PandoraPartyProject

シナリオ詳細

荒れ寺でかっぱ相撲

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 風鈴寺の講堂を建て直してから早二か月。
 鉢特摩は久しぶりに山に登ろうと思った。というのも季節の巡りは早いもので、初の夜ふけの風がひやひやと肌にしみだしたからだ。
 屋根があればよい、といった自然和尚の言葉を真に受けたわけではなかったが、僅か一日という限られた時間の中では、講堂を取り壊した跡に柱を立て、床張りし、割れた瓦も再利用して屋根を葺くのが精いっぱいだった。
 壁の三方を板で塞ぐことはしたが、やっつけ仕事であることは否めない。夏であれば、いや秋の初めごろまではいいだろうが、さすがにそれでは冬は越せまい。
 生臭坊主の自然はどうでもよいとして、子供たちが風邪をひくと可哀想である。置いてきた熊の毛皮も一枚きり。それでは大勢いる子供たちみんなで暖まることはできない。それに……。
(「まさかと思いますが、あのジジィ、熊の毛皮を売っぱらってんじゃねぇでしょうなぁ」)
 酒代に化けていたらぶん殴ってやる、と鉢特摩は拳を固めた。
 子供たちへの手土産を包んだ風呂敷を背負い、見事に色づいた紅葉を愛でながら山道を歩いていると、坂の下からおーい、おーいと声がした。
 足を止めてふりかえる。
 真っ先に目に入ったのは、いけ好かない幼馴染の顔だった。嗢鉢羅だ。
「ずいぶん水臭いじゃねえの。荒れ寺に行くなら一声かけろよ。なあ、みんな」
 嗢鉢羅の後ろから、泰舜と無明が、続いてマリリン、秘巫、美鬼帝に手を繋いだ琥太郎たちが連れ立ってやって来た。
 荒れ寺の講堂を一緒に立て直した仲間たちだ。
「ほんと、水臭いわね。私たちだって、気になっていたのよ。ねえ?」
 美鬼帝の手を握ったまま、琥太郎がぶんと腕を持ち上げる。
「そうだよー。水臭いぞ、鉢特摩。オレ、ドス男にミカン積んで持ってきたー。みんなで食べよう」
「いや、その前に講堂をちゃんと建ててしまわんと。壁がないところから、北風にあおられた落葉が入り込んで掃除が大変やわ」
 ほんのりずれたことをいう秘巫の後ろで、泰舜が「おや?」という顔をした。
「あれは、自然和尚じゃねえか?」


 果たして、ぼろ袈裟の袖をぱたぱたと打ち鳴らし、裾をからげて坂を駆け下ってくるのは、風鈴寺住職の幻想院自然だった。
 人が変わったような怖い顔をしているのが、遠目にも分った。寺で何かよからぬことが起こったに違いない。
 マリリンと無明が腕を振りながら、自然に声をかける。
「おーい、自然さーん!」
「和尚、うちらを迎えに来てくれたのか?」
「む!? お主たち! ちょうどよかった。と、ととと!」
 勢い余って足が絡まったフリをして、自然はマリリンと無明に抱きつこうとした。ちょうど二人の胸の間に顔がうずめられるよう、両腕を広げて二人を――。
「おい、コラですよ生グサ坊主。油断も隙もあったもんじゃねぇですな」
 寸で鉢特摩が自然の襟首を捕まえ、高く持ち上げた。
「「最低ッ!」」
 女性二人から、キッ、と睨まれて項垂れた自然は、足をぷらんぷらんと揺らした。首根っこを掴まれた猫……と例えたいところだが、あばらの浮いた枯れ爺はそんなに可愛くない。
「……なあ、何か寺で大事があって、山を下りてきてたんじゃねえのか?」
 嗢鉢羅に水を向けられて、自然は生気を取り戻した。
「おお、そうじゃ。そうじゃった。寺が河童に乗っ取られたんじゃ! いま子供らが――」
 最後まで聞き終わらないうちに、嗢鉢羅たちは全速力で駆けだしていた。
 自然の絶叫をBGMに、秘巫によってキレイに整備された石段を登り、あっという間に寺門をくぐりぬける。
 真っ先に目に飛び込んできたのは、バラバラにされた木風呂とタライの残骸だった。
「ひどい、せっかく作ったのに!」とマリリン。
「いや、あれを直したんは妾(わたし)やけど……そんなことより、あれ、見て」
 指が刺された方へ顔を向けると、風呂場に改修した元鐘つき堂が、なんと、今度は屋根付きの立派な土俵になっていた。
 相撲を取る子供たちを、土俵下から河童たちが囃し立てている。子供たちも嫌々やらされている雰囲気ではない。
「なんだか楽しそうだぞー。オレもスモウしていいか?」
「ちょっと待って、琥太郎ちゃん」
 美鬼帝はかなり手加減して、気絶している自然の頬を張った。
「和尚さん、ちょっと状況説明してくださらない?」
「う、うう……ん」
 泰舜は自然の長い耳に口を寄せた。
「さっさと目を開けねぇと、こんどはミキティの全力張り手が飛んでくるぞ」
「うひぃ! そりゃ勘弁。極楽浄土の果てまで飛んで行きそうじゃ」
 自然いわく、昨日朝はやくにどこからともなく河童たちが寺にやってきて、自然たちを講堂から追いだし、無理やり土俵を作らせたらしい。
 河童は、「見事なおすもうを見せてくれねえと帰らねえ」、と言って寺に居座っているという。
「年長の子供らが都に出ていったきり戻らなくてのう。幼子たちだけでは、河童たちが望む見事な相撲を見せてやるのは難しい。わしは『行司』じゃから相撲はとれんし……」
「それで、うちらを呼びに里へ? というか、なんで和尚が『行司』をやっている?」
「そうじゃ。いや~、探し出す手間が省けてよかったわい」
 自然は無明の後半の問いを華麗にスルーすると、嗢鉢羅にぶら下げられたまま、おーい、と河童たちを調子よく呼ばわった。
「お待ちかね、横綱級の力士たちを連れて来たぞー」
 ちなみに河童たちは観戦オンリー。相撲をとるのはイレギュラーズのみである。

