PandoraPartyProject

シナリオ詳細

チーズ泥棒許すまじ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 泥棒が笑うのは、どんなとき?
 ひとつは、しつこい追手をまいたとき。
 ひとつは、おいしいお宝にありついたとき。


 その日、メフ・メフィートへと続く晴天の街路を、一台の馬車がのんびり進んでいた。
「いやぁ、本当に大漁だったなぁ、ええ?」
 御者台に座る盗賊が、後ろの荷台に座る男達に浮かれた声を送った。
 男がまとう衣服は農民が着ける布の服だが、その頬には派手な矢の傷痕がある。
「まさかこんなお宝が転がり込むなんて。どうやら、いよいよ俺達にもツキが――」
「おい」
 馬車に乗った一人が、ドスの効いた声で言った。
「もう少し農民らしく喋れ。疑われる」
「そうだぜ。どこで誰が聞いてるか分からん」
 別の男が頷きながら、馬車の荷台に積んだ品物に視線を送った。
 丁寧に包まれた木箱の隙間から漂う芳しい香りに、思わず舌なめずりしてしまう。
「王都に着くまでは、『こいつ』が盗品だとバレちゃいけねえ」
「へいへい。しかし美味そうですよねぇ、ほんの一口くらい……」
「バカ野郎! こいつが幾らするか分かってんのか! 手前が100年働いても買えやしねえんだぞ!」
「す、すいません親分!」
「分かったら笑顔の練習だ!」
「は、はい親分!! えーと、おはようございます! いいお天気ですね――」
 リーダーの一喝に肩を縮め、盗賊たちは一斉に作り笑顔を浮かべ始めるのだった。


「世界で最も恐ろしいもの。それは『食い物の恨み』なのです!」
「お、おう」
 面食らうイレギュラーズに、酒場の椅子で語尾を荒げた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、赤い顔で俯きながら話を続けた。
「ごめんなさい、つい興奮してしまったのです。……でも仕方ないじゃないですか、あの『フロワチーズ』が盗まれたんですよ!?」
 フロワチーズ。
 それは幻想のとある農村でのみ作られる、秘伝のチーズである。
 味蕾の全てを至福に誘う風味。脳髄を痺れさせる高貴な香り。絹のように滑らかで官能的な舌触り。
 多くの美食家が追い求めて止まない、幻の一品なのだ。
「フロワチーズはあらゆる意味で別格なのです。そのスジのマニアの間では古くから知られ、都のオークションでは金塊なみの値が付きます。担保のカタに使える銀行だってあるくらいです!」
 ひとしきりチーズの講釈を述べると、ユリーカは咳払いをして本題に入った。
「もう用件はお分かりですね? 皆さんには、そのチーズを取り返して欲しいのです」
 そう言ってユリーカは、依頼の詳細が記された羊皮紙をテーブルに提示する。
 チーズを盗んだのは、辺りで小さな盗みを繰り返しているコソ泥のグループだ。
 襲った荷馬車に積んであったチーズを手に入れ、隊商に化けて幻想の都を目指しているという。
 わざわざ隊商に化けてグループで行動しているのは、その方がモノを売り捌くのに好都合だからだろう。
「向かう現場は長い石造りの橋。時刻は昼過ぎです。普段は人通りの多い場所ですが、幸い皆さんが着いた時、周囲に人はいないのですよ」
 橋の少し下には大きな川。流れは緩やかなので溺れることはないが、もし落ちたなら戻ってくるには相応の時間がかかるだろう。
「村人に化けた盗賊は8人。チーズを載せた馬車に乗って、橋の真ん中を堂々とやって来るのです」
 盗賊はナイフとボウガンで武装しているが、戦闘能力は微々たるもの。イレギュラーズが手こずるような相手ではない。
 ただし、盗賊はいずれも周囲に注意を張り巡らせ、何かあればすぐ逃げられる体勢だという。無論、お宝のチーズは担げるだけ担いでだ。
「最初から武装して待ち構えたりしたら、即! 連中は逃げます。逃走にかけては向こうがプロ、一度逃がしたら捕まえるのは無理と思って欲しいのです」
 ユリーカいわく、この依頼のキモは、いかに盗賊を油断させるかにかかっているという。
「彼らは自分たちの正体がバレている事を知らないのです。逆に言えば、そこがつけ込むスキです」
 ちなみに、盗まれたチーズは全部で8個。このうち、最低でも6個以上を取り返すのが成功条件だ。
 傷物のチーズは価値が下がってしまい、取り返したとは見なされない。戦闘で傷つけたり、水や血で汚さないよう注意すること。
 倒した盗賊は、ユリーカがまとめて警吏に引き渡すので、その辺に縛って転がしておけば問題ない。
「ご存知の通り、幻想はいま非常に不穏な状況。どんな小さな犯罪も、芽のうちに摘んでおくに越したことはないのです。どうかご協力をお願いするのです!」
 ユリーカは説明を終えると、イレギュラーズ達を送り出した。

