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シナリオ詳細

ベルゲン・マフィア掃討作戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「うわああああ――! ラディア組の襲撃だ――!!」
「オジキがやられたぞ! 逃がすな、撃て撃てッ――!!」
 鉄帝の街中で銃声が響き渡る。さすれば同時に幾つもの悲鳴もが後に続いて。
 それは――マフィア同士の抗争であった。
 鉄帝の中でも東側にあるベルゲン街は二つのマフィアが最近勢力を伸ばしており、その境目辺りでは度々このような争いが起こっていた。双方ともに気性が荒い者達で構成されており……日に日に衝突の回数は増すばかり。
 しかもこの日に至っては片方のマフィア陣営の幹部が撃ち殺されて。
「どうしてここが……テメェら、さては連中と通じてやがったな!」
「ま、待ってください! 私は、私は何も……」
 激怒するは部下達だ。酒場で酒を飲んでいた所を後ろから襲撃され、被害は甚大。
 襲撃者は勿論追う者の――それとは別に酒場の店主を憤怒と共に睨みつけて――
 銃撃。
 二発、三発、四・五――十は撃ち込んだだろうか。
 多くの酒瓶が割れる音と大きな物体が倒れる音がする……それは命が一つ失われた音だ。
「おい、奥に家族もいた筈だ! 逃がすなよ……オジキの仇だ! 見せしめにしろ!」
「や、やめてください! やめて――! 子供は、子供だけは見逃して――ッ!!」
 しかしそれでも怒り収まらないマフィア達は武器を構えて奥へと踏み込み。
 扉を強引に破る音がすれば――続けざまに幾つもの銃声が鳴り響いた。
 恐怖の悲鳴は一瞬だけ響き、しかしすぐに潰える。
 銃撃音はそれでも放たれる。もうなんの音も聞こえないというのに、それでも。
 ……彼らの『憂さ晴らし』は、銃弾がなくなるまで続いて。
「よし退くぞ! 後はラディア組の連中だ……コケにしやがった連中はぶっ殺してやる……!」
 けたたましい足音が酒場の中を通っていく。
 僅か数分で見るも無残な姿となった酒場にはもう誰もいない。先程のマフィア達は巣穴に戻って、後に残っているのは――全て死体のみ。
「ううッ! こ、これはなんて酷い……!」
 通報を受けて駆け付けたベルゲン街の憲兵は思わず口元を覆うものだ。
 人の良かった酒場の店主はまるで蜂の巣の様にされており、彼がもう笑顔で客を迎える事はないのだ。しかも奥の部屋では、その彼が『美人だろう?』と毎日の様に語っていた――彼の伴侶は――
 まだ幼い、自らの子を最期まで守るかのように。
 血だまりの中で――抱きしめながら死んでいたのだから。


「――ベルゲン街に巣くうマフィア共を一掃する」
 言うはゲルツ・ゲブラー(p3n000131)である。彼はこの国のラド・バウB級闘士にして、鉄帝国の治安を司る一角である保安部の一人。彼が言うには、この街には二つのマフィアがあるらしい。
 一つはベルゲン外西部を中心とするラディア組。
 一つは東部を中心とするコンドラート組だ。
 それぞれ元は小規模なマフィアだったらしいが……ここ最近急成長して、武器も人員も潤沢になったそうだ。そして街の中心部にまで侵食してきたのを切っ掛けに――縄張りが接触。後は小競り合いもそこそこに全面衝突となったのが今回の件である。
「悪人共が殺し合うのは勝手にしろと言いたい所だが、民間人を平然と巻き込む連中だ。静観していてはどれほどの被害が出る事か……そして先日、ある一家が虐殺されるという痛ましい事件が起こってしまった」
 ――酒場を経営していた一家全員が皆殺しにされたという。コンドラート組の幹部の一人が襲撃され、情報が漏れていたと――向こう側のマフィアと酒場が繋がっていたと軽率に判断して撃ち殺したらしい。
 その中には……まだ幼い子供も、容赦なく息の根を止められていた。

