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シナリオ詳細

再現性東京2010:WhiteLiar

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●或いは、ヨルを明けるもの
 肌寒い風のふきはじめた公園のひろば。
 白いワゴン車の前でタスキをかけたスーツの女が集まった人々に笑顔で握手を交わしている。
 車とタスキにはそれぞれ道源寺ひみえと目立つ文字で書かれ、やる気と優しさに満ちた同女性が描かれたポスターが掲げられている。
 謳い文句は『安心できる街へ』。
 ありがとうございます。ありがとうございます。どうか私に、清き一票を――。
 そんな風景を、ベンチに座った咲々宮 幻介 (p3p001387)と綾敷・なじみ(p3n000168)は棒付きキャンディを口の中でころころとしながら眺めていた。
 口からすぽんとキャンディを抜いて、マイクのように幻介へ向けてくる。
「ハイ、綾敷クエスチョン。あの人のことは知ってる?」
「政治家の道源寺でござ……ンンッ、だったか」
 幻介は再現性東京の空気になじむためにと口調を整え、ころがしていたキャンディを外した。
「テレビで見たな。ネットでの評判もいいらしい。正直者で有名だ」
 自慢じゃあないが、嘘つきと正直者を見分けるのはうまいほうだと思う。
 道源寺という政治家は幻介が抱く政治家のイメージとかけ離れた『いいひと』だった。
 他人に優しく、願いに誠実で、悪意に真摯で、性善説を心から信じているように見えた。
 絵に描いたような善人、である。
「ねー、イマドキ珍しい政治家だよね? なじみさんも感心してるんだあ――」
 身体を前に傾け、前髪を垂らしてみせるなじみ。
「あんな、悪人に利用されてますって感じまるだしの政治家そういないよね」
「…………」
 再びキャンディをくわえ、黙って彼女の顔をみる幻介。
 互いの視線が一秒ほど絡まった後、なじみは『いひひ』と笑った。
「ハイ、綾敷クエスチョン。あなたは信用をいっぱい集めたいとします。あんなひとを見つけたらどうする?」
「友達になってわけてもらう」
 ブザー音と共に×印の小さなパネルを掲げてみせるなじみ。
「正解は、『寄生して信用の集積装置として吸い上げ続ける』なのだ」
「ふうん……」
 目を細める。
 細めれば、見えるだろう。
 笑顔の人々と爽やかな空と緑豊かな公園と、道源寺ひみえの肩や首に巻き付くように取り憑く悪性怪異――夜妖(ヨル)の存在が。
 キャンディを刀にみたてようとした幻介。その手に、なじみが指先をちょんと置くことで彼を制した。
「呼びかけても無駄だよ。あの人は他人を信じてるし、世界を信じてる。陰謀論者は可愛そうな嘘つきだから救ってあげなきゃって考えるタイプのひと。あなたに悪魔がとりついていますって教えたところで、信じてなんてくれないよ」
「けれど、時間をかければ……」
「時間は、ないと思うな」
 ポスターには選挙の日付がかかれていた。
 もうまもなくの、日付が。
「このまま行けばあの人は当選する。いいひとだもんね、皆あのひとを『信仰』してる。自分たちの生活を守ってくれる、頼りになるひとだって」
 信仰がいかなる力をもつか、世界は既に証明している。
 冠位魔種を弱らせることや、ひいては倒すことだって不可能ではないほどの力が、人々の想いにはある。
 平和平穏を願う想いが形無き信仰となってできたのがこの再現性東京だといっても過言ではないだろう。
「そうなったら、手遅れなの。ハイ、綾敷クエスチョン。こんなときあなたならどうする?」
 幻介は肩を落とし、苦笑した。
「殺す」
 ピンポーンという音と共に、なじみが笑顔で〇サインのパネルを掲げた。