GMコメント

チーズ泥棒許すまじ。
初めまして、白川ドーナツと申します。

今回の依頼は、盗まれたチーズを取り返す事が目的です。
盗賊達にとって、盗んだチーズは大変なお宝。
自分達の正体を悟られぬよう涙ぐましい努力をしつつ、慎重に周囲を警戒しています。

8人の盗賊は戦闘力こそ皆無ですが、非常に素早く、俊敏な逃げ足の持ち主です。
従って、「追手だ」とバレた時点で蜘蛛の子を散らすように逃げてしまうでしょう。
そうなった場合、全てのチーズを回収することは、ほぼ不可能と思って下さい。

成否のカギは次の2つ。

1.盗賊を油断させる方法
2.チーズを盗賊から奪う方法

盗賊達はそれほど頭がよくありませんので、大抵の謀にはあっさり引っかかるでしょう。
戦闘よりもRPを重視したプレイングの方が、色々と楽しめるかと思います。

  • チーズ泥棒許すまじ完了
  • GM名白川ドーナツ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月10日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
Svipul(p3p004738)
放亡
最上・C・狐耶(p3p004837)
狐狸霧中
ナール=G=ヴィント(p3p005021)
灰風

リプレイ

●下準備
 ある晴れた昼下がり。
 幻想へと繋がる石造りの橋のたもとに、幌つきの馬車が1台、停まった。
 中から降りてきたのは、旅の隊商に扮した若い女性のイレギュラーズ達である。
「どうでしょう、似合っていますか?」
「ええ。綺麗ですねえ、えひひひひ」
 メイド服姿で話しているのは『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)と『こそどろ』エマ(p3p000257)だ。陽光を浴びた純白のロングスカートは、年頃の少女であるふたりに清楚な美しさを与えていた。
「エマさん、どうですか? 着てみた感想は」
「えひひ、さすがギルドは準備がいいですねえ。ピッタリ合います。さて、『彼女』の様子はどうですかねえ、っと」
 エマはスカートを汚さないよう馬車に歩み寄ると、馬車に積み込んでおいた『あるモノ』をノックして、そっと声をかける。
「こっちの準備は完了ですよう。えひひひひ」
 それは、人ひとりが入りそうな大樽であった。よく見ると、樽の周りには、小指大の穴がいくつも開いている。
「……もしもし?」
 返事はない。
 鶫がそっと耳をすますと、穴の向こうから可愛らしい寝息が聞こえてきた。
「すぅ……ムニャ……」
「もしもーし! 起きてくださーい!」
「ハッ! ね、寝てないよ! セーフだよ!」
 樽の中から、灰色リスのブルーブラッド、『灰風』ナール=G=ヴィント(p3p005021)の声が返ってきた。少し前に「隠密行動みたいでドキドキする」と緊張の色を隠せなかったナールだったが、落ち着こうと努力するあまり、どうやら本当に寝てしまったらしい。
「もう……居眠り厳禁! ですよ?」
 鶫はナールに釘を刺すと、スカートをそっとたくし上げ、右足のホルスターに付けたマスケットを確認した。その流れるような動作に、女であるエマも、思わず見とれてしまう。
「えひひひ。色っぽいですねえ。えひひひ」
