした。どうやら<君主>とやらは、琥珀を自慢したくてしょうがないらしいですね。自分から盗める奴なんていない、という自信の現れかも知れません」
「琥珀は、卵程の大きさだ。葭ノ君が持つには……少しばかり、大きいかもしれないな」
 フレルは己の最初の記憶を必死に思い出しながら、告げる。
「ふーん? まあ、でも持てないってことはないな! そんじゃあ扉も見えて来たし、おじゃまします、とするか!」
 ひょい、とリスの側にまた潜り込む葭ノであった。

●琥珀を奪え
 気を引き締めながら城塞の最奥の部屋へとついた一行。
「サマービール、お届けに参りました」
 エアルが言えば、急な酒の話を聞いていた門の前の護衛は酒を早く振舞え、と言わんばかりの様子でじっと見て来る。エアルはふんわりとした笑みを浮かべ、後ろのフード姿の三人が注いで渡す。酒精を思う存分楽しんだ護衛らは、
「通れ」
 そう言い、扉を開いた。
 ぎい、と黒檀に彫刻を施した扉が開かれれば、中は数えきれないほどの絹布のカーテンが壁にかかり、床には色鮮やかな毛皮や絨毯が敷かれ、それらを燃やさぬよう魔法の火が様々な場所で灯る、贅を尽くした部屋。無造作に床に広がる財宝を見下ろすが如く、部屋の最奥には硝子張りの飾り棚があり――手に入れるべき琥珀が静かな光を反射している。琥珀の中でも珍しい深い赤を湛え、それが上部に行くにしたがって明るい色へと変わっている。
「鍵精霊、鍵守葭ノの本業の見せ所だぜ」
 こっそりと冰星の服から飛び出し、葭ノは部屋の鍵を静かに内からかける。これで内部に人は入れないだろう、というのが葭ノの考えであった。

 当代の<素早き指の君主>は精悍な体を部屋中央の玉座に持たれかけさせ、いきなり来た酒樽の群れを興味深く見ていた。品のいい衣装は地上で貴族の一人だと言ってもおかしくない様子であるが、鋭い目つきは堅気の物と言うにはあまりにも剣呑であった。
――中々の使い手か。正面突破は厳しいか。
 フードの下で相手の力量をはかる飛燕。<君主>はちらりと一行を見、少し面白がるかのように何かを告げようとして――。
 刹那、冰星がフレルに合図をする。フレルは素早く手指を動かし、何事かを唱える。
 ぐらりと<君主>の体が揺れる。周囲の護衛や侍女らもぐったりと倒れる。
「段取り通りにありがとうございます、フレルさん!」
 冰星は言う。入ったと同時にフレルに眠りの術をかけさせるというのが冰星の案であった。
「眠りの技をこの人数に持たせるのは、厳しい! 早く済ませてくれ!」
 応えるフレル。その一方で<君主>は朦朧とした意識を振りほどくかのように己の剣を取り、叫び、配下に戦うよう命令するが、起きているのは彼だけであった。
「眠い頭で、何が出来る?」
 <君主>を挑発する飛燕に、彼は笑う。
「貴様を斬るくらいは出来よう」
 二人は斬り合い始める。常人には避けられぬような鋭い刃の応酬で。
 飛燕の側に刃が迫る。迫ってくる刃は段々鋭さを増し、<君主>が眠りを跳ねのけつつあるのが分かった。厳しいな、と次の案へと意識を伸ばした瞬間。
「まあまあ、これ食らってオチツケ」
 放たれたのはピューピルシール。<君主>が行動を束縛されたかのように崩れ落ちる。後ろを見れば、夜会服の裾をちょっと持ち上げたエアルが、ふんわりとした笑みを浮かべていた。飛燕は表情一つ動かさずに<君主>を無力化させ、図面の齟齬からあらかじめ目星をつけていた隠し通路を探り、こっちだという風に手で招く。

「今のうちに……!」
「了解りょうかーい!!」
 素早く冰星は奥の硝子棚に飛びつき、無理やり硝子を破壊する。そして空いた隙間から葭ノが忍び込み、琥珀に半ば抱き着くような形で奪い出す。
「さっさとずらかるぜ! とか言っちゃったりして」
 へへ、と悪戯っぽく笑う冰星の胸元に、葭ノと琥珀が転がり込む。
 さっさとしろ、と言いたげな飛燕の先導の元、一行は隠し通路から遠回りをし、冰星のつけた印を辿って、騒ぎ始めた<城塞>を密やかに脱出するのであった。

●戻った記憶
 地上はまだ薄暗く、夜明け前。首尾よく戻ってきた一同はラウアザンの外で琥珀を見ていた。
「で、フレルサン、取ってきたこの琥珀、どうやったら記憶に戻るのですか?」
 問うエアル。額につけるとか? と手で示してみる。
 フレルは首を横に振り、琥珀を手にし、呪文を唱える。瞬時に琥珀は柔らかな光と化し、フレルに溶け込む。一気に流れ込んできた記憶の衝撃にフレルは崩れ落ちる。
 心配する者、警戒する者。三名の視線を受けたフレルはゆっくりと体を起こし、僅かな涙をこぼす。
「……己が何者か、分かった」
「よかったじゃねえか! なんで、そんな、複雑な顔をしているんだい?」
 顔を覗き込んできた葭ノにフレルは何も言わず、じっとラウアザンの王城のある方を見ていたが、やがてゆっくりと口を開く。
「どうやら、私は、ラウアザンの王子だったらしい。確かに同じ名だとは思ったが、今いる王と己が同一人物だとは、誰も思わないだろう」
 それを疎った何者かが記憶を盗ませたのか、それともただの気まぐれで盗まれたのか。知らぬ土地に一人放り出され。なり変わられ。記憶を取り戻した場所で、喪なった物を見せつけられる。
「今となっては、どうしようもないことかもしれないが……運命の残酷さに、苦笑いしている所だ。だが……この苦さも、私にとっては、喜ばしいもの。……ありがとう」
 フレルは一礼する。生まれながらの貴人の優雅さと、放浪から帰還した者の威厳を漂わせて。

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM