シナリオ詳細
氷城の鎮魂曲
オープニング
●凍える森の歌
その世界は凍りついた世界だった。
暗い夜、猛威が衰える様子のない吹雪が荒れ狂う。辺りは森……けれどこの吹雪でつもりに積もった雪で、その森も木のてっぺんまで埋まるほど積もっていた頃もあった。
ここは一度特異運命座標によって救われた氷の世界。
女王ネーヴェは目覚め力を制御し、この大聖堂を中心とした『冬』は長い月日をかけて漸く和らいでいた。
「私の力不足故に……多くの民の身を滅ぼしてしまいました」
「だがネーヴェ、君はちゃんと力を制御出来るようになった。民も無駄死にせずに済んだのだ」
「それは楽観視し過ぎです。これは最早罪です……民の命を守れないどころか奪ってしまう女王なんて……」
「ネーヴェ……」
目覚めた女王ネーヴェは罪の意識に苛まれ自分への罰をどうしたものかと悩んでいた。消滅を望んだがずっと傍に居てくれたシェーンがそれを許さなかったのだ。
「……なれば、鎮魂歌を歌うのは如何か。民の為に鎮魂の祭りを開くのだ、丁度あと少しで10月31日」
「死者を鎮魂する日……なるほど。……わかりました、開催致しましょう。しかし……どのようなものにしたらいい? 騒がしいのは鎮魂に向いているとは私は思えないのです」
「ふむ……賑やかな鎮魂祭もまま聞くが、この世界の女王はネーヴェ、君だ。君の意見に従おう。それで、だな」
騒がしくない鎮魂祭……ここは大聖堂だ、死者に祈りを捧げるのもまた祭りの一つ。この世界の祭りはそれで良いのではないだろうか?
「折角の大きな催し……あの奇跡の勇者にも来て欲しかった」
「奇跡の勇者……確か、特異運命座標と言いましたか。ではちょっとした仕掛けを用意しようと思います」
「仕掛け?」
首を傾げるシェーンに対して、ネーヴェはふふりと静かに笑った。
(何も死者はこの世界だけではない……特異運命座標達にも想う人はいるでしょう)
●
「以前紹介した世界からお祭りのご案内だよ」
祭り? と、特異運命座標たる君達は『ホライゾンシーカー』カストル・ジェミニの言葉に首を傾げる。
「うん、死者を鎮魂する祭り……鎮魂祭だね。君達はそこに招待されたんだ」
詳細を聞けば、その祭りは以前女王が力を制御出来ずに葬った民の為の鎮魂祭らしい。静かなるもので、主に祈りを捧げるのみ許されるようだ。
「けど女王様は特異運命座標にだけ特別な仕掛けを用意したみたい。どんな仕掛けなのかな?」
それは行ってみてからのお楽しみ、らしい。
「さぁ、これからその世界に転送するよ!」
静かな祭りだけど楽しんできてね! とカストルは特異運命座標をその世界へ送り込んだ。
- 氷城の鎮魂曲完了
- NM名月熾
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月31日 22時10分
- 参加人数4/4人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
特異運命座標達は世界に降り立つ。
広がるのは美しい雪の世界……そして、目の前には巨大な大聖堂が聳え立っていた。
●
「厳かな空気は嫌いじゃない」
そうポツリと呟いたのは『聖女の小鳥』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)。
彼は一歩ずつ献花台に向かう階段を上り……巨大鏡にカツッとその足を一歩踏み入れた時だった。
「フィル……」
巨大鏡に映ったのは……ベルナルドがよく知る人物だった。
亡き友人フィル・マクリーン。同じ師の元で修行をしていた画家で、太陽のように明るい男。
(俺なんかが同期でやり辛かったかもしれないが、顔に出さずにひたすら気さくに……死の病を患っている事すら隠して、生きた証を世に残そうと命を燃やして描いていた男……)
ベルナルドは巨大鏡を見下ろしながら思考を巡らせる。
彼の訃報を俺が知ったのは、冤罪で囚われた獄中。
特異運命座標になった後も、ベルナルドは身勝手に筆を折ったまま……彼を顧みる事もしなかったらしい。
「今更どのツラ下げて向き合う資格があるかと悩んできたが、祭りへの招待を知った時、向き合うなら今だと思ってな」
特異運命座標ってのは不思議なもんだ。
どう考えても覆せないような状況でも、諦めずに立ち向かう奴ばっかでさ。俺もそういうところに感化されちまったのかもしれねぇ。
ハハと乾いた笑いを浮かべながらベルナルドは彼の顔をじっと見る。
「なぁフィル。お前はあの世でも絵を描き続けてるのか?」
俺といた頃のお前の作品は、赤とか黄色とか……暖色系のあったかそうな絵が多かった癖に、時折陰りのようなものがあるように見えていたよ。
今思えばそれは、間近に迫る死への恐怖だったのかもしれねぇが……安らかに眠った後は、その翳りが消えいればいいな。
ベルナルドは祈る。最も大切な友人を思い……彼がまた絵筆を握る人生に転生するかは分からないけれど。
……けれど、安らかな場所へ降り立てるようにようにと。
(俺はこれからも、死ぬまで絵を描き続ける。フィルが描けなかった分まで、筆に魂を込めて)
ベルナルドの決意の祈りは巨大鏡へ流れ、心做しか鏡に映る彼……フィルもその表情を柔らかくさせたような気がした。
●
「……あのー、すみません。この巨大鏡、自分の姿以外何も映らないんですけど」
『えっ?!』
そうネーヴェとシェーンに苦笑気味に声をかけたのは『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)だった。そんな世界に二人は慌てて駆け寄る。せっかく特異運命座標の為に用意した仕掛けが……どうして彼に反応しないのか。結局原因がわからなかった。
「いや、まあ大切な人の死なんてコレぽっちも経験したこと無いからだろうけどさ!