「あら、これくらいは嗜みです」
「うむうむ。心強いメイドが2人もおって、妾も安心じゃ」
 豪華な旅商人の衣装に身を包んだ『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が満足そうに笑った。
 彼女の役は、大商人の娘に産まれたディープシーの少女。勉強のため隊商を組んで各地を回っているという設定だ。
「金持ちの隊商に化けて、盗賊たちが油断した隙にチーズを奪い返す……か」
 デイジーの護衛役である『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)が、感慨深い表情で呟いた。
「目的のために虚言を弄する……天義では考えられないね」
 それを聞いた同じ護衛役の『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)は、小さな好奇心を湛えた目でミニュイに聞いた。
「天義では、嘘をついたらいけないの?」
「私の育った所ではね。でも今は、伸び伸びと嘘が吐けて気楽。少し楽しいかもしれない」
 過去を回想するミニュイの目に、ほんの少し暗い影がさした。
「護衛のフリかぁ……演技とかあんまり得意じゃないんだけど」
 かたや結は、道端の切り株に腰掛けると、盛大にため息をつく。
 少し前まで平凡な市民であった彼女にとっては、いまいち慣れない仕事のようだ。そんな心境を察してか、彼女と一心同体の【魔剣ズィーガー】が怪しく囁きかける。
「ヒヒヒ、せいぜいバレないよう気を付けろよ?」
「戦いが始まるまでは黙っててね。あなたは『普通の剣』の役なんだから」
「イヒヒッ、そりゃ傑作だ」
 さすがに喋る剣などを目にすれば、盗賊が警戒するのは必至だ。敵を罠にはめるまで、黙っていてもらわねばならない。
「フロワチーズ……シュヴロタンのように農家手作りの希少性高いチーズであるか」
 護衛役の一人、『放亡』Svipul(p3p004738)は、先程からチーズの話題でエマと盛り上がっていた。
「仕事終わりにはワインとバゲットを用意して……一つだけでも味わってみたいが」
「気になりますよねえ。これは覚えておいて損がないチーズですね、えひひひっ」
 会話に花を咲かせながらも、Svipulはそれとなく周囲の状況を観察している。
 橋の周囲に、自分達以外の人影は見当たらない。戦闘になった時も、それなりに暴れて大丈夫そうだ。
「泥棒ですか。悲しいですね、弱いというのは。あと貧乏」
 誰に言うともなく、御者席の『狐狸霧中』最上・C・狐耶(p3p004837)がぽつりと呟いた。
 彼女の役は隊商を守る護衛のひとり、少年の剣士という設定である。
「俺の母は言っていた。貧すれば鈍する。貧乏は敵だと」
 男の口調でひとり呟く狐耶は、ふと盗賊たちの来歴に思いを馳せる。
 敵が何故盗みに手を染めたかは分からない。生活のためかもしれないし、楽をして生きるためかもしれない。
 ただひとつ分かっていること。それは、盗賊の野望はここで潰えるという事だけだ。
(いずれにせよ結果は同じ。ボコボコにして衛兵に突き出すとしましょうか)
 隙間なく舗装された道の先に渡された、レンガ造りの大きな橋。
 その向こうから、盗賊の馬車がやってくるのが見えた。