GMコメント

このたびはご依頼、ありがとうございます。

●依頼条件
・イレギュラーズ同士で三番勝負以上やり、見事な相撲試合を見せる。
・河童たちを満足させて、寺から退去させる。

※攻撃スキルはなぞの土俵パワーによって相撲の技に変換されます。武器は使用できません。
※取組中は自然のセクハラにご注意ください。
※見事な相撲をとっても、しょーもない相撲を取っても、土俵下からゴザが飛んできます。ご注意ください。河童に混じって子供たちも面白がって投げます。食べ物を与えておけば、大人しくなり危険度が低くなります。
※塩は大量に用意されています。どーんと土俵にぶちまけてやってください。


●場所
カムイグラ辺境のとある山に建つ荒れ寺。
前回、風呂場に作り変えた釣鐘堂が、土俵に変えられています。
ちなみに井戸は無事です。無事どころか、河童たちに重宝されています。

寺の名は風鈴寺。
住職がいなくなって久しい荒れ寺です。山の上にあります。
※自然は勝手に住みついているだけです。
かつては回廊の軒にたくさんの風鈴が吊るされていたそうで、それが寺の名の由来になっています。

河童たちは講堂を占拠。相撲観戦に疲れたら、中でひと寝入りしているようです。
子供たちはしかたなく荒れ放題の本堂で一夜を明かしました。
講堂に台所があるため、食べ物は河童たちが押さえています。いくらかは子供たちに分けてくれたようですが……河童は料理をしないため、子供たちは火を通さない冷たい食べ物を食べたようです。
ちなみに自然は酒を飲んで酔っ払っていました。

●NPC
・自然(じねん)和尚 …… 本名、年齢不詳。
自然が『行司』をやります。
ずっと昔にカムイグラに召喚バグによって現れ、今は荒れ寺に住み着く幻想種の(自称)和尚
枯れ木のように老いた姿ですが、酒好きで女好きの生臭坊主。恐らく経のひとつも読めません。
「深緑院流薔薇槍術の手練れ、幻想院自然」を名乗っていますが、戦闘能力は未知数です。
酒やもろもろのつけを踏み倒して店の用心棒に囲まれたときなどは、槍の腕を見せるよりも逃げ足を見せるとか。

※今回、自然は依頼料をビタ一文だしません。かわりに、みごとな相撲をとれば、河童が褒賞金を出してくれるようですよ。

・孤児たち …… 16人
様々な種族の孤児達。問題児揃い。
自然は彼らを保護しないが、追い払いもしないので荒れ寺に居着いています。
環(たまき)は狐の獣種の女の子です。
岳(がく)は鉄騎種の男の子です。
2人の他にも14人、種族は様々、下は5歳ぐらいから、上は13歳ぐらいの子がいます。
最初は河童たちを怖がっていましたが、相撲を通じてだんだん仲良くなってきているようです。