地球にいた頃も親は健在だったし……爺さんは死んでるけど疎遠だし。混沌でも親しい人の死とか全然経験してないからな」
もしかしなくても俺の人生って薄っぺらい? と言う世界からの問いに二人はなんとも言えぬ表情を浮かべるしかない。二人にとってもこんな事は初めてで予想外だったのだ。
「ま、何も映らないなら仕方ないね。……という訳で時間も余っちゃったし、二人の話を聞きたいかな!」
「わ、私達の……ですか?」
「そ、二人の」
いやほら、何か憂鬱そうな顔してるみたいだし、話せば少しは気分も紛れるだろ。
それは世界なりの気遣い……と言う事だろう。二人は巨大鏡の不調もあり、世界と話をする事に決めた。
「なるほどね、大体の話を聞かせてもらった」
この世界であった事を二人からザックリとだが聞いた世界は
「さっそく結論を言わせてもらうとやっぱり消滅なんて望まずに地道にコツコツ民の為になることをやるしかないんじゃないかな。罪を清算するならいい行いをするのが一番わかりやすいだろ」
「そうでしょうか……」
「そうだよ。大体死んだところで喜ぶ奴がいたとしても得する奴は一人もいないしな。この世界の女王なら……民の為ってんなら、安易に消えて責任逃れなんてせずに人の役に立ってみせるんだな。それが上に立つ者の務めだ」
「……なる、ほど。……あなたの言葉も確かに……理解出来ます。責任逃れをするつもりは毛頭ありませんでしたが……そうですね、上に立つ者として、選択すべきものではない……でしょう」
真剣に鵜呑みにするネーヴェに世界は少し予想外の様子を見せて。
「……とまあ語っちゃったわけだが部外者の的外れな指摘だ、無視してくれていいんだぜ」
そうだ、部外者の言葉なのだ結局は。だがネーヴェは頬笑みを浮かべて
「私は未熟な女王、故にあなたの考え方……感銘を受けました。以後、見習わさせて頂きますね」
「はぁ……女王様も素直なお方で」
でもまぁ、こういう女王だからこそ慕う者も居るのだろうと、世界は少し険しい表情のシェーンをちらりと見ながら思っていた。
●
「五年……六年前でしょうか。嫁いでから幾ばくを過ごした森を思い出します。腰まで積もる高さの雪も……久方ぶりに見ました」
そう呟きながら大聖堂に入り、巨大鏡まで静かにゆっくりと歩いてきた『邪妖精斬り』月錆 牧(p3p008765)が祈る相手は……その若さで失っていた夫だった。
ずっと信じてきた大切な人……彼の顔をまたこの巨大鏡を通して見る事が出来るなんて……牧はこの時まで信じられずにいたが。
でも、それでもだ。彼女の目の前には……あの、大切な大切な彼の姿が映っていた。
「お久しぶりです。貴方が居なくなって四ヶ月になりますか。早いものですね」
ご存じないでしょうが、私はあれから得意運命座標になりました。
何を言ってるかわからないでしょうね。つまりは自分の力で運命を導く力を手に入れたのです。手に入れた、と断言するのは早計でしょうか。まだ力の使い方はよくわからないのです。
牧は淡々と彼に報告するように言葉にする。それでも彼女の表情は穏やかな微笑みを浮かべて。
濁流に呑まれ小舟のようにひっくり返ってしまった運命。彼を支えてきてくれた大切だった人達が刃を向け裏切りを見たその日から。頭の中で歪な音がずっと反響して鳴り止まずに彼女は苦しんでいる。
きっと今も、ずっと。ずっと。
「ふふ、そのような顔をまたなさるのですね。額に皺を作った難しい顔を」
巨大鏡に映る彼を見て、彼が額に皺を作って難しい顔ばかり浮かべていたのを思い出して、牧は小さくくすりと笑った。
「……もう一人ではありません、共に戦う仲間は大勢おります。……貴方がそうなさったように、私もよく考え、よく見て先を決めます」
だからそこから見守ってくださいね。
牧の静かな祈りは巨大鏡へ流れ、その意志を強固へ育てる。
大丈夫、雪はすべてを覆い隠してくれます。
後悔も、恨みつらみも。女王様のために私も祈りましょう。
何も不安はありません。何も顧みる必要はありません。
そう、だいじょうぶです、春が来るまでは。
脆い心なんていらないと
最初から孤独でありたかったと願っていた彼女は
一歩でも多く……その道を歩き出せる事が出来るようになれただろうか。
●
「もう、死んだ奴は多すぎて数えられんな。気のいい奴も、いなくなって大事さに気付く奴もいる」
『銀河の旅人』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はネーヴェやシェーンを横目に巨大鏡へ向かう。