●接触
「えひひひひひ。すみませえん、ちょっとよろしいですかあ」
 道を塞ぎ、上目遣いで近寄ってくるエマに、盗賊は手綱を緩めた。
「あん? ……何の用だねお嬢さん」
 御者席に座る盗賊は、怪訝そうな目でエマを見つめた。
 恐らく男は下っ端だろう。幌の中から、鋭い視線が束のようにエマに突き刺さってくる。
 だが、そこはエマも場数を踏んだイレギュラーズだ。臆することなく話を続けた。
「えっとお。その身なり、商人の方ですよねえ?」
「ああ、そうだよ。急いでるんでね、用がないなら通してくれ」
 話は終わりとばかり、御者の席に戻ろうとする盗賊を、ミニュイが呼び止める。
「お待ち下さい。もしや、王都まで商いに行く途中ですか?」
「だったら何なんだね?」
「うちの『お嬢様』が、そちらの積荷に興味をお持ちのようでして。もし良ければ、この場で買っても良いと申しております」
「……そいつは本当か」
 予想外の返答に驚いた表情の盗賊に、エマがここぞとばかり追従の笑みを浮かべる。
「えひひ、私はしがない下っ端ですので。お金の話はお嬢様に……」
「おっほん。お主達は農民か? なんぞ、王都に物売りにでも行くのかの?」
 エマの後ろからしずしずと馬車を降りるデイジーを見て、盗賊は一瞬言葉を失った。正確にはデイジーが着ている服――絹と宝石で飾り立てた一品を見て、言葉を失ったのである。
「随分立派な服を着ていなさる」
「おお、分かるか。ミニュイよ、この服は幾らだったかの?」
「この程度かと」
 ミニュイは帳簿をめくり、数字を指し示した。
 それを横目で盗み見た盗賊は、思わず腰を抜かしそうになる。自分と仲間が一生遊んで暮らしてもお釣りが来るほどの大金だった。
「随分と安い買い物だのう。どうも妾は、良いものに金を払いすぎてしまう癖があるようじゃ」
 それはさておき、とデイジーは盗賊の顔を覗き込む。
「お主たちの商品も、値打ちものなら買ってもよいぞ?」
「おやぶ……隊長!」
 盗賊はすぐさま馬車の中へと駆け込んでいった。
 ミニュイの帳簿、デイジーの洋服、いずれも精巧な偽物であることに、全く気付いていないようだ。
(ここまでは順調、かな)
(さすが下っ端、チョロいのう)
 ミニュイとデイジーが小声で話していると、御者の盗賊とその仲間達が、ぞろぞろと馬車を降りてきた。
「貴女ですか? 商品を買って頂けるというのは」
 リーダーは一際体の大きい、鷲鼻の男だった。その両目には明らかな警戒の色がある。
 こんな小娘にチーズの価値が分かるのか――そんな表情を隠しもせず、デイジーとミニュイの背後にいる護衛役の面々の武器に油断なく目を配っている。
「ウチの売り物は少々高くつきますよ、お嬢さん」
「まずはモノを見てからじゃの」
「尤もだ。おい、持ってこい」
 簡易の台が用意され、即席の取引場が用意された。
 台の上には4個のチーズ。立ち会いの盗賊は5人である。
「ふむ、これは良いものなのじゃ!」
 慎重にチーズを品定めするフリをしつつ、デイジーは状況を分析した。
 残るチーズと盗賊は、恐らく馬車の中だ。今ここで仕掛けても、半分も取り返せまい。
(いきなり手の内を明かすほど、敵も馬鹿ではないようじゃの)
 デイジーは後ろを振り向き、『従者』たちに声をかけた。
「誰か、値打ちが分かる者はおらぬか?」
「あら、この微かに感じる、とても瀟洒且つ高貴な香りは……」
 そう言って進み出たのは、鶫である。鶫はチーズの色艶や手触りを確認すると、胸を張って断言した。
「間違いありません、御主人様。これは至極にして至福の権化、禁忌めいた甘美を与える神の贈物――フロワチーズの香りです」
「俗に『黄金と同じ価値がある』と言われるチーズですね。美味であることに加え、年に数えるほどしか流通しないことも、高価である理由のひとつです。銀行によっては、その年のチーズを担保にできるという有名な逸話からも、その価値が分かります」
 鶫の隣で、ミニュイが解説を加える。商業知識を活かした弁舌は、彼女たちが本物の商人であると信じさせるに十分なものだった。聞いている盗賊たちの腹の虫が次々に抗議の声を上げ始めるほどだ。
「ほう、これがあの! 商人よ、チーズはこれだけか?」
「とんでもない。あと幾つかございますよ」
「ここから王都まではまだ遠い。お主達が良ければ妾がそのチーズ買い取るのじゃ。ミニュイよ、小切手を」
「はい、お嬢様」
 無論、小切手は偽物だ。
 しかし、鶫とミニュイの語り口に加え、イレギュラーズの演技があまりに堂に入っていたことで、盗賊たちはそれを信じたようだ。
 しかしそれでも、全てを鵜呑みにはせず、
「生憎ですが、小切手でお譲り出来るのはこれだけですな。お嬢様方を信じないわけじゃありませんがね」
 そう言って盗賊のリーダーは、デイジーの後ろに控える護衛役の4人に視線を向けた。簡素とはいえ武装している一団の前では、警戒心を解くことはしない、ということなのだろう。
 もっとも、その程度はイレギュラーズには想定のうち。
(そろそろ頃合いかな?)
(じゃの。頼んだぞ)
 結の視線に、デイジーは無言で頷くと、晴れやかな表情で手を叩いた。
「商談が成立して何よりじゃ。宴の席を設けようぞ!」
 残るチーズは、あと4つ。

