シナリオ詳細
血骨、骸となりて人ならむ
オープニング
●鳳よりの亡命
雪深い森を、腰の曲がった老婆と少女が連れ立って歩いていた。
風呂敷に荷物を抱え、粗末ながらも厚着をして、遠くへゆく格好ではあったもの。その足取りは重くよろよろとして、旅人のようには見えなかった。
吹けば飛ぶような身体を丸めるようにして、二人はちらちらと雪の降るなかを進む。
ふいに。頭巾を深く被った少女が石に躓き倒れた。それを抱え起こそうと振り返る老婆が、馬の蹄と軍歌の音が近づくことにはたと顔をあげた。
「連中に気づかれた。急げ!」
喉を枯らせて呼びかける声。白くかすむ景色から抜け出るように、軍服をきた男がウッドストックのライフルを抱えて駆け寄ってきた。
少女を素早く引き起こすと、雪を片手ではらっておとす。
「伎庸へついたら無黒木――いや伊佐波という女を捜せ。力になってくれるはずだ」
男は首にさげていたペンダントをもぎ取るように外すと、少女に握らせてから背を押した。
「走れ。何があっても振り向くな」
男はそう言い残し、近づく軍歌の音を拒むかのようにライフルを構えた。
ガツンと銃側面を拳で叩き、発砲。
「死に損ないどもめが……我らが祖国を好きにさせるか!」
それから幾たびの発砲が重なった末、白くかすんだ景色のむこうは静まったという。
――それが、少数部族の暮らす村『伎庸』へと逃げ込んだ少女と老婆の語った顛末である。
●ヴィーザル、そして鳳圏
ノーザンキングス連合王国という言葉に聞き覚えはあろうか。
軍事国家ゼシュテル鉄帝国の東北ヴィーザル地方に位置し、鉄帝よりの侵略を是としない三つの部族が結集し独立を宣言した自称国家である。
無論彼らに対して鉄帝は消極的であり、軍事制圧するにも豊かとはいえない土地や吸収するには反抗的すぎる民を、悪く言えばひどく面倒くさがっていた。ゆえに軍や闘士が派遣されることも無く、結果としてローレットへの外注に頼る形で彼らの細々とした抵抗を折り続けているのが現状である。
一方、ヴィーザル地方にはノーザンキングスに加盟していない小部族が無数にあり、彼らは村社会を作っては周辺コミュニティと細く長く繋がり合っていた。
そんな小部族の中に、鳳圏という『自称国家』は存在する。
ノーザンキングスですら派兵しない鉄帝からすれば、認知しているかどうかも怪しいほどに小さな抵抗と独立。
未だ対岸の火事であったそんな鳳圏の民から――『亡命依頼』が入ったのが、今回の出来事である。
「自分に? ローレットへの依頼ではなく、か?」
「ああ、アンタへのご指名だ。知り合いかい」
雪深い村の木造家屋。酒場の看板がさがった建物へ、伊佐波 コウ (p3p007521)とその仲間達は集められていた。
ぱちぱちと火の粉がちるたき火を囲む人々は雑談を交わしながら酒をちびちびやっていたが、コウたちの姿を見て手を止める。
その奥で身体を小さくしていた少女へ道をあけ、村の情報屋らしい男は『あの子だよ』と指をさした。
コウにとってまるで見覚えのない少女。
しかし少女は彼女の顔をみた途端に、ハッと目を見開き……そして落胆したように肩をおとした。
その様子が不思議ではあったものの、名指しで依頼をされたのであれば話を聞かないわけには行かない。
コウが歩み寄り、かがんで視線をあわせると――。
「ヒッ!」
すぐそばでうたた寝をしていた老婆が慌てて少女をひっぱって抱きかかえ、コウから守るように身を挺した。
「殺さないでください。お願いします。この子だけは」
おそらく酷い目にあったのだろう。
そう察したコウは身をかがめたままライフルを地面に置き、小さく頭を下げた。
「安心してくれ。その子からの指名できたローレットの者だ」
しばらく簡単なやりとりを交わしたあと、コウとイレギュラーズたちはテーブルに置いた依頼書に改めて目を通した。
老婆と少女からの依頼は『鳳圏からの亡命』。
より具体的に述べると、より安全な村までの護衛である。
彼女たちをとらえもしくは抹殺しようと襲撃してくる兵隊たちを撃退するのが主な仕事となるだろう。
「しかし、なぜ亡命など」
眉間に皺を寄せるコウに、老婆は疲れて眠る少女を抱えたまま言った。