 子供が関わっている筈がないというのに、奴らは殺したのだ。ただイラついていたから。

「――屑共を許しておくわけにはいかない。現地の憲兵とも協力し、マフィアの掃討作戦を至急行う。故に――君達イレギュラーズにも、是非とも協力を求めたい」
 二つのマフィアの抗争は今にも始まりそうだという。街の各地で奴らが準備をしている様子が確認されており……憲兵側はそれぞれに先制攻撃を掛けていく予定だ。
 しかし――既に動き出している場所もある。
「ここだ。街の中心部……多くの道が交差するこの大通りで、二つのマフィアの本隊がぶつかる」
 地図に×印を付けるゲルツ。そこは、正にこの街の中心ともいえる位置にあった。
 ここでぶつかる――? どう考えても一般市民に犠牲が出そうなこの場所で――?
「幸い情報のキャッチが早かった。保安部が既に避難活動を始めている。抗争が始まる前に大方終わっているとは思うが……ここに集結しつつあるマフィア達は数が多くてな。先制攻撃による奇襲で潰す、とは簡単には言えない」
 だから、イレギュラーズ達の力も借りたいのだと。
 一般市民による犠牲は決してこれ以上出してはならない。しかし避難活動に力を注げば、対応の為の戦力はどうしても少なくなってしまう。各地の拠点潰しも並行されるとすれば――ローレットによる支援がどうしても欲しくて。
「我々が辿り着いた頃には抗争が始まっているだろう。
 どちらかの組の後方から襲うか、或いは横っ面から両方殴るか……」
 全ては移動しながら考えるとしよう。
 だが――どうか頼む。
「力を貸してほしい」
 あの外道共に鉄槌を下す為に、一緒に戦ってほしい、と。
 ゲルツはマフィア共への怒りに震えながら――言葉を紡いでいた。

GMコメント

■依頼達成条件
 ベルゲン街のマフィア二陣営両方の壊滅。

■戦場
 ベルゲン街中心部。時刻は昼。
 ここは大通りであり、建物が立ち並び本来ならば人通りも多い場所でした。しかし情報のキャッチが辛うじて早かった為に市民の避難誘導が急速に行われています。完了しているかはギリギリですが、大人数の残っている事はないでしょう。
 西からラディア組。東からコンドラート組が迫っています。
 間もなく接触し、抗争が始まるでしょう……

 皆さんは幾つかの選択肢を取る事が出来ます。
 片方のマフィアの後方に回って襲撃するか、マフィアの抗争の最中に横から両方とも殴りつけるか、です。ちなみにマフィア共は犬猿の仲であり、皆さんの襲撃が判明してもマフィア同士で協力し合う事は絶対にありません。

■敵戦力1:ラディア組本隊×14名
 西から訪れているマフィア・グループ。
 個々人の実力は微妙にこちらの方が優位だが、数では不利。
 ナイフや拳などで挑んでくる接近戦タイプが多い。
 首領のラディアは割と強いファイタータイプです。

■敵戦力2:コンドラート組本隊×19名
 東から訪れているマフィア・グループ。
 数が多いのが特徴。ラディア組と比べると個々人の能力は劣る。
 銃を所持している者が多く、遠距離タイプが多い。
 首領のコンドラートはそこそこ強い遠距離かつ、戦闘指揮能力を持つ指揮官タイプです。

■ゲルツ・ゲブラー(味方NPC)
 ラド・バウB級闘士にして鉄帝国の治安を司る保安部の一人。
 冷静な言動が多いですが、ぶっちゃけブチ切れてます。
 基本的に遠距離タイプですが、接近戦で戦う事も可能な様です。
 皆さんと行動を共にしますが、何かしてほしい事があれば(その内容が妙な事でなければ)その通りに協力してくれるでしょう。

 他にもゲルツ配下の保安部員などがいるのですが、彼らは市民の避難誘導や他の戦域などに回っています。もしかしたら援軍が来るかもしれませんが、あまり過度には期待しない方がいいでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ベルゲン・マフィア掃討作戦完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月30日 23時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
オリヴィア・ローゼンタール(p3p001467)
鋼の拳
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に

