シナリオ詳細
聖別の輸送
オープニング
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ㅤこの世界はシンプルだ。
ㅤ人々は薪を割り、火を起こし、水を汲み、畑を耕す。
ㅤそこにスキルと呼ばれるような代物は無く、モンスターと呼ばれる怪異も存在しない。
ㅤ野盗などの少しの危険に目を瞑れば、この世界は平和で、豊かで、現実的だ。
ㅤだがそれは、言うなれば世界への影響が薄いもの達の話である。
ㅤこの世界には魔法がある。勇者がいる。
ㅤ倒すべき巨悪こそ居ないものの。いや、それ故に勇者は信仰の対象として扱われる。
ㅤ──ここに、二人の少女が居る。
「勇者様、どんな方なのかなぁ。楽しみだね!」
「勇者様が選ばれるのは5年後って話だよ?」
「でももしかしたら、勇者様はもう来てるかもしれないわよ!」
「いや、勇者様は嘘つかないよ。嘘はだめだもん」
ㅤ彼女らは、いずれも聖女候補。
ㅤ次代の勇者を導く為の、誉れ高き役目を持つ者達である。
ㅤ名をガーベラ、そしてネメシアと言う。
ㅤ近くの村々から集められたその二人の少女は、聖街たる勇者召喚の地へ輸送され、勇者が訪れるその時まで聖女候補として育成されるのである。
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「と、まぁこんなあらすじだよ。君たちにとってそんな背景、関係ないと言えば関係ない」
ㅤいつものように本を捲りながら、グラスはこちらを見据えた。
「今回君たちに依頼するのは、そんな聖女候補たる彼女らを輸送する馬車、その護衛だ。なんでも、最近は近隣で人攫いが幅を聞かせているとの噂でね」
ㅤ以前イレギュラーズによって討伐された野盗。彼らが居なくなってから、また新たな集団が住み着いたらしい。
ㅤしかも、これまで居た頭の切れる野盗とは違い、彼らは直情的で攻撃的だ。
ㅤ狙った獲物は意地でも捕まえ、現場を見たものは皆殺しにする。
ㅤおそらくは、腕の立つものが二、三人ほど居るのだろう。
「そんな彼らが、今回聖女候補に目を付けた」
ㅤ聖女になれる才能を持った子等ともなれば、高値で取引することが出来るはずだ。
ㅤそこに目を付けた人攫い集団が、この馬車を襲う計画をたてているらしい。
ㅤ
ㅤそんな彼らを、返り討ちにするべく呼び出されたのが、君たちという訳だ。
「イレギュラーズの此度の活躍、陰ながら応援しているよ」
- 聖別の輸送完了
- NM名七草大葉
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年11月03日 22時01分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
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「ぼくはラピード!ㅤよろしくね。お嬢さんたち」
ㅤ初めに声を上げたのは『特異運命座標』ラピード・アンストーム(p3p007741)だ。
「わたしはガーベラだよ!ㅤよろしく!」
「ネメシアです。よろしくおねがいします」
ㅤラピードは二人ににっこりと笑いかけると、こっそりと飴を渡す。
ㅤ砂糖を使ったお菓子はこの世界ではとても貴重であるため、二人は嬉しそうに飴を受け取り、ラピードにお礼をした。
「勇者様ね〜。案外それは、俺達イレギュラーズかも知れねぇぜ?」
ㅤそう言ってニヤッと笑うのは『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)だ。
「……イレギュラーズ?」
ㅤ初めて聞く言葉に二人が小首を傾げる。
「ああ……まぁ、俺達のチーム名みたいなもんだよ」
ㅤ補足を入れたのは『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)。
「聖女の護衛、手馴れた仕事だな。作戦が上手くハマれば、後は殲滅するだけだろうな」
「おいおい、油断は禁物だぜ?」
「いや、このメンバーなら何とかなるだろ」
ㅤジェイクと世界が会話を広げながら、若干目を細めながら左に首を回す。
ㅤそこには、頭にプリンを被った奇妙なプリンが居た。
「聖女……聖女。トリアイズ守護レバイイノカ?」
ㅤ『たんぱく質の塊』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)の思考が唸る。
ㅤプリンには難しいことは分からない。
「シカシ、聖女……何処カデ……?」
ㅤ自分の世界に没頭するプリン。周りの奇異な視線にも当然気づかない。でも多分没頭してなくても気づかない。
「ソウダ! オマエ達、カムイグラノ姫巫女トカ言ウ役ニソックリ……」
ㅤ瞬間、プリンの脳内がスパークする。
ㅤ聖女、すなわち姫巫女、すなわち姫。
ㅤ姫とはプリンセス……“プリン”セス?