「徴兵が、厳しくなったのです」
コウの知る鳳圏は軍国主義である。民は皆潜在的に兵士であり、それゆえ長より徴兵の命が下れば拒否することはできない。最悪死を意味するからだ。
そんな徴兵制度が今年にはいってから急激に厳しくなり、男女の区別はもとより怪我や病気で兵役を免除されていた者も連れて行かれ、月をおうごとに追加の徴兵命令がくだされていった。多くの大人がまわりから消え、続いて未成年男子たちが次々に消え、ほどなくして少女にも徴兵の命令が下った。
「まさか……」
おかしな話だ。子供を徴兵したところでたいした兵力にはならない。倫理を横に置いたとて、合理的な判断とはいえないだろう。
「一体、祖国で何が起きているというんだ」
記憶の中にかすむ祖国の想い出。
あまりいい想い出はないが、そこまで狂った国だったろうか……。
と、そこまで考えたところでコウは慌てて首を振った。
今はそんなことに思いを巡らせている場合ではない。
鳳圏の兵士である前に、今はローレット・イレギュラーズ。
受けた依頼へは達成努力の義務がある。
「承知した。それで、追っ手に関して情報は?」
できるだけ優しくと心がけて問いかけてみれば、老婆は少し迷ってから『笑わないでくださいね』と念を押して答えた。
「首のない馬にのって、軍歌がずっと聞こえていたのです」
- 血骨、骸となりて人ならむ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月31日 22時12分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●「何をもって人間だ。タンパク質の塊となにが違う」
この季節、ヴィーザルの村伎庸は雪がうすく積もっていた。
グレーのトレンチコートに袖を通し、白い息を吐く『自称「会社員」』雑賀 才蔵(p3p009175)。頭にも雪が積もらないようにとまたもグレーのベレー帽を被った。
「訳あり亡命者に老若男女問わずの徴兵……挙句に異形の追手か。これだけでも鳳圏と言う国のきな臭さは十分、追手の正体もある程度は推測出来るが……」
「ああ、まずは依頼達成を阻む連中を排除するのが優先だ」
マキア=X=レガリア(p3p009149)も黒いトレンチコートを纏い、眼鏡の縁についた雪を指先で払った。
自前の貓とたまたま居合わせた鳥に使役術をかけ、首から提げた石を握るマキア。
黒い目がぼんやりと光を帯び、彼の獅子然とした髭がわずかに動いた。
「敵の数は」
「歩兵が五人、奇妙な戦車をつれているようだ」
「まって、村の反対側にも同じ戦力が展開してる」
サッと手を上げ、意識的に目を細める『神鳴る鮮紅』マリア・レイシス(p3p006685)。
マキアと違って暗視処理がかかっていないために夜闇に敵が紛れてしまっているようだが、それでも片目をあらかじめ瞑って目を慣らすことで対応していた。
「マキア君と、えっと……」
「雑賀です。ミスマリア」
以後お見知りおきを、と片眉を上げてわざと軽薄に答えてみせる才蔵。
マリアは頷き、村の西側を指さした。
「私と三人が東側の敵を対処するから、反対側の補助をお願い。万一兵士が味方のラインを抜けてきたら対応して」
「了解した」
マキアはそういってネクタイをきゅっと締め直すと、早速才蔵に住民の避難を要請した。
「私は鉄帝国の出でね。故に、ヴィーザル地方とは無縁ではない。
例え他国民であろうと、その民が苦難に直面しているというのなら、手助けをしない道理はないさ。任せたまえ。
しかし、ふむ。鳳圏という国家に対しては、寡聞にして詳しくは無いのだが……今回集った面々を見るに、本来はこの様なむごい仕打ちをする国ではないのだろうか……?」
マキアが疑問視するのも無理からぬことだろう。
『不完不死』伊佐波 コウ(p3p007521)のみならず、鳳圏出身のローレット・イレギュラーズは少なくない。
彼らは(個人差はあるが)愛国心があり実直で好戦的ではあるが卑怯ではないといった特徴を共通してもっていた。それが鳳圏の標準的軍人像であり、それに少なからず習うからだ。
「だというのに……今回亡命者を追ってきたのは例の『伊邪那岐型』だろう?