リプレイ


 一発の銃声が戦いの始まりを告げていた。
 マフィア・コンドラートとマフィア・ラディアの抗争――
 所詮は暴虐者同士の戦い。どちらが勝っても街は酷い有り様となろう。
「理不尽な暴力によって幼い命が奪われる。悲しいことです。
 そしてこうして新たな争いの火種が生まれる。この最中においてもまた一つ、一つと……
 ええ、とても悲劇的です。ふふふ……」
 故に『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は想うものだ、正に『物語』と。
 失われた命を想えばこそ悲しくなり、悲しいからこそそこにドラマがある。
 ああ――どうしても笑みが零れて仕方がない。
 故に物語を進めよう。悲しみが蔓延するのは良いとしても、しかし『結』は確かに必要なのだから。
 進む先はコンドラート組の後方だ。
 まずは数の多い連中の背後から強襲し、その後にラディア組を始末する――
「平穏に暮らす、何も罪無き人々を巻き込んだこの抗争……許すものか。
 敵は目前。全員構えなさい、殲滅するわ!」
「無辜の民に理不尽な残虐を齎した外道――この事実だけで万死に十分です」
 確かな怒りをその身に宿し『黒焔纏いし朱煌剣』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)と『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は衝突の始まった戦場へと急ぐ。
 だが焦らず歩みは確実に、だ。数の上ではどちらもイレギュラーズ達より上……
 犬猿の仲のマフィア同士であれば協力はしないだろうが、無策にぶつかる訳にはいかなかった。後方に回っている事がバレぬように立ち回り、そして。
 襲撃する。
 アリシアの号令と共に放たれた撃は無防備たるコンドラート組を襲ったのだ――まさか後ろから何者かが来るとは思っていなかったのか、同様する様子が見て取れて。
「な、なんだテメェら! 住民じゃねぇな!?」
「お気になさらず――バカと言う名の害虫駆除に来ただけの者ですので」
 直後。ロザリオに祈りを込めた『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)が声を張り上げたカモ……いやマフィアに対して紡ぐは銃撃。あなたのそのクソッタレな心へ平和への祈りが届きますようにと――容赦なくその頬を穿つ。
「今日も明日もバカ共がバカ騒ぎ……仕方ありませんとも、だってそういう生き物なのですから。ええ、ですが――まぁ。正直、邪魔ですよね」
 シスターらしからぬ言葉だが、あくまで依頼中なのでこれは演技で嘘である。
 ええ――本当ですよ?
「白昼堂々街中の大通りでこのような規模の戦闘をしようなどと……住民などどうでもいいと思っている証ですね。正に保安部の懸念は間違ってないという所かしら」
「ですが悪党どもの争いの唯一の長所は――どれを殴りつけても心が痛まない事ですね!」
 次いで『月下美人』久住・舞花(p3p005056)と『鋼の拳』オリヴィア・ローゼンタール(p3p001467)もまた戦場に馳せ参じる――奇襲を想定していなければ、前衛戦力をただ前に集中させている筈、と舞花は踏んでいたが実際その通りなようだ。銃を使う遠距離型の多いコンドラート組は混乱に陥っていて。
「落ち着けテメェら! 奴らの数はそう多くねえ……立て直せ!」
「――いたぞ。アレがコンドラートだ。奴を討てばこの連中は瓦解する」
 その時。道案内を頼んでいたゲルツが指差した先にいたのがドン・コンドラート。
 曲がりなりにも長の資質はあるのか、素早く混乱を治めようとしている……だが。
「……必ず連中に罪は償わせるわ」
 姿が見えた事でよりハッキリと『アンスンエンシス』リア・クォーツ(p3p004937)の心中には強い意志が芽生えていた――彼女は、ここへ至る前に事の発端となった酒場へと足を運んでいたのだ。
 見えた景色は悲惨なモノ。まだ片付けられていない店内と、微かに残る――血の臭い。
 お前達は決して許されないことをしたのだと。
「教えてあげるわ」
 奥歯を噛み締め、向かう。
 己が身に守護の加護を齎しながら、同時に探るのは逃げ遅れている『旋律』が無いかと探る一手だ。保安部が先に避難活動を行っていたそうだが――全ての住民が完全完了している保証はない故に。
「頼むぞ。住民に被害を出す訳にはいかない……奴らは止めねばならないんだ」
「――うん、今回は私もゲルツさんと同じ気持ち。何の罪も、関係もない人達が犠牲になるなんて……絶対に見過ごせないから」
 同時。『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)もまた、人の助けを求めている者がいないか探知する術を行使しながら、避難が完了しているかの確認を行う。
 悪人たちが同時に争うのは良い――いや本当は良くはないが――まぁいいとしよう。
 だけどソレによって善良な人達が犠牲になるなどあってはならない事だ。
 だから、戦う。
 彼らを見過ごしていればどれ程の血が流れるのか分かったものではない。
「花丸ちゃんも皆と戦うよっ! あいつらを――やっつけるんだ!」
 向かってくるコンドラート組の一人。
 振りかざす剣を躱して代わりに――その顔面へと紅蓮の拳をぶち込んでやった。