・河童……16体。
頭の上にある皿に水をたくわえた緑色の肌の妖怪です。
口先がとがり、背中には甲羅があります。
水泳がうまく、他の動物を水中に引き入れて血を吸ったり、尻子玉を抜いたりしますが、今回彼らと直接戦うことはないはず……。
きゅうりが大好き。
人が作る酒も料理も大好き。ちゃんこ食べたいな、と思っていても、火を扱うのは苦手なので自ら料理はしません。

●その他
せっかくですので、『しこ名』を考えてみてください。
対戦相手の指定がなければ、こちらで勝手に組み合わせを作ります。
男性はフンドシ姿で。女性は服の上から腰に縄をつけて相撲を取っていただきます。

  • 荒れ寺でかっぱ相撲完了
  • GM名そうすけ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月11日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マリリン・ラーン(p3p007380)
氷の輝き
鉢特摩(p3p008715)
地獄小僧
豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)
鬼子母神
泰舜(p3p008736)
八寒 嗢鉢羅(p3p008747)
笑う青鬼
陰陽 秘巫(p3p008761)
神使
無明(p3p008766)
砧 琥太郎(p3p008773)
つよいおにだぞ

リプレイ


「なんだなんだ、河童が集団で押しかけてくるたぁどういう了見でぇ」
 八寒 嗢鉢羅(p3p008747)は、意外なことの成り行きを面白がっていた。まさか、妖が見ている前で相撲を取ることになるとは。
 泰舜(p3p008736)は、晴れあがった空の下でゆるりと腕を組む。
「見事なおすもうを見せねえと帰らない……か。しかし、なんで河童はンなもん見たがるんだ?」
「知るか。こっちが聞きてぇよ」
 無明(p3p008766)が、自然を取り囲む鉢特摩(p3p008715)たちを眺めてぽつりと漏らす。
「河童かぁ。川に住んでると思ったけど、そういえば、山に登るんだっけ?」
 泰舜が釣鐘堂へ顎をしゃくる。
「現に目の前にいる」
「ふうん……。どうして此処にいるかは分からないけど、子供たちと仲良くなってるなら、邪険にもできないしなぁ」
「まあ、争わんですむなら一丁やるしかねえな。とっとと帰ってもらわにゃ、子供らも可哀相だ」
 嗢鉢羅はガシガシと頭をかいた。
「ったくしょうがねぇなぁ! やってやりますか! ……って、鉢特摩の野郎たちはいつまで自然に怒ってんだ? まあ、無理もねぇが」
「先に荷物を講堂へ持っていこう。アンタも一緒についておいで、ドス男」
 嗢鉢羅と泰舜、無明の三人は、砧 琥太郎(p3p008773)のドスコイマンモスを連れて講堂へ向かった。

「えェ、えェ、河童がねェ。へェ、そうなンですかァ……それじゃ仕方がないですねェ」
 鮮やかな赤や黄色に染まる木々を背景に、鉢特摩は澄んだ空気を吸い込んだ。腹の底でグツグツと煮えたぎる怒りを冷やそうとしたのだが――。
「……とでも言うと思ったかよ!」
 とても堪えきれない。
「ふざっけんなよジジィ! なんでこんな訳わかンねェことになってんだよ!」
 ぶん、と黒腕を大振るいして土俵を示す。
「今まで何やってやがったンです!? つーか、すもうって! すもうって何だよ!? ええ!?」
 まあまあ、とマリリン・ラーン(p3p007380)が取り成す。
「あたしたちが争ってもしょうがないよ。さっさと依頼……これ、依頼なのかな? 和尚さん、河童は本当に『褒賞』を出してくれるの?」
 横から湿り声で「そんなん、どうでもええわ」、と陰陽 秘巫(p3p008761)が嘆く。
「嗚呼……折角直したんに。非道い、非道いわあ」
 目を手で隠し、しくしくと口で泣く秘巫の肩に、豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)の大きな手がそっと置かれた。
「非道いわよね……折角、秘巫が中心になって、皆で直した風呂場が大変な事に……」
 一言発するごとに、声の温度が上がっていく。
「それに子供たちも追い出して、やりたい放題……」
 琥太郎も、腰に拳をあてて怒った。
「おー、そうだぞ! しかも本堂に寝かせるなんて、風邪ひいちまうじゃねーか!」
「琥太郎ちゃんの言う通りよ。あんまりおいたをする悪い子は、ママ……ブチ切れるぞ、テメェ等!」
 優しい母の顔を一転させ、夜叉の如き形相で一喝する。
 ぴゃっ、と声をあげて河童たちが一斉に尻を浮かせた。頭の皿の縁に生えた毛を恐怖でクリッと反り返らせ、ガタガタと震える。
 子供たちまで泣きだして、美鬼帝はハッとした。
「……ふう、いけない。あまり怒っても仕方ないわね。任せなさい。この豪徳寺美鬼帝、最高の相撲を見せてあげるわ」
 慌てて笑顔を取り繕う。
 秘巫も「そやな。まあええ、風呂ぐらいまた直したる」、とケロリと言った。
 ほっとした河童たちが、ゴザに尻を落とす。
「いっとくけど、まだ許してないぞー。でも、いい相撲見せれば満足して帰るんだな!? よし、オレは美鬼帝と相撲するー」
「フフ、素敵なお誘いを受けちゃった」
 琥太郎の御指名に、美鬼帝はこんどこそ機嫌を直し、心から微笑んだ。