無作為に徘徊するだけならまだしも、明確な目的を持って運用されるとなるといよいよもって……」
コウは考え込みながらもマリアと共に村東側へと移動を開始していた。
寒い雪の夜だというのに標準的な軍服のみで歩く姿に乱れはない。そのマシーンのような足取りは、マリアが夜闇のなかに見た兵隊たちのシルエットにどこか似ていた。
「以前話には聞いていましたが、確かに見たことのない兵士ですね。そもそも、アンデッドを兵器利用していたなんて……本当に我が祖国がそんなことを?
にわかには信じられません」
『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)はと言えば寒さは気合いではねのけるタイプのようで、ある意味対照的な獣めいたざくざくとした足取りで迎撃ポイントへと移動していた。
「第一、幼い子供や老人に手を上げるなど、同じ鳳圏の兵とは思えません。鳳圏のイメージを破壊するための陰謀では?」
「今のところ、否定はできないな……」
「ともかく、きな臭いのは事実です」
剣をかついで彼らのあとに続く『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)。
「考えるのはこの場を切り抜けた後、というのもまた、事実ですよね」
「ああ」
「それはもちろん」
彼女たちは臨戦態勢のまま村の道を進み、そして予定通りに敵歩兵部隊を発見。
相手の歩兵部隊もこちらを見つけたようで、一斉にライフルを構えてきた。
「北部の群雄との戦争はナントカして避けたいところだなぁ。フモウな土地の奪い合いで死んじゃう市民が増えるだけだよ」
やれやれと首を振って、木から木へと時折ジェットパックを利用しながらたくみに飛び移っていく『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。
身体能力もさることながら、闇の中でもしっかりと周りが見えている証拠だ。
『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)はその下を続く形で全力疾走でついていっていた。こちらもまた、闇の中だというのに躊躇がない。光で照らし出す以上にまわりが見えているのだろう。
「鳳圏ってたしか小国家群が一つの『自称国家』ですよね?
何を企んでいるのやら。どうせ碌でもない事なんだろうな」
「かもね」
「まあ、僕はそんな陰謀とかどうでもいいけど! だってやるべき事は一つ!」
ぴょんと木につかまり、よじのぼって民家の屋根へと飛び移る。
先に屋根へとうつり身をかがめていたイグナートと共に、こちらへ接近する歩兵部隊をしっかりと視認した。
「依頼人達を助けて、敵を蹴散らす事。至ってシンプルな目的だゾ」
●「死とはなんだ。糸の切れた人形とどう違う」
ジジ、という電熱線を金属で擦ったような音がした。
それが、マリアが雪の上を常軌を逸したスピードで走り抜けた音だとはフクロウとて思うまい。
ライフルを構え少しでも射撃可能圏内に入ってきたら先手を打とうとしていた歩兵――『黄泉軍計画・伊邪那岐型 丙式』たちも例外ではない。
走る勢いで暴風が起きるほどの速度で急接近をかけると、マリアは歩兵の至近距離でリミッターを解除。蒼雷形態へと移行すると引き絞った拳を歩兵の顔面へと思い切りたたき込んだ。
激しく後ろ向きに回転し三度ほど周回したのち地面に転倒。
しかしそれでも眼球だけを動かしてマリアをにらみ、ライフルを至近距離で乱射してくる。
防御――するまでもない。
強引に距離をつめてきたコウがライフルの銃口を革手袋ごしに握り込むことで無理矢理銃撃を手のひらで受け、常人なら二度と使い物にならないような損傷を受けて尚もう一方の手で銃口を掴んで自らの腹に押し当てた。
古くさいライフルの外観からは想像できない連射力で弾が発射されコウはその身を躍らせるが、両目はしっかりと相手をにらんだまま歩兵の頭を蹴りつけて黙らせた。
周囲の歩兵が一斉にコウに狙いをつけ、銃剣を彼女の身体へと突き立てる。
常人をはるかに超える腕力でもってコウを突きあげ、まるで誰か一人が操っているかのように息の合った動きでコウの身体を放り投げる。