「おれは一人生き残って、死んだと思ったがまだ生きていて。英雄稼業なんぞやっているよ。懐かしいなあ、星々を駆け巡って恋と冒険と荒事に明け暮れた日々。まあ……今も似たようなもんだが」
そんな人生もまぁ悪くねぇってもんよ。ヤツェクはケラケラと陽気に笑い。
「……一番愛した女の名前はここじゃあ恥ずかしくて言えんが、結局鏡は写しちまうんだろう。心に嘘は付けないってもんだ」
心根のまっすぐで、清らかなひとだった。決して美しくはないが、誇り高いひとだった。そう語るヤツェクは巨大鏡に足をつける。
「……そう、そうだ。こう、髪は黒く、肌は病的なまでに白く──ま、実際、彼女は病人だった」
巨大鏡に映るヤツェクの祈り人は最愛の女性。
「それでも、生きた。もし会えたなら、ただ、鏡越しでもいい。彼女に触れたい。ああ、おれは……笑ってしまうほどに、ロマンチストだなあ!」
だがこんなロマンチストになってしまう程、愛していた女性だったのだ。
きっとヤツェクはこれからも……彼女の事を思い続けるのだろう。
彼女が生きていた歴史を忘れない為に。
「ま、それはそれとして、だ。女王様は生真面目なこった。自分を罰しすぎても何の救いにもならんというのに」
少々しんみりしていたヤツェクは気を取り直してネーヴェへそう声をかける。
「図々しく前向きに生きるのも大事なことだ──無論、やりすぎはいけないが。だから鎮魂祭は──これで彼女の罪悪感が晴れるなら、いいことだ」
ま、おれで良ければ鎮魂祭の間、女王の話し相手になろうか。正しくは、聞き相手か。吐き出したいことを受け止める相手は必要だ。
「……図々しく……前向きに、ですか……」
ネーヴェの呟きにヤツェクはにぃと笑顔を見せる。
「生憎おれはお節介でね。流れ者にのみ語ることが出来ることもあるだろう?」
「ふ、奇跡の勇者……いえ、特異運命座標なる方々の言葉は身に染み入るものばかりですね」
……そうだ。女王である私が後ろ向きであっては民を導く事など出来ない。先代女王からもそれはきつく言われていた言葉だったと言うのに。
「あなた方の言葉で……導きを得ました。感謝致します」
「おうよ。そして、共に死者に祈ろう。顔も知らない奴らだが、確かに生きていたのだから」
「はい、我が誇り高き民の為に……」
ネーヴェは祈りの歌をそっと囁く。
暴走した自分の為に祈りを捧げてくれた彼の者の為に……今度は自身の祈りを捧げる。
彼らがまた、この世界へ転生し……彼らと共に世界を築く為に。
祈り 祈る
願い 願う
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
月熾です。
お久しぶりのライブノベルになります。
●世界説明
元は凍てついた森の世界でしたが、女王ネーヴェの力の制御が実現した事によって雪が少し積もった程度の冬の世界へと変化を遂げました。
今回は凍てついた森で命を落とした民を鎮魂すると言ったお話になります。
※PL情報
『仕掛け』について。
ネーヴェの言う仕掛けは特異運命座標が大切に思う『死者』が献花台の床にある巨大鏡に映るというもの。
それはご自分のみ認識出来ますが、合わせの場合二人で強く祈った等の理由で認識出来るかもしれません。
こちらの巨大鏡に映る方への思いをプレイングに書いて頂けたならと思います。
前提ライブノベル「凍てついた慈しみ」がありますが、読まなくても楽しめるものとなっていると思います。
●目標
鎮魂祭を楽しむ
●他に出来る事
祈る相手がいなければネーヴェ、シェーンが御相手致します。
お困りの際は是非お声がけ下さい。
●NPC
女王ネーヴェ
この世界の氷の女王。若々しく美しい見た目だが、千年をゆうに生きている。これでもまだ力を制御を出来るようになったばかりの新米女王。
シェーン
この大聖堂の大司教を務める男。元は人間だったが、ネーヴェへ長きに渡り強く祈りを捧げたせいか、長寿種のような生命力を得てしまった模様。
●サンプルプレイング
【祈りを捧げる死者】父
【思い】
親父には最後の最後まで素直になれなくて、感謝の言葉すら言えずに居たんだ。
けどよ、女王さんのこの仕掛けに肖って祈ってみるのも親孝行になるかね?
【鎮魂祭への思い】
この世界の女王さんは慈悲深いって言うかなんて言うか。自分の罪を認められるのも根性あると思うぜ!
俺もこの世界の支社に祈ってやろうじゃねーの!
生まれ変わったら会えるといいな!
それではご参加、お待ちしております。
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