「なんだぁ? 向こうで何かがあったみたいだな……?」
「構うもんか押し込め! コンドラート組の連中をぶっ潰してやるんだ!!」
 コンドラート組が実質挟撃の形となっている現在、ラディア組はこれ幸いと攻勢を強めていた。元々数の上では劣っていたのだ……距離があるからか今一つ事態は呑み込めて無いようだが、量で勝る側に不測の事態が発生しているなら儲けもの。
 であれば拮抗していた戦場はコンドラート組に不利な形に陥っていた。故にその隙を。
「ゲルツさん、あちらのアパートの方に残ってる方がいるみたい! お願いできるかしら!」
「分かったそっちは任せてくれ。避難が完了次第また戻る!」
 リア達は一般市民の救助の為に割く。発見した住民がいればゲルツに頼み、保安部の管轄に置いてもらうのだ。マフィア共は酒場の件からしても住民に容赦は住まい――
 故にそちらはゲルツに。そしてその間の時間を稼ぐ為。
「さぁ。かかってきなさいよ……あんた達は女も黙らせられない程の情けない男なのかしら?」
「なんだこのアマ……舐めやがって!」
 リアは前線へと立つ。挑発じみた言動で奴らの注意を引きつけて。
 ある程度の傷は自らの治癒術で何とでもなる――それよりも。
「――鉄帝国保安部の名において貴方達を全員叩き潰させていただく。覚悟」
 防御だけでは無論奴らを潰すことが出来ない故、攻めの手も必要だ。
 舞花の一閃。振るう武器はまるで暴風を描くかのように、対応の為に出張って来たコンドラート組を討つ――本来の戦いであれば全体を統括する指揮官を狙うのが定石だ、が。
「……しかしいきなり総崩れになられても困りますからね」
「ええ。頼りになる皆さんと一緒なのは心強いですが、数は以前あちらの方が上……潰し愛がありますから、純粋に全て相手にする必要はありませんが――奇襲の混乱がある内に少しでも優位に立ちたい所ですね」
 敵はコンドラートだけではない、奥のラディアも後で倒さねばならないのだ。
 舞花の言に続いて四音の邪悪を裁く光が敵を覆う――そうだ、流石に数が多いために全て力推しで潰せばよいという訳ではない。故に、奇襲したとはいえコンドラートにすぐ壊滅してもらっては困るのだ。
 少しは互いに削ってもらうぐらいが丁度いい。
「まぁそれも今だけよ――どうせ最後には誰も逃がしはしない!」
 同時。アリシアの呪いを帯びた歌声が響けば、敵を纏めて捉えるものだ。
 ゲルツが内に含んでいた怒りを彼女もまた持っている……吸血鬼の身であろうとも、通わす心の色が同じであれば――斯様な邪知暴虐をどうして見過ごせようか。奴らは必ず殲滅する。一人たりとも逃がすものか。
「――っし! ちょっとずつだけど敵が減って来た、ね!」
「このまま押し込みますよ!!」
 花丸とオリヴィアの打撃が敵陣を突き崩していく。
 コンドラート組が元々接近戦に優れる者が少なかった事にも起因するが、それを差し引いても彼女らの進撃は凄まじく止め切れていなかったのだ。オリヴィアは幾度攻撃を受けようと精強なる身で吶喊し、花丸は引き続き紅蓮の焔を纏いて敵を薙いでいく。
 勿論敵の反撃もあるものの、有利な距離を潰されているコンドラートにとっては厳しい位置だった。そして、徐々に減り始める数がついにコンドラート組の半分に到達しようかとすれば。
「無辜の民に理不尽な残虐をもたらした……この事実だけで十分です。
 畜生にして外道なるマフィア、全て死すべし」
 オリーブが遂に首領たるコンドラート本人へと狙いを定める。
 邪魔をする者がいれば撃を至近にて。道を確保し一気に狙う――
 いつまでも健在でいさせる理由はない。その時が今こそ来た、と言う訳だ。
「き、貴様らぁ……国の犬どもがァ!!」
「犬。ええ成程……やはり、バカの口から吐かれる言葉には清潔さがありませんね」
 怒るコンドラート。構えた銃がリアを、花丸達を狙って乱射される――
 瞬間。そんなコンドラートの胸元を撃ち抜いたのは、ライの一撃。
 神の御心のままにと放った銃撃はその防御を穿って。