地面にどちゃあという死体が落ちるような音をたてて転がるコウ。だが、そんなことは知ったことではないという風に自らの流す血を無視して起き上がった。
「保護対象を守り抜き奴らを蹴散らす。今はそれだけを考える。いいな日車殿?」
「無論です。今は助けを求める民の為にこの拳を振るいましょう!!」
マリアとはまた異なる形の速さでもって、迅は歩兵の顔面に膝蹴りを入れ素早く身をひねって別の歩兵の側頭部に拳を入れた。
そこから跳躍し、残像をつくるような勢いで兵士の顔面にパンチを連打。仮に殺人事件なら身元が分からなくなるほどに顔面を破壊すると、歩兵は仰向けに倒れて動かなくなった。
「撃破ッ!」
自分に勢いをつけるためにスキットルで酒をあおる迅。
「伏せてください!」
そんな声に応えて身をかがめると、後方でステラが剣を豪快に振り回していた。
剣に纏ったエネルギーが飛ぶ斬撃となって歩兵へと襲いかかり、歩兵の首をスパンと切っておとしていく。
「前回で対処法は少し覚えました、速やかに潰れて頂きましょう」
戦車の盾になられても厄介だ。
今回の主力とおぼしき戦車へ集中して戦うため、歩兵の処理は迅速かつ確実に行うと決めたのだった。
ステラたちが歩兵の迅速な処理を心がけるのと同じように、イグナートたちもまた持ちうる最高率の手段でもって歩兵の処理を進めていた。
「僕の調合した毒はアンデッドであろうとも効くからね……これで死ねば御の字」
腰ベルトにさした細長いガラス瓶を抜き、目を細める。
雪に月明かりが反射してやや地面が明るく見えるとはいえ民家の屋根や木の上まで届くほどではない。歩兵達は警戒しながら地上をゆっくりと進み、水平方向にだけ視線を走らせていた。
要するに、瑠璃は奇襲可能な位置にあったのである。
「連携していきますよ。いち、にの――」
サンで瓶を投擲。割れた瓶から霧状の毒が広がり吸い込んでしまった兵士が膝をつく。
その隙に飛びかかったイグナートが強烈なパンチによる打ち下ろしで兵士を倒し、咄嗟に振り向き突き出してきた銃剣を素手でがしりとつかみ取った。
銃剣は『突きの武器』であり刃はリンゴもむけないほどだというが、だからといって握れば怪我もするだろう。イグナートはそれを気の力で押さえ込み、万力で抑えたかのように固定。引き抜こうと苦労する歩兵の腹を蹴りつけた。
一方で距離をとった歩兵がイグナートへ集中砲火。
腕をかざし時には銃弾をつかみ取るなどして防御していたが……。
側面から銃声。
イグナートに気を取られていた歩兵たちは銃弾をくらって思わずよろめいた。
振り返れば、雪道から溶け出るかのように才蔵が現れたように見えただろう。
才蔵は両手でしっかりと拳銃を構え、歩兵の頭と胸と腹にそれぞれ一発ずつ的確に射撃していく。
「一帯の住民避難は完了した。ここからは西側を援護する」
才蔵は持ち前の営業スマイルとマニュアル化された人当たりの良さで村人たちの支配層を掌握し、彼らのネットワークを使って素早く住民を村中央の建物へと避難させていた。
「流れ弾を気にせず、暴れていいわけだ」
「それは随分と気楽なことだな」
使役した鳥と若干の暗視能力を通して村を俯瞰していたマキアは、住民が離れたことを確認すると手を上げて仲間へ知らせた。
更に杖を展開しマジックライフルへ変形させると民家の屋根から魔術弾を撃ち続けた。
眼鏡をきらりと月明かりに反射させる。
「戦車が近づいて居るぞ。注意しろ」
●「■■■■」
六本脚の戦車が雪道をゆっくりと進み、こちらに砲を向けた。
ドンという音に次いで近くの民家を破壊するほどの爆発がおき、ステラたちは素早くその場から飛び退いた。
「威力が激しいですね。密集するのは危険です。おそらく、伊佐波さんも危ないかと」
「自分の『不完全な不死』に対策済ということか……いや、対策? おかしい、なぜ……」
ふと考え込んでしまったコウだが、次の砲撃が起こったことで考えと中断。
味方とばらけて走ることで戦車を取り囲む戦法にでた。
「まず私が突っ込みます。援護を!」
ステラは『黒顎魔王』の斬撃を放つとエネルギーがきれたのか直接戦車へ突撃を開始。
それを迎撃すべく放たれた砲弾を咄嗟のところでマリアが割り込み、サッカーボールのごとくオーバーヘッドキックで地面に打ち落とした。
「今だよ!」
バチンと赤い雷を走らせて反転。と同時に迅が爆発でもおこしたかのように気力を発し戦車へまっすぐ突撃した。