●暗躍
「すみませーん、ちょっと荷物下ろしますねー」
 結が抱えているのは、大きな樽だった。
 いかにも自然な風を装い、盗賊の馬車に隠れる場所にサッと樽を置いていく結。穴だらけの樽は、一番奥だ。
「御主人様、このチーズは載せちゃいますね」
「うむ。よきに計らうのじゃ」
「ほら、狐耶さんも手伝って下さい!」
「えー何だよー面倒くさいよー」
 そう言って盗賊の馬車の後ろへと歩いて行くと、欄干越しに流れる川をぼんやり見つめた。
「あー、美味そうな魚が泳いでるなー。釣り竿でも持ってくれば良かったなー」
 やる気のない『少年剣士』に注意を払う盗賊は誰もいない。狐耶が自分達の退路を塞いでいるなど、夢にも思わないようだ。
「見張り番の商人さん。あんた達は宴に参加しないのか? 俺が見張っててやるから、行ってこいよ」
 前方では、祝いの席にイレギュラーズと盗賊たちが着席し、ささやかな宴会が始まろうとしていた。見張りの盗賊たちは最初は我慢していたものの、鶫やエマの上げる黄色い声に我慢できなくなったのか、そそくさと馬車を出て行った。
 ひと呼吸おいて、馬車の影に隠した樽の蓋が、音もなく持ち上がる。
(さてと。そろそろ頃合いかな)
 邪魔者がいなくなるのを目と耳で確認し、ナールは盗賊の馬車にするりと忍び込んだ。
 仲間が時間を稼いでいる間に、残るのチーズを奪い返すのが彼女の仕事である。
(……!)
 強烈な誘惑の香りが、ナールの脳髄を捉えた。
 艶やかに光るワックスごしに香る、凝縮された旨みの匂い。
 技術と時間、そして手間を惜しげなく費やした品のみが持ちうる、極上の香りだった。
 これ以上匂いをかいでいたら、腹の虫が騒ぎ出しそうだ。ナールは慎重に足音を殺して、馬車のフロワチーズを運び出してゆく。
(なんだかこっちが泥棒みたい! 良心はまったく痛まないけど!)
 外の樽に次々とチーズを隠しながらも、ナールは宴席の様子に耳を向けることを忘れなかった。どうやら『接待』は順調らしい。
「此度はとても良い商談をありがとうございました。これは、祝いの杯です」
 流れるような動きで、鶫は盗賊に酌をして回った。酒にありつくのが久しぶりなのだろう、酒杯を口へ運ぶ顔は喜びに満ちていたが、どこか顔に不安の影が混じっている。
 それとなく鶫が視線の先を追ってみると、それは護衛役の武器に向けられていた。やはり、武装した状態で完全に警戒心を拭いきるのは難しいようだ。
 盗賊のリーダーはというと、お義理程度に酒に口をつけた後は、デイジーと差しで歓談している。未だイレギュラーズへの警戒心は抜けていないものの、
(いざとなれば、このガキをさらって人質にすればいい)
 そんな事を考えている目だった。もっとも彼もその配下達も、少し離れた場所から彼らを眺めるSvipulとエマの、
(1分で制圧できそうであるな。武装と練度の差を総合的に判断するに)
(その半分で十分な気もしますねえ。えひひひひひ)
 そんな無言の会話には気づいていない。
 いっぽう狐耶は『この後』の行動を想定しつつ、周囲の地形をそれとなく観察していた。
(逃走経路は街道と川のふたつ、か……)
 陸路ならば、全力移動で追いかける選択肢もある。だが、もしも川に逃げられたら追跡は困難を極めるだろう。
(まあ、今回はチーズさえ取り返せばいいみたいですし)
 まずはチーズ確保を優先で――そう考えながら狐耶があくびをかみ殺した、その時だった。
「ちょっと小便行ってくるわ」
 盗賊のひとりが立ち上がり、馬車の陰へと向かった。
 適当な場所はと辺りを見回して目に入ったのは、チーズを樽に運び終えて「準備OK」の合図を仲間に送ったナールの姿である。