「こういうんは慣れとらんのやけんど……ま、楽しそうやない?」
 フンドシ姿も美々しい秘巫は、泰千代――泰舜との対戦を希望した。
「まあ、お手柔らかにな。ところで秘巫殿は男か女か、どっちなんだ?」
 泰舜の問いかけを、ふふふと笑ってはぐらかす。
 誤魔化すように、ニヤニヤ笑う自然を叱った。
「もう、自然はん。そんな目で妾を見んといて、やらしいなぁ。鉢特摩はんに吊るされるよ、ほら、怖い顔してはる」
「わしは別に……。おー、そうじゃ。お主の四股名は『鳳(おおとり)』がよかろう。陰と陽、男と女。何度も転生を繰り返す聖鳥じゃ」
 鉢特摩は、自然の名の下にバツを一つ書いた。セクハラ三回で木に逆さ吊りすると、自然には宣言してある。美鬼帝が作った御馳走? もちろん、食わせない。
 筆をおいて顔をあげた。
「ほう、意外とまともな四股名をつけるじゃねぇですか。じゃあ、オイラも四股名をつけてもらおうか」
「しょうがないのう。マリリンちゃんもわしがつけてあげようか?」
 マリリンは土俵下でみんなの応援をすると言った。 
「え、では無明ちゃんは誰と……」
「うちは河童の女の子とやる」
「さようか、では河童ちゃんの四股名を……無明ちゃんはたしか『黒ノ富士』じゃったな。蒼き山がよう映えるのは春の海……よし、河童ちゃんは咲花海じゃ」
 無明はさっそく、相手をしてくれる河童の女の子に四股名を伝えにいった。
「オレは『大無双龍琥丸』だ。カッコよく書いてくれよな」
「素敵な四股名ね、琥太郎ちゃん」
 ふんどしにエプロン姿の美鬼帝が、琥太郎にニッコリ笑いかける。ちなみに美鬼帝の四股名は鬼神丸だ。
 自然は半紙にさらさらと四股名を書いていく。これが驚くほどの達筆だった。
「自給自足の生活をしていても、いざというときに金は必要じゃ。時々、揮毫を売って金に換えておる」
 なるほど、自然の酒代はこうして作られているというわけか。
「その金で子供たちに何か買ってやれよ。そうすりゃ、もうちょっとマシな暮らしをさせてやれるんじゃねえのか?」
 嗢鉢羅は呆れた。
「まあいい。俺の四股名は『氷柱山』だ。ほら、さっさと書け」
 どういう付けかたしてんですよ、と鉢特摩が突っ込みを入れる。
「しこ名の付け方なんて知らねぇよ、語感だ、語感!」
「適当なところがいかにもオメェらしいですよ、嗢鉢羅」
「なんだと。俺とやって負けても泣くなよ」
 すわ、相撲試合を前に大乱闘勃発か。
 血相を変えて立ちあがった鉢特摩の横で、自然がのんびりとした声をあげる。
「ひらめいた。鉢特摩、お主の四股名は赤角(せきかく)に決まりじゃ」
「はぁ?! ジジィ、なんですかそれ。適当じゃねーですか!!」