一方でマリアはわざとジグザグな軌道で接近。
どちらを狙うべきか迷った戦車に、二人は両サイドから回し蹴りを食らわせ更にパンチラッシュを浴びせかけた。
跳躍し、上部から剣を叩きつけるステラ。
「あれっきりでは無い。そんな予感はしていたが、貴様らもそんな姿になるのは本意では無かったろう。だから眠れ、この始末は何れ必ず自分がつけよう」
やがて装甲がゆがみコックピットらしき部分が見えたところで、コウはライフルの銃口を突っ込んで乱射。
地獄のような音が戦車内部で弾け、そして奇形戦車――『黄泉軍計画・伊邪那岐型 乙式』は沈黙した。
激しい砲撃を掻い潜るのは難しい。
マキアは崩壊した家屋から飛び退き、ライフルのグリップ部分に脚をひっかけ魔法によって浮遊をかけると安全に着地。しかし立ち止まることなく走り続け、戦車を側面からマジックライフルで撃ち続けた。
一方の才蔵も同じ側面から拳銃を連発。
「まるで戦車そのものに意思があるかのように動きが機敏だ。それにあの装甲……本当にただのモンスターなのか?」
「調べるのは後だ。今は――ッ」
会話の途中で、才蔵とマキアは目を見開いた。
急速にターンした戦車がこちらに向けて発砲。爆発に巻き込まれ二人は吹き飛ばされた。
「サイゾウ、マキア!」
イグナートは歯を食いしばって駆け寄りたい衝動を抑えると、戦車めがけて突進。
対する戦車は肉の脚を機敏に動かしてジグザグに後退するとイグナートめがけて砲撃を連射した。
「ヒキウチのつもりかな? けど、いつまでもできやしない!」
時に戦術のひとつとして語られる引き撃ち戦法は、一切の障害物がない平面が無限に続いている状況下で成立する。障害物が多く迂回移動もしがちな村の中で、かつ襲撃する立場でありながらそんな動きはいつまでも続くわけはない。ましてやイグナートの足の速さから逃れるのはもっと難しいだろう。
すぐに追いついて飛びつき、大砲部分にしがみつく。
「ルリ、薬を投げるんだ!」
「え、ちょ? 巻き込むゾ!?」
瑠璃は投げようとしていた薬瓶を振りかざした姿勢のまま躊躇したが、イグナートの『やれ』という強い視線をうけ思い切って瓶を投擲。
「アンデッド相手でも中々楽しめる戦いだった! 故に敬意を表して完全に壊してやろう。
例え望まぬ姿であろうと戦場に出てきた以上、殺される覚悟くらいあるのだろう? 故に死ね――!」
割れた瓶が毒霧を発生させるも、イグナートはそれを気合いではねのけながら戦車の装甲を無理矢理引っぺがした。
流れ込む毒。戦車の肉脚が滅茶苦茶に暴れ、卵形の車体が横転。それでも構わずイグナートは装甲や内側のフレームを次々に引っぺがしていく。
そして。
「う……」
中にあったものを直視し、思わず口元に手を当てた。
●「戦争のための戦争を、戦争のための戦争のための戦争を」
敵とはいえど死ねば仏。コウたちは手分けして彼らの遺体を村の墓地へとおさめていた。
この村では火葬が主流であるらしく、鳳圏もまたその風習があったため同様のかたちで死体を焼き骨を共同墓地へとおさめたのである。
手を合わせ、目を瞑る。
「さて、日車殿はこれからどうする?」
「どうしましょうか。一族が心配なので帰りたいですね」
「鳳圏へ帰りたいのか?」
諸々の手続きを終えてもどってきたマキアと才蔵が、周辺地図やらを手にかざしてみせた。
「最近の周辺事情を聞いてきた。鳳圏は周辺諸民族と常に敵対関係にあったらしいが、今はもっと酷いようだな」
「え、なになに戦争? 僕ワクワクしてきたゾ?」
「それはもう昔からしている」
コウは軍服の襟についたバッジを指でなでた。
「幻想国と鉄帝国が何年も終わらない戦争もどきを繰り返すのと同じで、鳳圏と周辺敵国は常に互いを武力で牽制しあっている」
「あー、一応鳳圏が全方位に兵力を送り込み続けて、それを周辺国がはねのけ続けるって形なんでしたっけ……あまりそういう事情には詳しくないのですが……」
頭をかりかりやってこたえる迅。
そんな彼らに、ステラがぽつりと当たり前なことをもらした。
「じゃあ、鳳圏って兵隊足らなくなるんじゃないですか?」
「だろうな。だから徴兵制がしかれているんだろう。兵力……というより兵隊の頭数は多いわけだ」
それが有効かはさておいてな、と首を振るマキア。才蔵が地図を広げた。