「毎日毎日下らないことで命が散る……神は悲しんでおられますよ」

 死者を裁く、かったるい仕事が増えますからね、と。
 呟いた言葉は――風に流れて消えていった。


 ドン・コンドラートが銃撃されたと同時にコンドラート組は一気に瓦解が進んだ。
 良くも悪くもコンドラートの指揮頼りな所があった連中だ。まだコンドラートは脱落した訳では無いが、長が負傷し始め数が減っている状況は一気に士気を低下させていて――
「へっ! コンドラートの連中め、数が多いからって調子にのってるからこのザマ……!?」
「何を勝った気でいるのか。次は貴方達の番ですよ」
 直後、勢いに乗ろうとしたラディア組へとオリーブが剣撃一閃。彼らもまたコンドラート組の反撃によってある程度負傷しているのだ、ならばその態勢が再び整う前に――攻める!
「チィ! だが数で上だ、押し込め!」
「おやおや。今しがたその『数』が粉砕された所だというのに、脳みそが詰まっていないのでしょうか?」
「所詮同じ穴の狢……いいえ同じ穴のカモとでも言いましょうかね、彼らは」
 同時。四音の治癒術が味方の傷を癒し、ライの射撃がラディア組を襲う。
 特に集団から外れて一人になっている者を、だ。
 援護させず砕いていく。優れた五感で自らに近付いてくる者がいないか警戒していれば万全だ――更に
「すまない、遅くなったな。だがここからまた参戦させてもらう……!」
 後方からの追加銃撃――ゲルツだ。
 避難が完全完了して戻って来たのか。鋭い射撃がイレギュラーズ達に近付こうとする者に加えられ、その接近を阻んでいる。イレギュラーズ側に援軍が来たと成れば更に趨勢は傾くものだ。
 この勢いはコンドラートの後方から襲った作戦の効果もあったと言えよう。ラディアの後方から奇襲した場合、ラディアの殲滅はそう難しくはなかっただろうが適切な距離を保つコンドラートが万全で残っていた可能性があったからだ。考えなしに突入しただけでは得られなかった戦果。
 全てを一度に相手取ろうとすれば如何に歴戦のイレギュラーズと言えど不利は免れなかっただろう――
 しかし一度に全ては相手をせず、食わせ合いながら潰す事をも意識した結果、最早数は同数程度。
「ち、畜生……こ、このまま終われるかよ……がッ!」
「――命までは奪いません。貴方には、自らの行いをしかと理解して頂く必要がありますから」
 地に倒れ伏したコンドラートが最後の悪あがきにとイレギュラーズの背に銃を向ける……が、そこを舞花が見逃さなかった。刀身に込められた『気』が最後の抵抗を奪う煌めきの様に――閃雷の太刀が意識を奪う。
 であれば後はラディア達のみ。
「くそ! なんなんだお前達は、横からしゃしゃり出てきやがってよ!!」
「なんなんだ、だって? 花丸ちゃん達はね、ローレットのイレギュラーズだよ……!」
 そして君達を『ブン殴り』に来たのさ――! 名乗る様に鬨の声を挙げて花丸が跳躍する。
 眼前、迫る――恐らくはドンのラディアを相手に拳の応酬。
 ラディアの拳の振りは早い。ファイタータイプと言う情報があったが、成程流石に伊達ではなさそうだ。それでも、花丸には今まで培ってきた――全てがある。
 踏み込む一歩に恐れはなく。
 拳を自らの手の甲で滑らせるように弾いて――無防備な腹へと焔の一閃。
「ぉ、ぐ――」
「痛い? でもね……犠牲になった人たちは、痛いという事すら出来なかったのよ!」
 次ぐアリシア。腹を痛みで捩らせるラディアへと、武器に紫電の魔法刃を纏わせ一撃。
 例えこのまま抗争が終わっても、失われた命が帰って来る事は――ない。
 それでも。
「彼らの無念は、晴らさせてもらうわ」
「ええ――お分かりですね? もう貴方達は、逃げられない」
 ここから無事に帰れると思うなよ。
 オリヴィアの視線は――これまでで一番闘志を帯びて。
「暴力で身を立てていたのならば鉄帝根性を見せなさい、できなければ死ぬだけです。尤も……民間人に手を出したのは看過できませんがね。上を目指す為の暴力を弱者に向けた貴方達に道理はなく――」
 一息。
「貴方の鉄帝魂は、穢れていますから」
「ッ、ぉ、あ――! 舐めんなよ女がぁ――!!」
 大振りの一撃なんぞに当たるオリヴィアではない。躱し、顎を下から打ち上げて。
 衝撃波を伴った剛力を――脳髄にまで届かせてやる。
 もはやこれ以上語る言葉も無し、と。激しい殴打が言語の代わり。
 悪人でもあるというのなら容赦もしない。殴った敵の生死など知った事か。
 一斉に投じられる攻撃は段々と包囲の形となり、誰一人として逃さぬ様な形で浴びせられる。ライとゲルツの射撃が後方より精密に放たれ、四音の天使の治癒術が味方を治癒し。
 花丸やオリヴィアの乱舞は首領のラディアすら圧倒する。
 駄目押しとばかりに舞花の剣撃が乱れ撃たれ、アリシアの鉄帝式魔術――全身の力を一点集中し、膂力を魔力に代えて撃となせば完全に崩壊も始まるものだ。
 しかし彼らに逃げる先などありはしない。
 保安部の張る網は各地の逮捕劇が終わり次第狭まって来るのだ――もうお前達は終わりだと。
「はぁ……はぁ……殺せ、殺しやがれ! 捕まるなんざ恥を晒してられっかよ!」
「――殺せですって?」
 腕を負傷し、尚に威勢よく吠える者がいる、が。
 リアは許さない。
 死んで逃げるなどそんな事は絶対に許さない。旋律を奏でる魔法が彼女の周囲に力と顕現し。
「……こんな所で死ぬことは絶対に許さない! あんたらがどんなに偉かろうが、知った事じゃない――でもね、あんた達がどんなクズであっても命は平等よ、あたし達にも奪う権利はない!」
 言葉を放つ。それは彼女の、心からの叫び。
 ――どうして奪ったのだ理不尽に。命はそんなに軽いものじゃない。
 なのに……輝かしい未来が待っていたはずの人達の命を、あんた達は悪戯に奪った。
「悲しみしか生まないクズのあんた達とは違い、これからこの世界の未来を創っていく彼らの! その罪の重さを……しかと心に刻め!」
 同時。放つは散りばめられた星屑の様な輝き。
 やがて一つとなり、罪人を凍てつかせる――彼女の裁きだ。
 もし、今言った事が分からないというのなら。