●奪還
「てめえ、何して――」
 言い終える前に、エマが跳んだ。
 蹴戦で背中を蹴られ、悶絶する盗賊をねじり上げると、
「ナールさん、チーズは!?」
「樽の中! 全部無事!」
 ナールの一言と、一撃で倒された仲間の姿に、盗賊たちは瞬時に全てを察したようだった。
 自分達がはめられたこと、そして、目の前の少女達が手練れだということを。
「てめぇら、欺しやがったな!」
「滅相もございません。盗られた物を取りかえす、それだけです」
 鶫は華麗な動作でスカートをめくり上げた。
 露わになった白い太股に視線を奪われた盗賊の脚を、マスケット銃の正確な狙撃が撃ち抜く。
「失礼。こういうのも、メイドの嗜みでして」
 悲鳴をあげて転がる盗賊を尻目に、残った連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「親分、チーズを取りかえさないと――」
「バカ野郎、死にてぇか! 逃げるぞ!」
「つれないのう。もう少しゆっくりしていくと良いのじゃ」
 リーダーの手を捻り、一秒で地面へと叩きつけるデイジー。背を向けて駆けだした子分は、
「に゛か゛さ゛ん゛!!」
 Svipulの蹴りに脚を砕かれ、もんどりうって転倒。抵抗を諦めた盗賊たちを、エマとデイジーが次々と縛り上げていく。
「えひひっ、命は取らないであげますよ。同業者のよしみってやつです」
「おお、上手だのう。ここはどう結ぶのじゃ?」
 3人の盗賊が、欄干を飛び越えて川に飛び込もうとした。
「行かせませんよ、ええ」
「精密射撃!」
 無防備な背中に狐耶とミニュイの攻撃を浴び、2人が悲鳴を上げて倒れ込む。
 戦いの巻き添えを食わないよう、ミニュイとSvipulは樽(とナール)の側に駆け寄った。
「他の乙女達に怪我でも出来たら大変な損失であるぞ!」
「ありがと! えいっ、この!」
「お、お助けえええ!!」
 拾った小石を必死に盗賊めがけて投げつけるナール。
 結の蹴戦で倒された仲間には目もくれず、最後の盗賊は悲鳴を上げて逃げだした。
 みるみるうちに遠ざかってゆく盗賊の背中。その逃げ足に舌を巻きながら、Svipulは状況を確認する。
 結果は、チーズは全て無傷で奪還。盗賊は6人捕縛で2人が逃走。
「まあ、上出来の部類であるな」
 いっぽう狐耶は、先程からずっとお冠の様子だった。
「大体なんなんですか、この仕事。私、チーズ食べれないじゃないですか。全部納品じゃないですか。本当にもうギルドときたら、こんな仕事を振るなんて――」
 狐耶は口を尖らせながら盗賊たちを縛り上げると、街道脇の手頃な大木に数珠つなぎにして括りつけた。
 これであと数刻すれば、ユリーカの手配したギルド員が彼らを警吏に引き渡すだろう。
「皆さんお疲れ様でした。そろそろ私達も帰りましょうか」
 鶫の言葉に頷き、一同は帰路を歩き出す。
 フロワチーズを巡る騒動は、かくして幕を下ろしたのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ドーナツです。
チーズは全て無傷で奪還、依頼は成功となりました。
シナリオ参加、お疲れ様でした。

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