「普通に鳳圏に向かったところで、周辺敵国に殺されるのがオチだ。
同じくらいの軍事力を持っている民族を味方につけて突破するか、内通者を使ってこっそり通過するかの二択になるだろうな」
「ふむ……ところでその軍事力をもった民族というのは?」
コウの質問に、地図にマッピングをしながら答える。
「『伎庸』と『鬼楽』だが……後者はノルダイン的な略奪国家だ。話が通じるとしたら前者かもしれないな」
一方。
イグナートは岩に腰掛けじっと地面を見つめていた。
というより、地面に転がった奇形戦車の残骸を見つめていた。
「大丈夫?」
水筒をもってやってきたマリアが、イグナートの分を差し出した。
それを受け取って……小さく首を振るイグナート。
「戦車の中身を見た」
「うん」
「女の子が、入っていた」
「……うん」
「両腕も、両足もなくて、かわりに鉄の棒が突き出た、女の子だった。女の子のアンデッドだった」
地面に水筒を叩きつける。
「あの子がもし奪われていたら、あんなモノに……!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――鳳圏からの亡命者を護衛し、『伎庸』へと送り届けました
――彼女たちに高い兵力が差し向けられた理由は不明です
――『黄泉軍計画・伊邪那岐型 乙式』奇形戦車の内部構造を知りました
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GMコメント
■オーダー
少女と老婆を守り夜間襲撃を仕掛けてくる兵隊たちを撃退しましょう。
依頼を受けた直後、皆さんは仲間達の周囲偵察や情報収集によって敵襲を察知しました。
これが少女たちにむけられた追っ手であることは間違いないでしょう。
ですが、その規模が問題でした。
歩兵10体以上、奇形戦車2。
彼らは夜の闇に紛れて襲撃をかけるつもりのようです。
たった二人の亡命者にどうしてこれだけの兵力を差し向ける必要があったのか。そんな疑問に答える者はなく。ただ命のやりとりだけが始まろうとしています。
●エネミー、シチュエーションデータ
敵兵は村の東西から挟み込むようにして展開し、同時に攻撃をしかけてくる模様です。
村の仲間で引き入れて一括で戦うと楽ですが、そのぶん村への被害が増大します。
こちらから打って出る場合は村への被害が軽減できますが部隊を二つに分ける必要が出るでしょう。
相談をしてどのような方針をとるか、そして配置はどうするかを決めておきましょう。
敵兵はアンデッドモンスターのみで構成されており、鳳圏出身のイレギュラーズたちも『自分が居た頃はこんなのなかった』という印象を抱くでしょう。
彼らが活動している間はずっと不気味な軍歌が聞こえているといいます。
・歩兵×10体異常
正式名称は『黄泉軍計画・伊邪那岐型 丙式』
軍服を纏いライフルを装備したアンデッドモンスターです。
データによればEXFが高くある程度統率のとれた戦闘を行うとみられています。
・奇形戦車×2
正式名称は『黄泉軍計画・伊邪那岐型 乙式』
卵形の装甲から筒状の砲が突き出しており、六本ほど生えた『肉の足』によって移動します。
この形状からも分かるとおり、これもまたモンスターのひとつです。
自律小型突撃砲または自走砲。防御・回避に優れ一撃必殺の攻撃力がありますが移動は遅く集中攻撃に弱いという面を持ちます。
戦車は村の東西から挟み込むようにして一機ずつ存在しています。
■解説
・鳳圏
ヴィーザル地方の東に位置する『国』。ノーザンキングスやアドラステイア同様国家を名乗っているが列強諸国からはそれを認められていない。
ノーザンキングス同様支配するには痩せた土地であり制圧に要するコストの問題からかなり放置されているとみられている。
軍国主義国家で普天斑鳩鳳王を主とした軍主導の政治が行われている……はずだが、つい最近になって中枢部への立ち入りが禁止されるようになり、周辺部族とも戦争状態にあることから鳳圏がいまどういった状態にあるかを鳳圏出身のイレギュラーズたちも把握できていない。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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