ㅤ導き出された結論。それは彼女等が次代のプリン候補という誉れ高き身分であるということ。
「ウオオオオッ!任セロ!コノマッチョ☆プリンガ……絶対二オマエ達ヲ守護ッテヤルッ!」
ㅤやる気が爆上がりするプリン。
ㅤもちろん聖女とプリンは関係ない。
ㅤ彼(?)はアホの子である。
ㅤガーベラとネメシアは、少し引いていた。
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「……来たぞ、あれだ」
ㅤ山道。
ㅤ聖女を乗せた馬車が通過するであろう場所に予め待機し、息を潜めていた人攫い達が、ひとつの馬車に目をつけた。
「あの護衛、ふざけた格好をしているが只者じゃねぇ。あいつは俺がやる。お前らは馬車を漁れ」
ㅤひとり。強者の気配を漂わせる男が前にでる。
ㅤ──消えた。
「ムゥ!?」
ㅤ甲高い音が響く。男がプリンの首元目掛けてナイフを投げたのだ。
ㅤ咄嗟にプリンがナイフの来た方向を向くと、それを狙ったように背後に男が現れ、そのナイフがプリンの背部を──刺さらない。
「な、んだコイツ!ㅤ全身甲冑かよ!」
ㅤ否、プリンは秘宝種であり、その身体は鋼鉄より尚硬い。しかし、それはこの世界の住人には知りえない情報だ。
「キサマカ!ㅤプリンタル同士ニ嫉妬スル輩八!」
ㅤ男に気づいたプリンが口上を上げる。
「ジャマヲスルノナラ……キサマ達二明日食ウプリンハ無イッ!」
ㅤ投球。大きく振りかぶったその、なんかボールっぽいプリンが男へと迫る。
「ハッ、そんな大振りの球が当たるかよ!」
ㅤ男がその球を避ける。
ㅤ球が、曲がる。
ㅤプリンが投げた玉は避ける男に追随し、遂に避けきれなくなった男の顔面へと突き刺さった。
「コレガプリン!ㅤコノオレガマッチョ☆プリンダッ!」
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ㅤ先程の、男の命によって一斉に馬車へと飛びかかる村人崩れ達。総勢10名程のその集団を迎えるのは、プリンと同じく囮の馬車に乗り込む世界だった。
「しかしあれだね、聖女なんて大層な人を守る護衛がそれ相応の実力を持ってるってわかったりしないもんかな」
ㅤ世界がひとりごちる。片手間に陣を描けば、そこから光が差し、現れた白蛇が村人崩れに襲いかかる。
「なっ!?」
「蛇!?」
「ま、魔法なのか……?」
「に、逃げろ!ㅤ喰われるぞ!!」
ㅤ逃げ惑う村人崩れ達に対して、白蛇はその牙を確実に肉の内に収めていく。
ㅤひと噛みで生命力を奪い、死に至らしめるその毒牙は、どうしてか一切の痛みを感じさせることなく村人崩れ達を葬っていった。
「ハイリスクハイリターンを狙うならギャンブルにでも手を染めるんだな」
ㅤその言葉が届いた者がどれほど居たか。確かなことは、それに返答出来るものはすでにこの世にはいなかったということである。
「ま、そっちでも成功するとは思えんがな。こうしてイレギュラーズと当たっちゃってるし」
「ウオオオオオオ!!」
ㅤ世界の言葉は虚しく空に溶けた。あとプリンはうるさい。
ㅤ残ったのは、最初から一貫して身を潜め、機会を伺っていた二人の男のみだった。
「居たぞ。あっちにもう一つ馬車が」
「チッ、行くぞ」
ㅤ──消える。
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「来たか」