「次こそは『本気』であたしがあんたらを裁いてやるわ」

 ――見れば先の攻撃は強烈であったが、誰一人として死んではいない。痛みに呻く者はいても、痛みを訴えない、或いは訴える事が出来ないような状態の者は――いない。
 終わった。全ては、これで。
 もう動けるようなマフィアの者達はいない……一方で、手下の注意引き付けたりとした故か、リアも決して浅くはない傷を負ってしまっているが。
「ッ……もう、はぁ……あったま痛い。
 ……じゃあゲルツさん、後はよろしくお願いします」
「ああ――後は保安部に任せてもらって大丈夫だ。迷惑をかけたな」
 リアを襲った痛みは、頭痛だった。聞いた不協和音の旋律が負担を掛けたか……
 以前よりもなんだか頭痛が酷い様な気がする、が。身体の負傷もあってかと頭を振って。
「暴力を頼む者はより強い暴力によって滅ぼされる……
 ふふそれは人の世、いつの時代にも起こる現象。教訓めいていて、とても良いですね、ええ」
 荒れ果てた大通り。流石に建物や周囲にまで気を遣う余裕などなかった。
 が、その惨状を見てこそ四音は笑みの色を零すモノだ。
 これこそ正に暴力の足跡。分かりやすく、故にこそ素晴らしい――記憶に残る爪痕だと。
「ま、これでこの街の悪党は壊滅ですか。また何処から湧いて出てるのかもしれませんが」
 オリーヴは逮捕されていくマフィア達を眺めながら呟く。
 首領を討てばやはり烏合の衆であった。全く、なんという脆い連中か……
「それでも……せめて、一時は平和になったわ。ええ――」
 そして、一息アリシアは紡げば。

「天国では安らかに」

 祈る。天へ、きっと届くだろうと。
 亡くなった市民たちの冥福を――祈る様に。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでした。

 鉄帝ではお国柄、暴力沙汰もありますが……決して無法国家と言う訳では無く。
 故にやりすぎればこのように徹底的に潰される事もあるのでしょう――

 ありがとうございました。

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