 出の東西と、取組順はくじ引きで決めた。自然が呼び出しと行司を兼任する。解説は泰舜とともに南の勝負審判席に座った美鬼帝だ。
 反対側では秘巫と琥太郎たちが座り、河童たちと曲がったキュウリを分け合いながら仲良くおしゃべりをしている。
 対照的なのは東に座る鉢特摩と西に座る嗢鉢羅だ。すでに勝負を始めて、睨みあっていた。
 子供たちの中から選ばれた環と岳が、半紙に描かれた四股名を掲げ持ちながら土俵を回った。
「ひがーいしー、黒ノ富士ぃ。にいしー、咲花海ぃぃ」
 最初の呼び上げに、自然も気合を入れる。
「あら、意外とイケボ。フフ、私も頑張って解説するわよ。泰舜君、私が上がったら解説をお願いね」
「いいぜ。解説しがいのある、名勝負を期待する」
 無明たちが土俵に上がると、土俵下の観客たちからやんや、やんやの声が飛んだ。
 双方とも控えめに塩を撒く。
「両者、見合って。はっけよいー、のこった!!」
 無明は立ち会いから積極的にぶつかっていく。
 豊満な胸と胸がぶつかって、ぼよよん、と体が反り返った。
 興奮した自然が奇声を発したが、鉢特摩がセクハラ見つける前に、運よく観客の大声援に掻き消された。
 無明が下から腕を伸ばし、肩を激しく突き飛ばす。
「ひゃ」
 猛攻に堪りかねて相手が半身を反らせた瞬間、無明は腰へ手を伸ばして青縄を取りに行った。
 が、それはさっと払われてしまった。
 短く気を吐いて、土俵際で体を入れ替える。
 相手の体が横へ泳いだ。
 無明はすかさず前に踏み込んで上手を取った。子供たちの声援を背に、勢いのまま体を回して土俵の外へ投げだす。
「きゃあ!」
 落ちた河童ちゃんを、美鬼帝が受け止めた。
「いまの決まり手は『上手投げ』ね。ナイスファイトだったわよ、二人とも」
 自然が無明に軍配をあげる。
「勝負あり、黒富士!」
 うおおー、と河童たちの興奮した声が釣鐘堂の周りで渦を巻く。
「ありがとう、いい試合だったな!」
 ゴザが舞い飛ぶ中、無明は晴れ晴れとした顔で土俵をおりた。
 次の取り組みは琥太郎と美鬼帝だ。
 東で呼び出しを待ちながら琥太郎が怒鳴る。
「こらー、やめろー! オレと美鬼帝の勝負を邪魔すんなー!」
「投げんな、投げんな……ほれ土産に持ってきた豆をやるから」
 泰舜が豆を配ると、河童たちは大人しくなった。かわりに子供たちの声援が大きくなる。
「琥太郎おにいちゃん、がんばれー」
「ミキママ、がんばってぇ!」
 普段なら愛想よく笑顔で応える美鬼帝だが、琥太郎との真剣勝負に集中しきっているためか、まったく表情を崩さない。
「ひがーいしー、大無双龍琥丸ぅ。にいしー、鬼神丸ぅ~」
 両者、派手に塩を撒いて土俵に上がった。
「……ぺっぺっ、顔にかかった。しょっぺー!」
 琥太郎が顔についた塩を、お道化ながら落とす。子供たちも河童も声をあげて笑い、場の雰囲気が和む。これには美鬼帝も思わず頬を緩めた。
「ミキティはでっかくて強い、でもオレだって負けねー! このオレ、スタープレイヤーの『大無双龍琥丸』がこの寺の横綱になる!」
「では、私「鬼神丸」がお相手しましょう。よろしくね、未来の横綱ちゃん♪」
 美鬼帝はすっと表情を引き締めた。ゆっくり腰を落とす。
 琥太郎も手をついて待ったなし。
「はっけよーい! のこった、のこった!」
 体格差で負ける琥太郎は、立ち上がり直後に体を低くして美鬼帝の中に入った。ごう、と音をたてて迫った張り手をかわし、相手の顎をかち上げてフンドシを取る。
「……甘いわ!!」
 美鬼帝はフンドシを掴んだ琥太郎の手を、稲妻のごとき手払いで切った。一瞬、二人の体が離れる。
「くそー」
 琥太郎は、バチ、バチと高いところにある下あごに掌底を入れつつ、またも中に潜り込む。下手からフンドシをとって、四つに組んだ。上手から美鬼帝の手が己のフンドシにかかる前に、怪力を発揮して持ち上げるが――。
「んぐ、ミキティ重い……!」
 言ってしまったすぐ後で、あっ、と失言に気づいたがもう遅い。
「ああん!? 誰が重たいんじゃあ! ワレ!」
 美鬼帝の筋肉が盛り上がり、ずん、と浮いた踵が土俵を重く踏む。琥太郎の回しを掴み捕って持ち上げ、フンドシを切らせるとそのままオーバースローでブン投げた。
 豪快な投げ技に度肝を抜かれたか、河童たちは口をあけたまま固まった。
 勝ちは明白だったが、決まり手に困ったのは解説をする泰舜だ。
「……上手投げ、でいいのか。あれ」
 自然が、土俵中央でなわなわと震える美鬼帝に軍配をあげる。
「ど、どうしましょう。私としたことが……」
「勝負あった、鬼神丸!」
「どけ! 琥太郎ちゃーん!」
 美鬼帝は自然を突き飛ばすと、土俵を駆け下りた。
 