ㅤ野生の嗅覚を持ってして敵の接近を察知したジェイクが、おもむろに立ち上がる。
「ごめんよ。少し辛抱しておくれ……ちょっとスリリングなかくれんぼさ!」
ㅤラピードは聖女候補二人を荷物──ひとつの木箱に隠れさせ、その身を保護しようとする。
「私、怖いわ……」
ㅤ事態を察したガーベラが恐怖に身を震わせる。
「安心しておくれよ!ㅤみんなとっても心強いからね!ㅤそれに、きみ達はぼくが絶対に守るからね」
ㅤそれを見たラピードが、励ますようにニッコリと笑顔を見せる。その安心するような笑みに、ガーベラは少し気が楽になった。
「無理だよ。二人が嘘だと思ってないのは分かるけど、人攫いはきっと大群でくるのよ」
ㅤだが、ネメシアは不安でいっぱいだった。
ㅤネメシアは聡明だった。
ㅤ囮の馬車が先に出たはずなのにこちらに敵が来た。それはすなわち囮の馬車の二人に何かがあったということじゃないか。
ㅤ実際にはそれは間違いだった訳だが、それをネメシアが知ることはない。
ㅤそんなネメシアの頭にぽん、と手を置くジェイク。
「言ったろ?ㅤ俺達が勇者だって」
ㅤそのままわしわしとネメシアの頭を撫でる。
「嘘はつかねぇし、聖女も守るってな」
ㅤすく、と立ち上がり、腰から二丁の拳銃を抜く。
「その証を今見せてやるぜ!」
ㅤ跳び上がったジェイクが、馬車の天井へと降り立つ。
「なんだ、たった二人か?ㅤ拍子抜けだぜおい!」
「言ってろ!」
ㅤ言葉は瞬間。先手は人攫いだった。
ㅤ風よりもなお速く、それは馬車の足を奪う。
ㅤ馬だ。
ㅤ男は馬の首を性格に捉え、引くように掻っ切──れない。
「弱いやつから狙うなんて、卑怯だと思うけど!?」
ㅤ見れば、いつの間にか馬車の御者席へ戻っていたラピードが、馬の首に到達せんとするナイフを足で止めていた。
「……馬を狙うのは定石だろ」
「そんなの知るかよ!」
ㅤガキィ、と音が鈍く響き、ラピードが男のナイフを弾き返す。
ㅤラピードはそのまま手綱から手を離すと、御者席を蹴りあげる。
ㅤ御者席は男目掛けて一直線に飛びかかる。
「甘い」
ㅤその木の塊を身をひねることで避けた男。
「それはどうかな?」
ㅤ頭上から響く声。
ㅤ肩に鋭い痛み。
ㅤ撃たれたと気づくその直後には、ジェイクはもう全てを撃ち終わっていた。
ㅤまさに驟雨。放たれた無数の銃弾は、その全てがまるで吸い込まれるように男へと叩き込まれる。
ㅤ蜂の巣も驚く程に身体中に穴を開けた男は、為す術なく物言わぬ死体となり、山道に放り出されてしまった。
ㅤ馬車は止まらない。
ㅤ残るはあと一人。
「死んだのかよ。使えねぇ」
ㅤ味方が死んだというのに顔色一つ変えない男は、馬車と並走しながら罵倒を吐き捨てた。
「おいおい、仲間が死んだってのにその態度かよ」
「殺したのはお前らだろう。何言ってんだ」
「そう、かよ!」
ㅤ放たれる銃弾。しかし、不安定な足場に加え、男の緩急をつけた走りによってそれは当たらなかった。
「へぇ、やるじゃねぇか」
ㅤ男はその言葉を無視し、消える。
ㅤ目では追えるが、手が追いつかない。
ㅤそのまま一撃をジェイクに与えると、元の場所へと戻ってしまう。
ㅤヒットアンドアウェイ。
ㅤその周到なまでの位置取りによって、男は二対一という不利な状況をなんとか凌ぐことができていた。
「ジェイクさんどうしましょう……?」
「……あいつより速く動いて二人を馬車から離せるか?」