●待っていたって夜は明けない
 選挙を控えた有力政治家道源寺ひみえを暗殺することが、今回イレギュラーズに化せられた依頼内容である。
 決行日の夜に屋敷へと侵入し、当人を殺害。拘束されないようにその場から撤退するというものだ。
 道源寺は高級住宅地の広い住宅に夫と娘と室内犬と共に暮らし、選挙前ということで警備員も多めに配備している。
 論じるまでもなくここは現代日本と似て非なる混沌世界。その気になれば人間をいつでも殺せる兵器や人物があふれかえっていることを彼らは理解し、警備員も一般的な警備会社風の服装や装備にみせかけているが充分な個人戦闘力を有している。
 また人員もそれなりに多く、家の周りをがっちりと固めて見回りを行っているようだ。
 この警備を掻い潜って深夜の部屋に忍び込み、道源寺ひみえを殺害し逃走する。
 道源寺ひみえにはバイタルセンサーがついているため死亡やそれに類する状態に陥れば警備員たちのブザーが一斉に鳴り響くことだろう。どれだけうまく隠れようとしても見つけ出され、拘束されかねない。
 万一拘束されても釈放することは可能だが、相応に面白くないデメリットを受けることにはなるはずだ。
 よって彼らから上手に逃げ延びなければならない。
「うまく、ちゃんと仕事をこなしてね。失敗すれば、大きな怪異が生まれてしまうかもしれない。これはね、『必要な犠牲』なんだよ」

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『練達』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

■■■任務内容■■■
 道源寺ひみえの寝室へ忍び込み抹殺、しかる後逃走します。
 侵入、抹殺、逃走それぞれに障害があるので順に解説していきましょう。

■侵入
 結構な数の警備員が巡回しており、彼らは暗殺者や泥棒、ないしはスパイの侵入や接近を常に警戒しています。
 これを掻い潜り寝室までたどり着く必要があります。
 一応のお勧め作戦は、一部の仲間がわざと反社会敵なテロを装って警備員を刺激し戦闘。
 かなりの劣勢をギリギリ耐えつつ時間を稼ぎ、その間気配を消すなどして潜んでいた仲間が別ルートから部屋へと侵入するというものです。
 『忍び足』『逃走』『ステルス』『気配消失』といった隠密系スキルがあると有利になるでしょう。
 道源寺ひみえの寝室ははじめから分かってはいませんが、少し探れば判明するものとします。

■抹殺
 道源寺ひみえの抹殺は実は容易ではありません。
 道源寺ひみえに憑依している夜妖は彼女が信仰の集積装置になることを理解しているため、こちらを排除しようと道源寺を昏睡させて操るなどして戦闘をしかけてくるでしょう。
 今の時点で結構な支持者を得ているため夜妖の力も強く、何人かで連携かつ協力して戦わなくては倒すことは難しいはずです。
 (そして当然戦闘の物音は聞かれるので、駆けつける警備員の足止めは必ず必要になります)

■逃走
 抹殺に成功しても終わりではありません。
 この場から一刻も早く、そして全員揃って逃走しなければなりません。
 警備員は必死で追いかけてくるでしょうが、武力やドライビングテクニックを用いてかれらの追跡をまいてください。
 逃走車両ないし馬、その運転技術などがあると有利にはたらくでしょう。

■参考情報
・警備員
 去夢警備保障の警備員。職務に忠実で装備も充実。
 特に戦闘力の高い警備員が三名ほどおり、他はふつう程度。
 人数がとにかく多いのでPCたちの戦力をフルで行使しても全滅させるのはかなり難しいでしょう。

・夜妖『うつくしきせかい』
 信頼や信仰を食う怪異。寄生した人間が周囲から信頼を集めていればいるほど力が強くなり、一定のラインを越えると終末の蝶に羽化してひどい破壊をまき散らすといわれています。
 今はまだ繭段階であるため倒すことが可能です。が、完全に定着してしまっているため道源寺ひみえを直接殺害する以外に破壊方法がありません。
 ちなみにこの寄生状態は『夜妖憑き』にカテゴライズされています。

■その他解説
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • 再現性東京2010:WhiteLiar完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月06日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
※参加確定済み※
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
有栖川 卯月(p3p008551)
お茶会は毎日終わらない!
砂蕨 茉莉(p3p008570)
新しい世界で