 琥太郎の手当とちゃんこの用意、それに風呂の修復準備やらなんやらで、一旦休憩を挟んだ。あたりは茜色に夕暮れて、ねぐらへ戻るカラスが鳴きながら東の空を飛んで行く。
 秘巫は土俵の東に立った。
「ほな、がんばりましょか」
 泰舜も土俵下で呼び出しを待つ間、腕をぐるぐるとまわして肩をほぐす。
 どちらも力士としては細身だが、ほどよく筋肉がついた精悍な体つきをしている。やや体格面では秘巫が不利か。
「ひがーいしー、凰ぃ。にいしー、泰千代~」
 ぱっと散らすように高く塩を投げた秘巫とは対照的に、泰舜はさっと足元に塩を撒き、左足で土を均した。
(「……この塩、こんな大量にどっから持ってきたんだ」)
 疑問に対する答えを得る前に、見合って、と声がかかる。
 気持ちを切り替えて、腰を落とした。さて、秘巫はどう出てくるか……。じっくりと顔を見る。かなり後ろで仕切るところを見ると、まずはこちらから仕掛けさせるつもりか。
(「面白れぇ。が、その手には乗らねぇよ」)
 すっと体を起こして仕切り直す。河童が差し出した塩を握りしめると、こんどは派手に巻き上げた。パン、と一つ柏手を打ち鳴らす。
「相撲の風雲児泰千代たぁ俺のことよ。さ、かかってきな!」
 待ったなし、の声をうけて双方が睨みあう。
 とん、と軽く手をついて立ち上がった。
 挑発に乗った秘巫が、深く差し込んできた。が、泰舜はささせない。土俵を大きく回りながらかわし続ける。
 果敢に追い攻める秘巫を応援して、河童たちがゴザを投げ始めた。子供たちも面白がって、一緒に投げ始める。
「おおい、誰だこんな仕掛けしたの! 子供たちが真似しちまってるだろ!」
 顔を土俵の外に向けながら牽制に放った突っ張りを、するりとかわされてしまった。途端、秘巫の差手が脇にかかる。
「この勝負、もろうた!」
 秘巫が体を開きながら泰舜を前に引く。とどめ、ともう一方の手で肩を叩いたが、泰舜は落ちなかった。
(「アブねぇ、アブねぇ」)
 土俵下で興奮した解説の声が飛ぶ。
「今の技は『肩透かし』ね。とても高度な技よ!! 秘巫ちゃん、すごいわ」
 今度は逆に、泰舜が秘巫を引っ張り覗き込む。
 秘巫は左にねじ込まれた手をふりほどいて、右に回った。その拍子に俵に足を取られてよろける。
「ああっ、押し出し! 泰千代、鳳を押し出したぁ!」
 土俵を縦横無尽に動き回った激しい取り組みに満足して、河童たちがまたゴザを投げ始めた。調子に乗って、ゴザが落ちては投げ、落ちては投げを繰り返す。
 自然が凶器のゴザにひるまず、左手に軍配の房を持ちながら結びの一番、口上を述べる。
「番数も取り進みましたるところ、かたや、赤角、赤角。こなた、氷柱山、氷柱山。この相撲一番にて本日の、打ち止めぇぇ」
 満を持して両力士が土俵にあがると、紅葉を散らす大音声が山に響き渡った。
「ッシャア! やるぜオラァ! よーく見とけよ河童共! これが氷柱山様の相撲だ!」
 これでもか、と嗢鉢羅が大量の塩を撒く。
 鉢特摩も負けんと塩を撒いたので、土俵がまるで雪を被ったように白くなった。
「見せてやりますよ……本物のすもうってやつを」
 高く足をあげて四股を踏む。
 時間いっぱい。待ったなし。
 双方とも睨みあったまま、ぐぐっと胸を地面ギリギリまで落とした。
 ゴザの乱舞が収まって、沸き立っていた土俵回りが水を打ったようにしーんとなる。
「はっけよーい……のこった、のこった!」
 ごっ!
 立ち合い一番、頭を低くして突っ込んできた鉢特摩を嵐のような嗢鉢羅が迎え撃つ。
 鉢特摩はどっしりと腰をおとして、すべての張り手を受けきった。その場で動かず、じっくりと嗢鉢羅の手の回転が落ちるのを待つ。
 動きのない地味な展開になりかかったが――。
 後手に回ってじっくり責めるつもりだったが、鉢特摩が持久戦に持ち込もうというなら責めに転じさせてやろう。
 嗢鉢羅はわざと上から折れた角を叩いた。それも力を抜いて、ぽん、ぽんといなすように軽く。
「そろそろ頭にきたんじゃねぇのか」
 果たして鉢特摩の足が動いた。
「オラ嗢鉢羅ァ!!! かかってこいや!! その真っすぐ伸びた角ブチ折ってやりますよオラァン!!」
 かかってこいや、といいつつ突進する。胸を開いた嗢鉢羅と胸でぶつかって、がっぷり四つに組んだ。
「このまま押し出ししてやらぁー!」
「はっ、転がしてやるぜ」
 ぐら、と二人と自然の体が傾いだ。とたん、土埃を上げて土俵が崩壊する。
 あまりの激闘に急場拵えの土俵が耐えきれなくなったのだ。
 土俵の下から大きな玉が出てきた。河童が埋めたのだろう。崩れた原因は、この玉にもあるようだ。
 こうして、小さなころから続く幼馴染因縁の取り組みは、引き分けとなった。