「できます!ㅤやってみせます!」
ㅤ一瞬の逡巡も無い返答に、ジェイクが満足そうに頷き、銃を構える。
ㅤ放たれる驟雨。
ㅤ流石の男も、この弾幕の雨には対応せざるを得ない。
「銃なんて相手したことねぇよ、クソっ!」
ㅤ森に突っ込み、木々を盾にしながらやっとのことで雨を受けきる男。
ㅤその一瞬の隙を逃す手はない。
「いまだぜ!」
「はいっ!」
ㅤその跳躍は弾丸にも形容できた。
ㅤダン、という銃声にも似た音と共に直線を描き馬車の目の前に降り立ち、地面を蹴って馬車の内部へ。
ㅤそのまま二人の隠れる木箱を抱え、刹那の間に馬車からの脱出に成功した。
「今だな」
ㅤ馬車の天井へと急接近した男。
ㅤしかし、ジェイクが居ない。飛び降りたのかと気づいたときには遅い。
ㅤ──炸裂音。
ㅤ突如として馬車が爆発。巻き込まれた男は、為す術なく業火に包まれ、あっけなくその命を落とした。
「危なかったな」
「はぁ、助かったぜ、世界」
ㅤ見れば、世界が囮の馬車と共に傍らで待機していた。
「え、今何が……?」
「念の為に精霊に爆弾を持たせて馬車に待機させておいたんだ。それを精霊に爆発させた」
ㅤ世界が簡単に説明する。
ㅤ
「馬八俺ガ守護ッタゾ!ㅤプリン嬢ヲ運ブ大事ナ馬ダカラナ!!」
ㅤプリンが馬に乗ってこちらへとやってきた。どうやら、こちらの陣営の被害はゼロに終わったようだ。
ㅤこうして人攫いを討伐したイレギュラーズ達。
ㅤここからは特に問題もなく、二人の聖女と交流を重ねながら聖街への道を進んで行った。
ㅤそして、ここが聖街。
ㅤ──聖街クラリネット。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
ㅤ七草です。四作目となりますが、実はこれまでのリプレイは全て同じ世界の出来事だったりします。読まなくても全く問題はありませんが、読むともうちょっと世界観が分かるかもしれません。
ㅤ前作で野盗が無事憲兵に突き出されましたので、新しい野盗がやって来ました。今度は人攫いです。
●目標
ㅤ護衛対象である聖女候補の二人を無事『聖街』まで送り届けること。ただし、道中で人攫いが待ち構えています。どうにかしてくぐり抜ける必要があるでしょう。
●敵対者
・人攫い×10
ㅤ村人崩れの有象無象です。立ち回り次第ではイレギュラーズ一人でも太刀打ち可能でしょう。
・強い人攫い×3
ㅤそこそこ腕の立つ人攫いです。
ㅤ素早い動きで敵を翻弄し、その寝首を掻くことを得意とします。
ㅤステータス的には反応と回避が高いという扱いになりますが、ライブノベルなのであくまでも目安程度に捉えて頂ければ。
ㅤ以上が敵対者の一覧です。もちろん討伐してもいいですし、生死も問いません。
ㅤ殺さない場合はその辺の木にでも縛り付けておけば憲兵が拾いに来るでしょう。
ㅤですが、この依頼はあくまでも護衛ですので、何らかの方法で人攫いとの戦闘を避ける方法をとっても構いません。
●聖女候補
ㅤ近隣の村々から集められた、聖女になる素質を持った女の子です。村の外に出るのは初めてなのでちょっと興奮しています。
ㅤ歳は二人共に10です。
・ガーベラ
恋に恋する女の子。
・ネメシア
嘘が嫌いな女の子。
ㅤ以上、よろしくお願いします。
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