リプレイ

●WhiteLiar、或いは、ヨルを明けるもの
 明滅する街灯の下を歩く、黒い影がある。
 足音を殺しやすいスニークスニーカーと黒いジーンズパンツ。上半身は身体のシルエットが出るようなボディスーツを纏い、黒く艶の消された超硬度プラスチック製ナイフを胸元に、サングラスで赤い目を隠し――『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)は壁に背をつけた。
 ブロック塀のむこうは柵があり、その先には広い庭。『SS』のロゴが入った警備員が固定型マグライトで前方を照らしながらゆっくりと庭を巡回警備している。
「しくじればより多くの人が死ぬ。そういう仕事……それだけの理由で人を殺めることも、ずいぶん手馴れてしまいました」
 黒いフードパーカーにジーパンという出で立ちでそれに続く『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)。
「殺るならそこに私情は挟まねえ……それが必要な事ならな」
 二人は冷たい視線を交わし合うと、頷き合って同時に柵を越えた。
 幻介は跳躍と柵への駆け上がりで、瑠璃は柵そのものを透過して。
「しかし、まぁ……正直者は馬鹿を見るとは言うが、此処までものの見事に夜妖に取り憑かれるとはな。
 このままいけば、良い為政者になったろうに……まぁ、とはいえ嘆いても始まらねえ……やる事殺るかね」
 そんな彼らに続く形で柵を越えた『鎮魂銃歌』ジェック・アーロン(p3p004755)が、スマホを取り出してフウと息をついた。
 ガスマスク越しとはいえ、聞き耳を立てていた瑠璃にはよくわかる。
「どうか?」
「またデマ工作が消火されてる。作成して五分なのに」
 ジェックは今回の夜妖『うつくしきせかい』が宿主への信頼を吸い上げているということから、あらかじめ宿主である道源寺ひみえの信用を落とせば弱体化に繋がるのではと日中からデマ工作を続けていた。
 が、ブログは作成から三十分程度で消火され、SNSでのツイートやその他の手法でも即座に火が消えた。それもブログの閉鎖やアカウントブロックといったいかにもな方法ではなく、こっちを悪者にして拡散することで逆に道源寺ひみえの評判を上げるという憎たらしくも巧妙な方法でだ。それも回を増すごとに対応速度が上がっている。
 彼女のバックについた組織が水面下で工作しているのか、それとも道源寺を当選させたい第三勢力が介入しているのか。どちらにせよ、現状個人レベルでの情報発信で民意を操作するのはアフリカ象を小石で転ばせようとするようなものだろう。
「政治家って、厄介なんだネ」
「だから、殺すんだ」
 そしてそれ故に、政治家には警備がつくのである。

 一方その頃。三輪バイクを止めた女性がヘルメットを脱いで長い髪をゆるやかに振った。
 現れたのは『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)の若々しい顔であり、彼女はライダースーツのポケットからサングラスを取り出すとそれを装着。乱れた髪を手ぐしで直していく。
「二人とも、準備は?」
「うーん……。政治家さんには罪はないけど、夜妖が個人的に気にいらないのと、羽化されちゃうと推しぴにも迷惑が掛かりそうなので殺害には賛成ですね。トロッコ問題で1人のほうを選ぶうさぎなので。
 その前にやらなきゃな依頼なんですけども!」
 あえて心の準備について語る『お茶会は毎日終わらない』有栖川 卯月(p3p008551)。
「旦那さんもお子さんもいて、たくさんの人から信頼を向けられて、幸せそうで何よりですねえ。
 私は召喚されて、一人ぼっちで、本当に辛くて苦しいのに。
 召喚されたのか、ここ生まれなのか知りませんけどー、私たちの本当の願いは元の世界に帰ることじゃないんですか。
 大好きな彼が今も混沌と戦いながら切望する希望から目を逸らし、すり替えて語るあの人が、私、嫌いです」
 そして『新しい世界で』砂蕨 茉莉(p3p008570)もまた、心の準備を語ってみせた。
 リアナルは『二人の気持ちは分かった』と言って、ポケットから今度は畳んだ扇子を引っ張り出した。
「はろー諸君」
 バイクにつんだボックスから二本の筒を取り出すと、それぞれの紐をひく。
 するとシュッと煙があがり、次の瞬間にはロケット花火が激しい音を立てて道源寺邸宅へと飛んでいった。
 注意を引くにはこれ以上ないといわんばかりに。
「さぁて、なるべくはやく終わらせてくれよ?」