 秋月が境内を照らす。
 釣鐘堂、いや風呂場の土はすべて取り除かれた。風呂を直したのは秘巫と無明だ。木材の調達は、式神と河童にやらせた。
「はーい、美鬼帝特製のちゃんこ鍋よ。たくさん食べてね。琥太郎ちゃんも、たーんと召し上がれ」
「オレの五平餅も食べてくれよな。ドス男、もっと持って来てくれー」
 やつあたりで自然を気に吊るした後、鉢特摩は泰舜がついでくれた酒をあおった。
 嗢鉢羅も酒杯をあおる。
「しかし、鉢特摩は相撲取りになれる身体してるよなァ。 おめぇ、力士になるつもりはねぇのか?」
「ない」
「まあ、相撲は秘巫のほうが上手かったしな」と泰舜。
 秘巫がまんざらでもなさそうに笑うと、鉢特摩はむう、と口を尖らせた。ふてくされながら、隣に座る河童の長老に話を振る。
「ところでよぅ、土俵の下に埋まっていたあの『玉』はなんですか? オイラたちの真剣勝負を邪魔しくさったアレは」
 長老は折れた赤角へ黄色い嘴を寄せた。
「は? ものすごく強い妖怪の尻子玉……の一つだぁ?」
 しっと、大声を出した鉢特摩を長老がたしなめる。
「なンでそんなものが……まさか、それが――」
 急に無明が立ちあがった。
「みんな、風呂が沸いたぞ。順番に入った、入った!」
 子供たちの歓声が長老の声を流した。
 訴えを聞いたのは鉢特摩たけ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

河童の御前試合、相撲四番勝負はいかがだったでしょうか。
最後の試合は図らずしも引き分けとなってしまいましたが、また再戦のチャンスがあるはずです。きっと。

河童たちは約束どおり、山を下りて行きました。
さて、河童の長老は何を鉢特摩に訴えたのでしょうか。
なにやら不穏な雲行きになってきました。
ともかく今夜は美味しいちゃんこをたらふく食べて、お風呂で汗を流すといいでしょう。

それではまた。
機会がありましたら、宜しくお願いいたします。

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