●ファタ・モルガーナに夜明けはこない
 地面に耳をつけ、じっと黙る瑠璃。
 掲げた指のサインを見て、幻介とジェックは伏せていた身体を僅かに起こした。
 表でおきた騒ぎに対応するため、警備員が表へ集まっていったようだ。
 瑠璃は素早く邸宅裏の壁に張り付くと、壁に耳をつけて様子を確認。
 ジェックにサインを出すと、ジェックは言われたとおりに勝手口の裏まで回りドアノブをわざとガチャガチャと鳴らした。
 屋内の警備員はそれに気づき、拳銃を懐から抜いて構える。
 だが――そんな彼の背後には瑠璃の姿があった。
 ハッとして振り返る。が、銃の引き金をひくより瑠璃のナイフが喉に刺さるほうが早かった。手首をねじり上げて銃を取り上げると、それをゆっくりと床において警備員を引きずっていく。
 途中で手早く勝手口の鍵を開け、ジェックや幻介たちを内部へ引き込んだ。
 今度は幻介が先行し、階段をあがっていく。
 不思議と彼の足音は猫のそれよりも静かだった。
 そんな彼の規則正しい足取りが、ぴたりと止まる。
 素早くかざした手にジェックたちがびくりと止まって気配を殺す一方、突き当たり角の先、ドアががちゃりと開く。
 パジャマ姿の子供が熊のぬいぐるみを小脇に抱え、部屋から出てきた。
「ママ……?」
 姿はよく見えないが、服装や声色からして幼い少女。おそらくは道源寺の娘だろう。
 警備員ならともかく、家族に出くわすことは想定していなかった。
 こちらへと近づく足音がする。
 見つかって声を上げられれば厄介だ。幻介は刀に、ジェックはライフルに手をけた。緊張が高まっていく……そのなかで、瑠璃が二人に手をかざしてから前へ出た。
 娘が階段にさしかかろうかというその時、突然飛び出して娘の口に手を当て黙らせると、首筋に手を当ててバチンと何かを放った。
 スタングローブだろうか。それとも何かの魔術だろうか。とにかく娘はぐったりと気を失い、瑠璃はそれを抱えて娘が出てきた部屋まで戻した。
 ここまでの過程で道源寺ひみえの寝室は分かっている。
 三人は頷きあい、足音をできるだけ殺しながら進んだ。

「彼の邪魔なんです、あなた。あなたですか邪魔するのー?」
 茉莉は異常なトーンで語りながら警備員へ詰め寄ると、板状の物体で警備員を殴りつけた。
 うずくまる警備員。別の警備員が特殊施術されたスタンロッドを展開して茉莉を殴りつけるも、茉莉はそんな相手へ掴みかかりさらなる暴力を継続した。
 政治的意図があるのかないのか、それを問うことすら難しいようなテロ行為である。
 警備員たちはこれに危機感をおぼえ、茉莉を取り囲んで取り押さえようとする。
 その一方で卯月はトランプカードをナイフのように握って『ショウ・ザ・インパクト』を繰り出し、警備員を吹き飛ばした。
 もう我慢ならないといった様子で警備員たちが拳銃を抜いて構え始める。
「仲間を呼ばれる前に取り押さえろ!」
「仲間ぁ? そんなのここにいる人たちだけですよ! 警備員どんどんいなくなっちゃうけど、補充しなくて大丈夫ですかぁ?」
 彼女たちの武力はガチガチに固められた警備員たちを圧倒するほどではないにしても、彼らの危機感を煽るには必要充分であった。
 できるだけ多くの人員を投入し迅速に鎮圧。可能なら生かして捕らえて尋問しようというハラだろう。
 リアナルはそれを察してもう一段階煽ることに決めた。
「我らが教祖からのお達しでな! 多少は死んでもらうぞ?」
 広げた扇子で大きく風をあおぐと、『ロベリアの花』の魔術が完成し銃を構えた警備員たちが次々と膝を突く。中には激しく吐血し崩れ落ちる者もいた。
「貴様、静羅川立神教の者か? 手打ちは済んだはずだぞ」
 話に乗ってきた。
 なんの話かはさっぱり分からないが、リアナルは卯月と茉莉に目で合図を送った。
 演技力を発揮して狂気を演出してみせる卯月。
「その静羅川です。これは聖なる死なのですよ!」
「道源寺は学ばねばならない。今の活動を続ければ死が訪れるとな!」
「不安ですか、怖いですか。わかりますよ、叫びが」

●『うつくしきせかい』
 ことここに至って忍ぶ意味は無い。
 表であれだけの騒ぎをしたのだ。道源寺ひみえの寝室は灯りがつき、中では何かバタバタとしているのがわかる。
 茉莉たちが突きつけた殺意を恐れてなのか、それとも……。
「怨みは無いが、これも仕事だ。運が無かったと思って、死んでくれや。
 これも、世のため人のため……ってな」
 扉を開き、刀をすらりと抜く幻介。
「その首……貰い受ける」
 言葉を言い終わる前に発砲がされ、幻介は飛来した銃弾を刀で払った。
 パジャマに上着を羽織った男が両手で拳銃をしっかりと握り、こちらへ向けている。
 道源寺ひみえの夫だろうか。とても戦い慣れているようには見えないが……。
「武器を置け! こんなことをしたって社会は変わらな――」
 銃声。
 今度は男の手から拳銃が飛ぶ番だった。
「外さナイよ」
 ジェックはただ冷静にライフルを向け、引き金を引いただけ。
 もちろん非現実的なテレビドラマのように拳銃だけが魔法のように手から外れて飛んでいくような奇跡は起きない。男の手首から先がちぎれ飛んだだけだ。
 が、それ以上は必要なかった。
 道源寺ひみえに取り憑いていた夜妖が当人をぐるぐると取り巻き、人間大の繭のように作り替えてしまった。
 夜妖『うつくしきせかい』の真の姿である。
 繭から無数の虫めいた脚を生やし、周囲の気温を一気に引き下げ始める。
 ジェックは構わず連射。
 瑠璃もまた『スケフィントンの娘』の術を放ち押さえ込みをかけると、幻介が素早く接近。
 刀をただシンプルに斜めへ振った。
 藁束でも切るかのように走った線が、道源寺ひみえの首を的確に切断。
 取り憑いていた夜妖はオオオと断末魔のような叫びをあげてかき消え、すぐに警備員達が駆け込んできた。
「長居は無用。撤収しましょう」
 瑠璃は振り向きざまに神気閃光を放って警備員を牽制すると、床抜けを行って撤退。幻介も窓を突き破って野外へと飛び降りた。

 撤収する仲間の回収と足はリアナルの仕事だった。
 卯月と茉莉たちに戦闘を任せ、自分はバイクに飛び乗って裏側へと走り出す。
 丁度窓から飛び降り着地した幻介が彼女のバイクに飛び乗り、一方で壁からすり抜けてきた瑠璃が駆け込んできた馬へとジェックを回収しつつ飛び乗る。
 卯月と茉莉もまた、近くに待機させておいた馬『ヨモツヒラサカ』に飛び乗って撤収を開始。
「私は悪運が強いんです。逃げられないなんてありえませんよ!」
 車に乗って追跡をかけてくる警備員達めがけ、『ロベリアの花』を解き放つ卯月。
 茉莉も振り向きざまに『ディスペアー・ブルー』をまき散らしてやると、馬を加速させて夜の中へと溶け込んでいく。
 彼女たちの追跡に失敗した警備員たちも、流石に寝室での銃声を聞き逃したわけでもないらしく、すぐにターンして邸宅へと戻っていった。
 邸宅警備という職務を忘れて追いかけるのに夢中になってしまわない程度には、彼らはプロだったということだろう。
「ミッションは?」
 リアナルはバイクの後部にまたがる幻介へ問いかけた。
「完遂した」
 短く答える彼に、リアナルは『ふむ』とだけリアクションをした。
 アクセルをひねり、加速を始めるバイク。
「舌噛まないようにちゃんと仕舞っておけよ?」
 きっと明日の新聞には政治家暗殺のニュースが流れるだろう。
 それを見た住民は『いい政治家だったのに』といい、次には『物騒ねえ』と他人事のようにぼやくのだろう。
 それが平和というものだ。
 イレギュラーズたちが善人を殺して得た、かけがえのないものの名前である。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――依頼完遂
 ――状況終了

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